Guerrilla Stunt St.02アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 三ノ字俊介
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 12人
サポート 2人
期間 06/23〜06/27

●本文

 ちょっと前に、『STREET FIGHTERS』という深夜俗悪番組があった。PTAの評判は、最悪の部類に入る。深夜枠に流血上等のガチンコバトルをやるのだ。凄惨なシーンも多数あり、『青少年の健全なる育成を気にする人々』によって中断を勧告されるほどのものだった。
 そのプロデューサーが、今ここに居るB君(仮名)である。当時彼は、穴の開いた時間帯に緊急に企画を立てることになり、そしてその任務を遂行してみせたのだ。成果は上々――ただし放送局的には――であった。
 さて、その『STREET FIGHTERS』も5回に及ぶ放送でかなりのバッシングを食らい、今は中断したままである。根強いファンも居るが、当面放送局側では制作の予定が無い。
 が、B君も仕事をしないわけないはいかない。そこで先日、B君は渋谷でショーレスリングのゲリラライブを立ち上げた。
 番組名は『Guerrilla Stunt Studio(ゲリラ・スタント・スタジオ)』である。
 この試合は『ショーレスリング』である。ガチンコでやり合うのではない。『魅せる試合』を行うのだ。
 殺人技や流血は厳禁。セメントマッチ(真剣勝負)はありだが、あくまでショーであることを忘れてはいけない。
 重要なのは演技とか演出とかである。

 ドラマを1本作るつもりで当たってもらいたい。

 本募集は『格闘家』の募集である。戦闘能力よりも演技力を重視している。むしろそっちが本分と言って良い。

●今回の参加者

 fa0360 五条和尚(34歳・♂・亀)
 fa1119 コンドル・魔樹(23歳・♀・鷹)
 fa1308 リュアン・ナイトエッジ(21歳・♂・竜)
 fa1712 孫・華空(24歳・♀・猿)
 fa2464 南 優香(21歳・♀・虎)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2748 醍醐・千太郎(30歳・♂・熊)
 fa3244 難波・虎キチ(24歳・♂・虎)
 fa3581 ブレード・ヤシャ(24歳・♂・蝙蝠)
 fa3586 SARA(15歳・♀・狐)
 fa3996 サマーラ・タマナ(24歳・♀・犬)
 fa4027 ゲオ・ガル・エルディー(48歳・♂・虎)

●リプレイ本文

Guerrilla Stunt St.02

●Guerrilla Stunt Studioが求めるショーマッチ
 ショーレスリングの世界は、普遍ではない。
 かつての日本プロレス、そして全日本プロレスと新日本プロレス。その後の数多くの格闘団体の台頭。
 様々なルール、様々な見せ方、様々な放送メディア。四分五裂した格闘団体の状況さえ、ショーレスリングの世界は『ドラマ』にしてしまう。そして昨今は、様々なタレントがレスラーとして登場する芸能ショーレスリングから、国際的なガチンコバトルまで、格闘番組の命脈は、実は連綿と、そして拡大しながらつづられている。
 『Guerrilla Stunt Studio』は、その中では軟派な部類に入る。レスラー以外の出場上等。ショーであることにこだわり、『楽しいレスリング』の提供を目的にしているのだ。
 だからこの場合、物語の投げっぱなしや自己中な出場・演出はご遠慮いただいている。『予定調和』を理解した上で行う『劇場型興業』。それが『Guerrilla Stunt Studio』の基本コンセプトである。
 前回、プロデューサーBこと高田馬場修平(たかだのばばば・しゅうへい)クン(名前つきました)は、それをはっきりと明示した。番組のコンセプトを理解していない出場者の映像(それも全体出場者の半数近く)を、Vからずっぱりカットしたのである。
 高田馬場Pの基本姿勢は『みんなで幸せになろうよ』なのだ。ゆえに協調性の無い者は、編集段階で撥(は)ねられる。大人として、社会人として、芸能関係者として足る人物でなければ、映像にすらしてもらえない。少なくとも、高田馬場Pについてはそうだ。
 要は、『常識的に考えよう』である。『他人に不快感を与えない』とも言い換えられる。
 心していただきたい。

