えん歌だい♪LIVEアジア・オセアニア

種類 ショート
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 6.6万円
参加人数 7人
サポート 0人
期間 12/25〜12/27

●本文

● クリスマスのTV獲得は過酷だ
「何ぃ? クリスマスドラマで埋まっている? 夜以外なら空いてるだと?」
 富田TV『えん歌だい』担当プロデューサーは戸惑いの色を浮かべた。
 とかくイベント事に特番は組み込まれるものだ。演歌担当という小規模プロデューサーでは長いものに巻かれなければならない事もある。
「しかし、クリスマスなら夜だ。えん歌だいは夜に行って来た番組でもある‥‥課題としてクリスマスは不可欠というものだろう」

 ――次回の題材はクリスマスかしら?

「小ホールは借りられるか? えん歌だいはクリスマスライブで開催する!」
 彼の目的は二つ。若い視聴者を獲得する新しい演歌番組の成功と、番組で披露された歌をノースランドレコードでオムニバスCDとして発売する事だ。
 4月下旬から放送された『えん歌だい』。CDリリースするにもTV公開されない幻の12月として売り文句になるかもしれない。

・『えん歌だい♪』出演者募集
 番組が課題とするものでオリジナルの演歌を歌って頂くものです。
 今回は『クリスマス』をテーマにオリジナルの演歌を歌って頂きます。

●クリスマス☆ライブ
「えっ、会場でやるんですかぁ!?」
 事務所を訪れた演歌歌手の紗亜弥は、素っ頓狂な声をあげた。所長は煙草を口に運び苦笑する。
「まあ、弱小って立場は痛いほど俺にも分るというものだがな。やる事は変わりない。おまえは歌えば良い。尤も‥‥」
「作詞作曲を引き受けてくれるアーティストがいなければならない――ですよね。ライブかぁ、デビュー以来ですよ〜」
 不安を感じたのか、少女は豊かな胸元に両手を運び、溜息を吐いた。そんな中、クリスティが微笑む。
「メリットはあるわよ。カレンダーを売る事だって出来るわ☆」
「そんなッ、恥ずかしいですよぉ」
 おいおい。アイドルならこれに握手会やサイン会とかセットになるんだぞ――――。

・『えん歌だい♪』裏方募集
 舞台演出、衣装担当、大道具、司会、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
 紗亜弥をクリスマスで染めて頂ける方、スタッフ一同お待ちしております。

●今回の参加者

 fa0851 高野正人(23歳・♂・アライグマ)
 fa1681 木野菜種(23歳・♀・亀)
 fa2346 アドリアーネ・ロッシ(30歳・♀・狸)
 fa2472 守山千種(19歳・♀・ハムスター)
 fa2657 DESPAIRER(24歳・♀・蝙蝠)
 fa2670 群青・青磁(40歳・♂・狼)
 fa4479 榊 太一郎(25歳・♂・狼)

