古の獣を呼ぶ声南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
シーダ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
3.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/19〜07/23
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●本文
それは1冊の変哲のない冊子‥‥
そう‥‥
書物と呼ぶには及ばない、10枚程度の紙面を綴じただけの何かの機関紙、あるいは同人誌といった類の記事‥‥
それがこんな事件を呼ぶとは‥‥
いや‥‥
私にそんなつもりはなかったのだ。
こんなことになるなんて‥‥
‥‥
話しても信じてはもらえないだろう‥‥
あいつらが来る‥‥
古き神々‥‥
古き神々の使いたる、古の獣たちが‥‥
ただ‥‥
ただ、古の都へ到達するために必要となる呪文を試しただけなのに‥‥
※ ※ ※
「番組は、こうして始まります」
「オゥ、グレイトな仕上がりだ」
出来上がった脚本に目を通した監督は、満足げにニッと笑っている。
物語の冒頭は次のように続いた‥‥
※ ※ ※
1992年のアメリカ、ニューヨーク郊外での出来事‥‥
人類学や超心理学の研究を、趣味から実益、つまり仕事にして数年。
生憎とパトロンはいないが、細々と研究を続けるのに十分な財産はある。
仕事にしてからの数年で、好事家、その道の研究家、専門家との繋がりもでき、研究も進んでいると自負している。
他人から見れば、何が進んだのかと指摘されるかもしれないが、それは物を知らないからだ。
何より、時間がたっぷりとあることで、世界に散っている数多の神秘を覗く手間を惜しまなくていいというのが良い。
いずれは魔道師と呼ばれた過去の探求者たちのように、秘術を解き明かし、他者が求めて止まない魔道書を残してやるなどと野望を話したら、友人には笑われてしまったが‥‥
先祖からの遺産を食い潰す典型のような道楽‥‥
他人からは、そんな謗りを受けたこともある。
しかし、私は後悔していない。
過去の英知を垣間見ることのできる一瞬の甘美な感覚‥‥
あの一瞬を、あの者たちは知らないのだ‥‥
●リプレイ本文
●古書店
その雰囲気のある古書店を見つけたのは1993年のことだ。
ニューヨークのビル街の裏路地にポツンと建っていた。
不思議に興味を引かれ、私は扉を開けた。
私、ジェイムズ・ベイ・ライン(役者:コーネリアス・O(fa3776))は、超心理学の教鞭を取っている。
仕事柄かオカルトじみた分野への興味は絶えない。
その殆んどが虚構や法螺であったとしても、現在の科学的常識を超えた現象は存在するからだ。
それが、私の隣にいる少女・ジョシュア(役者:ヨシュア・ルーン(fa3577))だ。
17か18くらいにしか見えない彼女と出会ったのは、10年も前のことだが、彼女は、それから1つも年を取ったように見えない。
これ以上の証拠があろうか‥‥
私たちは意外に広い内部の書棚を巡りながら幾つもの本を手にした。
書体や体裁を見ればわかる。どれも偽物だ。
失笑した瞬間、いつの間に現れたのか、女性(役者:シヅル・ナタス(fa2459))が立っていた。
「人にも物にも縁というものがある。ここにある本も、いずれは縁で結ばれた相手に渡るだろう」
この古書店の主人だというエニグマという女は、まるで演劇の舞台で舞っているかのような身のこなしで、やがて1つの冊子を手にした。
10枚程度の紙面を綴じただけの冊子‥‥
ジョシュアの反応を見なくてもわかる。本物だけが漂わせている異様な、奇妙な雰囲気。
ページの多少など問題ではない! 紛うことなき魔道書‥‥
パラパラめくった。
なんと無名祭祀書の一部を写したものではないか‥‥
是非欲しいという言葉を飲み込みつつ、私が幾らかと聞くと、女主人は10ドルだと言った。