●第2回Guerrilla Stunt Studio
 第2回『Guerrilla Stunt Studio』興業は、華々しいオープニングセレモニーで飾られた。予算が倍増されのが明らかな感じだ。
「レディース・アーンド・ジェントルメーン。『Guerrilla Stunt Studio』へようこそおいでくださいました。今夜も華々しく、熱き格闘家達の供宴をお見せします。そう、『供宴』――今夜の戦いは、ある『オーパーツ』に捧げられるのです!」
 司会の言葉が終わると、場内に激しいライティングが行われて天井から何か台座のようなものがつり下げられてきた。赤いビロードの布がかけられた『何か』。観客の注目が『それ』に集まる。
 司会が布を取ると、なにやら古風な書物が置かれていた。
「これは『プロレス極意伝書』と呼ばれる書物――しかしこれは、プロレスが始まるはるか前‥‥帝政ローマ時代に書かれた書物なのです! 今夜は二陣営分かれた格闘家たちに、これを奪い合っていただきます!」
 わっ!
 会場が沸いた。

    *

 さて、今回の『Guerrilla Stunt Studio』のオーダーは次の通りである。

・第1試合 タッグマッチ
 南優香(fa2464)&サマーラ・タマナ(fa3996)
  VS
 コンドル魔樹(fa1119)&孫華空(fa1712)
【解説】
 ベビーフェイス(善玉)軍、南優香とサマーラ・タマナのタッグに、ヒール軍コンドル魔樹と孫華空が挑む。特に、優香と華空は俗悪番組で知られる『STREET FIGHTERS』出身なので、ある意味互いに含むところのある対決である。

・第2試合 ハンデキャップマッチ
 醍醐千太郎(fa2748)
  VS
 難波虎キチ(fa3244)&マリシャス・ジェスター(マリアーノ・ファリアス(fa2539))
【解説】
 ベビーフェイスの醍醐千太郎は、本来パートナーありの正式なタッグマッチのはずが、パートナーが何者かの襲撃に遭い欠場。ヒール軍団の差し金というもっぱらの噂。怒りを胸に、ヒール二人組と戦う。

・第3試合 タッグマッチ
 五条和尚(fa0360)&リュアン・ナイトエッジ(fa1308)
  VS
 ブレード・ヤシャ(fa3581)&ゲオ・ガル・エルディー(fa4027)
【解説】
 ベビーフェイス軍の筆頭五条和尚とリュアン・ナイトエッジと、ヒール軍筆頭ブレード・ヤシャと今回新参の超大型レスラーゲオ・ガル・エルディーを迎えての因縁の対決。
 なおヤシャはSARA(fa3586)というメイド姿のセコンドを同伴。「ロリコン? ロリコン?」というツッコミを受けている姿が痛々しい。

●第1試合 南優香&サマーラ・タマナVSコンドル魔樹&孫華空
「前回勝ったからって、あんまりエバるなよ! ベビーフェイスごときがヒールに敵うかい!」
 Buooooo!! Buooooo!!
 第1試合は、コンドル魔樹のマイクパフォーマンスで始まった。会場がお約束のブーイングで埋め尽くされる。
 カーン!!
 ゴングが鳴った。
「いっきまーす!」
 まずは優香vs魔樹という構成になった。フリル付きのスーツで『かわいい系』の演出をしている優香が、魔樹の胸に飛び込み足からその股をくぐる。同時に首をつかんで体重をかけ、魔樹に前転宙返りをさせた。
「えい!」
 優香は華空の居るコーナーのマットに足を付けて静止し、立ち上がらずにバッタのごとく倒れた魔樹に向かって跳び、フライングボディープレスを仕掛けた。魔樹は横に転がってそれをかわし、優香が自爆すると同時にロープへ飛ぶ。そして本家本元の、お手本のようなボディープレスを慣行した。
 どすん!
 派手な音をたてて、優香がつぶされる。
「おらおら、これで終わりじゃないよ!」
 魔樹は優香を立たせ、ロープへ飛んだ。そしてショルダータックルで、優香をぶっ倒す。そのままエビ固めに入ったが、優香のロープブレイクでレフェリーにほどかれた。
 そこから優香は、反撃に転じた。ロープに飛んでドロップキック。倒れたところにエルボードロップ。適度に痛めてボストンクラブに持って行ったが、華空のフォローでほどかれる。
 そのまま二人はコーナーに戻ってタッチした。

