聖遺物戦争 #4中東・アフリカ

種類 ショートEX
担当 三ノ字俊介
芸能 1Lv以上
獣人 6Lv以上
難度 難しい
報酬 61.3万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/23〜01/27

●本文

【イラン】
 アジア南西部、カスピ海の南、ペルシャ湾とオマーン湾の北にある共和国。正式国名はイラン・イスラム共和国。16世紀以来、シャー(国王)の統治する君主国で、1930年代まではペルシャの名で知られていたが、1979年にイスラム主義者によって共和国が樹立された。石油産出量で世界の五指に入る。総面積は164万8000平方キロメートル。人口は約6868万9000人。首都のテヘランは国内最大の都市。

【イスファハーン】
 イラン中部にある都市で、イラン高原のザーヤンデルード川の川岸にあるイランの大都市のひとつ。エスファハーンともいわれる。
 農業が盛んで、周辺地域では綿花・穀物・タバコが栽培されている。またイランの主要な紡績地域で、綿・絹・羊毛製品がつくられている。そのほかの産業として錦(にしき)・絨毯・金属細工などの伝統産業がある。首都テヘランは北方420キロメートルにあり、鉄道と高速道路で結ばれている。人口は約126万6000人。
 イスファハーンは、建造物の荘厳さや公共庭園の美しさによって古くから有名である。多くの庭園やモスクなどの建物は今では崩れ去っているが、代表的ないくつかのものは、保存や修復されている。中心部には、17世紀に建てられたシャー・モスクとして知られる王のモスクがある。色付きのタイルで装飾され、典型的なペルシャ様式の建物である。王のモスクは大きな長方形の庭園の中にあり、その周囲ではバーザール(市場)がひらかれている。
 イスファハーンが、アスパダナとよばれていたころは、メディア王国の一部だった。7世紀半ばに、街はアラブ人に侵略された。
 1051年にはセルジューク朝がイスファハーンを征服し、自らの王朝の首都にした。イランに侵攻したモンゴルの征服者ティムールが、1387年に街を征服し7万人の住人を虐殺したため衰退した。
 1598年、イランのシャーアッバース1世がイスファハーンを首都としたときから本格的な繁栄がはじまった。アッバース1世の庇護のもとに成長のピークをむかえ、商業と文化の中心地となり、すぐれた建造物を数多くのこした。そのころの人口は50万人と推定されている。1722年にアフガン人に侵略されたため、首都はシーラーズに移動した。
 1729年にアフガン人は追放されたが、街がその痛手から復興するには19世紀末までかかった。

【アッバース1世(1571〜1629)】
 イランのサファビー朝第5代の王。在位1588〜1629年。アッバース大帝と称される。治世の初めに王国崩壊の危機に直面したが、常備軍設置の時間をかせぐために領土をウズベスクのシャイバーニー朝とオスマン帝国に割譲した。しかし、1598年以降失地をすべてとりもどし、1623年までには領土をティグリス川からインダス川まで拡大した。
 優秀な政治家でもあり、商業や工業を奨励した。また贅沢な宮殿をつくり、芸術家を保護し、その治世はかつてないほどに隆盛をきわめた。建築にも情熱をそそぎ、イスファハーンの都を復興して首都とさだめ、壮麗な建築物を数多く再建した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 手がかりは今、獣人たちの元にある。
 アッバース朝が崩壊した後、アッバース1世の墓は破壊され現在その場所は分かっていない。しかしクーバモスクで発見された書簡には、その場所が記されていた。
 イスラムに『聖釘』があることに違和感が感じられるが、手がかりはそれしかない。そして今まで敵に先行されていた聖釘探索において、初めてWEA側がイニシアチブを取ったのである。
 ただ、問題点が無いわけではない。ダークサイドによる聖剣デュランダルの強奪に、バチカンのシスター・マリア・クラレンスの問題がある。バチカンのシスター=ダークサイドという構図は想像しにくく、彼女がネグロというダークサイドに、何らかの手段で操られている可能性も否定できない。
 いずれにせよWEAの方針は『一般人に極力被害を出さない』であり、シスターの件も含めて検討が必要である。

