PSF:戦乙女対抗戦赤組アジア・オセアニア

種類 ショートEX
担当 切磋巧実
芸能 フリー
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 1万円
参加人数 6人
サポート 1人
期間 09/15〜09/19

●本文

●格闘技も運動会のひとつ
「パリのヴァルキリーインパクトは失敗したな」
 富田TVヴァルキリーインパクトスタッフは重い会議を続けていた。
 WEFでは報酬以外の賞金等に技量がどうしても絡むのだ。尤も、その制約は1日の募集期間のみで、その後は技量に関係なくエントリーも可能なのだが、その辺をパリ興行スタッフは伝えていなかったらしい。結果的に、リザーバーとして送った紗亜弥も観光として訪れたような結果だ。
「まぁ、済んだ事は仕方がない。で、今後のヴァルキリーインパクトだが‥‥」
「10月から第2回最強トーナメントを予定してするス」
 責任者である青年が焦り気味に答えた。つまり今月の企画は入っていないらしい。
「ふむ。WEFでPSFが開催される事は知っているな?」
「‥‥芸能人、運動会スよね?」
「その運動会に格闘技も含まれる事が決まった。つまり、我々ヴァルキリーインパクトチームとしては、PSF連動番組をキミに企画して貰いたい」
「白組と赤組に分けた対抗戦スよね。連動した企画参加で、確か最高10点が組に加算されるとか‥‥」
「勿論、今回は選手だけとなり、芸能関係者なら女性であれば誰でも参加可能とする。募集人数は紅白計20人だ」
「に、20人スかぁ!?」
 青年は素っ頓狂な声をあげた。幾らフリー募集でも果たして20人も集まるものか。
「普段なら微妙な所だ。しかし、PSF連動で勝った選手に1点ずつ入るなら不可能じゃない。10試合全て勝てば10点だ。可能性はあるんだよ!」
 ――可能性。
 今までも可能性を信じて企画を継続してトーナメント戦まで運んで来た。ならば――――。
「分かりましたス! 可能性に挑戦してみるス!」

●格闘経験不問! 女性であれば誰でも参加可能!(誕生日奇数月は赤組!)
「紅白戦のヴァルキリーインパクトですか!?」
 紗亜弥は素っ頓狂な声をあげた。事務所に呼ばれて訪れたらリザーバーの話だ。
「キミの誕生日だと赤組だな。まぁ、観光旅行のお返しと思って頼む。演歌の仕事も富田TVに押しておくから」
「‥‥パリには遊びに行ったような感じになっちゃったし‥‥そうですね、分かりました!」
 パリへの費用は富田TVスタッフから貰っていたのである。流石に観光だけでは申し訳がないと思ったのだろう。少女はリザーバーの件を引き受けるのだった。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分1ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。

●募集区分
・戦乙女(格闘技未経験者参加OK。但し心が女性はアウト)
 試合を行う選手です(誕生日を確認して間違えないよう参加しましょう)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】先撮りインタビューや心の意気込み等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
1R:(前半)(中盤)(後半)
2R:(前半)(中盤)(後半)
【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。

●リザーバー選手
・紗亜弥(演歌歌手):7月7日生まれ。
 リザーバーとして試合経験あり。実力は‥‥。

●今回の参加者

 fa2724 (21歳・♀・狸)
 fa3072 草壁 蛍(25歳・♀・狐)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3793 エレクトラ・テーム(20歳・♀・鷹)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)
 fa4412 雪村聡美(16歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●プロローグ
 ――テレビ画面に映し出されたのは、炎が揺らめく朱雀を描いた旗のCGだ。
 中世神話の戦女神をイメージした赤い甲冑を纏った娘達の軍勢がズラリと並ぶ。
 緻密なモデルグラフィックはグルリと周り込み、軍勢の行く手を捉えた。視界がズームする中、浮かび上がるは白い甲冑を纏った娘達と、氷で縁取りされた白虎を描いた旗がはためく光景だ。
 勇壮な旋律が流れる中、剣の代わりにグローブを嵌めた紅白の娘達が駆け出してゆく。彼方此方で華麗な格闘戦が繰り広げられ、赤と白のグローブがぶつかり合うと共に、番組タイトルが左右(>戦乙女 対抗戦<)からスライドして弾けた。