    *

「思いっきりやらせてもらうよ!」
「ムエタイを使う私は無敵だよ!」
 タッチワークで交代した両陣営。出てきたのは魔樹に代わり華空。優香に代わりサマーラである。行間の間に2度ほど交代しているが、試合はスピーディーに進められている。まあ、尺や演出の都合を考慮してのことだ。
 余談だが、打ち合わせ段階であった凶器の中で、魔樹のナイフは削除され華空の鉄パイプは木製の棍に変更された。『健全なる青少年少女の育成を気にする人々』に配慮してのことである。
 接近しての打ち合いに持ち込みたいサマーラに対し、華空はメキシカン・ルチャのような空中殺法で魅せる。かつて『STREET FIGHTERS』で、ローブローや喉蹴りなどの殺人技を行っていた華空にしては、きちんとプロレスをしている。
 しかし、サマーラも一方的にはやらせていない。華空の攻撃を寸断するロングレンジの攻撃――すなわちムエタイキックで、ばしばしと華空を打つ打つ打つ。
「これはたまらないね」
 華空は魔樹にタッチした。
「打撃は得意そうだけど、これはどうだい?」
 魔樹がサマーラの打撃を受けながら組み付いた。そして腕をキーロックにして投げつける。
「ぎゃっ!!」
 ここで、一つアクシデントが起こった。魔樹のキーロックが極まりすぎていて、サマーラの肩が抜けたのだ。
 たまらず、サマーラがうめいた。魔樹も、腕に伝わる異常な感触に驚きを隠せない。優香がフォローに入りほどくが、サマーラの腕がだらりと下がっている。サマーラはリング下まで下がって、千太郎の治療を受けた。
 その間、優香が舞台を支えていた。2対1では分が悪いが、客の評判は取れている。視聴率も、この負傷事件の時が一番跳ね上がった。カメラも試合そっちのけで、サマーラにたかっている。

    *

 その後、試合はサマーラ負傷というアクシデントために優香に負担がかかり、魔樹・華空コンビの勝利となった。サマーラは、綺麗に腕が抜けたのと千太郎の適切な治療のおかげでねんざ程度の軽傷で済んだが、しばらくテーピングは外せそうにない。

