SteelGraveα南北アメリカ
種類 |
ショートEX
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
5.1万円
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参加人数 |
6人
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サポート |
0人
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期間 |
02/28〜03/06
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●本文
●初期予告編
――この惑星では二つの国が長き戦争を続けていた。
理由? そんなものは当に忘れた。兵士は命令があれば終戦まで戦うのみだ。
難しい事は考える必要はない‥‥。
今日もサイレンの喚き散らす騒音と共に、鉄の棺桶に乗って敵を撃つ。
これからも同じ小競り合いが続く筈だった――――。
兵士のモノローグが流れる中、コンクリートの地面に重量感のある脚部が駆動音と共に映る。
画面はズームアウトしてゆき、機体の全容を映し出す。
それは鋭角的でシャープなシルエットを浮かばせる人型兵器だ。
頭部は流線型の丸みを帯びたモノだが、全体的にミリタリーチックなフォルムに模られている。
アメリカ製作の変形合体ロボや、ジャパンで人気のプラモデルとも違う所謂リアルタイプな雰囲気が感じられるデザインだ。
鈍い機動音を響かせ、六機の兵器はゆっくりとした重厚な動きで前進してゆく。
六機の機体を映しながら、前方を捉える共にナレーションが入る。
――いつもと変わらぬ小競り合いの予定は、一人の兵士によって崩された。
敵国(ベルトレス軍)の兵士が盗んだのは最新型のSteelGrave=typeZephyr――――。
六機が追うのは、typeZephyrと呼ばれる人型兵器。重厚で攻撃的なフォルムに包まれており、より洗練されたシルエットを陽光に照り返しながら、攻撃して来る追撃の手から逃れてゆく。
――アメリカ屈指のSFXスタジオ『ハミルトン・フィルム』が送る!
二つの視点(αとβ)で描かれる近未来型バトルムービー!!
『絶対に奪い返せ! 不可能なら機体ごと破壊せよ!』
『敵機動兵器を前方に確認! 援軍のようです!』
――突破させるな!
――追いつかせるな!
――鋼鉄の棺桶同士の命運を賭けた鬼ごっこが始まる!!
『隊長を援護する! 敵の機体に乗っているからって当てるなよ!!』
SteelGrave!! ComingSoon――――。
●メカニック設定
・activebase=whale(ホエール)
アルマイト軍の移動本部であるSG輸送大型車両。
指揮車の役割も果たしており、中隊長が各機に指示を送れます。
・SG=typeZephyr(ゼファー)全長5m。
武装パージ技術により遠距離戦〜近距離戦まで対応したアルマイト軍次期主力SG。
重厚で攻撃的なフォルムに包まれており、より洗練されたシルエットの最新型人型兵器です。
・SG=typeUnlimited(アンリミテッド)全長4m。
平均的な性能だが、様々なバリエーションを可能にしたアルマイト軍主力SG。
鋭角的でシャープなシルエットを浮かばせる人型兵器です。
・SG=typeGarment(ガーメント)全長4m。
基本ベースにアーマーを衣服のように組み合わせ可能なベルトレス軍主力SG。
シルエットは直角型で戦車に足が装備されたような雰囲気をもっており、アルマイト軍SGより武骨で性能も劣る人型兵器です。
●αパート:アルマイト軍
・Scene1:輸送大型車両内。
