ワシントンvsサツマ南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
シーダ
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
5.2万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
11/24〜12/03
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●本文
重厚な巨体で大海原を波を蹴立てて雄大に走る巨大戦艦‥‥
48センチ50口径連装砲である主砲を稼動させるモーター音が響く中、甲板要員たちは艦内へと非難していく。
この巨砲が一度火を噴けば、甲板上部は凄まじい爆風に包み込まれる。それ程に強力なものなのである。
灰色の艦体色に独特の低い方形艦橋、最新型レーダーの装備された、そして通信マストには合衆国海軍旗が掲げられている。これがアメリカ海軍が建造した最大最強の新設計艦である超弩級戦艦ワシントンだ。
主砲は前方に2門、後部主砲1門の1段下には30センチ40口径の副砲1門。艦橋側方を中心に30ミリ2連装対空スポンソン砲56基を装備した姿は太い全幅から想像に難くない重装甲とダメージコントロールに優れ、主砲と副砲に限っては初歩的なレーダー射撃が可能な艦である。明確な弱点があるとすれば艦速27ノットという鈍足艦であることだろう。
場面は変わって朝日をバックに光を割って進むのは、ジャパン国の改ヤマト級最新鋭艦である鉄の城・超弩級戦艦サツマ。
背の高い楼閣艦橋、独特なラインの煙突、日章旗が掲げられたマスト、後部戦闘指揮所となる楼閣を備え、46センチ50口径連装砲4門を前後に2門ずつ装備する流麗な艦形。対空兵装として3式弾の発展量産型の新型対空砲弾を発射するための10センチ60口径副砲対空両用連装砲を艦橋を挟んで左右に3門ずつ、25ミリ3連装対空機銃座30基を持つ。
コンパクトに造られていながら自らの主砲塔の破壊力以上の防御力を持つ防御区画、注排水システムによる驚異的な復元能力、そして発展型バルバスバウなど最先端の艦形も相まって艦速は34ノットを誇る。
「凄いな‥‥ 」
小さな映画会社を買収した新しいオーナーは買収先の会社のデータベースを見て唖然とした。
『ワシントンvsサツマ』と銘打たれた動画は激しい海戦を映し出している。
「安い買い物だったでしょ? ミスター」
「確かに‥‥」
社長のワンマンぶりに呆れて社員が逃げ出し、1人残ってこの動画に命を掛けていた社長も文字通り先日死亡した。
価値のわからない社長の妻が相続した会社を安く売ってしまったのだ。
その遺産ともいえる目の前に繰り広げられた動画は完成していると言ってもいい‥‥
足りないのは俳優のシーン‥‥
「よし! 予算を出す。この動画をドラマに仕立てるぞ!!」
「監督以下の撮影スタッフはこちらで手配しまっせ」
「うむ、任せた!」
ミスターと呼ばれた社長は、軽めの男の背中をバシッと叩いた。
●リプレイ本文
●OP 〜 愛国の戦士たち 〜
オペラ風の主題歌が流れる中、露光が調節されて蒼き波濤に灰色の艦をロングで捉えながらタイトルも鮮明になり、アメリカ艦隊から艦載機が発艦していくシーンにテロップ。
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脚本:Tosiaki(fa2089)
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演者:
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アルバート大尉 Eugene(fa2360)
アイザック少尉 赤倉 玲等(fa2328)
ロバート伍長 村上 繁昭(fa0794)
ロバートの姉 ミカエラ・バラン・瀬田(fa0203)
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主題歌が低く呻るように変調し、そこへ菊の御紋がカットインしてハイアングルになりながら甲板で多くの兵士に訓示を垂れる提督の姿‥‥ そこから楼閣艦橋を舐めるようにロングカットになり、連合艦隊の陣容が明らかになっていく。
戦艦サツマを先頭に2列縦陣を組みつつ回頭する高速艦隊とは別に、機動部隊が飛行甲板に艦載機をズラリと並べて風上に向かって直進を続けている。
画面にはテロップ。
演者:
山田大将‥‥
田中磯十郎少将 田中 雪舟(fa1257)
赤城戴臥中佐 雨堂 零慈(fa0826)
