深夜俗悪映画の世界#4南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
4万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
08/31〜09/06
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●本文
●深夜三流俗悪映画の世界
『深夜三流俗悪映画』というカテゴリがある。どーにもこーにもならないような下らない内容の映像を流す、ある意味深夜番組の定番である。
が、こういうのは玉石混合で、たまにすごいのが混じっていることがある。そういう所から新人を発掘する意図もあり、低予算で視聴率度外視の枠が作られ続けているのが現状だ。
決まった監督が居ないので、プロデューサーとスポンサー以外はまったく未定という状況から始まる。つまり監督も役者もスタッフも、手弁当で低予算映画を作るのがこの番組枠の『目的』なのだ。手段はこの場合関係ない。
番組製作の制限は、予算と時間と放送コードのみ。多少公序良俗に反しても、放送可能ならOKだ。ある意味コンペみたいなものと考えていいだろう。
簡潔に条件をまとめると、次の通りである。
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●条件
【予算】
日本円で300万円
【製作日数】
1週間
【放送枠】
25分
【募集】
監督(これがいないと始まらない)
役者
スタッフ
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要は「予算と枠をやるから、自由に作れ」というのである。この業界でのしあがるなら、応募しない手は無い。
ちなみに特別監修として、B級映像のスペシャリスト、J・B・カーペンタリア監督が一枚噛んでくれる。この手のコンペの出身者なので、気軽に相談してみるといいだろう。
では、皆の奮起に期待する。
●リプレイ本文
深夜俗悪映画の世界#4
タイトル『ミッドナイト・ホスピタル・プロジェクト』
●キャッチコピー
『廃墟の病院に肝試しに行った若者達を、真の恐怖が待ち受ける‥‥! 深夜俗悪映画の世界Vol.4『ミッドナイト・ホスピタル・プロジェクト』!!』
●深夜の病院に潜む影
最初は、どうでもいいような与太話がきっかけだった。
『町外れの廃墟の病院に、何か出るらしい』
若者達は自宅のパーティーの席で、そんな噂を口にしただけだ。
だが会話は盛り上がり、話しに尾ひれ背びれがついて、あとは勢いだけで若者達は行動した。
廃病院に行って、幽霊を見てやろうというのである。
パーティーだから撮影機材などはそろっていた。ハンディビデオカメラ数台にデジタルカメラ。光量を気にしなければ携帯電話にだってカメラはある。
浮かれた気分のまま、若者達はその病院へ向かっていった。
何があるのかも知らずに‥‥。
●廃病院の威容――玄関
夜を圧する存在感を持って、『それ』はあった。
紛う事なき廃墟。無念の死を遂げた人々の怨嗟の声を、そのまま塗り固めたような闇が、『そこ』に横たわっている。
電気は、来ている気配が無い。周囲の街灯すら点いていなかった。
「なんか‥‥すごいね」
ミキが言った。
「入り口は‥‥このドア壊れているな」
アキラが、懐中電灯でドアのある部分を照らす。強化ガラスのはまっていたと思われるドアは、ぽっかりと口を開けている。
「入ってみようよ」
恐いもの知らずのサツキが、カメラを構えながら言った。セイジはさすがに不安そうで、周囲に目をせわしなく向けている。
4人は、足下の悪い通路を、わずかな明かりを頼りに分け入っていった。
●無音の闇――通路
パキ‥‥パキ‥‥。
がれきらしいものを踏む足音だけが、妙に響く。
4人は、無人の病院の通路を歩いていた。
「なんてことないじゃん」
ミキが、懐中電灯で周囲を照らしながら言う。しかし声に、多少の緊張は隠せない。
何せ、病院の通路というのはできるだけ真っ直ぐになるように作られている。傷病人を載せたストレッチャーを、急いでいるからと言ってドリフトターンさせて運ぶわけにはいかないからだ。スラロームなどもってのほか、クランクだって怪しいものである。
