メキシコ 夢中の発見南北アメリカ
種類 |
ショート
|
担当 |
シーダ
|
芸能 |
2Lv以上
|
獣人 |
2Lv以上
|
難度 |
普通
|
報酬 |
3万円
|
参加人数 |
8人
|
サポート |
0人
|
期間 |
06/29〜07/03
|
●本文
青い空‥‥
ライトブルーの海‥‥
鮮明な緑に覆われた大地‥‥
中米メキシコの首都・メキシコシティーにあるメキシコ国立人類学博物館には、人類学からメキシコ古代文明に至るまで様々な、考古学的に、美術的に価値のある展示資料に溢れている。
例えばアステカ文明の暦を図形化した巨大な太陽の石。
例えばトルテカ文明の中心地として栄えたトゥーラ遺跡の戦士の像。
例えばラスコーの壁画。
挙げれば切のない豊富な展示で、この地に住んでいた独特な文明を知ることができるのだ。
さて‥‥
この博物館に獣人たちが呼ばれたのには意味がある。
先頃、話題になっている虫食いの文書に関してWEAは幅広い情報を集めているからだ。
ここメキシコ国立人類学博物館の博物館員、ペドロ・ロドリゲスの部屋で調査のための説明が行われる。
「よく来てくれたな。今回の事件には、俺も興味がある。どんな情報が隠されているのか‥‥」
地黒の肌に太い眉、小さいがギョロリとした眼、癖のある離したの髭、いかにもメキシコ人という風貌の男は、虫食いの文書をモニターに映し出した。
彼は、この博物館を拠点にメキシコ地域の遺跡や文献の洗い直しと新発見のための探索の一翼を担っているのだと言う。
勿論、獣人でWEAの一員でもある。
「そこでだ。捜査活動の基本、現場百回というだろ? まずは大きな遺跡から順に潰していくことにした。
キミたちに担当してもらいたいのは、次の2つのうち1つだ。残る1つは私の部下が探索に行くから、1箇所を選んでくれ」
示された資料はチチェン・イツァー遺跡の中の2点‥‥
まずはエル・カラコルと呼ばれる遺跡。
マヤの天文観測をした『天文台』の遺跡で、9m程の露台の上に、カタツムリ(カラコル)と呼ばれる高さ13mあまりの崩れかけのドームが乗っている。一部の窓は春分と秋分の日没と月没の最北線を正確に観測ように向いており、他にも天文学的に意味のある設計になっているという。
次に戦士の宮殿と呼ばれる遺跡。
高さ10mほどの三層の基壇をもつ神殿の周りを、マヤの戦士の浮き彫りが描かれた石柱群が取り囲み、『千本柱の神殿』と呼ばれている遺跡である。神殿前面の最上段にはメキシコ国立人類学博物館にレプリカが展示されているチャックモールのオリジナルが安置されている。
「キミたちの探索に期待している‥‥とは言ってもな、これまでに散々調べまわったところだ。小さなことでいいんだ。新たな発見の糸口になるかもしれないからな」
ペドロは説明を続けた。
さて‥‥
現場を訪れたキミたちは、土地の有力者でロドリコという名の男から魔除けと歓迎を兼ねたプルケと呼ばれる酒を勧められ、ある者は率先して、また、ある者は渋々とその酒を呷った。
おかしい‥‥
段々と視界がぼやけて、光の中に飛び込んで行くような飛翔感を感じる。
そして、意識を取り戻したキミたちの視界に入ってきた風景は、さっきまでいた遺跡そのもの‥‥
いや、遺跡と言うには真新しい気がする。
もしかして‥‥
自分たちは過去に来てしまったのか‥‥
そう思いながらも、口は意に反して何事か喋り、身体の自由も利かない‥‥
●リプレイ本文
●葬送
荘厳で荒々しい、松明の焔が周囲を真っ赤に照らす。
「‥‥に囲まれても勇敢な女だった‥‥」
そのなかで、男たちの手によって柱が立てられ、レリーフに刻まれた戦士の活躍を想い出を一人一人が語り、柱から離れていく。
「夜が‥‥テス‥‥リポカ‥‥」
何だろう‥‥ 意識がぼやっとする‥‥
北沢晶(fa0065)は自分が戦死の装束を纏っているのだと、ぼんやり思った。
「また1人‥‥ 戦士が逝った‥‥ 僕は、あなたを忘れない‥‥」
自分の口から出た言葉であるのに、勝手に言葉が喉を通った。
体の自由が利かないのに、身体は柱に触れ、心で泣いているのを感じる。
柱から手を放し、次の者に順番を譲ると、周囲の風景が目に入る。
確か自分は戦士の宮殿にいたはず‥‥ だが、ここは戦士の宮殿に似てはいるが、少し雰囲気が違う‥‥
「戦士の魂が無事に神の許へ召されるよう。お前の魂は、その扉となるのだ」
羽毛ある蛇の神のチャックモールの上に寝かされた裸体の銀の髪の少女は、何も言わず、翡翠色の瞳を閉じた。
生贄は決闘の勝者‥‥?