アルマイト軍中隊用の大型車両が移動本部です。フォー(主人公)に声を掛けて立ち位置を演出しましょう。流れるような画面構成にしたいとの事で、主人公の後ろ姿を追うように映される予定。
・Scene2:「警報を鳴らして報告して下さい!」
フォーと共に格納庫を訪れた所、メカニッククルーが死亡していた。ベルトレス軍兵士がゼファーに乗り込むのを確認する隊員。フォーは単身アンリミテッドに乗り込み追撃を試みる。
・Scene3:遅れて部隊が追撃に参加。
技術も高くないフォーはゼファーの攻撃に苦戦する。そんな中、支援に駆けつける中隊のSG。
・Scene4:ゼファーの脅威的性能に苦戦。
次期主力とまで謳われた機体の性能に部隊は苦戦。一機、また一機と被弾してゆく。しかし、ゼファーは弾切れとなり、逃げに転じる。追撃するフォー達。敵援軍を確認。森林地帯は敵の防衛網だ。逃げられれば追撃は不可能となる。
ジャパニメーション好きで知られるソロ・ウォスキー監督は、夢見がちな瞳をあげた。
「輸送大型車両指揮とオペレーターが必要かは任せよう。中隊長がSGで出撃しても良いし、機体の索敵手ってのもアリだよね。オンラインゲームっぽい雰囲気も目指しているんだよ」
ソロ監督はアメリカ映画監督ジョージ・ハミルトンにより設立された『ハミルトン・フィルム』に招き入れられた新人監督だ。
ハミルトン・フィルムは所謂ハリウッド映画の重鎮であり、カリフォルニア州に大規模なスタジオをオープンし、SFX・CG・アクション系全般に強く、世界に通用するエンターティメント・メーカーとして絶大な影響力を誇っている。
ソロ監督としてはハミルトン・フィルムで成果を出せるかの重要な作品でもあった。
●アクター募集区分
主人公はNPCが担当します。
・アルマイト軍中隊(名称未定=相談で決めて下さい):8名。
1個中隊中隊長1名。オペレーター、メカニック及び機体に合わせた編成員7名。
3機編成等でリーダーを決めるのもOK。
●演じる為に必要な書類項目
・配役:アルマイト軍中隊の階級明記。
・役名:登場人物の名前です。本名で出演してもOK。
・設定:どんなタイプ(設定)のキャラクターを演じるか明記。
・得意:操縦・索敵・攻撃・回避・防御・援護から選択。
・SG:機体のタイプを選択。
(索敵重視)広域レーダー装備型 武装無。
(装甲重視)肩:小型ミサイルポッド 腕:ビームガン・ナックル
(攻撃重視)肩:ミサイルポッドorビームキャノン砲 腕:ガトリングガン。
(機動重視)腕:ビームガン・ブレード。
・SG:機体カラーを決めて下さい(リンク部分で表現されます)。
・主人公の外見イメージを簡潔に(可愛い/端整/精悍など)代表者1名で構いません。
・演技及び台詞など。
●フォビトン・フルート伍長(男/女)23歳:性別は相談で決めて下さい。
「警報を鳴らして報告して下さい! とにかく止めてみます!」
本編の主人公(通称フォー)。部隊では目立たないタイプで温和な性格。
偶然にもベルトレス軍のSG強奪を目撃し、アンリミテッドで追跡を試みる。
●リプレイ本文
●アルマイト軍グリフィン中隊
――枯れた地表に大型輸送車両兼移動本部『ホエール』が根を下ろして暫らく経つ。
鯨の名が付いた大型車両の主な任務は、近隣の戦場への支援である。故に移動本部としての能力も備わっており、車内には居住ブロックも完備され、生活環境としては安定している。支援要請が入らない現状は、こうして何もない地表で待つ。否、ただ待っているだけではない。グリフィン中隊にはテスト部隊の側面も持ち合わせており、格納庫では最新型SteelGrave(SG)が正式配備の刻を待っていた――――。
視界に外の景色が映る中、一面に広がる枯れた大地が揺れる。合わせて響き渡るは大地を踏み締めながら駆ける機動音だ。様々な情報がディスプレイに表示され、岩山だらけの閑散とした風景が方向転換、中央に巨大な装甲車を捉えた。そのまま再び前進してゆく。
「こちらフォビトン伍長。帰還します」
