えん歌だい♪アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
9.4万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/12〜11/16
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●本文
● 秋が終わろうとしているから
富田TV『えん歌だい』担当プロデューサーは季節の移ろいを感じ取っていた。
運動会は成功させたものの、秋の題材は未だ残っている。
――そう、秋と言えば『食欲の秋』だ。
海の幸や山の恵――秋の味覚を取り入れた料理からスイーツまで様々な食べ物が溢れる時期。
「逃せない! 食べ物を中心に取り組んで来たえん歌だいで、秋の味覚を取り入れない訳にはいかない!」
彼の目的は二つ。若い視聴者を獲得する新しい演歌番組の成功と、番組で披露された歌をノースランドレコードでオムニバスCDとして発売する事だ。
・『えん歌だい♪』出演者募集
番組が課題とするものでオリジナルの演歌を歌って頂くものです。
今回は『秋の味覚』または『食欲の秋』をテーマにオリジナルの演歌を歌って頂きます。
歌手の後ろで調理する料理人(パティシエ)等の演出もOK。但し、6分位で作れる物が望ましいです(笑)。
●秋は食べ物が美味しいですよね☆
「秋の味覚で演歌ですか? さけとか美味しいですよね♪」
事務所を訪れた演歌歌手の紗亜弥は、豊かな胸元で両手を組み、ニッコリと微笑む。
「夏も番組で食材が出て来ましたけど、何か出るのかなぁ☆ スイーツならモンブランのケーキとかぁ」
あれこれと想像が湯水の如く溢れ、楽しそうに指折り数えた。どうやら出演する意思はあるようだ。
壮年の男は少女が得意そうな片仮名が羅列される中、苦笑する。甘い物は苦手なのか? 所長は煙草を口に運ぶ。
「何だか口の中が甘くなりそうだな‥‥。まぁ、仕事はいつもと同じだ。作詞作曲を引き受けてくれるアーティストがいなければ出演できない」
「はい、ほーむぺーじで募集するんですよね? あたしも一言打たせて下さい!」
クリスティが席を譲ると、ぎこちない動作でキーを人差し指のみで叩いてゆく。
「ふつつかものですがよろしくおねがいしますほし‥‥あれ?」
「さ、紗亜弥? 気にしないで打って。後で記号に直すから‥‥」
キーボードに覆い被さる如く、左右の人差し指だけで文字を入力してゆく姿は滑稽だった。
微笑ましい(?)光景を眺めながら、壮年の男は口元を引き締める。
――1周年は何とか成功したが、まだ安心は出来ない。
頼むぞ、アーティスト諸君――――。
・『えん歌だい♪』裏方募集
舞台演出、衣装担当、大道具、司会、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
「紗亜弥です♪ ふつつかものですがよろしくおねがいします☆ あたしがんばりますから! ご協力よろしくおねがいします」
紗亜弥を秋の味覚で染めて頂ける方、スタッフ一同お待ちしております。
●リプレイ本文
●あきぃあきぃあきのみかくはなんだろなぁ♪
思わず口ずさんでしまいます☆ これが1年経ってからの初仕事! 頑張らなきゃ!
「おはようございます!」
ドアを開けると、見知った方々が何時ものように顔を向けました。いつも目が細い高野正人(fa0851)さん、元気で明るい菜の花さんこと木野菜種(fa1681)さん、大人っぽい落ち着いた雰囲気の中松百合子(fa2361)さん、朗らかな笑みを絶やさない和服美人の守山千種(fa2472)さん、薄幸の女性的な雰囲気だけど、実は優しくてユーモアのある夜倉紗無さんことDESPAIRER(fa2657)さん‥‥あ。
「初めまして。作詞作曲に携わらせてもらいます。どうぞ宜しくね」
うわ〜☆ 顔も綺麗だけど声もステキです。明石 丹(fa2837)さんがやんわりと微笑むと、背の高いがっしりした方と、優しそうで穏やかな雰囲気の方が歩いて来ました。
「演歌の仕事は初めてだな、マコト、ミッシェルと一緒に作詞作曲にあたる‥‥宜しく頼む」
なんていうのかな、UN(fa2870)さんは荒っぽそうで一寸怖いです。
「今回は丹様、UN様と一緒に裏方で曲作りに携わらせて頂く事になりました。御二人に比べればまだまだ経験が浅いのですが、力になれるよう頑張ります。どうぞ宜しくお願い致します」
ミッシェル(fa4658)さんは雰囲気通りの方で、ペコリとお辞儀をしたんです。
「ふつつかものですがよろしくおねがいします!」
あれ? 作詞作曲の方が4人? 正人さんはセットだし、百合子さんは衣装とメイク、千種さんと紗無さんとあたしでも3人? UNさんのギラッとした目と合いましたが慌てて逸らしてミッシェルさんに訊ねました。彼が穏やかに微笑みます。
「紗亜弥様に頑張っていただけるよう私達も気合を入れねばなりませんね」
やーん、『さま』だなんて照れちゃいますよー。
「マコトとは同プロダクションの所長、所員の間柄で何度も仕事で一緒に組んできた。ミッシェルとも同じ仕事に入った事があるので信頼している」
「アンに、ミッシェル君と共同作業になるかな。演歌への曲提供は初めてだから不慣れな部分も多いかもしれないけど精一杯頑張ります」
へ? って事は‥‥。
「三人の男の方にあたし一人ですかぁ!?」
思わず困惑が口を出てしまいました。UNさんが荒々しく白髪を掻きながら「何もしねぇよ」と言いましたが、あたしの瞳は豊かな胸元の前で腕を組んで微笑む菜種さんに向きました。
「今回も紗亜弥のお手伝い‥‥ではなくって、今回のあたしは自作の演歌で参加よ」
「えぇっ!? 歌うんですかぁ?」
「いや、あたしだって、ギタリストだけど一応歌うのよ? ああ、でもあたしは変化球な人だから、紗亜弥はあたしの真似しちゃダメよ♪ そんな目で見ない。いいじゃない、手取り足取り教えて貰いなさい♪」
あ、でも美形の人、優しそうな人、怖そうな人って、なんかゲームみたいかも‥‥。で、荒っぽい人が意外と‥‥ふえぇッ、睨んだ! 今、睨んだよぉ。あ、千種さんは歌うのかな?
