Voodoo People B1南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
フリー
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難度 |
やや難
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報酬 |
4.9万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
06/21〜06/27
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●本文
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【ブードゥー教】
ハイチで広く信じられている民間信仰。キューバやトリニダード・トバゴ、ブラジル、ルイジアナ州などのアメリカ合衆国南部でも同様の信仰がみられる。ローマ・カトリックと西アフリカ(おもにベナン)の部族の宗教の諸要素が結合して生まれたもので、宗教に自由の無い国では肩身が狭い。
ブードゥー教徒は、最高神『ボン・デュー』や先祖をはじめとする死者の霊、双子、『ロア』とよばれる精霊たちを崇めている。ロアの性質は宗派によって様々だが、それらはアフリカの部族の神々であり、しばしばローマ・カトリックの聖人と同一視されている。
例えば、蛇神は聖パトリックと同一視されている。この他ブードゥーに見られるカトリック的な要素としては、ロウソクや鈴、十字架を使用することや、祈りや洗礼、十字を切ることがあげられる。いっぽうアフリカの宗教の諸要素としては、踊りや太鼓、先祖や双子を崇拝すること、呪術的な色彩が強いことがあげられる。
ブードゥーの儀礼はしばしば、ホンガンとよばれる男性祭司やマンボとよばれる女性祭司が執り行う。儀礼が行われるのは大抵深夜で、崇拝者たちは太鼓や踊り、歌、ごちそうでロアを呼び出す。呼び出されたロアは踊っている人々に取り憑く。取り憑かれた人々は、それぞれ憑依者独特の振る舞いを示し、恍惚状態の中で病気治療を行ったり信仰者たちにアドバイスを与えたりする
【ゾンビ】
霊力によってよみがえらされた死人。言葉をしゃべらず、意志も無いとされる。また死人を蘇らせる霊力そのものを指すこともある。アフリカのバントゥー語族に属するキンブンドゥ語で『霊』を意味する言葉に由来し、ハイチの民間宗教であるブードゥーを信仰する人々の間で、その存在が信じられている。悪意を持った妖術使いは、呪術によって死人を墓場からよみがえらせることができ、そうして作ったゾンビを奴隷として酷使するとされる。
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累々と並ぶカップ麺の残骸と栄養食品のゴミ屑、そして撮影機材の山々。
最近露出が多くなって機材が増えた、ジョン・B・カーペンタリア監督の部屋である。機材を増やす前に生活の潤いを増やせと思うのは筆者だけではあるまい。
このところずっと籠もりっきりで何をやっていたのかというと、新企画の企画書作成である。
タイトルは『Voodoo People』。ジャンルはダークヒーローモノ。ゾンビを使役して悪を倒すという、キワモノなB級映画である。
「基本的には『ジャパントクサツ』のフォーマットを利用して、30分で1話完結。ブードゥーヒーローは3人にゾンビも3人。マイケルとかレイレイとかみたいな、活きのいいのがいいな。悪役は4名、首領に幹部3人。両方とも女性と有色人種をうまく入れないと、企画が通らないなぁ‥‥」
それ以前にバチカン辺りからクレームものと思うのだが、そう言う気遣いをしないのがJ・B・カーペンタリア監督である。
ともあれ企画は通り、一応6回分1/2クールの試験放送が行われることになった。これが評判良ければ、2クール26話の契約が取れることになっている。
「さて、スタッフを集めよう」
●リプレイ本文
●都合により
『Voodoo People』は、スポンサーその他様々な都合により、『Voodoo People ZERO』として番組リリースされた。
ごめん。
これは『Voodoo People ZERO』が発信されるまでの、オタクとそれに振り回されるスタッフによる、熱き戦いの物語である。
Voodoo People ZERO
●事態急変
「おおっと、こういう事態は想定していなかったな」
カップ麺をすすりながら、ジョン・B・カーペンタリア監督は、あまり困っていないような様子で困っていた。
ちなみに今日のメニューは、『チキンラーメン豚骨スープ』である。鶏なのか豚なのかはっきりして欲しい。
カーペンタリア監督の困っていること。それは出演者不足である。『Voodoo People』の第1回の撮影に、役者の選考が間に合わなかったのだ。
原因はいろいろある。ネタの魅力度から役者のスケジュールの空き具合まで。『成立しなかった理由』を挙げればきりがない。
しかし、それでも集まったスタッフが居る。監督としてその意志に報いる方法は何かと問われれば、『シャシンを撮ること』以外にありえない。
「とにかく、集まったスタッフで出来ることはやってしまおう」
カーペンタリア監督は、意欲と行動の人である。転んでもただでは起きないどころか、地面から金をむしり取るような人間だ。
監督はスタッフたちのところへ向かった。
●制作は踊る
「ゾンビ! 我が青春のゾンビ! あたしも出たいわ、唸りながら地面を転がったり人を襲うの‥‥」
あまり趣味のよろしくない発言を恍惚とした表情で言ったのは、小野田有馬(fa1242)である。今回は、広報とAD職を行うために参加した。
「まあ、それは考えておくよ。それより今回のシャシンについてなんだが、急遽で申し訳ないけど企画変更をする。もちろん広報の仕事だ」
