SteelGraveβ南北アメリカ
種類 |
ショートEX
|
担当 |
切磋巧実
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
1Lv以上
|
難度 |
難しい
|
報酬 |
5.1万円
|
参加人数 |
6人
|
サポート |
0人
|
期間 |
02/28〜03/06
|
●本文
●初期予告編
――この惑星では二つの国が長き戦争を続けていた。
理由? そんなものは当に忘れた。兵士は命令があれば終戦まで戦うのみだ。
難しい事は考える必要はないのさ‥‥。
今日もサイレンの喚き散らす騒音と共に、鉄の棺桶に乗って敵を撃つ。
これからも同じ小競り合いが続く筈だった――――。
兵士のモノローグが流れる中、コンクリートの地面に重量感のある脚部が駆動音と共に映る。
画面はズームアウトしてゆき、機体の全容を映し出す。
それは鋭角的でシャープなシルエットを浮かばせる人型兵器だ。
頭部は流線型の丸みを帯びたモノだが、全体的にミリタリーチックなフォルムに模られている。
アメリカ製作の変形合体ロボや、ジャパンで人気のプラモデルとも違う所謂リアルタイプな雰囲気が感じられるデザインだ。
鈍い機動音を響かせ、六機の兵器はゆっくりとした重厚な動きで前進してゆく。
六機の機体を映しながら、前方を捉える共にナレーションが入る。
――いつもと変わらぬ小競り合いの予定は、一人の兵士によって崩された。
敵国(ベルトレス軍)の兵士が盗んだのは最新型のSteelGrave=typeZephyr――――。
六機が追うのは、typeZephyrと呼ばれる人型兵器。重厚で攻撃的なフォルムに包まれており、より洗練されたシルエットを陽光に照り返しながら、攻撃して来る追撃の手から逃れてゆく。
――アメリカ屈指のSFXスタジオ『ハミルトン・フィルム』が送る!
二つの視点(αとβ)で描かれる近未来型バトルムービー!!
『絶対に奪い返せ! 不可能なら機体ごと破壊せよ!』
『敵機動兵器を前方に確認! 援軍のようです!』
――突破させるな!
――追いつかせるな!
――鋼鉄の棺桶同士の命運を賭けた鬼ごっこが始まる!!
『隊長を援護する! 敵の機体に乗っているからって当てるなよ!!』
SteelGrave!! ComingSoon――――。
●メカニック設定
・SG=typeZephyr(ゼファー)全長5m。
武装パージ技術により遠距離戦〜近距離戦まで対応したアルマイト軍次期主力SG。
重厚で攻撃的なフォルムに包まれており、より洗練されたシルエットの最新型人型兵器です。
・SG=typeUnlimited(アンリミテッド)全長4m。
平均的な性能だが、様々なバリエーションを可能にしたアルマイト軍主力SG。
鋭角的でシャープなシルエットを浮かばせる人型兵器です。
・SG=typeGarment(ガーメント)全長4m。
基本ベースにアーマーを衣服のように組み合わせ可能なベルトレス軍主力SG。
シルエットは直角型で戦車に足が装備されたような雰囲気をもっており、アルマイト軍SGより武骨で性能も劣る人型兵器です。
●βパート:ベルトレス軍
・Scene5:森林駐屯地で寛ぐラサ中隊。
ラサ隊長が単身敵軍に潜入したなど知る由も無かった。援護の連絡が入り出撃してゆく。
・Scene6(αのScene4に相当):「危険だからこそ、部下にやらせたくない」
ラサ隊長をボーダーラインまで援護するガーメント部隊。SG同士の激戦が繰り広げられ、一機、また一機と互いに撃破されてゆく。
・Scene7/Scene8:????
