眠れる豹の戦士 発掘南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
シーダ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/21〜06/25
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●本文
ジャングルと草原の広がるアステカの地‥‥
この大地にはアステカ文明の神秘と遺跡が多く眠っている。
ジャガーやコンドルなど、恐ろしい野生をトーテムとし、人間の心臓を神に捧げなければ太陽は滅んでしまうという終末信仰に基づく多神教が信じられ、生きた人間の心臓を神に捧げる儀式が盛んに行われた、この文明‥‥
多くの生贄を確保するための戦争さえも行なったと伝えられ、国の功労者は貴族に取立てられ、戦争の功労者はジャガーの戦士やコンドルの戦士と称され人々の尊敬を得たという。
しかし、それらを示す遺物も遺跡も、その殆んどが人の目に触れず、忘れ去られてしまっているものも多い‥‥
WEAの中米支部に召集された君たちは、ラフな格好の男の歓迎を受けた。
「発掘の手伝い、ご苦労さん」
君たちの前には、アステカ文明の概要が纏められたレポート、依頼の現場となる場所の地図や写真のファイル、現地の新聞のスクラップ、そのデータが入ったメモリー、前回の探索を編集したテープとDVDが並べられている。
そして、吹くと音のする、幾つかの突起や穴の開いた奇妙な形の5cmほどの石の棒‥‥
「先月のこと、ジャガーの戦士の墓と見られる遺跡を探索したのだが、崩れやすくなっていてな。
それに遺跡の奥にいたジャガーと戦闘になって、遺跡自体が崩壊してしまったのさ。
しかし、そこに遺跡と遺物の残骸が埋まっているのは間違いないんだ」
探索の際に撮られた映像には、ジャガーの上半身2つが背中合わせに1つになったチャック・モール、円筒型三足土器、壁面のレリーフなど考古学的に価値のありそうなものが映っている。
「で、問題になるのが」
ジャガーが現れて獣人たちと戦闘になった様子がモニターに流れた。
「別のジャガーが現れて邪魔をするかもしれん。気をつけてな」
男は君たちの肩をポンと叩いた。
ジャガーの頭の石像と入り口の石門は無事で、奥への石の通路は途中で埋もれている。
君たちは、その奥に何があるのかを調べなければならないのである‥‥
●リプレイ本文
●開始
「むぁいどー。ミゲール言いまんねん。ミカちゃん呼んでーな」
「インパクトが今一だなぁ」
「痛いのはいやん」
覆面レスラー・バイオレットバイオレンスこと常盤 躑躅(fa2529)の逞しい腕にヘッドロックされ、ミゲール・イグレシアス(fa2671)は思わずタップした。
「緊張をほぐそうとしただけですやんか? 人間ある程度の余裕がなけりゃ駄目でっせ‥‥ってわいら獣人でしたな」
発掘隊員たちも、少し気分がほぐれたようだ。
「いやー。それにしても、遺跡って素敵でんな」
発掘隊員の地道な作業により、既に発見済みであったジャガーの頭の石像を中心とする祭壇が出現し、前回探索した奥へ続く通路も土砂が取り除かれつつある。
鶸・檜皮(fa2614)は、その様子をプロ仕様のカメラに収めていく。
その背後で、迷彩服姿を着け、腰にはトカレフと降魔刀といった出で立ちの緑川安則(fa1206)は、任務の再確認をしていた。
「前回は、どうやらジャガーを捕獲することを考えすぎて遺跡を崩壊させたみたいだな。
もちろん捕獲できればそれに越したことはないが、任務失敗の可能性があれば、捕獲は諦め、排除するべきだ。
我々の務めは遺跡の調査であり、調査隊の護衛だ。優先すべきところは優先すべきだろ?」
元陸自隊員としての経験から、任務の目的をハッキリさせることが危険回避に繋がると考えたのである。
