PSF:戦乙女対抗戦白組アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 切磋巧実
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 6人
サポート 1人
期間 09/15〜09/19

●本文

●格闘技も運動会のひとつ
「パリのヴァルキリーインパクトは失敗したな」
 富田TVヴァルキリーインパクトスタッフは重い会議を続けていた。
 WEFでは報酬以外の賞金等に技量がどうしても絡むのだ。尤も、その制約は1日の募集期間のみで、その後は技量に関係なくエントリーも可能なのだが、その辺をパリ興行スタッフは伝えていなかったらしい。結果的に、リザーバーとして送った紗亜弥も観光として訪れたような結果だ。
「まぁ、済んだ事は仕方がない。で、今後のヴァルキリーインパクトだが‥‥」
「10月から第2回最強トーナメントを予定してするス」
 責任者である青年が焦り気味に答えた。つまり今月の企画は入っていないらしい。
「ふむ。WEFでPSFが開催される事は知っているな?」
「‥‥芸能人、運動会スよね?」
「その運動会に格闘技も含まれる事が決まった。つまり、我々ヴァルキリーインパクトチームとしては、PSF連動番組をキミに企画して貰いたい」
「白組と赤組に分けた対抗戦スよね。連動した企画参加で、確か最高10点が組に加算されるとか‥‥」
「勿論、今回は選手だけとなり、芸能関係者なら女性であれば誰でも参加可能とする。募集人数は紅白計20人だ」
「に、20人スかぁ!?」
 青年は素っ頓狂な声をあげた。幾らフリー募集でも果たして20人も集まるものか。
「普段なら微妙な所だ。しかし、PSF連動で勝った選手に1点ずつ入るなら不可能じゃない。10試合全て勝てば10点だ。可能性はあるんだよ!」
 ――可能性。
 今までも可能性を信じて企画を継続してトーナメント戦まで運んで来た。ならば――――。
「分かりましたス! 可能性に挑戦してみるス!」

●格闘経験不問! 女性であれば誰でも参加可能!(誕生日偶数月は白組!)
「で、出ますッ! やらせて下さい!」
 ――ヴァルキリーインパクトの対抗戦があるんだが‥‥。
 そこまで聞いた麻奈華は胸元に運んだ両拳を固めて、グッと身を乗り出した。合わせて肩で切り揃えられた黒髪が揺れる。やる気はあるのだが、なかなかチャンスが訪れない薄幸の格闘娘だ。
「‥‥出場じゃないぞ。あくまでリザー」
「わ、分かってます! やらせて下さいッ!」
 実力未知数の円らな瞳がメラメラと燃えていた。チャンスを与えるのも責任者の務めだ。
「‥‥分かった。なら白組のリザーバーとして伝えておく」
「あ、あぁありがとうございます!」
 立ち上がった少女が勢い良く頭を垂れると同時、テーブルが鈍い衝撃音を響かせた。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分1ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。

●募集区分
・戦乙女(格闘技未経験者参加OK。但し心が女性はアウト)
 試合を行う選手です(誕生日を確認して間違えないよう参加しましょう)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】先撮りインタビューや心の意気込み等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
1R:(前半)(中盤)(後半)
2R:(前半)(中盤)(後半)
【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。

●リザーバー選手
・法衣 麻奈華(学生):12月24日生まれ。
「わ、わ、わたしっ、つ、つ、つつ、つよくなりたいんですっ」
 やる気はあるがチャンスに恵まれない未知数の格闘大好き娘。
 誕生日がクリスマスイブでなかなか複雑な人生を送って来たらしい。

●今回の参加者

 fa3116 ヴィクトリー・ローズ(25歳・♀・竜)
 fa4020 ロゼッタ・テルプシコレ(17歳・♀・犬)
 fa4385 ファントム芽衣子(16歳・♀・蝙蝠)
 fa4386 氷神 ユカリ(20歳・♀・鷹)
 fa4554 叢雲 颯雪(14歳・♀・豹)
 fa4652 クリスティ(23歳・♀・豹)

