北の大地に巨大熊を見たアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
4Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
25.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
1人
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期間 |
08/15〜08/21
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●本文
『UMA』という言葉がある。
『科学的には存在が確認されていない未知の生物』という意味だが、獣人の多くはその存在を『ナイトウォーカー』という『モノ』に定義づけている。ヒバゴンもネッシーも、ナイトウォーカーだった可能性が高いというのだ。
ナイトウォーカーの出現には一定の法則がある。情報生命体である彼らの多くは古い建築物や遺跡などに存在し、そこにまぎれこんだ生物を媒介して外部に出現する。最初はヘビや蜘蛛、昆虫といった小生物のたぐいがほとんどだが、この時点で解決――つまり殲滅できればよし。そうでない場合何らかの媒体に再情報化されて、より知的で強力な生物に感染する。
そうなったナイトウォーカーを倒すのは、けっこう至難の業である。
物理的に消滅させるなら、最悪核弾頭でもその地域にぶち込めば良い。だが高度に情報化の進んだこの世界で『情報』そのものを破壊するには、コンピューターや放送ネットワークそのものを全世界規模で破壊しなければならない。そのようなことは、ゴ○ゴ13でもなければ不可能だ。
ゆえにWEAでは、UMA探索に力を入れている。本当のUMAである可能性より、ナイトウォーカーである可能性が高いからだ。
遺跡+UMAの組み合わせには、特に反応する。そこで今回もまた、TOMITVの企画室に話が舞い込んできた。
『河口寛探険隊 第x弾 北の大地に巨大熊を見た!!』
道民を馬鹿にしとるんか――!! というツッコミは受け付けない。
ロケ地は北海道である。最近鳥獣害の被害が著しい山奥で、銀色の熊を見たという報告があったのだ。
見間違えた可能性があるなら灰色熊あたりであろうが、あいにく灰色熊は北海道にはいない。そしてWEAに、1枚の写真が送られてきた。不鮮明なデジカメの写真だが、巨大な獣のようなものの額に相当する部分に、鈍く緑色に光る物が見えるのだ。デジタル処理して鮮明にしたそれは、鎧熊と言えそうな甲殻を持つケモノだった。
『河口寛探険隊』は、北海道の山奥に挑戦する。
●リプレイ本文
北の大地に巨大熊を見た
●仮想番組『河口寛探検隊』
ナレーター:「我々河口寛探検隊は、目撃情報を元に北海道に現れたという灰色熊の姿を求めて、某市郊外の山中に分け入ったのである!!」
●灰色熊など居ない!!(中の人風に)
北海道の熊と言えば、ツキノワグマである。首に三日月状の白い斑文のある黒いヒグマ種だ。この他にも茶色いヒグマが少数生息しているが、北海道の――いや、日本に居る熊と言えばこの2種類しかいない。
つまり、灰色熊――通称グリズリーが北海道に居る可能性は、ゼロである。いや、なんらかの特殊な事情――例えば好事家がカナダから密輸入してそれが何らかの原因で逃げたとか――があるのならば確かに『可能性』はある。だが現実的ではない。
そもそも灰色熊というのは、北アメリカ北西部の奥地に生息するヒグマの亜種を指す。つまり北米に居なければ灰色熊とすら分類されないのだ。
なお漫画などで間違った認識が広まっているが、灰色熊はそれほど大きくなく、オスで体重約135キログラム、メスは100キログラムほどしかない。平たく言うと、筆者と同じぐらいの体重しか無いのだ(重いぞ俺)。
だが。
「目撃情報だと、灰色熊の身長は3メートル強。推定体重は軽く1トンを超えますね。まるで漫画に出てくるグリズリーです」
河辺野一(fa0892)が、インタビューしてきた目撃情報などをまとめて言った。
