ヴァルキリーインパクトアジア・オセアニア
種類 |
シリーズEX
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
05/17〜05/21
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●本文
●TVCM
――ヴァルキリーインパクト。
これは立ち技のみの女子格闘技である。
これまで多くの戦乙女を誕生させた番組が、春と共に新たな局面を迎えた。
最強の戦乙女を決定するトーナメント戦の開幕である。
さぁ、準備は整った! ヴァルキリー達よ、戦に身を焦がすがいい!
只今、ヴァルキリーインパクトでは出場者募集中!!
「トーナメントでヴァルキリーインパクトっスか!?」
担当者は素っ頓狂な声を響かせた。エイプリルフールで結果的に成功したものの、反動のように苦情の電話が鳴り続いた日々が終わったと言うのに、今度はトーナメントとの話だ。
「予定では2回か3回で放送する。これまで出場した選手も10人はいるだろう。トーナメントの駒は揃った訳だ」
始めから仕組んでいたかのように不敵な笑みを浮かべる上司。選手達にもスケジュールがあるだろうに‥‥。
「つまり、もう季節とか関係無しってことスよね?」
「何をうろたえているのですか? 受ける番組枠を増やすのは当然でしょう」
洒落た眼鏡の優男がテーブルに肘を突き、両手を組んで微笑んだ。次に若い女が落ち着いた声を響かせる。
「それに、もう特別な月は限られているわ。5月に『ヘラクレスバースト』って男子立ち技格闘技企画もあがったけど、6月にジューンブライド。7月は水着や浴衣の季節。でも、単発でやるには限界があるのよ」
「‥‥需要は大丈夫スかね? シリーズで放送するって事スよね」
「担当がビビってどうするよ! 自信を持て!」
バシッと肩を叩かれ、ナヨナヨと青年は膝を着いた。そんな中、優男が再び口を開く。
「エイプリルフールの衝撃のままでいるのも問題でしょう。確かにインパクトは視聴者に与えましたがね」
「了解ス‥‥でも選手枠が合わなかったらどうするんスか?」
「コチラで雇った素人を用意するさ!」
●顔を売る為‥‥。
「えぇっ!? 格闘技なんて、あたしできませんっ」
紗亜弥は豊かな胸元で両手を組んで酷く怯えた声をあげた。円らな瞳は潤み、今にも泣きそうだ。
「富TVの演歌番組を観たスタッフから声が掛かったんだ。佐武が番組を見た所、危険性は無いって事だ。顔を売るには悪い話じゃない」
紗亜弥は路上ライブで演歌デビューした16才の少女である。しかし、スケジュールが多いとは言えず、新曲の話も無く、下り坂に傾いていた。事務所としても何とかしなければならない。そこに富田TVで演歌番組に出演した事を切っ掛けにオファーが舞い込んだのである。ルックスとスタイルの良い少女に打って付けと見たのだろう。彼女にしてみれば迷惑な話である。
「こ、困ります! あたしは歌手でプロレスラーじゃありませんっ」
「プロレスじゃない。グローブで打ち合うだけだ。今までのデータだとお互い顔を打たない傾向にあるらしい。いいか? 何がチャンスになるか分からないのが芸能界だ! エンターティンメントの富なら若い視聴者が見ている! 出場できればインタビューでCDアピールもできるかもしれないぞ!?」
「‥‥出場できれば? 出ない場合も、あるんですか?」
「トーナメントで人数が合えば待機だ。所謂オブザーバーって奴さ」
「(そっか、出なくて良いかもしれないんだ)‥‥CD、売らなきゃいけないんですよね? 勝たなくて良いんですよね? だったら‥‥あたし‥‥」
『そうかぁ! おい佐武! クリスティ! 紗亜弥が出てくれるぞ!』
ドア越しに男の声が響き渡った。カタカタとタイピングしながら妖艶な美女が溜息を吐く。
「なんだか‥‥厭がる少女を騙してイケナイビデオに出演させてる気分だわ‥‥」
●試合形式
グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
2ノックダウンシステム。
投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
勝負はKO・TKO・判定で決定。
エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。制作サイドである『ヴァルキリークリエイト』と打ち合せて下さい。
●募集区分
・ヴァルキリー(格闘技未経験者参加OK)
試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
自由(但し、クリエイトの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビュー等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
1R:(前半)(中盤)(後半)
2R:(前半)(中盤)(後半)
【得意技(コンビネーション等)】
得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
・実況
状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。
・控え室リポーター
選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃して見ましょう(笑)。後は選手との駆け引きです(プライベートな事なので打ち合せて置きましょう)。
・解説者
格闘技を生業としている女性で、試合の状況に解説を入れる方です。
ヴァルキリーインパクトは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。
・セコンド
選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。
●オブザーバーNPC(指名して下さい)
・紗亜弥(演歌歌手):仕事が無いので事務所に騙され嫌々ながら出場予定。
・フォビトン・フルート(女優):視聴率(アクター参加率)が不安要素でSteelGrave新作が見送り状態。セミロングヘアの眼鏡美少女。何故日本の番組で、しかも格闘技かは謎。
・法衣 麻奈華(学生):
「わ、わ、わたしっ、つ、つ、つつ、つよくなりたいんですっ」
因みに新キャラ(?)なのでデータ不十分です。どんなキャラかイメージせよ! もしかするとイメージ通りかもしれないぞ?
