ワルキューレリーグR1アジア・オセアニア

種類 シリーズEX
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 9.9万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 02/14〜02/18

●本文

●TVCM
 ――それは、ヴァルキリークリエイトサイドで提案された企画だった。
 最強の戦乙女を決定するトーナメント戦が予想外の結末を迎えた大晦日の夜。
 様々な想いを選手や視聴者は抱いた事だろう。だが珍しい事ではない。
 立ち技という限られたルールで闘う以上、予期せぬ結末は迎えるものだ。
 そして、あの闘いから1ヶ月と約14日。再び戦乙女達に召集が下る。

 ――その名はワルキューレリーグ。
 これは4人リーグを2ブロックに分かれて行う『総当り』戦である。
 そこに派生するものとは何か? それは戦略である。
 先に弱い相手を倒すか、強い相手に挑むか。
 テクニックを磨く鍛錬を積めば、逆転の可能性もある訳だ。
 システムはポイント制。つまり試合で勝てば1ポイントとなる。
 リーグ戦を繰り広げた後、最終的にポイントが多い選手が最強となるのだ。
 開幕はバレンタインデー。
 様々な想いを胸に、ワルキューレが降臨する――――。

●試合形式
 グローブを嵌めての2分2ラウンド制。
 2ノックダウンシステム。
 投げ、関節技は無し。膝蹴りOK。手足以外での攻撃、及び背後からの攻撃は反則。
 勝負はKO・TKO・判定で決定。
 エンターティンメント性を高くしており、衣装は組み技が無い為自由(但し金属物が付いたものは禁止)。

●募集区分
・ワルキューレ(格闘技未経験者参加OK)
 試合を行う選手です(これまで出場していなくても参加OK)。
【コスチューム】
 自由(但し、クリエイトサポートの方と連携していない場合、描写は最小限とさせて頂きます)。
【対戦相手】明記して下さい。
【格闘スタイル】空手とかテコンドーとか。
【自己PR】インタビューや対戦前のスクリーン等で表現される予定です。
【試合の組み立て】どのように試合を組み立てるのか明記。
 少し書式を変えましたので間違えないようお願いします。
1:戦術傾向【前半】【中盤】【後半】に(攻撃重視・ガード重視・避け重視)を割り振ります。

2:1ラウンド12回の行動をカテゴリーから【前半】【中盤】【後半】に4回ずつ割り振ります。
◆カテゴリー<上段ジャブ><上段ストレート><上段フック><上段アッパー><中段(ボディ)ジャブ><中段(ボディ)ストレート><中段(ボディ)フック><中段(ボディ)アッパー><前蹴り><横蹴り><後ろ蹴り><下段廻し蹴り><中段廻し蹴り><上段廻し蹴り><後ろ廻し蹴り><膝蹴り><踵落とし><ガード><避け><その他>
*<その他>とは格闘スタイルによる専門的な攻撃手段がカテゴリーに無い場合に使います。但し、コンビネーション、グローブで使えない技、カウンターは該当しません。
 因みに互いにパンチ系が交わった場合、身長や技量から判断し、自動的にカウンターとなります。
 また、12回分を攻撃系で散らせば、コンビネーションになります。

3:結果的に以下のような戦術書式となる筈です。
1R
【前半】(攻撃重視)<下段廻し蹴り><上段ジャブ><上段ストレート><中段廻し蹴り>
*解説:兎に角攻撃を優先。相手の攻撃が放たれも攻撃します。

【中盤】(ガード重視)<下段廻し蹴り><ガード><下段廻し蹴り><下段廻し蹴り>
*解説:<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たのでガードを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<ガード>を1回選択しなければなりません。

【後半】(避け重視)<避け><下段廻し蹴り><上段フック><上段アッパー>
*解説:<避け>の後、<下段廻し蹴り>を放つ予定だったが、攻撃が来たので避けを優先します。但し、技量が相手と同等か秀でていた場合のみ有効です。必ずカテゴリーから<避け>を1回選択しなければなりません。

【得意技(コンビネーション等)】
 得意技は有利に展開した選手がフィニッシュで発動できます。
 サポート参加があれば、特訓したとして、対戦者と同じレベルだった場合、有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。

