侍VSミュータント B南北アメリカ

種類 ショートEX
担当 雪端為成
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 13.5万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 01/13〜01/19

●本文

「よーーし、次は俳優だっ!」
「ん? 今回はどんな俳優が来る予定なの?」
「実はまだ未定なんだ‥‥」
「ええええ!! どうする気?」
「まぁ、俳優も監督もその場でうまく協力してくれれば良いんだけどなぁ〜」
 のほほんと空を見上げるヨハンに姉の無言の脳天チョップが決まったのだった。

●映画「サムライVSミュータント」出演者募集
 ・10名の出演者を募集します。
 ・内訳は敵である妖刀側5名と正義であるミュータント部隊5名です。

●映画の詳細
 アメリカに持ち込まれた5本の日本刀、それは本物の「妖刀」だった。5本の妖刀はそれぞれ一般人の体を乗っ取り、その破壊衝動のままに活動を開始した。
 戦闘ヘリぐらいなら一刀両断、最強の一刀はビルすら輪切りにするその破壊力。ニューヨークが死の都市になる前に、妖刀の破壊活動を阻止できるのは超人的な力を持つアメリカの秘密部隊、ミュータント部隊だけなのだ!!

 ・以上の原案に基づいて構成された脚本で映画は撮影されます。
 ・具体的なシーンなどはスタッフ側にて構成されるので、出演者はそれに従うことになります。
 ・よってそれぞれの出演者がどの役に当てになるかは決定していません。
 ・妖刀に支配された側かミュータント側かぐらいは希望を出しましょう。

●アイディアノート
 ・サムライ側は、妖刀に意識を乗っ取られてしまいますが、武器は刀1本のみ。
 ・ミュータント側は、銃器と半獣化して戦います。
 以下極秘
 ・よって、サムライは獣化禁止でミュータント側は獣化推奨です。

 ・台詞のアイディアなどは採用される可能性もあります。
 ・細かい演技の技や、動きに関してアイディアを出すのもいいでしょう。

●今回の参加者

 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa0463 伊達正和(25歳・♂・竜)
 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa0829 烏丸りん(20歳・♀・鴉)
 fa0936 霧夜マイナ(17歳・♀・蝙蝠)
 fa1024 天霧 浮谷(21歳・♂・兎)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa2651 モハメド・アッバス(40歳・♂・狼)
 fa2662 ベルタ・ハート(32歳・♀・猫)
 fa2681 ザ・レーヴェン(29歳・♂・獅子)

●リプレイ本文

 始まりのシーンは薄暗い倉庫の中、かび臭ささえ匂うような古びた木箱が並ぶ。
 そのなかの一つ、蓋が開いたその中には古びた一振りの日本刀。
 その一刀を覆うように影が差す。何ものかがその刀に手を伸ばし、
「‥‥さぁ、起きなさい」
 響くは魅入られた者の声、その言葉に応えるように燐光を放ちはじめる日本刀。
 そして画面は暗転し声だけが響く。
「もうすぐ大暴れできるわよ」

『サムライVSミュータント −ニューヨークの危機−』
 刀の閃きが侍の文字を刻み、弾丸がミュータントの文字を穿ってタイトルが完成。
 タイトルロールと共に音楽が流れ、スタッフの名前が流れる。
 背景はニューヨークの様子、上空から眼下に広がる大都市を眺める。

 そのなかをカメラはすり抜けていき、とある大学のキャンパスに。
「へー、工芸品だけじゃなくて武器なんかも展示してるんだね」
「うん、日本の刀剣類は美術品としても価値が高いんだって」
 今風の大学生といった様子で友人と歩いている女性は凜音(fa0769)演じるヒルダ・グレアム。
 手にはパンフレット、どうやら大学の友人と日本美術工芸展へ向かう途中のようである。
「綺麗な着物とかがあったら嬉しいよね。さ、みんな行こうっ」
 にこっと笑みを浮かべて彼女はデパートの中に入っていき、場面転換。

