博士VSミュータントB南北アメリカ
種類 |
ショートEX
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担当 |
雪端為成
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
5.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/19〜02/25
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●本文
『マッドドクターVSミュータント 作られし者』
映画原案を眺めて、俳優を募集するための文面を練る青年。
彼は、ヨハン・トビアス。若き映画プロデューサーだ。
彼の横には姉のエリザが、いろいろと突っ込みを入れているようだ。
「それで、ヨハン。今回俳優サイドでなんか決まってることは?」
「うーん……各キャラクターのドラマなんかを描きたいなあ」
「それでバトルの舞台はどこになる予定だ?」
「とりあえず‥‥研究所のセットか、屋外かなぁ?」
「なるほど、派手な映画になりそうだなぁ」
「そのうち、豪華客船とかスーパーマーケット丸ごと買い取って大爆発とかやってみたいなぁ」
「‥‥ジェイクみたいなこと言ってるな。先行き不安だ‥‥」
「ジェイク? ああ、ジェイク・オーエン監督か♪ 俺、あの人もジャイル・マイル監督も尊敬してるんだ〜」
「‥‥そうか、がんばれよ」
姉の苦労はよそに、映画は動き出すのだった。
●映画『マッドドクターVSミュータント 作られし者』 出演者募集
・新作映画の出演者を募集します。
・スタッフたちと協力して映画の内容に関わるとともに、出演してもらいます。
●映画原案
研究室でひとりもくもくと研究する博士。
彼(彼女)には、目的があった。自分を捨てた組織に復讐をすることだ。
そして博士は自分の研究を使って最強の兵士たちを作り上げた。
さらには自らの体まで改造する博士。
最強の兵士たちを率いて自分の力を思い知らせるために。
組織とはミュータント部隊。ミュータント技術を作り上げたプロジェクトチームにこの博士は席を置いていたのだ。
研究者として華々しい活躍をしていた彼(彼女)は、ある日すべてを失った。
改造される兵士たちを物としか思わない危険思想のために、除籍されたのだ。
さらには持てる知識のために彼は逆に狙われるようになった。
彼(彼女)は追放され、果ては社会からも抹殺されてしまう。
博士は復讐を決意した。
主席研究員の一人であったため、ミュータント技術のノウハウは持っている。
そこで彼(彼女)なりの新たな能力を組み込んだミュータントを作り上げたのだ。
博士の復讐が始まったのだった。
●補足
アメリカ政府の秘密部隊、ミュータント部隊の活躍を描く映画です。
ミュータント部隊は、獣化能力(完全獣化)を持つ兵士で、さまざまな経歴を持っています。
(軍隊出身、不治の病を癒す代わりにミュータント化、戦闘力の高い犯罪者上がりなど)
獣化能力と現代兵器を使った戦闘を得意とし、特殊な能力を持っているものも少なくありません。
今回の敵は、ミュータント部隊を追われた博士の作ったネオミュータントです。
従来のミュータント兵士の能力に加えて、新たな能力を持っているという設定です。
またベースとなった人間は、博士の作ったクローンです。
博士の命令だけを聞くといった無機質で無感情な演技が求められるでしょう。
なおクローンの元になった人間が誰かは描かれませんので、誰かと同じ顔という設定にする必要はありません。
俳優はミュータントか、博士、博士の手下のネオミュータントのうち1つを選んでもらいます。