前回の遺跡内探索に参加したミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)やコーネリアス・O(fa3776)らは、予想外に遺跡が脆くなっていることを付け加えた。
「殺さずに済むなら殺さない方が良いに決まってる」
「これで眠ってくれれば一番なんだけどね」
煙草に火は点けないからと発掘監督のOKを貰った片倉 神無(fa3678)は、フィルターを噛みつつ、射出ネットのライフルを、コーネリアスは麻酔銃を見せた。
「避けれる戦いは避けるのが護衛作戦の基本だ。可能であれば捕獲、それには同意するよ」
緑川は頷いた。
そういえば、不確定要素が一つ‥‥
そう、あの石の笛らしき発掘品だ。
「拙者は休憩時間に石笛を調べておこう」
「じゃ、一緒に調べまショウ。前の因縁モあるし、吹いてみたいナアと思っテルから」
天音(fa0204)やミカエラの勘が正しければ、どこかで使う機会はあるはず。
ともあれ、任務は開始された‥‥
●笛の音が呼ぶもの
遺跡の全貌を把握しようと、崩落した通路以外にも遺跡外周の土砂の撤去も同時進行している。
「さあ、ドンドン持って行くわヨ」
ミカエラは張り切って土砂の搬出を手伝っている。
記録・調査をしながらの発掘で、石笛が見つかったとされているあたりから、人骨が発見されたりして獣人たちの興奮を高めている。
さて、その石笛に関して進展があったようだ。
民族楽器の資料を色々揃えた甲斐もあり、天音が吹き方を調節して息を吹き込むと、ぴぃ‥‥ひぃぃ‥‥と音がするようになってきた。
「結構、音がするようにナッテきたわネ。疲れと眠気に効く、冷たいカフェオレはいかがデス? あんまりナイケド」
目の前に差し出されたカップを天音が受け取ると、ミカエラは腰を落ち着けて自分のカップに口をつけた。
「私にも吹かせテ」
天音から石笛を受け取って穴を覗き込むと、ミカエラは大きく息を吸い込んで吹いた。
「力任せに吹いても駄目じゃ」
それでもミカエラは顔が真っ赤になるまで息を吹き込む。
と、そのとき、シュッと何かのカスが棒の中から飛び出し‥‥
ピィイイイイイ‥‥
音が周囲に響いて、視線を一身に集めた。
(「何なんだ? このざわつく感じ‥‥」)
緑川は嫌な予感を感じて周囲を警戒したが、異変はない。とりあえず胸を撫で下ろすのだった。
通路の掘り起こしの方も結構進展があった。
崩れたのは天井と壁の一部で、破損状況が致命的でなかったことも幸いしている。
床が崩壊しないように足場となるスレートが渡され、壁を保持しながらフレームを組めば良いという手間の少なさが進捗を早めていた。
中途まで掘り進めた通路で石笛を吹いてみることにしたミカエラや天音たち。
「何が起きるか‥‥わからないけどネ」
「意味があるものならば、音が出る以上、何か起こるじゃろう」
「何か見つかると良いんだけどね」
獣化した常盤と鶸は幸運付与の効果を受け、あらゆる状況に対応できるように集中力を高めている。
ぴぃぃいいい‥‥
石笛の音が響く。
「何も起きないか‥‥」
鶸のカメラの映像にも変化はない。
「嫌な予感がするのじゃ」
そう‥‥、事件は別の場所で起こっていたのである。
「いるな‥‥ 何かいる」
入り口付近にいた緑川は、前に感じた殺気のようなものを感じていた。
「殺気‥‥とは違うか‥‥ 野生の凄みというヤツだな」
「うん。多分ジャガーだろうね」
片倉、コーネリアスは、すぐさま獣化して『鋭敏視覚』を発動させ、周囲を監視すると影を捉えた。
「外が大変みたいでっせ」
ミゲールの声を聞いて、天音たちは急いで外を目指した。
●襲来
「ふむ‥‥ この身のこなし、ただのジャガーではないな。遺跡の防人、ガーディアンたるものか?」
サイレンサー装備のトカレフで牽制するものの、逃げることもなくジャガーたちは段々と距離を詰めてくる。
緑川は降魔刀を構え、殺気を漲らせたが、状況が変わるわけではなかった。