●リプレイ本文
●衣装部屋にて‥‥
「確かに衣装はクリエイトと連携とは言いましたが‥‥」
集まった選手達は動揺の声を洩らした。そこには、様々な学生服系の衣装が並んでいたのである。どうやらクリエイト側で演出を統一したらしい。
「それって一方的じゃないのか?」
ヴァルキリーインパクトに何度か参戦している者は怪訝な色を見せた。
「私のは、セーラー服に変わりないから良いかな?」
「あ、でも、要望を聞いてくれた人もいるみたいだよ☆ キャミみっけ♪」
スタッフの話に因ると、念の為にと孤軍奮闘したクリエイターがいたそうだ。彼の努力なくして選手の要望に応えた衣装は有り得なかったかもしれない。この辺は録画した番組で確認して欲しい。
選手達はそれぞれ衣装を見つめ、瞳に闘志の炎を滾らせた――――。
●ヴァルキリー最強決定トーナメント
四角いリングを俯瞰に捉えた後、実況席の葉月竜緒(fa1679)を映し出す。跳ねた後ろ髪や活発そうな風貌は、もはや番組に欠かせない定番キャラだ。
「さぁ、いよいよ開催されるヴァルキリーインパクト最強決定トーナメント戦。実況の葉月です。それでは早速選手達の控え室にカメラを向けてみましょう。突撃リポーターの不破さん?」
映し出されたのは茶髪の少女だ。割りと整った風貌とジャージから盛り上がる豊かな胸元に自然と視線を注いでしまうのは何故か。不破・美影(fa3342)がゆっくりと口を開く。
「はい、美影です。それでは控え室に突撃リポートを行います」
早速走り出す少女。何故かカメラは彼女を斜め前から煽り気味に映した後、後ろ姿へ回った。控え室に突入すると、尾鷲由香(fa1449)に質問をぶつける。
「あなたの格闘技経験はどの程度なんですか?」
「格闘経験は有りで実況の葉月ともやったぜ」
茶のショートヘアにボーイッシュな風貌の娘が微笑んだ。美影が次の質問を投げる。
「どんな技やスタイルを使うんですか?」
「テコンドーとジークンドーだ。一番見応えのある試合にしてやるぜ」
長めの前髪から覗く鋭い緑色の瞳を美影に向け、親指を突き出して見せる由香。
快く応えてくれた選手にエールを送り、再び駆け出す。やはりアングルはジャージ越しに揺れる胸元を捉えるように向けられているのは気のせいか?