 純和風な武道場で一人竹刀を振っている妙齢の女性。白の袴姿のがいっそう凛々しさを引き立てている。
 彼女はフェリシア・蕗紗(fa0413)演じる久遠院・静香。
 汗を流した彼女はシャワーを浴びて、清楚なワンピース姿に。彼女の動作一つ一つには育ちのよさが現れている。
 部屋の片隅に生けてある花をしばし見つめ形を直すと立ち上がって彼女は言う。
「さぁ、出かけるわよ。車を出して」
 アメリカの風景には少し不似合いな和風の屋敷から黒塗りの高級車が走り出すと、その後部座席でのんびりとパンフレットを広げる静香(フェリシア)。
 そのパンフレットには『日本美術工芸展』の文字があった。

「ふむ、日本刀か‥‥面白いな」
 豪奢なホテルのスイートルームに泊まっている壮年の男。
 彼はモハメド・アッバス(fa2651)演じるアブドル・アル・ジヤード。
 エジプト人の石油王であり、現在アメリカに滞在中の彼の手には『日本美術工芸展』のパンフレットが。
「幸い場所も近いな。‥‥今日は時間もあることだ、見に行くとしよう」
 秘書らしき女性になにやら指示を出すと、一人身軽に外へ出るアブドル(モハメド)。
 エジプト風の衣装とターバンが多少眼を引いているのを気にも留めず、彼は工芸展が行われているデパートへとやってくるのだった。

「あ〜、めんどくせぇなぁ‥‥」
 欠伸をかみ殺しながら工芸展の入り口で会場整備を手伝っている青年。
 彼は天霧 浮谷(fa1024)演じるJ・S。工芸展が行われているデパートの店員である。
「しっかし、あんな日本刀が一本で数万ドルか‥‥」
 くたびれたシャツに擦り切れたジーンズ姿のJ・S(天霧)はそう呟くと会場を見やる。
「やっぱりジャパニーズはいいネェ、なんかロマンがあるしネェ」
 彼は自分の思いつきに満足したかのようににやっと笑みを浮かべるのだった。

 会場の中をゆっくりと回りながら嬉しそうに目を細めているパンツスーツの女性。
 ベルタ・ハート(fa2662)演じるコーネリア・アッカートンである。
 彼女は今回の工芸展を企画したデパートの学芸員であった。
 そして彼女がやってきたのは会場の片隅、日本刀が展示されているコーナーのさらに端であった。
 不思議なことにたった3人の客以外はそこには誰もいなかった。
 そしてヒルダ・グレアム、アブドル・アル・ジヤード、そして久遠院・静香の3人は魅入られたかのように刀の前で立ち尽くしていた。
 3人の後ろにそっとやってきたコーネリア(ベルタ)は囁く。
「全ては己の心のままに‥‥彼らはあなたを求めているわ。もう一度真夜中においでなさい」
 その言葉に合わせるようにぼんやりと燐光を放つ刀たち。
 そして3人はふらふらとした足取りで会場を後にするのだった。

 会場を去る3人を静かに見送るコーネリア。
 そして彼女は一振りの刀が納められたショーケースをいとおしげに触れる。ケースにはただ「村正」と書かれている。
「もうすぐよ‥‥」
 りぃん‥‥と刀たちが音を立てるが、その音は会場の雑音の中に紛れ消えていくのだった。

 深夜、工芸展の会場に忍び込む影があった。
「一本ぐらい失敬しても役得だよなっと」
 そう呟いて忍び込んだのはJ・S、しかしそこにはすでに先客がいた。
 とっさに逃げようとするJ・Sだったが、
「これで最後の一人が揃ったわね。さぁ、貴方は菊一文字をお取りなさい」
 コーネリアが差し出す一振りの刀を見た瞬間、J・Sの瞳は焦点を失い彼はただ言われるままに刀を取った。
 そして、薄暗い非常灯の光に照らされるように立つ5つの影。
「‥‥始まりよ」
 きぃんっという鍔鳴りの音と共に振るわれたのはコーネリアの村正、次の瞬間ビルの壁面が内側から斬り飛ばされた。
 轟音と共に崩れ落ちるデパートの壁面、その断面からのぞく五つの人影は和装。
 遠くで響き始めたサイレンの音とともに、彼らは妖刀を手に薄く笑みを浮かべたのだった。
 そして暗転。