●ともに格闘技初挑戦・実力は未知数
 オープニングCG演出が終わると共に、リングが映し出される。続いてアナウンスが響き渡った。
『第一試合、赤組選手入場!!』
 ピアノとヴァイオリンを織り交ぜた、ゆったりめの落ち着いた優しげな旋律が流れ出す。
 スポットライトを浴びたのは、結(fa2724)。歓声とどよめきが溢れる中、短めの灰髪娘は整った顔を曇らせ俯き加減だ。
(「はぁ〜、折角参加したんだし、皆の迷惑にならないようにしなくちゃ‥‥それにしても‥‥」)
 結が盛り上がった胸元に憂いを帯びた眼差しを落とす。ピンクに彩られたツーピース水着の上を包む白いTシャツには、黒字で『私は白組』の文字が縫われていた。彼女は登録チームを間違えたのである。しかし、今回はPSF特別バトル。登録したからには赤組として闘ってもらう(アクシデントも番組のバラエティ風味にしてしまおう)という訳でリングに上がる事となった。
(「ピンク色のコスチュームだけど‥‥これはバツなんだわ。我慢しなきゃ」)
 声援と悪気無い笑い声が飛び交う花道を真っ赤に染まりながら歩き、ラクロス風の衣装に身を包んだ金髪の少女が待つリングへ辿り着いた。
 結曰く、リングまでの道程がとても長かったと語ったらしい。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――何なの? この動き‥‥。
 視界に映る金髪少女のステップに、結は動揺した。腕を振ると同時に腰を捻る歩幅の大きなステップは、カポエィラ独特の挙動である。ブラジルの奴隷制時代に黒人たちが農園主の弾圧を避け、ダンスとしてカモフラージュして練習・伝承されたブラジル独自の格闘技は、正に異彩を放っていた(尤も格闘技術が未熟な少女のものは、カポエィラと呼ぶには稚拙ではある)。
 ジンガのステップでリズムを取る少女を前に、結は距離を保ち様子を見る。
 ――少し距離を取って捕まらないようにしなきゃ。一撃離脱、小刻みにダメージを与える!
 暫く膠着状態が続いた後、次第に間合いを詰めたのは結だ。身長の低い金髪少女が蹴りの間合いに入るか否かの刹那、ピンクの水着から伸びた右脚を放つ。僅差で空を切る蹴りに、青い瞳が動揺の色を浮かべた。格闘センスが無い為、間合いを見誤ったのである。
 ――やんッ、外れた! 踏み込まれる!?
 足が止まった所で間合いに入り、チェックのスカートが翻ると上段蹴りが放たれた。受けも避けも間に合わない結の腕にインパクトが炸裂。痺れるような激痛が駆け巡った。
 ――ッ重い! 私が高くなかったら頭に当たっていたわね‥‥。