内訳は、ミュータント戦士が5人。博士1人、ネオミュータント4人です。
スタッフサイドがキャラクターとストーリーの詳細を決めてくれるでしょうが、口出しはもちろんいいでしょう。
キャラクターの台詞や動きなんかを重視するとといいでしょう。
●リプレイ本文
●胎動
「くっくっくっく‥‥」
ディスプレイからの反射光が照らす真っ暗な部屋。
そこで哄笑を上げる一人の男がいた。
その顔には妄執が深く刻み込まれ、狂気が色濃く浮かび上がっていた。
彼が見つめるその先には三つの巨大なカプセル。
「‥‥我が復讐を果たすための“駒”がついに完成するのだ‥‥」
にやりと口の端を吊り上げ、再びどこか壊れた笑い声を上げるその男。
彼の名は大河。鬼頭虎次郎(fa1180)演じるドクター大河。白髪の混じった灰白色のぼさぼさ髪と擦り切れた白衣。
鋭すぎる眼光を放ち、その全身から発するは狂った恨みと殺意だけであった。
そして彼はスイッチを入れる。
ごぼり‥‥カプセルの中の三つの影が揺れた。
機械の唸る音、ごぼごぼと何かが流れる音。そして大河の前に三つの影が起き上がる。
「おまえたちの主が誰かわかるか?」
『‥‥それは貴方です』
三つの声が唱和する。
「おまえらが何のために生まれたのかわかるな‥‥復讐だ!」
何も言わずに頭を垂れる三体の猛獣。ミュータントを越えたミュータント、ネオミュータント。
「くっくっくっく‥‥まずは私の力を証明するためにひと暴れしてもらおう!!」
三つの影はゆっくりと起き上がる。
一つは紅く燃える金の髪と鮮やかな紅い瞳を持つ女性。左の肩口から見えるのは01の刻印。
彼女はフェリシア・蕗紗(fa0413)演じる01。
彼女の瞳には全幅の信頼があった。それはまるで猛獣の子が親に寄せる信頼。
彼女の背には身の丈を超える大剣が。その腕で到底支えきれそうも無い巨大な鉄の塊を背負っていた。
そして彼女はゆっくりと右の手袋を取ると、その手は獣毛で覆われていた。
その獣毛に覆われた手がゆっくりと大剣を掴むとそれを持ち上げる‥‥。
次なる影は白金の髪とアイスブルーの瞳をもった男だ。鎖骨の下に13の刻印。
彼はレーヴェ(fa2555)演じる13。
彼の表情には一切の人間らしさが無かった。まるで機械のように、与えられた目的だけがその意思であった。
腰にはその姿にそぐわない古びた日本刀が一振り。
その一振りには凄みがあった。そう、刀は彼と同じくただ殺すという目的のためだけに作られた道具。
ちきり‥‥彼は包帯に覆われた左手で刀の鯉口を切った。戦う準備は出来ている‥‥。
最後の影は銀白の長い髪と深い赤の瞳の女性。左手の甲に09の刻印。
彼女は桐沢カナ(fa1077)演じる09。
彼女の瞳には何も写っていなかった。しかし、それは深い湖のような静けさ。
まるで何かが奥底に潜んでいるかのように、時折揺らめく水面。
彼女は髪をかき上げる。髪の下から現れたのは獣の瞳。縦に割れる瞳孔が不気味に光を跳ね返す。
にわかに彼女の目の前の空間が揺らめく。無敵の盾を持つ殺戮の女神はゆっくりと頭をめぐらせた‥‥。
「行け、我が駒たちよ‥‥思う存分暴れてくるのだ!!」
その言葉にはじかれるように三つの影が研究室から飛び出した。
「くく‥‥くはーっはっはっはっはっは!!!!!」
高く響く彼の哄笑。飛び出した三つの陰で崩れた研究室の一角から零れ落ちた一枚の写真。
裏にレイチェルと書かれた写真は、博士の足によって踏みにじられたのだった。
●破壊
「あいつらはいったいなんなんだっ!!」
警察官が叫ぶ。二重三重にバリケードをつくるパトカーの影から発砲する何十人もの警察官はみな同じことを考えていただろう。
銃弾は銀の髪の女の前で勢いを失って澄んだ音とともに地面に落ちる。
