Outbreakアジア・オセアニア
種類 |
ショートEX
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
5Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
50.2万円
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参加人数 |
12人
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サポート |
0人
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期間 |
07/17〜07/23
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●本文
WEAではさまざまな『情報』を管理している。もちろんその中には、ナイトウォーカーのデータも含まれる。情報記録媒体に変換し厳重に保管しているものもあるぐらいだ。
だが今回、あるはずのないミスが連鎖して一つのナイトウォーカーのデータが漏出(Outbreak)してしまった。どのようなナイトウォーカーまではわかっていないが、保存していたナイトウォーカーのデータが1体分、そっくり無くなっていたのである。
WEAではただちに調査班を編成し、そのデータの漏出先を突き止めた。データは電話回線を通じて、都内のある病院に発信されたようだった。WEA系の病院で獣人の手当もしてくれる、ありがたい場所だ。
そこにナイトウォーカーの感染者が居るのは、羊の中に狼を放り込んだようなものである。
電話回線となると、使用しているのは病院スタッフにほぼ限られる。カルテのコンピューターの端末を使用している医師か、電話を直接受け取る看護師や事務の人だ。その中から獣人を除くと、4名ほどに絞り込むことが出来た。
・容疑者1 前田美咲 受付嬢 人間
病院受付嬢の一人。事情を知る人間。電話を取っている本数が多く、勤務時間とデータ漏出時間が重なっている。
・容疑者2 倉敷雅弘 医師 人間
データ漏出時間に、コンピューターの端末を使用していた記録がある。
・容疑者3 内海ミドリ 看護師 人間
内科看護師の一人。入院病棟でコンピューターの端末を操作していた。
・容疑者4 館岡庄一 外科入院患者 人間
足を骨折して入院中の少年。病院のLANを利用して自前のコンピューターを操作中だった。
ナイトウォーカーの発症までどのぐらいの時間が必要なのかはわからないが、とにかく正体を突き止め殲滅しなければならない。幸いまだ事件は何も起きていないので、未然に解決してもらえることを切に望んでいる。
以上、よろし頼む。
●リプレイ本文
Outbreak
●漏出の原因
ナイトウォーカーは、獣人の天敵である。
御影瞬華(fa2386)が気にしていたが、今回の事件は本来なら99.9パーセントあり得ない。まさに文字通りの『不始末』。感染者は死んだも同然だし、複数の獣人の命を危険にさらし、なおかつ被害が現実の物となればその分だけ死者が出る。
少なくとも、この漏出事故によって最低一人は人間が死んでいるのだ。その責任は問われてしかるべきであろう。
もちろんWEAでは、担当者のクビが飛んだ。実際に責任を取るのは事態が終息してからになるだろうが、少なくとも合計で600万円を超える報酬が緊急に用意されたことが、状況に対する予断の許さなさを物語っている。
さてその原因ではあるが、本来抹消すべきナイトウォーカーのデータを保持している事自体を責めるべきなのかもしれない。大元の原因、つまり発端は間違いなくそれであり、それが無ければもとよりこのような事件は起こらなかったはずだ。
だがWEAにも事情がある。敵の正体を知ることでなんらかの成果が上がれば、多くの獣人にとって有益な状況を提供できるかもしれないのだ。
重ねて言う。ナイトウォーカーは、獣人の天敵である。つまり『敵を知り己を知れば、百戦危うからず』の通り、『敵』に対する研究が進めば、獣人に取ってそれだけ安全の度合いが増すのだ。ナイトウォーカーによって危地に立たされている獣人にとって、ナイトウォーカーの研究そのものを行うことは死活問題なのである。
