えん歌だい♪アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
切磋巧実
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芸能 |
3Lv以上
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獣人 |
3Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
7.9万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
05/05〜05/09
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●本文
●1周年を迎えたえん歌だい♪
「旬の食べ物から初めて季節柄イベントを経て、ようやく一年か‥‥演歌という中で皆よく頑張ってくれた!」
えん歌だいプロデューサーは目頭を押さえて1人打ち震えていた。思い起こせば過酷な挑戦だった事だろう。様々なジャンルひしめく音楽業界で、演歌一本で切り抜けて来たのだ。
「1周年記念パーティーでも開きたい所だが、先ずは5月でやらねばならん事がある! GWや子供の日を課題にしていかったではないかッ! 今やらずにいつやるというのだッ! 立てよ国民! 我々は‥‥」
とにかく、感動のあまり暴走気味であった‥‥。
・『えん歌だい♪』出演者募集
今回のテーマは『子供の日&GW』。
鯉のぼりに涙した事はないか? 柏餅を食べたいけどお兄ちゃんに全てたいらげられてしまい、悔しい思いをした少女時代はないか? 自分の雛人形より、鎧兜が豪勢に見えて指を咥えて見上げた事はないか? 否、子供の日といえど、逆に雛人形は全身で人数も多いのに、何故、兜だけしか家にはないの? と負い目を感じた少年時代はないか? 実は柏餅より雛アラレが好きとか、ちょっと少女趣味なのに、頼んでもいないのに巨大な鯉のぼりや鎧武者を与えられ、複雑な笑みを浮かべた事はないか?
と、数えれば切りがないかもしれない課題でオリジナルの演歌を唄って頂きます。
●子供の日で演歌ですかぁ!?
ついに見出し扱いとなった演歌歌手紗亜弥の素っ頓狂な声が事務所に響き渡った。所長は煙草を口に咥えたまま、満足そうな笑みを浮かべる。
「紗亜弥は兄さんか弟さんとかいないのか?」
「はい、いればフラグ立てが大変でイベント的にも盛り上がるのですが、残念ながらいません♪」
「‥‥そうか、それは残念だな」
何が残念か微妙だが、謎のメッセージをスルリと潜り抜ける術を掴んだらしい。
「あ、でもお兄さんみたいな人はいますよ☆ きっと、兄弟がいたらこんな感じかな? って思います」
ピッと人差し指を突き出して、にっこりと微笑む紗亜弥。所長は腕を組んで唸る。
「お兄さんみたいな人か‥‥そういうのが一番危険なんだよなぁ。『え? あたしはお兄ちゃんとしか‥‥』『何を子供みたいな事を言っているんだい、キミだって』ぐほあッ★」
放たれたファイルが顎にヒットし、大きく仰け反った。クリーンヒットだ! しかも抉り込むように放つなんて! と、格闘技に詳しくなった少女は息を呑んだ。
「所長! ファイトですっ!」
何やら見えないコントローラーを両手に持ち、しきりに親指で連打する仕草を見せるが、所長はリンクしていない。タイミングよく身を起こしたが男に紗亜弥は喜んだものだが‥‥。
カツ☆ とヒールの音を響かせて、呆れたようにクリスティが口を開く。
「ったく、子供の日って課題で脳をピンクに染めないで欲しいわ。でも、紗亜弥? 人の感情は自分が思っている事と違う場合が多いから、気をつけなさい‥‥まあ、所長のは妄想というか、滅多にない男のエゴみたいなものだけどね」
「へぇ〜、所長さんも妄想するんですね☆」
いや、紗亜弥のは妄想というか、頭のチャンネルを変えるべきだと思うけど‥‥。
クリスティは言えなかった――――。
・『えん歌だい♪』裏方募集
舞台演出、衣装担当、大道具、司会、及び、紗亜弥の作詞作曲及び協力者を募集します。
紗亜弥を子供の日で染めて頂ける方、スタッフ一同お待ちしております。
‥‥とはいえ、GWも含まれているので、旅や季節的なものでは問題ありません。
●リプレイ本文
●歌題に向けて打ち合わせです♪
「司会者として参加することになりました。紗亜弥さんは初めまして、どうぞ宜しくね」
あたしが事務所を訪れると、朱里 臣(fa5307)さんが元気良く挨拶したんです。なんかキラキラとオーラが見えるような、眩しい感じの美少女はエンジン全開で語り出します。