「くっ、撃てぇ! なんとしても止めろ!!」
 警官たちがパトカーを立てに銃を撃つ。その先には崩れ落ちるビルの砂塵に紛れる人影。
 しかし彼らの力はあまりも無力であった。
「‥‥遅すぎだなぁ。そんな攻撃じゃ蝿が止まるよ」
 着流し姿のJ・Sが眼にもとまらなぬ速さで縦横無尽に振るうのは雷のような紋が刻まれた細身の長刀、菊一文字。
 銃弾がぱらぱらと地面に落ちる。全て彼が刀で打ち払ったのだ。
「銃弾を切り払った?! ‥‥そんな馬鹿な」
「キミたちが遅すぎるだけだよ」
 声はなんと後ろから。一瞬のうちに移動したJ・Sは、そのまま刃を振るい‥‥

「くそ、奴らは一体なんなんだ?!」
 悲痛な呟きを放つ警察官、必死で小さな路地へと逃げ込むのだが、
「逃がしはしないわ‥‥覚悟しなさい」
 前方の影から声と共に現れたのは刀の切っ先、陽炎のような紋が浮かぶ長大な野太刀の名は蜘蛛切。
 そして刀が影を裂き、影の中から姿を見せるのは蜘蛛切に魅入られた静香。真紅の袴と真紅の瞳が鬼気迫る様子である。
 彼女は手に桜柄の優美な拵の鞘を持ち、逃げ惑う哀れな警察官の前に立ちはだかった。
 慌てて逃げようとする警察官、しかし静香は冷徹に刃を一閃。
 すると、地に長く伸びた警察官の影が両断される。そして一瞬遅れて影と全く同じように斬撃が走るのだった。
「うふふ…感じるわ、力の高まりを!」
 静香が刀を掲げて高笑いをあげると、その姿が揺らめき全身を覆う鎧兜姿へと変化するのであった。

「ふっ、これしきの戦力で挑むとは笑止千万!」
 流水紋が描かれた黒漆拵の鞘を腰に差し、大鎧と武者兜に身を包んだアブドルは身の丈ほどの大太刀、数珠丸を振りかざす。
 目の前には急遽出動した軍の装甲車、ニューヨークには避難命令が出されていた。
 戦車が入り込めないため、出動できる最大戦力であった強固な軍用装甲車が出てきたのだが彼らはものともしなかった。
「全ては砂にかえるのだ!」
 気合一閃、装甲車の正面を切りつけるアブドル。
 すると後部までその一撃は貫通しちりんと刀の鍔の数珠が揺れる、すると一瞬で装甲車を砂に変えるのであった。

「そんなもので来ても無駄よ」
 着流しで男装姿のヒルダが持つのは刀身から半ばまでが両刃になっている特徴的な小烏丸。
 切先両刃造りのその刀を静かに構えて彼女がたたずんでいるのはビルの屋上である。
 彼女の前にはなんと戦闘ヘリ。ヘリコプターはその機体についた機関銃を彼女に向ける。
 しかし彼女は呟きと共に刃を一閃。
「‥‥脆い、わね。そんな攻撃は届かないわ」
 振りぬいた刃は長く伸びながら鞭のようにしなり、ヘリのプロペラ基部を両断し再び元に戻る。
 墜落したヘリの爆炎に照らされて彼女は艶然と微笑むのであった。

 人気のなくなった車道を一人歩く赤い打ち掛け姿の女性。
 村正に魅入られたコーネリアはその刃を一戦すると、街路灯が真っ二つに切れる。
 しかしそれだけではなかった。地に響くような轟音と共に街路灯のさらに向こう側のビルに1本の線が走る。
 轟音と共に滑らかな断面から滑り落ちるビルの上半分。その爆風がコーネリアの打ち掛けを煽る。
 その光景を見ながら彼女はその髪を小太刀を抜いて切り落とした。
 次の瞬間、彼女の全身は真っ赤な鎧兜に覆われている。
 そしてコーネリアは笑みを浮かべ、手にした面をゆっくりと兜にはめ込み表情を隠し‥‥画面が暗転