向かった先に映し出されたのは、ヴィクトリー・ローズ(fa3116)だ。赤毛の娘は、リポーターの胸元に緑色の瞳を流した後、質問に口を開く。
「ミーは女子プロレスラーだしぃフルコンタクト空手も経験あるっていうかぁ格闘技研究家ってカンジぃ? どんな技っていうかぁ今回はサービスでせくすぃ〜路線てカンジィ」
「‥‥あ、有り難うございました。以上、控え室から美影がお伝えしました」
●Aブロック第1試合:尾鷲由香vsヴィクトリー・ローズ
『(只今より、ヴァルキリーインパクト第一試合を行います! 選手、入場!!)』
無数のフラッシュが瞬く中、大空を一羽の鷲が駆け抜けるようなスピード感溢れるロックが生演奏で鳴り響く。曲名は『飛翔』。その旋律はどこかで聴いたクラシックを思い出させる。何本ものスポットライトが激しい旋律に合わせてサーチライトの如く動き回り、捕捉されたのは、凛々しさと精悍さを漂わす黒シャツにベストを纏い、迷彩ズボンというコンバットスタイルの由香だ。
『普段は着ぐるみの中、しかし、脱げばすごい! ジークンドーの強烈な蹴りは相手を圧倒するのか!? 尾鷲由香!』
続いて響き渡ったのは、明るめの曲調で奏でられる激しいパンクロック! 同じく生演奏でエレキギターが派手にパワフルに唸る中、花道に姿を見せたのは、露出度の抑え目な衣装を着た数人の踊り子だ。その中心にカメラがズーム。リオのサンバカーニバルを連想させる露出度の激しい衣装で、妖艶に躍動するローズを捉える。『Explosion!!』が鳴り響く中、サンバダンサーズと共にセクシーダンスを踊りながら花道をゆく。
『前回の激戦も記憶に新しい所! プロレスとの勝手の違いは彼女には関係ありません! ヴィクトリー・ローズ!!』
『(セコンドアウト! Round1 ready Fight!!)』
ゴングと共に動いたのは由香だ。ローズの瞳が僅かに見開かれる。
――速いッ!
『尾鷲選手、一気にダッシュして宙を舞って浴びせ蹴りだぁ! ヴィクトリー選手、ロープに弾かれます! 空かさず体勢を立て直して内側から膝へのローキック!! ヴィクトリー選手も左ミドルキックで応戦だ。互いに蹴りの連撃です! おっと、尾鷲選手体勢を崩した!』
――くッ、蹴りが重いッ!
『ヴィクトリー選手、間合いを詰めてパンチのコンビネーション! 左ジャブから右フック! 左ストレート! 魅惑的な肢体が躍動し、ダンスを踊っているかのようだ! しかし尾鷲選手、しっかりとグローブで徹底ガードだ!』
(「すごいパンチ! 威力に衰えが見えない‥‥ッ!!」)
『おっと、ここでパンチから左右のローキックへ転じた。尾鷲選手、バックステップで躱し‥‥間に合わない! 食らいつくヴィクトリー選手の蹴りの応酬に、動きが鈍って来ます!』
(「ガードが甘くなった!」)
『ここで、左ストレート炸裂ー!! 尾鷲選手、ロープへ吹っ飛んだ!!』
――やられるッ!!
飛び込むローズに由香は戦慄。刹那、ゴングが鳴り響いた。
『おっと、ゴングに救われました! 尾鷲選手、危機一発!』
『(セコンドアウト! Round2 ready Fight!!)』
『さぁ、第2ラウンドです。尾鷲選手、素早く間合いを詰めて左フックから右アッパーだ! ヴィクトリー選手、蹴りの間合いを詰められた! 速い! 食らいながらロープを背にしながらローキックで牽制! 未だ蹴りは重い!』
しかし、ここで由香は致命的ミスを犯す。スタントで培った軽業を過信した故か、このままスパートを掛けず、切り札を確実とする為に、相手に合わせたのだ。互いに蹴りの間合い――――。
『おぉっ! ヴィクトリー選手の左中段廻し蹴りが伸びたー! これは左ハイだ!! 尾鷲選手、身を反らして躱そうとするが間に合わない! 入ったー!! 空かさず宙を舞っての、膝蹴りが炸裂!! 尾鷲選手ダウンッ!!』
その後、何とか立ち上がって試合はゴングまで続行された。やはり判定はダウンを奪ったローズが勝利を手にしたのである。
●控え室レポートその2
試合の後、ジャージのファスナーを僅かに下ろした美影が映った。恐らく指示があったのだろう。やはり走らされ、控え室にティタネス(fa3251)を捉えた。褐色の肌にセミロングの茶髪を揺らし、温和そうな瞳をカメラに流す。