実はこの作品。最後が決まっていない。ジャパニメーション好きで知られるソロ・ウォスキー監督は、悩んでいた。
「フイルムの都合上アルマイト軍で顔見せ登場できるのは主人公のみ。ならばベルトレス軍の役者で纏める必要があるな。いや、イメージは浮かんでいるんだよ。仲間の捨て身の支援でフォーはラサを捕まえる。銃を向けるフォー。しかし、撃てない。ラサは捕虜になる位なら自決を覚悟する。その時、ラサ中隊の面々はどのような行動に出るか? つまり、ベルトレス軍兵士は何人か生きている必要がある訳だ。ふむ、ここを決めて貰うか」
ソロ監督はアメリカ映画監督ジョージ・ハミルトンにより設立された『ハミルトン・フィルム』に招き入れられた新人監督だ。
ハミルトン・フィルムは所謂ハリウッド映画の重鎮であり、カリフォルニア州に大規模なスタジオをオープンし、SFX・CG・アクション系全般に強く、世界に通用するエンターティメント・メーカーとして絶大な影響力を誇っている。
ソロ監督としてはハミルトン・フィルムで成果を出せるかの重要な作品でもあった。
●アクター募集区分
主人公はNPCが担当します。
・ベルトレス軍中隊(名称未定=相談で決めて下さい):8名。
機体に合わせた編成員8名。性別不問。3機編成等でリーダーを決めるのもOK。
●演じる為に必要な書類項目
・配役:ベルトレス軍中隊の階級明記。
・役名:登場人物の名前です。本名で出演してもOK。
・設定:どんなタイプ(設定)のキャラクターを演じるか明記。
・得意:操縦・索敵・攻撃・回避・防御・援護から選択。
・SG:機体のタイプを選択。
(索敵重視)広域レーダー装備型 武装無。
(装甲重視)肩:小型ミサイルポッド 腕:ビームガン。
(ノーマル)肩:ミサイルポッドorビームキャノン砲or腕:ガトリングガン。
(装甲排除)腕:ビームガン・スピア。
・SG:機体カラーを決めて下さい(リンク部分で表現されます)。
・主人公の外見イメージを簡潔に(可愛い/端整/精悍など)代表者1名で構いません。
・演技及び台詞など。
●ラサ隊長(男/女)28歳:性別は相談で決めて下さい。
「危険だからこそ、部下にやらせたくない」
本編の主人公であり部隊長。無鉄砲な行動を度々部下に注意されたりする。
アルマイト軍の追撃を抜けてゼファーを確保するのが任務である。
●リプレイ本文
●感謝――Crank in
「いやぁ、これで撮影が出来るよ〜♪」
映画SteelGraveの撮影現場に姿を見せたアクターやアクトレスの手を握り、ソロ監督は満面の笑みで握手を交してゆく。その中にはTV化を希望する者もおり、監督はご機嫌に笑う。
「キミ達がまた参加してくれるのかい? もし、やる時はヒヤヒヤさせないで集まって欲しいね」
現場にはαとβ両方の役者達がおり、互いに挨拶を交す光景も覗えた。
「眼鏡っ娘のフォーをやらせて頂きます☆ イメージに合うよう頑張ります♪」
「ラサをやらせて頂きます。正直、両軍とも魅力的な女性がいてホッとしているよ」
「そうだ、忘れる所だったよ。これは少ないが僕からの気持ちだ。受け取って欲しい。それでは諸君、これがSGのコックピットだよ!」
――ほんとに少ない‥‥。
ボーナスを渡した後、監督がブルーシートを捲った。瞳に映ったのは、アメリカ家庭ゲーム大手によるロボットゲーム専用コントローラーだ。役者達の顔が引き攣る。どうやら演技力が必須となりそうだ。
「安心してくれ、CGで別物に見えて、立派なコックピットになるから♪」
かくして、撮影は進み、フィルムが完成してゆくのだった――――。
●サーペント・トゥース
――鬱蒼と茂る森林の中に、ベルトレス軍駐留基地はあった。
基地と言っても大層な施設ではない。あるのはプレハブの工場を連想させる建物だ。ここはアルマイト軍とのボーダーラインに程近い場所。防衛を担うのが目的だった――――。
――ふんふんふーん♪ rarara〜ra〜♪ YESッ!!