『河口寛探険隊』は今回、表向きは北海道は日高の猟友会の援助を受けて、熊の捜索を行っていた。そして幸いなことに、まだ件の化物熊には遭遇していない。そしてこれは偶然だが、猟友会の面々が野生の熊を一匹見つけて射殺していた。身長2メートル弱、体重300キログラムもある、かなり大型のツキノワグマである。眉間を一撃、銃を撃った者はなかなかの腕だ。
「スカウトしたいわね」
と、防具を着込んだ緑川メグミ(fa1718)が言った。探険隊の藍色の制服が、かなりきつそうである。
梓羽(fa3715)を始めとする『猟友会の同伴をお断りしたい方々』には、これが幸運に働いた。目的の熊を射殺したと判断した猟友会の面々は、引き上げを決定し早々に現地を去ったのである。
「我々は撮影を続ける必要がるので、もう数日ここに残ります」
と河口隊長がまことしやかに言って、撮影クルーとスタッフを残す手配をしていた。猟友会の面々も、河口隊長の言動は疑わなかった。なんと言っても、熊を実際に一匹しとめているのが効いている。
「河口隊長って役者だなぁ‥‥」
新米隊員役をしていたマリアーノ・ファリアス(fa2539)が、感心したように言う。さもありなん。洞窟に、「危険だから注意しろ」と言いながら、カメラさんと照明さんと音声さんの後に入るような番組の担当なのだ。役者が出来ていないと務まらないのは明々白々。その辺の認識が、マリアーノ辺りはまだまだ甘い。
●熊探し
さて、河口隊長の役者ぶりは一端置いておいて、コード名『グリズリー』の捜索である。とりあえず写真があるので、サーチペンデュラムでの『当たり』を取るところから探険隊の活動は始まった。精神を集中して数分、ダウジングの要領で地図とにらめっこしていたスタッフは、現地の山の中腹当たりに反応らしきものを見取ってひとまず成果とした。
「山ん中じゃ、罠は張りにくいやね」
敷島ポーレット(fa3611)が、ペンデュラムをしまいながら言う。斜面に落とし穴を掘るのは現実的ではないし、並大抵のトラップで1トンもあるような生物をなんとか出来ると考えるのは無謀だ。
「足を止めての打ち合いしかあるまい。私はそのために来た」
ジャスティスタイガー(fa4130)が言う。過去のナイトウォーカー事件の報告でなんとなく分かっていることだが、ナイトウォーカーには生半可な武器は効かない。それが熊ともなると、その分厚い皮下脂肪を抜くことが出来るかどうかも疑問だ。特に9ミリ口径の銃器程度では、かすり傷程度しか与えられないだろう。最低でも50口径のバレットライフル、あるいはそれに準ずる、強化ガラス越しに精密狙撃が出来るぐらい貫通力のある銃を用意するべきである。
もちろんそんなもの、日本どころか世界中どこを歩いても入手は大変困難だ。なぜかというと、そんなものを一般売りして犯罪に使われようものなら、その被害はシャレでは済まないからだ。軽率な犯罪者に、大統領を暗殺してくださいと言っているようなものである。
何度も言われることだが、獣人は獣化して戦った方が遙かに強いのだ。
幸い辺りに人影は無し。河口隊長の奨めもあって、一同は完全獣化して目的地へと向かうことになった。少なくとも移動速度は格段に速い。時間を置くとナイトウォーカーは再情報化など多少戦闘オプションが増えるので、選択としては正しいだろう。
●遭遇、鎧熊!!
ガンガンガンガン!!
「もうっ! メグはナイトウォーカーが嫌いなの! なんであんたみたいな化け物が平然といるの!」
メグミが上空から銃を放つ。それは文字通り火花を散らして弾かれた。
探険隊は熊に遭遇していた。いや、それを熊と表現して良いかわからない。
熊らしきものは、情報通りの巨体だった。色も灰色――正確には鉛色で、節足動物のように節くれ立った体躯と、これは明らかに『甲殻』と思えるような硬い皮膚を持っていた。
ナイトウォーカー化した生物は、昆虫のようなフォルムになるという。その課程で様々な特殊能力を得る(ないし元から所持している)というが、この熊型ナイトウォーカーは分厚い皮膚に分厚い鎧をまとって、生半可な打撃では痛痒を与えることが出来そうに無かった。
ガン!