「格闘技は初挑戦なんだけど、まあ頑張ってみるよ。格闘スタイル? そんな難しいこと聞かれてもなあ」
ポリポリと髪を掻いて困惑の表情だ。どうやら我流らしい。
エールを送り、また少女が走る。セクハラ紛いのアングルが相変わらず続く中、対戦相手の控え室に辿り着く。森木 久美(fa3489)が長めのショートヘアとアンテナのような癖っ毛を揺らし、ぺコリとお辞儀した。礼儀を知っている少女だ。
「小さい頃から柔道をしていて、今は新人プロレスラーとして頑張っています! 元気一杯で頑張りますので、皆さん応援宜しくです!!」
●Aブロック第2試合:ティタネスvs森木 久美
選手入場のコールと共に、重低音を轟かせたスローテンポの旋律が響き渡った。数本のスポットライトが駆け巡る中、後光が射しているかの如く背後から強烈な光を浴びて、長身の引き締ったマント姿のシルエットが浮かび上がる。ゆっくりと手を肩に運ぶと、勢い良くマントを剥ぎ取った。同時に会場の彼方此方から火薬が爆発! 歓声が溢れる中、旋律も一転してやや早いテンポのヘヴィメタルが鳴り響く。スポットライトに照らされるは、威圧感を漂わす戦闘服らしき黒い衣装に身を包んだ娘。『Behemoth Awaking』の旋律が、悪役系になり過ぎない程度に威圧感をアピールする中、褐色の身体が花道を歩く。
『お笑いからドラマなど各種番組に出演中! タレントの原石はこの番組で輝けるか!? ティタネス!』
続いて奏でられたのは、春の爽やかな風を思わせる明るいポップス系の旋律だ。『Shun−Puu(春風)』が春風のように流れる中、白い半袖セーラー服に身を包んだ少女が、学ランやスケバン風な学生服(セーラー服やブレザー等)に身を固めた女性エキストラの長ーい行列を従えて、花道をゆく。茶髪に洒落っ気のある赤いバンダナを巻いており、ピンク色でチェック柄のマイクロミニスカートが歩く度に揺れるもののブルマ着用だから安心だ。
『新人とは思えない格闘センスにこれからの成長が楽しみな新人プロレスラー森木久美!! おぉ、何でしょうか? 森木選手、リングに上がるとマイクを握りました。歌でも唄うのかぁ?』
『観客の皆さんにお願いがあります! 試合開始の合図を『ヴァルキリーインパクト レディ?』の後に、全員で『ゴー!!』と言ってくれますか? 気合も入りますからね♪』
ゴーで拳を掲げて見せる久美。更なる一体感への演出に観客達も声を合わせた。
『(セコンドアウト! ヴァルキリーインパクト レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
『さぁ、新たなアナウンスで試合開始です。両者、間合いを取りながらローキックで牽制し合っています。ティタネス選手は動きながら躱していますが、森木選手まともに受けている。しかし、ダメージは無さそうだ』
(「なに? ティタネスさんの蹴りってこんなに軽いの? 駄目! 焦っちゃ駄目だよ!」)
ティタネスの蹴りはインパクトを感じないが、久美とてローを躱され続けているのだ。油断と焦りは禁物。そんな思いがローキックのみの攻防で1Rを終わらせた。
『(セコンドアウト! ヴァルキリーインパクト R2 レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
『さあR2はどうする! 後がないぞ! んーッ、慎重です!』
(「何で攻めて来ないんだ? そろそろ反撃と行きたいんだけどさ!」)
(「ローが当たっていないって事は、まだダメージは無いって事だよね?」)
――このままじゃ、警告モノだ! えぇいッ!!
『ティタネス、素早く間合いを詰めて反撃だ! 長身を活かしてジャブ、フック、ストレートと打ち下ろす! おぉっと、振り下ろす振り下ろす! ハンマーパンチだぁ!! 端から見れば女幹部にヒロインが攻撃を受けるような様相だ!!』
――残念だよ、このパワーでしっかりした格闘技術があれば良い勝負になったけど!
『森木選手、ここでパンチを弾いた! そのまま小柄な身体を活かして懐に潜り込むッ!』
――ライジングッ・ドラグーン!!