・実況
 状況を視聴者に伝える方です。選手のキャッチコピー等明記。
 殆ど実況で状況が伝えられます。自分の個性を出せるよう台詞を決めておくのも一興です(実況がいなければ地の文章で表現されます)。

・控え室リポーター
 選手の控え室をリポートする人です。普通は遠くから様子を窺うのみですが、勇気があれば突撃して見ましょう(笑)。どんな事を訊ねるのか事前に打ち合わせましょう。

・解説者
 格闘技を生業としている方で、試合の状況に解説を入れる方です。
 ワルキューレリーグは素人も参加可能な格闘技ですので、無名でなければ担当できます。

・セコンド
 選手につくセコンドです。出番は少ないですが、セコンドがいると対戦中にアドバイスを受けて有利に展開できるかもしれません。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。
 因みにサポートで特訓するより、セコンドの方が有利です。
 尚、紗亜弥やリザーバーを入れても特殊効果(?)は発動しません。
 リザーバーのセコンドも試合を行っていなければ可能です。

・紗亜弥トレーナー(サポート参加)
 エキシビジョンマッチで紗亜弥が指名された場合、トレーナーとして1日を使い特訓する事が可能です。
 尚、彼女のレベルはサポート参加者の数で変化します。体力/格闘/軽業 から1つ選択して下さい。

・ラウンドガール
 選手のつかの間の休息時に、リングで彩りを与えます。

・衣装&入場曲サポート
 今回は番組ではない為、テスト的にサポート制を取らせて頂きます。
 これは選手1人に対して衣装と入場曲のサポートが入る事で、試合で反映される仕組みです。
 基本的にこれまでのインパクト側描写に、名前が加わる感じとなります。余裕(この場合、何と例えるべきか)がある場合、衣装を渡したり、録音媒体を選手に渡したりするシーンが描かれるかもしれません。

・舞台演出サポート
 紗亜弥にサポートで入る事で制作サイドに提案という形になります。事前に描いて来た物を渡す。提案書を渡す等となります。

●リザーバーNPC:枠が合わない、エキシビジョン希望などに指名できます。
*紗亜弥(演歌歌手)
 闘う演歌歌手。事務所に騙され嫌々出場したり合宿を経て、成長を見せたか!? 最近デビュー1周年を迎えた。今年最後の仕事納めとなるのか?
*フォビトン・フルート(女優)
 アルマイトの旗も一段落。格闘家へ転進か? セミロングヘアの眼鏡美少女。
*法衣 麻奈華(学生)
 やる気はあるがチャンスに恵まれない未知数の格闘大好き娘。誕生日がクリスマスイブでなかなか複雑な人生を送って来たらしい。因みに去年も複雑だったようだ。

●今回の参加者

 fa0160 アジ・テネブラ(17歳・♀・竜)
 fa1449 尾鷲由香(23歳・♀・鷹)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa3251 ティタネス(20歳・♀・熊)
 fa3392 各務 神無(18歳・♀・狼)
 fa3996 サマーラ・タマナ(24歳・♀・犬)
 fa4300 因幡 眠兎(18歳・♀・兎)

