冥土のお仕事☆戦禍衆6アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
難しい
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報酬 |
3.9万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
2人
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期間 |
10/11〜10/15
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●本文
――思い遺したことはなんですか?
――行きたかった場所はどこですか?
――泣いている人はどこですか?
――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。
「力が‥‥足りぬ‥‥」
獄霊界にあり、悪霊を統べる主と呼ばれしモノは、まどろみの中で呟く。
側近の戦禍衆達によりかつての戦いにより奪われた負の霊力は徐々に取り戻しつつあったが、それでも以前の力には遠く及ばない。
そしてここ最近、側近達が次々と人間共に消されてゆくことで獄霊界と地獄界が繋がりつつあるのも主の力に影響を及ぼしていた。
「このままでは‥‥いづれ‥‥」
獄霊界が地獄界とつながる。
それは、絶対に避けなければならない未来。
力を奪われ、復讐も遂げられぬまま消えることなど、ありえはしない。
「動く時が‥‥来たようじゃな‥‥」
主はまどろみかける身体をゆっくりと起こす。
いつの間にか側に集まっていた側近達が息を呑む。
「戦禍衆よ‥‥冥界へと、赴くぞ‥‥」
そこは、主をこの獄霊界へと貶めた死神と天使が住まう場所。
天国とも呼ばれしそこは、憎んでも憎みきれぬ永遠の楽園。
「主様、ですが天国への道は、いまだ閉ざされているのでは?!」
戦禍衆の一人が問う。
そう、楽園への道は悪霊達には決して開かれることがないのだ。
「もう‥‥すべてが見えておる‥‥‥‥」
主が手を振るう。
闇にスクリーンが投影され、そこには、メイド喫茶『Entrance to Heaven』が映し出される。
Entrance to Heaven―― 天国への扉。
いま、メイドと悪霊達の最後の戦いが幕を開ける。
☆冥土のお仕事出演者募集☆
深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
そして今回『冥土のお仕事☆戦禍衆6』では、悪霊の統治者『主』と直属の配下『戦禍衆』の面々と戦っていただきます。
戦禍衆は一人でもOKですし、数人でも良いです。
また、人数が足りない場合などはNPCが参加します。
●リプレイ本文
●思い出
柊塊(月 李花)が主(神楽坂 紫翠)と出会ったのは全てに絶望したあの雨の日。
いつからそこにいたのか、迷い、彷徨う塊に光り輝く黒い翼を持った主は手を差し伸べる。
「共に、ゆこう‥‥」
短い言葉は、けれど慈愛に満ち、優しさに溢れていた。
だから塊は、主が治める獄霊界へと赴いたのだ。
地獄界から溢れる邪気が段々と主を蝕み、そして戦禍衆たる塊達もまた、悪霊へと変容してしまったけれど。
主が闇に手をかざし、空間を開く。
その先にあるのはメイド喫茶Entrance to Heaven。
主を獄霊界へと貶めた天国への入口。
「何処までもついてゆくんだよ‥‥」
主の開いた空間を見つめ、塊は呟く。
かつて主が自分を救ったように、今度は主を救えるように。
●襲撃
ぐにゃり。
視界が揺らぎ、空間が歪んだ。
「ハナさん、下がって!」
異変に即座に気づいた久我有瀬(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))がハナ(花田 有紗(fa3584))をその背に庇う。
その直後、全てのメイド達は異空間へと取り込まれた。
「比にならないDeepな暗さを感じる‥‥コレは‥‥なんだ?」
戦禍衆を従え、悠然と佇むその存在に、レイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))はこれまでの比ではない邪気を浴びて脂汗を滲ませる。
「強大な霊力を感じるです。この世界全てを覆っているです‥‥みんな、逃げてですっ!」
