聖遺物戦争 #1ヨーロッパ
種類 |
シリーズ
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
6Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
79.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
10/08〜10/14
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●本文
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【聖遺物】
遺骸や遺骨に対する崇拝は、さまざまな宗教においてみられる普遍的な現象である。例えば仏教において、釈迦の遺骨は仏舎利として崇拝の対象となり、仏舎利をおさめた塔、ストゥーパが各地に建てられた。モスクワの赤の広場にあるレーニン廟にはレーニンの遺骸が保存されているが、それは長く社会主義革命のシンボルとしての役割を果たしてきた。そこに、遺骸に対する崇拝の現代的な表れをみることもできる。
キリスト教では、崇拝の対象となる遺骸や遺骨、あるいは遺品は、とくに聖遺物とよばれる。聖遺物となるのは、おもに殉教した聖人の遺骸や遺骨だが、場合によっては聖人でない人間の遺骸や遺骨が崇拝の対象となることもある。昇天したイエス・キリストと聖母マリアの場合には、遺骸や遺骨は無いわけだが、キリストの割礼した際の残片やマリアの乳などが、聖遺物として崇拝の対象となってきた。キリストの顔がうかびあがったとされるトリノの聖骸布も、聖遺物の一種である。
【聖釘】
聖釘は聖遺物の一つで、イエス・キリストが磔にされた際に、手足に打ちつけられた釘であるとされるものである。
伝えられるところによれば西暦328年ごろ、コンスタンティヌス1世の母親ヘレナがゴルゴダの丘の跡地、現在の聖墳墓教会付近で聖十字架とともに発見したとされる。
ただし『カトリック百科事典』によれば、世界中で奉られている聖釘は30本を下らないだろうと言われている。
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WEAからもたらされた報告が突然なら、行動も突然だった。
WEAでは様々なオーパーツを集めている。それは獣人が獣人たりえる手がかりであり、あるいはナイトウォーカーやその他様々なものに対抗するための、重要な『手段』であるからだ。
ゆえに、強力なオーパーツをWEAでは管理監督し、または捜索し確保している。それは別に、不思議なことではない。強力な兵器と一緒で、オーパーツが間違って使用された場合のリスクを考えれば、当然の処置だ。
だから今回の事件は、ある意味意表を突かれた形になる。オーパーツ捜索に携わった獣人グループが、行方不明になったのだ。
1週間後、彼らは無惨な死体で発見された。
死因は、失血死と思われる。遺体の損壊が酷いのでそもそも獣人であることすら確認不可能に近いのだが、想像できるのは、多数のナイトウォーカーに一斉に、かつ組織的に襲われたということだ。そうでもなければ、獣化した獣人の集団が、なすすべ無く全滅することなどあり得ない。
探索していたのは、『聖釘』である。それもかなりの確率で『本物』と思われるものだ。
出発点はバチカンからになる。その禁書庫で発見された訳文に聖釘に関する記述があったらしい。
らしい、というのは、バチカンがWEAに対してあまり協力的ではないからだ。詳細は不明、そこから探索を開始しなければならない。
そしてもう一つ、注意しなければならないことがある。
獣人を襲ったナイトウォーカーの背後に、何者かが存在するということだ。ナイトウォーカーが組織的に獣人狩りをすることは考えにくい。ならば、それを使役している者が居るということであろう。
つまり、『ダークサイド』である。
彼らの存在だけで、生存率は桁が一つ下がると考えていい。この依頼を受けるも受けないも自由だが、受けるのなら覚悟し、準備を万全にしておくべきであろう。
●リプレイ本文
聖遺物戦争 #1
●ダークサイド
獣人の禁忌に『ダークサイド』というのがある。
実は、獣人ならほとんど誰でもこの単語を知っている。しかしあえて触れない。それは邪神の名を言えばうっかり呼んでしまいかねないというような、迷信にも似た『恐怖の対象』だからだ。
