えん歌だい♪アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/02〜05/06
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●本文
●或る日の事
演歌担当プロデューサーは新番組の企画に悩んでいた。番組を制作するからには視聴率は欲しい。しかし、演歌と言えば大抵はお年寄りが見る番組であり、似たような番組は多いものだ。
「何かこう新しい風を吹き込めないものか」
TVを観ながら彼は思案に耽る。何かアイデアが浮かぶ事を期待しながら――その時だ。冗談半分に演歌を歌いながら進行させるリポーターの姿に目を見開いた。
「これだ!! 何も持ち歌や新曲を披露するばかりが演歌番組ではないじゃないか! ノースランドレコードでオムニバスCDだって製作可能だし、面白い事になるかもしれないぞ!!」
●新番組『えん歌だい♪』出演者募集
番組が課題とするものでオリジナルの演歌を歌って頂くものです。
今回は『海の幸』をテーマにオリジナルの演歌を歌って頂きます。
例えば、鮪、寒鰤、烏賊、蛸、蛎など(ネタ被りしないよう打ち合わせましょう)。
「えっ? 海の幸で演歌、ですか?」
紗亜弥は素っ頓狂な声をあげた。16才で演歌歌手となり、路上ライブや演歌番組アシスタントを務める等、活躍の場は与えられていたが、知名度は高いとは言えない。幸いルックスとプロポーションで維持している状態だ。久し振りの仕事だが、少女の表情は優れない。
「あの、‥‥」
「作詞作曲が出来ないのは分かっている。その為に募集は掛けるさ」
「誰も‥‥いなかったら‥‥どうしよう‥‥」
「その時は出られない事になっている。言い方は悪いが、人数が足りない場合の埋め合わせ役みたいな仕事だ。コチラも気楽に構えればいいさ。勿論、歌は真剣に唄ってもらうけどな」
●新番組『えんかだい♪』裏方または司会者募集
舞台演出、衣装担当、大道具、司会者、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
●リプレイ本文
●実は不安だったんです
「紗亜弥嬢お久しぶりです♪ 元気でやっておられましたかー?」
「お久し振り、今回もまた頑張りましょうか♪」
あたしがドアを開けると、高野正人(fa0851)さんの姿が飛び込みました。ツナギを着た細目のお兄さんと握手を交わすと、屈託の無い笑みを浮かべて木野菜種(fa1681)さんが軽く肩を叩いてウインクしてくれたんです。
「高野さん、木野さん、お久し振りですっ! その接はお世話になりました☆」
視線を流すと、ソファーに腰を降ろしている白河・瑞穂(fa0954)さんが、サラリと黒い長髪を揺らして清楚な仕草で挨拶するのが見えました。
「今回も番組の演出を担当させて頂きます」
あたしはホッとしながらお辞儀をして、向かい側のソファーへ瞳を流すと、ウェーブの掛かった長い灰髪の神秘的な‥‥黒人の女性が鋭く赤い瞳を向けます。
「出演するアマラ・クラフトです。宜しくお願いします」
あ、怖そうだけどいい人かも。見た目で判断しちゃいけません‥‥反省です。その隣の席には、赤い髪を後ろで纏めた女性が、品の良い眼鏡に指を当てて穏やかな笑みで迎えてくれました。
「は、初めまして! 紗亜弥です。宜しくお願いします!」
「初めまして、ぇみると言います、今日は宜しく御願いします」
あたしの前まで歩み寄り、黒いショートヘアの方がとても丁寧に挨拶したんです。サラっとした前髪から覗く円らな瞳が綺麗で‥‥。あたしと近い年齢かな? 友達になれるといいな☆
「新月ルイでっす♪ 紗亜弥ちゃんは勿論、皆様よろしく〜☆」
え? 口調や仕草は女性みたいだけど‥‥男の人‥‥なのかな?