ハミングが刻まれる中、フライパンの中で食材が軽快に踊っていた。
タンクトップの上からエプロンを巻き、嵩高いコック帽を乗せた逞しい体つきの男が、夜食作りに腕を奮っている。陽気なリズムで皿に分けてゆき、満面の笑みと共にアッサニー・パールディ曹長(アッサニー・パールディ(fa2454))が振り向く。
「HE〜Y! 皆サン、お食事デスよ♪」
視界に映るは思い思いに寛ぐ5人の軍服姿だ。アッサニーの手前から、無言で真剣の素振りに汗を流すジン・オウガ鬼軍曹(守山 修(fa2456))、ソファーで哲学書を読み耽るツォン・ファンフー中尉(ツォン・ファンフー(fa2452))、同じくファッション雑誌を眺めている紅一点タマ・グリーン二等兵(玉露(fa3083))、ガスマスクのようなもので素顔を覆い隠しているフェイスレス一等兵(ボルティオ・コブラ(fa0696))、そして、窓から外を眺めるロッチナ・ヘイド中尉(アシュレイ・ウォルサム(fa2448))のガッシリとした背中が見えた。ガラス窓に映り込む男の顔は、含み笑いを浮かべているようだ。
(「役に立ってくれたまえよ、隊長殿‥‥クフフフ」)
ロッチナの背後で、タマがアッサニーの手伝いをするべく立ち上がり、続いてフェイスレスが腰をあげた。ふと、コチラを擬視するような鋭い視線のツォンを捉える。
「ツォン中尉、私の背中に何か?」
「‥‥食事が出来たようですから声を掛けようと思っただけですよ、ロッチナ中尉」
肩まで伸ばした長髪をオールバックに流した男は、眼鏡を指で押し、鋭い眼光を研ぎ澄ました。張り詰めた空気が二人を包み込む中、若い女の声が響く。
「ジン軍曹、トレーニング中、申し訳ありませんが、お食事ですよ? ‥‥先に食べてますから、冷めない内に来て下さいね」
端整な風貌だが、どこか微妙に垢抜けない感じの少女は躊躇いがちに伝えた。無言で素振りを続ける厳つい風貌に苛立ちを浮かばせる初老の男は、タマの声が聞こえていないようだ。
(「あの若造め‥‥何処へ行きおった!」)
「あれ? フェイスレス一等兵、どちらへ行かれるんですか?」
「食事時に俺の顔は拙いだろ」
過去の戦闘で顔面が完全に潰れた為、素顔を覆い隠していると聞いた事があった。流石に食事時はマスクを脱がなければならない。しかし、曝して気持ちの良いものでもないのは事実だ。彼なりの配慮なのである。皿を持って仲間から離れようとする男に、少女が再び口を開く。
「いつも1人で‥‥寂しくないんですか?」
「自分は既に死んだ人間だ。そんな感情は持ち合わせていない」
フェイスレスは薄明かりの照らす場所に座り込み、静かにマスクを外す。思わず瞳を逸らすタマ。
「(こんな時、ラサ隊長なら、なんて言ってあげるんでしょう?) あれ? あのッ、‥‥ラサ隊長って未だ戻られていないのですか?」
少女の一言にジンの瞳が見開かれ、素振りがピタリと止まる。フェイスレスが口を開く。
「外に出たのは知っているが‥‥」
「OH! ノープロブレムね、心配しなくてもタマ二等兵の王子サマはもうじき帰って来マス♪」
「ア、アッサニー曹長ッ‥‥あ、あたしはそんな‥‥」
焦りながら言葉を返すタマ。声は上擦り、頬を染める少女の想いは部隊にバレバレだ。否、この場にいない只1人を除いての話だが‥‥。
和やかな空気に包まれた所為か、ロッチナも不敵な微笑みを浮かべていた。刹那、スピーカーから通信が飛び込んだ。慌ててデスクの通信機へ向かう少女。ヘッドセットを装着してレバーを入れる。
「こちらサーペント・トゥースです」
『哨戒任務中にラサ大尉からの通信を拾った。現在、アルマイト軍の新型SGの確保に成功、追撃を受けながら撤退中。そちらの隊長だろう、何か聞いているか?』
「えぇ〜ッ!? ラサ隊長が!? いえ、確かに隊長は外に出たきり戻っていません。了解しました。確認次第コチラで援護に出ます。‥‥どういう事でしょう? 部隊にも知らせない極秘任務ですか?」
