STREET FIGHTERS 5アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 三ノ字俊介
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 2.6万円
参加人数 12人
サポート 0人
期間 02/13〜02/15

●本文

●プロデューサーはつらいよ
「う〜〜〜〜〜〜〜」
 と、新米(と呼ぶにはずいぶんと経験値を積んだが)プロデューサーのB君はうめいていた。抗議の山にである。
 前回拡充した『STREET FIGHTERS』は好評であった。だが不意打ち、乱闘、その他もろもろの暴力要素に、抗議の量は実に倍増――。
 責任者であるB君はこのところ、鬱々とした日々を送っている。
「よ、勤労青年。元気にしてるかぁ?」
 とそこへ、明るいオーラを発しっぱなしの先輩プロデューサー、A氏がやってきた。視聴率のためにはいかなる犠牲をも厭わない、ある意味筋金入りのテレビマンである。
「はい、B君、これ」
「なんですか?」
「辞令だよ辞令。本日付を持って、君は『製作部企画課ストリートファイター製作係準備室室長』に就任だ。昇進おめでとう!」
「‥‥‥‥‥‥」
 読めない展開にB君は呆然としていた。
「もう少し喜べよ。会社がおまえの功績を認めてくれているんだから。で、さっそくだ」
 A氏は居住まいを正した。
「『STREET FIGHTERS』を近日製作しろとのお達しだ」
 A氏が言った。
「企画書あげて予算を申請しろ。よっぽどでなければ受理するとのことだ」

    *

 B君が選んだ試合会場は、廃棄された映画のセットであった。セットは、年末の大型時代劇で使用された日本家屋。石庭があってそこにリングが敷設されるという間違いっぷりである。今回も観客を入れるので、会場全てがリングになるよう周囲は祭りのような雰囲気に仕立てて、椅子も置く。つまりリングサイドで、日本酒を飲みながら観戦することもできるのである。怪我が恐くなければ。ともあれ場外乱闘上等。観客には着物が支給され、また選手にもお好みの衣装を貸し出すことになった(損失許可)。
 セットは破壊してもいいと言うことで、今までよりさらに迫力ある映像が期待できる。
 A氏はすでに、抗議の電話に対応するマニュアルを製作済みだそうだ。あとは存分に戦っていただくだけであった。
「格闘家を募集しなきゃ」
 B君の本当の仕事は、これから始まる。

●今回の参加者

 fa0378 九条・運(17歳・♂・竜)
 fa0683 美川キリコ(22歳・♀・狼)
 fa0757 グリード(24歳・♂・熊)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa0826 雨堂 零慈(20歳・♂・竜)
 fa1089 ダン・クルーガー(29歳・♂・狼)
 fa1460 飛鳥 信(23歳・♂・狼)
 fa1522 ゼクスト・リヴァン(17歳・♂・狼)
 fa1712 孫・華空(24歳・♀・猿)
 fa1827 トーマス・バックス(19歳・♂・狼)
 fa2775 闇黒慈夜光(40歳・♂・鴉)
 fa2944 モヒカン(55歳・♂・熊)

●リプレイ本文

STREET FIGHTERS 5

●進化
 深夜俗悪暴力番組『STREET FIGHTERS』。
 その内容の是非はともあれ、視聴率は稼げている。最近は通称『コスプレバトル番組』というアレな方向でも見られがちで、暴力番組にあまり興味の無い一部のおっきなおにいちゃんたちの耳目を集め始めているのが現状だ。
 が、『暴力』を楽しみたい人にはそのようなことはあまり関係なく、むしろ邪魔と思う風潮がある。第1回と第2回大会のように、街のロケーションを利用した本当の『街頭拳闘』のようなものを求める声もある。
 全ての声に応じることは出来ない。『STREET FIGHTERS』そのものが、いつ青少年の健全なる育成を気にする人々に封殺されるか、分からないのが現状だ。むしろ今の、『コスプレバトル番組』という方向へシフトしたほうが、延命は望めるだろう。
 が、世の中『原理主義者』みたいな人間は多く居るもので、そういう人間ほどアクティブな場合が多い。つまり、放送局への過激なFAXやメールの送付といったものである。
 『STREET FIGHTERS』は今、岐路に立っている。俗悪番組としてコアかつレアな路線を行くか、それともゴールデン進出を見込んだライトな路線を進むか。
 B君の胃痛は、休まる気配が無い。

