ホラー『恐怖の屋敷』南北アメリカ

種類 ショート
担当 雪端為成
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/11〜03/17

●本文

「なぁ、ヨハン。なんで部屋の隅で体育座りしてるんだ?」
 部屋に入るなり問いかけたのは、凛々しい妙齢の女性。
 プロデューサーのヨハン・トビアスの姉、エリザ・トビアスである。
 そして部屋の隅っこでプルプル震えているのは、ヨハンその人である。
「‥‥うう、アレクから怖い脚本が来たんだもん‥‥」
 アレクとはヨハンの友人であるアレクサンドロス・ルティオスという青年脚本家。
 ギリシャの彫刻のような美形であるが、性根は純朴だとか。
 ちなみに、脚本はかなり何でも書くらしいが、どれもストレートでお約束な物らしい。
 まだ若いとはいえ20をいくつか超えた男が“〜もん”とはいかがなものだろう?
 弟の発言に対して姉のエリザはそう思いつつも、とりあえず脚本を手に取った。
 どーんと表紙に踊るのは『恐怖の屋敷』の文字。
「ほほー、アレクのホラーは久しぶりに見るな。監督はやっぱりマルコか?」
「うん、マルコは張り切ってるみたい」
 マルコとは、これまたヨハンの友人である監督、マルコ・ジェリーニのことである。
「そーかそーか、楽しくなりそうだなぁ♪」
「‥‥ううぅ、怖いよぅ‥‥」
 まだにホラーを見た夜には一人でトイレに行けない青年プロデューサー、ヨハントビアス。
 だくだく泣きながら、彼は俳優募集のために動き始めるのだった。

●ホラー映画『恐怖の屋敷』出演者募集。

●ストーリー概要
 ・旅行かツアーにて主人公たちは天候の変化で立ち往生、山間の館を見つける。
 ・館は無人の廃墟。とりあえずひと時の宿をと一同は館で夜を越そうとする。
 ・次々に襲い掛かる恐怖の現象。
  >ある者は刃物を掲げた殺人鬼。
  >ある者は凶悪な猛獣。ある者は巨大で不気味な正体不明の化け物。
 ・一同は集まり対策を考える。
 ・しかしその怪奇現象に謎のものが混ざりはじめる。
  >ある者は、小さいとき怖かった隣の怖いオヤジに遭遇。
  >ある者はだいっ嫌いなぴーまんの大群に遭遇。
 ・屋敷には不思議な力があった。それは人の恐怖を実体化させること。
 ・恐怖に感じていることやものが実体化するのである。
 ・実体化した恐怖の具象は千差万別。カタツムリが嫌いならカタツムリにもなる。
 ・実体化した恐怖はその恐怖の元になった人間が意識を失わない限り消えない。
 ・つまり、その恐怖に殺されることもありえるのだった。

 ・謎を暴いた主人公たちは命からがら逃げるのだった。

●注意点とか。
 ・出演者の怖いものが具象化します。その実体化したものは特撮やSFXで。
 ・俳優が本当に怖いものの方が、恐怖に震える演技がうまくいくからというのが理由。
 ・途中でその恐怖の具現化に殺されるキャラクターがいてもよし。
 ・謎の真相にはキャラクターのうち誰かが気づくようにしてもらいたい。
 ・最後はただ屋敷に火を放って逃げるというエンディングを希望。

 その他でも、俳優のアイディアが大きく取り入れれられる可能性ありということ。

●今回の参加者

 fa0368 御鏡 遥(17歳・♀・狼)
 fa0413 フェリシア・蕗紗(22歳・♀・狐)
 fa0769 凜音(22歳・♀・一角獣)
 fa1077 桐沢カナ(18歳・♀・狐)
 fa1266 百瀬 愛理(17歳・♀・猫)
 fa1771 由比美紀(20歳・♀・蝙蝠)
 fa2121 壬 タクト(24歳・♂・兎)
 fa2662 ベルタ・ハート(32歳・♀・猫)

●リプレイ本文

 降りしきる激しい雨、そんな中を行く一団が見えた。
 彼らが進む先には古びた洋館。
 稲光が一瞬その洋館を照らし出しタイトルロール。
『恐怖の屋敷』
 監督や脚本家の名前がさっと流れ、画面はどんどん屋敷へと近づいてゆく。
 そして屋敷の手前、先ほど一瞬映し出された一団が映し出された。