●リプレイ本文

●プロローグ
 ――テレビ画面に映し出されたのは、炎が揺らめく朱雀を描いた旗のCGだ。
 中世神話の戦女神をイメージした赤い甲冑を纏った娘達の軍勢がズラリと並ぶ。
 緻密なモデルグラフィックはグルリと周り込み、軍勢の行く手を捉えた。視界がズームする中、浮かび上がるは白い甲冑を纏った娘達と、氷で縁取りされた白虎を描いた旗がはためく光景だ。
 勇壮な旋律が流れる中、剣の代わりにグローブを嵌めた紅白の娘達が駆け出してゆく。彼方此方で華麗な格闘戦が繰り広げられ、赤と白のグローブがぶつかり合うと共に、番組タイトルが左右(>戦乙女 対抗戦<)からスライドして弾けた。

●ともに格闘技初挑戦・実力は未知数
 オープニングCG演出が終わると共に、リングが映し出される。続いてアナウンスが響き渡った。
『只今より、PSF特別バトル! 戦乙女紅白対抗戦を開催します! 第一試合、選手入場!!』
 ラテン系のノリが入った可愛らしく元気の良い旋律が奏でられてゆく。歓声が波打つ中、照らし出されるは、金髪に青い瞳が愛らしい少女だ。豊かな胸元をラクロス衣装風の白い袖なしポロシャツが包み、魅惑的な腰をチェックのスカートが彩っており、黒のスパッツが覗く。可愛らしく元気の良い衣装として希望に沿うものだろう。試合直前の緊張を隠し、精一杯の笑顔で観客席へ手を振りながら、ロゼッタ・テルプシコレ(fa4020)が花道を歩いて行く中、上部巨大スクリーンに自己PRする様子が映し出された。
「今回は団体戦だし、勝たないって訳いきませんよね? 最後の1分1秒まで全力で勝ちを狙いに行きます!!」
 スポーツアイドルらしく笑顔で愛らしくガッツポーズ。キュートなルックスと弾む胸元に歓声が沸き、早くもファンが付きそうな雰囲気が漂う。
「あの人が、あたしの対戦相手なんだね」
 花道を歩いて来るは、灰色のショートヘアとピンクに彩られたツーピース水着に白いTシャツの胸元を揺らす娘だ。黒字で『私は白組』と記されているのが痛々しい。
「本当は白組なのよね。あれ? あたしが負けたら得点はどっちなのかな?」
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 視界に映る灰色のショートヘアを揺らす娘は、距離を保ち相手の様子を見ているようだ。なかなか蹴りの間合いに近づけさせない。スピードが同一な為、踏み込んでも下がられてしまうのだ。
 ――様子見って訳だね。構えから察するに空手かな? 
 暫く膠着状態が続いた後、相手のリズムが変わった。次第に間合いを詰めて来たのだ。身長の低いロゼッタが蹴りの間合いに入るか否かの刹那、ピンクの水着から伸びた右脚が放たれた。僅差で空を切る蹴りに、青い瞳が研ぎ澄まされる。
 ――足が止まった! 今だよ!
 ロゼッタが間合いに入り、マルテーロゥ――上段蹴り――を放った。受けも避けも間に合わない灰髪娘の腕に衝撃音が炸裂する。
 ――身長が高い! いきなりマルテーロゥは難しかったかな?
 静かな試合からようやくダメージが伝わった事で観客も歓声に沸き、闘争心に拍車が掛かった。互いに避けられない間合いの中、蹴りの応酬が繰り広げられる。
 上段下段に散らせる見た目にも派手な蹴り技を叩き込むロゼッタ、対する灰髪娘も軸足に一撃を与えてゆく。双方から響き渡る衝撃音と共に、互いの表情に苦悶の色が浮かんだ。
 ――くッ、なかなか良いローキックだね。そっちも苦しそうだけど‥‥。
 隙を見つけたロゼッタが大技を繰り出そうとした刹那、やや上方からグローブが迫った。
 ――ここでパンチ!?
 身長差は間合いに影響する。ロゼッタの蹴りの間合いは、同時に相手の打撃による間合いにもなっていたのだ。叩き込まれた衝撃音が鈍く響く。しかし――――。
 ――何だよ? パンチに重みが無いじゃない♪
 インパクトに体勢を僅かに崩す中、続けてグローブが飛び込んだ。
 ここでゴングが鳴り響く。前半の膠着状態が長かった為、1Rが終了したのだ。灰髪娘のグローブが僅差で止まると、何事も無かったようにコーナーへと交差してゆく。
(「蹴り技は油断できないけど、パンチの痛みは少ない。だけど、当たっただけで体勢を崩し易いから、貰わない方がいいよね」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングが鳴ると共に、1Rと打って変わって攻勢に出たのは灰髪娘だった。ロゼッタの視界にグローブが飛び込み、ピンクの水着から薙ぎ振るう蹴りとのコンビネーションが強襲する。何とか躱そうとするものの、技術がそれを許さない。パンチのダメージは少ないものの、体勢を崩された後に放たれる蹴りのインパクトは重かった。
 ――もぉッ、足を潰させて貰うからね!
 ロゼッタは1Rで叶わなかった下段蹴りを返してゆく。身体を左右に振りながら、十分に腰を捻って薙ぎ放たれた衝撃に、灰髪娘の白い足が変色した。距離を取ろうと後退するものの、足がマトモに動かないようだ。
 ――あたしとの身長差を計算に入れても! 狙えるよね!!
 上段下段に散らせる蹴りで追撃し、灰髪娘にダメージを蓄積させる。スタミナを奪われたのか、呼吸が乱れたように見えた。
 ――当たれ! アルマーダ・プランド!! 
 カポエィラ独特のダンスのような円を描くステップから、軽くステップを踏んだかと思えた刹那、着いた足を軸にして大きく跳び、そのままローリング・ソバットを放つ。十分に腰の捻りを効かせた横薙ぎの蹴り技は、灰髪娘の顎を捉えて叩き込まれた。アルマーダとは顎攻撃の事を指すのだ。顎への衝撃は脳を揺さ振るものである。掠るように放たれた一撃のフックでマットに沈むケースも少なくない。下手をすれば暫く入院なんて事も有り得るのだ。
 クラリと揺れたかと思った刹那、白いTシャツと水着の娘は糸が切れたようにマットへ崩れた。