「ボクの蹴りがきかない!!」
マリアーノが驚愕する。まあ若干11歳の少年にどれほどの打撃力を期待できるのかという話しもあるが、この分厚い防御力は文字通り並大抵ではない。
そして攻撃については、その自重そのものが脅威だった。1トンの突進。直撃を受ければ、痛いでは済むまい。
「ウィンさん、治療をお願いします!」
パトリシア(fa3800)が戦列から下がり、ウィン・フレシェット(fa2029)に向かって言う。彼女はナイトウォーカーの突進を受け止めたはいいが、そのまま足を浮かされて持ち運ばれ、立木に激突したのだ。背中からゆえ多少ダメージは軽減されたが、あばらを何本か持って行かれ、激痛で逆に気を失うことも出来ない状況だった。
「《治癒命光》!」
ウィンの手から光りが放たれる。これで100ほど数えれば、戦列に復帰ぐらいは出来るだろう。
「結局一番狙いにくい場所を、ピンポイントで叩くしか無いみたいだね」
因幡眠兎(fa4300)が、《ライトバスター》と呼ばれる剣を構えて言う。スターウォーズのライトセイバーのような、光の剣のオーパーツである。
「私が食い止める。なんとか一撃で決めてくれ」
ジャスティスタイガーが、大きく構えて言った。1トンの砲弾を受け止められるのか? ウィンの《治癒命光》もそろそろ尽きる。何より連携の取りにくい山中では、チームワークも十全に機能しない。上空を飛ぶ梓羽も、対処に苦慮していた。彼は一撃を決める能力はあるが、空を飛んでナンボの鷹獣人なのだ。
「来い!」
GAAAAAA!!
ドドドドドド、ガシン!!
「ぐはっ!!」
ジャスティスタイガーがうめいた。彼は確かにナイトウォーカーを受け止めたが、力負けして坂を突き下ろされているのだ。せめて《金剛力増》程度の強化は想定しておくべきだった。
バキッ! バキキッ!!
1本、2本と立木をへし折り、1トンの塊が坂を下る。その突進は、下界の舗装道路まで続いた。
「チャンスだ!」
一が《地壁走動》で木々の間を飛び越え、動きの止まったナイトウォーカーへ《飛石礫弾》を立て続けに放った。銃弾より遙かに剣呑な飛礫が、ナイトウォーカーの鎧を穿つ。その一発が、コアの間近で弾けた。
「――!」
ぞん!
上空からの梓羽の攻撃が、さらに追い打ちをかける。ナイトウォーカーが判断ミスを悟れるのならば、広い場所に出た時点で地の利を失っていたことを知覚出来たであろう。
GAAAAAAAAAA!!!
ナイトウォーカーが苦痛に咆える。どうやら痛覚は多少なりともあるらしい。
「《瞬速縮地》!」
一瞬にして現れたポーレットが、爪でナイトウォーカーのコアをえぐった。緑色の光玉は、熊だった肉体から完全に切り離された。
「とどめ!」
眠兎が《ライトバスター》でコアに斬りかかる。
がすっ!
一撃を受けて、光玉が砕けた。そして一同が目を見開いたあとには、そこには何も無かった。
――ふう。
やれやれと、一同が息をつく。どうやら、ナイトウォーカーは消滅したようだった。
●事件解決
多少の悶着があったあと、その場で熊ナイトウォーカーの死体は焼却された。同時に、捜索で使用していた地図などの情報媒体も焼却される。念には念を入れてである。
教訓。
獣人タレントの利用は計画的に。
今回は、後に引くことは無かったが、怪我人の多い任務となった。
ナレーター:「そして、一つの謎が明かされ、またいくつもの謎が残った。しかし、河口寛探険隊は、その謎に挑み続けるのだ!」
【おわり】