飯炊きファイト南北アメリカ
種類 |
ショート
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担当 |
シーダ
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芸能 |
フリー
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獣人 |
フリー
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難度 |
普通
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報酬 |
1.3万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/25〜04/30
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●本文
「困ったなぁ」
頭を掻いているのはハミルトン・フィルムのジョーイ・ブラッドストン監督。
「お母さんが急病で倒れたとなると仕方ないよね」
監督の言葉にハイと東洋系の顔立ちの女性が頷く。
「キミは叔父さんの遺産を受け取るのにイギリスまで行かないといけないもんな」
今度はコック服を着た男が体を傾けて笑みを浮かべた。
「私は前からお休みしますって言ってましたよね?」
「わかってる。新婚旅行だもんな。楽しんでくるんだよ」
心配そうに伺いを立てる黒人女性に答えた監督は、天井を見上げて溜め息1つ‥‥
さて、何をこんなに困っているかと言うと、ブラッドストン監督のスタジオの料理人が一時的とは言え、全員いなくなってしまうのである。残ったスタジオスタッフが持ち回りで作ってもいいが味の保障はできないし、デリバリーで済ませるのも味気ない。食はエネルギー源であり、疎かにすれば仕事に影響が出かねない。というわけだ‥‥
「監督、こういうときはWEAですよ。料理の得意な者を紹介してもらいましょうよ」
「そうだね。そうしよう」
そんなこんなで30人前の料理を捌くことができると豪語する者が集まるのであった。
●リプレイ本文
●心意気は調味料
「美味しい料理は元気の元。いい作品を作ってもらえるよう、心をこめて料理させていただきますわ」
「そいつは嬉しいね。期待してるよ」
割烹着姿のChizuru(fa1737)がスタッフたちには新鮮に映るようだ。
「メニューはどうしましょう? 量やら予算やらを考えないと大変なことになってしまいます」
「あの、もし余裕があるのなら、和風の料理とか、そういう現地の人には珍しそうな物もつくるといいかもしれません‥‥ 余裕があったら、ですよ」
思案顔の高川くるみ(fa1584)に、神奈 唯(fa3515)が恐る恐る言うと‥‥
「お好み焼きやな。浪速っ子にお好み焼きとたこ焼きを作らせんでどうすんねや。たこ焼き器はないみたいやけど鉄板はあるし」
十六夜 勇加理(fa3426)が笑顔で腕組みしている。
「それだけでは飽きてしまわれますよ。そうですね‥‥」
幸いにも洋風和風、各地の調味料は揃っていた。材料さえ入手できれば、大概の料理は作れそうである。
千鶴(Chizuru)たちは、ああだこうだとメニューの相談を始めるのだった。
●握り
「こんなもんですかね? ビュッフェ用のバットがあって助かりました」
「寸胴で作ったのは初めてですから作り甲斐がありました‥‥」
欧米では和食の人気は侮れないと、鮭などの焼き魚を入れて並べているのは宮尾千夏(fa1861)。一緒に料理を運んでいる佳奈歌・ソーヴィニオン(fa2378)は、大変だった下準備を思い出して、ふぅと溜め息をついている。
「お、できてる♪」
スタッフたちは、思い思いの場所へ座っていく。
「日本の給食って奴は、こんな感じなんだよな?」
「そうですわ」
三角巾にマスク、割烹着を着ている千鶴が言うと余計に給食に見えてくる。スタッフの笑顔に、カナカたちも思わず笑い出す。
今日は冷奴、貝の味噌汁、ひじきの煮つけにダイスにカットした大根の煮物、などなど‥‥
「お勧めは?」
「肉じゃが‥‥です。お口に合うかしら」
「わお、良い匂いがするね」
まずはホッとする千夏なのだった。
さて‥‥
今日の取り合わせ、メインはおにぎりだ。
千鶴の御握りの具は、ツナマヨと甘辛に煮込んだ牛肉の2種類。昨日の梅干と甘辛牛肉のうち、牛肉の評判が良かったのでスタメン起用である。
くるみの御握りの具は、ほぐした焼き鮭とゴマ塩の2種類だ。要望により少し塩味を強くしたのが好評らしく、ゴマ塩もスタメン入りを果たしている。
「まだ、ちょっと手が痛いかも」
流石に30人分のおにぎりともなれば普通に握ったのではきつい。握り慣れているプロならまだしも、彼女たちは芸能人である。
「始めからこうしてれば良かったですね。一つ一つ握りたかったのですけど」
くるみと千鶴は思わず苦笑い。幸いにも茶碗は豊富にあったため、2つ合わせて中の御飯をコロコロ転がして纏まったところで具を差し込んで握る。これで多少は楽になった‥‥というわけだ。
おっと、問題は味。スタッフの反応はと言うと?