メイドロボ・雨(角倉・雨神名(fa2640))が叫ぶ。
体内に組み込まれている霊査探査機で感知した負の霊力は、人を守るようにプログラミングされた彼女にとってその任務を遂行するのが不可能である事実を告げていた。
「この感じ‥‥リリエルも知っていますの‥‥っ」
見習い天使・リリエル(KISARA(fa0389))が、その負の霊力に混じるあってはならないモノに、胸を押さえる。
「なんで? ‥‥どうしてこの波動が‥‥これは、リリエルと同じよ?!」
帆乃香(都路帆乃香(fa1013))は常に持ち歩いているパソコンで霊力を分析し、その中に混じるリリエルと同種―― 天使の波動にリリエルと同じように混乱する。
何度パソコンを打ち直し、霊力を注いでも結果は変わらない。
この溢れる邪気を纏い、戦禍衆を従える悪霊―― 主は、強大な負の霊力と同時に、正の霊力をも持ち合わせているのだ。
「えとえとぉっ、いったい、なんなんですかぁっ?!」
わけがわからないながらも主から発せられる負の霊力に本能的な恐怖を感じ、ハナは涙ぐむ。
EHの本当の仕事も、迷い彷徨う霊を導く『Dの時間』のことも、ハナにはまだ知らされていなかったのだ。
「大丈夫、落ち着いてね。みんながついてるから」
怯えるハナの手を握り、高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は胸に浮かぶ蓮の印に手をかざし、光の鎌を具現化させる。
ハナはかつての雪恵と同じだ。
何もわからず、いきなり悪霊に襲われ、当時霊力も何も持たなかった雪恵は兄の霊とEHのみんなに助けられた。
あの時の不安と感謝の気持ちは今も雪恵の心に残っている。
だから雪恵は、主から感じる恐怖を振り払い、ハナに微笑んでみせる。
少しでもハナが安心できるように。
【その力‥‥‥‥】
主が呟き、指を翳す。
瞬間、雪恵とリリエルに向かって暗黒の鞭がしなり、二人の側にいたハナと真白(小鳥遊真白(fa1170))を巻き込んで転移する。
「まて、どこへ行く気だ、‥‥‥‥っ?!」
「お前の相手はこのわしじゃて」
消えた二人のあとを追おうとしたレイに、戦禍衆・鬼伯が立ち塞がる。
「この間の借りは、返させて頂きますよ?」
レイの隣に、久我が即座に寄り添う。
立花音羽(あいり(fa2601))と雪村くれは(夢想十六夜(fa2124))の前には塊が立ち塞がり、雨と帆乃香の前には戦禍衆・鬼珠が立ち塞がる。
戦禍衆の力により、メイド達はそれぞれ別の空間に飛ばされながら、戦い続ける。
●それぞれの想い
「思い出してください、天使としての誇りを‥‥使命を‥‥心を!」
リリエルの叫びが虚しく響く。
主から感じる波動に間違いはなく、そしてそれは彼が天使であった事実に他ならない。
それもリリエルのような見習いではなく、高位の。
「あなたの目的は、なんなのですか? どうして人を傷つけつづけるの?!」
ハナと真白を庇いながら、雪恵は主から繰り出される暗黒の鞭を光の鎌で切り落とす。
「すまない‥‥私の力では全員巻き込んで爆発させてしまう」
暴走しやすい真白の霊力は、カクテルに注ぐことによって安定している。
カクテルがあれば飲んだ相手の霊力を増加させたり、体力の回復を図ったりもできるのだが、直接振るうには危ういのだ。
「だ、大丈夫ですかぁ? びょ、病院へ行かなくちゃっ」
ハナは主の攻撃に晒される傷だらけの二人に泣きじゃくる。
「中々に手ごわいのう? じゃが右手がお留守のようじゃ」
鬼伯が嗤い、レイの隙を突こうとする。
だがその攻撃を久我が止めた。
「彼女を傷つけることは、許しません」
白刃が煌き、鬼伯の鎖骨を切り裂く。
驚きに目を見開く鬼伯の姿は、けれど瞬時に揺らぎ掻き消える。
「幻影?! 本物は‥‥くっ!」
咄嗟に後ろに飛んだ久我の首筋を鬼伯の刀が切り裂く。
あとほんの一瞬反応が遅かったら、久我の頭は永遠にその胴体と別れを告げていただろう。
「ほう? 中々にやるのう。じゃが、そちらの赤毛のほうが力に溢れておるわい。代理店長などと呼ばれ、肩書きばかり立派よのう?」
「ご高説、痛み入ります。ですが今の私にとって其方の戯言より、あなた方の主と相対しているうちの子達に置いていかれない事の方が大事ですので」
痛いところをついてくる鬼伯の言葉に、久我は少したりとも動揺せずに鬼伯の身体を切りつける。
切り裂かれた鬼伯の身体から負の霊力が零れ散った。
「な‥‥っ」
「Ungracefulness、これですべて終わりだな?」