●リプレイ本文

●只今より、ワルキューレリーグ第一試合を開始します!
 場内の照明が消えると共に、アナウンスが響き渡った。
 歓声に沸く花道にスポットライトが照らされ、白のセパレートタイプの衣装に逞しい褐色の肢体を包むティタネス(fa3251)が浮かび上がる。バレンタインに合わせ、左胸と背中に施されたハートマークが何気にキュートだ。悠然と歩いてゆく中、リング上部モニターに、事前に記録した意気込みを告げる姿が映る。
「今回のあたしは前とは一味違うよ。えーと‥‥象のように舞い、ワニのように‥‥あれ? 違ったっけ? ま、とにかくそんな感じで!」
 ――どんな感じだ。
 続いて花道でリザーバーの法衣 麻奈華がスポットライトを浴び、歩いてゆく。今回はハロウィン時のような奇抜さのない所謂一般的なリングコスチュームだ。ティタネスは紗亜弥か麻奈華どちらかを希望していた為、今回は演歌の仕事も入っている事で、彼女が選手として選ばれた訳である。途中で躓く姿に不安が過ぎるが、モニター内の少女は熱い。
「せ、折角のチャンス! 無駄にはしません! 精一杯頑張ります! (ゴツっ★)痛ッ‥‥」
 拳を掲げようとした刹那、カメラに手を当ててしまったようだ。そのままフェイドアウトが切ない。
 両名がリング中央でレフェリーの確認事項を聞く中、場内がどよめいた。
 Round1と記されたプラカードを掲げ、魅惑的な肢体を披露しながらリング内を歩くのは、白基調の丈の短いゴスロリちっくなワンピースに身を包むアジ・テネブラ(fa0160)だ。はじめてラウンドガールを務める少女は恥ずかしそうに褐色の肌を紅潮させ、緊張気味に窺える。普段の三つ編みと異なり、長い銀髪が腰と、豊かな胸元で揺れる様は優麗で艶かしい。野郎共の声援や歓声も飛ぶというものだ。
 そんなサプライズに会場が沸く中、試合開始のアナウンスが響く。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 カポエイラ独特のリズムを刻むジンガのステップでティタネスが間合いを計る中、ゴングがなっても麻奈華は動けなかった。
 ――なに? 壁? まるで韓国の有名格闘家じゃないですか? それに黒い筋肉は合金ですかぁ?
 スケール、筋肉質なボディ、褐色の肌――全てが威圧の材料として十分だ。しかし、リザーバーの少女とて滅多に巡って来ないチャンス。舞い込んで来た対戦の機会である。
 ――怯むな麻奈華! 象のように舞うのですから、懐に飛び込めば!!
 麻奈華が間合いを詰めに掛かる、刹那、一気に間合いを詰めた褐色の脚が押し出すような前蹴りを叩き込んだ。カポエイラの『ベンサォン』である。放たれた足は、きっと丸太が高速で腹部に飛び込んで来たと感じた事だろう。少女はそのまま吹っ飛ばされ、ロープに背を預けた。客席がざわめく。プロから見ればとてもカポエイラの技とは言えない稚拙なものだが、単純な前蹴りとしても効果は絶大だ。
 ――けふッ! な、何が象ですか? それとも蹴りはワニですかっ!?
 再び麻奈華が飛び込む。しかし、ティタネスの動きは体格から反比例するほど速かった。殆ど少女にとってアウトレンジの中、褐色のベンサォンが咆哮を轟かす。またしても派手に吹っ飛び、リングに倒れた。
<ダウン!>
 ――あちゃ〜、これじゃ紗亜弥の二の舞かな? 間合いを計る蹴りのつもりなんだけど‥‥。
 カウントが刻まれる中、脚を戦慄かせながら立ち上がる麻奈華がファイティングポーズを見せる。表情は既に苦悶の色を浮かべていた。対するティタネスは困惑気味だ。力加減が下手なのだから、毎度ながらリザーバー相手に戸惑うのは仕方ないのかもしれない。しかし、そんな表情が闘志を滾らす。
 ――あー、今、弱すぎるって顔しましたね! 演歌歌手とは違うのです!
 考えなしに飛び込む麻奈華。誰か彼女に戦術というものを、紗亜弥を介してでも教えてやって欲しい。刹那、音速の巨体が軽快に腰を捻り、踵を返す。次の瞬間、褐色の後ろ廻し蹴り『アルマーダ』が金属バットの如き衝撃を与えた(‥‥尤も、少女が金属バットで殴られた経験があるかは定かでないが)。そのまま派手に横へ吹っ飛ぶ。キュッとシューズを軋ませ、踏ん張って見せると蹴りの間合いに踏み込んだ。
 格闘センスは麻奈華が秀でてはいるが、逃げる相手を追い詰める場合と異なり、攻勢に出る素早い相手のリーチを先に詰めるのは困難である。これは昨今の巨体にスピードとパワーを活かした格闘選手が、素人同様の攻勢に出ても、相手は凌ぐのが困難という場面で実証されていた。ウエイト差の制限が無い格闘技において、永遠のジレンマなのかもしれない。
 放たれた上段廻し蹴り『マルテーロ』が少女の脳を激しく揺らす。
 ――ごめんな‥‥。
 円らな茶の瞳が意識の飛んだ麻奈華を捉える。マットを蹴って宙で腰で捻り、後ろ廻し蹴りから次いで上段廻し蹴り『アルマーダ・コン・マルテーロ』を炸裂させた。否、正確に言うなら高等技は空を切っていたが、既にマルテーロの一撃で少女は崩れようとしていたのだ。
<ダウン! 2ノックダウンにより、ティタネス選手のポイント獲得となります!>