 数多くの報告と、衛星からの写真。様々なデータを前に一人考え込む男。
「‥‥仕方ない、今動けるミュータント部隊隊員を呼び集めろ」
「しかしっ!!」
「‥‥それしか方法はないのだ。大規模なテロという名目で情報封鎖、ニューヨークから市民を全員避難させろ」
「りょ、了解しました、大統領閣下!」
 決断は下された。


 荒野のど真ん中にあるとあるキャンプ地。新兵の特殊訓練用のキャンプで檄を飛ばす男がいた。
 男はザ・レーヴェン(fa2681)演じる歴戦のミュータント戦士“ビッグバン”。そこに下士官が携帯電話を差し出す。
「‥‥サー、イエスサー! 直ちにNYに飛び、事態を鎮圧します!」
 携帯を投げ返し彼が踵を返した先にはすでに一機の戦闘機。彼はニューヨークへ向かうのだった。

「‥‥なんだこりゃ、俺はハイスクールに迷い込んじまったのか?」
「まぁ、そう言わないでくれ“ビッグバン”、現在自由に動ける隊員は君たちしかいなかったのだ」
 声だけが響く作戦室、そこには5人のミュータント部隊隊員たちが集まっていた。
 不満を露わにしているのは金属製のプロテクターで覆われた黄色のスーツの“ビッグバン”だ。
 そして彼の露骨な不平に4人の戦士たちは思い思いの反応を返す。
「私は一通り訓練は終えましたが、、まだこの力を扱いきれるかどうか‥‥よろしくお願い致します!」
 直立不動で敬礼と共に真面目に応えたのは烏丸りん(fa0829)演じる“クロウ”。背中にはその名の通り黒い翼が。
 スカイブルーのボディスーツを纏ったミュータント部隊に入りたての新兵は緊張に身を硬くしているのだった。
「女性が多いが問題ないだろ? 騒ぐと性差別で訴えられるぞ、ビッグバン」
 へらへらと笑いながらビッグバンに視線を向けたのは伊達正和(fa0463)演じる“ロングレンジ”。
 着崩した紫のスーツ、スナイパー上がりの彼は不真面目な態度のままでありそれもビッグバンの癇に障るようだ。
「そうそう、か弱い女の子なんだから、きちんと守ってよ。お・じ・さ・ん♪」
 にっと笑みを見せてビッグバンをからかうのは霧夜マイナ(fa0936)演じる“スピアー”。
 紺色のスーツで机に腰掛けぶらぶらと脚を揺らしている彼女もまた、ビッグバンの心配の種であった。
「‥‥大切な人を守りたいという気持ちに、年齢も性別も関係ないはずですが」
 真っ向からビッグバンにたいして反論するのは桐沢カナ(fa1077)演じる“フレイム”。
 漆黒のスーツをまとう彼女はその瞳に静かな決意を燃やし、ビッグバンを見るのだった。
「それでは至急現場に向かってくれ。一刻も早く事態を解決しなければニューヨークは壊滅してしまう」
 指揮官の声だけが響き、現場へと向かうための準備が出来たことを知らせる。
 それを聞いて今回の隊長を任されたビッグバンがわざと聞こえるように呟く。
「Oh、JesusChrist! ビッグアップルをこんなひよっこ達に託すとはな。世紀末は6年も前だぜ?」
 こうしてミュータント部隊は纏まりを見せないまま、戦場へと向かうのだった。