「まだまだアーティストの卵っていうか、先輩達の曲作りにまぜてもらったりってことが活動の中心なの。司会は初めてなんだけど、自分に出来る事があるなら色んな事にチャレンジしてみたいと思って」
あ、照れてる様子が可愛いです☆
「ステージで刺激もらっていきたいと思ってるよ。至らない所もあるかもしれないけど一生懸命頑張るね」
「ふつつかものですがよろしくおねがいしますっ」
「予感はしてたのよねえ‥‥今度は子供の日かなって」
あたしの曲を作って頂いている木野菜種(fa1681)さんが豊かな胸を抱くように腕を組み、苦笑しました。
「こどもの日でお祝いなんて、やらなくなって随分立つ気がしますねぇ‥オヤジくさいですか自分‥‥。僕はセットをメインに担当しますよ」
タオルを巻いた髪を掻き、高野正人(fa0851)さんも苦笑気味。すると、如鳳(fa2722)さんが口を開きます。
「端午の節句といえば、草餅に菖蒲湯は欠かせんのう。わしは高野くんのフォローに入るぞい。なーに、馴れたものじゃから、心配は要らん。まあ、年寄りの冷や水という言葉もある事だし、ハッスルしすぎん様にな」
いぶしぎんっていうのかな? 年季に頼もしさを感じました。
「私も裏方仕事のお手伝い頑張りますね♪」
え? 木之下霧子(fa0013)さんが手をあげると、あたしは思わず素っ頓狂な声をあげてしまいました。燕尾服の少女が不思議そうに小首を傾げます。
「以前演劇関係で経験をしたので、全くの素人という訳では無いのですよ。えっと、こういうのを‥‥そうそう。『素人に毛が生えた程度』というのです♪ 単純な作業でしたら任せてくださいな」
ピッと指を立て、腰に手を当てると豊かな胸を反らしました。てっきり唄う方かと思っていたので意外です‥‥って、高野さん細い目が嬉しそうなのは気のせいですか? え? 霧子さん? 細い顎に手を運んで、「うーん」とか唸ってあたしを神妙な顔つきで見つめています。
「紗亜弥さんの衣装には金の登り龍をオススメしますね♪ こどもの日の願掛けにちなんで、頂点まで登れるようにという願いを込めるのです☆」
にっこり微笑みました。いや〜、頂点までなんてまだまだですよ〜☆ でも、いいお友達になれそうな気がします♪ えっと、喜田川光(fa2481)さんとDESPAIRER(fa2657)さ‥夜倉紗無さんは歌い手ですよね。
「演歌は日本の心、しっかり歌いあげましょう。観ている方が気持ちよくなるように全力を尽くしますよ」
光さん、相変わらず渋いです。演歌一筋って感じですよね☆
「こどもの日、ですか‥‥実のところ、あまり、記憶に‥ありませんね‥‥」
女の子の一人っ子だったせいもあり縁遠いけど、柏餅やちまきは結構食べたことがあるかもと、紗無さんが薄く微笑みます。
「柏餅と言えば、これですよね‥‥みそ餡って柏餅以外では殆ど見かけないのは何故でしょう?」
お土産のみそ餡入りの柏餅を差し出しました。うん、確かに謎ですね。
「まあ☆ あたしも柏餅をお持ちしました。ちまきもどーぞ☆」
守山千種(fa2472)さんも手土産の柏餅をテーブルに差し出しました。そういえば、今回は‥‥。
「あたしはサブの司会をやることにします。今回は歌の方もがんばりますよ〜☆ 紗亜弥ちゃんとも長い付き合いになってるね☆ これからも一緒にがんばっていい番組を作っていこうね☆」
千種さんの眼差しが眼鏡の中で微笑みます。はいっ、頑張ります☆
●高野は浮かれていた
孤独な裏方作業も霧子の存在で華やかだ。服から浮かぶプロポーションも肉感的で、思わず半獣化したくなったのはヒミツである。
「そういえば高野さん、紗亜弥さんのお兄さんみたいな人って誰なのでしょう? もしかしてこのスタッフの中に居るのでしょうか?」
不意の問いにハンマーが指を打つ。
少女は顔をあげ、瞳を閉じると胸元で手を組み、頬を染めて妄想へトリップ。
「舞台の袖で恋の花咲く時もあるのですネ」
「い、いや〜その‥‥」
『おう、紗亜弥ちゃんどうしたんじゃ?』
如鳳の声に思わず肩を跳ね上げ振り返る正人。細い目に映った少女は、心なしかショックを受けているようにも見える。
「あ、あの‥おじゃま‥でしたか?」
正人の目の前には、まるでキスを待つような仕草の少女。妄想空間を駆け巡る霧子は戻って来ない。
何とか誤解を解くのにどれ程の時間が掛かったであろうか。
「そういや、最近の紗亜弥さんは大変元気でよろしいですね。ずっと見守ってきたおにーさんとしても感無量ですよん」
「え? おにーさん、なんですか?」
――へ?
