WonderTalk〜魔獣襲来〜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
10人
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サポート |
0人
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期間 |
10/26〜10/30
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●本文
願うのは、ただ一つ。
決して滅ぶことのない永遠の命。
遠い過去、この手の内からまんまと逃げおおせた精霊と人の間に生まれし娘により、天空大陸への道は開かれた。
――そして、天空大陸から地上への道も。
それこそが、深淵の魔獣使いと呼ばれる男の望み。
彼の仕えし魔獣王の望み。
「王よ‥‥今こそあなたにこの世界を捧げましょう‥‥」
ダークドラゴン――闇にもっとも近いドラゴンを操り、白き羽を持つ有翼種族・エンジュの里を滅ぼし捧げても、かの王は満足しなかった。
だが、この地上すべてなら‥‥。
蛇が互いを食い殺しながら蠢く呪刻印が刻まれた魔法陣に、深淵の魔獣使いは杖を掲げる。
竜の紋章が刻まれたそれは、魔獣使いの持つ竜の腕輪と共鳴し、その力を発揮する。
「た、助けてくれっ、金は、い、いくらでもはらうっ!」
標本の如く魔力で魔方陣に縫い止められた男は、恐怖をその目に宿し、醜く肥え太った男が魔法陣の中で喚く。
「お前の役目は、これで終わるのじゃよ‥‥」
グシュリ。
くつくつと笑う魔獣使いの杖が男の眉間を貫き、断末魔の叫びと鮮血が迸る。
(「魔獣の血を引く自分を恨むがよかろうて‥‥」)
思考を奪い去り、傀儡として利用していたこの男が少量とはいえ、魔獣の血を引いていたのはなんとも幸運だった。
男の命を吸い上げた魔法陣は赤く輝き、蠢く蛇は共食いをやめ、漆黒の大蛇の集合体となり飛び立ってゆく。
「全てを滅ぼすがよい‥‥生きとし生けるものすべての命を、我が王に捧げるのじゃあっっ!!!」
永遠の命を手に入れる喜びに、狂った笑いが響き渡る。
――自分が男を操っていたように、己もまた操られていることに気づかぬまま。
天空の大陸へとたどり着き、彷徨うハンター達は、廃墟へとたどり着いていた。
闇に覆われた世界は、作物は枯れ果て、廃墟を彷徨う空ろな眼差しの人々がハンター達をじっと見つめる。
「何故、この世界に既に人々が‥‥?」
「そんな事を考えている暇はなさそうね。来たわよ!」
天空の大陸への道を切り開き、眼前に広がるその光景に驚く間もなく暗黒の空から魔獣達が出現する。
「いけないっ、人々を守らなくてはっ!」
無気力な人々を廃墟に匿い、ハンター達は魔獣達に立ち向かう。
ハンターの手から光が溢れ、廃墟を結界が覆う。
だがそれも決して長くは続かない。
「どこかに、何か見落としていることがあるはずです。‥‥魔獣達は何処へ向かおうとしているのですか?! ‥‥全てを止めることは出来なくとも、魔獣達の襲来を抑えなくては!」
奈落と見紛うその楽園で、ハンター達は戦い続ける。
光り輝く未来のために。
☆Wonder Talk出演者募集☆
ファンタジー世界を舞台とした特撮番組、『Wonder Talk〜魔獣襲来〜』出演者募集です。
剣と魔法を舞台としたこの世界の住人になりきり、
☆モンスター情報☆
魔獣
『ストーンコカトリス』