●第二試合:各務 神無(fa3392)vsサマーラ・タマナ(fa3996)
 アナウンスの後、黒のスーツに白のトレンチコートを羽織った神無がスポットライトを浴びた。
 声援の響き渡る中、花道を歩く怜悧な少女の背後を付いてゆくのは、演歌歌手で度々リザーバーとして試合に参加している紗亜弥だ。今回はセコンドを務めるらしい。モニターの中で、長い銀髪の少女が円らな赤い瞳を研ぎ澄ます。
「ん‥‥今回は楽しむ事よりも勝つ為に挑ませて貰うよ。そう、勝つ為に」
 スポットライトに照らされたサマーラが精悍な風貌でモニターを睨んでいた。リーグ戦となって初参加の褐色娘は、動き易いシンプルな衣装に隆起する筋肉を包んでいる。額に巻かれたモンコンが彼女の格闘スタイルを想像させた。
「この国での試合に出るのは初めてだが、最善をつくしたいです」
 モニターで答える中、リングに降り立ったサマーラが、試合前の集中を高めるべく、得意のムエタイ舞踊『ワイクルー』を披露。ムエタイプロの試合では行われる事が多い。
 その後、再びアジが姿を見せる。露出の抑えられた濃い紫色のナイトドレスに身を包み、スカートは愛らしく揺れないよう施しが成された衣装だ。背中に悪魔をイメージさせる禍々しい小さな翼を生やしている。当然のようにデジカメが次々と向けられた。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ――相手はムエタイ選手と聞く。流石に蹴りの分野に於いても強いだろう。だが、私にも意地はある。‥‥蹴術で私が遅れを取って堪る物か。
 ゴングと共に両者が間合いを詰める。しかし、サマーラは初戦から驚愕を感じた事だろう。
 ――自分よりも実力が上の相手ならば開始早々、最初から奇襲風に攻めて‥‥速い!?
 身長は高いものの、スピードで劣るなら先にパンチの間合いに踏み込むのは難しい。まして神無は無名とはいえ、古流蹴術使いだ。サマーラのパンチより先に、突風のような廻し蹴りを脇腹に叩き込まれ、一瞬呼吸が止まる。怯まず詰めるが次いで振り落とされたのは下段廻し蹴りだ。激しい衝撃に褐色の太股が戦慄く。
 ――ムエタイ選手として、あなたに一撃も与えず終わる訳には、いきませんッ!!
 ――なに!?
 サマーラがマットを蹴って宙に舞う。ムエタイで鍛えたバネを活かし、必殺の膝を突き入れた。フェイクのつもりで放った上段廻し蹴りが裏目に出て、そのまま炸裂した衝撃で神無の長い銀髪が舞う――――だが‥‥。
 ――悪いけど、ヴァルキリーインパクトには強い奴が沢山いるんでね‥‥あまり効かないよ。
 観客は派手な一撃にどよめいたが、プロの格闘家であるサマーラの背筋には戦慄が疾っていた。
 ――効いて‥‥いない? もう一発食らえば!!
 再び膝を槍の如く突き入れる瞳に、銀髪が鮮やかに流れ、後ろ廻し蹴りが鋭い切っ先のように薙ぎ振るわれると、サマーラのウェーブを効かせた茶髪が衝撃に揺れる。
 ――蹴りの威力も相当なものですね。ここはリーチを活かして!
 サマーラはギリギリの間合いを計り、横蹴りを叩き込んだ。身長が高い分、相手の攻撃を食らう確率は低い。否、神無は戦法を変えたのだ。ガードで洗礼を弾き、攻めて来ないと見るや、自分の間合いへ運ぶ。ムエタイ選手がバックステップで避けに転じるが、銀狼が野犬に飛び掛るようなスピード差があった。
 ――クッ! 追い付かれるのですか!?
 ――今までも本気には変わりないが…今回は覚悟が違うんだ。
 刈るような中段廻し蹴りが唸り、鈍い衝撃と共にサマーラがマットに崩れてゆく。
<ダウン!>
 苦悶の色を浮かべながらもファイティングポーズ。間合いに踏み込み放つ上段回し蹴りだったが、神無のグローブに弾かれた。次いでサマーラの膝が飛び込むものの、ガードは崩れない。
 ――やはり実力差ですか‥‥膝!
 一瞬の沈黙後、銀狼の膝蹴りが唸り声をあげた。グローブを固め、膝をあげてガードするムエタイ娘。
 その判断は的確だった‥‥格闘センスが優れていれば――――。
 力負けなのか隙があったのかは定かでない。事実としてリングに描かれるは、神無の膝でボディに衝撃を受け、瞳を見開くサマーラの姿だった。次いで上段廻し蹴りが薙ぎ放たれ、ムエタイ娘の脳を揺らす中、横蹴りの洗礼が褐色の野犬を突き飛ばす。
<ダウン! 2ノックダウンにより、各務選手のポイント獲得となります!>
 ダメージを重ねたサマーラの敗北した瞬間だった――――。

