刑事、撃たれてなんぼ3南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
シーダ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
2Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
07/21〜07/25
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●本文
●VTR『刑事、撃たれてなんぼ 憎むべきもの』
場末の倉庫‥‥
「開けてみろ、サンタナ」
シートをはがした箱をサンタナと呼ばれた少年が乱暴に開いた。
「すげぇ‥‥ ひゃははは」
箱の中には銃器が入っていた。普通に買えるようなハンドガンではない。
サブマシンガンにアサルトライフル‥‥ 殺傷力の高い銃器ばかりが数丁、それにプラスチック爆弾まで‥‥
(「戦争でもするつもり?」)
リズは息を呑みながらシャッターを切り続けた。
「よぉ、スクープだって?」
「リチャードにだけは知らせておこうと思ってね。言ったろ? スクープを取って本物の記者になるって」
小声で話しかける刑事リチャードにウィンク一つ。
フィルムを取り替えようとしてリズは肘をぶつけた。
カラァ‥‥ン‥‥
パイプが落ちる音が響き、震え慄き思わず立ち上がったリズの手を掴んで、リチャードは走り出す‥‥が‥‥
「チクショウ、ついてねぇ」
ジャックはハンドガンを構えると躊躇なく撃つ!
ピスピス‥‥
リチャードと、咄嗟にカメラを守るように背中を向けるリズを銃弾が捉え、2人は縺れあって倒れた。
パトカーのサイレンが近付いてくるのを聞いてジャックは発車させる。
「カメラは‥‥無事?」
「あぁ、大丈夫だ」
身体を貫通した銃弾はカメラで止まっていたが、それを彼女に言うことはできない。
「バカだね‥‥ 平凡な暮らしが幸せだって‥‥、死ななきゃ‥‥わかんないなんて‥‥さ‥‥」
「諦めるな!」
リチャードが傷口を押さえて止血するが、出血は止まらない。
みるみるうちに血溜まりとなり、リチャードの服を掴んでいた指が力を失って、ズルズルと崩れ落ちる。
「リズ‥‥」
リズの目に何も映らないのと同じように、割れたレンズも、もう何も写すことはないのだ‥‥
リチャードはカメラを抱かせるように胸の上に置き、目蓋を閉じさせた。
〜 中略 〜
アーロンは防弾チョッキに弾を受けながら物影に隠れこんだ。
「備えあれば憂い無しって言葉がだな‥‥」
突然、横倒しにアーロンが倒れる。
頭からは大量の血が流れ出し、即死‥‥
リチャードを押し倒したマッスルも動かない‥‥
「こうなっちまったのも、全部お前たちのせいだ!」
リチャードに避ける間はなく、ジャックの構えた銃口が火を吹く。
ギャィイン‥‥
何かに弾かれたのか、リチャードは無事だ。
「そんなバカな!」
ジャックのハンドガンが、再びリチャードを狙う‥‥
「リズの夢を!」
リチャードの投げた写真が宙に舞い、次々と穴が開いていく。
「ハンナの幸せを!!」
「くそぉおお」
飛来したバースデーカードがジャックの手に中り、射線がずれる!
「死んでいった皆の無念を思い知れ!」
間合いを詰めたリチャードの熱い拳が、ジャックを吹き飛ばし、ガレキの中に!
「ちっくしょ‥‥ 思い知るのは、お前の方さ」
再びジャックの銃口がリチャードを捉えた。
スルッ‥‥
そのとき、リチャードのスーツからこぼれたのは、同僚刑事から託された銃‥‥
時間がゆっくりと流れていく‥‥
ガチャリ‥‥ ズパン‥‥
リチャードが落とした銃の弾丸を受けて、ジャックは後ろ向きに倒れこんだ。
「ありがとよ、マッスル‥‥ アーロン‥‥ リック‥‥ 皆‥‥」
テンガロンハットを目深に被ったリチャードの頬に、夕陽が一筋、光った‥‥
●打ち合わせ
「今回のタイトルは『リチャード、暁に死す そして、2度死ぬ』だ。どう思う、ディーン?」
助監督がリチャード役の俳優ディーン・アンダーソンに台本を渡し、緊張の面持ちで見つめている。
煙草を燻らせながら、暫し‥‥
「成る程、いいですよ」
「オーケィ、グレイトな撃たれっぷりを期待してるぜ。ディーン」
監督は、上機嫌にディーンの肩を叩いた。
●リプレイ本文
●Aパート・恨みの炎
「彼は正義の人だった‥‥」
リチャード刑事の勤務する管内では凶悪犯罪が絶えず、被害者となる市民も殉職する警官も後を絶たない。
「リック‥‥」
念願の刑事になった途端に凶弾に倒れた、ジム(役者:Rickey(fa3846))の双子の弟も、そうだ。
参列者たちが花を捧げつつ祈りを込めてリックを送る。
「ジムお兄ちゃん、元気を出して」
ジムとリックの姪、ミルア(役者:アルケミスト(fa0318))が小さな身体を伸ばして優しくハグするが、ジムの視線は弟の棺に向けられたまま。
やがて棺おけに土がかけられていく。
そこへ雨がパラつき、本当に彼の死を痛んでいる者以外、急な雨を避けるように散っていく。