響き渡ったのは舌足らずな少女の声だ。続いて年期の篭った男の声が通信機から飛び込む。
『おう、了解じゃ。どうじゃった? 早朝のランニングは』
「はい、良い感じです♪ 景色は殺風景ですけどね」
フォビトン・フルート(フォー)は眼鏡に浮かぶ円らな瞳を和らげ、セミロングヘアを揺らしながら微笑んだ。少女に伝わる振動が緩やかとなり、刻んでいた歩調が止まった。シートベルトを外し、左右の操縦桿を外側に倒す。続いて頭上のハッチを前方へスライドさせ、格納庫の天井へ向けて立ち上がった。
「整備よろしくお願いします。ヒュウガ班長」
SGから抜け出たフォーを見つめ、ゲーン・ヒュウガ整備兵(日向 源一郎(fa2449))が満面の笑みを浮かべる。まるで孫を可愛がる爺さんの面持ちだ。初老の男は太い腕の力コブを見せる。
「おう、わしに任せておけ。さ、おぬしは食事でも食って来るのじゃな」
「はい。‥‥あら? ネイル、どうしたの?」
通路を駆けて来たネイル・ヤトー伍長(ウォンサマー淳平(fa2832))に声を掛けて振り返った。慌てるように格納庫へ向かう真面目そうな風貌の少年が答える。
「コックピットに忘れた煙草を取って来てくれって、サウル軍曹に頼まれたんだ」
ネイルの言葉に少女は呆れたような表情を浮かべ、細い腰に手の甲を当てた。
「またぁ? そんなの自分で取りに行けば良いじゃない!」
「俺達より階級が上なんだぞ、別に無理な事を頼まれた訳じゃないさ」
「いいわ。私が注意しておくから」
「お、おいッ」
呼び止める少年に構わず、フォーは先を歩いてゆく。大型車両と言っても、全長50m/幅20mの広さ、勘で探すにも一苦労だ。流石に食料保管庫で居眠りしている軍曹の背中を見つけると、歩き回った疲労と怒りから、愛らしい風貌の頬を膨らまし、細い眉を吊り上げた。
「サウル軍曹! 起きて下さい! 話があります!」
サウル=ラスキン軍曹(Loland=Urga(fa0614))は積み重ねられたダンボール箱のベッドで寝息を立てて起きる気配すらない。少女の眉がヒクヒクと戦慄く。
「酷いじゃないですか、ネイル伍長を私用で使うなんて‥‥私達は確かに階級は下ですが、召使いじゃないんですよ! サウル軍曹、聞いてますか? それに眠っていて良い時間じゃありません! 次の哨戒は軍曹の番で‥‥‥‥もぅ、エリアス中尉に報告しますよッ」
「うるせーなぁ。何、焦るな焦るな、そんなに肩肘張ってたらいざと言う時に先にくたばるぜ?」
かっかっかっと笑い、壮年の男は、背中を向けた少女に瞳を流した。
「ご心配なく、軍曹より先になる事はありませんから」
「おぉ、言ってくれるねぇ。そう願ってるぜ、くたばられちゃ後味が悪いからよ」
サウルの言葉を背中越しに聞き、フォーは溜息を洩らしながら扉を閉める。
「‥‥ったく、私だって先にやられたら後味悪いですよ」
少女はスタスタと歩き、食堂に辿り着いた。コップを手に取り水を注ぐと、立ったまま飲んでゆく。コクンコクンと喉を鳴らす背中に人影が映り、ごつい手が愛らしいヒップラインへ伸びた。
「んくっんくっ‥‥ッ!? ぷきゃッ!」
ぴくんッと身体を跳ね上げ、瞳を見開く。不意を突かれたフォーは飲んでいた水を吹き、けふけふと咽った。背後で飄々とした男の声が響く。
「今日もいいおケツだねェ‥‥ムホホ!」
触られた尻を左手で庇い、頬を染めながら振り返り様に右手を振るう。視界に映ったガルロア・ジーム少尉(ガルロア・ジーム(fa3100))の頬に乾いた音が炸裂した。
「な、なにするんですか!?」
「いてぇな、いいじゃないか減るもんでもないだろう?」
悪びれる事なく、金髪に紅のメッシュを入れた端整な風貌の青年が苦笑する。軍服も着崩しており、大きく開いた厚い胸板からシルバーアクセサリーが覗く。グリフィン中隊きっての不良軍人だ。
「いい訳ないじゃないですかッ! いくら少尉でも‥‥な、なんですか?」
