世間知らずはご用心☆南北アメリカ

種類 ショート
担当 切磋巧実
芸能 3Lv以上
獣人 3Lv以上
難度 普通
報酬 9.4万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 09/21〜09/25

●本文

 裕福な家庭に育ったお嬢さんは、湖の傍で毬を突いていました。
 緩やかな金髪ウェーブを陽光に煌かせ、フリルとレースに包まれたドレスは愛らしく、人目で高貴な身分の娘さんと気付く容姿をしています。
「‥‥あんっ」
 毬はお嬢さんの手を弾くと、湖に波紋を描いて落ちてしまいました。彼女は泣きそうな色を浮かべ、届かない毬をみつめます。
「このままじゃどんどん遠くに流れちゃうわ」
 次第に嗚咽が洩れ、視界に捉える毬が霞んでゆきます。その時でした。
 大きな水飛沫が弾けると共にキラキラと陽光に輝く中、誰かが泳いで毬を捕まえてくれたのです。
 巧みな泳ぎで戻って来ると、毬をお嬢さんに手渡します。
「はい、もう落としちゃ駄目だよ」
 逆光で顔は分かりませんが、男性の声のようでした。『彼』は水滴が髪から滴るのも気にせず、娘さんの頭にそっと手を置くと、そのまま去って行ったのです‥‥。

 ――あれから数年の刻が流れ、お嬢さんは16歳になりました。
 少女の肢体は女性的な膨らみを描き、風貌は高貴な色香を漂わすようになっています。
「あの人‥‥誰だったのかしら? お礼も言えなかったなんて‥‥」
 彼女は毬を拾ってくれた男がずっと気になっていました。
 そして、或る日の夜、屋敷を飛び出してしまったのです――――。

●お嬢様のロードムービー
 舞台はありがちな中世ファンタジー。お嬢さんが夜の街を彷徨う中、様々な人々と出会い、成長してゆくというストーリーラインです。今回で毬を拾ってくれた男性に出会いハッピーエンドで終わっても構いませんし、まだ彼女の冒険は続く‥‥と幕引きをしても問題ありません。物語のストーリーラインから逸脱しない限り自由に演じて下さい。

「はぁ? バッカじゃないの? あたま弱すぎじゃない?」
 お嬢様と同じ風貌の少女が呆れたような声をあげた。二度と目を通さないとばかりに台本を放り投げると、テーブルに乾いた音が響く。マネージャーは頬の汗を拭い、苦笑してみせる。
「カレン、これも仕事だ。主役じゃないか」
「やらないなんて言ってないでしょッ。ただ、馬鹿すぎるのよ! こんな女は言葉巧みに騙された挙句、路地裏であんな事こんな事されて、性の奴隷に堕ちるのが関の山ね」
 有り得ない話ではない。ピンクな映画なら寧ろ有り勝ちだろう。しかし、これはTVドラマだ。教訓としては間違ったシチュエーションではないが、もっとソフトに表現されるだろう。
「こらこら、自分の役だろう? それとも、そんな展開をや‥‥」
「やりたいわけないでしょッ!!」

●基本ストーリーライン
1:
 マリィは幼い頃に拾ってもらった毬を掲げて辿り着いた町で呼び掛けています。
「どなたか! この毬に見覚えはありませんか?」
 世間知らずなので仕方ありません。呼び掛ければ答えてくれる者ばかりの世界で不自由なく暮らしていたのですから‥‥。
<ここで、既に供となった者がいても構いません。経緯は屋敷のメイドとか無理矢理連れて来たor無理矢理ついて来た数少ない友人や、旅の途中で知り合った者でもOK>
2:
 悪漢や呼び掛けに答えた者などを演じて物語を進めて下さい。
 状況的には、このまま時間が経過すると、マリィは空腹感を覚えます。食事処が後払いなら食べてから怒られるというパターンで展開(働かされる等)、前払いなら追い払われるでしょう。
3:
 兎に角、展開的には毬を拾ってくれた者を探せない危機的状況(何かに巻き込まれたり、悪漢に狙われたり等)に陥らせて下さい。
 その後、危機的状況の末、毬を拾った者に会えるか否かも相談で打ち合わせて下さい。