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従軍看護婦 クールマ・如月(fa0558)
●第2次豪州沖海戦
軽快な音楽に載せて、場面はワシントン艦橋内部へ。
「ふん、我が機動艦隊と新鋭艦ワシントン級の敵ではないわ」
アメリカ太平洋艦隊司令スコット提督が鼻息荒く吐き捨てた。増速した主機関の轟音が響き、それに混じってレシプロ独特の風切り音が届く。
「敵艦隊の位置は既に掴んであります。艦載機と陸上基地からの航空支援で叩きのめすまで」
「突進だ!」
副司令の言葉にスコット提督は上機嫌だ。
(「その油断がアメリカ海軍を今日の状況に追いやったと何故気づかないのか‥‥」)
先の豪州沖海戦で撤退戦に功績があったとして参謀部に抜擢されたアルバート大尉は小さく溜め息をついた。
確かに十分な陸上支援と情報支援を受けられる米軍は優位だ。しかし、相手は乾坤一擲の策を得意とする山田大将。ここで米太平洋艦隊主力を失えば、対ジャパン戦の終結が数ヶ月の遅れをとることは想像に難くない‥‥
場面は変わって戦艦サツマ戦闘艦橋。
「東雲提督、頼んだぞ‥‥」
山田大将が艦隊分離した機動艦隊へ敬礼する。
「さぁ、窮鼠猫を噛むだ」
「長官、本当にこれで良かったのでしょうか‥‥ 勝ったとしても帝国海軍は、この戦いで壊滅的な打撃を受けるでしょう」
勝負師独特のニヤリと笑う仕草の山田提督に参謀長が暗い表情で話しかけた。
「我が艦隊は国のまほろば。これは後世に大和魂を残すための戦いなのですよ」
そう言って微笑みながら艦長席に座っているのは戦艦薩摩艦長の田中磯十郎少将だ。
敵国医療船を海賊から救ったことが問題となり出世の主流から外れたはずの男であったが、多数の将官の戦死に伴い戦艦艦長となった異例の人物である。
「今回の出兵自体、それ以外の意味などありませんよ」
紅茶の香りを楽しみながら、そんなことを平然と言ってのけている。
「少将、口を慎め。また憲兵に目を付けられるぞ。とはいえ私も同意見だがな」
山田提督の視線を受け流した田中艦長は、苦笑いする参謀長を見て笑った。
「第3艦隊の分離完了。薩摩は29ノットで作戦地点への移動を開始」
薩摩副艦長・赤城戴臥中佐の報告で司令部に緊張感が満ちていくのがわかった。
「さて、いくか」
山田提督の声に周囲の兵たちは一斉に直立して敬礼をした。
場面は変わり、米軍機が編隊を組んでいる。
「戦艦2、空母7他、敵機動艦隊です」
暫時、敵艦隊へ攻撃を開始されるだろう。しかし、それは敵東雲艦隊の防空網を掻い潜ってこそ‥‥
そのころ、米スコット艦隊では‥‥
「サツマがいないだと?」
スコット提督が怒鳴り散らす中、艦隊司令部は混乱していた。
そして噂の戦艦薩摩は鉄の巨体を濡らして突き進み、スコールの中、数隻の脱落のみで艦隊を作戦地点に辿り着かせていた。
「天佑は我らにあり」
赤城中佐は息を吐いた。目視観測員が洋上に浮かぶ点のような空母らしき影を発見できたのは僥倖と言うしかない。
「敵打撃部隊がどこかにいるはずだ。偵察機を飛ばしつつ、目の前の艦隊を潰すぞ」
「偵察を密に! 各艦砲撃準備、最大戦速で敵艦隊に突入する!!」
佐橋参謀長が通信封鎖解除を指令した。
「薩摩、発進!」
「進路そのまま。全速前進。総員戦闘態勢!」
田中艦長と赤城中佐の号令に主砲塔が僅かに旋回し、敵艦群を狙うと僅かに増速した。
「敵艦隊が後方に現れただと?」
盛大にレーダー波を照射する山田艦隊は米軍に察知された。しかし、スコット提督は敵艦隊の位置が腑に落ちないようである。敵機動艦隊への大戦果に湧いていただけに青天の霹靂である。
「スコールの中、30ノット近い艦隊速度で進撃してきた。それ以外に考えられません」
「そんな非常識があるものか!」
冷静に進言するアルバート大尉に対してスコット提督の語気は荒い。
「空母及び護衛群からの通信途絶!」
「敵水上機を撃墜!」
不吉な報告が次々と上がってくる‥‥
「陸上支援は!」
「航空攻撃により殆んどの陸上基地滑走路が使用不能」
艦隊司令部に動揺が走る。
「提督、迎撃を」
「わかっておる!」
「陸上基地が敵艦影を視認捕捉! 我が艦隊との距離‥‥120キロッ!!」
「各艦回頭! 個艦対応でジャップの艦隊を蹴散らせ!!」
戦艦主砲の射程を考えると火蓋が切られるまで僅かに十分程度の至近距離である。
ふいにアルバート大尉の脳裏に罪悪感に苛まれつつも士官学校の同期だったアイザック少尉から奪うような形で得た婚約者の姿が浮かぶ‥‥
「敵航空機接近! 直衛機が迎撃に向かいましたが、数が違いすぎます!!」
オペレータが悲鳴を上げた。
すでに東雲機動艦隊が第2波攻撃で全滅しているであろうことを知っているのか体当たりに近い肉薄で直衛機を突破した艦載機が1機また1機と巡洋艦や駆逐艦に突入してゆく。
