聖遺物戦争 #2中東・アフリカ

種類 ショート
担当 三ノ字俊介
芸能 1Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 難しい
報酬 79.7万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 11/08〜11/14

●本文

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【イスラエル】
 ユーラシア大陸南西部、地中海東岸にある共和国。正式国名はイスラエル国。領土の最南端は、紅海につづく細長いアカバ湾に面している。
 1948年に建国され、67年の『六日戦争』と呼ばれる第三次中東戦争で新しく占領した地域の中で、一方的に併合した東エルサレムと、シリア南西部のゴラン高原をふくむ。その面積は2万1946平方キロメートル。しかし、多くの国はこれをみとめていない。
 人口は635万2千人あまり。イスラエルはエルサレムを首都としているが、国際的には承認されていない。
 聖書の時代には『乳と蜜の国』と言われたイスラエルも、現在では荒れた不毛の地域が多い。しかし地中海沿岸部や内陸の谷は土壌が豊かで、イスラエル全土の約20パーセントで穀物や果樹が栽培されている。鉱物資源は豊富で、死海では岩塩、マグネシウム、臭素などが採れ、ネゲブ砂漠では銅、リン鉱石、臭素、マグネシウム、カオリンなどが採れる。水資源は少ないが、ティベリアス湖が飲料水の半分を供給し、ヨルダン川はヨルダンとイスラエルの灌漑用水に使われている。

【エルサレム】
 イスラエルの中央部に位置する古都で、地中海と死海の間、テルアビブヤフォの南東約90キロメートルにある。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地として知られ、ヘブライ語で『イェルシャライム』、アラビア語では『クドス』と呼ばれる。第一次中東戦争(1948〜49)以後イスラエルとヨルダンが分割統治し、西エルサレムをイスラエルが、旧市街をふくむ東エルサレムをヨルダンがそれぞれ支配下においた。67年の第三次中東戦争で、イスラエルが東エルサレムとヨルダン川西岸地区の一部を西エルサレムと統合、以後、エルサレムはイスラエルの統治下にある。イスラエルは50年以来、エルサレムを『首都』と定めているが、国際的には承認されていない。

 エルサレムは、イエス・キリストが受難し、復活した土地として、キリスト教徒の聖地となっている。同じように、ユダヤ人にはダビデによってイスラエル王国の首都とされた地であり、またユダヤ人の約束の地の象徴である。イスラム教徒にとっても、最初のキブラ(礼拝の際にむく方向)に定められた地であり、預言者ムハンマドが夜の旅に出た地として聖地となっている。

【イスラエルの要所】
 旧市街にある有名な建造物としては、以下ようなものがある。
・聖墳墓教会
 キリストが十字架にかけられ、墓もあるといわれる地にたてられた教会。4世紀にコンスタンティヌス1世とその母ヘレナの発願で建てられた聖堂を改修したもの。
・嘆きの壁
 ユダヤの王ヘロデによってたてられた巨大な神殿の遺跡。ユダヤ教徒にとっての聖地。
・岩のドーム
 ムハンマドが夜の旅に出発したといわれる地にたてられたイスラム教の聖地。7世紀にさかのぼる初期イスラム建築の貴重な例。
・アクサ・モスク
 イスラム教のもっとも聖なる寺院のひとつ。

【新市街の名所】
・イスラエル博物館
・聖書館(『死海写本』が収められている)
・ヤド・ウァシェム・ホロコースト博物館
・ヘルツル山の国営墓地
・ユダヤ国立図書館
・ヘブライ大学
・新市庁舎
・イスラエルクネセット(国会)
 など

【エルサレムと十字軍】
 1071年に街を征服したセルジューク朝は、キリスト教徒を迫害し、聖墳墓教会を破壊した。これが、十字軍が組織されるきっかけとなった。99年に、十字軍はエルサレムを手にいれると、多くの住民を殺害し、あるいは街から追放した。エルサレムはふたたびキリスト教徒一色の街になり、十字軍によって建設されたエルサレム王国の首都となった。しかし、1187年にイスラム教徒の指導者サラーフ・アッディーンが街を占領し、キリスト教支配の時代はおわる。
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 聖釘(せいてい)探索は、早々に危険な領域に入った。
 WEAの手配で今だきな臭い(というより継戦中に限りなく近い)イスラエルへの入国には成功したが、ここはユダヤ教の地であり、文字通り『宗教に命を賭けている人々』の国である。飛び交うのは言論ではなく銃弾だ。
 加えて、『敵』は多数のナイトウォーカーを操る『ダークサイド』。『天の時』も『地の利』も相手が選べ、こちらは『人の和』しか対抗手段が無いという状況である。
 ヴァチカンで得られた事前情報については、『暦』だ。エルサレムのどこか、決まった時間に、『悪魔』が出現するという。時刻は月と関係しているらしい。