●想定されるキャラクター
 打ち合わせ次第で自由に選択して下さい。不必要な役柄は選択しなくて構いません。あくまで想定される‥‥ですので、必要とあれば他のキャラクターを設定して役者に割り振ってOKです。

・マリィ(16):配役カレン
 やる気はないがアドリブに強いアクターです。相談にも現われず、全てアドリブで切り抜けるつもりらしい。話をぶち壊す気は一切なく、役者達が構築した展開には従います。
「ふんっ、どんな役でも演じてあげるわ」
 尚、カレン以外に主役に立候補しても構いません。この場合カレンは登場しません。

・マリィのお供(性別年齢人数不問)
 既に知り合いという立場です。マリィの馬鹿っぷりに嘆きながら応援するか、ナイトとして助けるか、暗躍するか、世の中を教える役かはお任せします。

・食事処の主人&店員(性別年齢人数不問)
 食事処を舞台に展開させる場合に登場させて下さい。

・呼び掛けに答える者(性別年齢人数不問)
 新たなお供となるのか、捜索の協力者か、はたまた悪人かはお任せします。

・悪漢(性別年齢人数不問)
 バカなお嬢さんを狙う有り勝ちな悪者です。または食事処で暴れるでも構いません。

・毬を拾った者(性別年齢不問?)
 登場するかはお任せします。ラストに擦れ違うだけでも構いませんし、名乗りあげてもOKです。

●配役書類
・配役:上記の想定されるキャラクターから選択または追加記入して下さい。
・役名:登場人物の名前です。本名で出演してもOK。
・設定:どんなタイプ(設定)のキャラクターを演じるか明記して下さい。
 台詞歓迎☆

●サポート関連
 衣装作成/脚本協力/大道具・小道具など前準備関連。
 名前とどんな仕事をしたか載る予定です。

●今回の参加者

 fa2266 カリン・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa2605 結城丈治(36歳・♂・蛇)
 fa3768 ジョゼ・ジャクリーン(12歳・♂・リス)
 fa3776 コーネリアス・O(32歳・♂・猿)
 fa3957 マサイアス・アドゥーベ(48歳・♂・牛)
 fa4374 逢月・遥(8歳・♀・ハムスター)
 fa5600 伏屋 雄基(19歳・♂・犬)
 fa5627 鬼門彩華(16歳・♀・鷹)

●リプレイ本文

●ちょっと‥‥
 アクター募集リストを眺めて愕然としたわ。捉えたのはムッチリとした肢体をメイド服に包んで駆けずり回る若い女性。カリン・マーブル(fa2266)は、恥ずかしい位に短いスカートからショーツを覗かせたまま振り向き疑問に答えたの。
「あたしは‥‥演技などあまり巧くないですので、裏方をやっています。俗に言うところのAD業でしょうね☆」
「‥‥そ、そうなの」
 この容姿と憎らしい程に主張する胸があれば、馬鹿娘役なんて簡単でしょうに‥‥。金髪をポニーテールに結った隙だらけなカリンが衣装を渡しながら苦笑する。
「体が動く限りは何とか動くつもりです。どうしても手薄になるところが出てくるかもしれないですが、その辺はご容赦くださいです〜」
 なにかしら? とっても苛めてオーラを感じるわ。
「あら? チャイナドレス? この深いスリットは‥‥」
「気に入って頂けましたか? 衣装には『中華テイスト』を盛り込み、オリエンタルファンタジーな雰囲気で視聴者に新鮮な雰囲気をアピールしたいと作成したのです」
 彼は結城丈治(fa2605)と名乗り、私の空気も読まずに微笑んだわ。やたらガタイが良い長身で逆らい難いけど、まあ、そういう意図ならエロっぽいけど我慢してあげる。‥‥って、アクターじゃないの?
 周囲を見渡せば、線の細い茶髪の少女もいたけど、逢月・遥(fa4374)も答えは同じ。
「私は結城さんの下で大道具及び小道具を担当しています」
「子役かと思ったわ。‥‥あら? 謎の少女って誰?」
 改めて配役を確認して呼び掛けると、ワンピース水着の少女が灰髪を揺らしながら駆けて来たわ。鬼門彩華(fa5627)は頬の汗を拭いながら答えたの。
「私、マリィ役に応募したのですが、ダメだしを貰ってしまったので‥‥」
「はあ? 彩華、この世界は奪い合いの連続よ? 泣きたくなかったら積極的にアピールするのね」
 柄でもない事しちゃったわ。ライバルが増えるのは面白くないけど、その時は蹴落とすだけよ。