「あら、なんですの? ゾンビになれるんなら、なんでも申しつけてくださいな」
ならば、とカーペンタリア監督は真新しい企画書をテーブルに置いた。
「『Voodoo People』のプロモーションビデオを制作する。配るのはWWB、映像制作会社、スポンサー、そしてこのリストに挙がっている出演候補者たち。スタッフと役者と金を集めるために、ショートフィルムをでっちあげる!!」
●美術関係はおおわらわ
蕪木メル(fa3547)と宮尾千夏(fa1861)は、今回特殊メイクとしてスタッフに入閣した。しかしシャシンがお蔵入りになるかもしれないと聞いてがっかりしていたのだが、彼らはカーペンタリア監督という人物に対する認識が甘かったようである。
「1週間で、3体のクリーチャーと1体のゾンビ、そしてセットを一つ組み上げてくれ」
「「は?」」
べらぼうに無理な注文に、二人が頓狂な顔をしたことは言うまでもない。かつて日本の特撮でも1週間に怪人(ないし怪獣)1対作るのが限界以上だったのに、その上を第1宇宙速度でぶっ飛ばせというのである。
「無理だ!」という言葉を言わせる前に、二人に監督がたたみかけた。
「幸い二人は、メイクも美術もいけるしイメージボードも作ることが出来る。現代が舞台だから必要なセットはそんなに大きな物ではないし、ロケのほとんどはスタジオに作り置きの教会で行える。つまり、『不可能ではない』んだ」
信念を宿らせた――ある意味アブナイ目つきでカーペンタリアは言った。
「でも無理っぽい‥‥よねぇ」
メルが言う。
「いや、そうでもない」
監督は言った。
「ゼロからクリーチャーを造れとは言わない。2日後には日本からクリーチャーの『素材』が届く」
「「素材?」」
二人の声がハモった。
「ジャパン・トクサツで使用されたクリーチャーの着ぐるみだよ。素で造れば何人もの職人がかかりっきりで1週間以上かかるが、『改造』ならなんとかなるだろ?」
「あっ」という顔を、二人はした。
特撮物の、着ぐるみの改造流用は意外と行われている。配給会社の都合上ありえない怪獣のコラボレーションなども、よくある話だ。
つまり着ぐるみの貸し借り。ましてや特撮王国ニッポン。デパートの屋上でショーが出来るほど着ぐるみが量産されているのだから、ちょっと手配すれば『素材』は結構簡単に集まる。
しかも、メイド・イン・ジャパン。品質は折り紙付きだ。
「でも‥‥いいんですか? そんなことして」
千夏が心配そうに言った。
「いいんだ。大丈夫。なんとかなる」
根拠のない自信を持って、カーペンタリアは言った。そして実際に、なんとかなってしまったのである。
オタクというのは、本気になると本当に恐ろしい生き物だ。
●主役は君だ!!
「あたしが主役!?」
「ああ。8分間のプロモーションビデオを製作する。その役者をやってほしい。しかも、ゾンビと『プロレス・ブードゥー』の二役だ」
今回もAD役で入閣してきたカリン・マーブル(fa2266)は、監督の突然の申し出にまさしく頓狂な声を上げた。
「でも、素人ですよ、あたしは」
「だが、格闘技をやっているだろう?」
そうである。芸歴からすると圧倒的に芸能部門での仕事の多いカリンではあったが、彼女の本職は『プロレスラー』だ。
つまり、見栄えはともかく『アクション』が出来るのである。
「でも‥‥」
それでも渋るカリンにとどめを刺したのは、次の監督の言葉だった。
「プロレスと映画はある意味同じ物だ。観客を喜ばせてなんぼだろう? 縁の下の力持ちが表舞台に出ることも、必要ならするべきだ。魅せることの出来る舞台が、今目の前にある。戦うのが仕事なら、その開幕から逃げることはできないだろう?」
どどーん。
アメリカなのに、背景に玄界灘の水しぶきが舞った。
●プロモーション用音楽の用意
高川くるみ(fa1584)は、カーペンタリア監督とはつきあいが長い。
監督がB級映画監督としてある一定の評価を得ているのは、そのサウンドトラックが秀逸であるからである。その評価の源が、彼女高川くるみだ。今回もラテン音楽をベースに、『それっぽい』曲を仕立ててきた。ちなみに獣化しての仕事である。
プロモーションビデオ用として制作された8分12秒の音楽は、転調あり展開ありの、ドラマチックな仕様になった。
「OKだ。これでいこう」
カーペンタリア監督がサウンドを聴いてGOサインを出した。
「お疲れさん。手間取ったろ?」
「意外と手間取りませんでした。はっきりしたイメージがあったので」
くるみが、監督のねぎらいの言葉に応える。いやみな雰囲気に聞こえないのは、人徳だろう。
「そうか、それは良かった」
監督もそれに応じた‥‥のだが。
「ところでミズ・タカガワ。シャシンに出てくれないか?」
「は?」
監督の言葉に、くるみは何を言われたのか理解していない顔をした。
「‥‥ええっ!?」
くるみはコンマ8秒ほど固まっていたが、監督の言うことを理解して声を上げた。
「どうして私が‥‥」
「今回のスタッフの中で、一番かわいい女の子だから。それに兎獣人というのもアイドル性にマッチしている。演技をする必要はない。半獣化してコスチュームを着てもらって、プロモーション映像にカットインさせるだけだ。写真撮影と思えばいい」
「いえ‥‥それは‥‥」
「撮影は明日やるから、今日はゆっくり休養してくれ。メイクは千夏さんにやってもらう。じゃ、よろしく」
有無を言わさず、カーペンタリアが会話を打ち切り去っていった。
つくづく、目的のために手段を選ばない男である。
●かくて
さて、かくて放送当日、『Voodoo People』プロモーションビデオ『Voodoo People ZERO』はWWBから発信された。100パーセント作り切りのシャシンだが、番組そのものはカーペンタリア監督のインタビューやプロモーションフィルム撮影裏側などの話で、かなり盛り上がった。
反響は上々で、スポンサーも倍増した。大成功である。
さて、次こそは本編制作に取りかかりたい。
カーペンタリア監督は、目的のために手段を選ばないようなので。
【おわり】