発掘員たちを内側に入れ、片倉やコーネリアスらも臨戦態勢にあるが、4頭のジャガー相手では護りきれる自信はない。
「ウソ‥‥」
通路から飛び出したミカエラは愕然とした。
前回、苦戦したのと同じようなジャガーが4頭も‥‥
格好は美しくないが、身の危険には変えられない。
「緑川殿、いつまでもこうしてはいられないのじゃないか?」
天音は警棒を構えた。
「ジャガーは遺跡の中にいるって思い込んでたのも変な話だよな」
常盤は平心霊光を使うタイミングを狙って身構える。
「豹獣人がいれば話を聞いてやることもできたのかもしれないが‥‥ 倒すぞ。四の五の言っている場合ではないだろう」
「仕方ないか」
鶸がトカレフのセイフティーを外すと、常盤も戦う意思を固めた。
「うわっ!」
飛び掛ってきたジャガーにコーネリアスは麻酔銃を撃つが、紙一重でかわされた。
発掘員たちがいなければ、もっと自由に力を使えるのに‥‥
警棒で天音に足を強かに叩かれたジャガーは、距離をとって足を引きずっている。
敵の機動力さえ封じれば、何とか対処可能になるかもしれない。
「静カにしててね」
噛み付いて放さないジャガーを抱きしめたミカエラは、口付けで吸触精気。噛まれた傷が塞がっていく。
「大人しくしてナサいっテ」
暴れるジャガーを完全に押さえ込むには、体格が違いすぎる。
「これが本場のベアハッグーー。亜米利加国立公園出身を舐めるなやー」
逃げようとしたジャガーをミゲールが抱え込む。
爪や牙で攻撃されるが、ミゲールの身体は、それを跳ね除け、金剛力増で盛り上がった熊の腕がギリギリとジャガーを締め上げた。
「今のうちやー」
ミゲールの叫びに応えるように、コーネリアスは麻酔銃をジャガーに押し付けて打ち込む。
「動きさえ封じて、戦意さえ奪えれば!」
片倉の鷹の目が、ジャガーの動きを的確に捉え、ネットで絡めとった。
しかし、乱戦で隊列の崩れた発掘隊員たちにジャガーたちの爪が迫る‥‥
そうだ‥‥
もしかしたら‥‥
天音は石笛を取り出して、力いっぱい吹いた。
ぴぃぃいいいいいいい!!
途端にジャガーたちの動きが乱れ、距離を取って後ずさりする。
「もう一度、吹け!」
ぴぃぃいいいいいいい!!
緑川に応えるように石の笛の音が響き渡った‥‥
●棺室
あの日以降、ジャガーたちの襲撃はなかった。
発掘隊の努力により、最終日にはライトの先に最深部の壁が映し出された。
遂に、あの日の、あの部屋に辿り着くことができたのだ。
「死んでいたんだね」
そこには、以前の探索のときに戦った、あのジャガーが冷たくなって倒れていた。
「こういう場所から、出てくるんがお約束やねんなぁ」
個人的には嫌〜な予感がするミゲールは遺骨の持ち出しに乗り気ではないが、当然、回収するに決まっていた。
「呪わんといて〜な」
チャックモールにも興味があるようだが、これまた弄って呪いを受けたらとか考えると‥‥
「ほらほら、記録をとったら遺品は搬出する」
とりあえず、やることをやらねば‥‥と。
「こノ先が、あルノカしら。そモソモ、あの兄サン、何を根拠にコの笛を鍵だと‥‥」
ミカエラは、先の探索を思い浮かべていた。
今度も散々な目に会っているだけに、少しくらい愚痴を言っても罰は当たらないだろう。
「さぁ、開けるぞ」
最深部の部屋が広くなって作業しやすいせいもあろうが、興奮と好奇心が彼らの能力を高めているのだろう。作業が早い。
さて‥‥
開封だ。
「黒き豹の戦士のレリーフ?」
発掘監督は、遺跡最深部の円筒型三足土器の中に遺骨と一緒に石板を発見した。
「これはテスカトリポカか‥‥」
夜の暗闇を司り、その名は『煙吐く鏡』を意味する太陽神ウィツィロポチトリの敵対者‥‥
魔術や変身の達人とされ、復讐や懲罰の神として畏怖された存在‥‥
黄色と黒で彩られた顔‥‥
膝から下がない片足は、世界の出来事を見通す鏡を一体になった姿で表される異形の神‥‥
その神と並ぶように、レリーフには黒豹の獣戦士の姿が書かれていた‥‥