「報告にあった地点はこの辺のはず‥‥どこでしょう?」
 クロウが呟きながら周りを見回す。ミュータント部隊は崩れたビルの合間を進んでいた。
 するとそこに響く声。
「次の相手は貴方たちね。今度はもう少し手ごたえのある相手かしら?」
 瓦礫の上に立っているのは小烏丸を手にしたヒルダ(凜音)である。
 彼女を見て最初に動いたのはロングレンジ。
「待て! 迂闊に動くな!」
「目標確認、まずは1発っ!」
 ビッグバンの指示を無視して背中の翼で舞い上がり、空中で対戦車ライフルを放つのだったが、その一撃は届かない。
 地面に小烏丸をつきたてたヒルダは刃を伸長させると一気に空中に飛び上がり、対戦車ライフルの砲弾は虚しく瓦礫の山を穿つ。
 そしてヒルダは空中で小烏丸を引き戻すと、再び刃を伸ばし地上へ向かって刃を伸ばしての横薙ぎの一閃。
 慌てて散るミュータントたちを一瞥して彼女は言った。
「あははっ、どうせなら上手く踊ってよ!」
 しかしミュータント部隊もやられてばかりではなかった。
 地面に着地したヒルダを狙って飛び出しながら銃口を向けたのはフレイム。
 その手にあるのは12連装リボルバー式グレネードランチャー。
 ミュータントでなければとても腕一本で持てる代物ではない凶悪な兵器である。
 広範囲を殺傷するための榴弾を一瞬でばら撒くフレイム、しかしその爆風が晴れた向こうではいまだヒルダが立っていた。
「ミュータントと互角、いやそれを凌ぐ力…このサムライは何者なのですか!?」
 フレイムが思わず驚きの声を上げるが、ヒルダの振るう小烏丸は止まらない。
 彼女が地面へ向けて突きを放つと、その刃が地面をもぐり今度はスピアーへと向かって伸びる。
「こんなことも出来るのね!」
 紙一重で回避するスピアー。刃は彼女の鼻先をかすめ再び戻っていく。
 しかしその隙を逃さず、狙いを定めていたのはクロウ。
 遠距離からのスナイパーライフルでの狙撃が、刃を引き戻した一瞬の隙をついて刀の鍔を直撃。
 小烏丸は弾き飛ばされ、瓦礫の山に突き刺さる。そこにさらに追撃をかけたのはビッグバン。
「ヒュー! なかなかやるじゃないか、お前ら。これで終わりだっ!」
 口笛を吹きつつ、小烏丸に向けてミニガンの銃口を向ける。
 回転する六つの銃口から轟音と共に一秒に100発の速度で放たれる弾丸の雨は刃を抉りさらに弾き飛ばす。
 そして駄目押しのロケットランチャーは爆炎と共に小烏丸を破壊するのだった。
「くっ‥‥ふ、不覚を取った‥‥無念」
 最後にヒルダが呟いたのは小烏丸の残滓の念か。そして倒れるヒルダをフレイムが抱きとめたのだった。
 無事緒戦を白星で飾ったミュータントチーム。一同に笑顔を向けてビッグバンが言う。
「よぅし、この調子でサムライどもがNYをでっかい焼きりんごにしちまうのを阻止するぞ!」
 ミュータント部隊に連帯が芽生え、一同は心新たに次なる戦場へと向かうのだった。

 いつもなら沢山の車と人があったであろう大きな交差点。しかし一帯の建物は崩れ全ては砂にうずもれていた。
「なんだここは? 砂漠じゃあるまいし、どこからこんな砂が‥‥」
 紫に染まった竜の翼を羽ばたいて空を舞うロングレンジ(伊達)が呟く。
 すると彼らの前に姿を現す鎧兜姿の巨漢、大刀数珠丸を手にしたアブドル(モハメド)である。
「それがしの銘は数珠丸。戦いに散った同胞の仇、討たせてもらうのである!」
 アブドルはそう吼えると、一気に踏み込み刃を振るう。すると足元の砂が吹き上がりミュータントたちの視界を覆い隠し分断する。

 黒い蝙蝠の翼を打ち振って、間一髪空に逃れたのはスピアー(霧谷)。しかし彼女に迫る“影”があった。
「後ろがお留守になってるわよ」
 誰も居ないと思った影から現れる刃、蜘蛛切と久遠院・静香(フェリシア)である。
「影を抜けてきた!? くぅ、外では不利ね‥‥」
「私はどこまでもついていくわ‥‥さぁ、どうするつもりかしら?」
 妖艶に微笑む静香が刀を振るうと、影から人影が起き上がり影で作られた分身たちがスピアーと襲う。
 スピアーは分身たちをガトリングガンでなぎ払いながら、空を舞うと窓ガラスをぶち破ってビルの中へ飛び込んだ。
 まだ生きている非常灯などの明かりを破壊すると、そこは全くの暗闇。
 次の瞬間、闇の中から繰り出された一撃が彼女を襲う。とっさに銃で受け止めるも銃身が大破してしまう。
「銃をなくし、しかも暗闇で影を操る私に勝てるつもり? ‥‥愚かね」
「‥‥それはどうでしょうか? 本当はこちらのほうが銃より得意ですの」
 背中の鞘から二本の大振りのナイフを抜き放ち逆手に構えるスピアー、暗闇での戦いが始まった。