ストーンコカトリスは、通常のコカトリスより防御力が強化された魔獣です。
その名の如く石の身体を持ちます。
また、石化ブレスを操り、その息に触れたものは徐々に石化し始めます。
『ヘルハウンド』
別名地獄の番犬とも呼ばれるこの魔獣は、漆黒の身体と三つの頭を持っています。
素早い動きから繰り出される連続攻撃と、ファイヤーブレスには十分注意が必要です。
ですがストーンコカトリスに比べ防御力は弱く、素早い動きを止めることさえ出来れば突破口は開けるでしょう。
また、上記以外のモンスターも出現の可能性があります。
☆地域情報☆
今回の舞台は、ファンタジー世界カラファンの『天空大陸』
天空の塔より道が開かれ、天空大陸へと移動できます。
魔獣達を倒しながら、この世界の異変の謎を解き明かしてください。
☆選べる職業☆
戦士 :戦いの専門家。主に剣で戦います。
僧侶 :治癒魔法を得意としています。
魔法使い:攻撃魔法を得意としています。
踊り子:魅惑的な踊りで敵を翻弄します。
召喚士:精霊を召喚し、使役します。
吟遊詩人:歌い手です。呪歌を使えます。
シーフ:盗賊です。指先が器用で、罠の解除などが得意です。
錬金術師:カラファンに存在する様々なアイテムを調合して薬や爆薬などを作り出します。
なお、職業は参加者八人全員戦士や、僧侶と魔法使いのみなどといったパーティ編成も可能です。
また、「こういった職業が欲しい!」などのご希望があれば採用の可能性もあります。
☆テンプレート☆
WT参加者は、下記テンプレートを埋めてプレイングを送付してください。
【職業】『職業』の中から一つ選択
【心情】キャラクターとしての気持ちを書いて下さい
【戦闘】どのように戦うか
【台詞】各シーンで言いたい台詞
〜台詞例〜
【挨拶】「ちっ、挨拶もままならねえな!」
【戦闘開始】「剣の錆にしてあ・げ・る♪」
【必殺技使用時】「これでもくらいやがれっ!」
【勝利時】「これで終わった‥‥? いえ、ここからが本番です!」
*台詞例はあくまで例です。色々台詞や設定追加推奨です。
【その他】キャラクターの設定や口癖などありましたらこちらへ明記ください。
★重要★
今回の設定では前回シナリオ参加者は天空大陸に最初からいます。
その他の参加者様はギルドの受付嬢や精霊たちから緊急要請を受けて天空大陸へ赴いたことになります。
●リプレイ本文
●逃れられない現実‥‥魔獣襲来!
「これだから魔獣なんて嫌いなんだ‥‥」
元魔獣使いにして召喚士のサクヤ(橘・朔耶(fa0467))は廃墟に飛来する魔獣たちを憎憎しげにみつめる。
「貴方達はいったい何者ですか? ‥‥くっ!」
なぜか廃墟に過ごす人々に獣人族の戦士・カイン(ヴォルフェ(fa0612))目掛けてストーンコカトリスが飛来し、寸での所で大剣により攻撃を跳ね返す。
「天にあまねく極光の帳‥‥ブローディア!」
気弱ながらも魔法使い・ナツキ(夏姫・シュトラウス(fa0761))が即座に七色に輝く防御結界を周囲に張り巡らし、これ以上の攻撃がこないように両手を広げる。
結界はハンター達の周囲はもちろんのこと、廃墟全てを覆い、魔獣の侵入を防ぐ。
だが、それも決して長く持つものではない。
廃墟にいる人々を守りながら膨大な数の魔獣達と戦い続けるのは不可能だ。
ハンター達は共にこの天空大陸に赴いていた、八百万の神々に仕える巫女と二人の吟遊詩人に廃墟の護衛を任せる。
巫女は廃墟に結界を張り巡らし、ナツキの防御結界をハンターたちに専念させ、二人の吟遊詩人は巫女の結界を補佐するように呪歌を歌い奏でる。