●今回の参加者

 fa0373 ボンバー雛ちゃん♪(25歳・♀・虎)
 fa0383 ダイナマイト・アスカ(16歳・♀・竜)
 fa1718 緑川メグミ(24歳・♀・小鳥)
 fa2386 御影 瞬華(18歳・♂・鴉)
 fa2431 高白百合(17歳・♀・鷹)
 fa2830 七枷・伏姫(18歳・♀・狼)
 fa3134 佐渡川ススム(26歳・♂・猿)
 fa3763 グリフォン・小鳥遊(24歳・♀・鷹)
 fa3843 神保原和輝(20歳・♀・鴉)
 fa4044 犬神 一子(39歳・♂・犬)

●リプレイ本文

聖遺物戦争 #4

●終局の地
 欧州から中東に至った、超弩級聖遺物『聖釘』をめぐる戦いも、これで終わる。
 イラン中部、中東文化雅(みやび)な都市イスファハーン。そこにあるはずのアッバース1世の墳墓に、聖釘は眠っているはずである。
 西側諸国からの入国が難しいイランでは、報道ビザ以外の入国はほぼ不可能に近い。世情が世情だし、極めて異例の『てこ入れ』がWEAを通じて外務省に行われ、そして実行された。WEAとしては『人間』に借りなど作りたくはないのだが、ダークサイドはある意味『身内の不始末』である。結局の所、無傷で事を終えるわけにはいかないのだ。
 そして同時に、犬神一子(fa4044)の捜査で、バチカンに居たシスター・マリア・クラレンスが、偽物であることが判明した。マリア・クラレンスというシスターは存在するが、その人物は黒人ではない。公然とは言われていないが、バチカンに黒人衆徒は存在しない。神住まう地にも、人種差別問題が、実は存在するのである。
「つまり‥‥手加減無しでいいということですか?」
 ハンドルを握りながら言ったのは、高白百合(fa2431)である。バチカンにシスターの処遇について了解を取ろうとし、意外な結果に終わったのだ。
「少なくとも、『偽物』は確定だ」
 一子が言った。
「バチカンの白人主義は、欧州では常識らしい。あまりに常識すぎて、見過ごされたんだ。書庫の番人が偽物を見破れなかったのが解せないが、もしかしたら『正しい通路』を通ってきた者はノーチェックなのかもしれない。書庫の番人が、バチカンの聖職者全員の顔を覚えていると考える方が無理がある」
「役に立たない番人ねっ!」
 プンスカしながら銃の遊底ををスライドさせたのは、前回兄貴をデュランダルで刺された緑川メグミ(fa1718)である。兄の仇を討つとばかりに、今回は完全装備で任務に挑んだ。
「じゃあ、『悪・即・斬!』でいいわけね!」
 ボンバー雛ちゃん♪(fa0373)がオーパーツ装備を確認しながら言う。正業は女子プロレスラーだが、WEAではナイトウォーカー退治を専業にしている。ちなみに戦闘種族の虎だ。
「今回は雛ちゃんとタッグになるんだ、楽しみだな〜♪」
 Kカップの胸をぶるんぶるんと揺らしながら、ダイナマイト・アスカ(fa0383)が言った。彼女もプロレスラーで、戦闘種族の竜種だ。こちらも武器の準備に余念がない。
「では、『ここ』は現在建物の下になっている、でよろしいのでござるか?」
 現地のガイドに解説を頼んでいるのは、七枷伏姫(fa2830)である。この依頼ですでに、数人のガイドを刺殺されているので気は進まなかったが、それでも中東は不案内すぎる。また場所によっては異教徒の入れない場所もあり、日本人を多く含む今回のメンバーには、ガイドの彼が行きも帰りも必須であった。伏姫はこのガイドを(おそらくはこちらを監視している)ダークサイドの通る場所には置かないよう、『現場』に着いたら帰宅させるつもりだった。翌日迎えに来てもらう予定だが、一晩墓場に座り込みになるのは確定である。それでも、死なれるよりはいい。
 グリフォン・小鳥遊(fa3763)と神保原和輝(fa3843)、佐渡川ススム(fa3134)は、本件初参加である。戦闘経験値は和輝が多少持っているだけで、他の二人は手持ちの装備に依存する形になる。
 ただススムは、武器の持ち合わせすら無い。瀬戸大橋のワイヤー並みの神経と言おうか、口八丁、あるいは舌先三寸で『なんとか』しようと考えているのだ。今までの依頼参加者から見たら、ある意味投石ものである。もっとも、本人は『十分本気』なのだが。
 2台に分乗した自動車は市内を通り、無事目的の建物に到着した。