通信を切り、仲間達に不安に彩られた瞳を向けた。響き渡ったのはロッチナの声だ。
「詮索は後だ! 今は隊長の援護に向かうのが最優先! ‥‥いや、副長の意見も聞かねばな。どうする? ツォン中尉」
「‥‥勿論、援護に向かいます。サーペント・トゥース出撃します!」
指示を下した後、ツォンは悠然と駆け出すロッチナに鋭い視線を流した――――。
部隊が駆ける靴音が響き渡る中、視界に全長4mの人型マシンが映る。ベルトレス軍主力SG『ガーメント』だ。直角的なシルエットを模る鋼鉄の機体は、用途に合わせてフォルムがそれぞれ異なっている。ガーメントという名前の通り、衣服を意味するSGは基本ベースに装甲を『着る』事で、様々な局面に対処できるよう設計された兵器なのだ。
各自機体後方からタラップを引き出し、馴れた手付きでSGに乗り込んでゆく。一番早く軽い身のこなしでコックピットに滑り込んだのは細身のタマだ。SGタイプは索敵型。武装は備わっていないが、追加装甲板と繋がっている広域レーダーを装備したガーメントである。
「機体異常ありません。広域レーダー起動します!(待ってて下さい、ラサ隊長!)」
次いでフェイスレスが、重厚な装甲板を着込んだ装甲重視タイプSGに滑り込む。両肩部に小型ミサイルポッド、腕部に高出力のビームガンを装備した機体は、脚部が太く足が幅広い。積載重量を支える為だ。起動スイッチを入れ、左右の突き出た操縦桿を握り締めると、フットペダルに足を置く。
「さてと、行くかね」
後はほぼ同時に、同型のSGにジン。アッサニーが装甲排除型と呼ばれる機動性を優先させ、腕部と脚部装甲を攻撃用に厚くしたSGを起動させ、ツォンとロッチナはノーマル型――所謂基本ベースで平均的な性能を売りとしたSGに搭乗した。
「ルンピニー、発進デス!」
重厚な歩行音が響く中、短髪に黄色いバンダナを巻いた、カーキ色タンクトップ姿のアッサニーの駆る、肩部にセクシーな美女のアートを描いたグリーンの機体が飛び出す。次いで、同色に彩られたツォンの『翡翠』、そしてロッチナ機とタマ機、迷彩塗装のフェイスレス機とジンの操縦する漆黒の『轟天』が基地から姿を見せた。
かくして、援護作戦は展開されようとしていたのである。
●月明かりに浮かぶ戦火の中で
「あっ、この機体がラサ隊長?」
レーダーにコチラへ向かって追撃を受けている機体信号をキャッチ。タマは通信回線を開き、長距離通信を試みた。不安故か、僅かに震える声で呼び掛ける。
「こちらタマ二等兵です! ラサ隊長!? 隊長なら応答を!」
『こちらラサ、タマ二等兵か』
ノイズ混じりで飛び込んだのは、情熱的な響きを感じさせる青年の声だ。少女の瞳が潤む中、隊長は続ける。
『トラブルが発生してしまって、追撃を受けている。済まないな、迷惑を掛けた‥‥』
「(良かった‥‥)まったくですよ! どんな極秘任務か知りませんが、黙って行くなんて酷いじゃないですか!」
『‥‥あ、あぁ、危険だからこそ、部下にやらせたくなかったんだ。いや、悪かった』
バツが悪そうに頭を掻く姿が容易に想像が着き、タマはクスリと笑った。
「帰還するだけじゃ許さないんだから。‥‥と、とにかく、持ち堪えて下さい!」
『‥‥? あぁ、ヨロシク頼む。なぁ、気になるんだが、帰還するだけじゃっ』
少女は思わず洩らした言葉を悔い、顔を真っ赤に染めて回線を途中で切った。レーダーに追撃して来る3機を確認し、部隊に通信を送る。
『こちらタマ、追撃されているラサ隊長の機体を確認しました! 追撃機の識別データ確認、アルマイト軍SGアンリミテッド3機。後方より大型車両を1両確認!』
「何だと!? ラサが追撃を受けているのか!? 情報を確実に寄越せ!! 隊長機はガレージにあったではないか! ラサは何に乗っているんだ!!」
怒鳴り声を響かせたのはジンだ。SGの索敵範囲は狭く、現状視界に機影は捉えられない。恐らく鬼軍曹の怒鳴り声に、少女はビクリと肩を跳ね上げている事だろう。