●世間知らずはご用心☆
「どなたか! この毬に見覚えはありませんか?」
 マリィは両手で抱えた毬を掲げ、訪れた町で呼び掛けた。しかし、人波は左右に素通りしてゆくのみ。緩やかな金髪ウェーブを揺らし、俯きながら上目遣いで頬を膨らます。
「もお、どうして誰も答えてくれないのかしら!」
 腹を立てる少女の傍で溜息が洩れる。赤毛をバリバリと掻きながら、小人族のクラナド(ジョゼ・ジャクリーン(fa3768))が呟く。
「結局世間知らずなんだよな。人探すだけならご主人様に頼んで看板でも立てて貰えばいいのに」
「クラナド、何か言いましたか?」
「なんでもありませぇん♪」
 両手を頭の後ろに回し、ソッポを向いて棒読みで答える少年。彼はマリィの屋敷に世話になっている下働きだ。いつもマリィに馬鹿にされており、今回も無理矢理つき合わされ、こうして町までお供と担っている。因みに下働きの女性から貰った古着をマリィに着させる提案をしたのもクラナドだ。一見裕福なお嬢様には見えないが、やけに優雅な物腰は何度注意しても直してくれない。
「(ちょっと‥‥馬鹿にしているって、どんなイメージよ。私とマリィを混同してない?)はあ〜、何だかお腹が空いてしまいました。クラナド、お食事を用意して下さいな」
「はあ? 用意って‥‥食堂に行くしかないんじゃないですかぁ?」
 呆れた少年は相変わらず棒読みだ。マリィは両手は合わせニッコリ微笑む。
「食堂ですね、それでは案内して下さい(ほら、今よ! 彩華)」
 カメラに映った水着少女が一心不乱に踊りながら捌けて行く。同時に舞台は一軒の食堂に切り換わった。ふらりと薄汚れたボロボロのフード付きマントの下に皮鎧を装備した若者が過ぎる中、窓辺に小さなテーブルを囲むクラナドとマリィを捉える。二人の注文を伺う褐色の巨漢は、太い腕を組んで困惑気味だ。
「できなくはないが、何時間も掛かるがいいのか?」
 店主ギュンター(マサイアス・アドゥーベ(fa3957))が訊ねた。ジャイアントの血が入っていると噂される程の強面だが、少女は恐れを知らない。
「まあ? やはり厨房が狭い事と、料理人が少ないからかと」
「あー! 手早くできそうなものを頼むよ! この娘も腹が空いてるからさ!」
 テーブルに突っ伏していたクラナドが慌てて割って入りフォロー。この分だと町を訪れる前も気苦労が絶えなかった事だろう‥‥。
「ほい、おまち! たんと食べてくれ」
 ギュンターは少年の注文通り、さっと料理を仕上げてテーブルに並べた。自信作なのか、強面に満面の笑みを浮かべて食べるのを待つ。クラナドは冷や汗をボタボタと零しながらマリィに祈る。
(「頼むから『こんな貧乏臭い店』とか『口に合わない』とか口走らないでくれ!」)
「まあ♪ 珍しい料理ですわ☆ 私、初めて見ました」
 両手を合わせて感動する少女に、ギュンターは顎髭を撫でながら苦笑した。
「そ、そうか? 割とオーソドックスな筈だが‥‥どうだ? 旨いか?」
「ん、はむ‥‥なんと申しましょうか‥‥これはこれで悪くないですわ」
「ふぐッ‥‥うぐぅぅ」
 複雑な評価である。少年はマリィの言動に心配しながら料理を口に運ぶ中、喉に詰まらせて顔色を紫に彩ると、トイレへ駆け込んでゆく。暫くすると、まだ残っているにも拘わらず、マリィが腰をあげた。
「ご馳走様でした☆ 失礼します♪」
「へい、毎度! って冗談は困るな。‥‥は? お金を持っていない?」
 どうやら食い逃げのつもりはないようだ。一切悪びれない様子にギュンターは怒るより先に呆れた。少女がキョトンとする中、割って入ったのは、ピカロ(コーネリアス・O(fa3776))と名乗る小奇麗で美形だ。『ここは私が』と、白い歯を輝かせる。