●潜入、地下墳墓
 目的の建物は、集合住宅だった。十分近代的なもので、割とセレブ向きの物件に見える。
 建物は現在、市警察によって封鎖されていた。表向きは爆弾が発見され、現在処理作業中ということになっている。この封鎖はこれから30時間ほど有効で、『その間ネグロの襲撃は無い』という想定だった。
 『予定と違う!』と、探索に当たる獣人たちが思ったことは言うまでもない。ネグロの無差別ぶりを考えれば、人間を配置すればそれだけ被害が出る可能性があるからだ。
 だが、こうでもしなければ、穏便に地下墳墓に入れないのも確かである。獣人たちが想定していたのは、多分どこかの空き地にか何かにぽっかり口を開けている墳墓の入り口だったろうが、世の中そううまい具合に行くとは限らない。地図の場所は市街の中にあり、このようなカモフラージュをしなければ、まともに行動することすら出来ないからだ。
 そして逆に、この状況はネグロの先進がまずあり得ないことを示している。マ○マライザーかサン○ーバード5号でも無い限り、地下墳墓への無音侵入は不可能だからだ。
「状況的に考えて、中での『何か』との遭遇戦だけ気をつければいいだろう」
 一子が言った。この事件の後、おそらくこの墳墓は『歴史的発見』の文字で飾られた新聞などの記事になるだろう。誰が・いつ・どこで・どのようにしてこの遺跡を発見したことになるかは『関係筋』のシナリオ屋の担当になるが、少なくともそれはここに居る獣人たちの関知することではない。
 彼らの任務は、聖釘を持ち帰りそれをヴァチカンに引き渡すこと。そして可能ならば、ネグロを押さえ捕縛するか、それが不可能なら――。
 そう、殺 すことなのだ。

    ◆◆◆

「中東式のお墓って、地下に作るものなの?」
 和輝が、アーチェリーを構えながら慎重に進む。伏姫はすでに、激しい違和感に襲われている。彼女はこの依頼でかなり中東に詳しくなったが、いわゆる中東の墳墓で地下にあるものは一つもない。例外はゾロアスター教の墳墓に一部存在するだけで、イスラム教の墳墓はパサルガダエもペルセポリスもナクシェロスタムもすべて地上に存在するのだ。
「でも、『王のレリーフ』もあるし、ここが王かそれに準ずる人の墓には違いないんじゃないですか?」
 百合が言う。そう、この遺跡は、体裁は確かに整っているのである。レリーフに柱。空間とモザイク模様。そしておそらく、この墳墓の中心には広場があり、そこに石で作られた霊廟があるはずである。
 ただし、全てが上下逆転している。例えばバベルの塔にまつわる伝説で『反バベルの塔』というのがある。神の高みへ上ろうとした傲慢な人間は、同時に地下へと深く塔を造り悪魔をも使役しようと考えた、というものだ。
 その印象に、この墳墓は似ていた。
 ――アッバース1世って、何者だったのかしら‥‥。
 メグミが、油断無く銃を構えながら思う。
 オーパーツという『異物』が存在するが、世の中の多くの事象は『人間の常識の範疇』に収まる。獣人の獣化メカニズムだって、それなりに解析・解明されているのだ。獣化干渉の共振現象こそ不明な点が多いが、少なくとも獣人の『意志』で他の獣人の獣化もコントロールできる。原理は分からなくても、経験則で片付くことも多いのである。
 だから、伏姫やメグミが感じている違和感は、直感に属するものだが正鵠を射ていた。アッバース1世が『革新の人』だったことは歴史で有名な話だが、言葉を置き換えれば『反権力の異質な王』だったのである。その証明が『破壊された墳墓』であり、隠されたこの『反モスク』なのだろう。
「おそかったなー、待ちくたびれたでー」
 その証明は、やけに明るい関西弁によって行われた。
 ――ネグロ――と、もう一人!?
 シスター服を着たネグロと、嘆きの壁で獣人たちと遭遇した黒衣の人物が、墳墓に置かれた木箱のそばにたたずんでいた。
 二人の人物がいるのは、もちろん想定外だった。