「さあ入りましょう‥‥大丈夫よ。だいぶ使われてないみたいだし、雨宿りぐらいで怒られたりしないわ」
 フェリシア・蕗紗(fa0413)演じるリジーは屋敷の入口に立って雫を払いながら一同に向けて言った。
 その言葉に皆は眼前の屋敷を見上げる。
 おどろおどろしく古びた外観の屋敷がそびえている。
「突然の雨なんてまったくついてないわねぇ」
 由比美紀(fa1771)演じるミキは湿気たタバコに根気強く火をつけながら屋敷を見上げる。
「ま、たしかに雨宿りくらいは出来そうだけど、ホントにいかにもって感じの建物ね」
 やっと火がついたタバコを一服、ふぅと紫煙を吐き出しながらやれやれといった様子である。
「とりあえず入りましょうか」
 桐沢カナ(fa1077)がそういって扉を開く。するとぎぃときしんだ音と共に扉は開いた。
 一同は屋敷に踏み込む。
「‥‥まるで本当にお化け屋敷みたい‥‥」
 古びた内装のホールを前に、凜音(fa0769)演じるサリー・アーヴィンが呟く。

 8名の若者は、これから巻き込まれる恐怖にまだ気づいていない‥‥。

 壁のスイッチをつけるとシャンデリアが輝く。電気は来ている様だ。
「嫌ぁね、ここ。本当にずっと使われていないのね。埃っぽくって」
 けほけほと咳き込んで口を開いたのはウィルマ・ホーン役のベルタ・ハート(fa2662)だ。
 彼女は埃に塗れた古い籐椅子をいやそうに眺める。手についた埃を払いながら彼女は言った。
「洗面所で手を洗ってくるわね」
 徐々に面々はバラバラの行動をとるのだった。
「ちょっと着替えてくるわね」
 クールな雰囲気の美紀。雨にぬれたままのハイネックがいやだったのか、カバンを漁りながらさらっと告げる。
 飄々と美紀(ミキ)は隣の部屋へ姿を消した。
「私はちょっと周りを見てきますね」
 好奇心に勝てなかったのか目を輝かせてカナも姿を消す。
「私も少し屋敷の中を歩いてきますわ」
 黒髪が目を引く凛音。前の2人とは違う扉を開くと、明かりのスイッチをつけて進んでいく。
 そして中央の部屋に残ったのは残りの4名。
「何時になったらこの雨は止むんでしょうね?」
 窓から外を見上げているのは壬 タクト(fa2121)。
「でも旅行中にこんなお化け屋敷に来れたなんて、ラッキーかも?」
 壁に寄りかかりながら能天気に言う御鏡 遥(fa0368)。
「でも‥‥本当に不気味なところですね」
 百瀬 愛理(fa1266)がどこか怯えた様子で言うと、一同は顔を見合わせるのだった。

 そして恐怖は襲ってくる。

「‥‥なんの音かしら?」
 ぽと、ぽと、となにかが落ちる音に振り向く凛音(サリー)。
 そこには青虫が一匹、二匹。
 ぽとぽととさらに数が増えていくイモムシたちは、ぞろぞろとまっすぐ凛音の方へ進んできたのだった!
「い‥‥いやぁーーー!!!」
 凛音は全速力で逃げるのだった。

 着替えを済ませた美紀。その部屋には扉があった。その扉がゆっくりと開くと奥に1人のピエロ。
「ちょ、ちょっと‥‥悪ふざけはやめてよ」
 強がるものの声は振るえ青ざめる美紀。それにかまわずチェーンソーを振り上げるピエロ。
 ニタニタ笑うピエロが近づいてきて‥‥。
「っっっ!! 何なの〜!」
 彼女もまっすぐみんなが集まっているはずの中央ホールへと逃げていくのだった。

「ここは地下室ね」
 がらんとした地下室を見回すカナだったがそのとき音が聞こえた。
 がさり、がさり。なにか乾いたものが動く音。
 懐中電灯をその方向に向けると、そこにはミイラの姿が。
「な、なんでミイラが動いてるのっ!」
 かまわず接近するミイラ。それをマグライトで殴って払いのけるカナ。
 乾いた音と共にミイラの首が折れ曲がるのだが、その空洞になった眼窩から今度は大きな蜘蛛が。
「く、蜘蛛はいやぁぁぁ!!」
 彼女もまた逃げだすのだった。

「今の悲鳴は?」
「私ちょっと行ってみる!」
 そこかしこから同時に聞こえた悲鳴。それを聞いて飛び出したのはヨウとタクトだった。

 そして恐怖はさらに伝染する。

「今の音は何かしら?」
 洗面所で鏡を見ていたビー(ウィルマ役)は首をかしげた。
「‥‥嫌ぁね。なんで、こんなに頭が痒いのかしら?」
 ビーが髪に手をやるとその手には何かが。
「なにこれ、カビ? なんで、こんな所に‥‥」
 ふと彼女が部屋を見回すと、部屋中がカビに覆われている。そしてそのカビは彼女の足にも。
「わ、私の足にも!! あ‥‥あぁぁぁ!」
 鏡の中の彼女をカビが覆い‥‥彼女の意識は闇に落ちた。
「ウィルマさん!!」
 駆け込んできたのはタクトである。
 彼が見たのは“まったく無傷のビー”。その瞬間、彼も恐怖に引き込まれた。
 ぼとり。落ちてきたのは一匹の蛇。
「?!」
 ぼとぼと次々に現れる大量の蛇。あわててタクトはビーを抱え上げると、蛇から逃げホールへと向かおうとする。
 追いすがる蛇。そして声が。
『見捨てないで、お兄ちゃん‥‥』
 蛇の山に埋もれるタクトの妹。はっと振り返るタクトだが、妹は全身を蛇が‥‥。
 ホールを目前にしてタクトも気絶するのだった。

