演歌人生 5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 三ノ字俊介
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 0.7万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 04/16〜04/18

●本文

●評価が上がってはいけない
 CETで最近売り出している番組の一つに、『演歌人生』という番組がある。新人演歌歌手をピックアップして歌を披露させ、露出を増やして演歌界の底上げを狙う番組である。
 ここ数年、演歌界は冷え込んでいる。映像放送されるのは主にJ−POPと呼ばれるジャンルであり、民間放送局での演歌の露出は極端に少ない。CETでの番組構成も他局に倣いがちで、数少ない演歌放送枠も『大御所』と呼ばれる、いわゆる大物演歌歌手に取られているのが現状だ。
 しかし現実にCDショップを見れば、演歌が意外なほど多くのスペースを確保しているのに驚くだろう。その中には1曲しかCDを出していないような、非常に端っこの演歌歌手も含まれる。つまるところ、供給過多なのだ。
 需要とのバランスを取るには、客を増やすかこちらを向かせるしか無い。つまり露出の機会を増やし、既存の客や新たな客に金を落とさせる工夫が必要である。
 その結果企画されたのが、この『演歌人生』という番組だ。だがこの番組には、下ろすに下ろせない十字架が付きまとってる。
 つまり、『メジャーになってはいけない』という縛りである。
 番組の『格』が上がれば着実に視聴者も増えるが、それでは結局『新人歌手の歌を披露する』という基本コンセプトを外す可能性がある。つまり番組が歌手を選ぶような状況になってしまうのだ。
 視聴率は稼がなくてはならないが、番組自体の格が上がってはいけない。
 これは一種の禅問答である。
 が、いずれにせよ番組は作らなければならない。いずれぶち当たる壁だが、今は保留しておいてもいいだろう。ともあれ、スタッフは着実に成果の上がっている番組の制作にまい進している。

 本シナリオの募集は、『演歌歌手』である。レベルの多寡は問わないが、ジャンルは演歌限定。お茶の間に声を響かせたい、意欲のある演歌歌手を求めている。
 番組構成は、一人当たり1分程度のMCと歌の披露を基本とする。初期に行われていた有名演歌曲の合唱は行わない。
 意欲ある演歌歌手の応募を待っている。

●今回の参加者

 fa0422 志羽翔流(18歳・♂・猫)
 fa2215 和山 繁人(19歳・♂・ハムスター)
 fa2492 アマラ・クラフト(16歳・♀・蝙蝠)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2712 茜屋朱鷺人(29歳・♂・小鳥)
 fa2957 ぇみる(19歳・♀・パンダ)
 fa3004 ラム・セリアディア(14歳・♀・リス)
 fa3315 white(19歳・♂・小鳥)
 fa3435 リック(33歳・♂・蝙蝠)
 fa3443 楽描き屋(20歳・♂・リス)

●リプレイ本文

演歌人生 5

●Pは大変
 芸能界でPと言えば、プロデューサーである。一応、番組の最高責任者だ。本番組のPは猪名川一馬(いながわ・かずま)という名前である。敏腕と言うにはやや人情派で、懐が深すぎて芸能人を甘やかしがちな人物だ。
 ただ新人芸能人をある程度甘やかして、夢を見させることは上手い人物である。そしてそれは、この番組『演歌人生』では得難い才能であった。
 新人芸能人や売れない芸能人は数多くいる。彼らの燃料はまさに『夢』であり、それ無くして芸能活動の継続はあり得ない。素人がどかんと一撃でヒットする確率は天文学的な微数であり、結局は地道な努力が物を言うのだ。
 そして、それは番組プロデューサーにも言える。
 番組は、成果物ではない。視聴率は一つの目安でしかなく、それは『広告媒体』と言ってもいいだろう。つまりスポンサーの露出を多くして――という話は、いまさら語るまでもあるまい。そしてレコード会社にとっては、テレビ番組はCDを売るための広告媒体というわけである。
 ぶっちゃけ金の問題なのだが、それを言うと身も蓋もない。
 それはともかく、今回の番組である。採算度外視と言われていた基本スタンスは今でも変わらないが、成果があがってくると食指をのばそうとする輩が出てくる。そして何かにつけ注文をつけて番組を食散し、番組を枯らしてしまう。
 そういう連中を寄せ付けないために、猪名川Pはずいぶん苦労しているようだった。接待攻勢にネゴ支援など、番組の主旨を脅かすアプローチはすでにいくつも来ている。
「最近番組売却の噂も立っているが、気にするな。そんなことは俺がさせない。スタッフにはいつも通り当たってもらいたい」