 静かな試合からようやくダメージが伝わった事で観客も歓声に沸き、闘争心に拍車が掛かった。互いに避けられない間合いの中、蹴りの応酬が繰り広げられる。
 上段下段に散らせる見た目にも派手な蹴り技を叩き込む金髪少女、対する結も軸足に一撃を与えてゆく。双方から響き渡る衝撃音と共に、互いの表情に苦悶の色が浮かんだ。
 ――なんて強烈な蹴りなの!? でも、私のローでダメージも蓄積している筈‥‥!
 金髪少女が大きく身体を捻った瞬間、結はフィニッシュに入るべく攻撃を打撃に変えた。
 ――ここで畳み掛ける!
 身長差は間合いに影響する。金髪少女の蹴りの間合いは、同時に結の打撃による間合いにもなっていたのだ。叩き込まれた衝撃音が鈍く響き、確実な打撃の手応えを感じた。しかし――――。
 ――え? 今、微笑んだの? そんな筈は!
 インパクトに体勢を僅かに崩す少女へ、グローブを繰り出す。今の彼女に躱す余裕は無い筈だ。
 ここでゴングが鳴り響く。前半の膠着状態が長かった為、1Rが終了したのだ。少女の顔面スレスレでグローブを止めると、何事も無かったようにコーナーへと交差してゆく。
(「ハァハァ‥‥機動力で一撃離脱するつもりだったけど‥‥簡単じゃないわねえ‥‥でも!」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングが鳴ると共に、1Rと打って変わって攻勢に出たのは結だった。視界に映る金髪少女を捉え、グローブを叩き込みながら、蹴りとのコンビネーションを炸裂させる。何とか躱そうとしているようだが、結のラッシュは確実にヒットしてゆく。しかし、その分のスタミナも消耗された。
 ――ハァ、ハァ、この辺で体力を回復させた方が良いわね‥‥ぐぅッ!!
 刹那、金髪少女が下段蹴りを返して来た。ラクロス衣装風の白い袖なしポロシャツの胸元を揺らし、チェックのスカートを翻しながら、十分に腰を捻って薙ぎ放たれた衝撃に、結の白い足が戦慄いた。距離を取ろうと後退するものの、足がマトモに動かない。
 ――つッ! 足が‥‥!?
 上段下段に散らせる蹴りで追撃され、結はダメージを蓄積させると、前半の猛攻と衝撃によるダメージでスタミナを奪われ、呼吸が乱れてゆく。
 ――足に力が入らないッ! そんなッ来ちゃうじゃない! 
 カポエィラ独特のダンスのような円を描くステップから、軽くステップを踏んだかと思えた刹那、着いた足を軸にして大きく跳び、そのままローリング・ソバットが放たれた。十分に腰の捻りを効かせた横薙ぎの蹴り技は、結の顎へ炸裂。脳を揺さ振る衝撃に何が起こったのか全く分からなくなる。
 ――なに? まだ‥‥闘えるのに‥‥え? え?
 クラリと視界が揺れたかと思った刹那、結の意識は暗闇に落ちた。

