テクノハザードVer.2アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 三ノ字俊介
芸能 1Lv以上
獣人 10Lv以上
難度 難しい
報酬 219.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/23〜01/27

●本文

 情報災害(テクノハザード)というのは、年々増えている。
 例えば、某有名人気アニメを見ていた子供たちが、画面の明滅で引きつけを起こした件などまだ記憶に新しい。ゴシップ紙ながら新聞の一面をでかでかと飾った黄色い電気ネズミを見た瞬間、筆者も我が目を疑ったものである。
 ましてやここまで情報化が進むと、いつ何時ナイトウォーカーに感染し発症するか分からない。情報というのは、マクロなものはナスカの地上絵からミクロなものは人間の遺伝子配列まで、実に様々なところに潜んでいるからである。
 一ヶ月ほど前、秋葉原で情報漏出事故があったのはまだ記憶に新しい。強力な装甲を持つナイトウォーカーで、並み居る獣人たちが倒しあぐねた相手だ。
 そして今回、それに匹敵するかそれ以上に危険なナイトウォーカーの漏出が確認された。
 情報源は、航空写真である。航空撮影を行っていた飛行機が墜落した事故があったのだが、そのスタッフの死体が一つ行方不明になっていたのだ。
 常識的には途中で落下したかバラバラになったか――まあ、『行方不明』で解決される事件である。しかし写真の撮影されたデジタルメディアに残っていたデータに奇妙な欠如が発見され、それがWEAの知るところになりそれが『ナイトウォーカー事件』に認定されたのだ。
 データのサイズは、ほんの1メガ程度である。パソコンの1画面の絵と同じサイズの情報量だ。
 が、出力されたデータはその2000万倍を越えていると推定された。
 場所は関東。多数の古墳などがあり、実は結構ナイトウォーカー事件の激震地の一つである。
 目標――コードネームを『デルタ47』とする――は、現在群馬の武尊山近辺に居ると思われる。事故から情報の確保まですでに48時間が経過しており、他の情報メディアに感染していてもおかしくない状況だ。現在はナイトウォーカーの本性を現したまま、情報伝達手段を探していると思われる。
 今回の任務は、このナイトウォーカーの殲滅である。他の情報媒体にに感染するまえに、抹消してもらいたい。
 なお本任務に際して、コモディンSSXスレッジハンマー20mm4挺と20mm実弾20発が支給される。これは消費してかまわないが、使用後は返却する必要がある。
 健闘を祈る。

【作戦領域】
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※飛行機墜落地点(ここより約10マスが捜索区域)

●今回の参加者

 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0847 富士川・千春(18歳・♀・蝙蝠)
 fa1180 鬼頭虎次郎(54歳・♂・虎)
 fa1206 緑川安則(25歳・♂・竜)
 fa1412 シャノー・アヴェリン(26歳・♀・鷹)
 fa2614 鶸・檜皮(36歳・♂・鷹)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3678 片倉 神無(37歳・♂・鷹)
 fa3800 パトリシア(14歳・♀・狼)
 fa5271 磐津 秋流(40歳・♂・鷹)

