えん歌だい♪LIVEアジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
2人
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期間 |
02/14〜02/18
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●本文
● イベントのTV獲得は過酷だ
「何ぃ? 14日の番組が埋まっている? 夜以外なら空いてるだと?」
富田TV『えん歌だい』担当プロデューサーは戸惑いの色を浮かべた――が、直ぐに苦笑に変わる。
「私も馬鹿ではないよ。バレンタインデーなら夜に拘る必要は無いからね。下駄箱にこっそりとか、登校から待ち伏せとか、社内なら先ず朝から渡すのが基本だ!」
‥‥待ち伏せは兎も角、社内で朝は義理だろう。または義理は朝、本命は帰宅時に‥‥或いは帰宅後というケースが多いのではないだろうか? まあ言うまい。彼は乗り気なのだから。
4月下旬から放送された『えん歌だい』。遂にあと2ヶ月で1年を迎えようとしていた。
・『えん歌だい♪』出演者募集
番組が課題とするものでオリジナルの演歌を歌って頂くものです。
今回のテーマは『バレンタインデー』。
愛しい人に渡せない切なさやドキドキ感。想い人に貰えない哀しさや不安と期待を演歌で唄って頂きます。
●バレンタインデー☆ライブ
「演歌でバレンタインデーですかぁ!?」
事務所を訪れた演歌歌手の紗亜弥は、相変わらず素っ頓狂な声をあげた。所長は煙草を口に苦笑する。
「まあ、この企画じゃ珍しくないだろう。それとも都合が悪いのか?」
「い、いいえっ。でもチョコとか作った事がなくて‥‥」
やや顎を引き、上目遣いで困惑の色を所長へ向けた。刹那、男が声をあげて笑う。
「まあ企画上はチョコも渡さなければならんが、按ずるな。ちゃんと買っておく」
「かっ、買っておく? お店で買ったチョコを配るんですか?」
「何を驚いているんだ。どこでもやっている事だろ‥‥いて★」
男の話す間に靴音が響き、言葉途中でファイルが脳天を直撃した。視界に映るは所員のクリスティだ。
「どこでもやっているからウチでもやる理由にはならないんじゃないの? 紗亜弥?」
「は、はい!」
「手作りしたいなら募集にお菓子作りの得意な人も加えておくわよ? 但し、やる事が多くなる分の苦労は覚悟しなさい。因みに料理やお菓子作りの経験は?」
再び顎を引き、上目遣いで美女を見つめる紗亜弥が、豊かな胸元で人差し指を合わせる。
「‥‥なかなかレシピくれるNPCがいなくて‥‥」
――何の話だ‥‥紗亜弥。
・『えん歌だい♪』裏方募集
舞台演出、衣装担当、大道具、司会、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
紗亜弥をバレンタインデーで染めて頂ける方、スタッフ一同お待ちしております。
尚、出演者でも裏方でもサポートでも構いませんが、紗亜弥のチョコレート作りの協力者も募集します。
●リプレイ本文
●集結? チョコつくり隊☆
「おはようござ‥‥わぁ〜」
控え室のドアを開けたあたしは思わず佇んでしまいました。えっと、衣装やセットを作ってくれる高野正人(fa0851)さん、あたしの作詞と作曲をして下さる木野菜種(fa1681)さん、メイクでお世話になっている中松百合子(fa2361)さん、歌手の守山千種(fa2472)さん、喜田川光(fa2481)さん、DESPAIRER(fa2657)さ‥‥あ、演歌では夜倉紗無さんです。アーネさんに‥‥。
「舞台セットを任せてもらおうと思って参加したんだ、よろしく。彼女は飛鳥」
「紗亜弥さんのお手伝いで、一緒にチョコ作りを頑張ります。ダミアンさんのほうが上手だから‥‥ちょっと恥ずかしいけど。だって立体チョコも作れちゃうんだもの」
「ふ、ふつつかものですがよろしくおねがいしますっ」
ダミアン・カルマ(fa2544)さんの彼女さんみたいです。立体チョコってどんなのかな?
「なんか賑やかになりそうで‥‥ひゃっ!?」
ちょっと驚いたけどあたしもバカじゃありません‥‥ありませんよっ!
