えん歌だい♪アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/31〜06/04
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●本文
●或る日の事
「よし、先ずは3曲確保だな。オムニバスCDには未だ足りないか」
演歌担当プロデューサーは『えん歌だい』に手応えを感じて次の課題を模索していた。
「前回が『海の幸』だったからな。5月の旬で決めるか? 6月はジューンブライドだが、花嫁衣裳に限定されると衣装もバリエーションが難だな。提案でもあれば今後の課題に入れるか。これは別のCDに入れるとして、聴いていて一貫性はあった方が良いよな?」
彼の目的は二つ。若い視聴者を獲得する新しい演歌番組の成功と、番組で披露された歌をノースランドレコードでオムニバスCDとして発売する事だ。
「かだいかだいと‥‥」
●『えん歌だい♪』出演者募集
番組が課題とするものでオリジナルの演歌を歌って頂くものです。
今回は5月〜6月の『旬の野菜』をテーマにオリジナルの演歌を歌って頂きます。
例えば、アスパラガス、グリーンピース、春キャベツ、新たまねぎ、そら豆、筍、絹さや、らっきょう、うめ、にんにく、とうもろこし、きゅうりなど(ネタ被りしないよう打ち合わせましょう)。
「おはようございます♪」
事務所を訪れた演歌歌手紗亜弥は機嫌が良かった。何故なら格闘番組で選手として出場しなくて済んだ為である。気のせいか、制服から浮かぶ胸の弾みも軽やかだ。早速、壮年の男は仕事の件を話した。
「えん歌だいの出演ですか?」
「まぁ、埋め合わせ役に変わりないがな。富田TVのキミへの期待は少なからずあるって訳だ。勿論、作詞作曲の募集は掛けるさ。やってくれるか?」
「はい! 皆さんの力であたしが歌えるなら頑張ります!」
「良い返事だ。‥‥何かあったのか?」
「え? いいえ、その、前の番組で元気を貰っただけです」
ポリポリと頬を掻いて俯いて微笑む少女。
「ふーん、元気ね‥‥。まあ、やる気になってくれたのは収穫だ。頑張るんだぞ!」
「はい!」
●『えんかだい♪』裏方募集
舞台演出、司会者(台詞要明記)、衣装担当、大道具、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
●リプレイ本文
●こんなにたくさんいたんです
「すみません! また遅れてしまいました!」
追試の理由を伏せ、あたしはドアを開けるなり皆さんにお辞儀すると、恐る恐る改めて顔色を窺いました。
「あっ! 高野さん、菜種さん、ぇみるさん、お久し振りです!」
前回の番組でお世話になった方もいて、あたしは思わず歓喜の声をあげてしまったんです。『相変わらずねぇ♪』なんて、木野菜種(fa1681)さんが大きな胸を抱く様に腕を組んで苦笑していました。
「サーヤごぶさたブリネ♪ アーネよ☆」
「あっ、アドリアーネさん! ごぶさたぶりです!」
以前、番組でお会いしたアドリアーネ・ロッシ(fa2346)さん。金髪で青い瞳が綺麗で、スタイルが良い外人さんの演歌歌手です。知ってる方が増えるって嬉しいなぁ☆
「何だかご機嫌ね、サーヤ。歌は心で歌うモノだから、楽しい気持ちなのはとてもいいコトよ。歌い手が楽しめなくては、聞き手も楽しくないものネ☆」
楽しい気持ち‥‥。そっか、あたし不安ばかりだったから‥‥。
「紗亜弥さん、今回は【和香】として出演する、ぇみるです、宜しく御願いします」
ぇみる(fa2957)さんが、いつものように丁寧な挨拶に来てくれました。あれ? 隣の短めの灰髪に青い瞳の女性は? 若って?
「初めまして【和香】の結と言います、宜しく御願いします!」
「はじめまして! 紗亜弥です! ‥‥‥‥あの、わか‥‥って?」
結(fa2724)さんが元気な声で深々とお辞儀したので、あたしも頑張りました。ちょっと上目遣いで覗いちゃったら、胸の谷間がセクシーです。ぇみるさんもだけどスタイル良いなぁ。
「ぇみるさんと一緒に【和香】と言うデュエットグループで参加します。和香と言う名前には『和の香りを漂わす』っていう意味で名付けたんですけど、名前負けしていますね」
「そんな事ありません、とてもステキで似合ってます!」
さてと、初めてお会いする方に挨拶しなきゃ。
「私は演歌歌手の喜田川です」
白髪に褐色の男性は喜田川光(fa2481)さん。口数少ない感じが大人です!