●若きレーサーがプリンセスに挑む
『間も無く、第二試合を行います!』
 アナウンスが流れる中、薄闇に包まれた通路で、叢雲 颯雪(fa4554)は円らな青い瞳を開く。その時だ。
「あの、叢雲さん‥‥」
 背後から聞えた少女の声に、腰ほどある黒髪を揺らして振り向いた。瞳に映ったのは紗亜弥だ。
「ん? どうしたのかな? 道に迷った?」
「‥‥違いますよぉ! えっと、指名してくれたって聞いて、その、有り難うございましたっ」
 颯雪はリザーバーの演歌歌手を対戦相手に指名していた。しかし、リザーバーはあくまでリザーバー。枠が空かない限り、出場はない。レーサーの少女は端整な風貌に微笑みを浮かべる。
「あ、気にしないでよね。お姉(ネェ)のお気に入りがどんな人か見てみたかったの。ふーん、そっか」
 アップテンポで疾走感のある旋律が流れ出した。レーサーの彼女をイメージして作られた入場曲だ。セコンドが傍で急かし出す。
「あのっ‥‥試合、頑張って下さい!」
「有り難う☆ でも紗亜弥さん赤組でしょ? 私も偶に天然って言われるけど、あなたも相当なものよね♪」
 気まずそうに紅潮する少女に微笑むと、颯雪はコロシアムへの扉へ歩いて行った――――。
 スポットライトを浴びたレーサーが勢い良くコートを脱ぎ放つ。魅惑的な肢体を包むは、白い体操着に紺のブルマだ。名前が記されたゼッケンが豊かな膨らみに優麗なラインを描く。白い手袋の両手を頭の後ろへ運び、白い鉢巻きをキュッと締め直した。花道を歩く白い太腿がライトを浴び、眩しい位に健康的な色香を放つ中、自己PRが映し出される。
「えっと‥‥あの、私達の試合を見て多くのお客さんに喜んで貰えれば‥‥って思います。‥‥頑張りますので、どうか宜しく御願いします!」
 頬を掻きながら困惑気味のコメントが初々しい。理想の娘像を描いた雰囲気に、サラリーマンのファンが増えそうだ。
 旋律が変わり、股下くらいまでの赤い着物に白い花柄を彩った女性が姿を見せた。結い上げた銀髪と金の帯が艶やかで、合わせ目から覗く美味しそうな白い谷間に野郎共は釘付けだ。
「この恰好で闘うつもりかな?」
 颯雪は知らない。ムチャプリンセスと名乗る彼女の事を――――。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングと共に軽快なフットワークで互いに間合いを詰めてゆく。格闘スタイルは共にボクシング。しっかりとガードを固めて、身体を揺らす。
 ――格闘が相手の分なら速さは私の分だよ。これだけは、譲れない!
 颯雪は様子を見て相手の手の内を探りながら牽制のジャブを放ってゆく。対する赤い着物娘もワンツーコンビネーションを軽く放ち、牽制しているようだ。しかし、残り40秒を超えた所で戦術は変容する。
 颯雪が攻めに転じたのだ。疾風の如く間合いを詰め、パンチのコンビネーションを散らせて翻弄してゆく。