「では‥‥今回は司会をメインにやらさせて頂く事に致します。本当は歌も唄いたいのですが、最近曲を出していませんので」
はにかむように苦笑しました。そっか、あたし怯えてる場合じゃないんだ。歌いたくても唄えなくなる事もあるんだから頑張らなきゃ!
●レッスンの疲れは差し入れで☆
「秋の味覚でやるならラストチャンスですよねぇ、これ以上遅れると冬になっちゃいそうですし。過ぎ去っていく秋――栗とかサツマイモとかエトセトラエトセトラの甘味を惜しんで頑張りましょう」
正人さん、甘いものばかり☆ あ、丹さん達と打ち合わせでした。
「この前ちょうど別の番組で秋の味覚テーマに秋鱧と松茸を題材にして一曲作ったんだけど紗亜弥さんならもうちょっと可愛いイメージの物の方が良いかな? 林檎、栗、カボチャ、焼芋、どれも美味しいよねえ」
うんうん、美味しいですよねー♪ 彼は微笑みながら続けます。
「そんな中から今回題材に『ラフランス』、洋梨を使ってみようかなと。鮭で力強さアピールと悩んだんだけど、味よし香りよし、是非使ってみたいと思ったので」
「そうと決まればレッスンだ。声域や声量、どれくらい息が続くのかも気になったから確認させてもらうぞ。それから紗亜弥の音程や好みを確認しながらメロディの調整だ」
ふえぇっ、やっぱりUNさんは厳しい方でした。
「できれば最後はノンブレスで歌いきれれば音が広がって良いんだが」
「ノンブレス、ですか‥‥できるかな‥‥」
「できるかなじゃない! やるんだ! ‥‥いや、厳しいかもしれんが‥‥俺も本気で一生懸命応援したい‥‥つまり」
――え? UNさん‥‥。
「ラフランス買って来ました♪ 言葉で聞くよりも、実物を見ていただければイメージもしやすいかと。紗亜弥様にとてもよく似合っていらっしゃると思いますよ♪」
「それと頑張った御褒美‥‥といいつつ僕が食べたかったのが大きいんだけど、ラフランスのタルトを作ってきたから、一息つきましょう」
にこりと笑ってミッシェルさんが山形まで行ってラフランスを、丹さんが微笑みながらタルトを用意してくれました。それから百合子さんとディスペラーさんも差し入れを持って来て‥‥。
「きんつばとマロンクリームのシュークリームを差し入れよ。あら? タルト?」
「先日、きのこ狩りに、行ってきたので‥‥」
「凄い色ですね‥‥大丈夫なんですか?」
「もちろん‥‥全部食用で‥‥無毒です」
千種さんの戸惑いに薄く微笑む姿が安心できなかったのはヒミツです――――。
「遅くなったけど、紗亜弥ちゃんデビュー一周年おめでとう。これからの活躍、楽しみにしてるわね。このコサージュは私が作ったの。紗亜弥ちゃんへのプレゼントよ。結構キラキラしててね、照明に当たれば、その色に合わせた色に変わるの♪ そんなに派手なものじゃないし、普段でも通年使えると思ってね。これから、沢山の人に会って紗亜弥ちゃんがどんな色になって輝いていくかとても楽しみね」
「ありがとうございます☆ 大切に使わせて頂きます♪」
デビュー一周年、覚えていてくれたんだ☆ 「肌をマットな感じにして、オレンジブラウン系にナチュラルにしようかしら♪」なんて言いながらメイクを施す百合子さんに身を任せます。
そして、本番がスタートしました。
●えん歌だい♪ オンエアー
夕焼けを意識した茜色の照明に映し出されたのは秋に色づく山のセットだ。紅葉が赤や黄色に彩られており、夕日に照る感じが情緒的である。山の背景には田んぼや畑が描かれ、遠くに海が臨む絵画は、正人の力作だ。舞台は夕刻の秋を演出していた。
そんな中、司会を務める大和撫子系美女が姿を見せる。薄いベージュに真っ赤な紅葉をモチーフとし、帯も同色に秋を演出しながら楓柄の和服に身を包むは千種だ。
「晩秋を迎えた燃えるような秋。今宵は過ぎ行く季節と共に日本の情緒を演歌で歌い上げます。では、初めに彩るは紗亜弥さんです」