『す、済みません! でも、追撃を受けている機体の識別データが出ないんです! このまま前進すれば接触できる筈です。方位データ送信します!』
「よし、確認した! いいかタマ二等兵! 貴様の的確な状況報告が必要なのだ! 何か隊長機に変化があれば随時報告しろ!!」
『は、はいッ!』
泣きそうな上擦った少女の声を最後に、ジンはフットペダルを思いきり踏み込んだ。しかし、射撃武器を撤廃したSGとはいえ、装甲重視型では僅かに速度が上がるのみ。苛立ちに初老の男は眉をヒクヒクと戦慄かせた。先を駆けてゆくアッサニー機が恨めしい。
「軍曹ヒートアップしてマスネ。待っててくだサイ、ミーが先に確認しマス♪」
乾いた地表を駆ける中、赤い光弾が夜空を照らし、深紅のSGが捉えられた。見た事もない機体の攻撃的なフォルムに、黄色いバンダナの男が瞳を見開く。その機影は正に赤鬼の如し!
「ガッデム!! OH! ジーザス! 悪魔デス。こちらアッサニー、隊長機を確認しましたヨ! 確かに見た事も無い機体デス! 追撃機は3機のアンリミテッドね。隊長サン! 急いでくだサイ!!」
通信機から発せられた興奮気味の声に、ロッチナが唇を歪ませる。
「こちらは新型1機と5機で敵は3機か‥‥圧倒的ではないか我が軍は‥‥ククク‥‥私を追いやった馬鹿者どもめ、凱旋を楽しみにしているのだな」
『こちらタマ! 間も無く視界確認できます! あぁッ、隊長と敵の距離が!』
悲痛な少女の声が通信機から飛び込んだ。ツォンはレーダーを確認、光点を捉える。
「各機、バトルフォーメーションに移行して下さい。タマ二等兵は敵の速度を計算してアンリミテッドのタイプを報告して下さい! 援護いきますよ!」
『敵機アンリミテッドタイプ出ました! 高機動型2、攻撃型1』
タマの声が流れる中、アッサニー機とフェイスレス機が接近する。続いて、ロッチナ機、遅れてジン機が駆けてゆく。
視界に敵機を確認し、黄色いバンダナの男が通信を送る。
「フェイスレス一等兵、高機動型2機だそうデス。どちらを狙いマスカ?」
「僅かだが未塗装の奴が隊長機に近い。アレを落とす!」
ガスマスクのゴーグルが捉えたのは、フォーの駆るSGだ。最優先は隊長機の保守! 迷彩塗装のガーメントが巧みな操縦技術で目まぐるしく移動しながら、攻撃に出た。腕と実績は一個小隊を任されても良いレベルをフェイスレスは持っている。
「いい死に場所が見つかった。皆は爺さん婆さんになってから死ぬんだぜ!」
小型ミサイルポッドが白煙を引き、ターゲットを捉える中、セクシー美女のアートが接近してゆく。
「ゴー・ア・ウェイ! アンタたち、とっとと帰りなサイ!」
視界に映るはミサイルの軌道から逃れようと試みるSG。動きに無駄がある事に気付き、アッサニーが朗らかな風貌に瞳を研ぎ澄ます。口元に浮かぶは穏やかな微笑み。刹那、側面からビームガンの赤い光弾が行く手を阻んだ。僅差で洗礼を躱す中、青い光弾が後方から放たれ、フェイスレスの声が飛び込む。
「白い奴は俺が食い止める。残りの高機動型を!」
『どうやら大切なパイロットが乗ってイルようデスネ。了解デス!』
「さて、良い動きの機体だ。軍人にできるのは時間稼ぎだけ、とは誰の台詞だったかね!」
白いアンリミテッドと戦闘を繰り広げる迷彩塗装のガーメント。高機動型とノーマルでは性能差が大きいものの、フェイスレスとて覚悟の上だ。互いの赤と青の光弾が交差する中、後方で迷彩塗装のSGを盾にするようにロッチナ機が銃声を響かせる。
「せいぜいじゃれあえば良い、ウォーモンガー(戦争狂)どもめ」
『こちら、ツォンです。ロッチナ中尉、戦況は?』
「敵と交戦中だ! マズイ、フェイスレス一等兵の援護が間に合わん!」
幾つもの青い光弾を潜り抜け、次第に距離を詰める白い機体が、一気に飛び込んだ。ビームを放ちながら煌かせるのは一刀のブレード。ガスマスクのゴーグルに、機体装甲が損傷に砕け散るのも構わず、切先を向けた敵機が肉迫する!