 だが、切れ長の赤い瞳は冷たい光を湛えていた。グローブを固めながら隙の少ないコンビネーションを返してゆく。それを巧みな動きで躱す颯雪。1Rはあくまで様子見。無理に踏み込まず、フットワークを活かしたのだ。
 ラスト30秒を切った刹那、着物娘がミドルキックと踏み込んでのボディアッパーも狙うものの、洗礼は僅差で空を切るのみだ。銀髪娘の瞳に動揺の色が浮かぶ中、ゴングが鳴り響いた。互いにダメージが見えない中、コーナーへと戻ってゆく。
(「ハァハァ‥‥体力を温存したつもりだけど、動いた分の消耗はあるわね‥‥でも、私が勝てるとするならそれは判定。手数で翻弄し、攻撃を回避し続ける‥‥これしか無い。きっとお姉もそう言うよ。お父さんは――『勝つ手段を揃えてから挑め』‥‥あ、余り役に立たないかな‥‥?」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ――基本姿勢は『一気呵成』。残存体力全てを注ぎ攻め抜く!!
 ゴングと共に疾風が唸り、観客達も感嘆の声をあげた。足を駆使し、コンビネーションを叩き込む颯雪。正にレーサー。後半からタイヤの磨耗を気にせずコーナーを攻め出したかのような勢いだ。しかし、ここでミスが生じた。攻めるという事は、その分、相手に接近しなければならない。問題はリーチの差だ。況して、スピードはあるものの、格闘センスは皆無に等しかった。テクニックに劣る上にリーチを掻い潜って攻め、更に攻撃を躱す事は容易に出来るものではない。付け加えれば、動作が激しい分、スタミナの消耗も激しくなる。
 着物娘の細かいパンチを巧みに躱していたが、次第に衝撃を食らう事となった。
 ――ハァハァ‥‥動き過ぎたかな? でも、立ち止まる訳にはいかないよね!
 視界に映る着物娘が銀髪を棚引かせて接近すると、颯雪のパンチを受けながらもボディブローから脇腹への膝蹴りを叩き込んだ。衝撃に呼吸が止まる。刹那、ボディブローとローの連打が強襲。ブルマから伸びた白い太股が戦慄いた。
 ――パンチのダメージは少ないけど‥‥足が、痺れるっ! はッ!?
 動きが止まった瞬間、着物娘が打ち下ろすようにグローブを叩き込んだ。衝撃に思わず腰が落ち、体勢が崩れる。颯雪のグローブが下がったその時、着物の裾を振り乱しながらのハイキックが炸裂! 長い黒髪が舞いながら少女はリングに沈んだ。
 意識を取り戻したのは、ゴングの音が鳴った時だった。試合が終わると着物娘に近寄り握手を求める。
「えっと‥‥やっぱり‥‥敵わないですね‥‥」
「あら? 1Rと同じ闘い方をしていたら、私が判定で負けたかもしれないわ」
「そんな‥‥私の速さが‥‥どこまで通じるか‥‥全力で攻めてみたくなって‥‥」
「ムチャな娘は嫌いじゃないわよ☆」
 二人が握手を交わす中、会場は観客達の拍手と歓声に包まれた。
 ――お父さんにお姉、お兄ちゃんも見ていてくれましたか‥‥?