●リプレイ本文

●らいぶなんですっ
「じんぐるべーる、じんぐるべーる、腕が〜鳴る〜♪ いやぁ、ライブなんてデビューのお手伝いした頃を思い出しますねぇ。いっちょ気合入れてやりますか」
 高野正人(fa0851)さんは楽しそうに腕捲りをして見せました。
「そうですね。でも、やっぱり緊張しちゃいます」
「緊張感があっていいんですよ☆ クリスマスと演歌‥‥面白そうですね♪ 簡単なのはクリスマスソングですが‥‥それは最後で皆さんと一緒に歌うというのが良いかもですねえ。私自身はどんな歌でも好きですから唄いますけどね〜」
 守山千種(fa2472)さんが着物の袖を口元に当て、淑やかに微笑みます。余裕だなぁ。
「クリスマスなのよねえ‥‥今までで一番難しいかもしんないわ、あたしにとって。‥‥あ、作詞作曲はしっかりやるわよ?」
 歌を作ってくれる木野菜種(fa1681)さんが腰に手を当てて、あたしの顔を覗き込みます。あ、不安そうな顔してたかな?
(「紗亜弥と会うのはパリ以来か‥楽しみだな」)
 群青・青磁(fa2670)さんが太い腕を組んでコチラを見ています。でも、覆面を被っているのでどんな表情か分りません。それにしても大きいなぁ‥‥あれ? あ、そっか。あたしは双子の方とお仕事した事を話すと、何か動揺した感じもそっくりでした。
「サーヤ、今回もヨロシクよ〜☆」
 わっ!? 抱きつくように飛び込んで来たのは、アドリアーネ・ロッシ(fa2346)さん。やっぱりアーネさんの胸は柔らかいけど大きくて‥‥。
「番組の一環だけど、こうしてミンナで一緒にライブをやれて、ワタシとても嬉しいワ。全力尽くして頑張りマショウね。そうそう、今回は差し入れにパネットーネを焼いてきたノヨ。ミンナで食べてネ☆ イタリアのクリスマスは帰省して家族が一緒に過ごすモノなのだけれど、今年はこっちに残ってしまったワ。だって、たまには日本のクリスマスも見てみたいモノね♪ あら? サーヤ!?」
 もう少し話が長ければ失神していたかもしれません。あ、カメラマンの榊 太一郎(fa4479)さんもいます。撮影かな?
「俺はセットの製作を手伝う。技術は素人同然だが、高野さんの手伝い程度ならば何とかなるかも知れん。力仕事なら任せて欲しい。セットを組んでいる時に、異常が見えないか確認の為に客席から舞台を見て回ったりしよう。やはり観客の目は気になるからな」
「そりゃ助かりますねぇ。シンプル・イズ・ベストで完成度を高める方向でいきましょう」
「これで高野さんも大変さは少なくなりますね☆ あれ? 今回は7人ですか?」
 その時でした。ドアを開けて遅れて来たのは、DESPAIRER(fa2657)さん。あたしより遅刻して来るなんて、どうしたのかな?
「‥‥少し遅れてしまいました‥‥え? 何も、ありません‥‥☆」
 気のせいかな? 何か普段より弾んでいるっていうのか、そんな微笑みでした。
 そして打ち合わせやレッスンが続き、いよいよ本番を迎えた刻です。
「しかし、クリスマスですかぁ‥‥今じゃボロアパートに1人で家族と祝うでもなし、トンと縁がないですな。ま、せっかくですし皆さんにクリスマスケーキの差し入れと‥えと、紗亜弥さん。あの、その‥ネックレスとか、好きです?」
 高野さんが左手をツナギのポケットに入れたまま、ポリポリと右手で頭を掻いて訊ねました。
「ネックレスですか? 校則が厳しいからアクセサリーはあんまり付けませんけど‥‥あ、呼ばれたので行って来ますね」
 丁度アーネさんも衣装の事で高野さんを呼んでいました。うーん、何だったんだろ? そっか‥‥一人暮らしなんだ‥‥。

●えん歌だい♪LIVE開演
 小ホールに正人が作成したセットはオーソドックスなクリスマスを装ったものだ。両脇にツリーを配置し、リースで飾ってある。彼の希望により後ろの客席にも歌手が見えるように、アップに映すモニターが施された。
 細め目の青年がカンペを用意して待機する中、ステージに姿を見せたのは、ガッシリとした体格にトナカイの着ぐるみでインパクトを与え、観客から笑いを取る太一郎だ。生真面目な青年は口下手ながらも元気良く喋り、観客を飽きさせないよう司会を努めてゆく。
 そして流れる前奏と共に、頭にトナカイの付け角を施し、顔に狼の覆面――完全獣化――を被った青磁が、サンタ衣装にプレゼントの入った袋と靴下を持って姿を見せる。曲名は『狼サンタがやってきた』。

 ――見た目は恐いが中身は優しい狼サンタ。
 普段のクリスマスの夜は狼界の狼の子供たちにプレゼントを配っていた狼サンタだが、人間界のサンタ不足の煽りを受け、人間界で子供たちにもプレゼントを配るサービス残業をする羽目になる。
 しかし、慣れない人間の家への侵入に四苦八苦。何とか子供部屋に入り込んでプレゼントを置くものの、勘の良い子供に顔を見られ大騒ぎ。パンダやクマのサンタの場合は、その愛くるしい外見でなんとか誤魔化せたが狼では、それも難しい。
 危うい所を応援に駆けつけたトナカイのフォローで分って貰える――――。

 そんな慣れない人間界での狼サンタのドタバタ劇を、笑えて、それでいてなごやかな気分になる演歌として歌い上げた。安定した歌声や曲調に滑稽な仕草を交えると、祖父母に連れられた子供達の笑い声が沸き上がる。それがとても嬉しかった。
(「子供たちの笑顔が楽しみで俺は、この仕事をやってるんだろうな。いつ見ても良いもんだ」)
 歓声と拍手が響き渡り、狼覆面演歌歌手は頭を下げる。『来年もまたここで歌ってみてぇな』と感じながら。
 続いて名を呼ばれたのは、雪のような白基調着物姿の夜倉紗無だ。曲名『温かい雪』のオーソドックスな演歌のメロディーが奏でられる中、普段通りの澱んだ暗く冷たいイメージを醸し出す歌声を響かせる。

 ――街角を彩る灯りが、色とりどりの冷たい光で私の孤独を刺すように照らす。
 祝福に溢れた街は、その恩恵を受けられぬ私を拒んでいるかのようで。
 何も見たくないと目を伏せ、足早に歩く。
 そんな私の上に雪が降る。冷たい雪が――――。

 しかし、間奏の後に紡ぎ出される歌声と雰囲気は一変した。最近ようやく歌えるようになった優しい歌を、想いを込めて、感情豊かに紡いでゆく。TVに映らない特別な日だからこそ‥‥。