●第三試合:ブリッツ・アスカ(fa2321)vs因幡 眠兎(fa4300)
(「ムエタイのプロが負けたのか‥‥油断できないな」)
 スポットライトを浴びながら、トレードマークである稲妻のマークを疾らせた赤と黒ベースのシンプルな衣装に魅惑的な肢体を包むアスカが、黄色い歓声が飛ぶ花道を歩いてゆく。
「前回の結果がフロックじゃないことを証明するためにも、まずは初戦しっかり取りに行く。あー、あと、チョコくれたファンのみんな、ありがとう。ちゃんと全部受け取ったよ。‥‥妬くなー男どもー」
 モニターで微笑むボーイッシュなルックスは後半苦笑気味だ。
 続いてスポットライトに照らされたのは、赤を基調としたジャケットとショートパンツに身を包む眠兎。小柄な少女のポニーテールに結った黒髪の背中で、アスカの稲妻に対してか、火の玉を模した刺繍と『Cannonball』の文字が捉えられた。由来は大砲と称されるパンチ力と、身体ごと一気に飛び込む突進力らしい。
(「ヴァルキリーインパクトでご一緒してたけど、アスカさんとは結局まだ一度も闘ったこと無かったんだよね。爽やかな感じの人みたいだし、気持ちの良い試合が出来そうだね♪」)
 円らな赤い瞳を和らげる中、モニターでは裏腹に挑発する姿が映る。
「私だって遊んでたわけじゃないんだよ。今まで積み重ねてきたものの成果‥それを見せてあげる。覚悟はOK? 全力でいくよ‥‥!」
 両者がリングにあがると共に、客席で野郎共がカメラに手を忍ばす。期待通りにラウンドガールのアジが姿を見せた。披露した衣装は、レースの模様が鳥の羽と翼をモチーフにしたピュアホワイトのレースワンピースだ。胸元から肩や背にかけて無数のレースを重ね合わせ翼をイメージした飾り付けが施されており、肩甲骨の辺りは翼が生えていると錯覚する様に少々広げ膨らませてある。腰周りを腰当の様に纏めたミニスカート状の布地が飾っていた。
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 ゴングと共に間合いを詰めたのは眠兎だ。ボクシングスタイルで小さな身体を左右に振りながら踏み込んでゆく。しかし、アスカはスピードを活かして間合いをキープ。小柄な少女が果敢に挑むに対し、懸命に逃げ回る姿は狡猾に見えるか否か。
 ――ふーん、流石に稲妻の異名を持つだけに素早いね‥‥でも。
 ――あれ? 気のせいか? 間合いが詰まっているような‥‥気のせいじゃない!
 四角いリングの領域は限られている。格闘センスに勝る眠兎は間合いを詰めながら、アスカをリングの角に追い詰めていたのだ。この現象は格闘技において珍しい事ではない。スピードを活かして攻める相手に対処するのは難しいが、逃げる相手を『詰める』事は可能なのだ。
 ――ま、何時までも逃げていても注意食らうからな。躱せばいい!
 詰めた眠兎の下段廻し蹴りが薙ぎ振るわれる中、避けを試みるアスカ。だが、痺れるような衝撃が太股を強襲した。否、ダメージは愛らしい顔色に僅かしか浮かんでいない。お返しとばかりに下段廻し蹴りが白い脚を狙う。
 ――それはどうかな?
 薄く微笑む眠兎は膝をあげてブロック。次いでアスカが中段廻し蹴りを炸裂させるものの、肘を下ろしてガードした。再び下段廻し蹴りに入るが、鉄壁の如く膝が防ぐ。
 ――スピードは速いけど、見切れているんだよね♪
 正に眠兎の闘い方はキックボクシングスタイルだった。モーションが速い分、格闘センスに勝る少女は後手に回るが、ガードでダメージを受けずに済ます。アスカの左右前蹴りや下段中段を織り交ぜての攻撃ですら、鉄壁のガードを貫く隙を与えない。だが、この闘い方がジャッジにどう見えるかが問題だろう。少なくとも初戦の下段廻し蹴りがヒットしているだけに、ポイントは現状小柄な少女が押さえたまま、ゴングが鳴り響いた。