そして今回のナイトウォーカーは、サンプルケースとして貴重な検体の一つだった。知能を持ち様々な特殊能力を発揮し、人間にほぼ完璧に擬態する。記憶の吸収能力までは確認が取れていないが、少なくとも事件が発覚して丸一日以上、そのナイトウォーカーは周囲に怪しまれることなく『人間として』生活しているのだ。これはいまだその正体の分かっていないナイトウォーカーでも、レアケース中のレアケースである。
そして瞬華と日向美羽(fa1690)がWEAに当たって、価値ある情報を得られたのは偶然ではない。事態の混乱の中、対象ナイトウォーカーの特徴の情報を得たのは、事件の本質に目を向けたかれらのクリティカル・ヒットである。
「対象ナイトウォーカーは強靱なあごと強固な甲殻を持ち、羽根を装備し酸を吹くそうです」
作戦前に、瞬華が言った。
「まるで『THE FLY 2』の蝿人間だな」
顔にバッテン傷のある目立つ容貌の、敷島オルトロス(fa0780)が言う。いや、かなり怪しい容貌だ。
一同は打ち合わせの結果、それぞれの容疑者に対し一人頭3人の割り当てを行い、監視網を敷いて警戒することにした。なお考慮に入れなければならないのは、ナイトウォーカーが再情報化して逃げるためのルートが、すでに存在することである。全容疑者に感染経路があるということは、二次感染経路もあるということなのだ。
割り当てと最初の15時間あまりで得た第1捜査結果、そしてその検証については次の通り。
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【容疑者1】
前田美咲 受付嬢 人間
病院受付嬢の一人。事情を知る人間。電話を取っている本数が多く、勤務時間とデータ漏出時間が重なっている。
【担当】
・ベルシード(fa0190)の調査行動
病院の医院長(もちろん獣人でWEA関係者)の協力を取り付け、『病院の取材』ということでプレス腕章を装備し病院に入り込む。容疑者周辺の人間・獣人に対し重点的に聞き込みを行い、不信な点が無いか調査したが、特に変わりが無かったことが確認出来た。真っ白すぎて無気味なぐらいである。
なお、対ナイトウォーカー戦闘を想定して『戦闘に向いた被害の発生しにくい場所の提供』を医院長に求めたが、屋上以外無いということだった。
・緑川安則(fa1206)の調査行動
恋人の日向美羽が妊娠したというふれこみで見舞いに来た、というシチュエーションで容疑者と接触。実際に受け答えを行い、会話に不自然な点が無いかどうかをチェックした。心証は『シロ』。ただ油断はならないので、継続して調査を行うことにした。タイムリミットまでギリギリ粘る予定である。
なお、本人は『芸能人とADの熱愛発覚。できちゃった結婚か!?』などというゴシップ記事の紙面を飾ることを期待していた節もあるが、そのような取材は全くなかったことを付け加えておく。トップを飾るには、まだまだ芸能人としての抜き目が、圧倒的に足りないのだよ明智君。
・日向美羽の調査行動
恋人の緑川安則の子供を身ごもった、というふれこみで入院患者として産婦人科に入院。余談だがもちろんそのような事実は無く、妊娠もしていない(妊娠していたら芸能活動は続けられないし、このような危険な任務からは外れてもらわなくてはならない)。
状況としては、故意に単独行動を取り囮として相手が馬脚を現すのを狙った。容疑者の出勤時間と退勤時間に合わせて周辺を(具合悪そうに)うろついてまわり、ナイトウォーカーが獣人を襲うような状況を作ったのである。もちろんチームの援護を得ての話だが。
結果は、シロ。いや、完璧にシロという確証はまだ無いが、少なくとも襲撃はされなかった。それどころか「大丈夫ですか?」と声までかけられた。
【検証】
データ接触の可能性という意味では、もっとも機会の多い人物。当然マークも厳しく、囮捜査などによってよりきわどい検証を行ったのだが、結果的にはその兆候は見られなかった。また獣人関係の事情を知る人間であることもあり、会話の内容も突っ込んだ話まで筋立っていて遺漏も不備も無く、知識を完全に吸収するナイトウォーカーでもなければまず間違いなくシロと考えて良い。そして今回のナイトウォーカーについては、そのような能力について確認されていない。