●若きレーサーがプリンセスに挑む
 琴と笛をメインに、ゆったりめな旋律が流れる。
 童謡か児童向けTV番組のオープニングを連想させるのか、客席の子供達が何やらハシャぎ出す中、照らし出されたのは、白い花柄を彩った股下くらいまでの赤い着物に魅惑的な肢体を包む、草壁 蛍(fa3072)だ。結い上げた銀髪と金の帯が艶やかで、合わせ目から覗く美味しそうな白い谷間が刺激的である。
「ムチャの申し子が戦乙女に挑みま〜〜す♪」
 ブンっと手をあげて声援に応える蛍。そんな彼女が笑顔で掲げたのは、武骨なチェーンソーだ。赤く乾いた何かが生々しい。改めて見れば、背中から刀の柄と思われる物も覗いているではないか。流石に警備のスタッフが駆け寄った。魅惑的な娘の表情に驚愕の色が浮かぶ。
「え? チェーンソーは使っちゃ駄目!? 鞭も刀もカイザーナックルも使用不可!? そんな〜〜〜」
 鞘を背中から引き抜き、豊かな谷間から鞭を取り出すと、さも残念そうに甘え声を洩らした。グローブを嵌めて闘うのだから、通称カイザーナックルも当然アウトである。尤も、これはムチャプリンセスのキャラ作りの演出であり、本心ではない――5割は‥‥。
 再びリングへ向かうと、先に待っているゼッケン入り白い体操着に紺ブルマの少女と目が合った。
(「あらあら、まさに運動会ねぇ♪」)
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングと共に軽快なフットワークで互いに間合いを詰めてゆく。格闘スタイルは共にボクシング。しっかりとガードを固めて、身体を揺らす。
 ――ふーん、スピードはありそうね。
 蛍は白い体操着の少女を窺っていた。放たれる軽いジャブに合わせて、ワンツーのコンビネーションを軽く放ち、牽制してゆく。
 しかし、残り40秒を超えた所で相手の戦術は変容した。
 長い黒髪を揺らして踏み込むと、少女がパンチを散らせて攻めに転じたのだ。疾風の如く間合いを詰め、ジャブ、フック、ストレート、アッパーとコンビネーションを散らせて翻弄してゆく。
 ――足は速いけど、そんなパンチを当てさせる訳にはいかないわね♪
 グローブを固めながら隙の少ないコンビネーションを返してゆく。それを巧みな動きで躱す白い体操着の少女。
 ――逃げるのは上手ねえ。なら、仕掛けさせて貰うわ。
 ラスト30秒を切った時だ。蛍はミドルキックを放った後、踏み込んでのボディアッパーを繰り出した。しかし、洗礼は僅差で空を切るのみだ。
 ――クッ! 躱されているなんて!?
 そこでゴングが鳴り響いた。互いにダメージが見えない中、コーナーへと戻ってゆく。
(「基本に則って、ダメージではなく当てる事だけを目的に攻めたけど‥‥まさか躱されるなんて‥‥足を止めなきゃダメね」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ゴングと共に白い体操着の少女が飛び込んだ。観客達が感嘆の声をあげる中、足を駆使し、コンビネーションを叩き込む。蛍は同時に細かいパンチを繰り出してゆく。それも巧みに躱され空を切るばかりか、軽いパンチを貰う結果となる。だが――――。
 ――それほどのパンチじゃないわね‥‥足の動きも鈍くなって来たんじゃない?
 長い黒髪を舞い揺らし、少女が間合いに入る中、蛍は更に接近してパンチを食らいながらもボディブローから脇腹への膝蹴りを叩き込んだ。衝撃に黒髪が舞い、体勢が崩れた。次いで白い体操着の懐へボディブロー、ブルマから伸びた白い太股にローキックを叩き込んでゆく。
 ――まだガードが下がらないの? だったら!
 少女の動きが止まった瞬間、蛍は打ち下ろすようにグローブを叩き込んだ。体勢が崩れ、相手のグローブが下がったその時、着物の裾を振り乱しながらのハイキックが炸裂! 長い黒髪が舞いながら少女はリングに沈んだ。
 少女は意識を取り戻したのは、ゴングの音が鳴った時だった。試合が終わると蛍に近寄り握手を求める。
「えっと‥‥やっぱり‥‥敵わないですね‥‥」
「あら? 1Rと同じ闘い方をしていたら、私が判定で負けたかもしれないわ」
「そんな‥‥私の速さが‥‥どこまで通じるか‥‥全力で攻めてみたくなって‥‥」
「ムチャな娘は嫌いじゃないわよ☆」
 二人が握手を交わす中、会場は観客達の拍手と歓声に包まれた。