「オッパイの方は触り心地どうかと思ってね。もう一度手をあげて見ろよ。今度は躱す!」
青い瞳がフォーを射抜く。戦歴はトップエース級で『スカーレット・エヴィル(紅夜叉)』の通り名を持つ男だ。宣言通り、抵抗を見せても振るった手は頬を捉えはしないだろう。
「やッ、やめて下さい‥‥」
ズイッと身を乗り出して来たガルロアに、一歩退くフォー。しかし、背後は給水機の置かれたテーブルだ。怯える少女の瞳に不敵な笑みを浮かべる青年の顔が映り込む。ゆっくりと男の手が胸元に伸びた。刹那、響き渡ったのはハリのある女の声だ。
「少尉、それはセクハラです。軍務中です、緊張感を」
「これはこれはウェンディ大尉。ジョークですよ、一寸からかっただけです」
食堂入口の壁際、豊かな胸元の前で腕を組んでいるのは、ウェンディ・ハート大尉(ウェンディ・ハート(fa2453))。元オペレーターで、苦学して大尉にまで上り詰めた、ホエールの車両長であり、部隊責任者を務める才色兼備の女だ。カツンカツンと靴音を響かせ、冷たい眼差しの女が歩いて来る。
「伍長、それほど尻を触られて嬉しかったか!!」
「そ、そんな‥‥」
「私は嬉しかったかと聞いている!」
「嬉しくありません!」
ピッと背筋を伸ばし答えるフォー。視線が少女からガルロアへと向けられる。
「聞いた通りです。少尉は自室に戻って下さい。伍長もだ! 隙を見せるからこんな事になるのだ、油断した自分を恥じるがいい!」
――どうして? そんなに私には厳しく‥‥。
少女は瞳をじわりと潤ませると、涙を舞い散らせて駆け出した。フォーとガルロアがいなくなると、ウェンディは自嘲気味に笑みを浮かべる。
「‥‥不器用なものだ‥‥私が、嫉妬など‥‥」
涙で霞む視界が通路を駆けてゆく。階段を昇り、格納庫の上階に当たる見晴らし台に辿り着いた。正確には機関砲が設置してある後部防衛用のものだが、フォーは辛い事があると、よく駆け込んだ。
「‥‥私は、被害者なのに‥‥嬉しかったかなんて‥‥少尉が近付いたのを知ってて見ていたんだ」
「どうしました? 一人で警戒任務ですか?」
背後から聞えた声に、少女は涙を拭うと、努めて笑顔で踵を返した。視界に映るは、朗らかで優しい眼差しを向けるエリアス・アーヴィン中尉(水鏡・シメイ(fa0509))。グリフィン隊の部隊長である。フォーは敬礼して答える。
「は、はい! 後方確認していました!」
「なるほど、それで目にゴミが入って涙を流していたと?」
「え? は、はい」
拭き忘れたかと少女は慌てて眼鏡を外して指で目元を拭う。エリアスは瞳を和らげ、細い肩をポンと叩く。呆然と円らな瞳が青年を見上げた。
「何があったか言いたくなければ聞きませんが、今日も未来の平和のために頑張りましょうね」
「エリアス中尉‥‥」
●ゼファー強奪
「もぅ、結局居眠りしてたなんて信じられない‥‥。どうして私達がサウル軍曹の罰則掃除の見張りなんですかぁ」
「フォー、文句言うなよ。お前が見過ごしたんだろ?」
「ネイルだって軍曹の煙草取りに行ってたじゃない。そんなパリシしなきゃ」
「まあまあ、二人共、仲良く行こうぜ? 見張りなんて必要ねぇって。俺が巧く言うから部屋で休んでろよ」
三人はゾロゾロと格納庫へ向かう通路を歩いていた。罰則とは全SGの拭き掃除で、バケツとモップを持った壮年の男は気楽なものだ。少女が突き刺さるような視線を背中に注ぐが気にもしない。
「‥‥軍規違反常習犯の言葉なんて信じられません」
『誰じゃ! わしの子に乗っとる奴は!』
そんな中、響き渡って来たのはゲーンの怒鳴り声だ。三人が何事かと格納庫へ駆け出す。同時に鈍い歩行音が響き、僅かな振動が床に伝わった。瞳に映るは、重厚で攻撃的なフォルムに包まれた深紅のSG後方シルエットだ。閉じた格納庫ハッチへ向け、ビームキャノン砲がエネルギーを集束してゆく。
「ヒュウガ班長! これって新型SGの‥‥!」