レイの拳が鬼伯を吹き飛ばす。
「あなたの相手は、私なのです‥‥」
自分が倒した悪霊・鬼魅と同じ顔を持つ鬼珠を前に、雨は呟く。
その胸に小さな痛みが走る。
本来、ロボットである雨にはプログラムされた行動しかないはずだった。
感情があるように見えても、それは精巧なプログラム。
だが‥‥。
(「雨さんの霊波が変わってきている‥‥」)
帆乃香はパソコンに表示される雨の霊力とその波動の変化に目を見張る。
「敵は倒すもの‥‥私はずっとそう思っていました」
鬼珠の攻撃を雨は避けない。
帆乃香がパソコンと自らの霊力を駆使して結界を張っていても、リリエルほどの結界は作れない。
鬼珠の攻撃は結界を通してもなお二人を傷つける。
少しずつ雨の身体は壊れ、身体のあちらこちらから切れた配線が飛び出した。
「私は鬼魅さんを止めるため、苦痛を与えました。私にはそれしかできなかったから。‥‥私は、恨まれているでしょうか?」
鬼珠の悲しみを受け止めるかのように、雨はその攻撃を受け続ける。
「本当は‥‥こんな傷つけ合う事‥‥私は望んでいない‥‥」
歌うことは出来ても、直接攻撃することの出来ないくれはと音羽は、塊の攻撃になす術がなかった。
「弱者の戯言だね。これで、おしまいなんだよ!」
塊の渾身の霊力が二人めがけて振り落とされる。
「ま、負けませんの‥‥っ」
リリエルの結界が主の攻撃を食い止める。
そして白く輝く羽が一枚、また一枚と主の身体を柔らかく包んでゆく。
「私たちはみんなの平和のために‥‥ここで諦めてはダメなんです!」
霊力がつき、光の鎌を具現化させれなくなった雪恵は、それでもハナを庇いながら諦めない。
「出来れば使いたくなかったんだが‥‥みんな、伏せてくれ!」
真白が意を決してその霊力を主へ向かって解き放つ。
暴走した霊力による爆発は悪霊たちによって分けられていた空間をも吹き飛ばす。
メイドと悪霊、全てが一つの空間に放り出されたその瞬間、主の記憶が、想いが、空間に溢れ出す。
●エピローグ〜心安らかに‥‥
その昔、主と呼ばれし悪霊は天使であった。
力ある彼は、地獄から現世に溢れ出る邪気を治めるべく天国であり冥界でもあるかの世界から使わされ、獄霊界を作り上げた。
だが、いつからだろう?
天界を憎むようになったのは。
何故、神は救わない?
こんなにも苦しむ者たちがいるのに。
悩む彼に、悪霊と化した悲しい魂たちは囁き続ける。
苦しいと。
憎いと。
天国を手に入れたいと。
迷い、彷徨える悲しい悪霊達の声を日々聞き続け、主たる天使は狂った。
「そういうことならall OK! 迷える魂を天国へ導くのは私たちの本分だ。負の感情を集めたところで、おまえ達は救われないさ。‥‥思い遺した事はなんだ?」
狂う前の主の記憶に触れ、レイはくつくつと笑う。
その笑いは主を嘲笑うものではなく、むしろ全てを理解し、倒すのではなく浄化するというレイの意思。
「あの方の身体には、無数の悪霊が住み着いています!」
帆乃香はパソコンに指を走らせ、状況を冷静に分析する。
「甘いという事は分かってる‥‥でも、誰だって最初は優しき人だったんだから‥‥取り戻させてあげたい‥‥その気持ちを‥‥」
「恨みも悲しみも苦しみも全部洗い流して、天国へ導いてあげるんだよ」
くれはと音羽が聖歌を歌いだす。
♪〜
愛しき面影 光に重ねて 私は歌う 貴方の為に
貴方が例え私を傷つけても 私は歌う 貴方の為に――
♪〜
貴方に光を与えたいから 優しき心に戻って欲しいから
貴方を天へと導く為に 私は歌う 道標となる為に‥‥
初めは二人のデュエットで、やがてメイド達全員のコーラスとなり祈りの聖歌が響き渡る。
「命の無い私だけど‥‥わかります。みんなも、私も、貴方達を助けたいと思っていることが」
雨は自らの胸に手を当てる。
人の心は、そこにあるから。
「どうか、天国へお帰りくださいですの‥‥」
主にまとわりつけていたリリエルの羽がより一層光を増し、主に染み込んでいた悪霊達を浄化してゆく。
「Dの時間です」
代理店長が刀を振るい、メイド達の歌声と共に天国への門が出現する。
ゆっくりと、その扉が開く。
光溢れるその扉を、メイド達に救われた悪霊達が一人、また一人とくぐってゆく。
そして主さえも。
戦禍衆は、いつの間にか姿を消していた。
悪霊をその身から剥がされ、記憶と正気を取り戻した主はメイド達に深く頭を垂れる。
眩い光の中に吸い込まれてゆくその姿を、メイド達は最後まで見送るのだった。