●テクニックVSパワー
 テナーサックスをメインに艶っぽさを出すアップテンポな旋律が流れた。
 スポットライトに照らされたのは、セクシーな白いベリーダンサー衣装のクリスティ(fa4652)だ。上下にラメが煌き、白いストールが鍛えられた肩の上で柔らかく揺れると、腰ほどまで伸びた銀髪と二つの膨らみを舞い揺らし、魅惑的なダンスを披露しながら歓声に応えた。
 美女の自己PRが映し出される。
「本業はダンサーですけど、キックボクシングの経験を活かして試合を盛り上げるわ」
 彼女目当てにステージを訪れる者も増えた事だろう。
 続いて入場曲と共に、赤いマントを靡かせ、銀の襟付きノースリーブに銀のショートパンツ姿の褐色娘が花道を歩いて来る。クリスティの表情に驚愕が浮かぶ。
「なんて高さなのかしら? 私も鍛えているけど、パワーは油断できないわね」
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――身長差が何よ!
 クリスティが間合いを詰めてミドルキックを放つべく、白い足を薙いだ。刹那、腹部に強烈な一撃を浴び、吹っ飛ばされた。当然客席もどよめきの声をあげる。先制攻撃に出た方が体勢を崩したのだ。
 ――何なの? 前蹴りですって? 私より早く?
 解説せねばなるまい。ティタネスの身長は185、褐色娘は168。その分リーチに差が生じるのだ。
 ――パワー型でそんなにスピードがある訳が‥‥まぐれよ!
 再びコンビネーションを繰り出すクリスティ。隙の見える褐色娘のガードは崩され、ジャブ、ストレートから繋げたローが褐色の肌を強襲する。
 ――やはり素人の偶然ね! ‥‥クゥっ!?
 褐色娘が攻撃を受けながらも、ローで返して来た。強力な一撃に白い足が戦慄く中、再び前蹴りが突き出され、クリスティが吹っ飛ばされた。
 ――私の攻撃が効いていないとでも言うの? !?
 褐色娘は追撃する事なく、再び様子を窺っているようだ。それを隙か油断と見たか、再びワンツーのコンビネーションからローへ繋げると、ハイキックを薙ぎ放った。ベリーダンサー衣装が激しく揺れ、『見せ場』として十分な派手さに客席が沸く。
 しかし、ハイキックに歓声をあげたのか、それとも倒れない褐色娘への驚き故かは定かではない。
 ――何なのよ!? 木偶の棒みたいに立っている癖にッ!
 終盤に差し掛かった刹那、打撃を与えていたクリスティの攻撃は次第に空を切りだした。
 そこでゴング。互いにコーナーへと戻ってゆく。
(「ハァハァ、私が疲れたのかしら? さっきまで身を固めていた相手に攻撃が当たらないなんて‥‥」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 1Rと同様にクリスティはコンビネーションを放つべき間合いを詰める。しかし、やはり同じように褐色娘は前蹴りで牽制に徹した。まさに刀で槍へ挑んでいるような闘いだ。
 ――向こうが先に反応しているんだわ‥‥。なら、撹乱しながらローを活かして足を止めるまでよ!
 クリスティは接近すると、廻し蹴りから腰を十分に回転させての裏拳を繰り出し、ローキックに繋げてゆく。ダンスの如く変化に富んだ攻撃に観客が沸く中、褐色娘は打撃を受けながらも更に踏み込んだ。ダンサーには巨大な熊が迫ったように見えたかもしれない。
 ――速いッ! 逃げられないなら、あなたも躍らせてあげるわ!
 互いにパンチの間合いに入り、打ち合いの様相と化した。クリスティのコンビネーションが唸り、ティタネスの重い一撃が会場に響き渡る。鈍いボディブローの衝撃に息が止まる中、褐色の膝が叩き込まれ、横薙ぎにグローブが飛び込む。
 その直後、苦悶に染まる中、視界は暗闇に包まれた。

