Guerrilla St.St.06Bアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 三ノ字俊介
芸能 4Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 20.7万円
参加人数 6人
サポート 0人
期間 12/03〜12/07

●本文

 ショーレスリング番組『Guerrilla Stunt Studio(ゲリラ・スタント・スタジオ)』は、好調を維持していた。
 この興業は『ショーレスリング』である。ガチンコでやり合うのではない。『魅せる試合』を行うのだ。殺人技や流血は厳禁。セメントマッチ(真剣勝負)はありだが、あくまでショーであることを忘れてはいけない。
 重要なのは演技とか演出とかである。

「我らがG.S.S.はかなりの好調を維持し、現在視聴率でも充分な成果を挙げています」
 高田馬場修平番組Pが、企画会議で演説を打っている。経験を積みそれなりに貫禄もついて、もはや新人Pとは言えないだろう。給料も権限も増し、体重もちょっとついたようだ。
「しかし、この番組の敵は視聴率ではありません。『マンネリ』です。ドラマ、いざこざ、怨恨、様々な要因が折り重なり、一つの物語を作ってゆく。しかし『マンネリ』になってはいけません。初めて見る人が楽しめ、そして人づてに楽しさが伝わり口コミで広がってゆく。将来ゴールデンに進出するならば、格闘技としての完成度よりも『番組としての完成度』が要求されるのは否めません。つまり、『面白い番組』を作る。それが前提条件であり、そして最終目標です」
 高田馬場Pが言う。そこで、副Pに付けられた男が企画書をつまんで口上を垂れた。
「『DPW』の登場によって、番組は転機を迎えました。ベビーフェイスの『GSS』軍とヒールの『DPW』の抗争。しかしこれもマンネリ化が進んでいます。今回はそれに番組サイドから多少手を入れます」
 ――おっと?
 放任主義の高田馬場Pにしては、珍しいてこ入れだ。
「今回の主題は、『悪の分裂』です」
 2ndPが言った。
「GSS軍に敗退し、DPWにもほころびができてきた‥‥DPWはバルダー派と反バルダー派(仮)に分かれて内部抗争を行うというものです。今回GSS軍はメインではありません。ヒールであるDPWがメインです」
 なかなか大胆な路線変更である。いったんGSS軍を脇に置こうというのだ。
 基本路線とブック(脚本)の清書はこちらで行います。しかしいつもの通り基本展開は皆さんにお任せします」
 2ndPが言った。

    *

 本募集は『格闘家』の募集である。戦闘能力よりも演技力を重視している。むしろそっちが本分と言って良い。
 やる気のある者の参加を待っている。

●今回の参加者

 fa0696 ボルティオ・コブラ(28歳・♂・蛇)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa4328 ヘルタイガー・シン(25歳・♂・虎)
 fa4652 クリスティ(23歳・♀・豹)
 fa5054 伏竜(25歳・♂・竜)
 fa5055 鳳雛(19歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

Guerrilla St.St.06B

●プロレス業界は踊る
 『ショーレスリング』を売りにしているプロレス団体は、実は少ない。
 それは日本人の特性みたいなものに起因するもので、実のところ日本人は『ヤラセ』と呼ばれる行為が嫌いなのだ。ニュース報道やお茶の間番組、感動系の番組とかで『暴露ネタ』が出ると、その番組は閉鎖に追いやられることがある。そうでなくとも、放送局が非難を受けるのは必定。これでは割に合わない。
 例えば2004年に爆発的視聴率を記録した、修羅場系恋愛相談番組『愛する二人、別れる二人』。司会、のも・みんた。レギュラーのコメンテイターにディーヴ夫人や真川憲一といった、ある意味すごく豪華な番組が、最高視聴率64%ほどをマークした頃、それがヤラセと発覚しゴールデンから消えた。すでに収録が2本終了していたにもかかわらず、である。
 出演者のギャラだけでン千万という金が飛び、また慰謝料や様々な『火消し代』にン億という金が飛んだという話だ。ネットで検索すればもっと面白い数字が出てくるのだが、ここでは伏せておく。
 だから『Guerrilla Stunt Studio』という番組は、実は大変リスキーである。お気楽極楽で作れる番組では、実は無い。高田馬場Pがこの番組を担当できたのは、高田馬場Pが当時『新人P』でトカゲの尻尾切りが可能だったからである。つまりクレームが来て問題になれば、責任者を切って口をぬぐうという会社上層部の『意志』だ。
 が、暗い話に転がるわけではない。GSSはうまいこと運営されているし、視聴者も満足している。何より『夢の多い番組』としてのポジションを築き始めていた。前半戦のしっちゃかめっちゃかな展開から後半のシリアスな展開に、客は『楽しんだ』のである。
 つまり――懐古的表現で申し訳ないが、力道山の時代を懐かしむような、ある意味『夢のある』番組になってきているのだ。正義の日本人が力と体格で勝る欧米人を叩き伏せる爽快感、つまりそういう、『日本人原理的』な番組が同居しているのが、今のGSSである。
 別にキャットファイトや血みどろのガチ系を否定しているわけではない。見せたいものが違うというだけの話だ。

