ファイティングロードアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 切磋巧実
芸能 2Lv以上
獣人 2Lv以上
難度 普通
報酬 3万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 06/01〜06/05

●本文

「スミマセンっ!」
 事務所に駆け込んで来たのは紗亜弥だ。両手で膝を押え、荒い息を吐いている。
「ハァハァ、追試があって遅れてしまいました。それで話って何ですか?」
「単刀直入に言おう。合宿に参加してくれ」
「え? 歌のトレーニングですか? 合宿?」
 黒髪をサラリと揺らし、演歌歌手の少女はキョトンとした表情で小首を傾げた。
「もう、また何か丸め込もうとしているんでしょ? 聞いてられないわ」
 呆れたように溜息を洩らしたのは事務所員のクリスティだ。壮年の男はポリポリと短髪を掻く。
「丸め込むとは酷いな。言葉を選んでいると言ってくれ」
「‥‥同じじゃない。私から伝えるわ。格闘技の合宿に参加して欲しいのよ」
「か、格闘技の合宿ですか!?」
 選手の枠も埋まり、安心した矢先にこの知らせだ。思わず豊かな胸元で、きゅっと両手を握り締め、不安の色を滲ませた。
「嫌ならいいのよ。今後も試合に出られる可能性は少ないし、勉強の時間も必要みたいだしね☆」
「うっ‥‥くりてぃかるひっとですよぉ」
 苦笑する紗亜弥。確かに追試で遅れたのは勉強不足もあるが、実力という事もある。本当に必要なのは勉学の合宿ではないのか?
「それが分からんぞ。エキシビジョンマッチってあるだろ?」
「えきし‥‥何ですか? 回復薬みたいなものですか?」
「‥‥勝敗を度外視した対戦よ。トーナメントと無関係の試合ね」
「枠は8名だったが、他に試合を望んだ者がいたらしい。そこで、エキシビジョンマッチ導入検討中とも聞いた。だから、少しでも鍛えた方が良いぞ?」
「えぇっ、あたし、そんな、お嫁にいけないからだになったらどうするんですか?」
 ――何を考えている紗亜弥‥‥。

●ファイティングセミナー募集区分
・コーチ:性別不問、格闘技経験者で無名で無い方。
 一日の特訓メニューやスケジュールを管理して指導する方です。
 参加した動機と目的、及び簡単なスケジュールを明記して下さい。台詞歓迎☆

・マネージャー:性別不問。
 合宿時の管理をして頂きます。分かり易く言えば、今回は炊事係とも言います(笑)。
 参加した動機と目的を明記して下さい。台詞歓迎☆

・訓練生:若い女性(格闘技未経験でもOK)。
 コーチの立てたスケジュールでメニューをこなして頂きます。
 尚、コーチがいない場合、各自で特訓メニューを決めて、それぞれ自由に行って頂きます。
 また、マネージャーがいない場合、食事は参加メンバーで分担、自炊して頂きます。
 参加した動機と目的を明記して下さい。台詞歓迎☆
 番組では無いので、女装して紛れ込む事も一応可能です。

●NPC一覧
・紗亜弥:16才の新人演歌歌手。プロポーション以外は色々と発展途上の少女。明日はどっちだ!

・コーチ:ジャージ姿にサングラスを掛けた細身の男です。足が悪いらしく杖をついています。他にコーチがいれば基本的に何もしません。

●合宿所
 山の奥深くに建てられたさびれたペンションです。裏庭は広く、野外トレーニングにも適しており、周囲には滝があります。山の中も広大で、一周するだけで10キロはあるでしょう。
 ペンションにはリングも設置されており、室内でのトレーニングも各種可能です。

●今回の参加者

 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa0295 MAKOTO(17歳・♀・虎)
 fa1385 リネット・ハウンド(25歳・♀・狼)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2814 月影 愛(15歳・♀・兎)
 fa3116 ヴィクトリー・ローズ(25歳・♀・竜)
 fa3342 不破・美影(18歳・♀・狐)

●リプレイ本文

●ここは山奥のペンション
 ――スルリと肩から上着を落とすと、鍛え抜かれた引き締った二の腕が曝け出された。
 用意された白い割烹着に袖を通し、黒髪を纏め上げて三角頭巾を被る。鏡に映るは宿舎の使用人と化したリネット・ハウンド(fa1385)だ。姿見を前に軽くポーズを取って見る。
「準備よし! 未だオバちゃんぽくは見えないですね。さて、未来の格闘界をしょって立つ才能を持つ若者が何人集まったのかしら?」
 次世代の格闘家たちが成長する為の補助をしたい。あわよくば、プロレス界への勧誘も‥‥。
 様々な想いを胸に、リネットは部屋のドアを開けた。