立て板の水の如く淀みない口調で紹介された少女が京紫地に菊と薄紅色の小花を散らした着物姿でステージにあがる。帯は江戸茶色で伽羅色の銀杏柄が入った名古屋帯で、淡い芥子色の帯揚げと帯締めでコーディネートされていた。束ねた髪を耳の上でシニヨンに纏めており、薄紅、黄の小花があしらわれた橙の硝子球が連なった簪と、スワロフスキーのクリスタルビーズで作った繊細な花型のコサージュで止めてある。毛先は軽くアイロンで巻いて揺れていた。握るマイクは正人が一周年にプレゼントしたものだ。
ダイスロールとの噂だが、最初に唄うのは紗亜弥にとって初仕事である。やや緊張の面持ちの少女に、千種がリラックスするよう気さくな感じで質問をすると、『ラフランス』の曲紹介の後、イントロが流れ出す。曲調はミドルテンポで派手になり過ぎずしっとり華やかに奏でられ、『芳香を恋心と掛けて、実りの秋に綺麗な実(恋)が実りますように』と願いを込めた歌詞に乗って歌声が秋の景色を彩った。
少女の年頃を演歌に昇華させた彼らの試みは違和感なく彼女らしさを表現した事だろう――――。
「ふぅ‥‥最初は緊張します。次は菜種さんかぁ、どんな歌を唄うのかな?」
ステージを振り返ると、千種の司会に応える姿を捉えた。魅惑的な肢体を包むチャイナドレスは正に変化球。中華テイストの曲調がゆったりとしたテンポで流れる中、大事そうに豊かな胸元に両手でリンゴを抱え込み、秋の味覚『りんご』を高らかと唄い出す。紡がれる歌詞は『今はもう去ってしまった人を想いしのぶもの』だ。
――その人とのひとときは、りんごのごとき甘酸っぱい時間だった。
けれどそれは、人寂しくなる秋という季節のみに出会えた味覚だったのかもしれない。
でも私はまたその人に再び巡り会えることを信じている‥‥そう、季節が再び巡り来るように――――。
(「えっ?」)
サビに入った瞬間、紗亜弥は瞳を見開いた。
菜種はセットの海の方を遠く見つめて歌ったのだ。そして、1番から2番への間奏の時には、両手で抱えたリンゴを唇の傍へ運び、赤い果実に接吻する。曲の終わりではカメラを見つめて『ウォアイニー(私はあなたを愛しています)』と囁くように呟き、両手で大事そうにリンゴを持ったまま、かぷりと1口齧って見せた。流石に演技に乏しい為、瞳は潤まなかったものの、安定しない歌唱力は切なさを醸し出す効果があり、作詞作曲作業を獣化で行った成果はあっただろう。
以前、振り付けに動きを表現したものの、歌に仕草を多用した演出は衝撃的な光景だ――――。
照明がやや絞られて薄暗くセットが浮かび上がると共に、黄土色の落ち着いたやや地味な着物に細身を包んだ紗無がステージに浮かび上がった。まるで樹海に迷い込んだ薄幸の女の様相だ。早速、千種がマイクを向ける。
「テーマは『きのこ』との事ですが、種類は何なのですか?」
「どちらかというとスーパーで普通に売られているようなものではなく『天然きのこ狩り』にでも行かなければお目にかからないようなマイナーなものをイメージしています。そう、あまり日も当たらない木の根元に、落ち葉に埋もれてひっそりと生えているきのこ‥‥」
薄っすらと弱々しく微笑むと、前奏が流れ出した。秋の味覚という言葉からはちょっと想像し難い旋律の中、寂寥感を漂わせて優麗な歌声を響かせてゆく。
――動物のように動き回ることもない。
植物のように花を咲かせるわけでもない。
ただ、その木の根元にひっそりと育ち、まるで隠れるようにしながら、いつか見つけてもらう日を待っている。
あなたは、私に気づいてくれますか――?
寂寞とした響きの中、閉じていた茶色の瞳を開くと、しっとりと濡れていた。
とりを飾るには微妙な空気が漂うが、確かな歌唱力と演技による演出は、独特の彩りにステージと視聴者を包んだ事だろう。
●番組が終わり
「ではでは皆さん、おつかれっしたー。秋の味覚の歌でお腹もすいたところで、栗饅頭、スイートポテトやら秋の味覚を使ったお菓子用意しました。どうぞですよー。‥‥モンブランも用意した方がよかったですか?」
正人さんの細い目があたしに向けられました。なんであたしの好きなものを?
「いいえ、気にしないで下さい♪ 皆さん、お疲れ様でした☆ いただきまーす♪」
秋の味覚は美味しいものが一杯でステキです。でも、食べすぎかなぁ‥‥。