●テクニックVSパワー
 再び子供達が沸く。
 マント姿の逞しいシルエットが浮かぶと共にファンファーレが被さり、スポットライトを浴びた褐色の少女に合わせて、宇宙から怪獣退治にやって来たウルトラヒーローか、昆虫に似た仮面を被る超人ライダーを彷彿とさせるメロディが響き渡った。
 赤いマントを靡かせ、銀の襟付きノースリーブに銀のショートパンツ姿のティタネス(fa3251)は、長身も相俟ってスーパーヒーロー‥‥もとい、スーパーヒロインのようだ。子供達の声援に応える中、自己PRが映し出される。
「トーナメントから暫らく経つけど、少しは強くなったところを見せられれば、と思ってるよ」
 花道を歩いてゆくと、セクシーな白いベリーダンサー衣装の銀髪美女がリング上から見つめていた。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――取り敢えず最初は間合いを取って様子見かな‥‥来た!
 視界に間合いを詰めたベリーダンサーが迫った。薙ぎ放つはミドルキックだ。
 ――遅いよ!
 ティタネスは、白い足を振るう銀髪美女目掛けて褐色の足を前に突き出した。格闘センスは稚拙とはいえ、止まっている的に当てる事は出来る。強烈な一撃にベリーダンサーが吹っ飛ぶ。当然客席もどよめいた。相手の端整な風貌に動揺が浮かぶ。何が起きたのか分からないといった表情だ。
 ――当たったよ! マサイアスさん。
 解説せねばなるまい。ティタネスの身長は185、ベリーダンサーは168。その分リーチに差が生じるのだ。況して彼女はマサイアス・アドゥーベという『なんでも評論家』にアドバイスを受け、特訓を積んで来たのである。しかし――――。
 再びコンビネーションを繰り出す銀髪美女に、ティタネスは戦術を間違えた。彼女は格闘技術が稚拙にも拘わらず、守りを固めたのだ。隙の見えるガードは崩され、ジャブ、ストレートから繋げたローが褐色の肌を強襲する。
 ――クッ! こんな攻撃で倒れるものかっ!
 ティタネスは攻撃を受けながらも、ローで返した。銀髪美女の端整な風貌が苦痛に歪む。再び前蹴りでベリーダンサーを吹っ飛ばす。体力がある分、突き出される蹴りでさえ強烈だ。
 ――おっと、いけない。相手の技も見ておかなきゃダメだな。通じるか様子を見なければ‥‥。
 銀髪美女をリングに飛ばした後、ティタネスは相手が近づくのを待つ戦法に転じた。それを隙か油断と見たか、再びコンビネーションに単発のハイキック混ぜて客席を沸かせたのはベリーダンサーだ。しかし、ハイキックに歓声をあげたのか、それとも倒れないティタネスへの驚き故かは定かではない。
 ――やはり防御はキツイか。ならば!
 終盤に差し掛かった刹那、打撃を与えていた銀髪美女の攻撃は次第に空を切りだした。ティタネスが足を使って躱し出したのである。
 相手の戦法を見る試合は、ゴングの音と共に止んだ。
(「相手の攻撃は避けられる。あの程度の技なら倒れる心配もない。問題は次にどう出るかだ」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 1Rと同様にベリーダンサーはコンビネーションを放つべく間合いを詰める。しかし、やはり同じようにティタネスは前蹴りで牽制に徹した。廻り蹴りと異なり、前蹴りは捌いたとしても隙は小さい。況して捌こうとしなければ十分な牽制として相手を寄せ付けないのだ。
 ――そろそろあたしが接近戦を嫌がってると思ってくれるだろうか? ‥‥!!
 銀髪美女が一層バリエーションを増やして攻めて来た。廻し蹴りから腰を十分に回転させての裏拳を繰り出し、ローキックに繋げてゆく。だが、接近を許したのはティタネスの隙ではない。接近戦に誘ったのだ。相手が攻めるタイミングに合わせて狙うのはボディーブロー! しかし――――。
 ――懐が低い!
 なるべく顔面は避けたい。自分達は芸能人であり、グローブによる一撃は簡単に顔を腫らし傷つける。互いにパンチの間合いに入り、打ち合いの様相と化した。ベリーダンサーのコンビネーションが唸り、ティタネスの重い一撃が会場に響き渡る中、褐色の膝が相手を浮かせ、横薙ぎの大振り気味の右フックが狙い定めた。衝撃と共に優麗な銀髪を舞い躍らせ、鮮やかにスピンを描いて最後のダンスを踊ると、遂にマットへ沈んだ。
 しかし、マサイアスの評価は絶賛とはいかなかったであろう。持久力もスピードもあるだけに、足りないテクニックが惜しい。