「さ、紗亜弥です! ふ、ふ、ふつつかものですがよろしくお願いします!」
笑顔がステキな着物の似合う女性は、守山千種(fa2472)さん。眼鏡を掛けた綺麗な人で、大和撫子って感じのお姉さんです☆
「こちらこそ宜しくお願いします。楽しく参りましょうね」
あぁ、癒されます。あたしは次に長い黒髪の女性に向き直りました。
「‥‥夜倉紗無(やくら・しゃむ)です」
本当はDESPAIRER(fa2657)さんなんですが、演歌という事で横文字は止めたそうです。
「宜しくお願いします! えっと、和香さんに、アドリアーネさん、守山さん、喜田川さん、夜倉さん‥‥演歌歌手って沢山いるんですねぇ☆」
あたしもこの中の一人‥‥頑張らなきゃいけないって気になったんです。
●本番までの軌跡
「今の時期の旬の食材ですか〜。でしたら‥‥タマネギで行こうかと思います。今の時期、新タマネギで作るおみそ汁は美味しいですよね〜☆」
千種さんがほんわかとした微笑みを浮かべています。
視線を流すと、いつものツナギ姿で、高野正人(fa0851)さんが細い目の上で眉を顰めていました。
「うーん、今回裏方さん少ないので仕事多いかも‥‥」
大変そうだなぁ。セットと衣装も作るとか‥‥。あ、結さんだ。
「一人でやるの大変でしょ? 私で良かったらお手伝いしますよ」
「いいんですか? 美人さんに暇を持て余させるのも悪いですねぇ。並べる野菜とかお願いできますか?」
「‥‥紗亜弥? ちゃんと聞いてる?」
今回、作詞作曲を担当してくれた菜種さんが訝しげにあたしを覗き込んでいました。
「これでも獣化して急いだのよ? これが詞の方ね。題材はそら豆よ☆」
「ありがとうございます! ‥‥そら豆?」
「実際に市場を歩いてお野菜見てきたんだけど、そら豆見てぴんとくるものがあったのよねー。紗亜弥と重なる部分があったというか、そんな所。今回も頑張ってゆくわよ。ね、紗亜弥?」
ポムとあたしの肩を叩き、三味線を携えると、一室へと促がしました。レッスンの始まりです。
いい味とか‥‥って、なんか‥‥すごい詞かも――――。
あたしが帰宅する時間、未だ明かりが点いていました。ここで仕事しているのは高野さんです。
「仕事が多いですからねぇ。まあ紗亜弥嬢が折角やる気になってるんですし、おにーさんが怯んでる場合じゃないですやな」
あたし落ち込んで甘えてばかりだったから‥‥。手伝えるかな?
「あの‥‥あたしも‥‥あっ」
「アラ?」
ドアの開く音と共にアドリアーネさんが映りました。静寂が流れます。
「サーヤとマサートってとても仲がいいノネ。うふふ、ソレじゃあ後は若い二人に任せて、年寄りは退散するとしようカシラ♪」
え? 固まったあたしが声を掛ける間の与えず、ササとドアを閉めました。何か気まずい空気が残ります‥‥。
●えん歌だい♪ オンエアー
「水羊羹人数分用意してきました、終わったら食べましょーねー!」
本番数分前、正人はスタッフや歌手達に声を響かせた。細い瞳が見つめるのは一人の少女。紗亜弥は微笑みを浮かべて手を振ると、舞台へと向かってゆく――――。
――屋台や荷台がステージに配置され、朝市風の景色が浮かび上がった。
今回の課題は『旬の野菜』。六つの屋台には、結の作ったそれぞれの野菜や小道具が並び、正人達の力作が完成したのである。
全景を捉えた後、照明が落ち、明るく活気を感じさせる色合いのスポットライトが屋台と歌い手を照らし出す。どうやら屋台に一人ずつ配置する演出らしい。
浮かび上がったのは濃い茶の大人っぽい衣装の光。屋台に見えるはジャガイモだ。
彼の歌は、新ジャガをテーマにしており、未来を感じさせつつ、のどかな日常を確かな歌唱力で歌い上げた。
照らし出されたのは人参の屋台だ。歌い手は赤茶色の衣装に身を包んだ紗無。芸能人である自分を『花を咲かせたにんじん』に例えた、やや暗いイメージの曲である。
確かな歌唱力で紡がれる歌詞は『戻れない選択』を表現していた。
食用とされる人参をそのまま栽培すれば白く美しい花が咲く。しかし、花の咲いたにんじんはもはや食用には向かない。食用になる根と、観賞用になる花。二つの素質があっても、選べるのは一つ。
――花を待つのか? 根を掘るか?