勝者の栄光をもって贄とし、神を召喚し、死者が神の許へ召されるように‥‥ 勝っちゃいけなかったんだわ‥‥
漠然と小野田有馬(fa1242)は思った。
しかし、そのときには‥‥
神官の手に握られた黒曜石の切っ先が、呪文と共に少女の胸へとゆっくりと振り下ろされ‥‥
●勝利の行方
大胆な胸当て、短い腰当てで、兵を指揮する女性がいる。
「敵の戦士を討ち取った者には、わらわが褒美をとらそう。抱擁してやろうぞ。そして、わらわにたっぷりと奉仕するのじゃ」
女戦士は、高笑いで突撃を支持している。
各務・皐月(fa3451)は、気を失いそうになりつつ、女戦士の感覚を共有している。
何なのよぉ‥‥
何が起きてるの?
飛び掛ってきたジャガーを翼の羽ばたき1つでかわし、蹴りをいれる。
「他愛もない」
「させないよ。‥‥は、僕が‥‥るんだ」
女戦士に立ち向かい、少年戦士が震える手で棍棒を構えている。
わっ、こんなことして、危ないって。
Rickey(fa3846)は必死に止めようとするが、身体は勝手に動く。
これは夢なんだと納得させようとするが‥‥
だめ‥‥ 駄目だったら‥‥
いやぁあああ‥‥
「あはは‥‥は! 滅ぼしてく‥‥わ。わらわのために‥‥死‥‥」
立ち向かってきた敵兵の胸に刃を突き立てると、心臓をつかみ出し、掲げた。
「神よ‥‥ わらわに力を‥‥」
女戦士の見た光景は、思わず目をつぶった各務の中に止め処なく流れ込み‥‥
Rickeyは心臓が抉り出されるところを見ることになった‥‥
●神域
「星の瞬きに異変が‥‥」
金の髪、茶の瞳の女性は空を見上げた。
「凶事か?」
「わかりま‥‥ぬ」
女性の後を追うように獣戦士たちは階段を登っていく。
綺麗な星空‥‥
カリン・マーブル(fa2266)は意識に溶け込んでくる、澄んだ星空の美しさに感嘆した。
あぁ‥‥ もっと見ていたいのに‥‥
カリンの意識では、女性の体を自由にすることはできない。
沢山の柱に支えられた建物の中を抜け、再び同じような建築物を目指した。
「この地を捨てねばならぬのか‥‥ ‥‥が‥‥ ‥‥というのに」
銀に近い灰色の髪に群青の瞳持つ青年は唇を噛んでいる。
果たしてこれは、夢か幻か‥‥ それとも現なのか‥‥
カイン・フォルネウス(fa2446)の考えは纏まらない。
「口惜‥‥ 俺‥‥倒す。威光を‥‥れた古き‥‥‥‥」
無精髭を生やした黒き瞳の戦士は、黒き衣装を纏った女戦士に何事か話しかけている。
「なるようになれ‥‥とでも言うつもりですか? このままでは‥‥」
「やってみなけりゃ、わか‥‥いさ」
片倉 神無(fa3678)はジャガーの女戦士に笑った。
ん? 俺は何を‥‥ それにここは‥‥
何だろう‥‥ 戦わなくては、いけない気がする‥‥
でも、何のために戦わなければならないのだろう‥‥
●決闘
幼さの残る少女が黒曜石の短剣を持ち、ジャガーのチャックモールの前で一糸纏わぬ姿で相対している。
チャックモール‥‥
生贄の儀式に用いられていたと‥‥思ったけど‥‥
ああ、どうしよう。たぶん考えちゃいけないはずなのに、生贄のことばかり浮かんでくるわ‥‥
小野田は、目の前の光景をぼんやり眺めている。
壁や門のマヤ文字を記録‥‥しないと‥‥ カメラがないわ‥‥ マヤ文字じゃ、憶えて帰るのにも無理が‥‥あるわよ‥‥ねえ‥‥
目の前の少女は、自分に向かってくる。
なぜ? なぜ、私は剣を持っているの?
混濁した意識の中、小野田は剣を構えた自分の体、いや、少女の体が自由にならないことにようやく気がついた。
ああ、また生贄のことが思い浮かぶわ‥‥
生贄には、何かの試合に負けた人間の心臓を使うのよね‥‥ 負けたら殺される‥‥
怖いわ‥‥ 負けちゃダメ‥‥ 負けちゃ‥‥ダメ‥‥
剣を振るい、ただでは済まない切っ先を、必死に身をよじってかわす。
なんだか悪い予感がするわ‥‥ 何か‥‥とてつもない‥‥、言いようのない不安が‥‥
●驚愕の刃
「なぜ‥‥」
黒き瞳の戦士は、虚空を掴むように女へ腕を伸ばした。
片倉は、絶望感と深い悲しみに包まれている。
俺は戦士の想いに共感しているのか?