●リプレイ本文

テクノハザードVer.2

●群馬県水上市
 武尊山(ほたかやま)は、日本武尊(ヤマトタケルノミコト)が死した地と言われる場所である。ただこれには諸説あり、必ず『ここ!』という確証は無い。
 ただ古くから豪族が多数居たらしく、群馬県には実に多くの古墳が存在する。中には古墳を公園化して遊興の場にしているような場所もあり、群馬を含む北関東一帯は、実はナイトウォーカー事件の激震地だ。
 件の航空撮影は、セスナ機で行われたものである。『TU206G』という型のセスナで、全長8.61メートル、全幅10.97メートル、全高2.93メートルとかなりの大型だ。水平対向6気筒エンジンを装備し、最大出力310馬力、最大離陸重量1,636キログラムで、最大搭乗者数はパイロット+5人。通常巡航速度時速220キロメートルで、航続時間は約5時間もある。
 ――相手の能力が未知数っていうのが、やりにくいよね。
 スレッジハンマーを構えた富士川千春(fa0847)は、内心の不安を隠せずに居た。
 ちなみに彼女は現在、完全獣化している。コモディンSSXスレッジハンマー20mmは、ほとんどの獣人が完全獣化しなければ撃てないような代物なのだ。そもそも、主力戦闘機の機銃の口径が20mmである。3メートルもある銃身で制御してやっと当たるような代物を、無理矢理ハンドガンに押し込んだのがスレッジハンマー20mmだ。常識的な人間から見たら、『お前バカか?』のそしりを受けてもおかしくない銃である。
 ただ、このような銃器でも用いないと『相手に出来ない場合がある』のが、ナイトウォーカー事件である。過去にも、ビルの壁をぶち抜いて無傷だったナイトウォーカーだって居るのだ。油断など、1ピコ秒だって出来ない。
「なかなか出ないな‥‥こっち側には来ていないのか?」
 同じくスレッジハンマー20mmを構えた、緑川安則(fa1206)がつぶやいた。彼はWEAに交渉して、依頼完了の際はこの銃を譲り受ける約束を取り付けていた。おべんちゃらをかまし銃にほおずりまでした安則に、WEAの担当者が同情してくれたのかもしれない。
「天音(fa0204)の合図がありませんから、近場に異常は無いようですけど‥‥」
 イルゼ・クヴァンツ(fa2910)が、油断無く周囲を見渡しながら言う。『敵の能力は、頑丈であること以外未知数』という状況を、正しく認識した行動だ。自分たちが出来ることは、敵も出来ると考えたほうがいい。場合によっては(まだその能力を発揮したナイトウォーカーというのは未確認だが)《光学迷彩》ぐらい使いかねない。
 その天音は、現在完全獣化して上空から彼らαチームの周囲を索敵している。数日前までは取材ヘリなどが飛んでいたので上空からの獣化飛行はリスクが高かったのだが、状況が落ち着いた今ならなんとかこなせる。
 αチームの最後尾は、磐津秋流(fa5271)である。『ARASHI』という20ミリ狙撃銃を帯同しての行軍だが、重さを感じさせないのは獣化しているからだろう。彼は初弾に《ギャンブルブリッド》を装填し、一発勝負に出ていた。《ギャンブルブリッド》は、半々の確率で回復させるか大打撃を与えるかというオーパーツである。初弾ならば、回復のリスクは無い。

 一方βチームである。こちらはパトリシア(fa3800)に率いられる形で合計5人の獣人が行軍中だった。パトリシアが引っ張っているのは、《鋭敏嗅覚》を持っているからである。
 航空燃料などは、その漏出に備えて臭いがつけられている。都市ガスに混入されている、タマネギの臭いと同じだ。それが不揮発発火してセスナを焼いたのなら、それに搭乗していたナイトウォーカーはかなりの悪臭を放っているはずである。
「どうだ‥‥何か感じるか?」
 鬼頭虎次郎(fa1180)が、パトリシアに問う。
「雑多な臭いが混濁して、気分が悪くなりそうです」
 国道からは排気ガスの臭いが流れ、この辺にも飛散した航空機の破片やら航空燃料、オイルなどの放つ臭いが、多少なりとも残っている。かぎ分けられるものだが、逆に《鋭敏嗅覚》持ちには辛いものがある。
「嫌な感じがする」
 鶸檜皮(fa2614)が言った。
「何か見つけたのか?」
 片倉神無(fa3678)が、檜皮に向かって言った。
「『何も無さ過ぎる』。獣人が獣化して、よってたかって接近中なんだ。何も無いのがおかしい」
「待って下さい」
 パトリシアが声を上げた。
「シャノーさんから《知心会話》です。前方に不審火があるそうです」
 シャノー・アヴェリン(fa1412)は、獣化して上空から武尊山近辺を捜索している。武尊山はスキー場も多く、人目があるので不審火などがあると通報されかねない。