「ミルア、帰るわよ」
「でも‥‥」
手を引かれるミルアらと行き違いに男が1人、近付いてくる。
「キミの弟が死んだのはリチャードという刑事のせいだ。彼は弟さんを盾にして助かったんだ」
ジョン(役者:北沢晶(fa0065))と名乗った男は、視線も合わせずに呟いた。
歯噛みするジムの拳がギュッと握り締められる。
ジョンは去っていく。泣いているかのような、ずぶ濡れのジムを残して‥‥
「よくやった、リチャード」
「任せておけ」
テンガロンハットにスーツ姿の若い刑事(役者:死堕天(fa0365))が強盗犯を取り押さえ、不敵に笑う。
「しかし、お前ら2人いると紛らわしいな。せめて、どっちか愛称で‥‥」
その興奮の最中、彼らを狙う人影‥‥
「あれがリチャードか。弟の無念を思い知れ!」
トリガーに指が掛かる‥‥
ダダン‥‥ン‥‥
銃声が響いた。
さっきの若い刑事が倒れ込み、近くにいた美形の青年(役者:白鳥沢 優雅(fa0361))が崩れ落ちると、僅かに時をずらして、その後ろにいた男が倒れ、一気に路地が3人の血で染まっていく‥‥
「リチャード!」
負傷した者を引き摺るように刑事たちは身を隠すと、視線の先で全力疾走する男が路地へ駆け込んだ。
●Aパート・狙われる者
「禁煙ですよ、警部」
「そう堅いこと言うなって」
苦笑いを痛みで歪めながら、リチャードは差し出された煙草を咥えた。
「リッキーも、通りがかりの青年も、さっき息を引き取ったよ」
「そうですか‥‥」
病院のベッドの上のリチャードは、煙草に火を着けようとしてした手を止め、深く溜め息をついた。
「なぁ、ディック。これは可能性でしかないんだが、リチャードという刑事が狙われたかもしれん。銃弾は2発。それぞれの弾が、2人のリチャード刑事を狙っていた。お前は野次馬の青年の身体を通過して軌道の変わった弾丸をくらって何とか無事だったというわけだ」
ゴードン=アンドレソン警部(役者:片倉 神無(fa3678))の言葉に、リチャードは暫くして煙を吐いた。
「リッキーとディック、同じリチャードという名の刑事が狙われたというのか?」
「ディック、お前が狙われたのさ。あいつは、強運の男にあやかりたいって、お前の帽子とスーツを真似てたからな」
「また狙われるってことか」
「そう思って護衛を付けといた。怪我してるんだから、暫くジッとしてるんだな。疫病神」
ゴードン警部が苦笑いで部屋を出ると、
「そうはいかないさ‥‥」
リチャードは小さく呟いた。
ブラウン管にはニュースが映し出されている。
「白昼の凶事、強盗を取り押さえた警官たちに撃ち込まれた銃弾は‥‥」
市民1名、警官1名が死亡。警官1名が負傷というニュースを聞くうち、リチャードの名が2つ出てきたことで、ジムの背中が震える。
「まさか‥‥」
「そうさ。ぬか喜びだったな。お前が殺したのは別のリチャードだ。あいつは、また、仲間を盾にしたのさ」
「そうか、リチャードめ‥‥ 俺を騙しやがって!」
ジョンに病院の住所を聞き、ジムはハンドガンを握り締めて部屋を出た。
彼らが去った後、
「お兄ちゃん」
カーテンの陰から唇を噛み締める1人の少女が姿を現した‥‥
●Bパート・影
「大きな麻薬取引を度々潰した憎きリチャードを早く消せとボスからの伝言です」
「殺しにも美学は必要さ。仕組んだ復讐の弾丸は残っている。ボスには、そう伝えてくれ」
若い男(役者:焔(fa0374))と別れたジョンは、襲撃時のジムの格好を真似、病院に忍びこんでいく。
「退院するよ。ここで襲われたらまた、犠牲者が出る」
「その傷でか? ふざけるな。捜査からは外されてる。大人しくしてな‥‥ これ以上、犠牲者を増やされちゃ、たまったもんじゃない」
「傷は関係ないよ。病院に居る人を巻き込みたくない」
力強いリチャードの視線には、ゴードン警部の凄みを利かせた言葉も役には立たない。
「ふぅ‥‥ 仕方ないな。せめて、これを着て行け。俺の命を何度も救ってくれ‥‥たっ」
ベッドを回り込み、防弾チョッキを渡した警部は言葉を詰まらせ、血を吐いた。
「疫病神の、とばっちりで、また犠牲者が‥‥か」
「警部‥‥」
「心配‥‥するな‥‥ 俺は独り身だからな‥‥ 恨む奴も、泣く奴もおらん‥‥さ‥‥」
身を隠してナースコールを押し、射撃ポイントを探すと、男が逃げ出すところだった。
●Bパート・恨みの果て
犯人を追って町を彷徨うリチャード。傷が痛むのか、煙草に火を着けた。
「リチャード刑事か?」
「そうだ。リック!?」
死んだはずの同僚の顔を見て、リチャードは咥え煙草を落とした。
「俺はジム。リックの兄だ。これを受け取ってほしいと思ってな」
ジムの手には手の平サイズのオルゴールが乗っている。
「リックの宝物さ。あんたにはリックの死を忘れてほしくない。死ぬまでな」
「わかった‥‥」
オルゴールを渡し、ジムは踵を返した。
「それを捨てて! 危ない!!」
少女の声で、反射的にリチャードは、それを投げ、チッと舌打ちをして、ジムは握り締めていた起爆スイッチを押す。
ズガム!!