『彼ら』は、一般の獣人が知ることの無い『禁断の力』を手に入れていると言われている。『彼ら』は自らの目的や欲望を満たすために強大な力を欲し、その結果『闇に堕ちた』存在だと言われている。
そしてその精神は壊れており、通常の倫理や常軌の世界とは別の位置に在ると言われている。
獣人でありながら、獣人とは相容れない存在。それが『闇に堕ちし者(ダークサイド)』。
そしてその正体は、やはり紛う事なき『獣人』なのだ――。
●聖なる都(みやこ)
ヴァチカン――。
イタリアの首都ローマ『市内』にあり、カトリック教会の長である教皇を元首とする、世界最小の国家である。正式国名は『ヴァチカン市国』。国連での名称は『聖座(The Holy See)』。
1929年2月、イタリア政府との『ラテラノ協定』によって成立した国で、主要言語はイタリア語。ただし教皇庁の公用語はラテン語である。
ちなみに面積は0.44平方キロメートル。住民のほとんどが聖職者で、人口は1000人ほどしかいない。
ヴァチカンはローマ市内の北西部、テベレ川右岸の丘の上にある。南東のサン・ピエトロ広場に面した部分を除き、国境は6つの門のある中世〜ルネサンス時代の市壁に囲まれている。
建造物のうちで最も重要なものは、全世界のカトリック信仰の中心であるサン・ピエトロ大聖堂である。4世紀、コンスタンティヌス1世が聖ペトロの墓の上に建てたバシリカ式教会堂を16〜17世紀に建て直したもので、ブラマンテ、ミケランジェロ、ベルニーニなどの時代を代表する芸術家が設計・建築を手がけた。大聖堂の前には楕円形のサン・ピエトロ広場が広がる。
「そノ、問題の『禁書庫』ってドこにあるノ?」
ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)が、観光用のガイドブックを見ながら言った。市国は非常に清浄で、静謐を重んじる聖職者の国らしい雰囲気を持っている。
「『案内人』が来ることになっているんだけど‥‥」
ザジ・ザ・レティクル(fa2429)が言った。実は烏丸りん(fa0829)がWEAを通じて話しを通し、事情に通じている者の同伴を要請したのだ。
ま、この場合相手(教会)からすれば、『監視役』を付けるのは当然であろう。話しは意外なほどすんなり通り、一人迎えが来ることになっていた。
ちなみにここには他に、アクション俳優の九条運(fa0378)、アーティストの陸琢磨(fa0760)、カメラマンのシャノー・アヴェリン(fa1412)、歌手の椚住要(fa1634)、タレントの七枷伏姫(fa2830)、俳優のモヒカン(fa2944)、バイオリニストの各務神無(fa3392)の姿もある。正確には今回の『敵』を警戒して、文字通り一丸となって行動しているのだ。
理由は簡単だ。相手は獣人の一団を完全に殺害・殲滅してのけたからである。個別行動は相手に隙を与えるだけと誰もが判断し、少しでも生存率の高いシフトを敷いただけの話しだ。
チキンと言うなかれ。死んでは何もならないのである。
余談だがザジと伏姫の調査によって、先任者はロンドンで死んだ事が確認されている。正確には『ロンドン経由でどこかへ行く途中』で死んだのだ。その『どこか』までは分からないが。
検死結果の調達はりんが担当した。もっとも、それほど苦労して調べることにはならなかった。ロンドンではすでに、『ジャンク殺人事件』として大々的に報道されていたからだ。
りんはWEAにちょっと検索してもらうだけで検死カルテの入手に成功し、検死官の腕も良かったのでかなり具体的な情報が得られたのである。
が、それは『相手』の怖さを再確認することになった。細胞診断にまで至った検死結果は、彼らが『生きたまま少しずつ喰い殺された』ことを示していた。検死官の『感想(コメント)』には、「信じられない残虐性」と書かれていた。
「‥‥誰か来るわ‥‥」
シャノーが言う。一同が一斉にそちらを向く。
誰か冷静な者が居れば、「おいおい(汗)」とぼやいていたかもしれない。が、誰もツッコめなかった。
「あの‥‥」
か細い、小鳥のような声がした。
そこには、僧衣の少女が居た。1万光年譲ったとしても、万引き一つ出来そうに無い。というより、もしかしたらトイレにすら行かないのではないかという、黒人の美少女だ。
ヴァチカンは白人の国だが、僧籍に黒人が居ない訳ではない。珍しいが、アリであろう。
「『ヴァンデミエール通信社』の方ですか?」
シスターが、符丁を言った。