●1番 ハクとえみ(ぇみる(fa2957)white(fa3315))『薔薇の花弁』
「私達『ハクとえみ』は、現代の若者に演歌の心を思い出してもらえた良いなと思い結成しました、皆さんにこの思いが届く様に歌います」
 MCが入って、前奏が流れる。
 ハクとえみは、女優兼歌手のぇみると演奏家のwhiteのデュオで組まれたユニットである。目的は彼らが言った通りだ。ぇみるが作詞を担当しwhiteが作曲を担当する。今回初お目見えだが、長く続くと良いと思う。

 ――薔薇咲くこの場所で 何時ものように桜を見ると
 ――花弁が 一枚二枚と舞う空に 心も晴れる花模様

 ――そんな君を見ていると いやな事など忘れてしまう
 ――花弁と 楽しく遊ぶ君を見て 僕の心も花模様

 ぇみるとwhiteの順番で、交互に歌う。さびの方はデュエットらしくうまい具合にハモって――といきたかったのだが、ぇみるの音才の無さをwhiteがフォローするという形になってしまった。色々と検討の余地がありそうである。
「二人の歌を聴いてくださって、ありがとう御座いました」
 二人でお辞儀をし、初公演は終わった。さて、いかなる評価が下されるであろう。

●2番 楽描き屋(fa3443)『たけのこ』
 ――春告げ鳥の鳴く声に 誘われ春を追ってみた 
 (横棒を書く)
 ――追って気がつきゃ山の中
 (上に縦長の山を書く。はじめの横棒とあわせ、丸みを帯びた三角形に)

 楽描き屋は職業ではない、芸名である。
 絵描き歌のアルバムを出すのが夢という楽描き屋は、今回『たけのこ』の絵描き歌でデビューした。
 いや、まだCDを焼いているわけではないので、デビューと言うより初お目見えである。記念すべきメディア初露出がテレビというのは、けっこう珍しい。
 まあ絵描き歌である以上、映像メディアでなければ登場かなわぬという不利益を背負ってのデビューである。絵描き歌に身命を賭しているのならば、それもまたむべなるか、であろう。

 ――影追い声追い右往左往 おいまてこりゃさ 逃げてくな
 (中に3本、横のジグザグ線を入れる)
 ――ついに頂上来てみれば 足跡残し姿は見えず
 (三角のてっぺんに、鳥の足跡のような三本線を入れる)
 ――足跡向かう先見れば 頭のぞかす別の春
 (たけのこのできあがり)

 今回一番短い出番となったが、本人は満足そうであった。

●3番 ラム・セリアディア(fa3004)『漣(さざなみ)』
 ラム・セリアディアは自称ロックシンガーである。
 それがなにゆえ演歌の道に踏み出したかは、ここでは書ききれないので割愛する。
 ともあれ、前回の『演歌人生』で演歌デビューを果たした彼女は、その第2弾として新曲『漣(さざなみ)』を出してきた。

 ――家出同然に家を飛び出したあたしに
 ――それでもおかぁは電話をくれる
 ――おとぅは代わろうともせんね
 ――でも 側にいる気配は感じるんよ

 青の和服を着て歌い上げる演歌節。声量音感ともにまだまだ未開発な部分はあるが、結構堂に入った歌いぶりである。

 ――4月の海はまだ冷たい
 ――波に手をやり冷たさ感じる 海で働くおとぅを感じる

 ――漣(さざなみ)よ どうかあたしの代わりに
 ――おとぅに気持ち届けてほしい
 ――故郷に錦を飾るから それまで待っとって 
 ――そう 遠い海の向こうへ

 歌い終えると、拍手が雨のように降ってきた。
 結構ものになるかもしれない。

●4番 茜屋朱鷺人(fa2712)『五月晴れ』
 ――五月の朔月と連なる日
 ――人々の営みがたゆたう日々
 ――鯉の登りし日々を目指し、
 ――ただ、大空をあおぎし日
 ――人々の規(のり)を定めし日
 ――緑の豊かさを唄う一日
 ――健やかなる育みを祈りし日
 ――いざ過ごさん、安息の日々を

 三味線を手にゴールデンウィークをテーマとした歌を歌い上げるのは、茜屋朱鷺人である。番組の主旨にぶつぶつと文句を言いながらも、番組に(ひいては数多の新人歌手のために)貢献しようと、曲を書き詩を書いた。本人にどこまでの自覚があるかは分からないが、時節を歌う歌は演歌の基本である。ゴールデンウィークに絞った着目点は特筆に値する。

 ――常を忘れよ
 ――唄えよ、騒げ
 ――親子鯉も見下ろし、ただ幸を祈る
 ――ただ、日常へと連なる日々を
 ――ただ、日常へと連なる日々を
 ――されど唄わん祭りの唄を