 ――街角を彩る灯りは、全てを包み込むように優しく温かく照らし。
 祝福に溢れた街は、そこを訪れる誰もを等しく迎えていた。
 冷たく閉ざされていたのは、世界ではなく私の心。
 それをそっと溶かしてくれたあなたと歩く今年は、雪さえも優しく温かく感じる――――。

 慣れない事をした所為か、拍手の鳴り響くステージを後にした紗無は照れ気味だ。紗亜弥が声を掛ける。
「二番から唄い方が変わりましたよね? 何かあったんですか?」
「え? そんな‥‥何もありません‥‥♪」
 何故か白い顔を真っ赤に染めて紗無は慌てた。当然、少女はキョトンとして小首を傾げたものだ。

「さて、次はあたしの番ですね♪」
 太一郎の声に、千種がステージに歩み出る。衣装は赤と白の所謂サンタカラーに彩られた着物だ。これは正人が歌手の為にコーディネートできるように用意したものである。
 前奏が流れた後、大和撫子系美女がほがらかに微笑みを湛えて安定した歌声を紡ぎ出す。

 ――街は銀色 電飾煌めき。
 聖夜のチャペル 鐘の音響く。 
 空より天使が みんなを包み。
 白い世界が 街を覆う。
 今日だけは 皆の心を。
 清らかなものに‥‥。
 果てしない 星空の下。
 皆が幸せであるように‥‥。

 千種が拍手に丁寧なお辞儀で応えてステージから離れると、アドリアーネの名前が告げられ、魅惑的な肢体を黒のドレスに包んだ金髪娘が姿を見せる。さながらシスターが賛美歌でも歌いそうな趣きだ。曲名『聖夜の祈り歌』の前奏が流れると、イタリアン演歌歌手の響かせた流暢な歌声に感嘆の息が洩れる。演歌の旋律に賛美歌風の歌詞を載せたものだ。
 ――大好きな演歌で主を讃えるコトが出来るのは、とてもステキなコトね♪
 歌い上げたアドリアーネに一際大きな拍手が溢れた。異国の娘が演歌を歌う姿に励ましが込められたのかもしれない。しかし、それは次を控えた紗亜弥の緊張を更に高めた。
「うわっ、すごい拍手。あたし、大丈夫かなぁ?」
「ささ、頑張っていきましょーか♪ 観客の視線を意識して歌うのも歌手として大切なことなのよ」
 ぽむッと何時ものように肩を軽く叩いて気合を注入する菜種。今回は彼女もギタリストとしてライブに参加する。紗亜弥の脳裏にイワトビペンギンのぬいぐるみを見せて激励した太一郎が過ぎった。
 ――みんながキミの為に準備をした。後は紗亜弥君がこのペンギンのように元気良く、普段通りに振舞えば大丈夫だ。
「そうですね。頑張ります!」
 サンタカラーの着物に身を包む紗亜弥がステージに進むと、袖と裾あたりに施された毛玉の飾りが揺れた。客席はどよめきだす。傍に佇むのは三味線を抱えた伴奏者ではなく、ギタリストなのだから当然だろう。少女が頭を下げる中、弾かれたのはゆったりとしたテンポの曲調で、メジャーコードを使った明るい音色だ。楽器は違えど旋律は演歌。紗亜弥が声を響かせる。詞の中に『クリスマス』『サンタクロース』『聖夜』という言葉を敢えて外した菜種の挑戦でもあった。

 ――大晦日近付く師走のある日、いつもと変わらぬ家族の日常。
 けれどその日だけは違っていて、家族が皆ケーキを買ってきてびっくり、そして皆で笑い合う。
 それが毎年の出来事。きっと家族の想いは皆同じ。
 来年も、再来年も、その先も――笑顔でこんな日を繰り返せますように。

 そんなクリスマスの暖かい家族の絆を歌ったものだ。親しみ深い歌詞を載せた少女の歌声が終わると、客席から拍手が響き渡り、紗亜弥と菜種は安堵の微笑みを浮かべながら頭を下げた。そんな中、太一郎が拍手の仕草を交えながらステージに姿を見せる。
「皆様、楽しんで頂けましたでしょうか? クリスマスと演歌の融合でお送りした『演歌だい』は、これからも演歌をお届けします。次はお茶の間のテレビでお会いしましょう。メリークリスマス!」
 拍手が鳴り響く中、演歌だい♪ライブは幕を閉じた。観客が席を立つと、青磁も動き出す。
「さてと、俺は紗亜弥のカレンダー売りの手伝いにロビーへ行って来るか。子供達にはお菓子のプレゼントだ」
「あ、あたしも手伝います!」
 再び出演者達が動き出す。足を運んでくれたお客様の思い出に残るクリスマスになるように――――。