秋葉原テクノハザードアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
三ノ字俊介
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
6Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
61.3万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
11/30〜12/04
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●本文
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【秋葉原】
東京都台東区南部の地区名、および千代田区北東部のJR秋葉原駅周辺の商業地区の通称。秋葉原駅北側に台東区秋葉原があるが、普通は同駅西口、南口周辺の電気店街を秋葉原とよぶことが多く、一般に『アキバ』ともいわれる。
1869年(明治2)の大火の後、この地に火除地が設けられた。翌年には火防神である秋葉神社を奉り、火除地は『秋葉の原』『秋葉が原』などと呼ばれるようになった。
秋葉神社はその後、台東区松ヶ谷に移転し現存している。90年には秋葉原貨物駅が開業、このときから『あきはばら』の呼び方が使われはじめる。1925年(大正14)同駅は旅客をとりあつかうようになり、28年(昭和3)に同駅の北西に隣接して中央卸売市場神田分場(神田青果市場)が置かれた。
第2次世界大戦後、神田地区の闇市などに点在していた家電関係の小店舗が、1951年に鉄道ガード下に集められたのをきっかけに、安売りで知られる電気店街に発展。世界一の電気店街となり、外国人客も訪れるようになったが、80年代以降は家電製品に加えてコンピューター関係の店舗も増えた。また近年はゲームソフトをあつかう店舗のほか、同人誌ショップやアニメグッズショップなど、いわゆるオタク系ショップも増えている。
2005年(平成17)8月にはつくばエクスプレス(略称、TX)の秋葉原駅が開業した。なお、青果市場は1989年に大田市場(東京都大田区東海)へ移転している。
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秋葉原電気街の喧噪は、それはもうすさまじいモノがある。
ご当地の人には当たり前の光景のようだが、駅前ではコスプレした女性が歌い踊り、それを見物する人垣が列を成し、1立方メートルに3人ぐらい人が詰まっているのではないかという混雑だ。すでに『立錐の余地もない』というレベルではない。
情報集積地であり情報発信地でもあるこの場所は『オタクの聖地』でもあるが、近年急激に『発達しすぎた』ため、他に類を見ない『情報災害都市』でもあるのだ。つまり『テクノハザード』である。
あまり聞き慣れない言葉だが、つまりはナイトウォーカー事件もこれに含まれるということだ。
情報漏出事故というものは、ある程度避けられない運命を持っている。今回は違法電波が秋葉原一帯に放射され、それが『何か』を介して人間に感染したらしい。コンピューターウィルスで似たような事件があるが、それと同類の事件と見て良いだろう。問題は、発覚したのがその電波が放射された後ということだ。何かが原因でナイトウォーカーが衛生電波に乗り、それを介して秋葉原に降り立った。それが分かったのは、CETの局員が1名死亡していたからである。
日本には合計7機の通信衛星がある。そのうちの1機『BSAT−1a/1b』という、現在テスト稼働中の衛星電波を介して、その情報が流されたログが残っていたのだ。試験放送用に撮った映像に偶然ナイトウォーカーが紛れていて、それのテスト放送のため再生したことで感染し、その衛生技術者の作業中を襲撃。そして再感染して衛生へ――という流れらしい。
CETでは2体の死体が出て、大騒ぎになりかけた。
ともあれ『事故』ではあるが、残務処理はしなければならない。獣人が殺害されていることと、ログに残った情報密度からしてかなりの手合いである。
最初の感染者は人間の女性。その行動パターンを追うと、食事の好みは『女性』らしい。また人目に触れずに行動していたことから、それなりに知恵の回る手合いと思われる。
依頼は、このナイトウォーカーの殲滅。人目の確実にある場所なので、いろいろと前準備が必要であろう。
●リプレイ本文
秋葉原テクノハザード
●放送禁止
「まったく不満なのである!」
「そうだそうだ! 男女同権! 性差別は十七条憲法でも禁止されて居るんだぞ!! 家長横暴! 乾坤一擲! 挽肉定食! チャーハン定食メン大で!!」
うるさい、だまれ。
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
モヒカン(fa2944)と常盤躑躅(fa2529)の抗議を、事件記録担当は有無を言わさず却下した。それというのも、彼等がメイド服を着て、秋葉原で異常な活動しようとしたからである。
片や身長196センチメートルの37歳多分独身。もう一方は身長200センチメートル55歳のハゲマッチョ。
そんなのがメイド服を着て秋葉原に出現したら、緑の救急車と機動隊が隊伍を組んでやってくること間違いなしである。もしかしたら『巨大生物災害(いわゆる怪獣)』認定されて、日本一の精鋭が揃うという習志野空挺団が全部隊やってくるかもしれない。この狭い秋葉原に!!