『悪魔の目が高く輝くとき、『触れ得ざる奇跡』は現れる』

 現代語に訳すれば、そう言うニュアンスだ。
 これを手がかりに、我々は聖釘探索と続けなければならない。

●今回の参加者

 fa0203 ミカエラ・バラン・瀬田(35歳・♀・蝙蝠)
 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0780 敷島オルトロス(37歳・♂・獅子)
 fa1050 シャルト・フォルネウス(17歳・♂・蝙蝠)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1634 椚住要(25歳・♂・鴉)
 fa2429 ザジ・ザ・レティクル(13歳・♀・鴉)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

聖遺物戦争 #2

●ふれ得ざる奇跡
 イスラエル情勢は、現在きわめて危険な状態にある。
 イスラエルのレバノン侵攻や対抗組織の反撃などで状況は非常にきな臭く、報道関係者でも入国は至難という状況だ。そもそも首都のエルサレムの件を始め国際的に認定を受けていない部分が多く、国としては実に不安定な状況にある。英米の支援を受けてアラブに作られた親西側世界の拠点ではあるが、最近は暴走気味でいつ核弾頭が投下されても正直おかしくない。それが成されないのは、まさに『聖地エルサレム』が存在するからだ。筆者などは『宗教は害悪』などと思うタチなので、いっそのこと誰か核攻撃してエルサレムを消滅させてくれないかなどと思うこともあるが、世界の70パーセントに達する宗教人口を敵に回す度胸のある人物など、存在しないだろう。なぜなら、絶対に『正義の戦い』とは認めてもらえないからだ。
 聖地論争はさておき、今回の事件である。
 WEAのコネを駆使してイスラエルに入国し聖釘を探しに来た獣人達は、高白百合(fa2431)の手配した現地獣人(イスラム教徒)の協力を得てエルサレム各地を探訪することになった。現状では観光客など皆無に等しいので外国人の集団は目立つが、分散してダークサイドに各個撃破される愚を犯すほど彼らは不用意でも無かった。『ゴルゴタの丘』『魂の井戸』『聖墳墓教会』『嘆きの壁』といった重要地を十分な検分を加えて調査する。『ふれ得ざる奇跡』といった単語や『悪魔の目』という言葉についても調べ上げた。
「『悪魔の目』ハ、どうヤら『アルゴル』で間違いナいようですネ」
 ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)が、地元のノートパソコンでインターネットに接続し、NASAの天文データベースを参照しながら言う。ちなみにホテルを指定してこれらの装備を入手し手配したのは、ザジ・ザ・レティクル(fa2429)だ。「謎解きはわっかんないから、あとはお願い!」ということらしい。
 『アルゴル』は2日と20時間59分ごとに周期的な明滅を繰り返す変光星で、アラビア語で『悪魔』の意である。『悪魔の目』とも言われるのは、ギリシャ神話が由来らしい。
「だがおかしい。『ふれ得ざる奇跡』だかなんだか知らないが、情報が引っかからなさすぎる。『何も見つからなさすぎる』のはどういうことだ?」
 椚住要(fa1634)が、率直な疑問を口にした。ヴァチカンの禁書庫の情報は12世紀のもの。それから800年以上経つが、その間『ふれ得ざる奇跡』というものが顕現する機会が無かったはずはない。時系列を追えば、条件が揃う機会がいつかどこかであったはずなのだ。
「俺が調べただけでも、この800年以上の間に2000回以上『それっぽい』時刻がある。確かに妙だ」
 犬神一子(fa4044)が調べたところ、アルゴルの明滅その南中、あるいは月の南中が符合する時期は結構ある。参考にならないぐらいの回数だ。
「認識が甘いのかもな」
 敷島オルトロス(fa0780)が言う。今回の渡航でかなりの尽力を見せた人物である。
「十字軍遠征自体は『人間の歴史』だ。記録の賞味期限は、書いた人間の生きていた期間に限られる。つまり『それ』が発生したのはその人物の生きていた期間か、あるいは『何か』が足りないのかもしれねぇ」
 日本から持ってきたカレーを食いながら、敷島は言った。
「やっぱり予想が間違っていたのでござろうか‥‥」
 七枷伏姫(fa2830)が、微妙な表情で言った。ネタを拾ってきたとは言え、確信あってのことではない。彼女は仲間と共にヤッフォという場所のアンドロメダゆかりの岩というものを見に行ったが、そこは海の上で近づくのも危険だった。
「大外れというわけでは無いと思います」
 百合が言う。
「手がかりをつかんで死んだ人がいる。すくなくともイスラエルに『何か』がある。これだけは堅いでしょう」
 ――コンコン。
 そこに、ノックの音がした。
 天音(fa0204)と緑川安則(fa1206)、シャルト・フォルネウス(fa1050)が得物を手に身構える。
「ザジ、銃はシまってオキなさい」
 ミカエラが戸口に立った。ザジが素直に銃をおろす。ミカエラはホテルの職員から一通の書簡を受け取った。電報だった。
「ヴァチカンから――シスター・マリア・クラレンスからヨ」
「何が書いてある?」
 安則が言う。
「『○月×日深夜、『悪魔の目』観測予定。参考にされたし』」