車の壁は長身の女が振るう時代錯誤な剣の前に真っ二つにされる。
そして風のように走り抜けた男とその日本刀が次々に警察官たちの命を刈り取っていく。
「だれかっ! だれか助けてくれっ!!」
悲痛な声が響く。しかし三つの猛獣を止まらないのであった。
01が振るう巨大な剣が戦車の砲塔を断ち割る。アンバランスな武器に戦い方、まるで血に飢える肉食獣。
横なぎに振るわれた剛剣の一撃は街路灯ごと装甲車の乗員を車体もろとも叩き斬った。
斬るというよりは叩き潰すその凶器。百戦錬磨の兵士たちすら恐怖させたのは01が発する鬼気であった。
13は縦横無尽に戦場を駆ける。鞘走りと鍔なりの音。それがなるたびに一つの命が消えていく。
「目標確認‥‥殲滅開始」
ぽつりと13が呟く言葉。機械仕掛けの死神はただひたすら命を刈り取っていった。
09の両手の拳銃が唸りを上げて鉛の雨を降らす。反撃する銃口からの弾丸は全て彼女の眼前で停止する。
眼前の空間が揺らめくと、そこには不可視の盾。戦車砲すら空中で縫いとめる。
避ける必要は無い。弾を放ち刃を振るい、彼女は破壊と死を振りまいていた。
●出動
KAMO関(fa2988)演じる賀茂忠志は以前、賀茂ノ海という力士であった。
彼には生まれながらに備わった特異な体質があった。だが彼はその力を自分のために使おうとはしなかった。
しかし彼はたった一度だけ、その力に流されてしまう。そのことは彼の心に大きな傷を残していた。
そして彼は今、その力の使い道を探すために、とある部隊にいるわけである。
「おお、緊急招集か! 急いでいかねばな」
彼の力は、今振るうべき場所を求めていた。
「変わってないな」
薄暗い路地を歩くのは賈・仁鋒(fa2836)演じる『ブレイズ』だ。
スラム街の一角、そこは彼の故郷であった。
そんな掃き溜めで育った彼の生い立ちはありきたりなものだった。
ストリートで目端の利く彼は這い上がり、マフィアに拾われた。そしてお決まりの結末、裏切られたのだ。
死のふちをさまよっていたときに、彼は今の居場所に拾われることになった。
そのとき、携帯電話が着信を告げる。
「あー、はいはい。すぐに行きますよ」
飄々と返したのは本部からの緊急招集。何よりも裏切りを憎む彼は、彼を待つヘリの元へと足を向けた。
軍での思い出。その全てはもう動かない友の亡骸を抱きとめる光景で終わる。思い出すたびに彼女の心は軋む。
「‥‥あれからもう‥‥」
シヴェル・マクスウェル(fa0898)演じるレティシアはそっとため息をついた。
首から下がる認識票(ドッグタグ)、その数は二つ。一つは殉職した親友のものであった。
レティシアは自嘲に唇を歪めながらナタリーという『友』の名が刻まれたその認識票を握り締める。
そのとき突然の電話が。
「‥‥はい、至急向かいます」
そして緊急呼び出しに応えるために彼女は立ち上がる。
「銀の髪‥‥いや、まさかな」
彼女は戦場に向かった。残酷な運命が待つことを知らずに‥‥。
●遭遇
「敵はわれわれと同じ獣化能力があるだって?」
賀茂が問いかけると、ブレイズは首をかしげる。
「報告では、獣化していたそうだが‥‥裏切り者って分けないしな。レティシアはどう思う?」
「何であろうと関係ないね。ただ任務を果たすだけだ」
つっけんどんに答えるレティシア。ブレイズは肩をすくめて口をつぐむのだった。
彼らは、高速ヘリで現場付近まで到着する。たった三人だがその戦力は折り紙つきだ。
現代の主力戦車を突進で破壊できる賀茂、高速戦闘に天賦の才があるブレイズ、そしてミュータントとしてはベテランのレティシア。
三名に与えられた使命は、謎のミュータントたちの補足、殲滅である。
まだ黒幕は判明していないが、事態は一刻を争うのであった。