 立て続けに2試合が1ラウンドで幕を閉じた所為か、客席からは安堵にも似た声が洩れる。派手な攻防でダウンさせる電光石火の試合も魅力的だが、退屈でない試合は制限時間まで満喫したいと思うのが心情だ。
 そんな中、更に歓喜させるラウンドガールが鎮まったリングを彩る。リボンをあしらったシンプルな白のベアサイドワンピースの水着から魅惑的な肢体を浮かび上がらせるアジの姿だ。闘わずにリングに我が身を曝け出す事に慣れて来たのか、強張っていた微笑みも柔らかい。クセにならないか不安だ‥‥。

<ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 ――相手の攻撃が止まった時に狙えば当たるよね! 前蹴り! ‥‥! あー、逃した!?
 ――このまま亀になって試合を終わらせるつもりなのか? 左脚さえ潰せれば!
 前半戦の始め、アスカの前蹴りをガードした後、僅かに両者の攻防が止まった。チャンスを見逃したのはどちらか。再び雷鳴が唸り、稲妻の如き廻し蹴りを立て続けに浴びせるものの、やはり眠兎のガードは鉄壁に近い。一方的に攻める展開の終盤、アスカの上段廻し蹴りをグローブで弾いた刹那、円らな赤い瞳が煌いた。スタミナ差ゆえか。一気に懐に飛び込むと連続のレバーブローを叩き込み、次いで体重を乗せて薙ぎ抉るようなフックが炸裂!!
 客席がどよめいた。そして、眠兎も驚愕に赤い瞳を見開く。
 ――えぇっ!?
 僅かにアスカは衝撃に揺れるものの、微笑んだのだ。
 ――パンチもキックもそれなり、だな。しかし‥‥。
 ――私の大砲が効かない!? 火の玉の刺繍まで付けたのに‥‥。
 ゴングが試合終了を告げる。手数ではアスカが優勢で、ダメージも掠り傷に等しいとはいえ、クリーンヒットを叩き込まれたのは事実。
 ポイントは眠兎が獲得した――――。