「ゼファーがっ、や、やられてしもうたぁっ! ベルトレス軍じゃ! わ、わしの新型機が‥‥」
「おお、こんな処で奪取か、度胸あるなぁ」
「そんな、メカニッククルーが‥‥」
三人の瞳に映ったのは幾つも転がったメカニッククルーの躯だ。戦慄く少女と少年に対し、サウルには余裕すら感じられた。状況を察してゲーンが叫ぶと同時、眩い閃光と砲撃音が響く。
「いかん! 奥へ‥‥ぬおわあぁぁッ!!」
初老の男がハッチを破られた爆風で派手に吹っ飛んだ(流石はアクション俳優といった所か)。背中を強打したものの、怪我は無いようだ。体勢を立て直し、フォーが駆け出す。
「ヒュウガ班長! 大丈夫ですか!? 直ぐに動かせるSGはありませんか!?」
「このくらい屁でもないわい。追撃機の発進チェックが先じゃ!! なぬ? 哨戒用のアンリミテッドなら動かせるが‥‥おい、フォー! 無茶じゃぞ!」
機体上部のコックピットハッチを開き、未塗装のSGに少女が滑り込む。慌ててネイルが舌打ちしながら駆け出し、サウルは口笛を吹いた。
「ネイルは隊長に報告して! 私が止めてみる!」
「なに言ってるんだよ! お前一人で出て行ったって‥‥おい、フォー!!」
流線型の丸みを帯びた頭部でカメラが閃光を発し、鋭角的でシャープなシルエットが破壊されたハッチへ向けて駆け出した。ネイルがゲーンに瞳を向ける。
「他のSGは!?」
「エネルギーパックの換装に時間がいるんじゃ! ベルトレス軍が破壊しておったからのう」
「なるほど、じいさんに気付いて破壊活動を止めて残ったのが哨戒用SGって訳か。おい、ネイル! 報告が先だ! さて、最後に出番を確保するかね」
その頃、ブリッジも振動に揺れ、緊迫した空気が流れていた。ウェンディは慌てず冷静な声を響かせる。拡大モニターに映るは、新型SGだ。
「何が起きた! 各員、被害状況を報告! ‥‥ゼファーが出ているだと?」
『こちら格納庫! ゼファーがベルトレス軍に奪われました!』
「奪われた? 追撃の準備はまだか!」
状況がネイルに因って報告された。白髪の指揮官は青い瞳に怪訝な色を僅かに浮かばせる。
「フォビトン伍長が単機で追撃中だと!? グリフィン中隊に出撃用意! エネルギー換装次第追撃!」
直ちにオペレーターへ指示を下し、車内スピーカーから切迫した状況が告げられ、グリフィン中隊の面々が格納庫へ向かう。純白の機体で関節部が青の機動重視型SGに滑り込むは、エリアスだ。右端の赤いボタンを押し込み、コックピットが振動する中、起動準備に掛かる。
「今回の作戦は『ゼファーの確保及びフォーさんの支援』です。ゼファーは私達アルマイト軍の最新型SGです。皆さん、気を引き締めていきましょう!」
「ガルロア機了解! やりやがったな‥‥クソが!」
右ショルダーにスカルマークの施されたモンザレッドの攻撃重視型SGに青年が乗り込む。通常武装に加え、シールドを兼ねたリュートベイルを装備した完全白兵戦仕様だ。青い瞳を研ぎ澄まし、オチャラケ軍人の面持ちが精悍なプロの顔つきへと変容した。
「ネイル機、了解です! ‥‥ったく、フォーのやつ‥‥」
最年少の少年が駆るは装甲重視型SG。肩部に小型ミサイルポッド、腕部にビームガンを装備した重厚なフォルムが機動音を響かせる。何処か不機嫌そうなのは、勝手に単独行動した少女への苛立ち故か。
「グリフィン中隊出撃しますッ!!」
エリアス機を先頭に、ガルロア機、続いて、ダークブルーのネイル機が追う。
3機のSGが土埃を舞い散らせ、荒れた大地を駆けてゆく光景を眼下に捉え、ホエールのブリッジでウェンディが声を響かせる。
「ホエール移動! 我々は広範囲索敵を担う!」
砂塵を巻き上げ、巨大な車輪がゆっくりと動き出した。先頭を駆ける中隊長機を追う形で前進するが、先行したフォーのSGはおろか、ゼファーすら視界に確認できない。
「フォーさん‥‥私達が到着するまで、どうか無事でいて下さい」