「こりゃひどいな‥‥」
賀茂が呟く。
戒厳令がしかれ、人気の無くなった街。そのところどころには破壊の後が残されていた。
崩れた建物に破壊されたまま放置されている兵器の成れの果て、果てはさまざまな残骸。
そのとき、彼らミュータント部隊ははるかかなたから呟きを聞いた。
「敵ミュータント確認‥‥戦闘開始」
ごぅという風とともに放たれた一閃はまっすぐ賀茂へ。
しかし、腕で刀を受け止める賀茂、なんと響いた音は金属の響きだった。
賀茂の上半身が見る見るうちに硬質化してゆく。
鋼の弾丸すら通さないその最強の鎧に、しかし13の刃は一筋の傷をつけていた。
「く‥‥攻撃力が高いな‥‥全力で行くっ!」
「敵ミュータントの防御力評価を上方修正‥‥戦闘再開」
賀茂が吼える。しかしそれに対して13は冷静に呟くのみだった。
閃く幾重もの剣閃を賀茂が受ける。自らの鎧を信頼して耐える賀茂は、相手の剣閃を割って突進。
飛び退って避ける13、避けられて賀茂はコンクリート塀につっこむ。
まるで積み木の壁のように賀茂はタックル一撃で壁を粉砕すると、コンクリート塊を13に投げつける。
それを刀の一閃で真っ二つに切り裂く13、しかしその好きに突進した賀茂は今度はその鋼の両腕で張り手の連打。
装甲車を片手一本で止めるその膂力から生み出される力の連打と、鋭すぎる刀の一撃。攻防は白熱していくのであった。
そして同時に他の2人も戦っていた。
「博士は血がお望みのよう‥‥私はその命を果たすのみ」
「そう簡単に行くかな? ま、勝負してみりゃわかることだな‥‥」
01は巨大な剣を振りかざし、対するブレイズは大型拳銃をしっかりと構える。
01の瞳から理性がゆっくりと消え、残るのは残忍で暴虐な獣の本能。
対するブレイズからは、普段の軽薄さが消え冷酷さと非情さが浮き上がってくる。
「容赦は‥‥しない」
大型拳銃から放たれた轟音が空気を震わす! その弾を剣を立てて受けた01は横薙ぎにブレイズをなぎ払う。
それをジャンプして回避したブレイズは空中から性格に狙いをつけて再び弾を放つ。
しかし、巨大な剣を振り回しているとは思えない速度で動く01を捉えることが出来ない。
空中で身動きが取れないブレイズに対して、なんと01は飛び上がり巨剣をなぎ払う。
剣はブレイズを捉える、と思えたのだが空中でブレイズは剣を銃身で受け止めた。
「オォォォォォォォ!!!!」
猛獣のような叫びを上げる01はさながら狂戦士。受け止められたままブレイズを弾き飛ばす!
ブレイズは、横様にすっ飛ぶと、ビルの窓から中に飛び込んでいく。
そしてそれを追ってビルに入り込む01。華麗な身のこなしで起き上がったブレイズを前に、再び剣戟が降り注ぐ。
狂戦士は戦えば戦うほどその勢いを増し、その剣戟はますます苛烈さを増すのだった。
「そこかっ!」
砂塵の向こう側にかすかに見えた影。歴戦の兵士の勘が告げるままに銃口を向けて弾を放つレティシア。
しかし弾は空中で縫いとめられた。
砂塵を割って飛び出したのは、最強の盾を纏った銀髪の猛獣。
両手の拳銃を瞬時にホルスターに収めると、カタールと呼ばれる特殊な武器を引き抜いた。
刃と直角に作られた柄を握ると拳の延長に刃が来る特殊な短剣、別名ジャマダハル。
獣の爪のように両手の刃を振りかざして09はレティシアへと襲い掛かった。
間一髪それを回避するレティシア。しかし彼女は驚愕していた。
「この戦い方は‥‥ま、まさか。いいや、そんな筈は無い!!」
その焦りを表すかのように、弾丸をつぎつぎに放つのだが、全て空中で遮られてしまう。
「この『イージス』に防げぬものはない‥‥」
感情の一切こもらない声で呟く09。再び両手のジャマダハルを構えると、左右からの連撃!
