Welcome Air Fource B1南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
12.9万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
08/23〜08/29
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●本文
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【タイトル】
Welcome Air Fource
【内容】
アラビア半島周辺海域を哨戒中のアメリカ海軍第七艦隊所属のトップ・ガン、ロジャー・ロッドマン中尉の小隊に特別指令が下された。アメリカの人気俳優デニス・ステッドラの役作りに協力せよというのである。デニスは次回の映画で戦闘機パイロットの役を行うため、その取材のために中東までやってきたのだ。
お調子者のデニスに不満を覚えながらも、取材に協力するロッドマン小隊。しかし飛行中に敵と遭遇してしまい、撃墜されてしまう。からくも脱出するが、そこは中東ゲリラの本拠地。あっという間に捕虜になり、ビデオで声明を発表させられるなどのお決まりのコースになってしまった。
屈辱的な扱いを受けるロジャーだが、デニスはなぜか待遇がいい。というのも、デニスの出演した映画に中東に理解のあるものがあって、中東戦士たちもそれを観ていたからだ。
口八丁手八丁で、航空機を奪いなんとか脱出する二人。しかしそこに、捜索に飛んできたヒロイン、リリー・マルレーン撃墜の無線連絡が入る。救出に向かう二人。しかし先に二人を撃墜したミグが迫る。三人は無事に脱出することが出来るか!?
【脚本概要(全4回中の第1回)】
ロジャーとデニスの出会いから最初の出撃まで。中東情勢の説明と第七艦隊の説明など。
パリパリのエリートであるロジャーが上官から不服な命令を下され、渋々デニスに協力するまでの降り。戦争を知らず脳天気に戦争を語るデニスに呆れながら、航空ショーのようなアクロバット飛行に『同乗』させ(乗機は訓練用のF−5タイガー(複座型・武装無し))、多少の意地悪を込めて歓迎する。ヘロヘロになりながら「良い経験をした」と感動する役者バカのデニス。しかし二回目の飛行の時に敵編隊に補足され、撃墜される――。
【募集】
・製作スタッフ(AD・音声・美術・撮影・編集・etc)
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「よし! ペンタゴンから第七艦隊の取材許可が降りました!!」
ここに、新人監督が一人いる。名前はデビッド・ワード。軍事オタクで、軍事映画を撮るのが趣味の映像マンである。といっても真面目な軍事物ではなく、コメディ主体で映像作品をリリースしていた。そして今回の『Welcome Air Fource』は『潜望鏡下げろ!』『PARADISE ARMY』に続き、WWBから企画原案があがりデビットにお呼びがかかったという次第である。
作品は25分を4本。連続ドラマであるので、『継続して出演出来る者』という縛りがある。特に主人公やヒロインは必須である。
本募集では『スタッフ』の応募を待っている。美術・音声・編集、その他いろいろあるが、画面に出ない、あるいは台詞の無い人たちの仕事である。
●リプレイ本文
Welcome Air Fource B1
●軍事映画はたいへん
軍事物映画は、金食い虫である。
それも『たいへん』などという生やさしいものではない。いっそ『無茶苦茶』と表現した方がいいぐらいだ。
理由は簡単だ。機材・セット・装備・乗り物、どれをとっても『数』と『質』を暴力的なまでに要求されるからである。コメディだからと言って、観客はユルい目では見てくれない。考証を間違えると、ミリタリーオタクに類される人たちが鬼の首を取ったように、「アレソレはおかしい」と重箱の隅を電子顕微鏡で見てマイクロメーターで突っつくようなゴタクを並べてくるのだ。
しかもネットワークが進歩した現社会だと、その手のオの字は発見したことをさもすばらしいことのように、「自分の知識自慢」としてWebやメールでどばどばと周囲に垂れ流す。ある意味、自分を維持するために必死な姿は哀れを誘うが、一生懸命映画を撮ったほうとしてはたまらない。
別に、細かいことには目をつぶれ、と言いたいわけではない。自分を省みて、中身がスッカラカンだということに早めに気づき、自分の中にきちんとしたバックボーンを構築しよう、と言いたいのである。
デビット・ワード監督が軍事物を作る上で意識していることは、これに通じるものがある。ワード監督の映画では、人がリアルに死ぬことは少ないし、多少無茶な設定でもごり押しで通す。しかしメッセージ性を失うことは無く、コメディというオブラートで包んでいながら主張すべきことははっきり主張する。
この塩梅というか、さじ加減を用いることが出来るのは、ワード監督自身がかつて、先に書いた唾棄すべきロクデモナイ観客だったからだ。若さと可能性を信じ、夢見ていた銀幕の世界に飛び込んで、現実を思い知ったのである。