「ミイラに襲われたのっ!!」
「‥‥いやぁ、もういやよぉ」
「チェーンソーのピエロが出たのよ!」
 ホールにばたばた駆け込んできたのは三人の女性で三人とも混乱して言うことが要領を得ていないのだった。
 ホールにいた2人、フェリシアとアイは三人の話を聞いていた。
「この館‥‥何かあるのかしら?」
 アイが言う。そのとき、2人にも恐怖がやってきたのだった。

「いやぁ! 来ないでぇっ!」
 どこからか紛れ込んだ蝶々が一匹。はたはたとアイのほうに近づいてくる
「っっ!! っきゃーーーーー!!」
 耳を劈く悲鳴を上げたのはなんとフェリシア。そして椅子を掴んで壁にブン投げる!
 その先にはかさかさ這い回る黒い悪魔、ゴキブリが。
 なぜか他の女性たちも巻き込んできゃーきゃーゴキブリ退治が勃発。
「きゃーー! 飛んだっ! こっち来たわ〜!!」
 蝶々もゴキブリも数をぐんぐん増していく。
「きゃーー! いやぁぁ!」
 怖さのあまり走って逃げようとしたフェリシア、なんとアイに正面衝突!
 ごちん! とすさまじい音がして2人はそろって気絶したのだった。
 ふっと掻き消える蝶とゴキブリ。あまりのことに呆然とするカナ、凛音、美紀。
 そのときドアが軋みながら開いた。身構える三人だったが姿を見せたのは、なんと気絶したビーを抱えたタクトだった。

「私は私の妹が死ぬ姿を見たんですが‥‥」
 タクトが恐る恐る言うと、水でぬらしたタオルをおでこのこぶに当ててフェリシアが答えた。
「でも、貴方の妹さんはこの場所にいるわけ無いのよね?」
「ええ、携帯でついさっき電話しましたし‥‥今はヨーロッパへ旅行中ですし」
「‥‥あの、本当に‥‥大丈夫‥‥なんですか?」
 恐る恐るたずねるアイにタクトが答える。
「ええ、たぶん今までの現象は‥‥私たちの怖いものを具現化しているのだと」

 一方1人だけかなり奇妙な恐怖体験をしている者もいた。

「なす?」
 廊下の真ん中にころりんと転がった茄子と対峙するヨウ。
 そのナスからにょきにょきと短い手足っぽいものが。ナスは短い手をぱたぱた振ると、なぜかコサックダンス。
「‥‥なにあれ」
 じと目でそれをみるヨウだが、なんと廊下の奥から足音が‥‥。
 ざっざっざっざっざ‥‥コサックダンスを綺麗に合わせてナスビが大行進である。
 そしてちょっと先でぴたっと足を止めるとちょこちょことナスが一匹近づいてくる。
 めりっとナスビに目が出る。そしてその目がにこっと微笑むと‥‥
「たべてーーー!! ナスビを食べナスぁーい!!」
 ナスがどどどどどどっとスタンピードである。
「いーーーーやーーーーー!!!」
 これには思わずヨウも泣きながらダッシュで逃げるのだった。

 場面は再びホール。
 恐怖に怯える一同の耳に物音が。
 どどどどどど‥‥た〜べ〜て〜‥‥いぃ〜やぁ〜‥‥
 どんどん近づいてくる音。そしてどーんと扉が開かれると、だくだく泣きながら走るヨウとナスの大群。
「なんだかいっぱい来たわ!!」
 ナスの後ろには、今まで遭遇したあらゆる恐怖の具現化が。
 手に持っていた即席の松明を振り回す一同。
 蝶やナスビがやけるとその炎はあっという間に屋敷全体に広がっていく。
「さあ、逃げるのよ! 全部燃えてしまえばいいのよ!」
 ゴキブリを見てパニくりかけてるフェリシアは正面扉を蹴り開けて外に飛び出る。
 轟々と燃える炎、焼けていく屋敷。
 お互いに肩を貸し、へろへろと屋敷から距離をとると、古びた屋敷は炎の中に崩れ落ちた。
「‥‥終わったのね」
 誰かが呟く。
 いつの間にか雨はあがり一同を明るく月明かりが照らし出しているのだった。