「もぉ〜、のもじさんですね? って、ちょっ、や、どこさわって」
弄るようにペタペタと触ってきたんです。くすぐったくて‥‥んっ、声が上擦っちゃったけど‥‥正人さん、口あいてますっ。‥‥やっと阿野次 のもじ(fa3092)が愛らしい顔を覗かせました。違う人だったらどうしようかと‥‥ひゃんッ、ま、まだ触りますかぁ‥‥。
「!? げっ成長してる‥‥ヴぁるキリーの時から気になってたけど、やっぱり! 一人だけ! この裏切り者! 天ちゅう〜☆」
声と共に跳ねるとチョップを叩き込んだんです。痛いですよぉ。そんな中、百合子さんが口を開きます。
「さ、1日だけの方もいるから、サクサク始めましょ。あ、クラシックチョコレートケーキ作ってきたの、皆で食べてね。紗亜弥ちゃんにはレシピ本よ。ガナッシュをアルミカップに流して固めた生チョコか型に流したテンパリングチョコあたりが簡単にたくさん作れるけど、何にする?」
「今回はサーヤの料理指南で参加ネ。定番のトリュフからザッハトルテ、アレンジの方法まで徹底指導ヨ♪」
「あたしもチョコ持って来たわよ。湯せんで溶かした板チョコで、クッキーをコーティング。そして冷やす。初心者でも問題ない方法だから、覚えときなさい紗亜弥」
アーネさんと飛鳥さんはお手伝いで来てくれたみたいです。菜種さんに何時ものように肩を叩かれ励まされました。こうしてチョコ作りのレッスンが始まったんです。
あたしがチョコというモンスターとバトルを繰り広げる中、紗無さんは様子を窺いながら驚いたり感心したりしつつ、興味深々っていうか、瞳を爛々とさせてメモってました。何とか完成してホッとするのも束の間、ダミアンさんがパッケージやラッピングの仕方などを教えてくれたんです。頼り甲斐あるけど、何となく飛鳥さんの気持ちも分かるような。
こうして、アーネさんの言葉が気になりつつ、お2人とはお別れしました。さあ、歌ですっ。
●星空煌くSt.Valentine’s Day
――会場の照明が落ちると、ステージセット上部が淡いライトに照らされた。
浮かび上がるは、雪降る夜をイメージして描かれたロマンチックな伝説を持つ冬の星座だ。銀色のスパンコールを星座の間に散りばめ、無数の星屑が煌くような光景に客席から感嘆の声が沸く。
続いてステージが照明を浴びる。綿やウィンドゥディスプレイ用のパウダースプレーで装飾されており、雪が積もっているように演出。設置された小さな雪だるまが愛らしい。
壁の部分には、パウダースプレイで『St.Valentine’s Day』と記されていた。思わずSan Valentinとスペイン語で書いてしまい慌てて直したのは秘密だ。
ダミアンの美術センスが十分にロマンチックな光景を描く中、千種の穏やかな声が響く。
『小雪舞う校舎の隅 あなたの陰を追いかけて 追いついた先にはあなたの姿 もうすぐ卒業 別れは間近 今行かねば 思いを伝えねば 旅立つ彼の胸の中へ‥‥』
スポットライトが照らされ、冬らしく白に銀の刺繍の施された着物に身を包む少女が映る。照明を浴びた刺繍がキラキラと輝く中、司会を務める千種に拍手が響いた。絶やさぬ笑顔のまま、大和撫子美女が訊ねる。
「今宵のテーマはバレンタイン。皆様の思い出はどんなものですか? 私のバレンタインの思い出ですかぁ? 高校の時に意中の人にチョコをあげたことはあるのですが‥‥友達の一人として受け取って貰っちゃったって感じでしたね〜」
苦笑を浮かべながらトークで盛り上げると、名前を呼ばれた光がステージに姿を見せた。拍手が響く中、唐笠を手に持つ渋い着流しの男にも思い出を伺う。
「バレンタインの思い出ですか。雪合戦の後でもらったチョコレートを真意にきづかず、ただ美味しく食べてしまったことがあります。あの子は今頃どうしているでしょうね。幸せになっていることを祈ります」
前奏が流れ出し、光はコブシを効かせた歌声で哀愁を込めて唄い出す。男の身勝手で別れることに対し、せめてもの慰めとしてチョコレートを受け取るものの、より惨めになる女と一生そのことを忘れられなくなる男を想定した歌だ。
――受け取れぬと 男は手を振る
女の意地に かけても食べてと
男は黙って 受け取り食べる
女は泣き出す 魂果てまで
バレン タイン 忘れられぬ味
チョコレート チョコレート チョコレート チョコレート――――。
バレンタインとチョコレートを連呼する演歌は、斬新ながらも違和感のない歌だった。
拍手の沸き上がる中、入れ替わりに姿を見せるは、甘さを抑えたベロアのボレロジャケットにフレアスカートワンピースに身を包む紗亜弥だ。差し色にマフラーを巻いており、目元はピンクのアイカラーで優しい彩りがなされ、唇が華やか過ぎないよう気を配ったローズ系ピンクのグロスで艶やかに映える。黒髪はヘアアイロンで緩く巻かれ、左耳下に一つに纏めて肩に流れていた。結った所に淡いピンクのヘアコサージュが煌く。徹底した百合子コーディネートは、少女を少し大人な落ち着いた感じに彩っていた。早速マイクを向ける千種の問いに応える。
「えっと、まだあげた事はないんです。渡すなら手作りでって決めているんですけど、なかなか切っ掛けが掴めないっていうか、あ、だから今回は会場に来て頂いた方に感謝を込めて、手作りチョコを作りましたー」
手をあげる少女に声援と拍手が飛ぶ中、うみねこの鳴き声と波の音が流れ、三味線の前奏が続く。
今現在は遠い空の下・遥かなる海の上に居る想い人。いつの日かその人に手渡せることを願い、今年もまた食べてもらえぬチョコを作っています。あなたのために作った甘いチョコなのに、私が食べると苦く感じるのはどうしてでしょう‥‥。
そんな切ない物語を直球の演歌で紗亜弥は声を響かせる。
――いい? 『どうしてぇぇぇぇ‥‥』と十分タメてからトン! のリズムで『でしょう〜』と続けるのよ。このタメている時に、観客の視線が集まってくるんだからね。頑張んなさい。紗亜弥なら出来ると思って言ってるんだからね、あたしも――――。
菜種の分かり易い指導もあり、サビの決め所も失敗する事なく歌い上げ、鳴り響く拍手に心の中で安堵を浮かべた。
ステージを去る中、入れ替わりに登場する筈ののもじは佇んだままだ。
「あれ? のもじさん?」
刹那、会場の一部から手拍子が鳴り出すと、円らな青い瞳が煌く。
『LOVeLY LOVeLY ANOtugi ICHAN! ホントの年は知らないよ イエイ』
「ばか者ども〜今日はえん歌なんじゃ〜!! ってことで、これを食らうが福はうちー☆」
一気にステージに飛び出す少女。明るい彩りの洋服は紗亜弥と対照的にコーディネートされており、チョコ包み風にリボンでトッピングがなされていた。節分かと疑いたくなる勢いで、チョコをバラ撒くのもじ。キャー☆ と黄色い歓声が響く。‥‥黄色い?