●第5回『STREET FIGHTERS』開幕
 石庭にずどんと据えられたリングを見て、呆れ返った視聴者は多かっただろう。
 ここは年末大型時代劇で使用されたスタジオである。演目は確か『忠臣蔵』。セットは吉良邸の庭を再現したもののはずだ。
 外壁は取り払われているが、迷路のように組まれた内塀と水を張った堀、母屋はそのまま残されている。母屋の中には甲冑が据えられており、殿様のような格好をしたエキストラが椅子に座っていた。外壁のあった場所にはぐるりと祭りの屋台が並べられ、明々と照明が焚かれ季節外れの浴衣姿の男女が居て賑わいを見せていた。
 間違っている。明らかに間違っている。
 ともすればバラエティ番組のようなほほえましくも穏やかな雰囲気が会場に満ちていたが、これからすさまじいまでの暴力番組が撮影されることを、会場の全ての人が知っている。だから和やかな空気の中にも、ぎらぎらとした抜き身の刃物のような期待感があった。
「ストリィ〜ト、ファイターズ! 今夜も皆さんに、過剰なまでの『暴力』をお見せします」
 司会者のコールがあって、番組は始動した。観客から、わっと声が上がった。

●第1試合、九条運(fa0378)vsモヒカン(fa2944)
「天真正伝香取神道流下総道場門下、九条家三男・運! いざ尋常に勝負!!」
「恨めしや〜怨めしや徳川〜〜」
 いきなり噛みあわない名乗りから始まったのは、竜の獣人九条運と熊の獣人モヒカンの試合である。運は赤い袖なしの羽織に短衣の紬に野袴。モヒカンはメイクに頼んで老落ち武者の格好というまったく正反対の姿だ。共通しているのは双方とも、剣術での仕合を行うことである。無論真剣では勝負できないので、木刀での仕合いとなった。
「があああああっ!」
 奇声をあげながら先制したのはモヒカンであった。防御を考えないガチの吶喊。後の先を狙っていた運でも虚を突かれた。
 ずどん!
 モヒカンの一撃は運の脇をかすめコーナーマットをぶち抜いた。恐るべき威力である。
 もとより、モヒカンは五〇過ぎの老齢とはいえ身長2メートルもの巨漢なのだ。ウエイトをかけた一撃ならば、相当な威力になるだろう。このあたり、教科書どおりの展開を考えていた運には誤算と言える。
「おのれ徳川!」
 すっかり成りきったモヒカンが、怒涛の攻めを見せる。とにかく力任せに攻める攻める攻める。運が体勢を立て直す暇(いとま)など与えるかというような、濁流のような連撃だ。攻め手としてのモヒカンは、こう言ってはナンだが名前に似合わずマトモであった。
 運はそれに対抗しようとしたが、型どおりの攻めが出来ずに攻めあぐんでいた。なぜならモヒカンがダメージにかまわず猛進してきたからである。型にはまらない相手に型どおりの攻めは通用しない。スマートに決めようとして、結局見せ場の無いまま運はノックアウトされた。
「かっかっかっかっか〜〜〜逆賊一人討ち取ったり〜〜〜」
 醜男に美男子がのされる。ショーレスリングなどでは見られない、『STREET FIGHTERS』ならではの展開であった。