――やはり性能差か‥‥否、これほどの動きは機体だけではない、パイロットが優秀で‥‥。
フェイスレスは操縦桿から手を放し、空を見上げた。脳裏に浮かぶは馴染みの娼婦の笑顔。刹那、鋼鉄を貫く不愉快な音と共に、爆風がマスクを飛ばす。
「‥‥‥‥ああ、あの女は元気でやってるかな」
悪いな‥‥俺は、いい死に場所を見つけちまった――――。
「捉えましたヨ!」
回避後のカウンターを得意とするグリーンの機体は、ムエタイの連撃を叩き込んでゆく。どんな操縦をすれば繰り出せるか不明確だが、リアルなCGによる見せ場に違いない。腕部に溜めを作り、脚部に砂塵が舞い飛ぶ中、回転肘打ちが炸裂し、鈍い衝撃音と共に、アンリミテッドの装甲が火花を迸らせながら、破片を散らす。
「コレ、ティーソークトロン! 次はティーカウから‥‥テツラーン、ヨ!!」
グラリと体勢を崩すフォー機を捉え、砂埃と共にルンピニーが跳躍! 膝打ちをブチかました後、機体を回転させての下段廻し蹴りを叩き込んだ。畳み掛ける連撃に白い機体が地に崩れた。尚も止めの一撃を繰り出そうとした刹那、赤い光弾が再び阻んだ。後方で黒炎が噴き上がるのを確認する中、モンザレッドの機体が盾を構えて滑り込む。接近戦は足止めに有効だが、敵の支援を招く要因ともなる。
「フェイスレスがヤラレタのデスカ!?」
『アッサニー曹長! 高機動型が行ったぞ!』
「OH! NO! なんてコトに‥‥ロッチナ中尉、援護お願いしマス!」
『了解した。出来る限り援護する』
――私はここでやられる訳にはいかないのだよ。せいぜい敵を惹き付けてくれ。
パートナーが撃墜されては何処まで持ち堪えられるか分からないが、足止めに孤軍奮闘を覚悟した。しかし、後方援護があるとはいえ、フェイスレスを倒した白い機体は性能も技術も上だ。
激しい接近戦が展開される中、2機のアンリミテッドがラサ機を追撃してゆく。武器を失い機動性を得る為に装甲を排除したゼファーは、余りに無力だ。モンザレッドの機体が放つビームキャノンに深紅の機体が転倒した。
「あぁッ! ラサ隊長!! 誰か、隊長機がッ!!」
『按ずるな、タマ二等兵! この轟天が食い止めるみせるわ!!』
頬を両手で覆い、涙目で悲痛な声を響かせた少女に応えたのはジンだ。
「ぬははは‥‥貴様らの恐怖、この轟天からも感じ取れるわ!」
ゼファーを捕縛せんと接近するアンリミテッドが轟天を捉えて身構えた。鎧兜の意匠を取り込んだ漆黒のガーメントが装備するは大型のサムライソード。あまりに異彩を放つシルエットに戦慄を覚えたようだ。赤い光弾が放たれる中、漆黒の装甲に火花を散らせながらサムライが重厚なリズムで突き進む。堪らず回避する未塗装のSGに切先を薙ぎ振るった。後方支援のビームキャノンが咆哮を轟かせ、明らかにダメージを重ねているにも拘らず、執拗にフォーを狙う。
そんな光景を後方に流した視界に捉え、ラサは戦慄いた。
「ジン軍曹! 幾ら装甲重視型のガーメントでも無茶だ! まさか!?」
『隊長! 今の内に振り切って下さい!!』
「何をバカな! このままでは軍曹の機体が!」
『ですから! 急いで下さい! ジン軍曹が、持ち堪えている内に‥‥フェイスレス一等兵が撃墜されました。隊長が戻らないと無駄になっちゃうじゃないですか!!』