ゆえに。
「通路の奥は真っ暗だ‥‥」
アキラが言った。懐中電灯でも照らし切れないほど、通路は真っ直ぐ奥まで続いている。いまにも『ひひひひひひひ‥‥』とか聞こえてきそうである。
ふっ。
「あれ?」
サツキが声を上げた。彼女が持っているハンディカメラの照明が、切れたのだ。
「あれ〜? バッテリーは充分なはずなんじゃが‥‥」
かちかちとスイッチをいじる。RECマークの赤い発光ダイオードは点灯しているが、ライトだけがつかない。
「ライト、切れたんじゃないの?」
セイジが言った。
「えー、これ買ったばっかじゃよ〜?」
不満そうにサツキが言った。
「まあ、懐中電灯はあるんだし」
アキラが、先を促す。
納得ゆかないサツキのぼやきだけが、通路にこだまする。
●判定の間――診察室
診察室は、間仕切りの細かい部屋だった。通路があって前室があり、カーテンの向こうが診察室になっている。大病院でもこの基本構造は変わらない。
「おじゃましまーす」
アキラが懐中電灯を持って診察室に入る。
ぬっ。
「うわ!!」
アキラが声をあげた。そこに人が居た――ではなく、胃潰瘍の様子を表示した人体のポスターだった。
「驚いたー」
心臓をバクバク言わながら、アキラが言う。
「ここには何も無い。いこう」
その場をごまかすように、アキラが部屋を出て行く。
●苦病の寝屋――入院病棟
「さすがに雰囲気がでているのじゃ」
破れたカーテンが、風にゆるゆるとはためいている。
規則正しく並んだ病室。病院の臭いは未だに消えることなく、廃墟の中に充満している。
――死の、臭い。
数多の患者が息を引き取った『そこ』は、生者が居なければまさに『死地』であった。
ひょおおおおおおおぉぉぉぉぅ――。
無気味な風が通り過ぎてゆく。
「さ、先へ進もうぞ」
サツキが、やや緊張した声で言った。
●生死の狭間――手術室
そこは、マジで恐かった。
機材が取り払われ、ただぽつんと設置されたままになっている手術台。
壁や床の染みは血のそれを連想させ、そこに密集した『何か』が、彼らの足を鈍らせる。
それを言葉で表現するなら、塗り固められたような『気配』であろう。墨汁のような闇の中に凝り固まった、何かの気配。
「やばいですよ、やばいですよここ」
セイジが、びびりまくって言う。
手術室は、他の場所とは一つも二つも違う。
『密室』。
紛う事なき密室なのだ。クリーンな状態を保つため、外気はエアコンを通してでしか入らないし、そして、物理的には扉と壁で密閉されるのだ。
――もし、扉が閉まったら。閉じこめられたら。
何もないはずなのに、そこに入るのがためらわれる。飲み込まれたら最後、そんな重さがあった。
意を決して入った一同だが、扉だけは決して閉めなかった。
●沈黙の間――霊安室
キリキリと胃が痛む感触があった。
サツキはすでに言葉も無い。
そこは、簡易寝台の並んだ部屋――霊安室である。
さすがに、誰も言葉が出ない。そろそろこの企画に無茶を感じていた。肝試しなんて生やさしい物ではない、禁忌に触れる何か。
がっしゃーん!!
「「「うあわあああっ!!!!」」」
突然響いた物音に、一同が悲鳴を上げる。ミキが何かの器物を袖に引っかけて、ぶっ倒してしまったのだ。
「あ゛〜〜〜〜〜〜〜〜ん!! がえ゛る゛〜〜〜〜〜〜!!!」
とうとう、サツキが泣き出してしまった。
一同は物音を立てないよう、しかし足早に、建物を去っていった。
二度とこんな馬鹿な真似はしないと誓って。
●スタッフロール
・美術
由比美紀(fa1771)
・脚本・撮影
巻長治(fa2021)
・撮影助手
伊藤舞(fa4454)
・音楽
各務皐月(fa3451)
・編集
北沢晶(fa0065)
・広報
夜野星冶(fa4455)
・エグゼクティブプロデューサー
J・B・カーペンタリア(NPC)
・監督
夜野星冶
伊藤舞
各務皐月
巻長治
由比美紀
北沢晶
・製作
『ミッドナイト・ホスピタル・プロジェクト』製作委員会
●後日談
舞:「そういやこのハンディカメラ、まわしっぱなしだったわね」
長治:「どれ、再生してみよう」
――ひえええええええええええ。
悲鳴が響いた。
【おわり】