「ちぃ! これじゃ狙いがつけられないじゃねぇか‥‥」
 同じく空に逃れたロングレンジ、しかし彼にも新たな刺客が襲い掛かる。
「お前の相手はこの俺だよ♪ ついてこれるかな?」
 ビルの屋上に降りたロングレンジの背後に突然と現れたのは菊一文字を振るうJ・S(天霧)だ。
 とっさに対戦車ライフルを向けて放つロングレンジ、しかし超高速の銃弾は虚しくコンクリートを吹き飛ばすだけだった。
「遅いなぁ。今度はこっちから行くよ!」
 コマ送りのように突然屋上の給水棟の上に現れたJ・Sは、次の瞬間にはロングレンジの真横に出現。
 超高速の機動力がその刀の力だということに気付いたロングレンジだったが、その刃が放つ一撃がとっさに避けた彼の足元を刻む。
 すると雷が直撃したかのようにぼろぼろにはじけ飛ぶ床。
「どう? シビれるだろう♪」
 にやりと笑みを浮かべて、再び高速移動する菊一文字にロングレンジは冷たい汗が流れ落ちるのを感じるのだった。

「この任務が終わったら家族と一緒にテーマパークに行くんです‥‥だから生きて返らないと」
 悲痛な呟きはクロウ(烏丸)、彼女は砂煙の向こうに見え隠れする影に向かってひたすらに弾丸を放っていた。
 しかし、狙撃銃の弾丸は全て砂の壁に遮られて届かない。
「‥‥こ、これほど頑丈だなんて‥‥」
 恐怖と無力感が一瞬の停滞を生んだ次の瞬間、ざぁっと足元の砂を掻き分けて突き出される1本の手。
 アブドルが砂の中から現れ、スナイパーライフルを掴む。
「クローーーウ!!」
 そのことに気付いた隊長のビッグバン、しかしアブドルの一撃はスナイパーライフルごとクロウを切り裂いたのだった。
 そして、さらにアブドルの猛攻は続く。
「くっ! 切りが無い‥‥」
 銃弾は尽き、自慢の蹴り技で砂の虚像を蹴りつけ破壊するのはフレイム(桐沢)。
 白い毛皮に覆われた四肢とバランスを取るための大きな狐の尾。白い脚に赤い炎をまとって、戦場を縦横に飛び回る。
 しかし、アブドルは砂を盾として距離をおき、攻撃が届かない。
 そしてアブドルの次なる一手。数珠丸を地面に突き立てると再び声を上げる。
「苦しみながら死ぬがいい!!」
 ずずっと足元の砂が渦を巻き、流砂へと変じる。
 その砂に真っ先に埋り始めたのはアーマーを装備したビッグバンだった。
 そしてビッグバンの元にアブドルが迫る‥‥その時。
「っ!! 隊長っ!!」
 瞬転、脚から炎を放ち砂の束縛を断ったフレイムはビッグバンの元にかけつける。
 しかし反撃は間に合わず、身を挺して攻撃を受けてしまうのだった。
「うおおお! フレイムぅー!!」
 眼前で崩れ落ちるフレイムは、最後に蹴りの爆炎でビッグバンが囚われている砂を吹き飛ばす。
 フレイムをとっさに支え、静かに横たえビッグバンは呟く。
「くそっ行くぞ! かたきは取ってやる!」
「そう簡単に行きますかな?」
 再び砂で幻惑するアブドルはビッグバンの武器を次々に破壊し砂で視界を塞いで背後に迫る。
 その時、ビッグバンの銀の装甲がはじけ飛ぶ!
 唯一のこった星条旗の記された肩の装甲版からナイフを抜き取り、もう一方の手には獅子の爪。
 怒れる獅子と化したビッグバンは、はじけた装甲によって生じた一瞬の隙に反撃に出たのだった。
 砂を盾に逃れようとするアブドル、しかし刃と爪の猛攻がついに数珠丸を捉えると、強靭な爪の一撃で数珠丸は砕かれる。
 その瞬間、操られていた砂は動きをとめ砂嵐が消え去るのだった。
 戦場に一人立ち尽くすビッグバンは呟く。
「砂の能力に頼りすぎだ‥‥サムライなら刀で来な」
 時を同じくして、他の二つの戦いも決着しようとしていた。