●Guerrilla Stunt Studio #07 後半戦
 さて、後半戦についてだが今回はたっぷり試合を見せることになった。なぜなら今回は、2試合しかオーダーが無いからである。

・第1試合(シングルマッチ)
 シューティング・リリィ(高白百合(fa2431))
 vs
 クリスティ(fa4652)

・第2試合(タッグマッチ)
 ボルティオ・コブラ(fa0696)&伏竜(fa5054)
 vs
 ヘルタイガー・シン(fa4328)&鳳雛(fa5055)

 という構成だ。実にシンプルである。

 物語はマイクパフォーマンスから始まる。
「我が親愛なるプロレスファンの諸君! お初にお目にかかる。私はボルティオ・コブラ。今回よりGSS軍団の一翼を担わせていただくことになった!」
 ウォオオオオオオ!!
 会場が沸く。
「しかるに! 今、日本のプロレスが危機に瀕していると聞く! 私が敬愛してやまないプロレスを愚弄する者――それがDPWと呼ばれる暗黒団体であることは、海外にまで知れ渡っている! これは由々しき事態だ! だが私が来たからには、そのような無体は許さぬ! 今日! この場で! 完全決着をつけたいと私は考える!! どうか皆さんにも賛同――」
 ぐわっしゃーん!!
 会場に破砕音と悲鳴が響く。
「おらおらおら、どきやがれ!」
 シン、鳳雛、クリスティが乱入してきたのだ。赤いジャンパーのスタッフが押しとどめようとするがそれをことごとくはじき飛ばし、傍若無人の態でリングに上がった。コブラを守るように、GSS軍の伏竜とリリィもリングに上がる。
 リングに上がると、シンはマイクを要求した。
「けっ! なんでぇこのヘビ野郎! 好き放題言いやがって! いいか、この世は悪の世界だ! 正義面してご高説垂れてんじゃねーよ! 反則のしたことのねぇレスラーなんかいねぇ! 正義の味方なんざ、今時はやらねぇんだよ! みんな血が見たくてうずうずしてるんだ! そうだろみんな!」
 シンが会場に水を向けると、ブーイングと歓声が両方起こった。GSS軍団は、歓声があったことに驚いたようだ。
「はっ! 見たかヘビ野郎! 世の中には『悪の秩序』ってもんがあるんだ! バルダーがなんでぇ! 戦っている俺を見ろ!」
 総統バルダーをこき下ろすような発言が出て、鳳雛がさすがに止めに入った。マイク外で「それは言い過ぎだ!」とか「うるせぇ! 俺の言うことに口を出すんじゃねぇ! お前はサポートをしっかりやりゃあいいんだ!」とか、不協和音が聞こえてくる。
「リングを出ろ! 試合開始だ!」
 レフェリーが、混乱し始めたリング上に入った。双方言い足りないまま、試合は始まろうとしていた。

●第1試合 シューティング・リリィvsクリスティ
「うふっ、貴女を倒せば旦那様からゴホウビがもらえるけど、負けるとオシオキされちゃうの。だから大人しく負けて頂戴?」
「ふざけたこと言わないで、オ・バ・サ・ン?」
 リリィとクリスティの戦いは、女らしいキレキレの舌戦から始まった。かなーり険悪な雰囲気である。
 元より女性というのは、同性にに対して容赦が無いと言われる。本気でやると放送できなくなるが、それでも放送できるギリギリの険悪さが画面からにじみ出ていた。
 カーン!
 ゴングと同時に、リリィが駆ける。『撃墜(シューティング』の名に恥じない、速攻だ。
「はっ!」
 バシっと、痛そうな音が響いた。リリィのソバットが、クリスティの身体を捉えたのだ。クリスティは受けているが、威力は伺える。
 バシっ! バシっ! と、リリィのソバットが決まる。直撃こそしていないが、有り余る若さを叩きつけるような攻撃にクリスティは防戦にまわっていた。
 が、攻防は一瞬で逆転した。カウンターで仕掛けたクリスティのハイキックが、交錯した瞬間リリィをなぎ倒していたのだ。リリィが驚いたように身を返す。
「もう終わり? じゃあ、オバサンからいくわよ『お嬢ちゃん』?」
 今度はクリスティが、立て続けにハイキックを見舞う。右に左に揺さぶられ、リリィはピンボールの玉のようにはじき飛ばされた。
 決め技は、ロープに振ってのレッグラリアート。文字通り、リリィの身体がクリスティの足を軸に一回転した。そこをクリスティがフォール! しかしカウント2.5で返される。
 ところでプロレスの醍醐味を、読者諸賢は知っているだろうか? それはずばり『逆転』である。
 クリスティのラッシュが続く中、『好機』をリリィは待っていた。そして再び大技である大車輪蹴りをクリスティが見舞おうとした瞬間、リリィはそれを受け止めパワーボムに返したのだ。
「1、2、3!」
 カウントが入った。会場が見事な逆転劇にに沸く。