 歌い終わりは明るくしめた。後、この曲はCDにプレスされることになる。

●5番 夜倉紗無(DESPAIRER(fa2657))『春悲恋歌』
 DESPAIRERは演歌に自分の属性が向いていると思い、よりなじむように和名を夜倉紗無として番組に参戦した。陰気で陰鬱な雰囲気発し歌を歌うが、悲恋ものなどではそのようなジャンルがちゃんとある。問題は、彼女がエンターテインメントを目指す前に鬱思考でブラックホール化し、イタイ空気を周囲にまき散らすことだ。
 まあ幸い、彼女がブラックホール化するような事件がここ最近無い(というより芸能活動はわりと順風である)ので、そのような事態は避けられている。このままいけば重畳だと言えよう。
 その彼女の歌う唄は、またも悲恋ものである。

 ――月に叢雲 花に風
 ――満ちたる月も やがて欠け
 ――咲きたる花も 散る運命(さだめ)

 ――あの春咲いた 私の恋も
 ――夏を待たずに 散りゆきました

 ――全て運命(さだめ)と 諦めて
 ――笑う横顔 涙が伝う

 春の短い恋を、ずっと引きずっている女性の歌だ。本人の性癖を含め「好きだから」という理由以外無い曲の羅列。まあ、固定ファンもついているし文句は無い。ただそろそろ『演歌人生』は卒業という雰囲気はある。

●6番 アマラ・クラフト(fa2492)『輪廻桜』
 先日アルバムを出したアマラ・クラフトは、その中から『輪廻桜』という曲を出してきた。
「春の代名詞、桜‥‥薄紅色に咲くその花は種子がないと聞きます。昔の人は哀しい謂(いわ)れを遺しました‥‥『輪廻桜』‥‥聞いて下さい」
 今回はギターも三味線も持たず、薄紅色の和服に赤い番傘という出で立ちである。セットから桜の花びらを模した散りものが降ってきて歌を飾る。

 ――桜‥‥桜‥‥
 ――紅を含む その花は
 ――何を糧に 咲き誇る
 ――根元に野晒す 御霊が糧

 ――貴女に逢いたいと 幾星霜
 ――輪廻転生 咲き誇る
 ――短きは花の命 無常の刻(とき)
 ――涙雨と供に 花は散り逝く

 ――桜‥‥桜‥‥
 ――散る様は 輪廻の涙

 経験値か、堂に入った演歌っぷりであった。そろそろ卒業が近いのかもしれない。

●7番 志羽翔流(fa0422)『極芸道』
「お待たせしました、皆々様。流れ流れの旅カラス。芸の極めを目指しつつ、今日も行く行く、あてなき旅へ。歌いますのは志羽翔流、『極芸道』」
 自分で口上を垂れるのは、ある意味大道芸人の基本である。前回出場の時は大道芸人であることを強く押そうとして失敗したが、今回は純粋に演歌、つまり『歌』で志羽翔流は勝負に出た。我を通すのが芸道ではない。観客あっての芸である。客の事を考えない芸人は、廃れてゆくのだ。

 ――芸のためなら どこへでも
 ――たとえ火の中 水の中
 ――茨の道も 歩む覚悟で
 ――極めの道は 険しきものなり
 ――それが芸人 浪漫なり

 前2曲が悲恋ものでやや雰囲気を落としていたが、翔流は楽しい歌でその雰囲気を上手に払拭した。軽快なばちさばき――と言うにはやや技量不足だが、三味線もなかなかにうまく使っている。
 思う存分に歌い上げ、十分な成果を挙げて翔流は舞台を終えた。
 けっこう気持ちよい。

●8番 和山繁人(fa2215)『遥風(はるかぜ)』
「今回も、作詞の際は鍵となるものをまず考えました。この唄では、新しい生活に対する『期待・不安』と、季節の変わり目における『視覚で捉える風景と感覚で捉える季節の違い』を題材にしています。新世界には希望が満ち溢れ、しかし同時に不安もあるもの。遥か風はあなたを応援するように背をそっと押してくれる。唄いますは『遥風』。よろしくお願いします」
 軽快なMCから始まった曲は、かなり雰囲気の良いものだった。

 ――暁 射す陽は 夜と思して
 ――冬の厳しさ 戻り来たかと
 ――朝餉の香りも 思い鈍らせ
 ――まだ見ぬ世界が 私を責める

 ――春は来たよと 告げる春風
 ――道の雪 コート 吹き飛ばしてく
 ――沈む気持ちを 温かく抱き
 ――遠く 遥か遠く 春が吹く

 春を題材に、希望を歌い上げる。トリにはふさわしい曲である。
 今回猪名川Pから繁人は、歌手専業への道を勧められた。勧められたからと言って猪名川Pが全部ケツ持ちしてくれるわけではないが、猪名川Pの言うことは理にかなっている。つまりマルチタレントを目指すより、ジャンルを絞って芸能活動をするほうが売れる、ということである。
 いずれにせよ本人の決意次第だ。

●終幕
 全てのプログラムが終了し、『演歌人生』の第5回放送は無事終了した。
 個々に色々思うところはあろうが、前向きに邁進してもらいたいものである。

【おわり】