●悪魔の目
 それは、確かに『悪魔の目』だった。
「彗星か‥‥?」
 アルゴルのちょっと上に、糸を引く彗星のようなものが観測できる。アルゴルを瞳とするなら、彗星は眉毛だ。
「なるほど、『悪魔の目』か」
 安則が言った。確かに、そうも見える。
「アルゴルが中天にかかるのにあと20分。月は、観測データだと10時22分32秒の位置になる」
 敷島が言う。問題は、どこへ行くかだ。
「『嘆きの壁』から当たろう」
 要が言った。
「歴史の古い順だ。博物館や聖書館で調べたが、聖釘が出来て以降の物件に何かある可能性は薄いと思うんだ。探すなら古い順だろう」
 他に根拠も無かったので、一同は夜間に嘆きの壁へと向かった。車は現地協力者の手配を受けてである。ただし女性は中東の風習にならい、皮膚の出ない格好でだ。そもそも、夜中に出歩くのがヤバいのであるが。
 夜の『嘆きの壁』は、ほとんど無人である。現在は戒厳令にかなり近い状態で、ガイドも安全を保証できないと言っていた。

 だが、そこに人が居た。

 小柄な、推定女性。アラブ特有の肌の見えない服を着て、壁の前に立っていた。服の色は黒だ。
 一同は警戒をしつつ、車を降りた。ガイドがアラビア語で何かを言いながら、その人影に向かってゆく。
 人影の手が動いた。
 どしゅっ!
 ――――っ!!
 ガイドの背中まで突き抜けた『何か』。間合いは5メートル以上あったはずである。素早すぎて、何が起こったか分からない。結果だけを表示すれば、つまりガイドは――死んだ。
「「「ダークサイド!!」」」
「えらい遅かったなぁー、来ないかと思うたで?」
 日本語の、それも関西なまりの声が響いた。
「貴様、日本人か?」
 安則が銃を構えながら言う。
「秘密や秘密☆ 言うたら面白く無いやろ?」
 緊張感の欠片もなく、相手が言う。声の感じは若く、性別が女性ならまだ10代前半の子供っぽかった。
「ここにはな、面白いモノが眠ってるんや。今日はそれにごっつう都合のエエ日でな。ただ一つだけ、条件が欠けてるねん。つまり――」
 ぱん、と、少女が嘆きの壁に平手を付けた。そこから幾何学模様のような『何か』が走り、物理的な形態へと変貌してゆく。
「――ウチらみたいなンが、後押しせなならんねん。月の影とか光の具合とか、そういうのがうまく組み合わさって、情報が完成するんや」
 ずるり、とその文様から出てきたのは、蜘蛛のよう形の生物であった。ただし、サイズは車ほどもある。『それ』はガイドの死体を見つけると、むさぼり食い始めた。
「あー、あったあった」
 その少女は、探索者である彼ら獣人達を無視して、そのナイトウォーカーの有った位置を調べ始めた。
「なるほどぉ〜、オモロイな。ここに『聖剣デュランダル』の在処が書かれているで。場所はアラブや。どっかのモスクの地下に保管されているようやな」
「――なぜ、教える」
 シャルトが言う。確かに、ダークサイドがそんなことを言うのはおかしい。
「え? そりゃおもろいからに決まっとるからやないか」
 それにあっけらかんと、少女は答えた。
「ゲームは、相手がおらんとおもんないんやで? なら、相手になってくれるようにし向けんとならんやろ? 聖釘に聖剣デュランダル。まさに豪華賞品ってワケ――」
 ガン!!
 安則が、つきあってられんとばかりに銃弾を放った。しかしその銃弾は、何か鋭利な物が彼女の服からかご状に突き出てきて遮った。
「兄ちゃん気ぃ短いなぁ〜、そんなんじゃ女にモテへんで? ほら、『そいつ』も食事が終わったようやし、このネタが見たければ、そいつを倒してからにせぇや。ほなな〜」
 ふっ。
 少女の姿が消えた。獣人のタレントを使用したと思われた。
 GAAAAAA!!
 ナイトウォーカーが、吼えた。

●中東深部へ
 ナイトウォーカーは、なんとか負傷らしい負傷をせずに倒すことが出来た。ずうたいばかりのでくの坊といった方が、むしろ正解であろう。情報密度がそれほどでもなかったのか、年月で摩滅したのかは分からないが、耐久力だけでかなりのうすのろだったからだ。
 獣人たちの攻撃は面白いように当たり、結果的に楽な戦いで済んだ。むしろ死体の始末と銃声を聞きつけて駆けつけたイスラエル軍警察のほうが問題になった。彼らは銃口の群れに取り囲まれ、武器をいったん取り上げられ24時間ばかり拘束された。
 嘆きの壁については、WEAのほうで『始末』した。情報の痕跡は抹消され写真のみの情報が残るのみとなった。むしろその『後始末』が先で、獣人たちの拘束が解けたのが遅れたと思われた。
 件のモスクについては、現在調査中である。

【つづく】