黒豹の女は、剣に滴る血を拭おうともしない。
「貴様っ!」
コンドルの戦士が黒曜石の切っ先が埋め込まれた棍棒を構えて舞い降りてきた。
強烈な怒りと同時に鶸・檜皮(fa2614)の胸に悲しみの奔流が巻き起こる。
振り回す棍棒は、黒き瞳の戦士の命を奪った女には届かない。
「なぜ裏切ったぁ! いったいどうなっている!!」
天高く振り上げた指に雷光を集め、コンドルの戦士は、女に稲妻を撃った。
それをものともせず、女はコンドルの戦士の翼を断ち切る。
「仕方なかったのよ‥‥」
驚愕の言葉に、心は刃で切り裂かれた‥‥
●戦い
「ここから先は一歩も通さん!!」
「武器を取る暇もなかったか? 死ぬがいい」
銀に近い灰色の髪の獣戦士は、上擦ったような声で狂気の笑いを浮かべる男たちの前に立ち塞がり、拳を握り締めた。
これは‥‥
アステカ時代の戦争なのか‥‥
カインの戦いの本能に火が付く‥‥
それに呼応するかのように銀に近い灰色の髪の獣戦士は地を蹴る。
敵の穂先をかわし、柄に手をかけると相手の力を利用して槍を奪い取り、突き出した拳が敵の鼻を砕いた。
回りこもうとする敵を槍で薙ぎ払い、迂回しようとしている敵を見つけ、一手で槍の握りを変えると、その背に投げつけた。
遅い‥‥
上体を逸らし、後方に手をついて一回転。棍棒を避けた。
「くそっ! こいつ、手強い!!」
敵兵たちは、たじろんだようだ。
これでいい‥‥
カインは何故か、そう思った。
時間を稼がなければ‥‥
「ははっ! ‥‥が来たからには‥‥も最後だ」
眉間に宝石の光る大蛇が、樹木を押し倒しながら銀に近い灰色の髪の獣戦士に迫ってくる‥‥
「退け、‥‥! ‥‥は放棄する!!」
黒髪の優男の戦士が斬り込んでくる。
その牙は、その爪は、敵を斬り裂いて大地を抱かせた。
何を放棄するのだろう‥‥
北沢は、何か大切なものを喪失する予感に、胸が締め付けられた。
●帰還
あのっ‥‥ あのっ‥‥
誰かの声が聞え、真っ白な光の中に意識が飛び込むと、肌に懐かしい熱気を感じた。
「ここは?」
「戦士の宮殿よ。全く‥‥ 全員で寝こけていたんですか?」
自らをペドロの部下で今回のガイド役と説明した獣人の女性は、名をルダと名乗り、鶸たちを介抱し始めた。
「うわあっ!! 怖い夢見たぁ‥‥ 心臓、取り出されて、死ぬかと思ったよ」
突然飛び起きたRickeyは大きく溜め息をついて、涙目になっている。
「夢‥‥にしては妙に現実感があったというか‥‥ 不思議な夢だったな」
鶸はずきずきする頭を振った。疲労感で思わず遺跡に背をもたれてしまうほどに‥‥
「俺に似た男が戦っている夢を見た。何だろう‥‥ 神殿風の建物を抜けて山腹を登っていく夢も見たような‥‥ んん‥‥」
カインも苦しそうに蹲り、不規則な息をゆっくりと吐いている。
それなら自分たちも‥‥と、カリンたちは互いに自分たちが経験した‥‥ いや、違うか‥‥、見せられた‥‥かのような不思議な体験を話し出した。
「不思議な夢を見たのは、どうやら俺だけじゃないみただね」
「皆さん、体調が良くないようですし、一度、博物館に戻りましょう。
全員が同じ夢を見たというのなら、何かの意味があるのかもしれません。調べてみた方が良いです」
「夢は、ただの夢でしかない。俺は今まで、そう思って生きてきたが‥‥、考えを改めるべきかな‥‥」
体調不良を訴えるRickeyや鶸たちに依存はなかった‥‥
「その前に」
酔ったふりをしてルダのスカートの中を覗こうとした北沢は‥‥
「赤?」
強烈な蹴りを喰らうのだった‥‥
「お子様ね。それくらいサービスしてあげなきゃ。ほら、わらわの荷物をお持ちなさい」
「はい〜〜♪」
各務の際どい服装に魅惑された北沢は、鼻血を流しながら率先して荷物持ちをするのだった。
さて‥‥
土地の有力者にロドリコなどという者はおらず、誰がプルケを飲ませたのか、そのプルケが何であったのか、後の調べではわからなかった。誰が何のためにやったことなのか、何を意味することなのか‥‥今はわからない‥‥