演歌人生 6アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
0.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
06/13〜06/15
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●本文
●評価が上がってはいけない
CETで最近売り出している番組の一つに、『演歌人生』という番組がある。新人演歌歌手をピックアップして歌を披露させ、露出を増やして演歌界の底上げを狙う番組である。
ここ数年、演歌界は冷え込んでいる。映像放送されるのは主にJ−POPと呼ばれるジャンルであり、民間放送局での演歌の露出は極端に少ない。CETでの番組構成も他局に倣いがちで、数少ない演歌放送枠も『大御所』と呼ばれる、いわゆる大物演歌歌手に取られているのが現状だ。
しかし現実にCDショップを見れば、演歌が意外なほど多くのスペースを確保しているのに驚くだろう。その中には1曲しかCDを出していないような、非常に端っこの演歌歌手も含まれる。つまるところ、供給過多なのだ。
需要とのバランスを取るには、客を増やすかこちらを向かせるしか無い。つまり露出の機会を増やし、既存の客や新たな客に金を落とさせる工夫が必要である。
その結果企画されたのが、この『演歌人生』という番組だ。だがこの番組には、下ろすに下ろせない十字架が付きまとってる。
つまり、『メジャーになってはいけない』という縛りである。
番組の『格』が上がれば着実に視聴者も増えるが、それでは結局『新人歌手の歌を披露する』という基本コンセプトを外す可能性がある。つまり番組が歌手を選ぶような状況になってしまうのだ。
視聴率は稼がなくてはならないが、番組自体の格が上がってはいけない。
これは一種の禅問答である。
が、いずれにせよ番組は作らなければならない。いずれぶち当たる壁だが、今は保留しておいてもいいだろう。ともあれ、スタッフは着実に成果の上がっている番組の制作にまい進している。
本シナリオの募集は、『演歌歌手』である。レベルの多寡は問わないが、ジャンルは演歌限定。お茶の間に声を響かせたい、意欲のある演歌歌手を求めている。
番組構成は、一人当たり1分程度のMCと歌の披露を基本とする。初期に行われていた有名演歌曲の合唱は行わない。
意欲ある演歌歌手の応募を待っている。
●リプレイ本文
演歌人生 6
番組『演歌人生』も6回目となった。半クールといえども継続は力である。プロデューサーの猪名川一馬(いながわ・かずま)も本領を発揮し始め、今回を区切りに『演歌人生』そのものの刷新を考えているようだ。
新人演歌歌手の露出を維持しつつエンタメ方面への流れを作る。演歌をより『芸能』というジャンルに近づけるために、何かを考えているらしい。
それはともかく、本放送である。伝統的にこのタイプの演歌番組は生中継と決まっているので、本番前は大変だ。新人歌手の集まりということで段取りに慣れているはずもなく、スタッフのほうは大わらわである。
「一番の方! 入ってください! 本番30秒前!」
いよいよ、開始だ。
●蓮圭都(fa3861)『夢の花』
「皆様の心に届くよう、歌います。聞いて下さい。『夢の花』」
蓮圭都は三味線を弾き始めた。三味線の弾き語りで歌う『夢の花』である。もっとも並大抵の腕なので、バックに演奏が入ってくるのはやむを得ない。絵と音に華が足りないからだ。腕の足りない分は、スタッフが補ってくれるというわけである。
――水面に散らす見知らぬ花は
――映る遠き山際を ゆらゆら揺らす
――帰ってしまおうと弱る心
――渡る旅鳥 この想いのせてゆけ
わりとまともなイントロで始まった曲は、調子よくまとまっていた。ただまとまっていたというだけで、際だつものは無い。没個性も個性だが、演歌には『華』が必要である。それはこれから、がんばって獲得してもらうことになるだろう。
――今は立たなきゃ いつか咲かなきゃ
――夢の花
歌い終わると、なかなか様になったエンディングになった。盛り上がりも悪くない。出だしは良好と言える。
拍手が、彼女の評価を伝えてきた。
●猿(fa3941)『薔薇』
猿は今回、テンガロンハットにサングラス、皮のベストに首にはバンダナ。そしてジーンズにブーツというウエスタン姿で登場した。
MC無しで、歌を歌い始める。タイトルは『薔薇』。
――夜明けの光が差し込む部屋に
――一つ悲しく咲く花は
――赤く小さな薔薇だった
――二人の男女を映す鏡のように
――光を受けたその花は
――綺麗に光る薔薇だった
――二人の恋は強い波乱が有ろうとも
――汚れを知らないその花は
――大きく綺麗な薔薇になる
演歌としては、ギリギリセーフというような内容の歌である。歌を歌い終わると、何事も無かったかのように猿はステージを降りた。
●睦月(fa3951)『明日』
初めて舞台に立つ睦月は、歌を用意するだけでいっぱいいっぱいだった。緊張で手が震える。一生懸命であるがゆえに、緊張の度合いもすごい。
「睦月です。『明日』。聞いてください」
――飛ぶ鳥明日を 駆け抜けて
――渡る大空 遥まで
――明日は明日と 言わぬとも
――明日は明日に 駆け戻る
――明日は発とう 我が旅路
――明日は発とう 我が故郷
なんだかよくわからないうちに歌い終わった睦月は、会場からの拍手で我に返った。
「あ、ありがとうございます」
睦月はお辞儀をして、袖に戻った。
●悠奈(fa2726)『紫陽花』
紫陽花柄の青い振り袖で出てきたのは、演歌初登場の悠奈である。兄姉がこの番組に出ていたので自分もということのようだが、果たしてアイドル畑の彼女に演歌がつとまるだろうか?