その一刀がレティシアの銃を切り裂いてしまう。
だがレティシアは慌てず腰の後ろから大振りなナイフを引き抜いて相手に叩きつける。
しかしその一撃も見えないたてに遮られてしまい、絶体絶命のピンチ!
ジャマダハルがレティシアに襲い掛かろうとしたその時、レティシアは思わず声を上げる。
「ナタリー!!」
その瞬間、ほんのわずかにジャマダハルの剣先がぶれた。その剣先はレティシアを絶命させること無く、レティシアの頬を浅く切り裂く。
そして09の無敵なはずのイージスが揺らめき、その効力が弱まる。
そのためレティシアのナイフが09の肩口を浅く切りつける。
ぐらりとよろめく09、そして呟く。
「私をナタリーと呼ぶ‥‥お前は、誰だ?」
ざぁっと風が吹き、09の髪がなびく。するとその顔が露わになる。
09が獣の瞳へと変質している場所は、かつて友のナタリーが致命傷を受けた場所である。
「おまえは‥‥やっぱりナタリーなのか?!」
「う‥‥うぁぁぁぁぁ!!」
突如混乱をきたした09が強烈な斬撃をレティシアに放つ。
無防備にそれを受けてしまうレティシア。高い再生能力を持つレティシアでも暫くは起き上がれない傷である。
しかし、09は止めを刺すことなく去って行くのだった。
「予想外のことが起きたか‥‥仕方ないが13は使い潰すとしよう。01、戻って来い」
研究室で通信しつつ、何の痛痒も覚えず大河はスイッチを入れる。その時13の体に変化が起きた。
「『リミットブレイク』発動‥‥臨界点まで後‥‥」
突如、13の体に力が満ちる。超人の力を振るうミュータントの力。しかし13の力はその力をさらに超えた力であった。
大きく振りかぶったその刀を真っ直ぐに振り下ろす13。
突然戦線を離脱した01を追わずに助けに駆けつけたブレイズは悪い予感がした。
「賀茂っ!! 避けろ!!!!」
今までならばその刀を受け止めていた賀茂であったが、ブレイズの声で思わず転がり避ける。
するとその次の瞬間、100メートル近くにわたって地面が“爆ぜ割れた”!
人知を超えた膂力で振るわれた刀が巨大な真空波のうみ、その余波を受けて吹き飛ばされる賀茂とブレイズ。
全身から血を流しながら、自らの体すら破壊して攻撃する13。
その捨て身の攻撃に対して2人のミュータントは防戦一方であった。
そして、ついに13の攻撃が賀茂を捉えてしまう!
横薙ぎに放たれた真空の刃が賀茂の鋼と化した胸板を真一文字に切り裂く。
しかしその瞬間、13にも活動限界がやってきたのであった。
「臨界点突破…肉体の崩壊を確認‥‥自爆装置の作動を確認‥‥任務完了‥‥」
最後まで一切の感情を見せずに、13はその生命活動を停止した。
そして溢れる光と爆炎。その身におとづれるだろう衝撃を身構えてブレイズは身を硬くした。
がその爆風はいつまでたってもやって来なかった。
「‥‥ブレイズ、無事かい?」
ブレイズを爆風から守ったのは賀茂だった。我が身を盾としたのだ。
「賀茂っ! お前、俺を守るために‥‥」
そこでガクリと膝を突く賀茂。しかし、彼を受け止めたのはレティシアだった。
「‥‥さっきは不覚を取った。でも、次こそは負けない‥‥私は自分の為すべきことを思い出したのさ。黒幕が分かった」
「! ‥‥レティシア。俺を置いていくなんていわないで下さいよ?」
「だけど、賀茂。お前その傷じゃ‥‥」
応急処置を受けた賀茂に対してブレイズが言う、しかし賀茂は首を振って応える。
「まだできることはある。それに‥‥なんとしても止めないと」
三人は最後の戦いへと向かうのだった。
●決戦
轟音と共に研究室の正面扉が粉砕される。
粉砕したのは賀茂のタックルだった。
そして踏み込んだミュータント部隊の3人の前に、三つの人影が姿を見せる。
ネオミュータントの01、09。そして黒幕であるドクター大河。
「‥‥これはこれはようこそ諸君。さて‥‥君たちはここを自分たちの死に場所に選んだようだね」
どこか狂的な笑みを浮かべていう大河。それをきっと見据えて賀茂が言う。
「‥‥博士っ! あなたは何故こんなことをっ!」
「‥‥何故? それはもちろん私の力を証明するためだ。私の駒がお前らという駒より強いことを証明してな!」
「くっ‥‥」
賀茂の心を全てを捨てて逃げてしまった自分への悔恨の思いが過ぎる。
「もう、やめることは‥‥この蛮行を止めることは出来ないのですかっ!!」
「‥‥何を言う。止める必要なんてないじゃないか‥‥くく、くぁっはっはっはっはっは〜!!」
血が出るほど唇を噛み締める賀茂。彼は無言で再び鎧を纏うと、博士へと突進する!