●注目の若手レスラー対決
 高原をイメージした爽やかな感じの旋律が流れた。
 照らし出されたのは、キャミソールタイプの白いワンピースに肢体を包み、赤いベルトに赤いブーツ、膝サポーターを装着した雪村聡美(fa4412)だ。花道を歩く中、赤毛少女の自己PRが映し出される。
「雪村聡美、プロレスラー志望の訓練生です! 今回はイベント戦みたいですが、勝負は正しく真剣勝負、レスラーとしてはまだまだな私ですが、全力で闘いますので応援宜しくお願いします!」
 なかなかの良い娘オーラを放つ少女に、中年層から声援が飛び、丁寧に応えてゆく。
(「よーし、応援に応えなきゃだよね!」)
 青い瞳が鋭利に研ぎ澄まされる中、視界に黒を基調としたシンプルなリングコスチュームに細身を包む灰髪の少女を捉えた。
(「年齢は私と同じ位かな?」)
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――隙の少ないジャブやローキックで、様子を見るべきだね‥‥え!?
 黒い細身がゴングと共に跳び込む。腰を捻り、薙ぎ放った脚の遠心力を活かして繰り出したのはローリングソバットだ。速度も勢いも十分な奇襲を聡美は躱せない。叩き込まれる衝撃と共に鈍い痛みが襲う。直ちに灰髪の少女は体勢を整え、距離を保ちながらローキックやボディ狙いのミドルキックに転じる中、ジャブやローキックを繰り出しつつ、ストレートやミドルキック、ハイキックを織り交ぜてゆく聡美。僅かな身長差での攻防は互いの蹴り技を受け合う様相と化した。
 ――出端を挫かれた! けど、打ち合いなら私だって!
 互いに体力がある分、威力も大きい。避けも受けも間に合わない黒いリングコスチュームが衝撃に戦慄き、聡美のハイキックに脳を揺らすと体勢を崩した。
 ――っ‥‥私も貰いすぎたかな? ここは詰める! 
 相手にダメージを与えると同時、我が身もダメージを蓄積させていた。聡美はガードを固めて接近すると、ジャブを散らしつつ、フックやストレートを放った。灰髪少女の攻撃はガードで弾く。僅かにプロレスラーの表情が動揺を浮かべたように見えた。
 ――よし! 当たってる! ここでKOを狙うからね!
 聡美の左右のグローブが灰髪の少女に洗礼を叩き込んだ。勝機を見た少女は左腕を薙いで腰の捻りを活かしたフックを炸裂させる! 刹那、黒い細身がそのまま揺れると、灰髪を舞わせて倒れてゆく。虚ろな青い瞳がこちらを見ているようだ。
『ダウン!』
 ――やった!
 観客に手をあげてアピールする聡美。カウントが流れる中、歓声と声援がリングへ打ち寄せたが、それはどよめきに変わった。
 瞳を流すと、視界に立ち上がろうとするプロレスラーが映る。
 ――立てるの!? まだ終わっていないんだね‥‥。
 戦闘態勢に身構える中、灰髪の少女はファイティングポーズ。しかし、レフェリーが続行を告げた刹那、ゴングが鳴り響いた。
(「回復するかもしれないけど、ダメージは残る筈だよね‥‥揺さぶりを掛けて、倒せるなら早い内に倒す!」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 黒い細身がゴングと共に宙を舞い、飛び膝蹴りを繰り出して来た。様子を見ていた聡美は躱せないと判断すると、ミドルキックを放つ。互いに強打のダメージを受け、体勢が崩れる。プロレスラーの攻撃は早いが、格闘センスは聡美が上だ。
 次いで灰髪の少女はジャブやショートフックをメインに、顎先や顔面を狙うが、合わせてボディブローからストレート、ローキックからストレートと、上下に攻撃を散らして、確実にダメージを与えてゆく聡美。
 ――簡単にクリーンヒットさせないよ! 打ち合いなら負けないからね!
 訓練生とはいえ、少女は持久力に秀でてもいた。打ち合いになれば互いに動く為、テクニックが稚拙な方が不利だ。 
 聡美の正拳突きの如きストレートが炸裂! そのままコンビネーションの蹴り技がプロレスラーに叩き込まれてゆく。
 ――いっけえぇぇッ!!
 軸足を返すと同時に十分に腰に捻りを加え、ハイキックを薙ぎ放った。蓄積したダメージにプロレスラーの少女がマットに沈んだ。