●ペンションに集う格闘家の卵たち
「ブリッツ、ローズ、久し振りだな、よろしく頼むぜっ! この前の負けは堪えたよ、だから合宿中は徹底的に体をいじめ抜こうと思ってね」
 声を響かせたのは尾鷲由香(fa1449)だ。ヴィクトリー・ローズ(fa3116)とブリッツ・アスカ(fa2321)が豊かな胸を弾ませ駆け寄る。
「久し振りっていうかぁ、前より精悍になったってカンジぃ?」
「あぁ、そうだよな。久し振りってだけじゃなさそうだ」
「そうか? 他の試合にも出てたからかな?」
 由香の努力に、赤毛のプロレスラーは闘志を滾らせた。
「ミーもトーナメント第2試合勝利を目指すっていうかぁ、能力向上ってカンジぃ」
「俺は最近それらしい仕事ができてないからなぁ、勘を取り戻して、より強くならなきゃ」
 ローズの傍でボーイッシュな魅力を醸し出す娘が、茶の短髪をポリポリと掻いて苦笑する。
「あぁ、頑張ろうぜ! 体が疼くな」
『ふつつかものですが! よろしくおねがいしますっ!』
 これからの特訓に想い馳せる中、どこかで聞いた少女の上擦った声が流れて来た‥‥。

●それぞれの特訓
「あら? おはよう。早いですね☆」
 時刻は朝の5時。掃除を済まして食堂に姿を見せたリネットの瞳に映ったのは、MAKOTO(fa0295)だ。500mlの牛乳に、バナナ半分、林檎一切れとセロリとレモン汁少々、その他適当な野菜と大さじ一杯のプロテインを加えてジューサーに掛けて作ったドリンクを、ゴキュゴキュとドロリとした液体を喉へ流し込んでゆく。
「日々の鍛錬が力になるからね。じゃ、ジョギング行って来るよ♪」
 シューズを履いて外へ飛び出すMAKOTO。深緑に包まれた山は新鮮な空気に包まれており、清々しい朝の山道を身体の力を抜いてゆっくりと5分ほど歩いた。空を仰げば野鳥の囀りが響き渡ってゆく。金髪の娘は閉じた瞳を開き、今度は八極拳のフォームを意識してのウォーキングを始めた。体内時計は正確にスケジュールを消化してゆく――――。

 その頃、アスカは庭の芝生でプライオメトリクストレーニングを行っていた。体力トレーニングで養成した筋力を爆発的瞬発力に結びつけるトレーニングであり、疲労していない状態で行うのが良いとされている。
「グッドモーニングブリッツ♪ っていうかぁ、起こしてくれても良いってカンジぃ」
 姿を見せたのはローズと由香、そして寝惚け眼の紗亜弥だ。
「俺はパワーよりもスピードとキレだからな。こういうトレーニングの方が重要なんだ。ランニングだろ? 付き合うよ」
「おぅ! 行こうぜ! 紗亜弥は2キロで良いからな」
「‥‥あ、はい!」
 4人が駆け出そうとした時だ。
「あぁん! ちょっと待ってよぉ!」
 切ない声を響かせ、黒髪を纏めながら月影 愛(fa2814)が走って来た。体操着姿の少女は円らな赤い瞳に必死の色を浮かべている。
「私も混ぜてよ☆ 持久力UPにはマラソンだよね♪」
 こうして5人がランニングに繰り出して数分後、さっそく紗亜弥は荒い息を吐いてヨロヨロと走る中、スイカを二つ胸元に入れたような金髪の娘と擦れ違った。
「おはよう! 頑張れよ!」
 MAKOTOはペンションに戻ると、内歩進初段と金剛八式を行い、大方の体調チェック終了。
 暫らくするとリネットの作った朝食の時間だ。
「メニューはどうかしら? 鶏肉やナチュラルパワーを養える緑黄色野菜をメインに使っています。味付けや希望の食材があれば言って下さい。但しインスタントはNGですよ☆」
 ピッと指を立てるマネージャー。訓練生の希望を第一に心掛けるようだ。そんな中、ローズが話し掛ける。
「ミーは料理が得意なのでぇ、合宿の炊事を手伝いたいってカンジぃ。色々カロリー制限つきのメニューと材料でもぉ、その中で美味しく戴ける様に工夫するわよぉ☆」
 手伝いに感謝を告げると、テーブルへと向かう。
「どう? 美味しいかしら? 紗亜弥、沢山食べて頑張ってね☆」
 少女の微笑みにリネットは穏やかな眼差しを向けた。