「それならば私があなたを止める!!」
「笑止! この私ガ貴様ら屑ニ負けルゥわけガ無イィィ!!」
見る見るうちに博士の体も変貌する。その姿は巨大な二足歩行の虎。
大河は、その爪の生えた腕を一閃。すると強固な鎧で覆われているはずの賀茂の肩口が切り裂かれ、さらには腕力で弾き飛ばされる。
賀茂は壁をぶち抜いて隣の部屋へと吹き飛ばされる、それを追って飛ぶ博士。
同時に二つの戦いも始まっていた。
数年前、レティシアがミュータント部隊に入る前、彼女には親友がいた。
名はナタリー。お互いに背中を任せられる最高の相棒であった。
明るく前向きなナタリーは、レティシアにとっても大きな支えになっていたのである。
しかしある日、別離は唐突におとづれた。
一発の銃声、レティシアは分かっていた。彼女の最愛の友がもう助からないことを。
「‥‥レティシア、私の分まで長生きしてね‥‥」
自分のドッグタグを差し出しながら最期まで笑みを向けたナタリー。
そして今レティシアは、その親友と同じ顔をした敵と再び向かい合っていた。
互いに銃を向け、刃を交える。しかし、再調整を受けた09の動きはどこかギクシャクとしていた。
さらには最強の盾であるはずのイージスが攻撃を防ぎきれないときもあった。
09は生まれて初めて動揺していた。
「私達は不確実性を一切排除し、完全な存在として造りだされたはずだ。だが、これは何だ‥‥胸が、苦しい‥‥」
ついに動きを止めてしまう09、それにそっと近寄るレティシア。
レティシアは涙を流していた。レティシアはそっと09を抱きしめる。
「一体なんの為にミュータントになったのか、思い出して‥‥」
その時、09もその獣の瞳から涙を流していた。そして最後にレティシアは呟いた。
「もう‥‥終わりにしよう」
レティシアは力いっぱい09を、そのナタリーがクローンの元になった09を抱きしめた。
超人的な膂力を誇るレティシアの抱擁。09は二度と眼を覚ますことはなかった。
「‥‥さよなら」
涙を拭ったレティシアは、一度敬礼を向けると、すべての元凶を断つために戦場へと駆け出した。
大河の爪が、賀茂の胸板を切り裂く。
すでに深手を受けている賀茂、すでに動く力はなくなっていた。
がっくりと倒れる賀茂、それを一瞥して大河は立ち上がる。
一方、ブレイズはピンチに陥っていた。
01の大剣の一撃が、彼の拳銃を完膚なきまでに破壊したのである。
投げやりに拳銃の残骸を投げ捨てるブレイズ。
それをみて01は獰猛な笑みを浮かべ、巨大な剣を振りかぶり‥‥振り下ろした。
しかし、その剣を横から衝撃が襲う! なんとそれはブレイズのハイキック。
ハイキックで軌道をずらされた剣をそのまま蹴り足で踏みつけると、その上にのるブレイズ。
さらに重さのせいで地面に突き刺さる剣を軸にその上で強烈な回し蹴りを放つ。
流石に不意の一撃で01は吹き飛ばされてしまう。
「悪いがな、銃よりこっちの方が慣れているのさ‥‥」
悪辣なほど冷静で容赦ない一撃。昔の顔がうかがえるような一瞬である。