そこには主義も主張も無く、ただただ金、金、金という、万里の長城より長大でエベレストの頂上より高い壁があったのだ。
もちろん、それでへこたれるなら匿名掲示板でゴネている無自覚な人たちと何ら変わらない。それを『仕事』にして『給料』をもらっている以上は、彼はプロフェッショナルである。どんな障害があろうとも、最後まで『商品』を完成させるのが責任だ。そしてそれがどのような結果になろうと、責任を取らなければならない。それは金銭的なものであるかもしれないし、あるいは名誉とかそういうものかもしれない。
今回のシャシン『Welcome Air Fource』も、軽いノリで作ってはいるが、スタッフは非常に苦難な道を行くことになる。これはワード・ディレクション・フィルムでは避けられないものと思ってもらったほうがいい。
その第1の犠牲者は、ADである。
●第1犠牲者:AD:逢月遥(fa4374)
彼女は、本シャシンが初めての公式業務になる。
彼女が拝命した役職は、アシスタントディレクター。つまり体力勝負の雑用係である。
子供だからと言って、現場は状況を選んではくれない。彼女は初日から、筋肉痛になるほど走りまわされ、荷物を運ばされ、人を呼びに行かされた。2日目にはすでに筋肉痛も極限に達し、動き方も歯車の錆びついたロボットのようになっている。そしてこれは年齢がそうである以上やむを得ないが、重要な発注業務やその他の手配など、お金の関わることについて一切手伝わさせてもらえなかったのだ。もとろん空母のロケにも行けない。スタッフ内で唯一人18時には帰宅を強制され(児童福祉法)、ピザ1枚すら注文できないのである。
はっきり言う、実年齢11歳というこの年齢で、時間帯が不規則な映像マンの仕事は、神が許しても正義が許しても自由が許しても、法律と社会が許さないのだ。髪の毛一筋でも怪我をすれば、監督や責任者のクビが跳ぶ。
結局『お手伝い』以上の仕事をさせてもらえず、彼女は今回、この仕事に貢献したとはやや言い難い状況となった。
悪いことは言わない。今からでもチャイドルなどに、転向することをお勧めする。
●第2犠牲者:美術:宮尾千夏(fa1861)
冒頭に書いたオの字の方々に対する、正しい認識を持っていたのは彼女である。経験はまだ浅いが、実力的には一級の映像マンである彼女は、今回の仕事に対して充分な事前調査を行いそれに備えた。
希望し拝命されたのは、美術関連の業務である。『それらしく』セットや小物を制作し、配置・使用するのだ。
ただし、軍部からの制約もある。資料はもらえるが、『そのまま制作してはいけない』のである。
何故そんなことを? というと、例えば空母の艦長室にどのような装備があってそのような機器があるかなどは、軍事機密だからだ。多くの軍事物の映画がそうなのだが、軍の施設や艦艇など、ロケで撮影して良いのはほんの一部の区画で、あとは「くれぐれも見たままを作らないように」と念押しされる。例えば航空基地などの場合、戦闘機は滑走路に配置しても良いが、軍施設を撮影するのは一切禁止されている(シェルターすら写せない)。基地や管制塔の部分は、すべてセットで制作するように言われるのだ(そう言う視点で、例えば洋画『インデペンデンスデイ』などを見てみると、結構苦労が伺える)。
ゆえに千夏の作業は、『嘘に見えない、それっぽいセットの制作』ということになる。
これが結構くせ者で、嘘っぽいのは論外。リアルすぎてもだめという、とても微妙なものなのだ。今回のワード監督の作品は、潜水艦の内部という室内劇であった『潜望鏡下げろ!』や砂漠での撮影だった『PARADISE ARMY』と違い、非っ常ぉーに難易度が高いのだ。
それはそのまま睡眠不足との戦いになり、千夏の肌年齢を10年ほど加速することになる。
●第3犠牲者:脚本:巻長治(fa2021)
長治がワード監督からもらったプロットに対し、長治は監督へ独自の解釈の入った脚本を提出した。
脚本家は監督の意向をそのまま文章にする職業のように思われがちだが、別に口述筆記型のワープロというわけではない。脚本家も一個の人間であり、作品に賭ける意気込みというものもある。ましてや長治は、ワード監督とは何度か仕事を同じくした仲だ。監督の、コメディの中に重く恣意的なメッセージを織り込むという悪癖も知っているし、今回もそれぐらいのことはやるだろうとは踏んでいた。だから長治はオーダーを数歩進めて、ステロな内容を拡大解釈したような脚本を出したのである。
が、今回はなぜかコンセンサスが取れない。リテイクに次ぐリテイクの嵐を受け、長治は途方に暮れる有様だ。
長治の提案は、わりと簡素である。主人公二人を典型的なパイロットと典型的なアメリカ的役者バカにしただけだ。「子供のお守りなんざごめんだ」という軍人と「いや〜〜、感動しちゃったな〜〜オレ」というような人間関係を構築しただけである。
が、問題はそこではなかった。
実は非常に簡素な話しなのだが、キャラクターの精神的タフネスについて、長治と監督の見解が違ったのだ。