●スパーリング
 使用人状態のリネットが洗濯や布団干しと掃除に頑張る中、訓練生達もメニューを消化してゆく。
 由香は筋力トレーニング。腹筋50回にヒンズースクワット100回に腕立て100回25分の休憩挟んで2セットだ。午後はハイキックとローキック中心の蹴りとアッパーをひたすら磨いた。
 ローズはムエタイをベースとしたトレーニングだが‥‥。
「パンチに日本拳法の技を取り入れ、ノーモーションで放って、当たったら被せるだと? 瞬発力が必要になるだろうな。今のお前にはパワースタイルが向いているが、やれない事はないだろう」
 コーチに相談したが明確な答えは聞けなかった。
 アスカはローキックを起点として、素早く畳みかける攻撃ができるよう、サンドバック相手に蹴りのトレーニングだ。午後は筋力トレーニングと、再びキックを中心とした練習。
 愛は型の練習に時間を費やした。そんな中、アジ・テネブラ(fa0160)はそれらのトレーニングを青い瞳で観察している。由香が口を開くまでは――――。
「そろそろスパやらないか?」
「由香さん、私も参加して良いかな?」
「良いね! 僕も入れてくれよ♪」
「俺、アジさん、MAKOTOさん、由香さん、ローズさんか。よし、紗亜弥さん、スパやろうぜ☆ 泣きそうな顔するなよ〜。大丈夫、最初の2ラウンドは俺の方からは一切攻撃しない。最後の3ラウンド目も頭部への打撃やミドルキックは全て寸止め、でどうだ?」
 勘を取り戻す意図もあったが、アスカなりの気遣いだった。当然、猫ぱんちのような攻撃も、軸足の安定しない蹴りも、稲妻娘に敵うものでは無かった‥‥。

(「勝ち上がっていく為にはまだ能力が足りないよね! 出来るだけ動きを活かした回避を重点的に、ガードからのアクションを身に付ける! 今まで見た練習から組み込める要素は試してみるんだ!」)
 相手の攻撃を躱すのは容易では無かった。通用したのよ2名のみ。しかし、ガードとなれば話は別だ。青い瞳を研ぎ澄まして的確に貫かせない。次いでスピードを活かした反撃は3名にヒットした。

(「何よりも間合いが重要だよね」)
 八極拳は間合いからの踏み込みが勝負の分かれ目となる。しかし、容易に先手を取る事は敵わなかった。先に間合いを詰められたり、防御したとしてもパワー負けでロープに吹き飛ばされる光景も見られる。ヒットさせた相手は1名だった。

(「守りに入って負けたようなもんだから、おもいっきり攻めるぜッ!」)
 まるで疾風の如き軽快さで放たれる蹴りは、敏捷性に優れる銀髪三つ編み娘さえも驚愕を覚えた程だ。スパーリングは自然にライバルとの打ち合いと化した。
(「レバーブローや左ハイも試してみるってカンジぃ☆」)
 スピードの由香にパワーのローズ。あくまでスパーリングではあるが、その実力は五分と五分だ。

(「紗亜弥さん相手には繋げるまでいかなかったけど、あんたらなら!」)
 得意の蹴り技のコンビネーションを繰り出したが、結果は予想以上だった。殆ど、効果を見せなかったのである。MAKOTOの避けるスピードに追い付いたものの、ガードされれば鉄壁の如くだ。防御前に蹴りがヒットする事は皆無‥‥。
「なぁ、あんたも俺とスパしないか?」
「え? 別に良いわよ☆」
 艶武なる格闘技の型を練習し続けていた愛がリングに上がる。この身長差ならアスカが有利な筈。
 ――えっ!?
 紗亜弥ですら驚愕の色を浮かべた。スピードは劣るものの、愛の攻撃やガードはアスカを凌駕していたのだ。艶やかなる武術は鮮やかにリングを彩り、稲妻を掻き消した。
「まいったなぁ☆ 判定勝ちは性に合わないなんて言ってる場合じゃなかったぜ! 俺、ロードワークの時間だから、行って来るな♪」
 彼女の性格を知る者は思う。きっと今頃は涙を流して走っているに違いない――――。

●紗亜弥の気持ち
 あたしは何となくトレーニングルームに足を運んでいました。すると明かりが漏れています。
 ――これから、ちょっと危ない練習するんで、林の方に来る時は気をつけてね☆
「愛ちゃんかな? でも林って言ってたし‥‥!? リネットさんっ?」
 ドアを開けると、トレーニング中のリネットさんが映ったんです。
「あら? どうしたのですか? お風呂あがりでしょう? 風邪ひいてしまいますよ☆」
 あんなに家事で忙しかったのに‥‥トレーニングしていたんだぁ。‥‥あたしも――――。
「あたしも‥‥悔しいって思わなきゃいけないんですよね?」
 みんな真剣に強くなろうとしている。でも、あたし‥‥アスカさんのように感じなかった‥‥。
「紗亜弥は演歌歌手でしょ? 自分の意思で参加した訳ではないのですから、良い運動をしたって思うだけで良いのではないですか?」
 そうだよ‥‥あたしは格闘家じゃないんだから‥‥でも、本当にそんな気持ちで良いのかな?

 ――月明かりに冷たい閃光が風を切って流れてゆく。まるで舞い踊るのように‥‥。
 夜の闇とダンスを踊ったシルエットは、逆手に持ったナイフに鮮やかな弧を描かせ、終演を迎えた。
「ふぅ〜、艶武完了☆ さぁ、お風呂お風呂♪」

 語られぬ様々な出来事を刻みながら、合宿の時は刻まれてゆく――――。