現在、前線の2機は敵機の支援を阻みながら戦闘中らしい。あと少し振り切れば、狙撃型にチューンされたツォン機の射程距離に入るとの情報だ。今なら、逃げ切れる!! 青年は奥歯を噛み締めた。
「ジン軍曹! 死なないでくれ!」
悟られぬようにゼファーが身動きする。体勢を整え、一気に駆けるつもりだ。意図を察したジンが不敵な笑みを浮かべると、轟天はラサ機を隠すように身構えて切先を煌かせる。続け様に受ける砲撃の洗礼に、漆黒の機体が赤い爆炎を吹き出した。コックピットに、けたたましい警告音が鳴り響く。
「ふふふ‥‥行け、ラサよ! 生きろよ‥‥」
大きな爆炎が巻き起こり、反動でゼファーが吹っ飛ぶ。同時にフットペダルを一気に踏み込み、ラサは涙を流しながら再び逃走する。ジンは轟天を爆発させる事で視界を遮ったのだ。掛け替えの無い犠牲を払ったが、これで目的は達成できる。誰もがそう思った。
「え? ラサ隊長ッ!!」
レーダーを確認したタマが悲痛な叫び声をあげた。戦慄く瞳に映るは、ラサ機の直ぐ後方に捉えた光点が重なった瞬間だ。
●明日の為に
――砂塵が舞う中、一陣の風が吹き抜ける音だけが流れてゆく。
深紅の機体は背後から飛び掛かったアンリミテッドに組み伏せられた状態で動きを止めていた。ゼファーはアルマイト軍の新型機だ。メカニックチーフの的確な指示に因り、機体を強制停止させるに至っていた。ハッチを外から抉じ開けた痕が映る中、ビームガンを構えたSGの外部スピーカーから少女の声が響き渡る。
『そこまでです! 機体から大人しく出て下さい!』
「‥‥っ、やはり持ち主は色々と把握しているって訳か。‥‥タマ二等兵、ラサだ。聞えるか?」
『ラサ隊長! 良かった、無事なんですね!』
安堵と嬉しさを溢れさせる少女の響きに、ラサは薄く微笑む。
「部隊に連絡してほしい。‥‥作戦は失敗した。全機、撤退‥‥済まない」
『‥‥待って下さい! あのッ、隊長は‥‥逃げられるのですよね?』
「‥‥どうかな、投降宣告されているが、捕虜になる位なら、ここで‥‥」
『え? 何を‥‥ラサ隊長!?』
動揺の声をタマは響かせ、直ちに部隊に通信を送った。部隊に衝撃は疾る。
「隊長が!? 投降する位なら自害を覚悟していると言うのですか!? 何とか脱出のチャンスを掴まなければなりませんね‥‥!! ロッチナ中尉!? 何を! 待って下さい!」
救出作戦を思案するツォンが駆け出したロッチナ機を呼び止めた。
「あと少しで新型機が手に入るというのに撤退だと? そんな馬鹿な事が‥‥認めないぞ! 私は認めないぞおぉッ!!」
ロッチナの瞳は血走っていた。腕部ガトリングガンの銃声を掻き鳴らし、突撃してゆく。
脳裏に浮かぶは、少佐にまで昇ったロッチナを陥れ、場末の部隊に左遷させた男の顔ぶれ。
昔のコネと情報網を必死に探り出し、返り咲きを条件に新型機強奪計画を上層部に具申、ラサをそそのかした後、漁夫の利を奪うつもりでいたのだ。その為に潜入用のベルトレス軍最新特殊カモフラージュスーツも手配した。隊長が捕虜として捕まる事は、マイナスにしかならない。
錯乱した男は、視界にゼファーを組み伏せた敵機を捉えると、闇雲に銃声を響かせながら接近してゆく。未塗装のアンリミテッドが銃口を向け、光弾は撃ち捲った。機体に砲撃を浴びる中、コックピットが何度も衝撃に揺れ、警告音が鳴り響く。