爆発で1台の車が逆さまに転がる。
運転席には、ダークグレーのスーツにサングラスの、いかにも駆け出しのマフィア(役者:焔(fa0374))が1人。脱出を試みるが、ドアは開かず、窓も潰れていた。
「貧乏クジを引いたか。マフィアの人生も、ドラマティックには、いかないな」
押しつぶされた運転席の中、吐血交じりの苦笑をし、煙草に火を着けようとした瞬間、車が爆炎と共に吹っ飛ぶ。
火の付いた札束が舞い、トランクに積み込まれていた銃器が道路に転がり、リチャードとミルアが吹き飛ばされる。
奇跡的に煤にまみれただけのミルアとリチャードは、ゆっくり立ち上がった。
「警部‥‥ 助けてもらいました」
至近のリチャードは、ゴードン警部の託してくれた防弾チョッキが破片を防いでくれたようだ。
「くそっ、ぬか喜びさせやがって」
ビルの屋上で、その様子に高みの見物を決め込んでいたジョンは、悪態をついた。
気配を感じたジョンが振り向くと、顔を隠した男(役者:白鳥沢)が立っている。
「お前か。リチャードは死ぬ。もう少しでな」
「そうか」
男の答えとは裏腹に、サイレンサー付きの拳銃がプシュッと音を立て、ジョンが崩れ落ちる。
「何故‥‥」
「ボスは御怒りだ。キラーの称号も地に落ちたとな」
「こんな筈じゃ‥‥ くそっ、リチャード‥‥ あいつの強運のせいだ。何なんだ奴は!」
怒鳴るが、それで血が止まるわけではない。消音された銃声のたびに、ジョンは更に朱に染まる。
「ヤツの強運のせい? 確かにな。俺の装備も今、吹き飛ばされたよ。運悪くな。態勢を立て直すために、組織は今回は手を引く」
男は床に伏せたジョンを残して歩いてゆく。
「これも、あいつの強運の一部か? 格好‥‥悪いぜ」
最後にジョンの放った銃弾は、男の心臓を背中から貫いた。
「嬢ちゃん、ありがとよ」
「アンタの命なんてどうでも良いわ。でも、ジムお兄ちゃんがリックお兄ちゃんのことで、手を汚さなきゃならないなんて許さない!」
ミルアはリチャードの手を振り解いて叫ぶ。
「ミルア、どけ。リックが死んだのはリチャードのせいだ。俺は許さない」
静かな口調だけに、その奥底の怒りが伝わってくる。
ジムは転がっていたハンドガンを拾うと、リチャードに狙いを定めた。
「駄目!」
「危ない。下がっていろ」
「嫌よ! お兄ちゃんは私が説得するわ!!」
銃口の前でリチャードとミルアが揉み合い、ジムは間合いを詰めていく。
「やめろ、ジム。恨みは何も生まない。キミには、こんなに愛してくれる家族がいるじゃないか」
リチャードの声はジムに届かない‥‥
「死ね」
ついにトリガーを引いた。
バンッ‥‥
銃声と共に血が飛ぶ‥‥
「お兄ちゃん‥‥ 駄目‥‥だよ、こんなの。過去に縛られないで!」
リチャードを突き飛ばしたミルアは、真っ白なワンピースを血で染めながら微笑み、ジムに抱きつくように倒れこんだ。
「俺は‥‥ 俺は、何て事を‥‥」
銃を落とし、ミルアを抱きしめ、傷口に手で塞ぐ。
「ミルア、お前の言っていたことは本当だったよ。恨みは周りを不幸にするって‥‥ 本当だった‥‥」
ジムの頬に付いた血が、洗い流されていく。
「きっと助かる。死ぬなよ」
「うん‥‥ ジムお兄‥‥ちゃん。あ‥‥ リックお兄ちゃんだ‥‥」
ミルアの首が力を失う‥‥
「俺が‥‥ 間違っていた‥‥」
「馬鹿!」
止める間もなく、ジムは頭に向けた銃の引き金を引いた。
「馬鹿野郎‥‥ 死んだら意味ないだろうが‥‥」
身体を寄せ合う2人を前に、リチャードは空を見上げて泣いた‥‥