やむなく選んだ道は、華やかに花を咲かせる道。それを美しいと言ってくれる人もいれば、羨ましく思う人もいる。それでも自分はこう思わずにはいられない。
――あの時もし違った決断をしていれば。
にんじんという、人並みの幸せを手にできたのではないだろうか?
もう戻れないのは解っているのだけれど‥‥。
(「なんだろう? この気持ち‥‥」)
紗亜弥は彼女の厳しい現実を紡いだ歌に、例えようのない気持ちを感じていた‥‥。
三つ葉が詰められた屋台が照明に浮かび上がる。前奏が流れる中、白を基調とした着物の袖に緑の刺繍を施した衣装に身を包み、アドリアーネがゴールドマイクを手に唄い出す。曲のタイトルは『夫婦椀』。決して目立たないが、影ながらお吸い物を引き立てる様な、良妻賢母の雰囲気を醸し出す歌詞だ。あれほど片言の日本語は、歌になると一変。流暢に流れる歌声は確かな歌唱力で響き渡ってゆく。
――貴方の傍にいられる事に
何の苦労がありましょか
添えたみつばが香るよに
そっと手を取り 肩寄せ合って
連れ添う二人は 夫婦椀――――。
サビの部分で手振り大きく、熱の篭った歌にアドリアーネの青い瞳が濡れる中、金髪の演歌歌手はお辞儀した。
タマネギの屋台が照明を浴びる。浮かび上がるは初夏らしく色の鮮やかな緑色の着物に包まれた千種だ。
曲はポップ調の旋律を刻み、童謡のようにも聞えなくもない。歌詞は、毎朝作るおみそ汁と、その具であるタマネギを切る時に目に染みるという当たり前の日常を描いてゆく。愛らしい笑顔を絶やさず確かな歌唱力で唄われた『新タマネギ』の歌は、若い彼女に似合うものだったに違いない。
照らされたのは、【和香】の娘達だ。赤と白のドレスに身を包み、寂しげに佇む中、スローテンポのポップスに近い旋律が流れ出す。タイトルは『春』。屋台に覗くは大根だ。歌詞は、遠くに行ってしまった愛しい人の思い出を、おでんを見る度に思い出すというもので、逢いに行けない自分へのもどかしさを表現していた。
――貴方と通った この屋台
今でも一人 通う場所
貴方が好きな大根を
今日も私は 頼んでる
今、何処に居るの?
この大根を見るたび 心で泣いている
そんな寂しい 春の夜――――。
赤いドレスを纏った音感のぇみると白いドレスを纏った発声の結。軽くマイクを両手で持って互いに視線を交錯させる等、デュエットの魅力を僅かな動きで表現し、二人は歌い上げた。
残ったのは、その豆の屋台だ。全体的にふっくらしたデザインの明るい緑色の衣装に身を包んだ紗亜弥が照らし出された。菜種の描いたテーマは『愛情』。ゆったりとした温暖系の暖かみのある旋律の中、愛に包まれ育まれた歌詞が紡ぎ出されてゆく。
両親や周囲の愛情に見守られてすくすく育ってきた娘。それはまるでさやに包まれ大きく育つそら豆の如く。そんな娘が今まさに世の中に大きく1歩踏み出す時‥‥。
大きな愛情に包まれ育った私という1人の人間の味を、どうぞしっかり味わってみてください。
――私はいい味に育っていますか?
この味を出せるのも、皆の愛情の結晶。私はそのことに感謝しています――ありがとう。
少女が紡ぎ出した歌声は、サビに向かって次第に盛り上がり、無事に歌い上げた。
きっと少女の伏せた瞳には沢山の人達が浮かんでいるに違いない――――。