 いや、『それがナイトウォーカーの目的なのかもしれない』。

 そこまでナイトウォーカーの頭が回るかは分からないが、『状況を起こせば情報媒体が来る』のは、墜落事件でも経験済みだろう。ならば時満ちたナイトウォーカーが、あえて行動を起こしたとも考えられる。
 そして報道や人目は、獣人にとっては不利にしか働かない。『コスプレで〜す♪』で通用するような状況では無いのだ。
「襲撃は一気に、一瞬でカタをつけましょう」
 パトリシアが言った。

●デルタ47――その正体
 シャノーの通信で、獣人達は武尊山の国道から約3キロメートルの場所に集まっていた。
 パトリシアは、相手の位置をほぼ確定的なまでにつかんでいた。風向きさえ悪くなければ、想定位置の5メートル以内に居るはずである。
「視界が取れない‥‥」
 秋流が『ARASHI』を構えて言う。山の中、群馬の森は鬱蒼としていて生半可な密度ではない。
「接近する、援護を頼む」
 最小限の言葉だけを発して、秋流は匍匐前進した。本当ならギリースーツ(迷彩欺瞞装備)でも欲しいところだが、どのみちナイトウォーカーは獣人の接近を感知できるという話である。この場合必要なのは、誰が先制攻撃を加えるのか特定させずに、射界を取り一撃を与えることだ。
 また、秋流の攻撃の成果によっては、撤退も考えなければならない。ギャンブルブリッドがまともに機能してなお無傷な相手では、まずもって対処不能である。ギャンブルブリッドの破壊力は、30ミリ口径の機関砲弾に匹敵するからだ。ちなみにこのクラスの打撃力を持つ個人装備は、人間用では存在しない。自衛隊では、装甲車クラスの火器である。『タンク・キラー』の異名を馳せる航空機、フェアチャイルドA−10の30ミリ機関砲と同じ聞けば想像できるだろうか。上面装甲とは言え、素で戦車の装甲を貫通出来るのだ。それが効かないとなると、あとはM○TとかZ○Tとか化○特捜隊辺りに頼むしかない。

 化学臭が強くなってきた。嗅ぎ慣れない臭いなのは、航空燃料だからだろうか?
 パトリシアの《鋭敏嗅覚》が嗅ぎ分けているのは、確かに化学臭である。順当な理由を当てるなら、漏出した航空燃料や不燃素材の不完全燃焼などで付いた異臭のはずだ。
 が、何かが警鐘を鳴らしていた。『この臭いは違う』と。
「富士川さん」
 パトリシアが、スレッジハンマーを構える千春に話しかけた。
「いつでも動けるようにしてください。何かがおかしいです」
「――わかったわ」
 いつになく笑顔のない顔で、千春はうなずいた。

    ◆◆◆

 ――見つけた。
 秋流は、『敵』を発見した。全身から蒸気のようなものを吹いているのは、直立するヤマアラシのようなナイトウォーカーだった。全身にトゲのようなものをびっしりと備えていて、明らかに『触ると痛いです』みたいな外見である。
 接近戦を想定していた者は、ここで作戦の変更を余儀なくされた。明らかに、『触(さわ)れない』からだ。
 秋流はARASHIを構えると、撃鉄を引いて引き金に手をかけた。初弾が効くかどうかは五分五分。さらに相手の耐久力によっては状況を修正。
 分は、あまり良くない。
 この時のことを、報告に携わった秋流はこう語る。