そしてブレイズはその隙を逃がさず、大河へとその矛先を変える。
「貴様が諸悪の根源だっ! くらえっ!!」
超人的な脚力を駆使した蹴りわざ。白狐へと完全に姿を変えながら大河へと襲い掛かる。
しかし、大河もさるもの。その一撃をしっかりとかわし、あるいは受け止める。
だが、大河の目的は果たされた。
その瞬間、レティシアがジャマダハルを手に大河の死角から襲い掛かっていたのだ。
全てが終わると思った瞬間。なんとレティシアの眼前に飛び出してきた影が。
その身を盾にジャマダハルを受け止めたのは01だった。
そして、動きの止まったレティシアに対して大河は01ごと爪で切り裂いたのだった!!
「そいつはお前の部下じゃないのかっ!!」
声を上げるブレイズ。しかしそれに対して、すでに理性を失いながら大河は応える。
「‥‥グゥルルル‥‥道具ヲ主ガ自由ニツカッテ何ガ悪イ!! 我ノタメニ死ネテ本望ダロウゥゥ!!!」
レティシアともども深手を負って崩れ落ちる01。01の方が大河に近かったために致命傷である。
「オマエデ最後ダ!!!!」
大きく爪を振るおうとする大河、しかしその爪には何かが引っかかっている。
それは01を切り裂いたときにその爪に引っかかった01のつけていたペンダントだった。
そのペンダントが滑り落ちる。先端のロケットが壊れると中に一枚の写真が見えた。
それは若い頃の博士とその娘。すでに死んだ娘‥‥だがその娘の髪と瞳は01と全く一緒であった。
娘のクローンをベースとされた01。しかし彼女は死ぬまで彼女が感じるその主への慕情の正体をしることはなかったのだった。
しかし、一瞬。わずかな一瞬だけ大河に隙がうまれた。
その瞬間、ブレイズが動いき、その超人的な蹴りが大河を襲う。
大河も反応しその蹴りを受け止めるのだが‥‥。
「貴様ノ切リ札ガ蹴リナノハ知ッテイルゾ!!!」
しかしその蹴りは、インパクトの瞬間、爆炎を上げた!
「ガァァァァァッッ!!」
全身を衝撃と炎で焼かれて苦悶する大河。
慌てて引こうとするのだが‥‥その脚が何ものかにつかまれた。
「‥‥逃がさない」
掴んだのは賀茂。必死にその脚を掴みとめていた。
「‥‥これで終わりだっ!!」
ブレイズのハイキックは大河の頭を直撃。爆炎にまかれて博士の体は燃えさかる研究室の中に見えなくなっていくのだった。
全てが終わり、なんとか生きのびることができたミュータント部隊。
燃えさかる研究所を背後に、それぞれがかすかに笑みを浮かべるのだった。
「奥の手を先に見せるなら、更にその奥の手を超える物を持っていないとな」
にやりとブレイズは笑みを見せ。
「‥‥誰も死ななくてよかった」
賀茂はほっとした笑みを見せ。
「‥‥久しぶりに墓参りにでもいこうか‥‥」
レティシアは少し寂しそうな笑みを見せるのだった。
そしてスタッフロールが流れる。
そのスタッフロールが終わるとき。
ごぼごぼとあわ立つ巨大なカプセルの中。そこにはドクター大河の影がいくつも。
そして、カプセルの前に立つ人物のシルエットが笑みを浮かべて‥‥暗転。
−END−