●注目の若手レスラー対決
 軽快でノリのいい旋律が流れる。そのリズムは男性アイドルグループを彷彿させるメロディだ。
 入場口に視線が注ぎ込まれる中、黒を基調としたシンプルなリングコスチュームに細身を包んだ、ファントム芽衣子(fa4385)が姿を見せた。白のタンクトップブラのような衣装とパンツに、黒のロングブーツと表裏白と黒のマントが用意されていたのだが、彼女は自分のスタイルを重視したようだ。
 ベビーフェイスに灰髪を揺らす中、自己PRに応える少女が映し出される。
「んー‥‥まぁ‥‥楽しい試合が出来て、お客さんに楽しんで貰えたら‥‥良い‥‥かも。飛び技が使えないのは残念だけどー‥‥とりあえず‥‥頑張りますー‥‥?」
 続いて花道を歩いて来たのは、キャミソールタイプの白いワンピースに肢体を包み、赤いベルトに赤いブーツ、膝サポーターを装着した赤毛の少女だ。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ファントム芽衣子はゴングと共に跳び込んで行った。腰を捻り、薙ぎ放った脚の遠心力を活かして繰り出したのはローリングソバットだ。速度も勢いも十分な奇襲を赤毛の少女は躱せない。叩き込まれる衝撃と共に苦悶の色が浮かんだ。
 直ちに体勢を整え、距離を保ちながらローキックやボディ狙いのミドルキックに転じる中、白いワンピースを舞い躍らせながら、ジャブやローキックを繰り出しつつ、ストレートやミドルキック、ハイキックを織り交ぜてゆく。僅かな身長差での攻防は互いの蹴り技を受け合う様相と化した。
 ――地味な戦いになる筈だったんだけどね! 良い蹴り持っているじゃない‥‥。
 互いに体力がある分、威力も大きい。況してファントム芽衣子には、避けも受けも間に合わない始末だ。赤毛少女のハイキックに脳が揺れ、眩暈を覚える。
 ――避けられない!? ガードも間に合わないなんて!
 致命打を受けないよう気をつけていた筈。しかし、相手にダメージを与えると同時、我が身もダメージを蓄積させていた。
 赤毛少女がガードを固めて接近すると、ジャブを散らしつつ、フックやストレートを放って来る。
 ――受けられている? !?
 脳裏で☆が散り、足の感覚が失われる衝撃が襲う。視界の先で聡美の姿が傾いてゆく‥‥。
『ダウン!』
 ――貰い過ぎだよね‥‥。でも、どこの訓練生だよ? プロの僕より巧いなんて‥‥。
 何とか立ち上がりファイティングポーズ。レフェリーが続行を告げた刹那、ゴングが鳴り響いた。
(「強打は貰ったけど、ボディブローがない分、体力は維持できるよ‥‥でも、相手も回復するから僕が不利なのは変わりないんだよね」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ――短期決戦を狙って多少強引にでも、身体ごとぶつかってガードを抉じ開けるんだよ!!
 ファントム芽衣子は宙を舞い、飛び膝蹴りを繰り出した。様子を見ていた赤毛少女は躱せないと判断すると、ミドルキックを放つ。互いに強打のダメージを受け、体勢が崩れる。スピードに秀でた分、ファントム芽衣子の攻撃は早いが‥‥。
 ジャブやショートフックをメインに、顎先や顔面を狙うが、白いワンピースを揺らしてボディブローからストレート、ローキックからストレートと、上下に攻撃を散らして、確実にダメージを与えてゆく。
 ――当たっているのに、何で気にせず打って来れるんだよ! まさか!? 効いていない!?
 その時だ。赤毛少女の正拳突きの如きストレートが炸裂! そのままコンビネーションの蹴り技がファントム芽衣子に叩き込まれた。
 最後に見たのは、白いワンピースを翻して薙ぎ振るわれたハイキックだ。蓄積したダメージにファントム芽衣子はマットに沈んだのである。