『決まったぁ! 一気に逆転! ティタネス選手の顎へアッパーを放ちました! おっ、仰け反るものの、まだ倒れない! あー、ここでゴングです! 判定はどちらに勝利をもたらすのか!?』
ティタネスの反撃ラッシュは効果的だった。しかし、明らかに素人。体力や筋力があろうとも、元から格闘センスが皆無では、効果的なダメージを与えられなかったのである。対する久美は一瞬の隙を突き、一撃をクリーンヒットさせた。結果2対1の判定でティタネスを破ったのである。
●控え室レポートその3
ジャージのファスナーを更に下ろした美影が映った。恐らく指示があったのだろう。思いきり腕を振って走らされる中、向かった先に映るは、各務 神無(fa3392)だ。腰ほどまであるかと思える銀髪を軽く払い、落ち着いた雰囲気の赤い瞳がリポーターの問いに応える。
「蹴り主体の古流武術、今では名も廃れた白兵技巧かな。私としては、アヤと決めた制限範囲で戦って楽しめればそれで十分なんだけど‥‥。まぁ、良い試合をすれば観客も歓んでくれる。無様な真似はしない様にするから、それで勘弁して貰えないかな」
『制限範囲、ですか?』
「顔面及び頭部への攻撃は無しって事だよ」
エールを送ると、美影は走る。控え室に捉えたのは一見格闘技とは無縁そうな美少女だ。泉 彩佳(fa1890)が茶髪のロングヘアと左右に巻いたリボンを揺らし、円らな緑色の瞳を和らげ、愛らしい笑顔でリポーターを招く。キラキラと放たれるオーラはまるでアイドル並だ。
「格闘技はテコンドーです☆ 打撃系格闘技の華『ヴァルキリーインパクト』に出場できるとは思ってもいなかったよ♪ 事務所のポリシーであるお客さんに楽しんで頂けるような試合ができたらいいな☆ 力でなく技、技も見た目を重視していこうと思います♪」
●Bブロック第1試合:各務 神無vs泉 彩佳
速いテンポの低音で疾走感を演出した旋律が流れる。花道には明かり一つ注がず、暗闇に静かなる『Lunatic Wolf』が響き渡った。客席もミステリアスな雰囲気に沈黙する。刹那、満月をイメージした照明が浮かび、薄闇の中をスーツにトレンチコートを羽織ったシルエットが歩いて来た。足枷を思わせる千切れた鎖を引き摺る姿が異質な空気を醸し出す。
花道を中程まで差し掛かった時だ。照明は満天の星が瞬き出すよう演出され、澄んだ伸びのある高音で、クールで美しく、神秘的でミステリアスな、やや暗めのシンフォニックメタルが鳴り響いた。
『音楽はもとより格闘のセンスもプロ以上! 戦うバイオリニスト、各務 神無!! 今宵はセコンドに紗亜弥を起用しての参戦だ!』
(因みに紗亜弥をセコンドに招いても特殊効果は発動しない事を加えておこう)
――とおりゃんせ‥‥とおりゃんせ‥‥。
突如流れ出したのはわらべ唄をアレンジした歌だ。
――此処は何所の細道じゃ‥‥戦へ続く細道じゃ‥‥
弱き者は通しゃせぬ‥‥――――。
曲名『戦路(いくさみち)』が唄い終わると、雅楽とロックが融合したような神秘的な曲に変わり、神無の花道を演出した『夜』に、無数の蛍や蝶を模した照明が舞い、夏の妖精をイメージした浴衣姿の彩佳が浮かび上がった。ゴシックロリータ風な飾りのついた黒地に白の蝶模様をふりふりひらひらと揺らし、浴衣から覗く細腕に携えるは、赤い扇子だ。美少女の艶姿に観客が魂を抜かれたように見惚れる。
『大人しい容姿とは正反対の華麗な技で観客を魅了するはシュート系プロレスラー泉 彩佳!!』
『(セコンドアウト! ヴァルキリーインパクト レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
『ゴングと共に間合いを詰めた各務選手。変幻自在の蹴りで翻弄します。泉選手、グローブで払おうとするが捌けない! 浴衣が次第に乱れてセクシーだ!』
(「くっ、何なの? こんな蹴り出されたら‥‥軸足はどっちなのよ? なら、攻めるわよ!」)
『泉選手反撃に出た! ジャブ、ストレート、フック! しかし、各務選手、グローブでガードを固めて貫かせない! あぁ、カウンターが泉選手にヒット! だが、足は未だ生きている!』
(「プレッシャーを与えてアヤの呼吸を乱しつつ、その挙動を十分に観察して分析するんだ。あくまで自己の消耗を抑え、相手を消耗させる!」)
『あーッ、ここでゴングです!』
「お、お疲れ様です! えっと‥‥ゆうせい? ですね」
「ハァハァ、先の全ては次の為の布石だよ‥‥先の先を狙う!」
「‥‥? さきのふせきのさきのさき?」
『(セコンドアウト!)』
紗亜弥のエールに送られ、2Rのゴングが鳴り響いた。
『両者同時に間合いを詰めた! ここで一気に攻勢に出るのでしょうか!』
――見て楽しい試合をしなきゃいけないよ、ねッ!