「止めなきゃ! ‥‥風と眷属たる音の精霊達、私の声を世界中のハンター達に可能な限り届けて! 【天空大陸より魔獣侵攻、食い止める為援助請う】と!」
幼い召喚士・ケーナ(美森翡翠(fa1521))が精霊たちに助けを求める。
精霊たちは即座に頷いて、地上のハンター達へとケーナの声を届けた。
「流石に魔獣達の攻撃がだんだんに厳しくなってきましたね‥‥」
防御結界を打ち破ろうとするストーンコカトリスに、マイペースなヒカル(ヒカル・マーブル(fa1660))も剣を握る手に汗が滲む。
「魔獣の数が増えている‥‥? 一体何が‥‥ああ、でも、深く考えている余裕はないようですね‥‥ライトアロー!」
ナツキの結界を破り、ハンターたちに攻撃を繰り出そうとするストーンコカトリスを黒翼の魔術師・セルム(相沢 セナ(fa2478))の繰り出す光の矢が貫いた。
「ちっ‥‥なんでこんなに魔獣が‥‥あいつらには、俺が行くよ。ああ、面倒くさい!」
面倒くさがりのシーフ・スー(玖條 響(fa1276))は、結界を破ろうとするストーンコカトリスではなく、その背後から現れたヘルハウンドに向かってゆく。
「結界から出たら‥‥危険ですっ」
ナツキが涙目ぐみながら叫び、咄嗟にスーの周りにもブローディアを発動する。
ハンター達全体に張り巡らせていた結界と、スー専用の個別結界、二つの結界を張るなど本来の彼女の魔力から考えればかなり無理なことなのだが、なぜか彼女は地上よりも魔力が増しているようだ。
「助かるよ。‥‥ケーナ、石を返す。説明は面倒だからしないけど、火の精霊でなら扱えるようにしたから‥‥後は好きにして」
ケーナに竜の紋章が刻まれた石を投げて寄越し、スーは単身でヘルハウンドに挑んでゆく。
●地上
その頃地上では、虎人族のアークウィザード・リンフー(MAKOTO(fa0295))が天空大陸への道を模索していた。
「救援要請は聞こえたけど‥‥ああ、もう、ケーナたちが大変だって言うのに!」
苛立ちと共に、縞々の虎尻尾がフーッと逆立つ。
天空大陸への道が開かれた今、精霊達と魔人の力を借りて描いた緻密な魔法円陣と呪文詠唱により天空大陸へ転移することが可能なはずなのだが、なぜか魔法陣がまだ反応しないのだ。
「呪文を間違った? いやいや、僕はそんなドジっ子じゃないぞっ!」
「あら、お困りのようですわね?」
苛立たしげに地団駄を踏むリンフーに、治癒師・ディアナ(紅雪(fa0607))が声をかける。
「うん、めっちゃ困ってるんだよ。キミも精霊達から?」
「私はハンターギルドから派遣されたのです。水の精霊の導きにより、この地より天空大陸への道が開けると聞いて訪れたのですが‥‥」
ディアナが言い切らぬうちに、魔法円陣がきらきらと輝きだした。
「おおおおおおおっ?!」
「発動するようですわね」
驚きの声を上げるリンフーと、おっとりとしたディアナを包み込むように光は溢れてゆく。
そして、
「間に合ったな」
漆黒のシーフ・ユウ(蘇芳蒼緋(fa2044))がその魔方円陣に飛び込んだ瞬間、リンフーの耳に魔人の声が響いた。
「え、え、えっ?! ボク一人じゃ心もとないから仲間が増えるのを待って発動しなかったって? ちょっとそれはあんまりじゃ‥‥うわわわわっ!」
どうやらリンフーが契約した魔人は高飛車でなおかつリンフーを魔人なりに思いやっているようだ。
リンフーの抗議も聞かず、魔法円陣はその輝きを増し三人を天空大陸へと転移させるのだった。
●心強い援軍!