「初弾を当ててそれからは臨機応変――そういう約束だった。が、想定外というのはよくあることだ」

 秋流が引き金を絞った後のことを、ここでは明確に記すべきであろう。
 秋流が炸裂音と共にはなった初弾は、ナイトウォーカーに命中し抜群の効果を挙げた。胴に20センチ近い穴を開け、かなりの打撃を与えたように見えた。
 が、快哉を挙げている間も他の者がその攻撃に続く一撃を加える間も無かった。ナイトウォーカーは『爆発』したのだ。
 獣人達は、何が起こったか把握できなかった。永遠のように長い数秒の後、ナイトウォーカーの周囲は銃弾の弾薬庫が爆発したような惨状になっていた。樹木は軒並み穴が穿たれ、周囲に展開していた獣人たちも軒並み打撃を受けている。
 ――ミサイルかよっ!
 この声は、おそらく安則だろう。焼夷弾頭らしいトゲの一発をもろに受け、ひどいやけどを負っていた。持っていたスレッジハンマー20mmもどこかに行っていた。所持していた弾丸も、10発単位でおシャカになっている。
 他の者も似たような状況だった。それは空を飛んでいたシャノーや檜皮も同様である。むしろ空から見ていた分、状況ははっきり見ることが出来た。
 爆発したのではなく、ナイトウォーカーは全身のトゲを次々と射出したのだ。その効果も多数で、樹木を貫通し、燃焼し着弾点によっては爆発もした。
 後にサンプルがいくつか回収されたが、どうやらこのトゲは、人体の構成物質をナイトウォーカーの持つ『情報の書き換えて』作り上げたもののようだった。炭素や燐などの発火成分にマグネシウムなどの酸化剤を添加し、カルシウムの弾芯を鉄分などでコーティングしたものらしい。炸裂したのは、高濃度ナトリウムのようだった。着弾点の水分と反応したのである。発射の仕組みもどうやら、ナトリウムを使用したものらしい。
 つまり今回のナイトウォーカーは、膨大な量の情報のほとんどを、身体組成の『書き換え』に使用するタイプのものだったようだ。重装甲はその副産物であり、獣人を待ち受け一気に殲滅する、『後の先』を取るタイプらしい。らしい、というのは、その攻撃手段から推定するしかないからだ。
「くそっ!!」
 神無が悪態をついた。
「警戒しろ! 奴が来るぞ!」
 相手を弱らせた肉食動物の行動パターンは決まっている。つまり神経中枢部の破壊による獲物の確保――殺 すのだ。
 水酸化ナトリウムの臭炎が周囲に満ちて視界が悪い。しかし。
「そこ!!」
 ガン!!
 ガツンという衝撃と共にスレッジハンマーを放ったのは千春だった。彼女はコウモリの獣人で《超音感視》があるのだ。着弾までは確認できないが、命中した時に噴出する『破片』が知覚出来る。防御力を誇るナイトウォーカーも、20ミリはさすがに、効くようだ。
「全員《翼》を展開して! 風を起こしてこの煙を払って!!」
 イルゼが指示を飛ばす。スレッジハンマーの装弾数は3発。千春一人だと、足止めは30秒も出来ない。その前に状況を作らなければまずい。
 落下したシャノーや檜皮、千春も翼を展開して風を起こした。人体を持ち上げられる揚力を風速に変換すれば、かなりのエネルギーになる。
 そして、敵の姿が現れた。
「コアは頭部上顎部!! 一斉攻撃!!」
 無事だった者が、スレッジハンマーや獣人能力で攻撃を加えた。装甲と肉体を完膚無きまで破壊し、むき出しになったコアめがけて《飛羽針撃》をたたき込む。
 人的にも物資的にも少なくない犠牲を払い、今回のナイトウォーカーは殲滅された。ただし現場はその後報道ヘリなどが飛来し、獣人達は傷ついた身体を引きずって身を隠さなければならなかった。

●後学に備え
 報告書の提出は、後日全員の怪我が癒されてから行われた。今回死者が出なかったのは、最初にARASHIの狙撃を行っていたからという結論に達した。
 つまり接近していたら、必殺の間合いで多数のトゲを食らい、一人二人は死んでいただろう。実際虎次郎や安則は、瀕死の重傷を負っていた。
 銃器については、今回は20ミリクラスでの効果が確かめられた。9ミリでは表面を削る程度の効果しかなかったが、これは今回のナイトウォーカーの防御力から想定できた状況である。銃器が効かないというわけではない。

 なお、安則は奮闘むなしく、スレッジハンマーを獲得出来なかったことだけ付け加えておこう。だって壊したんだもん。

【おわり】