「「「え――っ!?」」」
一部の女性陣から、意外の声が上がる。
事と次第を考えれば、もしかしたら存在するかもしれない『イ○カリオテ13課のアン○ルセン神父』みたいな人とか(←悪い漫画の読み過ぎ)、次回のアメリカ大統領選挙に立候補するらしい地上最強のカリフォルニア州知事みたいな人とか(←悪い映画の見過ぎ)、ウエスタンラリアットで人間を一回転させてダウンを取るバッ○ァローマンのような腕を持っているくせに引退後の人生は中学校の地理の先生という「俺の『腕に!』飛び込んで来い!」みたいな地上最強の地理教師みたいな人とか(←お前何を見ている)。
つまり『それっぽくない』のである。彼女は。とことん。
「‥‥シスター・マリア・クラレンスです」
シスターが言う。
いや、現実は認めよう。どうやら彼女が、今回の件についての、ヴァチカンの『担当者』らしい。
●禁書庫
そこはまさに、『地下迷宮』であった。
別に迷路というわけではないが、確かに『迷宮』だ。一度呑み込めば吐き出すことのない、食虫植物の室のような場所。シスター・マリア・クラレンスは危なげなく歩いているが、なんというか、彼女の行く道以外には『何か』の気配がある。『危険の香り』とでも表現すればいいのか、ともあれあまり近づきたくない気配だ。
「ここです」
鉄たががはめられた、獣人でも破壊できるかどうかという門扉の前で、シスターは止まった。角灯(ランタン)を持って、中に入る。
「うぉ‥‥」
誰かが声を上げた。
本、本、本。
畳のように巨大な物や、伸ばしたアコーディオンに分厚いもの。まったく規格の無い雑多な本らしきものが大量に積み上がっている。
「これはホネだな」
要が、嘆息をついた。
「そうでもないのである」
モヒカンが言う。
「シスター。ここの『管理人』は誰であるか?」
「わしじゃ」
「「うわっ!」」
何か変なところから、背の曲がったおじさんが出てきた。あまりにいきなりすぎて、ザジなどは銃を抜いている。
「コの書庫の閲覧許可をイタだきましタ」
ミカエラが言う。
「ふん、勝手に見るがエエ」
「コンスティヌタス1世の資料はあるであるか?」
モヒカンが訊いた。
それから、一同は十数時間本と格闘することになる。主に捜索したのは、ホコリの積もっていない本。つまり、最近閲覧された本だ。モヒカンは《幸運付与》のタレントを使用したがったが、さすがに『神の家』で獣化するのははばかられる。
「これじゃないかしら」
神無が言った。
それは十字軍の記録らしかった。十字軍には闇の歴史が多く、こういう禁書庫に入っているものも結構多い。
文字を読むのは難解である。しかし、この本には現代の便せんらしい『しおり』がついていたのだ。それも新しい。
「どれどれ」
管理人が、顔を入れる。
「12世紀の遠征の記録じゃな。このころ十字軍は聖地イェルサレムに到達し、様々な聖遺物を獲得したとある」
一同が、顔を見合わせる。
あまりに符丁が合いすぎる。聖地に聖釘。あり得ない話しではないが、話しが美味すぎるのも否めない。
「ふむ‥‥」
管理人はまだ何か読んでいる。
「『触れ得ざる奇跡』? なんの符丁じゃろうか‥‥この記録によると、何かの『手がかり』がイェルサレムにあるらしい」
「きゃあああああああああっ!!」
その時、シスターの悲鳴が響いた。シスターが肩を押さえて、膝をついている。
――シャアアアアアッ!!
その周囲には、やたら細くて扁平な、甲殻生物が居た。数は6――いや、7匹。
――ナイトウォーカー!!
「運!」
「応よ!!」
運と琢磨が動いた。
書庫はたちまち、戦場になった。
●聖地へ――
ナイトウォーカーは倒された。
怪我人は多少。しかし驚愕すべきは、この禁書庫に7匹ものナイトウォーカーを送り込んだ『敵』の力量だ。7匹という数は、ダークサイドが使役するナイトウォーカーの数では、決して少ない数ではない。それに、食散された仲間たちの話しとも付合する。
――つまり、それだけの相手ということか。
一同は、相手の力を思って暗澹たる気分になった。勝利にも、意気が上がらない。
「ご武運をお祈りします」
シスターが、一同に向かって十字を切る。片腕は怪我をしたため、白布で吊っていた。
すぐに分かったことだが、エルサレムのあるイスラエルは現在戦争状態にあるため、その入国はロンドンあたりから――しかも非合法手段でないと不可能に近い。ゆえに、先達の痕跡を追うのが大変だったのである。
舞台は、中東・イスラエルへ――。
【つづく】