祈るような思いで、エリアスが狭いコックピットで呟いた。
●月夜の追撃
「見つけた!」
フォーの視界にゼファーの深紅に照り返すシルエットが捉えられた。
砂煙を巻き上げ、深紅のSGが急速反転、追撃を試みるアンリミテッドと向かい合う。これ以上の接近を許せば、背後から攻撃を受けると察したのか。慌てたのはフォーだ。
「えっ? 嘘ッ、向きを変えたって事は!? で、でも、銃の距離に入れば!」
少女が右の操縦桿を動かすと、視界のターゲットマーカーが合わせて動く。トリガーに指を掛けた刹那、ゼファーの左肩から白煙を棚引かせたミサイルが放たれた。コックピットに警告音が鳴り響く中、フットペダルを踏み込みながら、操縦桿を倒す。SGは回避行動を取ったものの、激しい振動が身体を強襲した。正直な所、フォーの技術は低い。
「いったぁい‥‥!ッ わッ、ちょっとッ」
視界に映るゼファーは優勢と感じたか、ビームキャノンの砲口を向けていた。ホエールの格納庫ハッチを一発で破壊した武器だ。アンリミテッドとて損傷では済まない。少女の大きな瞳が戦慄く。
「駄目‥‥即座に回避させようとしても間に合わないわ‥‥やられちゃうッ!」
フォーは思わず瞳を固く閉じる。刹那、響き渡ったのはビームガンの銃声だ。片目を開く中、視界に小型ミサイルを躱しながら後退するゼファーが映った。通信機からエリアスの声が飛び込む。
『なんとか間に合いましたね。大丈夫ですか、フォーさん?』
「た、隊長〜〜」
続いてシールドを構えたモンザレッドの機体が颯爽と滑り込み、フォーのSGに割って入る。
『騎兵隊の登場だぜェ、姫!』
次いでガルロア機の後方から重厚な機動音を響かせ、ダークブルーの機体が姿を見せた。
『どうして勝手に飛び出す! お前の行動がどれほど他の者に迷惑を‥‥』
「ガルロア少尉!? え? ネイル‥‥ごめん、だって‥‥」
『話は後です! さっさと返して貰いましょう』
駆け着けたアンリミテッドが散開してゆく。深紅の機体は視界を捉えるカメラを移動させ、体勢を整えた。ゼファーのコックピットでベルトレス軍の青年士官――ラサ大尉――が瞳を研ぎ澄ます。
「敵機の武装から見て、機動重視型2機、攻撃重視型と装甲重視型がそれぞれ1機か。この武装ではやるしかない!」
散開する白い機体と未塗装の機体にモンザレッドの機体、そして後方のダークブルーの機体に視界を流した。赤い光弾が放たれる中、幾つものターゲットマーカーを4機に重ね、ゼファーのミサイルポッドが不規則な軌道を描きながら、白煙をあげる。エリアス機が巧みな操縦技術で洗礼を叩き落す。
「ミサイル位の対処なら苦手じゃありませんよ!」
「これで一夜を共にする権利は貰えたかな?」
「不謹慎ですよ! ガルロア少尉!」
ガルロア機が盾でフォー機を庇う中、ネイル機が支援攻撃の小型ミサイルを放つ。互いの周囲で黒炎が噴き上がった。新型機とはいえ、流石に4機を単機で相手するのは厳しい。否、現状のゼファーは遠距離対応型と化しているのだ。
『ウェンディより各機へ、ゼファーの弱点が判明した。今、ヒュウガ班長と代わる』
『よいか? ゼファーは武装パージ技術の導入により、遠距離戦〜近距離戦まで対応した機体じゃ! つまり、フォーが追い着いた事から分かるように、フル武装の機体は機動力が低下しておるのじゃ!』
通信を聞いた刹那、今を勝機と捉えたダークブルーのSGが先陣を切った。
「ならばあの新型! 今なら倒せる!」
『ネイルくん! 油断しないで下さい!』
「エリアス隊長、この重装甲ならやれますよ!」
『無茶だよ! やめて! ネイルらしくないよ!』
「無茶はフォーだろ! こんな技量で勝手に出撃して! だけど、お前の無茶をする気持ち、分かったような気がするよ」
小型ミサイルとビームガンを放ちながら、重厚な足取りで接近してゆく。対するゼファーも機体を移動させながら応戦した。ネイルを支援するべく、グリフィン中隊の赤い光弾が深紅の機体を捉える。コックピットに鈍い振動が伝わる中、ラサは舌打ちを鳴らす。