 暗闇の中を高速で動き回る二つの影。一つは影から影に移動しながら神出鬼没の攻撃を繰り出す蜘蛛切と静香。
 しかしその攻撃を両手のナイフと翼によるトリッキーな動きで凌ぐのはスピアーだ。
 壁を足場にして、身を翻したスピアー、しかし無理な体勢で刀を受けたため両方のナイフを弾き飛ばされてしまう。
「楽しかったけどもうおしまいみたいね」
 言葉とともに、影から現れた静香は必殺の突きを放つ。しかしその一撃を脇腹に受けたスピアーは笑顔を浮かべていた。
「‥‥このときをずっと待っていたですの」
 彼女がとったのは素手で刃を掴み動きを封じる捨て身の作戦。
 そしてもう一方の手にはミュータントならではの強靭な爪が伸びるとそれを蜘蛛切に振り下ろす。
「これでおしまいですわ」
 軽い音と共に蜘蛛切は砕け、倒れた静香を残してスピアーは隊長の下へと向かう。
 傷口から下たる血のあとを点々と残しながら。

「さぁ、だんだん動きが鈍くなってきたね。そろそろ終りかな?」
 眼にもとまらぬ速さで動く菊一文字とその所有者J・S。
 対戦車ライフルは全て避けられ、切り払われてしまった。
 そして、ついにはJ・Sの攻撃が対戦車ライフルを粉々に引き裂く。
「武器もなくなったし、終わりにするよ!」
 再び消えたように移動するJ・S、しかしロングレンジはまだ諦めていなかった。
「俺にはまだ角があるっ!!」
 ぎゅんと伸びる角、ちょうど頭上から一刀を見舞おうとしていたJ・Sの菊一文字は角と激突する。
 完全に勝利を確信していたJ・Sと決死の覚悟で反撃を選んだロングレンジの差か、菊一文字は真っ二つに折れる。
 辛勝を収めたロングレンジは、再び翼を羽ばたかせると隊長ビッグバンの元へと向かうのだった。

「残ったのは私一人見たいね‥‥まったくだらしないわね」
 満身創痍の3名のミュータントの前に、ついにサムライたちの首魁が姿を見せた。
 全身を赤の鎧兜で多い、その表情すら古風な面具で覆い隠しているのはコーネリア(ベルタ)である。
「でも、貴方たちじゃ私は止められないわ‥‥計画を狂わせた罰、しっかり味わってもらうわよ」
 傲然と言い放つとコーネリアは村正を抜かずに一歩一歩近づいてくる。
「舐められたままでいられるかよ!」
「覚悟しなさい!」
 飛び掛るロングレンジとスピアー。
 ロングレンジは翼で加速しての上段蹴りで、それにあわせるようにスピアーは突進しての下段への爪の一撃。
 しかしコーネリアは流れるように双方の攻撃を受け流す。
 下段への爪は飛びあがって回避すると、空中で鎧の小手を使ってロングレンジの蹴りを受け止める。
 そのまま両手で蹴りを掴むと着地、飛び越えたスピアーに向かって、ロングレンジを投げつける。
 ロングレンジに巻き込まれるようにして吹き飛ぶスピアー。
 すでに怪我の重いスピアーは動けそうになかった。
「フレイムとクロウの落とし前をつけさせて貰うぜ! ニューヨークは貴様には渡さん!!」
 攻撃の隙を突いて接近したビッグバン、獅子の両腕をふるってその強靭な爪を見舞おうとするが小太刀と村正で左右からの連撃を受ける。
 そのまま小太刀の柄尻でビッグバンの鳩尾を強打、神速の納刀で村正を鞘に収めるとビッグバンを掴み腕を決めながら投げ飛ばす。
 轟音と共に地面を陥没させる勢いで地面に叩きつけられるビッグバン。
 そこに再びロングレンジの反撃が。拾い上げたアサルトライフルをコーネリアに向かって乱射したのである。
 するとコーネリアは避けるそぶりすら見せない。淡々と居合いの姿勢をとり‥‥一閃。
 間合いの遥か遠くからの一撃は、まず風を生じた。そして斬撃の音とともにロングレンジは吹き飛ばされる。
 胸に一文字の傷を負って倒れ伏すロングレンジは呟く。
「‥‥痛みを感じていないのか‥‥早く止めねぇと!」
 しかし動けないミュータント部隊の面々。絶体絶命の危機であった。