●第四試合:イルゼ・クヴァンツ(fa2910)vs尾鷲由香(fa1449)
<只今より、ワルキューレリーグ第1戦、最終試合を開始します!>
 いよいよ最後の試合。歓声が響き渡る中、スポットライトに浮かび上がる選手にどよめきがあがった。最終戦を彩る長い銀髪の娘は、これまでに出場経験が無かった。しかし、芸能界の活躍で有名人としてあげられるイルゼの参戦に観客が沸く。胴衣に袴という居合いの衣装をイメージさせる出で立ちで、花道をゆく風貌は表情が薄い。
「元は身の動きを売りにする職業、格闘は少々畑違いですが、見せる動きは忘れずに」
 モニターの中で意気込みを告げる赤い瞳も、何処か不思議な色を浮かべているようだ。
 続いてコールされる選手の名に客席が歓声に包まれてゆく。年末の最強戦でアジと優勝を決する試合を繰り広げ、ドローという予想外の終演を迎えた空のハンター、荒鷲の由香がスポットライトを浴びる。迷彩系のタンクトップに短パンと軽快な衣装で、如何なる狩りを見せてくれるのか。
「今回の相手は未知数な分やりがいもあるぜ、前回戦ったアジが選手として参加しないのは残念だが自分らしく戦って勝つまでさ」
 モニターで凛とした緑色の瞳を研ぎ澄ます由香の眼差しは、リングで赤い瞳と対峙していた。
「前にどこかで会ったな、今回はよろしくな、いい試合をしようぜ」
「(格闘技は本職ではないですが、苦手でもないので‥‥どうせなら、上を目指したいところ。何度も出場している顔ぶれが多いようですが、それだけに実力を試すにはいい機会でしょう。勝てるかどうか‥‥)まあ、負けるのもいい経験ではあります」
 挑発か!? 否、考えを自分内で処理して結果のみを口にする癖故だろう。由香の表情から心境は窺えぬまま、レフェリーの確認事項が告げられてゆく。そんな中、最後のお色直し(?)でアジが注目を集める。白いワンピースドレスに雪結晶のレースが清楚さを醸し出す衣装だ。
(「おいおいアジ‥‥次回も、ってのはナシだぜ」)
<ワルキューレバトルR1――ready Go!!>
 両者一気に間合いを詰める。身長差も無ければ、スピードも互角だ。由香の精悍な風貌を捉え、イルゼのグローブが動く。刹那、緑色の眼光が輝いた。軽いステップと共に半身となり、荒鷲の爪が獲物を捉える。
 ――横蹴りですか?
 表情も変えず、イルゼは体勢を逸らすと、突き出された横蹴りを躱した。まるで突き出された剣を払い除けるような動きに観客はどよめく。同時に驚愕の色を浮かべたのは由香だ。
 ――あの間合いで咄嗟に躱しただと!? ならば!
 蹴りの体勢からそのままステップと共にイルゼの懐に潜り込むと、腹部を目掛けてグローブを振り上げた。しかし、捉えたのは腰ほどの長い銀の後ろ髪。赤い瞳が由香のボディを捉える。同時に飛び込む曲芸師の娘に膝を突き込んだ。
 ――膝‥‥!
 再び客席がどよめいた。イルゼがトリッキーな動きで位置を変えたのである。由香は空を切った膝をそのまま高くあげ、薙ぎ落とすように踵を叩き込むが、やはり巧みな足捌きでインパクトが伝わらない。
 ――コイツ! フェイントなのか? 見切られているのか!?
 これはイルゼの曲芸師としての生業が大きかったのかもしれない。中盤戦も蹴りやパンチのモーションは見せるものの、由香の後ろ蹴りや下段廻し蹴りと連続で繰り出される蹴り技を尽く躱したのだ。
 しかし、見た目には鮮やかだが、判定に持ち込まれれば不利だろう。
 ――相手にダメージに与えずに勝つか‥‥勝ち続けてやるさッ‥‥!?
 試合が始まって初めて衝撃音が響き渡った。由香の前蹴りに合わせてイルゼの横蹴りが放たれたのだ。突き飛ばす蹴り技に互いのボディが軋む。次いで銀髪が弧を描き、後ろ廻し蹴りを薙ぎ振るう中、荒鷲は脇腹に中段廻し蹴りを炸裂させた。リーチは互角、同じ間合いは相打ちと化す。赤い瞳が僅かに苦痛の色を映し、スタントマンの娘が表情を戦慄かせる。
 ――ヤバイ! 気を失う所だったぜ!
 ――さすがは上位の蹴り技‥‥!!
 イルゼの瞳が間合いに飛び込んだ二つのグローブを捉えた。由香が『双拳返し突き』を突き出したのである。同時に袴に包まれた膝が跳ぶ。互いに衝撃を浴びる中、グラリと揺れた荒鷲に客席がどよめいた。
<ダウン!>
 カウントが続く中、由香は焦るように立ち上がる。
 ――あたしのパンチは効かないってか‥‥イル、楽しませてくれるぜ。
 ファイティングポーズを構え、不敵な笑みを浮かべて間合いを詰める荒鷲。イルゼも独特の足捌きで間合いを詰めた刹那、同時に2人の脚が大きく振り上げられた。両者踵落としのモーションを見せる中、ゴングが鳴り響く。