「いいブックになってましたね」
 スタッフ席で、サブPが高田馬場Pに言った。
「これがうまくいかないと、お客さん離れちゃうからね」
 高田馬場Pの顔色は、緊張に引き締まっている。
 これからが本番なのだ。

●第2試合 ボルティオ・コブラ&伏竜vsヘルタイガー・シン&鳳雛
 VTRは中盤から始まる。
 試合は、実はDPW陣営――つまりシンと鳳雛が見事な連携で、ペースをがっちり握っていた。
 前にも書いたが、シンは実に優秀なレスラーである。格闘家としては一流の評判を与えても良い。つまるところ、きちんと試合が出来るレスラーなのだ。
 コブラが苦戦しているのは、オーソドックススタイルのシンとのかみ合わせが悪いことと、申し訳ないがシンのレベルに、コブラがあわせられるほどの技量を持ち合わせていないからである。メキシカンルチャを主武器にしているコブラにとって投げ技・関節技は決め技であり、跳び技で見せてフィニッシュに持って行くまでの過程がうまく構築できていないのだ。
 まあ簡単に言うと、狙いが甘いのである。
 しかし、試合にはきっちりなっている。リハーサルで互いの技量を確かめ、上手い具合に状況を作ったのだ。単品では平板な試合になりがちな伏竜と鳳雛も、この試合では光っていた。それはブックであらかじめ、キャラクターを決めていたからだ。
 伏竜はシンと最悪のコンビ結成となり、不満たらたら。そして憤懣やるかたなしという方向性。鳳雛は息の合ったパートナーを得て、まさに水を得た魚。
 中盤までのDPW陣営活躍も、演出である。悪の優勢がパートナーシップの崩壊で崩れて行くドラマ。そこに高田馬場Pが注力したのは言うまでもない。
 試合後半になって、ついにその時が来た。コブラのコブラツイストで攻められたシンの救援に駆け込んだ鳳雛が放ったキックが、あろうことかシンを直撃したのである。
「てめぇ、なにしやがる!」
「うるせえ! よけられないほうが悪いだろうが!」
 リング上で悶着を始めた二人に、コブラと伏竜がダブルドロップキックを決めた。場外に飛ばされたシンが、そこでキレた。
「くっそぉ! なめやがって!」
 イスを蹴倒し、凶器攻撃のためにリングに入る。レフェリーをなぎ倒し(ちなみにレフェリーは場外に落下して気絶した(お約束))、イスを持って殴りかかろう――として鳳雛に止められた。
「やめろおい! やめろっつってんだよ! それで勝った試しねーじゃねえかよ!」
「うるせえ! てめえは俺の言うことだけ聞いてりゃいいんだ! 口出しするんじゃねぇ!」
「こぉんの馬鹿たれ!」
 鳳雛もそこでキレた。シンに対してドロップキックを放つ。不意打ちに、シンは激高した。DPWチームはこの時点で崩壊していた。
 GSSがこの瞬間を逃すはずがない。コブラと伏竜は二人に対しダブルクロスチョップを決めて、さらにダブルのジャーマンスープレックス。そして交錯する綺麗な放物線を描いたDDTを決めてフォールに入った。
「1、2、3!」
 カンカンカンカン!!
 ダブルフォール! 試合はこの時点で決まった。

●分裂劇
鳳雛:「アンタが真面目にやんねーからまた負けたじゃねえか! 今回のことはバルダー様にも報告させてもらうからな! そうなりゃアンタなんてDPWから追放だ、追放!」
シン:「俺は暴れられればいいんだよ‥‥DPWみたいな骨なしヒールなんぞ、こっちから願い下げだ。追放をバルダーにお願い? ということは、手前も今から俺の敵ってことだな!」
 シンは鳳雛に飛びかかった。その後捨て台詞を吐き捨て、DPW陣営は退場した。

「俺達GSSはこれからもプロレスというエンターテイメントを悪の手から守るために闘い続けます。応援よろしくお願いします!」
 コブラが締める。が、客の興味は分裂劇に向いている。
「よし、うまくいった」
 高田馬場Pが、緊張を解いた。
「分裂劇や因縁ものは受けるから、今後の展開に幅が出来る。善vs悪と悪vs悪。上手く転がせば、面白い展開になるぞ!」
 ほっと一息つき、高田馬場Pは椅子に腰を落とした。
 これから、まだまだドラマは続く。

【おわり】