――なにッ!?
『泉選手跳んだーッ! 浴衣姿で大胆な攻撃だーッ! テコンドーならではの派手な蹴りを各務選手へ放ったー!』
しかし、彩佳と神無のスピードは同等。互いに攻勢に出た為、彩佳の蹴りはクリーンヒットには及ばず僅かに狙いは逸れた。体勢を崩した所へ神無の蹴りが伸びる!
――中段!? それとも上段なの!? でも、顔への攻撃は‥‥はっ!?
刹那、膝を捻った蹴りは大きく弧を描き、小柄な彩佳の鎖骨へと吸い込まれてゆく!
『おぉっ! 泉選手崩れたー!』
頭部でも首とも違う鎖骨へ叩き込まれたインパクトは、スタミナで補えるものではない。一瞬、呼吸が苦しくなり、膝を着きそうになるのを堪えてロープへ逃げたのだ。プロレスラーとして鍛えていなければ、骨に罅が入ったかもしれない。
何とか試合は繰り広げられたが、神無が判定で勝利するに至った。
●控え室レポートその4
遂にジャージのファスナーを胸元が覗くほど下ろした美影が映った。早速走り、控え室へ突入すると、カメラがアジ・テネブラ(fa0160)を映し出す。長い銀髪を首の後ろで三つ編みにしているらしく、それを胸元に流しているようだ。円らな青い瞳がリポーターを映す。
「経験はヴァルキリーインパクトの参戦のみです。格闘スタイルですか? それは見てのお楽しみと言う事で〜。とりあえず、見てもらいたいのは前回よりも成長した私ですね?」
エールを送ると、美影は慌てて走る。巻きが入ったようだ。次にカメラが捉えたのは、月影 愛(fa2814)だ。長い黒髪を片房のみ結っており、愛らしい風貌に良く似合う。
「格闘経験は無いよ。完全我流ですね、多種多様の格闘技を自己流で混ぜた感じで、しいて名づければ『艶武』かな? AV女優だけど、精一杯がんばるよ♪ それに戦う私のセクシーな所も見て欲しいな☆」
「え、AV女優!? ですか?」
中学生位にしか見えず、危うい犯罪の臭いがプンプン漂うが、これでも成人との事だ。エールを送ると美影がカメラの正面に向き直る。
「控え室からお伝えしました‥‥っと」
リポーターが慌てて走る姿をカメラが僅かに捉えていた――――。
●Bブロック第2試合:アジ・テネブラ(fa0160)vs月影 愛(fa2814)
クラシックな旋律を緊張感と哀愁漂うロックバラードにアレンジした『ヴァルキュリエ』が流れる中、白銀の雪が時には優しく時には激しく舞う。雪の妖精をイメージした演出に、左腕と右腿に赤い飾りリボンを結んだ白いゴスロリチックな衣装を身に着けた少女が浮かび上がる。
『ファーストからのコアなファンは久々登場の彼女の成長した姿を心待ちにしています。フリーシンガー、アジ・テネブラ!!』
次に響き渡ったのは、ユーロビート系の旋律だ。本人のイメージから作曲した『Cute Little Dangerous Thing』は、明朗でノリの良いリズムを刻み、激しさを増すと共に、薄暗い中、ミラーボールが回っているかの様に光の輪が会場全体に踊る。明るさの中にもかわいらしさと激しさをミックスさせた踊り出したくなる感じの曲に合わせ、浮かび上がるは、キャミソールにスパッツというシンプルな姿の少女だ。
『見た目は子供、体は大人、きれいなお姉さんは好きですか? AV女優兼モデル月影 愛!!』
『(ヴァルキリーインパクト レディ)』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
『両者間合いを計りながら睨み合いです。おっと、月影選手が動いた! アジ選手、詰められるとバックステップで間合いを保ちながら牽制のロー! 月影選手、ちょっと痛そうだが、苦悶の表情が色っぽいのは気のせいか?』
(「速い‥‥身長差でこっちがダメージ受けてるのかな? やんッ、また当たったよぅ。でも」)
――悔いだけは残したくない!