「こちらのお嬢さんのご両親とお付き合いがありまして」
「なんだ、この嬢ちゃんの知り合いか?」
「‥‥どちらさまでしょうか?」
 何故か会話が噛み合わない。沈黙の中、ピカロが苦笑する。
「忘れちゃいました? ひどいな。そうそう、お話が耳に入りましたが、私の友人にそれらしい男がいます。私の馬車でお送りしましょう」
「(‥‥やってられないわね、この馬鹿娘は)まあ☆ 馬車をお持ちなのですか? 先ほどまで立っていたので助かります♪」
 参りましょう☆ と、二人は食堂を後にした。やがてトイレから開放されたクラナドはギュンターに話を聞かされ、マリィを探して奔走する事となる。
 再び謎の少女が舞い踊りながら場面が切り換わってゆく。映し出されたのは、人気の少ない路地で腰を下ろし、壁に背を預けて昼寝をしている青年だ。馬車の音を尖った耳に捉え、フード越しに視線を流す。
「煩いな、こんな路地裏に馬車だと? ゆっくり昼寝も出来やしない。‥‥!?」
 ザジ(伏屋 雄基(fa5600))が訝しげな色を浮かべた。馬車から現われたのは紳士と毬を抱える少女。盗賊の勘が警鐘を鳴らす中、二人は小屋に入ってゆく‥‥。
「あら?」
 マリィはポヤンとした響きを洩らす。周囲に映るのは下卑た笑みを浮かべる人相の悪い男共だ。少女は不安の色を浮かべ、ピカロの背中に訊ねる。
「(まさかリアルな演技が欲しいとかナニする訳じゃないでしょうね?)あの、この方たちは‥‥」
「クックックッ‥‥まさかこんなに簡単に引っ掛かるとは思ってなかったぜ。世の中ってのは危険が一杯なんだよ、勉強になったろ? お嬢ちゃん」
 ピカロが美貌を凶悪なまでに歪め、振り向いた。一斉に飛び掛る野郎共にマリィが悲鳴をあげる。
『きゃあぁぁぁッ!!(嘘ッ、マジ? ナニする気ぃ?)』
 少女の悲鳴にザジが視線を流した。
「何やってるんだ? これじゃ眠れない」
 青年が小屋の扉をぶち壊す。捉えたのは縛られ涙を浮かべる少女だ。突然の闖入者に男共が息巻く。
「なんだ貴様? これからって時に‥‥ぐふおぉぉッ」
 ザジの一撃で派手に吹っ飛ぶ野郎。身代金要求の方法を思案していたピカロが指示を飛ばす中、悪漢達は得物を引き抜き、青年を取り囲んだ。ハーフエルフは不敵な笑みを覗かせ、魔法文字が刻印されたショートソードを構える。
「抜いたからには覚悟するんだな」
 悪漢が床を蹴って飛び込む。次々と薙ぎ振るわれる切っ先を優麗に躱すザジ。同時に短剣が弧を描き、鮮血が宙を舞った。英雄譚の如き光景に瞳を奪われたマリィが、伏兵に気付く。
「後ろです!」
 青年が視線を流した刹那、捉えたのは樽を放り投げるピカロだ。
「世の中は危険が一杯なんだよッ!」
 不意を突かれたザジが切っ先を振るうと、壊れた樽から水がブチまけられる。一斉に攻める悪漢だが、水滴を舞い散らせながら短剣が唸ると瞬く間に野郎共を倒した。ガクリと膝を着き、ピカロが崩れる。
「世の中は危険が、一杯、だ‥‥」
 水を被った青年に毬を拾ってくれた姿が重なると、マリィは瞳を見開く。
「あなた様は‥‥」
 そんな中、クラナドとギュンターが息を弾ませ駆けつけた――――。

「人違い‥だなんて‥‥(これでいい筈よね? マリィの事は記憶にあるけど、彼女の祖父と密談――政敵の重要証拠を届けた帰り――後だったので表沙汰にはできなかった‥‥って、告げてないって事よね)」
 ザジは名前も告げず去った。失意に俯く中、クラナドが気遣いながら覗き込む。
「‥‥どうします? 帰りますか?」
 少女は涙を拭い、青年の消えた道に眼差しを向けた――――。