紗亜弥デビューCDの道アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 切磋巧実
芸能 1Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや易
報酬 0.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/04〜12/08

●本文

 ――ある少女の日記より。
 あたし紗亜弥。16才のどこにでもいるふつうの女の子でした。
 今は演歌歌手としてデビューして、歌番組のアシスタントもやらせていただいたんです。
 デビューもドキドキしたけど、何もかもが初めてで、毎日ドキドキのくりかえし。
 でも、いろんな人と出会えて、おうえんしてもらって、本当に幸せです。
 そうそう。あたしのCDを作ってもらえるみたいなんです☆
 CDですよ? 信じられないって感じです。
 それで、カップリング曲を決めて、またライブをやるみたいなんですけどぉ‥‥。

『新人演歌歌手紗亜弥をプロデュース! カップリング曲を演出しませんか?』
 紗亜弥のファーストシングル製作の為、カップリング曲が必要です。
 新人演歌歌手紗亜弥はプロポーション抜群の若い女性☆
 新人プロデューサーやコーディネーター(他)募集。
 曲調、衣装デザインやメイク等、全てお任せします。
 曲の条件は『演歌』である事。今回のターゲットはお任せします。
 新曲披露はトラックによる路上ライブを予定。他の提案も考慮します。
 若い感性をお待ちしています。

「‥‥相変わらずな募集告知ね。もっと何とかならなかったのかしら?」
 ネットに流れた募集告知を眺め、クリスティが苦笑して見せると、壮年の男はポリポリと頬を掻いて唇を尖らせる。
「仕方ないだろ? アイツは忙しいから俺が手直しして作っただけなんだから」
「これであの娘の助けが来なかったらアナタの所為ね」
「おいおい‥‥そりゃ酷いな。せっかく仕事も入ったんだ。今がCDタイミングなんだからな。新たな演歌伝説は始まったばかりさ」
 男はデスクに置いてある紗亜弥の写真を見つめる。
 未だあどけなさの残る端整な顔立ちの少女は、大正時代の女学生のような出で立ちで、デビューを飾ったトラックとスタッフの中で、はにかむように微笑んでいた――――。

●今回の参加者

 fa0525 アカネ・コトミヤ(16歳・♀・猫)
 fa0640 湯ノ花 ゆくる(14歳・♀・蝙蝠)
 fa0851 高野正人(23歳・♂・アライグマ)
 fa0917 郭蘭花(23歳・♀・アライグマ)
 fa0968 シャウロ・リィン(16歳・♀・猫)
 fa1501 束佐・李(22歳・♀・牛)
 fa1681 木野菜種(23歳・♀・亀)
 fa1804 沢渡 操(27歳・♀・蝙蝠)

●リプレイ本文

●アイデアはどこから出るか分からない
「おっはよう♪ 紗亜弥ちゃん達はレッスン中かしら?」
 事務室のドアを開け、朗らかな笑みを見せて現れたのは、郭蘭花(fa0917)だ。彼女の視界に映るは、仕事に務める二名と中央の冴えない男。そして、箒とチリトリとモップとバケツを運びながら掃除に勤しむ、湯ノ花 ゆくる(fa0640)の姿である。所長曰く、清掃員を雇ったつもりはないが、助かっているからOKらしい。
「あぁ、写真撮るなら邪魔にならんようにな」
「失礼ね、あたしだってタイミング位は心得てるわよ」
「‥‥あのっ‥‥良い‥‥写真、ですね‥‥♪」
 腰に手を当て、ランが片眉を跳ね上げる中、おずおずと口を開いたのはゆくるだ。所長のデスクに顔を寄せ、見つめているのは紗亜弥の写真。男の説明を聞いた少女は、表情を一瞬だけ変えると、再び口を開く。
「‥‥あのっ、、えっと、今回の‥‥ライブの、様子も、写真に‥‥撮って‥‥CDのジャケット、もしくは、CDの‥‥予約特典として‥‥ソノッ、、つけてみるのは‥‥どうでしょうか?」
「‥‥ジャケットと予約特典かぁ。そんな仕事も残っていたな」
「ちょっと、あたしは何の為に来ているのよ。面白そうね♪ 写真は任せて頂戴☆」
「アノッ‥‥若い人達だけでなく‥‥年配の方にも‥‥聞いてもらえるように‥‥路上ライブだけでなく、ええっと、、ホーム等も‥‥まわってみるのは、どうで‥‥しょうか、、」
「老人ホームへの慰問か、演歌としては定番だな。クリス、何件かリストアップしてくれ。いやぁ、清掃員も雇ってみるもんだなぁ♪」