「たまには、こんなのもいいね」
パクついている様子を見ると問題はないようだ。
「ね、これさ。夜食にしたいんだけど、いいかな?」
「ホットプレートを用意しておきます。お焼きしますよ。焼きおにぎりと言うんです。お好みで醤油味やチリソース味などできますよ」
スタッフの申し出に、くるみは即答した。
「お好みやて?」
「それは明日のメニューです」
すかさず突っ込んだユカリを千夏が取り押さえた。
「残って冷たくなったおにぎりも、また美味しく食べられるんですよ」
「ふ〜ん。じゃあ、お願いしようかな」
くるみの顔に、にこにこと満面の笑みが浮かんだ。
‥‥と、そんな彼らを眺めつつ‥‥
「もっと味が濃い方がいいかなぁ」
肉じゃがを口にしてスタッフの1人が首を傾げた。彼らにしてみれば、素材の味を美味しく楽しむというよりは、美味しい味の付いた料理を楽しみたいのかもしれない。尤も本当に巧いものも多々あるのは間違いないのだが‥‥ といっても千夏にも日本人としてのプライドがある。少し醤油を差すだけにした。すると‥‥
「お、結構いける」
ニパッとスタッフに笑顔が浮かんだ。千夏も良かったと一安心。美味いものは美味いのだ。
●鉄板パーティー
短冊型に切った豚肉とダイス切りの烏賊を粉を溶いたタネの中にキャベツと一緒に放り込んで良く混ぜる。鉄板の上に流して円形に整えると油のじゅっという音がして、お好み焼きを知っている者ならば、それだけでよだれが出てきそうだ。
「スタブラにいつか出たいなぁ」
「僕の生きてる間に良い役者になってくれればね、ユカリ」
ユカリは、覗き込む監督にドビックリ。
「驚かさんといて〜な」
「良い匂いがする」
続けてタネを流し込んでいく。
「お好み焼き、言うねんで」
「わお、アップルパイみたいだね。日本風鉄板ピザってとこかな」
「身も蓋もあらへん言い方やなぁ」
コテを使ってクルッと返しながらフフンと鼻を鳴らした。浪花っ子はノリが命。
「お〜、やらせてほしいなぁ」
チャレンジした監督は恐る恐るコテを生地の下に入れると、ほいっ、クルッと返した。奇跡的に大成功。2人はハイタッチで喜んでいる。
「外はパリッと、中はふんわか。こんだけ大きい鉄板だと焼きやすいわ」
業務用の鉄板だけに広さも十分。狐色の焼き上がりにユカリ自身、感動的である。
「お好みソースくらい揃えとかないかんて。監督さん? 料理人さんに言うとき」
ユカリはケチャップをベースにオイスターソースを混ぜ、ハケで混ぜ始めた。焼きあがったお好み焼きの上にソースを塗り、網目状にマヨネーズをかけて青海苔をパラリ‥‥ 鰹節を適度にかけて完成〜♪ お〜〜〜と歓声が上がった。気がつくとスタッフが何人か‥‥
「いや、何か良い匂いがしたもんで」
数人のスタッフたちに負けじと監督も早速テーブルについた。
「箸なんか使って食べたら許せへんで! 大阪風はコテでたべねんで」
キッチンにあったコテをかき集めて皿に並べていく。
はふっ、はふっ‥‥ スタッフたちは教えてもらったコテ捌きで頬張り、グッと親指を立てている。
「こっちもお好み焼〜き、頼むね」
「あかん、タネが足りへんかも」
慌ててキッチンに駆け込むユカリだったが、そこには唯たちが。
「ああ、もう駄目だ‥‥って時にも、私たちには神様がついていますから!」
「肉と烏賊を切るのは、俺に任せといて」
じゃっじゃっと少し不規則な音でキャベツを刻み始めた唯の隣では、蕪木メル(fa3547)もお手伝いに入っている。千鶴が指示を出し、各メニューの量のバランスが変えられていく。
「サラダもありますからね」
「この辺もお好きにどうぞ」
唯がサラダを、メルが付け合せを出してゆく。
コーンポタージュスープ、フレッシュジュース、ダイス型のポテトや人参のボイルなどと一緒にお好み焼きを食べているところが、いかにもアメリカの食風景らしいっちゃ、らしい。
ま、スタッフの表情は明るい。どうやら、今日も大成功だったようである。
●巻〜き巻き
「今日は‥‥ また、可愛らしい食いもんだな。こりゃ」
白いテーブルクロスに乗せられた皿のに並べられているのはキングサーモンの鉄火巻きだ。
「元々、鉄火巻きは日本の賭場、鉄火場で簡単に食べるために作られていたものなのさ。なおかつ、集中力を持続させるためのメニューだぜ。仕事だって捗るはずさ」
「じゃ、今日はこれにするかな」
「三味線背負った渡り鳥、トキの新天地での一品、ご賞味あれ」
茜屋朱鷺人(fa2712)の言葉に頷いて1皿取ると、スタッフはひょいと口に放り込んだ。
「ぬぁ〜〜」
山葵は苦手らしい‥‥
「どうぞ」
カナカがパセリを散らしたミネストローネのカップを渡す。ゴクッと飲んで一息ついた。
ニンニクとオリーブオイルで香り出し、1cmサイズのじゃがいも・にんじん・玉ねぎ・キャベツを加えて炒める。がシンナリしたら、トマト缶をつぶして加え、コンソメスープで煮立たせたら、塩・胡椒で味を整える‥‥と、これだけの手間を寸胴サイズでやったのだから、皆で手分けしてやったとはいえご苦労様。スタッフたちの顔を見れば疲れも吹き飛ぶという感じか‥‥
別のテーブルに並べられているのは、コーンポタージュ、フレッシュジュース。そして手巻きコルネ♪
「お口に合えばいいんですが‥‥ お疲れ様です」
コルネパンの中身にサラダや果物、フライにコロッケ、焼肉やチーズなど用意した色々な具を入れて食べるのだ。
「楽しいよな。こういうの」
どうやら手巻きパーティの楽しさは万国共通らしい。
「おおぅ、いける〜」
「具の味を楽しんでもらうために卵や牛乳を使っていないコルネを用意したしね」
「成る程ね」
即席惣菜パンのアイデアは秀逸だが‥‥
「余った具を詰めて弁当にしておくれよ。サンドイッチにでもしてくれたら後で食べるからさ」
「それでは休憩時間に、それを持って庭に出てみませんか? お弁当コンサートでもしましょう」
お茶にコーヒーなどカップ片手に、皆で千鶴の歌に耳を傾けるのだった。