●ネグロ・ザ・マキシマム・インサニティー
「どや? うちの正体はもうつかんだンか?」
 興味津々という態で、ネグロが問いかけた。
「シスター・マリア・クラレンスはどうしたの?」
 武器を構え、雛が油断無く言う。
「あー、この服の中身か? この前うちの飼ってるナイトウォーカーが食ったで」
 ざわっと、悪寒が獣人達の背筋を駆け上がった。ネグロの表情は天真爛漫で、邪気というものを感じさせない。それでいて発している言葉は、恐るべき内容なのだ。
「狂ってる‥‥」
 小鳥遊が、思った。敵、敵、敵。こうなった以上は、和解も何も無い。叩くべき時に叩く。それ以外の解決法など、考えられない。生き残るために必要ならば!!
「ま、そう気色ばらんでもエエやないか。せっかくこっちは楽しくやろうとおもて準備したんやで? ホンマ、大変やったんやから」
 ばたん!
 木箱が、倒れた。3個ある木箱の中から、縄で絞められ猿ぐつわの噛ませられた、推定人間が放り出される。その数6名。
「ほな、ショータイムや!! さあ、楽しくヤるでぇ!!」
 ギン! ギン! ギン!
 そこかしこで異音が響いた。反モスクのモザイク模様が6ヶ所、丸く欠けたのだ。
 ――ナイトウォーカーの――。
 思う前に、結果が出た。異音を響かせながら6人の男女は変形してゆき、甲殻を持つナイトウォーカーに成り果てたのである。
 しゃっという擦過音がして、ネグロの衣服がほどけた。ネグロはチューブトップにホットパンツというラフな格好で――背中から10本近い鞭状のナイトウォーカーを生やしていた。一つ一つが『例の白い槍』なら、ネグロは10本の致死の攻撃手段を持っていることになる。
 そして、手には聖剣デュランダル。黒服は、動かない。
「さあさあご用とお急ぎでない方はよっといで! 聖釘をめぐる戦いはここにクライマックスを迎えます! 待ち受けるは人類の敵! 月よりの使者! 獣人の裏切り者! ネグロ・ザ・マキシマム・インサニティー! そして立ち向かうは正義の獣人ご一行! さあこの戦い! お代は見てのお帰りだよ! ただし、生き残れたらなー」

●激突! vsネグロ軍団!!
 ネグロは、あまり細かいことは考えないタイプのようだった。
 ダークサイドがナイトウォーカーを操れると言っても、その能力には限界がある。許容量を超えるナイトウォーカーを、操ることは出来ない。現にネグロのそばに居たナイトウォーカーは、演出主であるネグロ自身に襲いかかっていた。
 ネグロはそのナイトウォーカーを、ほぼ瞬殺した。例の10本の槍と、デュランダルを使って、ぐずぐずの肉塊に変えてしまったのである。
 槍は突き以外に斬撃にも使用できるようで、敵の攻撃に対しては編み合わさって防御盾にもなる。接近戦での攻略法は、ほぼ無いに等しく見えた。
 ただナイトウォーカーが犠牲になってくれたお陰で、他の者はその槍の犠牲にならずに済んだ。そしてネグロがナイトウォーカーと戦っている間、獣人たちもナイトウォーカーと戦う時間が持てたのである。