●第2試合 醍醐千太郎VS難波虎キチ&マリシャス・ジェスター
「関西最っ高ぉ〜〜〜〜〜!!」
 紫のスパンコールの衣装で入場してきたのは難波虎キチである。マリシャス・ジェスターは仮面をかぶったまま入場してきたが、ガウンを取るときにマスクを外した。その下にはペイントがされていた。虎キチはガウンを取ると虎マスクに虎縞のタイツ姿だった。
 対するは、先ほど治療で顔を見せた醍醐千太郎である。こちらは白のガウンに下はTシャツと黒のショートタイツという出で立ちだ。
「わははは、あんまりベビーが軟弱なんで、ヒールに転向しましたわ。さて醍醐千太郎はん、これを見いや!」
 そう言うと、虎キチは真っ赤に染まった巨大なハンマーを取り出した。
「お前さんの相方は、もう血祭りに上げたで。あんたもこうなるんや。ええか、覚悟しいや!」
 そう虎キチが言うと、「どうすル? やるのカ? やるのかヨ!」とマリシャスも挑発する。
「よくも俺の義兄弟を!!」
 ばりっ!
 千太郎のTシャツが、内側から裂けた。怒りに筋肉が盛り上がって、破裂したのだ。
 ケン○ロウも真っ青である。
 カーン!
 ゴングが鳴る。最初に出たのはマリシャスだ。
 マリシャスはとにかく跳ねる。子供の軽さと運動量は、大人にしてみればついて行くだけでかなり大変なものだ。千太郎としては捕まえられなくて、頭に血が昇りっぱなしである。
「はっハーッ! おそイ、おそイよ!!」
 いいように翻弄され、千太郎は冷静さを失っていた。左裏拳から右フック、さらに裏拳とつなげて、がりがりと千太郎のスペースを削ってゆく。
 ばっ!
 そこに、マリシャスがつっこんだ。そして千太郎の膝・骨盤・肩にきっちり足をかけて飛び上がり、伸身の後方宙返りからフライングボディープレスで、千太郎を潰した。
 マリシャスがタッチして、次は虎キチの番である。まずは千太郎を起こしながらロープへとばし、自分もロープへ飛んでドロップキック! さらに千太郎を起こしてコーナーにたたきつけ、マリシャスが押さえているところへ『食い倒れ人形アタック』と称する(飛行姿勢が食い倒れ人形風)飛び技を放った。
 千太郎も負けてはいない。同じ大人が相手なら、速度負けはしない。エルボーなどの定番打撃攻撃から、ロープ交錯してのショルダータックル。痛め技にもコブラツイストを極めてプロレスをアピールする。だが痛め技はマリシャスのフォローが入るので、なかなか決められない。
 そこでさらに、虎キチがマリシャスにタッチ。マリシャスがトップロープに上がると、虎キチはボディスラムで千太郎を投げ落とした。そこにマリシャスがダイビング! フライングボディープレスで千太郎をグロッキーにする。
 マリシャスの腕ひしぎ逆十字。さらに虎キチが乱入してきてストンピング。さらに動けない千太郎に対して、トップロープから『道頓堀ダイブ』と称するフライングボディープレス!
「がはっ!」
 マトモに決まって、千太郎はいよいよ追い詰められた。
『立て! 立て千太郎!! 俺の義兄弟はそんなに弱いのか!!』
 その時、会場のスピーカーから男の声が響いた。
「ぬうわあああああああああああああっ!」
 千太郎が吠えた。腕を極めているマリシャスをそのまま持ち上げ、ロープに振る。腕ひしぎ逆十字がほどけて、マリシャスはロープでバウンドしてから場外に落ちた。
「なめるやないでぇー!!」
 虎キチが乱入する。それに千太郎は、自らロープに飛んでドロップキックを放った。さらに立ち上がりざま虎キチをロープに飛ばして、リングに戻りかけたマリシャスごとロープ下にたたき落とす。さらに自ら駆け込んで、ロープ下の二人に向かってトペ・スイシーダを敢行! マリシャスはこれでノックダウンした。
 その後、リングに戻った千太郎と虎キチで激しい試合が行われたが、勢いに乗る千太郎を虎キチは押さえられず、パワーボムからのフォールで負けを喫した。
「正義は勝ぁつ!!」
 千太郎のアピールが、印象的だった。