「熾火を纏う我が愛しき獣よ、悪しき者達へ制裁を与えよ!」
サクヤが炎を纏った狼を思わせる精霊を召喚し、炎の精霊はカインを狙っていたストーンコカトリスを跳ね飛ばす。
「俺に死角などない。サクヤが側にいる限り」
カインの大剣がバランスを崩したストーンコカトリスに叩きつけられる。
石の強度を誇るストーンコカトリスもカインの力の前に為す術もなく崩れ落ちた。
だが敵は一匹二匹ではない。
何十もの魔獣が次々と押し寄せてくるのだ。
「雑魚はもう、ほうって置くしかないのでしょうね‥‥」
ナツキの結界に守られながら戦うヒカルは、ヘルハウンドの攻撃をカウンターで返して呟く。
ハンター達にとって幸いなのは、数十頭に及ぶ魔獣達がいっぺんに襲ってこないことだろう。
バラバラと何処からか湧いてくる魔獣達は、一匹一匹対応してゆけば何とかなるようだ。
だが、終わりが見えない。
ストーンコカトリスやヘルハウンドといった大物の魔獣達に比べれば雑魚と呼んで差し支えない魔獣達も溢れてくる。
そして雑魚を相手にしていると大物の対応が疎かになるのだ。
「これじゃあ攻撃が当たらない‥‥面倒だな」
素早い動きで翻弄してくるヘルハウンドを、やはり同じように素早い動きを誇るスーは、ナイフを片手に溜息をつく。
スーの戦い方は遠方からの攻撃にはナイフを投げて対応し、接近戦では敵の懐にもぐりこみその急所を切り裂いてゆくのだが、ヘルハウンドは頭を三つ持っている魔獣。
死角というものがなく、投げたナイフも掠り傷程度しか与えられていないのだ。
ちっと舌打ちした瞬間、ストーンコカトリスのブレス射程距離内に入ってしまった。
「スーさん、よけてっ!」
ヒカルが咄嗟にケーナを抱き伏せ、ケーナはスーに叫ぶ。
だが、ケーナの目の前でスーに向けてストーンコカトリスの石化ブレスが発動した。
ケーナの声に反射的に避けていたスーは全身にそれを浴びることは防げたものの、片足にブレスを浴びてしまった。
「ああ、面倒くさい‥‥っ!」
徐々に石化しだす足は、スーの機敏さを奪ってゆく。
だが仲間達も戦闘中だ。
スーのフォローに回りたくとも、その瞬間に目の前の敵に切り裂かれてしまうだろう。
「カラファンの風の王、貴方が名を付けし娘の声が聞こえたらその加護を!」
ケーナの呪文が風に乗り、一直線に吹き荒れた旋風が魔獣達を薙ぎ倒す。
だが全てを倒すまでには至らない。
「‥‥面倒、くさいね、ほんとに‥‥」
石化が進む足はスーにとって重石にしかならない。
動くことの出来ないスーの身体目掛けてヘルハウンドの牙が襲い来る。
「まったく‥‥これだから目が離せないんだよな」
絶体絶命。
誰もがそう思った瞬間、スーの目の前に地上からの三人が出現し、ユウのナイフがヘルハウンドの喉に深々と突き刺さっていた。
「‥‥おおお! 初めてだったのに上手く行ったぁ! 集え! 裁きの轟雷よ、偉大な勇者の御業をココに! サンダーブレーク!!!」
リンフーが歓喜の叫び声をあげながらすかさず手近にいたストーンコカトリスにサンダーブレイクを撃ち落す。
稲妻がその手から迸り、ストーンコカトリスはブレスを吐く間もなく絶命した。
「なんであんたが此処にいるんだ‥‥」
「あら、噂で聞いてはおりましたが‥‥天空大陸はこんな所だったのですね。‥‥太陽と月光の導きよ、その加護を彼の者へ与え賜え‥‥ヒーリングムーン」
ユウの姿に唖然とするスーの足を、ディアナが即座に治療する。
淡く青い月の如き光を放つディアナの手がスーの足にかざされると、石化していた足はみるみる血行を取り戻した。
「初めましての人が居るけど、詳しい話は後回しだね」
「話しようもないしな」
リンフーにカインも頷き、敵を見据える。
心強い味方の登場で、絶望的な戦況に光が見えてくる。
「おい、スー。久々にアレをやる」
「ちょっ、そんな一方的な‥‥ああ、もう面倒くさいって言ってるのに!」
ユウに合図されたスーは、不貞腐れながらも同じ構えを取る。
「俺達に消されること、ありがたく思え」
「「絶・炎獄殺!」」