『月影選手、攻めに入った! パンチと蹴りのラッシュだ! これが我流艶武なのか! まるで舞うように艶やかだ!! しかしアジ選手、牽制のローやジャブで間合いを詰めさせない! 白い衣装が吹雪の如く流れて翻弄します!』
(「隙だらけだよ‥‥ごめんね」)
――えっ!?
愛は一瞬アジを見失った。それほどスピードに差があったのだ。次に彼女を捉えたのは、重心を落として懐に踏み込んだ姿! 刹那、少女の腹部を鈍い衝撃が強襲した。一気に呼吸が止まる!
『アジ選手のボディブローが叩き込まれたーッ! 月影選手、苦しそうだ! おっと、ここでゴングです。攻めるまでに時間を掛けた結果が、どう出るか? おぉッ!!』
実況の声と共に客席からも動揺の声が溢れた。
突如、レポーターがリングに上がったのだ。ジャージを一気に脱ぎ捨てると、魅惑的な肢体をハイレグ水着に包む、美影が照らされた。竜緒の口元がニヤリと微笑む。
『突撃リポーターは仮の姿か!? グラビアアイドルの初仕事!! 華のラウンドガールにも挑戦します! 不破美影!! さあ、艶やかな脚線美を堪能するがいいッ!!』
声援の波が美影に降り注ぐ中、コーナーで少女は愛らしい風貌に苦悶の色を浮かべていた。
「はぁはぁ‥‥んんっ、何とか回復させなきゃ‥‥」
頭部への打撃は昇天する感覚と謂われ、ボディへの打撃は地獄の苦しみと例えられる。愛は著しく体力を消耗させられていた。一気に1Rで沈められた方が救われたかもしれない――――。
『セコンドアウト! ヴァルキリーインパクト R2 レディ‥‥』
「「「「「「「「「「ゴーーッ!!」」」」」」」」」」
美影によるコールが響き渡り、試合は開始された。
『アジ選手、またボディ! 月影選手足が止まった! ここで、間合いを開いてー、脇腹にミドルキックーッ! 月影選手、身を捩って悶絶しながらロープへ飛ばされた! うーん、何かセクシーだが、苦しいでしょう。再びアジ選手ブリザードの如く間合いを詰めてー、ボディブロー!! 容赦ないボディへの連撃に月影選手ついに崩れたー!!』
「んはッ、はぁはぁ(まだだよ‥‥私、まだ闘えるからね!)」
その後、愛は何度となくボディへの洗礼を叩き込まれながらも、ゴングまで闘い抜いた。結果は誰の目にも明らかだったが、最後まで闘った少女に悔いは無いだろう。苦しむ姿ばかりが目立ったが、本職に影響しない事を望みたい。
悩ましげな表情で腹部を押さえる少女に、スと手が伸び、愛の潤んだ瞳に握手を求めるアジが映る。二人は互いの健闘を称え合い、しっかりと握手を交わした。
「応援してくれたみなさん、私はこれからももっと頑張ります!」
愛と握手した手を掲げると、客席から拍手の波が降り注いだ。
●結果
・Aブロック決勝:ヴィクトリー・ローズvs森木 久美
・Bブロック決勝:各務 神無vsアジ・テネブラ
・Aブロック3位決定戦:尾鷲由香vsティタネス
・Bブロック3位決定戦:泉 彩佳vs月影 愛(fa2814)
「次回対戦カードは棄権が無い限り、画面に表示されているものとなります。それでは、次回最強決定トーナメントでお会いしましょう。実況、葉月でお送りしました」
NEXT:0612公開