ナイトウォーカーは脳内知識の吸収もある程度可能らしい報告があるので、十全の判断とは言えないが、監視下における不必要な夜間行動や、聞き込み調査から確認できる精神的変調なども見られなかったため、最終的にオーパーツ『ラーの瞳』による確認を行い、反応が無かったため容疑者の警戒レベルを下げるに至った。
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【容疑者2】
倉敷雅弘 医師 人間
データ漏出時間に、コンピューターの端末を使用していた記録がある。
【担当】
・椚住要(fa1634)の調査行動
彼は外来患者として来訪し、WEAの手配りを利用して病院内の『事情を知る人間』と獣人に対し容疑者についての聞き込みを行った。大病院なので、限られた条件でさらに接触のある人物に聞き込みを行うとなるとサンプルが異常に少なくなるのだが、それでも地道な聞き込みによって得られた証言は「何も異常は無いらしい」ということだった。
何もない=シロと同義というわけではないが、少なくとも獣人(とその敵の存在)を知る人々にとっては重要な啓発になったらしく、在院中に情報を継続して提供してくれる旨の申し出を得て、要は院内に残ることになった。
なおベルシードと同じく戦闘想定区画を用意したい旨動き回ってみたが、結論として屋上以外の場所での戦闘はかなりのリスクが伴うという結論に達した。特に地下駐車場などで万一火災などが発生すれば、何千人という患者が避難しなければならなくなる。戦闘は慎重に行わなければならない。
・ラルス(fa2627)の調査行動
彼もまた外来患者として聞き込みに入った人間である。容疑者は内科の先生なので、自身を『神経性胃炎』ということにしておいて、待合いの患者からそれとなく情報を聞いてみる。すると分かったことは、容疑者はナイトウォーカーの漏出後も外来患者の診察を続けているということだった。他には潜伏期間と思われるこの数十時間で起きた変化を観察できなかったが、人間の病気を診られるナイトウォーカーというものに疑問が残る。
その後彼は入院手続きを(WEAの手配で)取り、張り込みに入った。病院全体を、オーパーツで調査・確認するためである。
・敷島オルトロスの調査行動
容疑者の担当部署は内科。敷島は入院予定患者の家族を装い、看護師やヘルパーなどの病院関係者にごくナチュラルに担当医の最近の様子を聞き込みしようとした――のだが、顔が恐いので警戒され、思うような情報収集が出来なかった。目立つ容貌は損なこともある。
また病院では、医師や入院患者のプライバシーに対して非常に敏感であり、看護師やヘルパーが部外者(親族であっても)患者や医者のことを口にすることはまず無い。あっても「良い先生ですよ」程度の話しか聞けないのが実際のところである。今回の件については、敷島の判断ミスと言う他ない。
最終的にはチームのメンバーのサポートを受けて単独接近を行い、検証してみた。心証はシロだった。
【検証】
医師という職能ゆえ、異常があれば聞き込みですぐに見つかるという判断は正しかったであろう。結果はシロで、引っかかる小骨程度の異変も感じられなかった。ナイトウォーカーの感染で見られる精神的変調や行動パターンの変化などもなく、これがクロだったらそれはそのナイトウォーカーがすさまじくトンデモなヤツだったのであろうというぐらいのシロさである。
最終的にはオーパーツ『ラーの瞳』による確認を行い、反応が無かったため容疑者の警戒レベルを下げるに至った。無駄骨が一番良いというのも、皮肉な結果である。
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【容疑者3】
内海ミドリ 看護師 人間
内科看護師の一人。入院病棟でコンピューターの端末を操作していた。
【担当】
・河辺野一(fa0892)の調査行動
彼は新人の看護士として、WEA経由で病院内に入り込んだ。事情を知るのは『事情を知る人間』と獣人のみ。まあ、看護師の資格など持っていないので、通常業務だけでも支障を来すレベルなのだが、その辺は『事情を知る人』がなんとかフォローしてくれた。おじいちゃんのトイレに付き合わされ、下の世話まですることになったときは、さすがにメゲたようであるが。