スーとユウの声が重なり、スーの炎が敵を焼き払う。
そしてユウがその炎の中で残像を残すほどの素早さで敵を切り刻んでゆく。
「では、参ります‥‥秘剣・霞斬り!」
「吹き荒ぶ風と雪の中で、永久にお眠りなさい‥‥アイスストーム」
ヒカルがカマイタチを発生させ、スーの炎で強化されたそれは敵を切り裂き、そしてセルムの魔法が獄炎から獄寒へと敵を誘う。
「クラスチェンジしたボクの力を見よ! 魔神の皇よ、誓約の下我が呼び掛けに応え邪悪を滅する裁きを。ファイアーブラスター!」
そしてとどめにリンフーの炎の矢が凍りついた魔獣達を貫き、粉々に打ち砕いた。
●エピローグ
「‥‥魔獣達の進行を‥‥止めないとっ」
大物との戦闘が終結し、これ以上魔獣達を地上へと進行させないためにナツキは走り出す。
だが。
「無理をしてはいけません」
急にナツキの身体中から力が抜け、倒れるその身体をディアナが抱きとめた。
「ど、して‥‥」
先ほどまで、身体中から力が沸いてくるようだったのに。
「緊張が解けたんだと思うよ?」
不安に陥るナツキの手をサクヤは優しく握って安心感を与える。
「この石碑は‥‥もしかして‥‥!」
廃墟を見回していたセルムが朽ちた石像に気づき、駆け寄る。
セルムの周りにハンターたちも集まる。
「テラ‥‥テラの声が聞こえるの! 教えてテラ、魔獣使い‥‥パパの兄様が何をしたのか」
石像に近づいた瞬間、ケーナの脳裏に、そしてその場の全てのハンター達にテラノーファ―― 幻と呼ばれるジュエルドラゴンの長の子の声が響く。
『伝えるよ、君の仲間や地上の次期長にも‥‥』
地上の次期長。
その言葉を聴き、なぜかスーは表情を曇らす。
ケーナには既に話してあったのだが、スーは神竜に仕え、いつの日か神竜を継ぐ者なのだが、現在周囲からはそれを認められていないのだ。
それというのも、神竜が行方不明なことに起因する。
神竜の行方を捜し、行き倒れかけたスーを救ったのがユウだった。
「‥‥預かりもん、返す」
ぷいっと不貞腐れたまま、スーはユウに以前渡された魔導石を投げ返す。
何が起こるかわからないこの天空の大陸で、魔力を増幅する魔導石を身につけていれば多少なりとも生存確率が上がるはずだから。
世話になりたくてなったわけではないけれど、受けた恩は恩。
‥‥大切に思うようになってしまった相手には、生き延びてほしいのだ。
「ふむ」
ユウはそんなスーの気持ちを知ってかしらずか、我が侭な弟を見るようににやりと笑って石を受け止めた。
「‥‥名はシレーネ、『精霊姫』と呼ばれ全ての精霊の頂点に立つ存在です。この大陸の何処かに‥‥今もきっと‥‥」
石像を前に、セルムは呟き、ふと、その石像から何かを感じて腕を伸ばす。
その瞬間、朽ちたはずの石像が輝き、オーブが出現した。
「これさえ無事ならば‥‥まだ望みはある、このオーブがあれば‥‥」
セルムの脳裏に、エンジュの里を焼き払われた忌まわしい過去が蘇る。
あの時、自分はたまたま長の命令で里を出ており、事なきを得た。
あの日から、セルムの白かった羽は漆黒へと変容した。
それは、古の魔術に手を出したせい。
行方不明の双子の兄を追いながら、なぜエンジュの里が狙われたのか。
禁呪と呼ばれたものに手を出そうとも、セルムには謎を解く義務があったのだ。
「テラ‥‥深遠の魔獣使いは、魔獣王に仕えているのね? パパは、そこにいるの? ねえ、パパの声も聞かせて!」
石像に涙ぐみながらケーナが願うが、テラの声はどんどん小さくなってゆく。
「あいつらの事ならよく識っているよ‥‥嫌って位にね」
テラの声が完全に消え去った後、サクヤは奥歯を噛み締める。
「ナツキさん、どうしましたか?」
「え‥‥あれ‥‥?」
魔獣王の名前を聞いた瞬間、ナツキの目からは涙が溢れていた。
ヒカルに尋ねられるまで、ナツキはそのことに気づいていなかった。
ナツキの心には、様々な感情が溢れかえり、自分では収拾つかなかったのだ。
「行きましょう。聖地へ」
セルムがその目を隠す分厚い眼鏡を外す。
その瞳は深い漆黒の瞳は遙か遠い聖地を見つめていた。