●ワイルドVSセクシーの超過激対決
 テナーサックスをメインにして艶っぽさを出す旋律が流れる。
 テンポはゆったりとした落ち着いたリズムを刻み、アダルティーな雰囲気に包まれた。
 そんな妖艶な雰囲気の中、赤を基調としたタンクトップタイプの上着とビキニタイプの衣装に魅惑的な肢体を包んだエレクトラ・テーム(fa3793)が浮かび上がる。胸元を強調するようなポーズでスポットライトを浴び、黒い網タイツに包まれた脚線美を挑発的に晒す姿に、小さな子供達を抱く親達は慌てて我が子の目を覆い隠した。花道を歩く度に胸元がゆさりX2と揺れ、健全な野郎共が狼の遠吠えを響かせるような歓声に沸く。横を通り過ぎる時に大胆に覗く食み出しそうな柔肉は強烈だ。
「アマレス出身で打撃は専門外ですけど、盛り上がる試合になるよう精一杯戦うわ。この柔らかい身体が役に立てばいいんだけど」
 自己PRでも褐色の美女は、爆乳を両手で掬い上げて妖艶な笑みを浮かべて見せた。
 沸き上がる声援に応える中、純白の特攻服を羽織った茶髪の娘を捉えると、エレクトラは切れ長の赤い瞳を研ぎ澄ました。
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――先ずは相手の射程距離を見定めさせて貰うわ‥‥えッ!?
 ゴングと同時に駆け出す特攻服の娘が横向きに飛び上がった。円を描きながら動いて様子を見ようとしていたエレクトラだったが、素早い奇襲に対処が遅れ、ドロップキックが叩き込まれた! 視界が天井のライトを映すと同時、客席がどよめくが、プロレスで学んだ『ポイントをずらす』ことでダメージ軽減を図り、致命傷には至っていない。
 ――そうだったわ‥‥彼女プロレスラーよね。
 再び視界をリングに運ぶ。前受け身で着地した茶髪の娘が慌てて起き上がる中、エレクトラは円運動で間合いを計った。序盤の派手な奇襲から一転、互いに様子を窺う様相と化す。
 ――だったら私もアマレスのテクニックを活かさせて貰うわ!
 エレクトラが一気に飛び込もうと体勢を低くマットを蹴った。相手の射程外からアマレスのタックルで培った『飛び込み』で間合いを潰そうとしたのである。しかし、接近戦を嫌がる茶髪娘のフロントキックで飛び込みは迎撃されてゆく。仕掛けるに及ばないエレクトラ。執拗に接近を許さない特攻服のプロレスラー。膠着状態のまま1R終了を告げるゴングが鳴り響き、二人はコーナーへと分かれた。
(「ハァ、ハァ、どんなに攻めても密着に辿り着かないわ‥‥やっぱりこの胸が負担になっているのかしら?」)
『R2 レディ‥‥ファイト!!』
 ――速いわッ!
 一気に間合いを詰めたのは特攻服の娘だ。タックルのタイミングを窺っていたエレクトラは僅かに驚愕の色を浮かべたものの、接近を許す結果となった。しかし、密着状態は狙っていた事。互いにグローブで相手の頭部を抱え込み、首相撲に入る。懸命に揺さ振り、首を取ろうと激しく組み合った。
 ――なんてパワーなの!? 私が押されるなんて!
 グンッと腰を入れた膝が力負けしたエレクトラの鳩尾に炸裂! ズンッと鈍い衝撃が駆け巡る。再び特攻服の娘が得意のニーリフトを繰り出そうとした刹那、腰の捻りと共にショートアッパーを叩き込んだ。
 ――よし! イイ感じよ! ‥‥!?
 僅かに仰け反るプロレスラーは強烈なダメージには至っていないらしい。叩き込まれた膝のダメージで、力が入らなかったのか。その証拠に、飛び込みつつ放つストレートパンチも、特攻服の娘には効いていないようだ。
 ――何よ? 今、微笑んだの?
 スピードに秀でた茶髪の娘が一気に密着すると、膝蹴りを突き刺す。蓄積されたダメージでよろめくエレクトラへ、次いで延髄斬りが叩き込まれた。一瞬、脳裏に☆が散ると意識が急速に遠退いてゆく。
 ――あぁっ‥‥堕ちるってこんな感じなのかしら‥‥。
 エレクトラが意識を取り戻したには、試合の終了を告げるゴングが鳴り響いた後だった。
「完敗だわ。でも、次は負けないわよ☆」
「そうだな、あんたのテクニックは悪くなかったよ‥‥お、おい」
 互いに握手を交わすと、エレクトラはピッタリと特攻服の娘に密着して健闘を讃える抱擁を交わした。爆乳が押し当てられ形を変える様に、観客は歓声とどよめきを溢れさせる。プロレスラーの娘もどこか恥ずかしそうだ。
 後に礼をすると、リングの四方へ駆け寄り、会場にも礼。見た目も麗しい美女の礼節を重んじる行動に、会場から惜しみない拍手と声援が送られた。