●第2試合、雨堂零慈(fa0826)vs闇黒慈夜光(fa2775)
 さんざん焦らしたあとで、翁面をかぶった男がショスタコーヴィチの『革命』をテーマに花吹雪と共に入場してきた。そしてリングに上がると、面を観客に投げる。
 竜の獣人である雨堂零慈が、星条旗を背負った胴着に朱袴という間違った姿で入ってきた。衣装の範囲内、ということで半獣化もしている。
 対戦者の鴉の獣人・闇黒慈夜光は、すでにリングで陰気にその登場を待っていた。見た感じは素浪人というところである。「くっくっくっく」と、なにやら含み笑いをしており、こちらは獣化していない。零慈のややナルシーの入った登場の仕方に鼻白んでもいい展開なのだが、あまり関係無いようだ。
「いいのか? 手加減しないぜ?」
 零慈の『獣化しなくていいのか?』という意味の問いに、夜光は「ご心配なく。クックック」と応えた。
 仕合は間合いの取り合いから始った。斜に構え左手でリズムを取る夜光に対し、堂々たる構えで挑む零慈。仕掛けたのは零慈で、掌打からのコンビネーションで夜光の構えを崩そうとする。それを夜光は左手で受け流し、返しの右を入れた。
 ――おっと。
 と思ったのは零慈である。獣化していないのに、夜光の攻撃力は自分と五分に近い。そう感じたからだ。
「ククククク、では、いきますよ?」
 すり足から、棒のような打撃が夜光の右腕から突き出た。ごつ、ごつという固い感触に、思わず零慈が怯む。表向き獣化というのは『衣装』の範囲で済まされているが、半獣化して人間形態の夜光に五分の戦いをされては、零慈はまるで道化である。
 ――うるさい右を黙らせてやる!
 零慈が投げの為に右手を取ろうとすると、夜光は左手でそれをかわす。距離を置くと夜光の右が飛んでくる。それでいて、左手の防御が厳しいのだ。
 ――人間形態のくせにっ!
 焦れた零慈が、勝負に出た。
 ばっ!
 そこに暗幕が広がった。夜光が羽織を投げたのだ。零慈の視界が塞がれた瞬間零慈の腕は空を切り、腹部にずどんと衝撃が来た。夜光渾身の双掌打だった。
「げふうっ!」
 零慈が悶絶する。
 後、勝利は夜光が関節技で決めた。
 モヒカンに続いて、悪役が勝利を決めた。

●第3試合、夏姫・シュトラウス(fa0761)vs孫・華空(fa1712)
「はーっはっはっはっは。我、強者達の闘気に応え復活せしものなり。我、強者との勝負を望む」
 不自然な間が空いたところで、殿様の奥の鎧武者が立ち上がって面頬を外した。誰もが置物だと思っていたブツが動き出したのである。そのために虎の女獣人・夏姫・シュトラウスはスタンバイ前からスタジオに入り込んで準備をしていたのだ。
 いや、ご苦労様である。
 面頬の中身は、白い虎のマスクだった。
「あちゃー、ずいぶん目立ってるねぇ‥‥」
 目立つことが大好きな対戦者の孫・華空は、してやられたという顔をした。その前にスモークを焚いて後方宙返りからの登場という派手な立ち回りをしてたのだが、これには頭が下がる。
「でもま、勝てばいいんだし」
 そう言って気を取り直す華空。しかし、目がマジだ。
 開始の合図から、いきなり華空が仕掛けた。前方中返りから腹部にヘッドバッドをかけて――。
 ゴン!!
 かなり具体的に痛そうな音が響いた。
 夏姫は大鎧を着ているのである。特に胴丸は鋼板製。いくら華空が石頭でも限界がある。
 結果、華空は脳内に盛大に火花を散らして頭にたんこぶを作ることになった。
 夏姫も『重量』という文字通り重荷を背負っている。基本的に武具についてはノールールに近いので、夏姫の行為も反則というわけではない。
 が、華空にとっては鬼門となった。華空は手数で押すタイプである。投げも相手の力を利用するものが多く、『技術で勝つ』タイプの格闘家だ。
 対し、偶然か研究の末か、夏姫は鎧を着込み防御に徹することで『重量』と『防御力』を武器にした。一方的に華空が攻めているように見えるが、がっちりとガードを固めて有効打を減らしている。華空は次々と技を繰り出すが、ピーカブースタイルで亀のように縮こまっている夏姫には有効打がなかなか与えられない。華空とて人の子、焦れて雑になる部分もあるし、スタミナにも限界がある。
 華空の勢いが衰えたと見た時、夏姫は勝負をかけた。関節技に出たのである。不意に腕を鉤十字に決められ、華空はタップした。
 力で負けるのではなく技で劣るのではなく、『相性』という魔物に負けた華空であった。