●カップリング曲は大変です
「曲のテーマは明るい演歌ということで、冬の祭り。元気が出るような曲に仕上げたわ。曲名は『ふゆまつり』よ」
「今回はよろしくお願いします。伴奏をさせて頂くアカネです」
「俺は操、伴奏者として参加させてもらうぜ」
 作詞作曲を担当した木野菜種(fa1681)さんが、楽譜を渡してゆく中、アカネ・コトミヤ(fa0525)さんと沢渡 操(fa1804)さんが挨拶してくれました。今回の曲は太鼓と三味線です。それにしても、菜種さん元気だなぁ。一日で完成しちゃうなんて、本当に半獣化して作ったのかな。
「紗亜弥さん、何か分からない漢字とかあります?」
 えぇっ!? どうしてそんなことを言うんですか? アカネさん。
「難しい言葉はなるべく使わず、平易な言葉に置き換えたつもりよ。紗亜弥が意味を理解出来なきゃ、心込めて歌いにくいでしょう?」
「あぁ、難しい漢字も意味も見当たらないぜ。な、紗亜弥?」
「‥‥‥‥あのぉ、ここなんですけどぉ‥‥」
 かッ、固まらないで下さいッ! アカネさん、ありがとう(涙)。
「‥‥そ、それはそうと、格好だけでも紗亜弥に三味線を持たせるのはどうだろう?」
「えぇっ? しゃみせんですかぁ?」
 何を言うんですかッ操さん。
「格好だけだ。流石に一朝一夕じゃ三味線は無理だしな。俺も基本はベースだし、教えられるほどの腕はないさ。っつー訳で一緒にレッスン参加させてもらうんでヨロシク★」
「私もキーボードは得意ですけど、太鼓は‥‥。頑張りましょう☆ 紗亜弥さん♪」
「ちょっとちょっと大丈夫なの? まあ、四日あれば十分よね♪ 沢渡さんには笛も頼むわ」
 これがプロの世界なのでしょうか。でも、二人共、羨ましいほど簡単にマスターしてゆきます。そんな中、振り付けのレッスンが始まったのです。

