WonderTalk〜天空大陸5アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 難しい
報酬 3.9万円
参加人数 10人
サポート 0人
期間 12/22〜12/26

●本文

「魔獣王が、地上を殲滅する?!」
 ジュエルドラゴンの聖地に辿りついたハンター達は、守護幻獣の長の子・テラノーファ―― テラから告げられたその衝撃の事実に息を呑む。
「オーブを、ここに」
 年老いた錬金術師であり、魔獣王にその身柄を狙われた少女・ケーナの父親でもある男性は、虹色に輝く台座を指し示す。
 
 ドゥン‥‥ッ!!!

 砲撃とともに、聖地の城壁が大きく揺らぐ。
「くっ‥‥魔獣王、いや、深遠の魔獣使いか?!」
 テラがケーナと力を合わせ、城壁の決壊を強化する。
「どうやってここを探り当てた? ‥‥まさかっ」
 年老いた錬金術師は、愛する娘を守り、ここまで連れて来てくれたハンター達を見回す。
「魔獣の匂いを、伝って‥‥?」
 故意に情報を流すものなど一人としていなかった。
 だが、理不尽な過去の影響は個人の感情とは裏腹に、残酷な現実を突きつける。
「わたし、わたしはっ‥‥」
 その身に封じられる魔獣ごと自分を消し去りたい衝動に駆られながら、少女はその場に泣き崩れる。
「いや、あなただけのせいではないよ。‥‥魔獣はいつだって側にいたのだから」
 金色の魔獣を従えた召喚士も唇を噛み締める。
「今は責任の在り処を問うべき時ではないだろう?! お前達は仲間で、あいつらは敵だ!」
 ハンターの一人がテラの魔法で映し出された聖地の外を指し示す。
 そこには、八つの頭を持つドラゴンを従えた深淵の魔獣使いが下卑た笑いとともに攻撃を繰り出していた。
「あれは、日出国に祭られし神竜ですわ! その昔、魔獣として暴れていた頃、ヤマトタケルにより封じられ日本国の地下に眠っていたはず‥‥っ!」
 日本国出身の巫女は、はっとする。
 そう、以前、日出国のほぼ全ての転移門が使用不可になった事を思い出したのだ。
「くそっ、俺の杖をいいように使いやがって!」
 神竜の継承者たる青年は、深遠の魔獣使いの操る杖を見て激怒する。
「魔獣王の地上への進撃は、ケーナ達によりほんの僅かな猶予が出来た。でも、ここが落とされたら天空大陸も、地上も、全てが闇に飲み込まれてしまう‥‥。
 僕は、ここを動けない。
 だから‥‥」
 ハンター達と、深遠の魔獣使い。
 勝利は限りなく低い。
 それでも、ハンター達は世界のために戦うのだった。


☆Wonder Talk出演者募集☆

 ファンタジー世界を舞台とした特撮番組、『Wonder Talk〜天空大陸5〜』出演者募集です。
 剣と魔法を舞台としたこの世界の住人になりきり、運命を切り開いてください。
 

☆モンスター情報☆

『ヤマタノオロチ』
 日出国に封印されし魔獣。
 深遠の魔獣使いの手により強引に使役されているドラゴンです。
 八つの頭と八つの尾を持ち、荒れ狂う火山の如く大きな身体からは常に血が滴っています。
 十六ある赤い瞳の死角は、ほぼ無いと言えるでしょう。
 炎のブレスは九十度コーン。
 八つある頭の内、その全てが炎のブレスを吐くことが出来ますが、八つ同時に発動することは出来ません。
 ほかのドラゴン種族を遙かに凌ぐ強靭な鱗に覆われ、生命力も群を抜いています。
 正面勝負では、まず勝ち目のない相手です。


『深遠の魔獣使い』
 永遠の命を欲し、精霊姫・シレーネにもう一度会う事だけを願い生きている。
 神竜の継承者の杖を奪い、その杖の力で自らを強化し、本来操ることの出来ないありとあらゆるドラゴンを操っている。
 そして自らも知らぬ間に、魔獣王が地上の人々の魂を、命を奪い糧とする為に操られている存在。
 元々錬金術師であった為、魔獣使いとしてだけでなく、ある程度の爆薬も使いこなせます。
 もっとも、研究は主に不老不死についてだった為錬金術師としての攻撃力はあまりありません。

 また、上記以外のモンスター出現の可能性もあります。



☆地域情報☆
 今回の舞台は、ファンタジー世界カラファンにおける天空大陸から移動可能な『聖地』です。
 

☆選べる職業☆
 戦士 :戦いの専門家。主に剣で戦います。
 僧侶 :治癒魔法を得意としています。
 魔法使い:攻撃魔法を得意としています。
 踊り子:魅惑的な踊りで敵を翻弄します。
 召喚士:精霊を召喚し、使役します。
 吟遊詩人:歌い手です。呪歌を使えます。 
 シーフ:盗賊です。指先が器用で、罠の解除などが得意です。
 錬金術師:カラファンに存在する様々なアイテムを調合して薬や爆薬などを作り出します。