●ワイルドVSセクシーの超過激対決
 バイクの爆音が轟くSEが響き渡る中、壮大な旋律が流れてゆく。
 まるでアメリカンマフィアでも登場しそうな雰囲気に、観客も息を呑んだ。そんな中、スポットライトを浴びたのは、純白の特攻服を羽織った茶髪の娘だ。黒字で『白組激勝』と縫われており、額に結ばれた鉢巻きにも同様の文字。背中に金の昇り龍を背負い、悠然と、氷神 ユカリ(fa4386)が花道を歩いてゆく。あまりの迫力に客席の声援も躊躇い勝ちだが、自己PRに映る端整な風貌は凛としており、美しい。スケバン好みには女神に見えた事だろう。
「氷神ユカリだ。気合入れていくんで、そこんとこ夜露死苦!」
 カメラにメンチ切って気合を表現。持参した木刀を肩に背負い身構える姿は本物だ。
 彼女がリングにあがって間も無く、艶っぽい旋律と共にどよめきが溢れた。ユカリが鋭い視線を流す中、赤を基調としたタンクトップの胸元をゆさりX2と揺らしながら、ビキニタイプの下と黒い網タイツに包まれた褐色の脚線美で歩いて来る白髪美女が映る。強烈なインパクトの爆乳は、それだけで凶器のようだ。切れ長の赤い瞳が挑発的にプロレスラーの娘を射抜く。
「売られた喧嘩は‥まあ、実際は喧嘩じゃないけど、買わないとねぇ」
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングと同時に駆け出すユカリが横向きに飛び上がった。素早い奇襲に対処が遅れたタンクトップの胸元へドロップキックが炸裂! たわわな胸を揺らして美女が仰け反る。たぷんと音がしそうな双峰の暴れっぷりに客席がどよめいた。
 ――浅かったか!?
 うつ伏せになるよう体勢を変え、前受け身で着地したユカリが慌てて起き上がる。美女は長い白髪と二つの膨らみを揺らしながら円運動で間合いを計っていた。序盤の派手な奇襲から一転、互いに様子を窺う様相と化す。
 ――何か考えているねぇ? でも、簡単に攻めさせやしないよ!
 白髪美女が一気に飛び込もうと体勢を低くマットを蹴った。しかし、接近戦を嫌がるユカリはフロントキックで迎撃する。仕掛けるに及ばないタンクトップの美女、執拗に接近を許さないユカリ。膠着状態のまま1R終了を告げるゴングが鳴り響き、二人はコーナーへと分かれた。
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 一気に間合いを詰めたのはユカリだ。タックルのタイミングを窺っていた白髪美女は僅かに驚愕の色を浮かべたまま接近を許す結果となった。互いにグローブで相手の頭部を抱え込み、首相撲に入る。懸命に揺さ振り、首を取ろうと激しく組み合った。
 ――ったく、牛かってんだ。何だよ、この乳はッ! 邪魔なんだよ!
 グンッと腰を入れた膝をブチ込んだのはユカリだ。力負けした白髪美女の鳩尾に炸裂し、長い白髪が宙を舞った。再び得意のニーリフトを繰り出そうとした刹那、相手のグローブが腰の捻りと共に飛び込んだ。
 ――なにッ!?
 ショートアッパーがユカリの顎に吸い込まれ、僅かに仰け反った。プロレスラーは首の鍛え方が違うのか、強烈なダメージには至らない。それとも先に叩き込んだ膝のダメージで、力が入らなかったのか。その証拠に、飛び込みつつ放つストレートパンチも、ユカリには効いていない。確信に少女が微笑みを浮かべる。
 ――プロレスラーに判定なんて無い! ダメージ覚悟で攻めるよ!
 スピードに秀でたユカリが一気に密着すると、膝蹴りを突き刺した。蓄積されたダメージでよろめく相手へ、次いで延髄斬りを叩き込む。強打を受け、そのまま白髪を舞わせてうつ伏せにマットへ沈んだ。カウントが数えられる中、美女が意識を取り戻したのは、試合終了を告げるゴングが鳴り響いた後だった。
「完敗だわ。でも、次は負けないわよ☆」
「そうだな、あんたのテクニックは悪くなかったよ‥‥お、おい」
 互いに握手を交わすと、白髪美女はピッタリとユカリに密着して健闘を讃える抱擁を交わした。爆乳が押し当てられ形を変える様に、観客は歓声とどよめきを溢れさせる。プロレスラーの娘もどこか恥ずかしそうだ。
 後にユカリへの礼をすると、リングの四方へ駆け寄り、会場にも礼。見た目も麗しい美女の礼節を重んじる行動に、会場から惜しみない拍手と声援が送られた。
「あんた、気に入ったよ」
 白髪美女と並んで頭を下げる姿に、割れんばかりの拍手と声援が鳴り響いてゆく。