「紗亜弥さんの為に曲の作詞、及び作曲を担当します」
優しそうな微笑みを浮かべて歩いて来た方は、スモーキー巻(fa3211)さん。背が高くて見上げていると一寸緊張しちゃいました。
「はい‥‥ふつつかものですが、よろしくお願いします」
あれ? 何か変だったかな‥‥。
●本番までの軌跡
「海の幸をテーマとした番組と言う事で、紗亜弥さん、アマラさん、ぇみるさんそれぞれの歌われる曲の雰囲気に合わせた海の音、波の音を幕間に流して雰囲気を出そうと思います」
「冬の寒々とした感じの歌だったら、暗めで青い色の照明を使ったり、元気で明るい曲だったら赤い照明で明るくするとか、絵になると思うわ」
瑞穂さんと司会を務める縞八重子(fa2177)さんが皆の前で演出について打ち合わせをしていました。あたしは新月ルイ(fa1769)さんに呼ばれて衣装合わせです。
「んー、どちらがいいかしら? 紗亜弥ちゃん」
銀髪のおにい‥‥お姉さんは、細い腰をクネクネさせて衣装を見せてくれました。
「演歌といえば着物!! と、いうわけで、青を基調にした着物タイプね。足元がダークブルー、そして上半身に進むにつれ青の濃さが柔らかくなり、首元はスカイブルー☆のグラデーション。帯は辛子色。内側は白、ね。表立った柄はないのだけれど、波をイメージした白い曲線が全体的に控えめに配置。まぁ、シンプルに【海】! って感じね。髪は結い上げて、濃い青の簪とかつけたいわ♪ 正統派の演歌和装ね★ こっちは、洋装よ♪ ルックス&プロポーションのいい紗亜弥ちゃんだからこそ、逆にそのボディラインを生かせる洋装。こちらもまた、基調は青で、ワンピース。色はインディゴブルーあたりかしら。首元に白いスカーフ。ワンピースのスカートはアシンメトリー&軽い生地で少し動くと、スカートも波のように揺れる‥‥そんなイメージね♪ ‥‥どちらもイメージに合わなかったらごめんなさいね」
あたしが迷っていると、ルイさんが両手を合わせます。
「そんな事ないです! どれも素敵です。えっと、着物は胸にタオルとか入れるんですよね? 洋服も良いけど演歌はやっぱり着物、なのかな?」
八重子さんと、 ぇみる(fa2957)さんが頷きました。
「分かるわ、その気持ち。胸を圧迫されるのは、あたし達には苦しいわよね」
「そうそう、だから私は洋服で歌うのよ」
二人共とってもプロポーションが良くて、同意されているあたしが恥かしい位です。あ、菜種さんと瑞穂さんも来ちゃった。
――それから、あたしはスモーキーさんと演奏の菜種さんと一緒に練習です。
「作曲のテーマは『爽やかな演歌』です。ヨナ抜き音階や小節などの演歌の基本はしっかり抑えつつも、一つめの『青』以外では演歌独特の『重さ』をなるべく出さず、所謂股旅物的な『軽さ』とはまた違う『爽やかさ』を追求します。やや技量が必要になるだろうけど頑張るんだよ」
「あ、紗亜弥だから詞は平易な言葉に置き換えた方がいいかも。詞の意味が分かった方が歌い易いでしょ。ね、紗亜弥?」
「え? ‥‥は、はい‥‥そうして頂けると‥‥」
もぉ、恥かしいですよぉ。うん、次の試験は赤点追試にならないよう頑張ろう――――。
「高野さん? まだ、残っていたんですか?」
「こういう形での仕事はひさびさですからね、気合も入りますよー。‥‥それより、紗亜弥嬢、元気ですか?」
細目のお兄さんは細い顎に手を当て、神妙な顔つきをしました。もぉ、勝てないなぁ。
「‥‥実は、仕事があまり来なくて‥‥。他の演歌歌手の方って作詞作曲したり、歌も上手だし、あたしより若い娘もいるんですよ。これからが怖くて‥‥」