●チャレンジャーは女王を止められるか
『続きまして、戦乙女対抗戦‥‥最終試合を行います! 赤組選手の入場です!』
 少しラテン系のノリが入った可愛らしく元気の良い旋律が流れる。
 テンポは遅くのんびりした感じで刻まれる中、スポットライトを浴びるは、朱色の巧夫胴着風の半袖上着に黒のショートスパッツ姿の因幡 眠兎(fa4300)だ。長い黒髪をチャイナシニョンに纏めてアップにしており、円らな赤い瞳が愛らしい。
 実はクリエイターサイドから、黒いバニーガール衣装と赤いシルクハットが用意されていたのだが、抵抗があったようだ。
「ヴァルキリーインパクトは前から興味があったから、今回参加出来て嬉しいよ。10月の本戦も楽しみだしね♪」
 自己PRに映し出された少女の発言は、トーナメントへの参戦予告か!? 幼い顔立ちに満面の笑顔を振り撒く仕草に、大きいお兄ちゃん達の声援が飛ぶ。
 花道を手を振りながら歩いてゆく中、白を基調とした黒い縁取りのゴスロリワンピース姿の女王を捉えた。戸惑い気味の愛らしい赤い瞳が、次第に赤毛の褐色娘を見据えてゆく。
(「ゃー‥‥それにしても、いきなり王者との対戦になるとはねー‥‥いやいや、10月までの楽しみに取っておきたかったんだけど。ま、折角の機会だし、楽しませて貰うけどね♪」)
『R1 レディ‥‥ファイト!!』
 ――先ずは接近戦を持ち込まなきゃ話にならないよね!
 一気に間合いを詰めたのは眠兎だ。ピーカブースタイルでガードを固め、隙を窺うように揺さ振りを掛ける。リーチの差がかなりある為、打撃を与えるには近づく必要があるのだ。イン&アウトステップで接近する中、タイミングに合わせ、赤毛の女王は前蹴りを放った。極度の接近を許さない胸元を蹴る技に、小柄な少女が体勢を崩す。次いで薙ぎ振るわれたのは、肝臓狙いの左ミドルキックだ。強烈なインパクトが柔肌に炸裂! 朱の巧夫胴着に包まれた身体が苦痛に戦慄く。会場にも衝撃音が響き渡り、客席からどよめきが溢れ出した。
 ――スゴイよ‥‥これが、トーナメント優勝者の蹴りなんだね‥‥。息が出来ない位だよ‥‥。
 苦悶の色を見せぬよう、身を低く保ったピーカブースタイルはそのままに、執拗にジャブを放つ眠兎。しかし、少女のパンチは空を切り、リーチの長い脚に阻まれる。再び左ミドルキックやローキックが放たれ、次第に足が戦慄く。
 ――‥‥だめ、足が動かない‥‥腕に力も入らないよ‥‥‥‥あれ?
 刹那、眠兎の攻撃が止んだ。痛みに因るものか、両足が戦慄き、グローブを嵌めた腕も小刻みに震えている。
 ――私、何を、仕掛けるつもりだったのかな? 頭の中が真っ白だよ‥‥。
 ダメージが要因か、圧倒的力量差に身体が恐怖したのか、何も考えられなくなっていた。しかし、その隙を褐色娘は逃しはしない。
 赤毛の女王が間合いを詰めた。ピーカブースタイルをストレートパンチで弾き崩し、空いた懐に腰を落としてのアッパーカットでレバーブローを叩き込んだ。ズンッと鈍い衝撃が襲うと共に、身体が抉られ浮き上がると、霞む視界が一気にゴスロリワンピースの足元を映す。
『ダウン!』
 ――ハァハァ‥‥た、立たなきゃ‥‥。
 何とか立ち上がる眠兎。しかし、ダメージを蓄積させた身体は悲鳴をあげ、立っているのがやっとだ。刹那、女王の眼光が勝機の光を放つ。
 執拗にミドルキックが叩き込まれ、遂にガードが下がると、左ハイキックが薙ぎ放たれた。脳を揺さ振られ、視界が霞む。刹那、赤い髪が舞い踊ると共に長身は跳ね、腰を十分に捻ったバックスピンキックが炸裂! 呼吸が止まると同時、爆風に飛ばされたように褐色娘が遠ざかり、そのまま視界は暗闇に包み込まれた。
『ダウン!』
 朦朧とした意識にゴングの音が鳴り響く。
 ――私‥‥負けたんだね‥‥。

 こうして、赤組5点白組5点を得て、戦乙女対抗戦は幕を閉じたのである。