 ――うん、とっても上手だよ? 紗亜弥の元気さと一生懸命さがすっごく出てる!
 シャウロ・リィン(fa0968)さんが初日のレッスンで言った言葉が懐かしく思えます‥‥。
「ダメだよ! さっき太鼓と笛のビデオ見たでしょ? ほら、タイミング遅れてるよ! ちゃんと強弱入れて! 素人の盆踊りじゃないんだから!」
「あぅッ、きゃっ」
 サビの部分で躓いて、あたしは転んでしまいました。
「大丈夫? うん、怪我は無いわね。でも、これに着物を着るんだよ? もっと重くなるよ? さ、続けるわよ♪ ‥‥紗亜弥?」
 あれ? 立てるのに‥‥。あたしは床を見つめたまま座り込んでしまいました。リィンさんが友達みたいに接してくれたからかな? つい、弱気が口に出ちゃいます。
「リィンさん、踊り子さんだから簡単に言うんだよ。あたし、こんなに難しい踊りなんて」
「負けないで。みんなが紗亜弥を待ってるんだよ? あたしだって最初から出来た訳じゃないよ?」
「‥‥リィンさん、才能あったんだよ。前はそんなに難しくなかったから、あたし」
「そんな紗亜弥見たくないよ! 今日はお終い! ‥‥あたし、出来るって信じてるから!」
 軽い溜息を吐いてから、最後に言葉を残して、部屋を出て行ってしまいました。ドアが閉じる音が静かな空間に響き渡って‥‥。甘えちゃってゴメンなさい――――。
「あ、高野さん」
 事務所を出ると、車庫の方で、高野正人(fa0851)さんが作業していました。
「やあ、えっちじゃない高野お兄さんですよ。どうですか? 今回は女性ばかりで気楽でしょ?」
 あ、気にしてたのかな? 正人さんは「今回のカップリング曲は明るくお祭りがテーマですっけ? 待ってて下さいねー、トラックも祭風に弄ってステキなステージにしますからね」なんて言いながら、たった一人で作業を続けます。あたしって甘えん坊なのかな? 何故か涙が溢れて来て‥‥。
「あ、何でもありません。ちょっと疲れただけですから‥‥。高野さん、今夜はもう終わりですか?」
「トラックの方はね。後はチラシ作りかな。皆さん、チラシ配りを手伝ってくれるそうなんで、冴えない男より、美人な皆さんの方が受けがいいでしょ?」
 これからチラシ作り? どうしてそんなに頑張れるんですか?
「そんなこと、高野さんだって‥‥」
「あ、あの‥‥ホットケーキとコーヒーを、作った、んですけど‥‥お、お邪魔でしたか?」
 ドアが開くと共に、ゆくるさんが戸惑いながら声を響かせました。お邪魔って‥‥え?
「いッ、いいえッ! 全然お邪魔なんかじゃ‥‥」
 あたしは正人さんの背中を押して先を進ませます。きっと顔を赤くしてると思うから‥‥。あ、でも、いいひとだけど、そういうのじゃ‥‥多分‥‥。
 みんな頑張っているんだ。あたしも頑張らなきゃいけないんですよね――――。
「はい☆ 紗亜弥君の衣裳できました♪ こっちは操君と、アカネ君の分です」
 創作着物を持って、束佐・李(fa1501)さんが微笑みます。あれ? 沢山のタオルは何ですか?
「これ? 胸の大きさが分かるような着付けはよくありません。あまり目立つようでしたらサラシを巻く事も考えますからね」
 ‥‥なんだそうです。着付けは李さんがしてくれました。鏡に映る着物はとても綺麗☆
「いかがですか? 着物は朱色が基本のちりめん系洋布で、柄は大柄の毬と鼓。それと普通の洋布で柄は細かい花柄を使用して、まるみをかなり大きめに取る事と朱色を使う事で元気感を出しました。帯は紫がかった茶色の地に、鳳凰の丸能衣文の文様をあしらった袋帯を、うずしお結びにしています。帯を真面目に締める事で少々年配の方への好感を期待できるでしょう♪」
 正直、難しくて分かりませんが、あたしなんかが着ていいのかな? 着物に着られているって感じで、照れてしまいます。あれ? ランさん? カメラって‥‥いつから撮ってたんですか!?

●それはふゆまつり
 レトロ調に刷られた彩りが明るく華やかなチラシが配られた早朝から数時間後、街角に停車していた一台のトラックの荷台が、ゆっくりと開かれてゆく。
 縁日の参道を思わせるステージが晒され、アカネが叩く太鼓の連打が響き渡る。彼女の衣裳は、藍色基調の左身頃と右袖が矢がすり柄で、帯の結びはお太鼓結びだ。続いて奏でられるのは、操の鳴らす三味線の音色。彼女の衣裳は、藍色基調の左身頃と右袖が白織り青海波柄で、帯の結びはアカネと同様だ。
 提灯が配置された祭っぽい装飾の中、組み立て式の鳥居の下に着物姿の紗亜弥が立ち、盆踊りのような手さばき、足さばきで踊り歌い出す。詞は、来るべき春に向けて長い冬を乗り越えるための祭りの準備模様を紡ぎ、サビの部分は、祭りの先に待ち遠しい春があるということを歌っていた。大きく迫力のある太鼓のバチを振るう仕草で、ふわりと舞ってステップ、さらにバチを振るう少女の舞は、軽やかであり、力強い。間奏では操が笛の音色を響かせる中、少女が横笛を吹いているようなイメージで、流れる風のように、しっとりと舞う。
 再び太鼓の連打と共に二番。リィンの振り付け意図である『少しの静の後に元気いっぱいの「動」で、動きのある部分を強調して目立たせ、迫力のあるイメージを描く』事は成功していた。
 詞は、実際の祭り模様を描き、笑顔で楽しむ人々の様子を折り込み、サビは、雪の中だが祭りの熱気で一足早く春が来たようだと紡ぐ。三番の詞は、祭りがもうすぐ終わる時の独特の寂しさも織り交ぜ、それでも人々の表情は明るい。サビは、雪の下から春の息吹が感じられる、もうすぐ春はやってくると歌い上げ、曲の最後も太鼓の連打と紗亜弥の振りで締められた――――。
「よし、これだけ撮ればCDジャケットも特典も安心ね♪」
 一月も経たず、ランの撮影したCDジャケットが並ぶ事だろう‥‥。