逸る気持ちを抑えつつ、紙幣を渡す。
「あなたと、この本の出会いに祝福を」
女主人が、この冊子の本当の価値に気づかないうちに早く、この店を出なくては。
「さてさて、これで舞台は整う。喜劇か悲劇かは彼次第。せいぜい僕を楽しませる劇を演じてほしいものだね」
メフィストフェレスのような笑みを浮かべる女主人の言葉を無視し、私はジョシュアの手を引いて、振り返りもせずに店を離れた。
●調査
「精神の高揚による猟奇的殺人? やれやれ、どこのホラー小説の模倣だ?」
俺は憮然とした顔で報告書を探偵事務所の机に叩きつけた。
俺、ネイトス(役者:天霧 浮谷(fa1024))の仕事には、科学的見解や事実の列挙を基づくと定評があったはずだ。
それがどうだ‥‥
近頃、娘同然のジョシュアの様子がおかしい‥‥と調査を依頼してきたジェイムズ教授に、こんなもの見せられるかと溜め息をつく。
待ち合わせの5分前に依頼人は、やって来た。
仕方なく、ありのままを依頼人に報告した。
ジョシュアという人間は、法規上、存在しないこと。
ジョシュアは最近になって活発に人付き合いを始めたこと。
最近、カルト教団とジョシュアに関わりがあること。
エニグマという古書店は存在しないこと。
それらを含め、写真やテープで様々な事実を列挙し、客観的な視点で報告書を補足した。
「調査対象・ジョシュアは、獣に取り憑かれたと思っている精神異常者‥‥という結論に至りました‥‥」
語尾を濁した俺を静かに制し、ジェイムズ氏は眼鏡の位置を指で直した。
「緻密な調査だ。実によくできた報告書であることはわかる。結果は兎も角、報告書には満足しているよ」
教授の寂しそうな表情を浮かべている。
「それでは引き続き、調査を頼みたい。何だか嫌な予感がするんだ‥‥ 凄く」
追加の費用を札束で差し出し、教授は寂しそうに笑って帰っていく。
「ふん、面白くなってきやがった」
「面白いもんか。身元不明の謎の少女による猟奇快楽連続殺人だぞ」
「だからスクープになるんじゃないか」
奥の部屋から現れたのはマーク・ベイツ(役者:結城丈治(fa2605))。
ジャーナリストという職業柄、色んなところに顔が利くし、聞き込みやニュースソースの裏づけなんかに役立ってくれている。
「マーク、カルト教団について調べてくれるか?」
「OK。オカルトは、オレの得意分野じゃないがな」
暗色の上着を羽織ると、マークは俺の事務所を飛び出して行った。
それから数日。
少しでも情報を集めるため、足を棒にしているが、ちっとも捜査は進みやしない。
「ねぇ、ネイトス。アンのこと、ちゃんと調べてくれてる?」
教会で祈りを捧げていたシャロン・カイル(役者:十六夜勇加理(fa3426))に声をかけようとして、逆に話しかけられた。
俺と同じで、変なところで鋭い娘だ。
「無事で見つかってくれるといいんだが‥‥」
行方不明の親友のために健気に祈る姿に感傷しながら、そう言うしかなかった。
●狂気
暗黒教団との繋がりアリと突き止めた資産家のハイムーンという名のビル。
その10階。資産家ハワード・カーターの部屋に邪魔させてもらっている。
1面は大きく窓で、両側に備え付けられた本棚は圧倒するように壁を埋めている。
こうやって調べるのは危険だが、事件が事件だ。
ネイトスが警察に当たりを付けたらしいが、カルトがらみということで、案の定、相手にされなかったようだからな。
さて‥‥
二重になった机の棚があった。よくも、こんな在り来たりな仕掛けで、オレの目を誤魔化そうなんて。
「暗黒教団?」
封筒には翼の生えた蛸のようなデザインと共にそう書かれている。
書類をマイクロカメラで写しながら、ざっと目を通していく。
「水底の都から古の神を復活させる? 馬鹿な話を」
更に目を通すが、溜め息しか出てこない。
「この町全体が狂‥‥」
失笑するオレの首筋の後ろにバチッと激痛が走り‥‥
どこにいるのだろう‥‥
見慣れぬ天井を眺め、ぼんやりと考えた。
バチッと何かをくらって‥‥
はっ! 気絶させられたんだ!!