他に兄のような従兄弟とかいるのだろうか? どきどきと胸を高鳴らす少女が楽しそうに見守る中、正人の苦難は続きそうだ。
●えん歌だいオンエアー
ステージ袖の照明から最も近い上部で、霧子は待機していた。浴び続ける熱灯に汗が伝う中、スタッフの合図と共に二人の少女がカメラの前に立つ。
「子供の日は『子供』の日、雛祭りは『女の子』の日、女の子は二度美味しいと思っていた少女時代。5月5日どんな一時を送っているのかな? 『子供の日&GW』をテーマに会場を彩る歌声を楽しんでもらいましょう! 司会の臣と」
「アシスタントを務めさせて頂きます、千種です」
晴れ着姿の可憐な少女が元気の良い仕草で司会を進める中、菖蒲柄の着物に身を包む少女は笑みを絶やさず大和撫子然と振る舞う。対照的だがバランスは悪くなく、TV映りも良いようだ。
「それでは喜田川光さん、歌っていただきましょう、曲は『鯉のぼり』です」
臣の声が響き渡ると共に、和服姿の男性がステージに歩いて来る。前奏が流れる中、如鳳がクレーンで予め吊り上げておいた巨大な鯉のぼりを降下させ、見えない位置で正人が支柱をステージの窪みへと導いた。タイミングを合わせて霧子が業務用扇風機を起動させると、風を浴びて鯉のぼりが靡く。
紡ぎ出される歌声は、母と一緒に作った鯉のぼりの思い出を通して、望郷の思いを紡ぐものだ。小さな子供の頃を思い出し、遊びまわっている賑やかな様と、今の充実した生活への感謝をコブシに効かせて歌いあげた。力一杯に泳ぐ鯉のぼりと光の顔が重なり、雄大に映った事だろう。
「有り難うございました☆」
「さあ、どんどん行くよ! 夜倉紗無さんで、『緋鯉』です」
ステージに現れたのは、青空を連想させる着物に細身を包んだ若い女性だ。相変わらず鬱蒼とした表情のまま、臣の問いに答える。
「曲のイメージですか? ‥自分の子供の頃の思い出を題材とした曲です」
――いつも通る道から見えた、団地のベランダに飾られたとある鯉のぼり。
決して大きくも立派でもないけれど、通る度にそれを見ていた。
その鯉のぼりの主である少年が、自分の片思いの相手だったから。
今でもこの時期になると思い出す。
あの日の緋鯉は一体どこに行ったのだろう?
ふと空を見上げたら、龍のような細長い雲が、ゆっくりと流れていた――――。
暗いという程ではないものの、今回もやや切ない感じの旋律を歌い上げた。セットの鯉のぼりに違いはないが、曲にマッチした歌唱力は重なる映像に哀愁を漂わせた事だろう。
「有り難うございました! さあ、続いては‥‥おや? 千種さんがいなくなっちゃった!?」
「は〜い☆」
笑顔絶やさずステージに再び姿を見せる少女。
「こどもの日と言うことだからやっぱり明るく元気な感じの歌を唄うのは基本ですよね」
前奏が流れ出し、室内セットが裏方三人衆により形作られてゆく。敢えて使い古したような汚れを施した家具はノスタルジックさを醸し出していた。ちゃぶ台に用意されるは花菖蒲を挿した花瓶と沢山の柏餅だ。
――やってきたきた 今年もきたよ
柏餅の 食べ比べ
今年はどれだけ 食べられるのか
お兄ちゃんとで 競争だ
今日に備えて がんばった
さぁさ父さん 数えてよ☆
手拍子の取り易い旋律は歌い上げられた。急遽変更された歌詞らしいが、明るく元気な雰囲気に変わりなかっただろう。少女の笑顔に重なる柏餅は、視聴者に朗らかな気持ちを与えたかもしれない。
「有り難うございました☆ いよいよ最後の方ですね」
「歌っていただきましょう、紗亜弥さんで『子供の日』です!」
ステージに歩む少女の晴れ着柄は、霧子の提案で金の登り龍だ。明るめのコードで奏でられる淡々としたテンポの中、子供から見た親への想いを紡いだ歌が響き渡ってゆく。
――今年もまたやってきた子供の日。5月5日の子供の日。
父母願う、父母祝うは子供の健やかなる成長。子供感じるは、父母の暖かなる愛情。
毎年の背比べ、重ねられるは多くの柱の傷。刻まれるは、父母との楽しき想い出。
いつしか父母の背を追い越し、あれこれ変わったものもあるけれど。
いつまでもいつまでも、変わらず私はあなたたちの子供です。
そして今年もまた――父母との歴史、刻まれし子供の日――――。
「いい? 柱の傷の部分は、セットに高野さんが柱の傷を用意してくれているはずだから、紗亜弥はそれを愛おしそうに見るなり触るなりしてしっかり活かすのよ」
肩をぽむと叩かれた温かみと共に菜種の声が甦った。
「何度も言ってるけど、曲の表現方法は歌うだけじゃないんだからね。ま‥分かってるわよね? あとは笑顔でしっかり歌ってきなさいよ♪」
微笑みながら背中をぽむと押してステージへ向かわせてくれた。
サビの部分で正人が刻んだ柱の傷へ、愛おしそうに触れる指と少女の顔が重なる。菜の花さんの演出指導が功を成した瞬間であったろう。
――私も歌手デビューしたら頑張るのです!
ステージで柏餅を持って合唱する背中を見つめながら、霧子は夢に向かって突き進む決意を強く抱くのであった。