「演歌は初挑戦です! 色々なジャンルを歌える様になりたいと思い、演歌に挑戦しました。歌はまだまだ未熟ですが、よろしくお願いします!」
アイドルらしい元気な挨拶が舞台を飾る。
歌は季節物で『紫陽花』。しっとりと恋愛慕情を歌い上げた歌だ。
――雨に濡れる庭を歩く
――足下に咲く一輪だけのアジサイの花
――他に咲く花も無く 独りぼっち
――まるで私みたいね
――そっと手を触れて 確かめる
――ひとつ雫が零れ落ちて 涙みたいね
――私と同じ透明な雫
ピアノの走り出しから入った歌は、綺麗な旋律で歌を飾っている。意外とマトモな歌だった。演歌用にボイストレーニングもしたのだろう。色眼鏡で見ていた観客をまあ納得させるぐらいの歌にはなった。
――雨が止んだら笑えるかしら 庭のアジサイ
――日差しが戻れば会えるのかしら 遠いあなた
――あなたに会えたら 花になれるから‥‥私
――早く止んでねと空に祈るわ アジサイと一緒に
明るく曲調を締めて深くお辞儀する。後々、この映像は彼女の黎明期の映像として取り上げられることになる。
●喜田川光(fa2481)『高島おばけ』
喜田川光が歌うのは、北海道は小樽近辺で見られる蜃気楼現象『高島おばけ』を題材にした歌である。地域密着型のド演歌と言えよう。このような『ご当地演歌』というのは年に百出しており、光が有名になれば代表作の一つとなるだろう。
――ここにいたるや とうほうに
――みゆるたかしま あめがすみ
――ちいさきたかしま とおくなり
――ちかしよりせし みすたまえ
歌はどどいつ調で、テンポ良く進む。自然と会場から、手拍子が沸いてくる。
――あすはあめだと いいけるに
――こじませんじて きほうとなる
――ソラたかしまかわるぞ おおかわり
――ソラたかしまかわるぞ おおかわり
こてこての演歌は、聴衆に納得させるものがあったようだった。定番はやはり強い。
●和香(結(fa2724)・ぇみる(fa2957))『金魚鉢』
「『和香』の結とぇみるです。『和香』と言うのは『和の香りが漂う、しっとりとした歌を歌いたい』と言う意味なんです。皆さんの心に『和』が届くと良いなと思います」
ぇみると結は今回、『和香』というユニットを作って参加した。互いに金魚をあしらった振り袖姿で、なかなかにかわいらしい。
――何時も君はひらひらと 気持ち良さげに泳いでる
――窓辺に揺らめく金魚鉢 気持ち良さそうに泳いでる
――知らず知らずに眺めては 僕は心を落ち着かせ
――あの子の面影お思い出す そんな晴れ間の金魚鉢
早い夏をイメージさせる歌が会場に響いた。梅雨の鬱陶しい気分が空くような、涼やかな歌だった。
●巽&明流(星野巽(fa1359)・志羽明流(fa3237))『花菖蒲』
「梅雨の季節、濡れたアヤメと彼女が重なる。切なる思いを吹き飛ばすように『巽&明流』が歌いますのは『花菖蒲』」
軽快なMCからギターの旋律がリズムを刻む。
――彼女によく似たアヤメの花が 咲き出す頃に思い出す
――遠い昔の見果てぬ夢を 笑いあってた幼い日
――雨に濡れるアヤメの花が ひっそり佇む彼女のようで
――手を伸ばしては触れられず ただ胸を締め付ける
『進む道は違っても いつか再び出会えると
去っていった俺なのに‥‥
あの花を見るたびに 心が騒ぐのは何故なのか』
巽が歌い、明流が語る。意外と斬新なデュオかも知れない。
――アメヤの花に見送られ 銀色に霞む果てない道を
――一人歩こう 想いを胸に‥‥
ラストはギターのカットでシンプルに決めた。けっこう、新しい演歌だった。
●舞台終了
「お疲れ様ー」
猪名川一馬が、出演者一人一人にねぎらいの言葉をかける。
舞台は成功。そして視聴率も取っている。
ならば?
次の一歩を記すために、前進するのみである。
【おわり】