どれくらい経ったんだ? ここは?
僅かに自由になる首を巡らせると、裸で台の上に寝かされ、身体には不思議な文様が描かれている。
?
ローブを身に纏った少女が近付いてくる。
ジョシュア?
短剣で何をする気だ?
くそっ、もう終わりだ。
猟奇殺人の犠牲者たちのように心臓を取り出され、ハドソン川に浮かぶのか。
銃声!?
「マーク、男のくせにだらしないわね」
シャロン‥‥
何という神の助け!
「やっぱり、あんただったんだね! 銀の弾丸の威力は、どう?」
「こんなものが効くものか」
ジョシュアが傷口を拭うと、血は止まり、彼女の身体は徐々に鳥のそれになっていく。
か、身体が動く!?
「急げ! ここはヤバイ!!」
叫ぶなり、裸なのも忘れ、シャロンの手を引いて走る。
ジョシュアが儀式を完成させれば、この地は古の都との通路が開かれる‥‥
何かの名前のようなものが書いてあったな。サルコマンド? それともカダス?
そんなことはいい。逃げなければ‥‥
地の果てまでも‥‥
●異門
私は供物台に寝かされているようだ。身体の自由が利かない。
そうだ。調べ物をしていて、背後からスタンガンか何かで‥‥
「ジョシュア‥‥ 最近、おかしくないかい? 君らしくもない‥‥」
「あの冊子が、我が記憶を呼び覚ましてくれた。我は在るべき世界へ帰る。古の都に」
「まさか‥‥ いくらなんでも、そんなのは只のオカルトだ!」
ジョシュアの表情は常軌を逸している。
ぶ・すくありあ・すぅらん しく・しくる‥‥
ジョシュアの口から発せられた言葉は霧となって宙を舞い、渦を巻いて空間を切り裂く。
「獅子の頭(こうべ)持つ禁断の都の門番よ! 我が呼びかけに応えよ!」
あれは、獣に君臨する偉大なる悪魔・ルガイ・ワタ(役者:水沢 鷹弘(fa3831))‥‥
獅子の形をしながら、人でもある異形の奉仕種族‥‥
「我は在るべき世界に帰る。道案内を頼みたい」
「いま少し贄が足りぬ」
「ふっ! 生け贄ならばここにいる」
不遜な態度で見下ろすジョシュアの短剣が、私の胸に滑り込んでいく‥‥
「しまった、一足遅かったか!」
『私に何かあれば、それは同じ事件の1つだと思ってくれ』という教授の手紙と、教授失踪とジョシュアの隠れ処の住所が記されたマークの書き置きを見て、飛んで来たが遅かったようだ。
教授の心臓はジョシュアの手にある。
背後の渦巻く空間‥‥
獅子の獣人‥‥
俺までおかしくなったのか?
「あんたは一種の精神病、そんな獣なんてのは実在しないんだよ。精神病院まで送ってやるから、おとなしく寝てろ!」
「愚かな。あれも贄にしろ」
ジョシュアが短剣を手に迫ってくる。
銃を抜け! ちゃんと動くんだ!!
その時だった。
教授の微かな声と共に寒気がした。いや、部屋の温度が急激に下がったのだ。
獰猛なる金鱗の戦竜人(役者:ヴァールハイト・S(fa3308))だ‥‥
時空を超えて戦うべき相手を求めて彷徨うという、あの屈強な戦士の部族‥‥
それが、古の都の扉の向こうから現れたのだ。
そう言って教授は力を失った。
ジョシュアは、その姿を鳥の姿の人に変え、獅子の獣人と共に金の竜人と戦い始めた。
空間が歪み、部屋中に埃と破片が飛び散る!
『逃げなさい』
頭に響いた教授の声に我に返った俺は一目散に駆け出した。
俺が気が付いたのは、1ヶ月も後のことだ。因果なことに精神病院のベッドの上でな‥‥
そして、本当のことを話せば話すほど、退院の時期が遅れる。そう気づいたのは、それから暫くしてのことだった‥‥