主な調査は、同じ部所の看護師への聞き込みである。この数十時間の間に、容疑者に目立った変化があったかどうか。行動パターンは。異変があれば、親しいメンバーで構成されている看護師詰め所では敏感に反応が見られるだろうと予想してである。
結果は、『何も無し』。後ほどオーパーツでの確認を検討し、仲間と情報を交換しあった。
・須賀直己(fa3550)の調査行動
彼は病棟の張り込みを行った。昼間は面会人。夜は警備員として院内に潜伏し、ナイトウォーカーが行動を起こした時のために備える。容疑者が看護師だけあって、重傷の獣人が個室で狙われたりしたら、目も当てられないからである。
他の調査は同じ班の他のメンバーに任せていたので、容疑者の怪しい動きだけ警戒していれば良かったのだが、最終的にはシロ、という心証を持つに至った。容疑者に何も無いどころか、有能な看護師ぶりだったからである。
結果的に無駄骨だったようだが、何も無いのが一番ということもある。
・猫宮牡丹(fa4060)の調査行動
彼は須賀直己と共に、警備員として病棟に入り込んだ。入棟手段は違うが、非公式に入って館内をくまなく捜査する。時間が限られているので、担当分けしてローラー作戦を敷くしか今回選択肢が無かったのだが、結局の所彼の担当区分は空振りに終わった。何もなく事も無し。警戒区域をそろそろ2週目に入ろうかというところで彼は班の仲間と合流し、調査を打ち切った。
【検証】
行動の自由さから言えば、一番警戒すべき人物がこの看護師であった。患者に近づき、捕食する。もし対象者が感染者だった場合の危険性が、一番高かったのが彼女である。
が、実際に好機は何度もあったにもかかわらず、彼女は怪しい動きを見せず、また聞き込みでも怪しい様子は見られなかった。看護師となるとチームなので、もっとも他者が変化に敏感になる状況に居たというのもある。ゆえにこのシロという判断は妥当であろう。
最終的にはオーパーツ『ラーの瞳』による確認を行い、反応が無かったため容疑者の警戒レベルを下げるに至った。
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【容疑者4】
館岡庄一 外科入院患者 人間
足を骨折して入院中の少年。病院のLANを利用して自前のコンピューターを操作中だった。
【担当】
・森澤泉美(fa0542)の調査行動
彼には今回、重大な誤算があった。彼の調査対象の容疑者は外科だが、彼は『小児科』病棟の担当なのである。年齢的に。
WEAに頼んで入院手続きを取ってもらったのはいいが大人の病棟に入ることは出来ず、彼は可愛い壁紙の貼られた小児科病棟で呆然としていた。
それでも行動は起こさなければならないので、小児科病棟を抜け出し外科病棟の容疑者の元へ行く。「テレビが見たい」「コンピューターが見たい」などのわがままを言って近づき、接触を試みた。
が、容疑者の人となりを知らない泉美には容疑者の異常も気づけないし、四六時中見張っているわけにもいかない。また夜は小児科病棟から出られないので(通常、夜間病棟の扉は閉められる)、夜間の行動もチェック出来ない。
そもそも、足を骨折しているのに夜動き回ることが出来るのか? という問題もある。
・MIDOH(fa1126)の調査行動
彼女は骨折患者として入院し、ナースセンターへの聞き込みを中心に行った。個室に入院している容疑者は入院して1週間ほどで、まだ歩ける状態では無いらしい。
容疑者のプロファイルは、オタクで人付き合いもあまり出来なさそうなタイプらしかった。病院にコンピューターを持ち込んでいるあたり依存度合いが伺えるが、この2日ほどはこっそり深夜までネットをつないでいるらしく、巡回の看護師にたびたび注意されている。
「夜間行動と固執的行動パターンの変化あり‥‥か」
元々オタクというのは夜族なので結論を急いではいけないが、変化があるのは気にとめておいたほうが良いだろう。
・御影瞬華の調査行動
彼は見舞い客として病棟に入り込んだ。WEAのサポートを受けて看護師なりのスタッフになる選択肢もあったのだが、男の看護師は髪を切らなければならないため断念せざるを得なかったのである。またMIDOHが入院患者として入ったので、一度に入院患者(それも獣人)が増える不自然さを考慮すれば、実のところあまりオプションは無かったとも言える。
残念ながら警戒待機以外の状況を得られず、いろいろな意味で彼の調査は不発に終わった。まあ出だしが良かったリバウンドかもしれない。幸運と不運はエントロピーの関係にあるのだから。