「馬鹿な! 私が、この私がぁ‥‥がアアぁアッ!!」
次の瞬間、限界に達したロッチナ機は、大きな爆炎へと変容した。
「ロッチナ中尉、なんて事に‥‥! この爆炎を利用すれば、今なら!」
ツォンが瞳を研ぎ澄ます。翡翠を射程距離ギリギリまで前進させ、スナイパーライフルを構える。視界のターゲットマーカーが、爆炎に浮かぶ敵機を捉えた。ゆっくりとトリガーを絞ってゆく。放たれる緑の閃光! 刹那、標的に割って入ったのは盾を構えたモンサレッドの機体だ。集束されたエネルギーは盾を貫き、SGが黒煙を吹き上げて膝を着いた。未塗装の機体から涙を散らせた少女の悲鳴が響く。
「少尉ッ!!」
『言ったろ、俺は口説き落としてない女は諦めない主義さ‥‥』
苦しげな男の声がノイズ混じりの通信機から流れた。どうやら命は無事なようだ。安堵の色を浮かべる中、巨大車両から女指揮官の通信が入る。
『‥‥それで、‥‥し、少尉は無事なのか!?』
「はい、通信を確認しました‥‥ッ!」
『そう‥‥無事なのだな‥‥』
女指揮官から安堵の吐息が漏れる中、フォーが瞳を見開く。視界に映るはゼファーから姿を見せた青年の姿だ。少女は素早く上部ハッチを開き、銃口を向ける。
「動かないで下さい! 撃ちますよ!」
ラサは素直に両手をあげ、機体から姿を見せたパイロットに瞳を流す。
「‥‥こんな女の子に止められたとはね‥‥参ったな」
「!! ‥‥こ、こっちだって、こんな男の子に新型を強奪されるなんて思っていませんでした。大人しく投降して下さい。これ以上、犠牲を増やさないで!」
「これ以上の犠牲か‥‥出来れば、自ら命を断って、この戦いを終わらせたかったよ」
ラサの脳裏に悲痛な叫びを響かせたタマとの遣り取りが過ぎる。
――隊長が戻らない限り、部隊は撤退しませんッ! 今の内に脱出を! これ以上、犠牲が増えて‥‥その上、あなたまで失ったら‥‥あたしも突貫しちゃうんだから!――――。
機体の上に立ち、銃を向ける少女と、両手をあげて苦笑する青年の間に暫しの沈黙が流れた。刹那、開け放ったままのハッチから通信の声が流れる。
『フォーさん! 敵機に振り切られました!』
「えっ?」
視界に飛び込んで来たのは、肩部にセクシー美女のアートを描いたルンピニーだ。
「ォ〜ゥ、新型イラナイから‥‥退いてヨ、敵サン!」
装甲排除型のガーメントは跳躍と共に手を薙ぎ振るい、タイミングを合わせてラサを掬いあげた。一瞬の出来事に、少女が呆然と銃口を向けたまま断ち尽く中、隊長を救出したSGは一目散に撤退してゆく。僅かに流れるは青年の声だ。
「お互いの為だ! 追撃はしない方がいい!」
遠方から翡翠の放つスナイパーライフルが威嚇の閃光を放つ。次第に遠ざかる敵機。もはや追撃する余裕はアンリミテッドには無かった――――。
「アッサニー曹長‥‥済まない、助かったというべきかな?」
「ノープロブレムですヨ! さぁ、戻りまショー、ツォン中尉とシンデレラが待ってマース♪」
「シンデレラ? ‥‥誰の事だ?」
――ラサ隊長の救出は果たせたが、新型機強奪は失敗した。
失った犠牲も大きい。ラサ中隊生存者は4名。
単独行動という責任も問われ、中隊として再編成は期待できないだろう。
今後は小隊として編成されるか、互いにバラバラに編入されるか、今は知る由も無かった――――。