「なんだコイツ!? 捨て身の特攻って奴か? くそッ、周りが煩いッ!」
ゼファーが支援を展開させる敵機へ向け、有りっ丈のミサイルを発射した。白煙を棚引かせて飛び交うミサイルに、対応を余儀なくされる。その隙に深紅の機体はビームキャノンの砲口をダークブルーのアンリミテッドに向けた。放たれる咆哮に重厚な装甲が砕け散る。
「うあぁぁッ! まだだ! 動きが鈍いからって舐めるなよ! 腕の一本でも持っていかせて貰う!」
黒煙を噴きながらネイル機は肉迫し、装甲に固められた鉄拳をゼファーの腕部へ叩き込んだ。鈍い打撃音が炸裂する中、ビームガンを装備した深紅の腕が吹き飛ぶ。少年の顔に笑顔が零れた。
「やったぞ‥‥これで武装一個破壊、だ。無茶も、悪くないな‥‥」
ガクリと項垂れるネイル。ダークブルーのナックルが叩き込まれたと同時、ゼファーの左腕に装備された切先が胸部に突き刺さっていたのだ。身長4mの機体は半分がコックピット。青白い放電を装甲に迸らせる中、幾つもの小さな爆発が溢れ出す。深紅の機体は打ち果たしたミサイルポッドユニットを排除し、後方へ跳ぶ。次の瞬間、ダークブルーのSGは黒煙をあげて崩れた。
「そんな‥‥ネイル! 応答して!」
「時間稼ぎと武装を潰す為だと? 熱くなりやがって!」
「‥‥ネイルの作ってくれた隙を逃す訳にはいきません! 止めますよ!」
3機が追撃を再開させる。しかし、重量の高いミサイルポッドを排除したゼファーの機動力は向上していた。次々に放たれる光弾を躱し、キャノン砲を轟かせてゆく。敵機との距離を詰めての接近戦を得意とする白い機体は、容易に近付けない。
「うっ‥‥さすがは新型機、アンリミテッドの性能をはるかに凌いでいますね」
『待たせたな! 戦況はどうだい? さてと、お手並み拝見といきますか』
響き渡ったのは遅刻常習犯サウルの声だ。何にでも遅れて来るだけに、状況把握を得意とするが、欠点は今まさに起こった事に気付くのが遅れる事。報告を聞いた壮年の男が驚愕に瞳を見開く。
「‥‥な、なんだって? ネイルがやられた? わ、悪いジョークだぜ、あいつが真っ先にやられる筈がないじゃねーか? ‥‥本当、なのか‥‥?」
操縦桿を握る手が怒りに震え、眼光が鬼神の如く研ぎ澄まされてゆく。
「冗談じゃないぜ! パリシの借りはバックアップで返して来たじゃねーかよ! 昨日の借りを未だ返していねーじゃねーか!!」
森林迷彩仕様の機動重視型SGが駆け出した。次々と深紅の機体が放つ攻撃を回避し、追い詰めに掛かる。合わせて左右に展開するエリアス機とフォー機。遅れてモンザレッドの機体が向かう。
ゼファーのコックピットでラサが奥歯を噛み締めた。
「機動重視型が3機!? 包囲するつもりか!? だったら!」
サウル機に駆け出す深紅のSG。森林迷彩の機体はビームガンを撃ち捲る。
「悪いがここで終わらせてもらう! 任務とかあんたの命とかな!」
戦況は有利に展開した。ゼファーは装甲に守られているが、代わりに機動力は機動重視型よりも劣っている。このまま接近戦に突入すれば勝利の女神はアルマイト軍に微笑む筈だ。
「だったら、この機体の特殊性を利用するッ!」
「何だとッ!?」
サウルは動揺の声をあげた。視界に迫る深紅の機体は、接近すると共に腰を曲げて頭部を曝したのだ。新型とはいえ、コックピットの位置に違いがなければ、視界を伏せた相手に遅れを取る筈がない。
「頭突きでもやろうってのかよ! 一刀両断にしてやるぜ! ‥‥!?」
刹那、背中のユニットごとキャノン砲の銃身が飛び込んで来た。幾ら回避が得意なサウルとて、想定外の攻撃に対応は遅れる。何とか直撃は凌いだものの、視界に映るは、小型ミサイルポッドを覗かせたゼファーの姿だ。
「反則だぜ! ちっ、ここまでかよ、だが足止めには充分時間稼いだろうさ」