というか、秋葉原にだって最低限の常識はあるのだ。路上パフォーマンスとて許可制であり、きちんとシマ(縄張り)もある。商業目的での不正規活動がある程度認められているとはいえ、モラルハザードをやっては秋葉原の存亡に関わる。
というわけで、彼等二人の参画によって路上パフォーマンス計画は頓挫しかけたため、渉外担当のグリモア(fa4713)は参画者合議の上で、彼等の意向を却下するに至った。
――まあ、常識的に考えればそうだよな‥‥。
グリモアが思う。
思えば、秋葉原電気街、最大の危機であった。
●メイド(デカ)レンジャー出動!!
今回の計画は、囮作戦である。緑川メグミ(fa1718)の持ち込んだ同人ゲームソフト『スーパーメイド大戦』(ジャンル不明。萌えゲーと思われる)のプロモーションということで、登場人物のメイド服を着た女の子が路上パフォーマンスを行い、注目を集めてナイトウォーカーを釣ろうというのだ。
目標の嗜好は女性と分かっている。ならば近くに獣人の女性が居れば、食いつかないはずがない、という読みだ。基本的に正解だろう。
幸い夏姫・シュトラウス(fa0761)とベス(fa0877)、那由他(fa4832)の調査によって、ナイトウォーカーの攻撃手段はだいたい分かっている。強酸の放射と牙、そしてもしかしたら爪。
ナイトウォーカーの死体には人間型生物にはあり得ない、擬肢らしきものの痕跡もあった。そのため、多腕による攻撃回数の多さも想像できる。単純だが、ゆえに確実で速効性が高い。
また殺害されたCETの職員は、機械の操作室で死んでいたことから、おそらくマトモに獣化する間も無くほぼ一瞬で殴殺されたと思われる。どれぐらいの『即死』だったかは細胞診にかけなければ分からないが、つまり今回の囮作戦は、一瞬でも気を緩めるとやばいハイリスク・ハイリターンな作戦ということだ。
「わたしの《青毒黒爪》、効くかな〜?」
ダイナマイト・アスカ(fa0383)が、情報を聞いて心配そうな気配を見せた。効くかどうか以前に、接近戦では非常に分が悪そうである。衛星技術者の作業中を襲撃したこと、そして殺害の目撃者が居ないことから、半ないし準密室殺人であることは分かっていたのだ。相手の接近戦殺傷力は推して知るべし、いや、『知るべき』であった。
「頭も良いはずね」
神保原和輝(fa3843)が、断ずる。獣人が一人の瞬間を狙ったことから、それなりに狡猾であることも予想される。
「予定通り‥‥やりますか?」
紗原馨(fa3652)が、控えめに言った。ナイトウォーカー戦では新参なので、今は一歩引いている。
「判断に迷うけど、やるしか無いわよ」
那由他が、ラッピングした日本刀を持ちながら言った。
「叩けるときに叩かないとナイトウォーカーは移動しちゃうから、選択肢なんか無いわ」
「もっともな話なのである」
復活したモヒカンが言った。結局普通の格好をしている。躑躅もきっちり服を着て、こればかりは外せないとパンダの仮面を被っていた。
「決行しましょ? 結局倒すしか無いんだから」
メグミが言って、作戦決行が決まった。
●夜の秋葉原
昼間の喧噪が、嘘のように静まりかえる。
秋葉原の夜は、暗くて静かだ。昼間がやたらきらびやかだっただけに、その落差には愕然とするものがある。日中は異常とも言える生気を孕んだ情報都市が、夜はコンクリートで出来た卒塔婆の森のようになるのだ。
比喩抜きで、墓場と同じ空気が漂っている。それは電気街に残った、人々の精気の残滓なのかもしれない。並大抵の幽霊が十把一絡げに出来るぐらいの生命エネルギーの残り香が、夜の冷えた空気に漂っているのだ。
ライブスタッフ一同は、囮役と護衛役に別れて秋葉原に散った。トランシーバーで連絡を取り合いながら、状況の推移を見守る。
囮役はアスカ、夏姫、ベス、メグミ、馨の5名。護衛役は躑躅、モヒカン、和輝、グリモア、那由他の5名。ちょうど半分に分かれた形だ。
「昼間は盛況だったね〜」
アスカがお気楽に言うが、夏姫はこうもじもじして返答もままならない。極度の上がり症なのである。
昼間のライブは、実に大成功であった。文字通り100点満点ものである。まあオタク向けにオタクネタで勝負したのだ。当たらないはずがない。写真もばしばし撮られサインを求められ、にわかアイドル(いや、ほとんどの女性が本物のアイドルだが)が不意に脚光を浴びたような、奇妙な盛り上がりを見せていた。ライブの選曲がアニソンだったのも良かったのだろう。有名な曲は大合唱になったりもした。
『ぴよ? 変な人がついてくるよ〜?』
無線機からベスの報告が入る。ベスは鷹の獣人で、空を飛べるのだ。ちょうど夏姫とアスカの監視網を担当していた。
「ぴゃ!!」
頓狂な声を上げているが、彼女はマジである。彼女が注目していた『推定女性』が、アスカたちに近づいていったのだ。夜の秋葉原を女性が一人歩き。それだけでも怪しいのに、その行動は決定的と言えた。ベスが急降下してインターセプトに入ろうとする。
――バキバキバキ!!