●チャレンジャーは女王を止められるか
『続きまして、戦乙女対抗戦‥‥最終試合を行います!』
 現在、赤3勝白2勝の状況の中、白組の選手入場が告げられた。
 正統派な感じの華やかなロックのリズムが刻まれる中、白を基調とした黒い縁取りのゴスロリワンピースに魅惑的な肢体を包む、赤毛の若い女性がスポットライトを浴びる。ヴァルキリーインパクトで存在を遺憾なく発揮する彼女こそ、ヴィクトリー・ローズ(fa3116)だ。女王の登場に観客の声援もヒートアップ。腰の後ろに施された大きなリボンを揺らし、ゆっくりと花道を歩いてゆく。
「今回も遊び等ではないっていうかぁ、タイトル防衛線の為のぉ、自分のテンションを継続させる大切な試合と認識しているってカンジぃ」
 巨大スクリーンでのPRも相変わらずの口調だ。少女達の憧れのヒロインか、黄色い声援が飛ぶ。
『赤組選手の入場です!』
 花道を歩いて行くのは、朱色の巧夫胴着風の半袖上着に黒のショートスパッツ姿の少女だ。長い黒髪をチャイナシニョンに纏めてアップにしており、円らな赤い瞳が愛らしい。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 一気に間合いを詰めたのは黒髪の少女だ。ピーカブースタイルでガードを固め、隙を窺うように揺さ振りを掛ける。相手のイン&アウトステップのタイミングに合わせ、ローズが前蹴りを放つ。極度の接近を許さない胸元を蹴る技に、小柄な少女が体勢を崩す。次いで薙ぎ振るったのは、肝臓を狙いの左ミドルキックだ。強烈なインパクトが柔肌に炸裂! 朱色の巧夫胴着の身体が揺れる。会場にも衝撃音が響き渡り、客席からどよめきが溢れ出す。
 ――ボクシングのテクニックは侮れないってカンジぃ。でも、遅いっていうかぁ、先が読めるしぃ。
 そう、ローズには手に取るように動きが見透かされていたのだ。身を低く保ったピーカブースタイルはそのままに、執拗にジャブを放つが、少女のパンチは空を切り、リーチの長い脚に阻まれる。再び左ミドルキックやローキックが放たれ、次第に白い脚が戦慄くと、表情に苦悶の色が浮かんだ。
 ――‥‥!?
 刹那、相手の攻撃が止んだ。その表情に驚愕と戸惑いが浮かび上がっていた。痛みに因るものか、両足が戦慄き、グローブを嵌めた腕も小刻みに震えているようだ。
 ――何が起きたか分からないけどぉ、攻めないならミーがやらせてもらうってカンジぃ!
 ローズが間合いを詰めた。ピーカブースタイルをストレートパンチで崩し、空いた懐に腰を落としてのアッパーカットでレバーブローを叩き込んだ。鈍い衝撃と共に少女の身体が抉られ浮き上がると、そのまま膝を折った。
『ダウン!』
 何とか立ち上がるものの、ダメージを蓄積させた身体は悲鳴をあげ、少女の表情も苦しそうだ。
 ――隙だらけっていうかぁ、そろそろ眠らせるってカンジぃ!
 執拗にミドルキックを放つ中、遂に相手のガードが下がる。緑色の瞳が研ぎ澄まされ、左ハイキックを薙ぎ放った。フラつく巧夫胴着。その直後、長身は跳ね、腰を十分に捻ったバックスピンキックが炸裂! 派手に吹っ飛んだ少女がマットに沈んだ。
『ダウン!』
 技術の全てを凌駕しているローズが勝利した瞬間であった。
(「華空サンと訓練した成果は出たってカンジぃ」)
 試合に向けて1日だけ付き合ってくれた孫・華空は、どう見ていただろうか?

 こうして、赤組5点白組5点を得て、戦乙女対抗戦は幕を閉じたのである。