 しかしその時、予想もしない場所から弾丸が降り注いだ。
「貴方たちを野放しには出来ません! ‥‥愛する家族を守るためにもう少しだけ力を!!」
 血を流しながら必死に銃を打つのはフレイム。おそらく軍や警察が残していったとおもわれる銃を乱射して足止めをする。
 うるさそうにその弾丸を刃で打ち払うコーネリア。しかし、そのチャンスを狙っていたもう一人がいた。
「我々を舐めるな! これでも喰らえサムライ共!!」
 スナイパーライフルから放たれた弾丸は、村正の芯に直撃する。
 するとかすかに村正に亀裂が走った。面が落ちコーネリアの動きが止まる。かすかな感情の揺らめき。
「いまだっ! 行くぞっ!!」
 ビッグバンの声と共に、飛び出すロングレンジとスピアー。
 ロングレンジはその角で村正を押さえつけ、スピアーは村正の小太刀を爪で挟み込む。
 そして、追いついたビッグバンは両手の爪を振りかざし吼えた。
「これで終わりだっ!!!」
 ビッグバンの爪が最後に残った妖刀を完全に破壊する。
 こうして、戦いは幕を閉じたのだった。

 復興の進むニューヨークの記事が記された新聞を手に祝杯を挙げるミュータント部隊の面々。
 漸く怪我の治療が終わったばかりで、誰もが包帯まみれであるが一様にその表情は明るい。
「やっと終わったな! YEAH!!」
 高々と杯を掲げるビッグバン。
「本当に良かった‥‥」
「どうしたんですか? 先輩」
 ふと呟いたものの、その様子をじっとクロウから見つめられてはっと眼をそらしたのはフレイム。
「最後の連携は流石だったな!」
「あなたもなかなかだったと思いますわ」
 お互いに称えあっているのはロングレンジとスピアーであった。
 平和を勝ち取った彼らも束の間の休息はこうして過ぎていく。

 わけも分からず事件が解決されたあと連行されて慌てふためくJ・S。
「エ? 何か悪いことしたっけ? 何でこうなるんだヨォ〜」
 日常生活に戻り再び大学に通い始めたヒルダ。
「ねぇ、ヒルダってあの事件に巻き込まれたんでしょう?」
「うーん、なんだか全然覚えてないのよね‥‥」
 静香お嬢様はまたもとの静かな生活にもどり‥‥。
「ねぇ、なんだか日本刀に興味を持つようになったから、今度1本買ってみようと思ってるの」
 なにか釈然としないまま日々を過ごすアブドル。
「‥‥なにかあったような気がするのだがな‥‥」
 そして何も残さぬまま姿を消すコーネリア。

 そしてそんな彼らの様子をうつしながらエンドロールが流れる。
 全てが流れ終わったあと、真っ暗な背景にぼんやりと浮かぶいくつものモニター。
 そこには勝利で湧くミュータント部隊が様々な角度から映し出されていた。
 それを見ながらモニターの光に浮かび上がった男はゆっくりと口の端を吊り上げる。
 その男がゆっくりと立ち上がると、その腰には一振りの刀。
 燐光を放つその刀を男が抜き‥‥一閃。
 画面が両断され、今度こそ画面は暗転するのであった。

 −END−