 雛とアスカが対峙したのは、やたらと手が長いナイトウォーカーだった。肘から手首にかけてひれ状の物体があり、カマキリのような印象を感じさせる。
 そしてその印象の通り、手を振り回して攻撃してきた。素早く、鋭い斬撃である。
「雛ちゃん!」
「アスカ!!」
 阿吽の呼吸で互いの役割を決めた二人は、その乱撃の中に飛び込んだ。半獣化しているとはいえ、ナイトウォーカーの攻撃はその生命力をいとも容易く絶つことが出来る。
 が、逃げていては敵を倒せない。二人はプロレスラー同士の呼吸というか、その息を合わせてカマキリナイトウォーカーの懐に入り込む。
 がしん!!
 雛の『ゾハルの剣』が、カマキリナイトウォーカーの腕を受け止めた。《金剛力増》で強化した筋力でさえ、受け止めた時に背骨が軋んだ。
 しゃっと、カマキリの口がトンボのヤゴのように伸びてきた。まったくの不意打ちで、必中の攻撃である。
「このっ!」
 が、雛はその攻撃を、逆に頭突きで迎撃した。無論無傷では済まないが、パンチも出所にわざと受ければ衝撃は軽くて済む。
「たーっ!!」
 ぞぞぞぞぞん!!
 アスカのライトバスターが、カマキリナイトウォーカーの口、腕、足を切り裂いた。
「雛ちゃん! コアを!」
「うわああああああああっ!!」
 バシン!!
 雛の『ゾハルの剣』が、緑色のコアを打ち抜く。
 全身から生々しい鮮血を噴き出して、カマキリナイトウォーカーは沈黙した。

「当たれ――――――っ!!」
 ぱらたたたたたたたたたたたたたたたん!!
 小鳥遊が、トミーガンを連射する。全身を銃弾で穿たれ、黒いナイトウォーカーがまだ残っていた『人間の血』を噴出させる。
 しかし痛覚が無いのか、外傷以外のダメージを感じさせず、ナイトウォーカーが接近してきた。全身がカニのように逆とげだらけで、抱きつかれるだけで深い傷を負いそうなナイトウォーカーだった。
 ――とん。
 その首筋に、和輝のアーチェリーの矢が突き刺さった。そして頭部に、ニノ矢三ノ矢が突き刺さる。
「とどめっ!!」
 充分に行動の自由を奪ったところで、メグミが拳銃による集中砲火で頭部を爆散させた。知覚系を失った生物など(生きているだけでたいしたものだが)怖くはない。
 慎重に狙いをつけた和輝のアーチェリーの矢がコアを射抜き、ナイトウォーカーは動かなくなった。

 百合と伏姫のペアは、それぞれ剣を手に甲虫を思わせるナイトウォーカーと交戦していた。
「剣が通らない!!」
 百合が、相手の防御力に難渋している。伏姫は剣を構えたまま、機を伺っていた。狙っているのは、相手のコアである。『アクセル』を飲み攻撃力を上げた上で、一撃を狙うのだ。
 ――狙うは、コア一点のみ!
 開閉する狭い穴。一撃しかチャンスは無く、タイミングを誤れば――あとは書かなくても分かるだろう。
 かっ!
 伏姫が目を見開いた。その瞬間、まさにバネ仕掛けの人形のように跳んだ。
 がすっ!!
 石を削るような音とともに、ナイトウォーカーの動きが止まった。
 百合の攻撃をものともしなかったナイトウォーカーは、伏姫の一撃によってコアを粉砕され、絶命していた。
 ――やったでござる。
 伏姫は、戦闘の前に吸った息を、やっとで吐いた。

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ムリ――――っ!!」
「お前は何をしに来たんだ!」
 ナイトウォーカーを前に漫才のようなやりとりをしているのは、ススムと一子である。
「だって、俺はかわいい女の子専門だから!」
「『ネグロに会いに来た』と公言していただろう!」
 一子が《虚闇撃弾》を放つ。
「シスターがかわいいって聞いたから来たんだよ! こんなゲテモノ相手にしにきたんじゃない!!」
 ススムの《細振切爪》が、ナイトウォーカーを切り刻んだ。