●第3試合 五条和尚&リュアン・ナイトエッジVSブレード・ヤシャ&ゲオ・ガル・エルディー
「この『Guerrilla Stunt Studio』のリングを、我らが総統に捧げよう!! 『プロレス極意伝書』は我々がもらう!!」
 Buooooo!! Buooooo!!
 ヒール代表のヤシャのMCに、ブーイングが飛ぶ。帯同したセコンドSARAとのいちゃつきぶりに、憤懣を持った者も少なくないだろう。
 MC合戦はちょっと打ち合わせ不足で消化不良気味だったが、試合は開始早々激しい打ち合いとなった。
 互いの先鋒はベビー軍がリュアン、ヒール軍がヤシャである。リュアンはいつもの道着に、青いタイツ姿だ。
 リュアンは、打撃系総合格闘スタイルである。組み合いより打ち合いを望むところだが、今回はヤシャがそれに応じた。打たれて打たれて打たれて、派手な音を盛大に響かせる。だがそれはプロレスラーの常、相手の技を徹底的に『受けて』見せる。メイクと行動ばかり先行して色眼鏡で見られがちだが、ヤシャは意外にも正統的なプロレスリングをこなすことも出来るのだ。
 余談だが現在ヒールを演(や)っているレスラーの多くが、若い頃は正統レスリングをこなしている。地力が無いと、カリスマ負けしまうので、ヒールはできないのだ。
 ヒール論は置いておいて、ヤシャの反撃が始まった。空手殺法がヤシャのスタイルだから、リュアンとはうまい具合にかみ合う。正拳突きから回し蹴りといった『小綺麗な空手』から、空手チョップから肘によるかち上げなどの『プロレスっぽい空手』まで、リュアンのような正統格闘家にはなかなか無い『華』を持っている。
 まあ、リュアンはリュアンで、玄人好みの渋い戦いを繰り広げているのだが。
 試合が動いたのは開始7分。ロープに飛んだリュアンのローリングソバットからだった。めずらしいリュアンの大技に、派手にヤシャがよろめく。
 ヤシャはゲオにタッチした。リュアンも和尚に変わる。
「これは反則だよなぁ‥‥」
 見上げるような大男を見て、和尚はつぶやいた。身長で30センチ近く、体重で50キログラムぐらい違いそうな大男、ゲオが相手だったからだ。
 こう言ってはナンだが、和尚はレスラーとしては体格に恵まれていない。小兵が大型レスラーを倒す逆転劇を堪能してもらうには良いタイプだが、さすがにこの差は反則である。
 さて、試合はスピードで勝る和尚とパワーで押すゲオの戦いという図式になった。一撃一撃がリングを揺らすゲオに対し、技で和尚が攻める攻める攻める。フライングヘッドシザーズからエルボードロップ。ロープに投げてのタックル空手チョップなど、スピーディーな戦いで攻め続けるが、派手な打撃音と豪快なぶっ倒れ方に比して、ゲオにダメージは感じられない。
 ばきっ! ばきっ! ばきっ!
 和尚のエルボースマッシュ3連打に対し、ゲオはポージングをしてノーダメージをアピール。そしてついに、ゲオが動き出した。和尚をつかみ、ロープへとばしてショルダータックル! 和尚が棒のように倒れたところを起こして、さらにパワーボム2連発。最後はコーナーに引っ張っていって、ヤシャと共にツープラトンブレーンバスターを決めた。会場が、大技の連発に湧く。
 そこでゲオは、ヤシャにタッチした。ヤシャが、グロッキーになった和尚を攻める。しつこいローキックで足を叩き、カナディアンバックブリーカーからトゥームストーンパイルドライバーと、次々に大技を決めてフィニッシュにかかる。
 が、リュアンがフォローに入り3カウントを2.5で止めた。そして和尚がリュアンにタッチ。ヤシャもゲオにタッチした。
 リュアンはゲオに対して、速度戦を挑んだ。軽やかにフットワークを使いこなし、ゲオに身体を掴ませない。そして手技の3倍の威力があるという足技の代表、回し蹴りを次々とボディーにたたき込む。スタミナを削ろうというのだ。
 だがリュアンの蹴り足を、ゲオは掴んだ。そしてそのまま力任せに振り回す。片足版ジャイアントスイングで、派手にリュアンを投げ飛ばした。
「うへー、ちょっとヒートアップしすぎッスよ!」
 手加減の無いゲオの攻撃に、リュアンがぼやいた。リュアンはそのまま、和尚にタッチした。
 再び和尚とゲオの戦い。和尚は先ほどリュアンが攻めていたゲオのボディーを、しつこく攻める。だがその間にも、少なくないゲオの攻撃を受けてなかなかに状況は緊迫している。
 だが、転機は訪れた。急に、ゲオが膝を付いたのだ。こつこつと積み重ねてきたボディーへの攻撃が、ついに効き始めたのである。
 大型レスラーは、スタミナがあると思われがちである。だが、実はその逆だ。あるのはタフネスでありスタミナは逆に減る。なぜかというと、どんなに大きな人間でも、心臓の大きさには限界があるからだ。
 エンジンが同じ排気量なら、車体の大きい方がもちろん燃費が悪い。車体が大きいから頑丈なのは当然だが、燃費まで達成するのはかなり難しい。
 もちろんそれを考えて、燃料タンクの容量――つまりスタミナの増量にレスラーは励む。しかしそれにも、限界があるのである。
「ヤシャ様、フォローを!」
 セコンドのSARAが叫んだ。この一瞬に、ヤシャとリュアンがリングに飛び込み、リング内が技と打撃で交錯する。
「ぐわっ!」
 ゲオが顔を押さえていた。ヤシャの毒霧が誤爆し、ゲオの顔面にかかったのだ。そのスキに和尚がゲオを、ジャーマンスープレックスでぶっこ抜く。
「1、2、3――!!」
 カンカンカン!!
 リュアンのフォローでヤシャはカウントを妨害できず、ゲオは3カウント取られてしまった。

●ヒール退場
「これで終わったと思うなよ! 俺たちはしつこいんだ!!」
 ヤシャがマイクを取って言い放ち、ヒール軍を引き連れて会場を去った。
 かくて秘伝書はベビーフェイス軍に授与され、ベビー軍は面目を果たした。
 だが、まだまだ物語は終わる気配が無い。むしろこれからが本番のようである。

【おわり】