 両者がコーナーに戻ると再び別の意味で沸く場内。今度はレースやフリルが飾られた白いビキニ姿で笑顔を振り撒くアジ。肌を露とした褐色の谷間が健康的かつ野性的な彩りを放ち、野郎共のカメラ捌きも必死だ。

<ワルキューレバトルR2――ready Go!!>
 両者一歩も譲らぬ攻防が中盤まで繰り広げられた。
 イルゼのジャブをガードで弾き、由香の中段廻し蹴りやジャブは褐色の娘を捉えられない。またしてもフェイントの如く次々と攻撃のモーションから避けに転じ、荒鷲は銀狼を狩れずにいた。
 ――この動きは1Rと同じか!?
 ――スタミナの消耗をあまり感じませんね‥‥このまま逃げ切っても勝てますけど‥‥!!
 由香の後ろ廻し蹴りに合わせ、イルゼの横蹴りが繰り出されると、狩る間際で荒鷲は体勢を崩される。技量もスピードも同等な分、モーションが少ない直線的な攻撃の方が僅かに速い。次いで銀髪が弧を描くと同時、スタントマンの娘は脚を振り上げ踵落としのモーション。一瞬、捉えた銀の頭部が掻き消えたと感じた事だろう。叩き込まれた後ろ廻し蹴りに再び体勢を崩す中、袴の膝が唸る。
 ――これで終わりです! 由香!
 ――舐めるな! イル!
 上段廻し蹴りを叩き込むと同時、イルゼの膝に荒鷲が浮いた。鈍い衝撃に呼吸が止まる中、赤い瞳が冷たい色を放つ。そのまま由香の顎を蹴り上げ、後ろ蹴りで吹っ飛ばすと、マットを蹴って腰の捻りを十分に効かせたローリングソバットを炸裂させた。
<ダウン!>
 戦慄く膝を堪えて立ち上がるものの、ゴングが鳴り響き試合は幕を閉じる。判定でポイントを納めたのはイルゼだ。新たな戦乙女の襲来に、観客は歓喜した。歓声に応える褐色の娘に由香が声を掛ける。
「イル、もっと笑顔見せろよ」
「嬉しいですよ、上位の由香に勝てたのですから」
「勿体振りやがって、有名になってから格闘技に乗り出して来るかよ」
「身体を動かす職業柄、実力を試したかっただけです」
 由香はがっちりとイルゼの手を握り、力強く握手を交わた――――。

 ――今回のポイントは表示の通り―――――
 ティタネス=1ポイントvsリザーバー=0ポイント
 各務 神無=1ポイントvsサマーラ・タマナ=0ポイント
 ブリッツ・アスカ=0ポイントvs因幡 眠兎=1ポイント
 イルゼ・クヴァンツ=1ポイントvs尾鷲由香=0ポイント
 ―――――――――――――――――――――――――

 試合の終わったリング。観客達が腰をあげようとした刹那、スポットライトに濃い紫色のナイトドレスに身を包むアジが浮かぶ。
「皆さん、今日の試合はいかがでしたか? ここでクイズです☆ この衣装は第何試合の何ラウンド目の衣装だったでしょうか? また、私が何時の試合で着用していたか分かりますか? クイズに答えてもらうと‥‥抽選で〜。それではファンレターお待ちしています☆」
 その後、ヴァルキリー系のファンサイトで、着用済みの衣装をくれるのか、生写真をくれるのかと物議が交されたらしい。

 ――次回は今回闘わない者同士がグローブを交える事となる。
 全ての闘いが終演を迎えた刻、戦乙女の頂点が決するのかもしれない。そこに立つのは――――。