肩を竦めて苦笑するサウル。一斉に白煙をあげる小型ミサイルが視界に吸い込まれ、森林迷彩のアンリミテッドが爆炎に包まれた。
●混迷する戦場の中で
ゼファーとグリフィン中隊の攻守入り乱れての戦闘が続く中、ホエール内でも状況確認と指示が絶えず行われていた。特に強奪された新型SGに対する前線からの報告が必要不可欠だ。
「そう‥‥ネイル機とサウル機が沈黙したか。だが、大破しただけで戦死したとは限らない。到着次第救急班を向かわせよう。‥‥了解した。引き続き追撃を。健闘を祈る!」
深い溜息を洩らし、ウェンディが瞳を流す。視界に映るは太い腕を組んで佇むゲーンの横顔だ。
「どう見る、ヒュウガ班長」
「そうじゃな。ゼファーの機動力が上がっておるという事は、奴が武器と装甲を排除したという事じゃ。特にミサイルとキャノンは重量を抑える為、弾数は少ない。ネイル伍長が右腕を破壊したという事は、最も軽量な射撃武器であるビームガンを失ったと考えていいじゃろう」
「我々のSGは機動重視型2、攻撃重視型1‥‥。敵機は機動重視型に匹敵する速度を出したとすると‥‥距離が広がれば逃がしてしまうか‥‥先に広がる森林地帯はベルトレス軍の防衛ラインだ」
細い顎に指を当て、左腕で肘を抱くと、女指揮官は沈黙した。
「こちらも弾切れにならねば何とかなるじゃろう。装甲は薄くなっておる。それに、先ほど伝えた手段に出る事が出来れば、奴を簡単に止められる筈じゃ」
「正に鬼ごっこか‥‥」
「ウェンディ指揮官! ゼファーとの距離広がっていきます!」
オペレーターの報告に、初老の男が不敵な笑みを浮かべた。
――弾切れじゃな。ゼファーよ‥‥。
「各機、ゼファーを追撃。絶対に逃がしてはなりません!」
エリアスの指示の元、フォー機が白い機体と共に荒地を駆けながら銃声を響かせる。視界に映るは全ての装甲と武装を排除して逃走する深紅の機体。攻撃的なフォルムはよりシャープさを浮き上がらせ、見るからに速そうだ。次第に僚機との距離が広がる中、ガルロアが苦笑する。
「おいおい、マラソンかよ。俺の趣味じゃないが、滅多に使わない武器を尻にブチ込んでやるぜ!」
モンザレッドのSGは温存しておいたキャノン砲の轟音を響かせた。追い着かないなら射程距離の長い武器で攻撃すればいい。尤も、白兵戦に拘る青年にとっては不本意な話だが‥‥。
ガルロア機の視界で、深紅の機体が揺れる。致命傷には至らないが、どうやら命中したようだ。次第に距離が縮まってゆく――――刹那、前方から小型ミサイルが白煙を棚引かせて向かって来た。次いで捉えられたのは、ベルトレス軍主力SGガーメントだ。グリフィン中隊の緊張が高まる。
「援軍‥‥最悪の状況ですが、やるしかないようですね!」
「あぁ。なぁフォー、作戦が成功したらデートってのはどうだい?」
「こんな時に口説かないで下さい!」
確認された敵機は5機。圧倒的な不利な戦況で、グリフィン中隊は覚悟を決めた――――。
●DVD特典用フィルム
「ゼファーの奪還は成功したからいいものの、伍長! 何をしたか分かっているな!」
視界に映るは豊かな胸元が強調されるアングルのウェンディだ。容姿、声、演技力、共に高い彼女は、その後の状況描写に抜擢されたのである。靴音を響かせて歩き回ってゆく。
「幸い撃破された者は重傷で命は取り止めたが、SGを3機失い、新型も大幅な修理を要し、それにベルトレス軍のパイロットを取り逃がした。捕虜に出来れば、何処で新型の情報を入手し、如何なる手段で潜入したか判明したものを! しかも勝手な単独行動! 軍規違反は許されるものではない! 独房入りは覚悟するのだな。追って処分も通達されるだろう。この場合、訓練施設に戻るか、別の部隊に転属となるかもしれないな」
『‥‥はい、了解しました』
視界がクルリと周りドアを映す中、ウェンディが呼び止める。映し出されるのは微笑む指揮官だ。
「伍長‥‥ご苦労だった‥‥」