トップガンのパイロットロジャーは、軍人々々しているが張り詰めっぱなしで、余裕がない(ゆえに面倒ごとに対してカリカリしている)。役者のデニスは戦場に物見遊山気分で来ているので、神経は鳴門大橋の支柱並に図太い、ということなのだ(長治の設定は逆だった)。
キャラクターの基礎部分の認識が違えば、同じ過程をたどるシナリオでも描写が細かく変わってくる。ゆえにめずらしく、長治は苦難の執筆となったのだった。
否定されていないというのは、時に大きな誤解を産むと言うことであろう。
●第4犠牲者:1stAD:カリン・マーブル(fa2266)
カリンの芸能裏方業も、だいぶ様になってきた。もはやアシスタントとしては、かなりの経験値を積んでると言って良い。
が。
非常に簡単な罠に今回彼女は陥った。空母でのロケに対して、認識が甘かったのである。
空母に乗り込んでの撮影――つまりは軍事艦艇に乗り込んでの撮影は、ワード監督の経験でも初めてである。故に知らないのも当たり前なのだが、部外者が軍事艦艇に検疫の必要なものを持ち込むことは、厳しく制限されている。具体的には、彼女の得意とするケータリング用品――すなわち食料品の持ち込みが出来ないのだ。
理由は簡単である。なんらかのウイルスが付着していたりして変な疫病が艦内に流行でもしたら、軍事行動に支障が出るからである。忘れてはならないのは、空母の上は公海上の『海外』であるということだ。税関が無いだけで、国際空港と同じ検疫体制が取られているのである。
ADとしての仕事はともかく、他の業務について二進も三進もいかなかった彼女は、「もー、空母での撮影なんか二度とゴメンだわ」と、不満を漏らしたという。
まあ、空母を使うのは今回限りだから、その心配は無いと思われるが。
●第5犠牲者:BGM:スモーキー巻(fa3211)
今回のサウンドトラック担当は、スモーキー巻である。彼は本作に合わせて、『US 7th Fleet』『Mighty Wings』『Emergency』『Bad Day』の4曲を提供した。
出来はまあ、無難かつ充分というところ。使用には問題なく耐えるだろう。
が、『US 7th Fleet』は今回お蔵入りになった。空母の軍楽隊が『星条旗よ永遠なれ』を演奏してくれたので、それをそのまま監督が使用したのである。
これは別に、巻の責任ではない。暗黙の了解のようなものだが、軍事物映画ではしばしば、そのシャシンそのものが軍の宣伝材料に使われることがある。監督にとっては、空母での撮影許可を取ることが重要なのであって、軍部から出される多少の交換条件は、ほぼ無条件で飲まざるを得ない。それが軍楽隊の演奏の御披露目、ということなのだ。
余談だが、『国旗掲揚』『軍楽隊の演奏』『軍楽の挿入』は、どの軍隊物映画でもどこかに一つは見られるシーンである。これは別に、軍隊物の記号として監督が使用しているわけではなく、スポンサーの次に偉いセットの持ち主(つまり軍事施設・艦艇類の所有者)のご意向なのだ。
大人の事情は、時に残酷である。ビッグになればそういうのと決別できないこともないが、それまでは辛抱しなければなるまい。
●第6犠牲者:音響:西野原琥珀(fa4033)
さて、今回一番報われなかった犠牲者は、音響担当の西野原琥珀であろう。彼は監督やそのほかに充分な事前準備と調査と根回しを行い、音響素材の調達に余念が無かった。
先にも書いたが、軍事機密は音響にもかかる。ゆえに生音源の収録は許可が下りなかったため、(一応織り込み済みだったのでそんなに落胆しなかったが)素直に音響素材を『制作』した。もちろん監督からは獣化の指示が出ていた。が、これが彼に不幸を呼んだ。
獣化は、能力もセンスも抜群にのばしてくれる。持てる実力を、充分以上に底上げしてくれるのだ。それは体力面に限らず精神面もそうで、作業に対して充分以上の余力を残して音響作業は完了した。
そして試写会を行ったあと、監督が申し訳なさそうに音響の作り直しを指示したのである。
「なんでですか?」
と首を傾げたくなるほど良い出来だったはずなのだが、監督が理由を説明してくれた。
つまり、出来が良すぎたのである。
試写会には軍部の担当者もやってくる。その担当者が「軍事機密に抵触するので修正してほしい」と言ってきたのである。
例えば銃器の音一つ取っても、映画では本物とはまったくかけ離れた音を使っている。それは映像映えという理由もあるが、こと国内の軍事装備の音源に関しては『なるべく嘘の音を使用してくれ』ということになっているのだ。
何故かというと(信じられない話しだが)ジェット機のエンジン音を聞いただけで、エンジンの構造や推力、場合によっては吸気ブレードの枚数まで判別する達人(?)が居るらしいのである。獣化ですでに波長の域までチューンされた音源は、人間の担当者には本物にしか聞こえなくて、「問題有り」と判断されたのだ。
琥珀が泣きながら徹夜したのは、言うまでもない。
●放映
ともあれ、放映には無事間にあった。出来はともかく手間は予定以上であったが、今回の様々な経験は後の活動の肥やしになるだろう――といいなあ。
【おわり】