「ふぅむ、ま、あまり気負わずにー。まだまだ新人、順風満帆いく人なんていませんし、歌も踊りも作曲も‥‥なんて何でも出来る人は化けもんです。僕だってセットは作れますけど、役者もやれなんていわれたら裸足で逃げ出しますもん、多分。ダイジョーブ、紗亜弥嬢の歌のファンは最低一人は今目の前におりますってば。探せば絶対もっと、ね」
あたしって駄目だな。誰かに甘えてばかり‥‥。でも、勇気を貰えました‥‥。
●えん歌だい♪ オンエアー
港町の市場を思わせる舞台の中央に漁船のセットが設置された。正人渾身の作だ。そんな中、司会の八重子がマイク片手に声を響かせる。
「課題で歌う演歌番組『えん歌だい♪』いよいよスタートです。今回の課題は海の幸、どんな歌が唄われるのかしら? 早速参りましょう!」
周囲の灯台から照明が注ぎ、赤を基調としたドレス姿のぇみるが照らされた。スカート丈は短めで、裾には白いシルエットで魚の模様が浮かんでいる。TVを点けた視聴者はアイドル番組と勘違いしそうだ。八重子がテーマを訊ねると、少女は端整な風貌に微笑みを浮かべて答える。
「はい☆ 鰯の弱さを出しながらも、蒼い海の中を皆で楽しく泳いでいる夢を見ている感じの純演歌です」
ステージに前奏が流れ出した。ゆっくりとした曲調の中、ぇみるが切なげな表情で豊かな胸元に手を当て、弱さを強調するように感情を篭めて声を響かせる。流石、女優兼歌手だ。しかし、その実力は未だ序章に過ぎない。次第にテンポが上がってゆくと、少女の儚げな表情は眩しい程の笑顔に変容した。一気にリズムは楽しさを表現し、揺れるスカートに描かれた魚が泳いでいるようだ。
――すごい! こんなに歌い方や表情を変えられるんだ! 本当に楽しそう。
続いてスポットライトを浴びて姿を見せたのは、アマラ・クラフト(fa2492)だ。黒地に銀の振袖を着ており、三味線を携えての登場である。
「題材は『鮪』です。鮪の黒く巨大な姿が力強く泳ぐ様や止まる事ができない悲しい運命みたいなものを津々浦々と歌わせて頂きます」
「それでは、参りましょう。歌は『鮪武者』です!」
アマラが鋭く赤い瞳を研ぎ澄ませると、三味線を少し早いテンポで掻き鳴らし、唄い出す。リズム感と技術、そして発せられる歌声は、紛れもなくプロの実力だ。
――♪ 蒼い大海原の中で
一際目立つ黒い鎧
潮に乗って駆ける様は
正に鎧武者
武者は眠ろうとせずに
ただひたすら泳ぎ駆ける
傷つくを恐れずに泳ぎ続ける
眠る時は天に帰す時
命の灯火が消えようとも
武者は大海原を泳ぎ駆ける――♪♪
「さぁ、出番だよ。大丈夫、キミならできる。僕たちは皆そう信じてる」
「籤引きで決まったとはいえ、取りだからね! 行くわよー♪」
「応援してるわよ〜☆」
スモーキーが笑顔で送り出す中、菜種が少女の肩を叩いて気合を注入。ルイによりナチュラル系で可愛らしくメイクされた紗亜弥が、洋装でステージにあがる。
「海の幸は『トビウオ』です。青い海と青い空の間を、切り裂くように飛んでいくトビウオの姿と、三種類の『青』をうまく表現できたらと思っています」
「では、最後を飾ってもらいましょう。歌は『蒼』です!」
(「最初の青はしっとりと、哀愁漂う感じで」)
――♪ 青は寂しさの色。悲しみの色。
その青い静寂の中に、取り込まれてしまいそうになる時もある。
(「次の青はやや力強く、あまり重くしすぎず」)
青は果てしなく続く空の色。眩く輝く海の色。
悲しみの「青」の水面から飛び出せば、同じ青でも、一瞬にして世界が変わる。
(「最後の青は爽やかに、明るく、若さを前に出して」)
青は若さの色。希望の色。幸せを運ぶ鳥の色。
風にのって飛ぶトビウオの姿に、未来の希望と未来への意志を重ね合わせて――――♪♪
紗亜弥は歌った。学んだ全てを注ぎ込んで‥‥。
番組のテーマ曲が流れ、八重子や出演者がステージに歩み寄る。
「はい、次回はどんな課題で演歌が紡がれるのでしょうか? それでは、また会う刻まで♪」