●第4試合、ダン・クルーガー(fa1089)vs飛鳥信(fa1460)
 バイクと共に登場した男は、黒い狼の着ぐるみを着ていた。
「我は黒狼‥‥孤高の牙。影を絶つ闇の使徒。そして、恐怖を喰らう鬼」
 赤いマフラーの『それ』はそう名乗った。狼の獣人、ダン・クルーガーである。実は着ぐるみに中で、半獣化している。ゆえに人間では考えられないような身体能力を披露していた。観客はワイヤーを一生懸命探している。
 対するは、彼とは因縁の深い飛鳥信である。こちらも他放送局のキャラではあるが、特撮ヒーローものの着ぐるみを着ていた。
「俺はあんたを討つ! そしてすべてに決着をつける!」
 信の意気込みもすごい。
 が、戦いは一方的な展開になった。ダンの戦闘能力が、信に比してずば抜けているのだ。体捌(さば)きでやや勝っている部分があるが、攻撃力はダンのほうがずば抜けて高い。つまり信はダンの攻撃を次々と被弾し、まさに火達磨の状態であった。
「小手先の闘技など役に立たんぞ‥‥シン!」
 ダンが言い放ってまわし蹴りをくれる。それを横腹に食って、信は悶絶した。
「あんたって人は――――――――――!!」
 信が手足のコンビネーションを繰り出すが、それもやすやすと受けられカウンターに一発食らう始末。スピード・パワー・テクニック、全てにおいて信の劣勢は明らかだ。あとは『流れ』をつかむ以外勝機は見えない。しかし、その流れが見えない。
 観客から見ればかなり高次元の戦いを繰り広げている二人だが、いかんせん展開が一方的過ぎた。厳しい現実は個人の信念を超えて、戦いをただの残酷ショーと化してゆく。結局ダンは信が気絶するまで手を休めることは無く、信が倒れて決着となった。
 観客から見ても、かなり後味が悪い。この番組一番の抗議が来たのは言うまでもない。

●第5試合、トーマス・バックス(fa1827)vsグリード(fa0757)
 ボクサー、トーマス・バックスとプロレスラー、グリードの戦いは、ダンvs信戦ほどではないが凄惨なものになった。
 グリードは、勝利のために手段を選ばない男である。登場時にリンゴを丸ごと噛み砕くというパフォーマンスも圧巻だが、それが小技の伏線になっているとはトーマスも思わなかった。
 トーマスは忍者装束に身を包み、昔ゲームセンターで見た怪しいアメリカ忍者のような姿になっている。気を抜いてはいないが、残念ながら『常識の範囲内で』という条件がついていた。
 仕合はリングで始まり、トーマスのサークリングから動いた。手数とスピードで勝負するトーマスはグリードの周りを回ってジャブでチクチクとグリードを刺すが、グリードはそれを意に介さない。グリードは何度か掌打を放ってけん制するが、トーマスの動きには追いつかない。パワーは感じられるがそれだけ。トーマスにとっても、当たらなければどうということはない。
 そんな調子で仕合が動かずダレはじめたところで、トーマスが踏み込み勝負に出た。グリードの、掌打の引き手を狙ったのだ。
 トーマスはほんの探りを入れる程度のつもりだったのだが、実は、グリードはそれを待っていた。口に含んでいた先ほどのリンゴの種を、トーマスの顔に吹きかけたのだ。
「!」
 不意打ちにトーマスの動きが止まった。そこをグリードが首をつかみ、ネックハンギングツリーにして場外へ投げ捨てる。さらに場外へ飛び込みざまにギロチンドロップを放った。トーマスが身体を回転させて逃れるが、立ち上がって足元の感触に驚愕した。
 リングは石庭のど真ん中に設営されている。つまり白石のクッションが効いてトーマスのフットワークを殺してしまったのだ。グリードは最初から場外戦を考えていたようだが、これを狙っていたかどうかは分からない。
 足を殺されたアウトボクサーなど怖いものではない。結局数度の大技をトーマスは食らい、最後は鉄柱に顔面を叩きつけられて失神――敗北した。
 ボクシングスタイルが、仇となったと言えよう。