もはや隠しようのない異音が響き、その人物の衣服が裂けて『何か』が現れた。
『ぴぇ〜!! ナイトウォーカー発見! 東口『ヨドザクラAkiba』前!』
◆◆◆
他の者が駆けつけた時には、戦闘は膠着状態にあった。上空を警戒するベスはすでに、《飛羽針撃》も《破雷光撃》も使い切っている。アスカの《青毒黒爪》は相手の甲殻を貫くことが出来ず、効果を現さなかった。逆に反撃を受け、一瞬にして重傷を負った。
一同の中で『効果的がある可能性』を持つ獣人能力を所持しているのは《崩振粉砕》を持つ夏姫だが、完全獣化させてくれるほど相手は甘くない。
結果、夏姫たちはじり貧の戦いを強いられていた。
「《空圧風弾》!!」
メグミが、有無を言わさず最大出力の気弾を放った。ガツンという衝撃音がしてナイトウォーカー――クワガタ型、とでもしておこう――が吹っ飛ばされるが、クワガタはヨドザクラの壁に亀裂を入れてめり込み――そしてすぐにそこから這い出してきた。
「なっ、なんて装甲バカなの!?」
さすがにメグミも驚く。
「ならぶん殴るまで!」
完全獣化していた躑躅が、《金剛力増》で強化した蹴りを入れる。しかしガツンという感触がして、足の方がしびれた。モヒカンが同じく《金剛力増》で強化した上に《爪》のタレントを発動させて攻撃する。これはさすがに、相手に痛打を与えたようだ。
が。
「長くなるぞぉ、これはぁ!!」
爪の連撃と相手の多肢攻撃を交わしながら、モヒカンが言った。痛打と言っても、相手は人間が頬を張られた程度の痛痒しか感じていないようだった。ビンタで相手を瞬殺のは千手観音ぐらいである。観音様は殺生などしないが。
――コアが見えない!!
和輝が戦場を観察しながら思う。ナイトウォーカーの最大の弱点であるコアが、見あたらないのである。そんな話は、今まで聞いたことが無い。
――おかしい。
グリモアも異常な様子に気づいていた。このような堅牢な防御力を持つナイトウォーカーは前例が無いわけではないが、コアが無いのは本当に前例が無い。
「早くコアを叩いちゃってよ!」
ピンクのメイド服姿の馨が、さすがにメゲ始めた。メイド服もずたずたで、ちょっと趣味のよろしくないオタさんならハァハァしそうな風体である。《俊敏脚足》を回避に応用しているが、それも限界がある。
すっ!
そこへ、突然那由他が『出現』した。《瞬速縮地》だ。そしておもむろに、手にした日本刀を地面に突き立てた。
バキィイイイイイイイイイイイン‥‥‥‥。
「「「え!?」」」
コア特有の破壊音が響き、クワガタが活動を停止した。
那由他の剣は、クワガタの足の甲を貫いていた。
「『足の裏』でしたわ」
好々婆の余裕を見せて、那由他が言う。一同はあっけにとられていた。
つまり、このクワガタ型ナイトウォーカーのコアは、どうやら足の裏にあって見えなかったらしい。
「なによ――――――――っ! ずっる――――――いっ!!」
メグミが叫んだ。他の者も、同じ気持ちだった。
●後始末
現場の『掃除』をWEAに任せて、一同は解散した。アスカあたりはちょっと深刻なケガを負っていたが、治療を受けて現在は復帰している。
ともあれ『ヨドザクラ』がちょっと――いやかなり――壊れたぐらいで、事件は『なんとか』なった。
その後『スーパーメイド大戦』は頒布されたらしいが、その売り上げがどうだったかは記録が無い。持ち込んだメグミのお財布に、聞いてみるのもいいだろう。
とりあえず、世の中はまだ回っている。
【おわり】