「クレイジー‥‥」
スコット提督の独白は、光景を目撃する米軍の総意でもあった。
「皆! 家族を頼んだぞ!!」
戦闘機がワシントンの艦橋に突っ込み、アルバート大尉は床に叩きつけられた。
「戦術論なんて最早関係なしか‥‥ なるほど提督たちには悪いが、上手くやるさ。
この艦にとって僕が指揮を執ることになったのは幸運だったって思えるようにね」
提督以下主だった司令部員の戦死・負傷を知った大尉は痛みに顔を歪ませながら立ち上がった。
「何とかなるでしょう」
航空攻撃に動揺した米艦隊へ先制射撃を加えた山田艦隊が左右に八の字に展開して、田中艦長の鼻歌に合わせるように各艦タイミングをずらした十字砲火を加えている。
一方‥‥
ワシントンのレーダー射撃の精度は格段に落ちていた。
「何がレーダー、レーダーだ。このガキが! いざって時に役に立たんじゃないか!!」
ロバート伍長が吼えている。
「いいか、皆! 必ず生きてアメリカに帰るぞ。そのためにまずは奴を叩く!」
(「頼むぞ、アルバート」)
アイザック少尉が辛うじて胸を撫で下ろしたのは、信頼するアルバートが艦隊司令部の生き残りの最高位士官として指揮を引き継ぐことになったからだ。本来指揮を引き継ぐべき空母部隊は既にない‥‥
「伍長、あんたにあいつの足を止めてもらいたい。やれるか?」
「俺たちなら100マイル先の針の穴にだってぶち込んでやるさぁ!!」
「よし、後部主砲へ行け! 一気にカタつけるんだ!」
「イエッサー」
少尉に敬礼するなり伍長は後部主砲へ走り始めた。
●死にゆく者、生きる者
ワシントンの重装甲に阻まれ、決定的なダメージを与えられなかった山田艦隊は一瞬足を止めた隙に猛烈な反撃によって甚大な被害を被っていた。
ワシントン主砲によって高速戦艦が真っ二つに折れて爆沈したのを皮切りに小型艦艇の数で勝る米軍の凄まじいまでの魚雷攻撃によって次々と撃沈され、ついに戦闘能力を喪失したのだった。
「我らの薩摩が沈む‥‥」
必死の一撃がワシントン艦首を吹き飛ばし、煙突近くに火災を発生させたのを最後に戦艦薩摩は主機関に浸水。ついに沈黙した。
『中佐も必ず‥‥ 必ず後からいらして下さいね』
そう言って別れた副艦長のことを想って看護婦の表情が陰る。
「母さん‥‥ 母さん‥‥」
止血していた傷病兵のうわ言だ。
「大丈夫、怖く無いですよ‥‥」
看護兵は少年の手を握ってやった。彼女の信じた『東亜の解放』は脆くも崩壊しようとしている。
彼女に暴行を加えた、あの許すまじ白人たちに敢然と立ち向かう憧れの帝国海軍は失われてしまった。
「それでも日本男児の心意気は残りましたよ。赤城中佐‥‥」
看護兵は涙を拭うと少年に励ましの声をかけた‥‥
(「貴方は誇り高き自由の国の海兵。自由に敗北はありえません。戦って戦って、是非にも勝って帰ってらっしゃい!」)
破壊されたワシントン後部主砲塔から這い出したロバート伍長は悪態をつきながら、口悪くもどこか優しかった姉を思い出していた。
(「AllRightと言ったからには。必ず果タシて。戻ってくるノデスよ」)
あのパイの味‥‥
(「アノ小さな国にもたもたしてて何がジユウの国ですカ!」)
あの平手の味‥‥
「ファッキン! 嫌な奴を思い出しちまった。ええぃ、あの野郎に一発、もう一発中てりゃ奴だって沈むんだ!」
伍長は海中に没しながらも機銃の引き金に指を掛け続けるのだった。
ワシントンの傾斜は復元できないところまで来ている。
「君からずっと預かっていたものを返すよ。どうか僕の分まで‥‥を大切にしてやってくれ」
「ふざけるなよ、お前が残ってどうするんだ!!」
片腕を失い血だらけのアルバートは婚約者の名を託してアイザックを海中へ突き落とす。
「何故だっ、アルバート! どうしてお前がこんな死に方をしなけりゃならないんだぁ!!」
ライフジャケットで辛うじて浮いているアイザックは連合艦隊の救命ボートに助け上げられた。
「生きろ。それが生き延びた俺たちに課せられた使命だ」
「お前たちに殺されたんだ! アルバートは! 戦いから帰れば結婚が待っていたのに!!」
流暢な英語で話す連合艦隊の田中少将はアイザックが殴るのに抵抗しなかった。
「敵に助けられようが何だろうが生きろ。アルバートのためにもな」
赤城中佐を田中少将は制した。
「俺もこいつに命を拾われたクチでな‥‥ 『安い逃げ道を選ぶな! 死んで逝った部下のためにも生きろ! 生きる事が戦いだ!!』などと言われては、死ぬ訳にもいかん‥‥」
「くそぅ‥‥ 陸(おか)に上がったら結婚式を楽しみにしてたんだぜ‥‥ 馬鹿野郎‥‥」
田中の言葉に顔を背けたアイザックは沈みゆくワシントンの泡を掴むと大声で涙した。