(申し訳ありませんが、約3分ほど二人の漫才をお楽しみ下さい)

「だから‥‥あれ?」
 ススムが頓狂な声を出す。
 二人が漫才をしている間に、ナイトウォーカーはぐだぐだのぐずぐずになっていた。

●ネグロ
「さあ、覚悟なさい!」
 ネグロを取り囲み、メグミが言い放った。
「うーん、大ピンチやな」
 あまり深刻味の無い声色で、ネグロが言った。
 9対2。通常なら絶望的敗北状況である。しかしネグロの態度には、余裕さえ見て取れる。
「一つ訊きたい」
 一子が、口を開いた。
「この聖釘探索、貴様が仕組んだものか?」
 一子が言う。それにネグロは、あーはーはーと笑って応じた。
「まー、半分は偶然やな。おもろいもんみっけて、それでちょーっと遊んでみたなってん。な? おもしろかったやろ? 結構頭使ったんやで? 謎解きに血湧き肉躍るアドベンチャー! 最後の舞台は、反バベルに匹敵する反モスク!! これぞ世紀の発見にふさわしいロケーションやろ!!」
 イスラム教徒が聞いたら卒倒しそうなことを、ネグロが言う。
「でもなー、まだちょっと足りないねん」
「何がだ?」
 和輝が、油断無く構えながら言う。
「これや!」
 びゅびゅびゅん!!
 白い槍が、伸びた。想定以上の伸びだった。8、10、12メートル。都合10本の槍が、メグミを直撃した。
「きゃ――――‥‥‥‥あ?」
 ばらばらばら。
 メグミの装備『だけ』が、バラバラと床に落ちる。銃も斬られ、防具も衣服もバラバラだ。
 つまり、メグミはすっぽんぽんに剥かれたのである。後ろで「おおおおおおおっ!」とかススムが感動している。
「これやこれ! 色気が足らんかったんや。やっぱー、お客さんにサービスしてナンボやからなぁ! おおきにおおきに!」
 今にも握手しそうな、満面の笑顔でネグロが言う。
「し、し、し」
 メグミが涙目でしゃがみ込んでいた。
「死なす――――っ!!」
 と叫ぶが、今は武器の一つも無い。
「さて、そろそろお開きやな。うちの出番は終わったようやし。聖釘はその霊廟にあるから、勝手に持ってゆき。あ、あと最後はやっぱ中ボスぐらいで〆なきゃならんな」
 そこで初めて、黒服が動いた。
「こいつ、名前は『ポチ』いうねん。その辺にころがっとる即席ナイトウォーカーとは、桁違いやで。ま、楽しんだってや。ほな、さいならー」
「ま、まて!」
 止めようとした雛の前に、黒服が割り込んだ。そこで半歩後じさったのは、戦闘種族である虎の直感であろうか。一瞬の後、雛の胸に横に赤い線が浮いていた。ぷつぷつと血の珠が浮いて、下に流れる。
「こいつ――」
 戦闘開始の合図は無かった。ただ唐突に始まった戦いは、ススムの獣人能力で唐突に終わった。
 ほんの数十秒時間を稼がれただけなのだが、ネグロは完璧に逃げおおせていた。

●聖釘事件――その後始末
 反モスク――アッバース1世の墳墓は、WEAの調査とナイトウォーカーの処理が済むまで封鎖されることになった。WEAの公式記録によると、墳墓に蓄積されていたナイトウォーカーのデータは四十数匹分にもなり、人間が入れば感染は免れないような状況だった。
 聖釘は回収され、ヴァチカンに搬送された。真贋が確かめられたという記録は、WEAには無い。
 聖剣デュランダルについては、ネグロとともに行方不明である。
 そして後日、獣人たちはとんでもないものを見ることになる。

『なんや、アホちゃうかー?』

 深夜枠のZ級バラエティ番組で、どうみてもネグロにしか見えない黒人外タレが、漫才をしていたのである。
 ――た‥‥たくましい奴‥‥。
 獣人たちがそう思ったのも、無理からぬ話であろう。

【おわり】