●第6試合、ゼクスト・リヴァン(fa1522)vs美川キリコ(fa0683)
 最終カードは、本番組過去優勝者同士の戦いである。ゼクスト・リヴァンvs美川キリコ。互いに狼の獣人だ。ゼクストはカポエラスタイル。キリコは護身術とプロフィールにあるが、具体的には空手系であろう。
 仕合はキリコ姫vs暗殺忍者という役柄で行われた。ゼクストが手裏剣を放ちキリコが扇でそれを落とす。
「お命頂戴!」
「何処の犬やら知らぬが、この姫が躾(しつ)けてくれようかえ」
 ゼクストは忍び装束で、キリコはピンク色の花模様の振袖の上に打ち掛け姿の、チャイナドレスのようなスリットの入った似非和服という出で立ちである。互いに得物となる刀や扇子を投げ捨て、リングに立っての戦いとなった。
 それからは足技と手技の応酬となった。
 安定した攻撃力を見せるキリコに対し、ゼクストの足技は非常に不安定である。地力が違うのだ。一定のレベルに達しているキリコに対し、ゼクストの技はいかにも未熟に見える。
 一般視聴者は知らないことだが、以前ゼクストが優勝したのは半獣化していたからである。今回の第2試合、雨堂零慈vs闇黒慈夜光のように例外もありはするが、獣化している獣人が普通の人間に負ける事は、かなり少ない。ゼクストもそれがあってつかんだ勝利であって、地力ではダンサー以上の物を持っていないのだ。
 ジンガ、ケィシャーダ、アルマーダ、アウー、フォーリャ、マカーコ。地面を這うような蹴りから直上に伸びるような蹴りまで、知る限りのありとあらゆる攻撃をゼクストは放った。しかし、踊りとして見たそれはそこそこのものではあるが、実戦ではほとんど効果的な攻撃を行っているようには見えなかった。
 キリコは前半真剣にやっていたが、ゼクストの力量を測り終えて攻撃に転じた。中段の正拳突きから身体を寝かせたゼクストへの下段蹴り。そのいずれもを食って、ゼクストは面食らったような表情をした。
 キリコは戦いで遊ぶような性癖は持っていないし、暴力に快楽を見出すようなタイプでもない。が、結果的に、ゼクストはキリコ姫にさんざんな目に合わされ敗退した。ほぼ一方的な仕合と言っていいだろう。最後は足をとられたゼクストがひっくり返され、みぞおちに掌打を受けて悶絶――トリを飾るべき、ベストバウトとはならなかったようである。

●試合終了
 仕合の結果、優勝者はダン・クルーガーとなった。獣化の分を差し引いても、彼にはかなりのイニシアチブがある。信には遺恨を残すことになったが、視聴率的には何の問題も無い。
 ただ実際問題として、今回のバウトが残虐志向に動いたのは確かである。本人たちの意向は別にしても、優劣や相性の問題で一方的な展開になる場合があるのだ。
 ただこのリスクは、出場者本人たちが背負ってもらわなくてはならない。「聞いてないよ〜」はこの場合『無し』なのである。トーマスのようにクリーンなファイトを心がけても、グリードのように一方的に相手を屠ることに快楽を見出す人間も居る。人それぞれとは言うが、それが善良であるとは限らないのである。
 戦いと番組は、まだまだ続く――はずだった。

●お休みのお知らせ
「よぉB、元気にやっているか?」
「あ、先輩、どうもです。お陰さまで相変わらず苦情の山ですよ」
 TOMITVの企画準備室、正確には『製作部企画課ストリートファイター製作係準備室』では、B君が苦情の山と格闘していた。
「まあ、そんなもんだろう。そこで、『上』からお達しがあった。1ヶ月ほど、番組を休んでくれ」
「あ、ついに来ましたか‥‥」
 A氏の言葉に、B君がうなる。
 先日の放送は、過激の一語に尽きた。一方的な展開の仕合が多かったのもあるが、グリードの暴走にダンの苛烈なファイト。最終的には流血騒ぎにもなり(驚いたことに流血試合は今回が初めてだった)、文字通り抗議が殺到したのである。
 それが『青少年の健全なる育成』を気にする人々の知るところになり、槍玉にあがったそうだ。もうすぐその辺りのえらいおばさんが、大挙してTOMITVにやってくるそうである。
「まあ、『上』の意向としては、「ほとぼりが冷めるまで」ってとこだろうな。おべっかして追従して、うやむやにして「正義は行われた」で決めだろう。1ヶ月後の放送再開までは、タイトルを変えて無難な格闘番組を流してだな、あとはまあ、おおむね適当に、ってとこだ」
 A氏が、『その辺りの偉い人』が聞いたら血管の一本ぐらい切れそうな事を平気で言う。まあ、この業界『視聴率が正義』なのである。
「室長としてのお前さんのポストは現状維持。中継ぎ番組の出来次第では給料も据え置きだ。ただ『ストリートファイターズ』っていう名前だけは1ヶ月消す。この準備室にはお前さんの中継ぎ番組名を充てろ。以上だ」
 A氏の言っていることは、「結局のところ何も変えないよ」ということでもある。まあ、いちいち『その辺りの偉い人』の話を聞いていたらきりが無い。
 ともあれ、B君には、新しい仕事が待っている。

【おわり】