【検証】
実のところ、一番警戒されていなかった対象がこの容疑者であった。骨折のため不自由な身体な上、感染経路が一番ややこしいところにあるというのもある。WEAのサーバーにアクセスしていればその可能性もあるが、それは普通、外部からは無い。病院のLANも、直付けでWEAのサーバーに接続されているわけではないからだ。一般人にほいほいアクセスされては、WEAの存在そのものにかかわる。
だが、実際はこの容疑者が一番シロという確証を取れなかった。コンピューターを使える環境は当然個室。入院患者のためパーソナリティの変化に気づく者も少なく、また夜行性のコンピューターオタクであるためナイトウォーカーの感染による『変化そのものが起こらない』可能性がある。
最終的にはMIDOHの得たパーソナリティの微妙な変化だけが唯一の手がかりとなり、オーパーツ『ラーの瞳』による確認を行った。
そして、反応があったのである。
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●戦闘
無線で飛んできた報告に、獣人達はあわてた。泉美が容疑者の館岡庄一『だったもの』に襲撃されているというのである。ナイトウォーカーの予想再情報化可能時間まで、3時間を切っていた。
泉美は小児科病棟を抜け出し、深夜館岡の個室に入りこんだのだ。無警戒では無かったが、軽率だったと言えよう。館岡はいきなり変態し、昆虫人間のような外見になって泉美に襲いかかったのだ。
ナイトウォーカーとしては、脆弱な獲物が自ら飛び込んできたようなものである。再情報化が可能になるのも近い。情報端末も近くにある。おそらく様々な打算が働いて、行動を起こしたと言える。
泉美は下へ逃げた。戦闘会敵位置としては屋上が検討されていたが、事前にナイトウォーカーの飛行能力を把握できたため、地下駐車場の閉鎖空間での殲滅を選択したのだ。
人的被害は絶対に出せないが、ナイトウォーカーを世に放つことはもっと出来ない。リスクを承知の上で、地下での銃撃戦を行うことになった。幸い時間が時間なので、駐車場の車の数は最小限である。滅多なことでは、車が爆発炎上などということは起こるまい。
ただしもしそれが起こった場合、CO2ガスを使用した広域消火システムが作動する可能性がある。そうなれば戦闘を中止して脱出しないと、閉鎖された空間で窒息死するはめになる(油脂火災にスプリンクラーは無力なのだ。酸素の供給を止めるのが一番確実である)。
黒光りする甲殻をまとった虫人間が駐車場に現れたとき、獣人達は完全装備で完全獣化していた。戦闘能力のない泉美を除き、全員が戦闘準備をなんとか整えていたと言って良い。中にはタレントを使用して駆けつけた者もいる。
戦闘は派手な銃撃戦となった。相手の甲殻のために銃弾が弾かれ、弾数と手数で押すしか無かったのだ。中には貴重な水晶弾まで使い切った者も居る。相手はタフで戦闘能力が高く、敏捷で厄介な強酸液体を吹いてきた。
ケガを負った者も少なくないが、最後は獣人能力の牙や爪がモノを言った。はっきり言おう。銃よりこれらの獣人ならではのタレントの方が、何倍も強力である。足を食いちぎり(骨折した部分は関節になって自在に動くように変化していた)、羽根をむしり取り、肉体を完膚無きまで破壊するまで、ナイトウォーカーの抵抗は続いた。結局コアを狙う暇はなかなかあたえられず、肉体を行動不能にまで破壊し、強酸液も吐き尽くさせて、やっと手出し出来るようになったのである。
最後は爪でコアを破壊し、ナイトウォーカーは消滅した。残されたのは、なんだかよくわからない遺骸のみ。
駐車場は酷いことになったが、危機は去った。
●その後
入院患者の突然の死によって、病院がどのような対応を迫られたかは報告されていない。噂によるとよく似た死体を飛び降り自殺に見せかけて破壊し、検死報告書など一式をそろえて体裁を繕ったという話だが、警察権力にまでなんとか話を通したのならば、WEAはおそらく多大な負債を抱えたことになるだろう。
何より浮かばれないのは、被害者の遺族だ。犠牲者の出たこと自体がWEAの敗北であり、その責任は問われなければならない。
ナイトウォーカーの落とす影の中に。
悲しみは、確かに息づいている。
【おわり】