予めファンと打ち合わせ済みなのか、アクシデントもなく済んだのが不思議だ。流石に苦笑しながら千種がマイクを向けた。
「あー思い出。入院してたときに看護婦さん達に協力してもらって手作りチョコ病院で作ったことかな。相手? ハハハお父さん。今はどうかな。応援してくれる皆が恋人☆」
ピッと客席を指差しウィンク☆ 黄色い歓声が湧く中、打ち合わせ通りに司会が語りを入れる。
『鳴かぬなら飛んではばたけほととぎす! 恋に恋せよ恋する乙女、さあそれでは歌って頂きましょう。歌う曲は「恋の積尸気冥界波」です☆』
「黄泉比良坂におちるがいいっ!」
――――相変わらずハイテンションなのもじ節で、独特の演歌は歌い上げられたという。
続いて、喪服を連想させそうな漆黒の着物に身を包んだ紗無が姿を見せる。正人の心配りを顕わす如く、スポットライトを浴びても映えるよう、袖等の柄に銀刺繍が施されていた。
『それでは今宵のとりを飾り歌って頂きましょう。歌う曲は「せっかち」です』
悲哀感漂う演歌の旋律と共に、しっとりと翳る白い顔をあげ、歌声を響かせてゆく。
1番の歌詞を歌い上げ、2番に入ると、演出で粉雪が舞い降る。この演出もダミアンの提案によるもので、人工降雪機を使用したものだ。これならすぐに乾燥して消えるので、衣装や舞台に紙片が残ったり濡れてしまう事はない。
――毎年渡そうと思っていた、でも渡せなかった贈り物。
そっと墓前に置くと、ちらほらと雪が降り出す。
雲の上のあの人の、お返しのつもりなのだろうか?
お返しをする日は一月も先なのに、本当にせっかちな人――――。
今回の出場者で最も高い歌唱力で締め括り、公開ステージは拍手と共に幕を閉じた――――。
●感謝を込めて
観客の帰りに女性陣でチョコを渡し、ようやく一息つけたのは日も周ろうした時刻だ。ステージに戻って来た少女の背中に正人が訊ねる。
「しかし、紗亜弥さんもバレンタインまで仕事で大変ですよねぇ‥‥渡したい相手いるならチョコは渡せましたか? まだなら後片付けとかは引き受けるんで、急いでいった方がいいかもですよ?」
――所でサーヤは恋人いるノ?
暫しの沈黙。その背中は「もう間に合いませんから」と告げているように見えた。
「えーと‥‥紗亜弥さん?」
「あのっ」
青年の声を遮るような切迫した響き。泣いているのだろうか? 刹那、少女はクルリと踵を返す。
「ふ、ふつつかものですがいつもおせわになってます!」
ぐぐっと腰を折って差し出す手に映るはラッピングされた箱だ。
「僕に? ‥‥あー、そうですか。ありがとうございます」
1個や2個作るのが増えても労力に変わりない。慣れない青年は照れながら手を差し伸べた。
「高野さんのは特別ですよ」
「はい? え? 今なんて? 特別?」
――特にイナイなら、この時期チョコ買えないって嘆いてたドコカの甘党サンにデモあげたら?
紗亜弥は真っ赤に染まった顔をあげて微笑む。誤解か否か定かでないが、経験上渡し慣れていない故かもしれない。
「はい! 甘いものが好きですよね☆ だからうんと甘くしたんですっ!」
言うや否や、少女はチョコを渡すと逃げるように駆け出した。
手作りSPチョコの味は青年しか分からないだろう――――。