 なお、職業は参加者八人全員戦士や、僧侶と魔法使いのみなどといったパーティ編成も可能です。
 また、「こういった職業が欲しい!」などのご希望があれば採用の可能性もあります。
 

☆テンプレート☆
 WT参加者は、下記テンプレートを埋めてプレイングを送付してください。

【職業】『職業』の中から一つ選択
【心情】キャラクターとしての気持ちを書いて下さい
【戦闘】どのように戦うか
【台詞】各シーンで言いたい台詞
   〜台詞例〜  
  【挨拶】「?」
  【戦闘開始】「剣の錆にしてあ・げ・る♪」
  【必殺技使用時】「これでもくらいやがれっ!」
  【勝利時】「限りあるから、今が幸せなんだ!」
 *台詞例はあくまで例です。色々台詞や設定追加推奨です。
           
【その他】キャラクターの設定や口癖などありましたらどんどんこちらへ明記ください。


★重要★
 今回の設定では前回までのシナリオ参加者様は天空大陸・聖地に最初からいます。
 その他の参加者様は精霊達やハンターギルドから緊急要請を受け、天空大陸に転移、その後、砂漠の地下にあるエテルノ(泉)から聖地に転移したことになります。
 

●今回の参加者

 fa0142 氷咲 華唯(15歳・♂・猫)
 fa0406 トール・エル(13歳・♂・リス)
 fa0467 橘・朔耶(20歳・♀・虎)
 fa0612 ヴォルフェ(28歳・♂・狼)
 fa0761 夏姫・シュトラウス(16歳・♀・虎)
 fa1276 玖條 響(18歳・♂・竜)
 fa1521 美森翡翠(11歳・♀・ハムスター)
 fa1660 ヒカル・マーブル(20歳・♀・牛)
 fa2044 蘇芳蒼緋(23歳・♂・一角獣)
 fa2478 相沢 セナ(21歳・♂・鴉)

●リプレイ本文

●謎
「全く厄介な事をしてくれますわね」
 八百万の神に仕える巫女・トール(トール・エル(fa0406))は眼鏡と白衣を脱ぎ去り、豪奢な金髪を飾り紐で縛り上げる。
 その手には魔導石を加工した勾玉と神剣・天叢雲が握られていた。
「聖地の結界‥‥」
 幼い召喚士・ケーナ(美森翡翠(fa1521))は召喚士たる老いた父を見上げる。
「すまない‥‥」
 そして聖地を守護するジュエルドラゴン・テラノーファ―― テラは召喚士にして元魔獣使い・サクヤ(橘・朔耶(fa0467))の従えた時の魔獣・アルマを見て詫び、目を伏せる。 
「なんのことだ?」
「別行動だった君達の仲間も聖地に向かえ入れるよ。僕の同胞もいるから暫くは持ちこたえられる」
 サクヤの疑問には答えず、テラは結界の外に目を向ける。
「私も水と大地の力で結界の補強は可能だ。私では兄を止められなかったが、お前達ならきっと‥‥」
 ケーナの父が言い終わらぬ内に、聖地に再び破裂音が響いた。
「あらあら、怖いですねえ」
 そのおっとりとした口調からはとても恐れているようには見えないが、軽戦士のヒカル(ヒカル・マーブル(fa1660))は聖地の外に写るヤマタノオロチから目を逸らせない。
 そしてその身に魔獣を封印する魔法使い・ナツキ(夏姫・シュトラウス(fa0761))は声もなく震えている。
 ヤマタノオロチも恐ろしいが、今にも魔獣がこの身体を破り、仲間達を襲ったら‥‥。
 封印を補助する魔導書を抱きしめる腕に力が篭る。
「主‥‥いや神竜の行方、あんたは知らないのか?」
 神竜を探す竜の後継者・スー(玖條 響(fa1276))はいつもの口癖が鳴りを潜めている。
 それだけ、現状に焦っているのだろう。
 ヤマタノオロチは竜の中でも高位。
 その竜が操られ敵の手にある今、神竜の力を借りれればこれほど心強いこともないのだが‥‥。
「貴方の前から神竜が姿を消した後、神竜殿はこの大陸を訪れたことがあります。その時に何かメッセージを残している可能性はあるかと‥‥。
 キールから杖を取り返すか杖が破壊されれば現状に何か変化があるかもしれません」
「主がこの地へ? 不干渉の誓約はあったはずなのに‥‥なぜ」
 謎は深まるばかりだ。
「セルム?」
 シーフのユウ(蘇芳蒼緋(fa2044))が黒翼の魔術師・セルム(相沢 セナ(fa2478))に声をかける。
 セルムは、テラの魔力により映し出された聖地の外、ヤマタノオロチを従える深遠の魔獣使いを凝視したまま動かない。
「‥‥すみません。考え事をしていました」
(「あの男が里を‥‥ならば私は断じて許す事はできない‥‥」)
 胸に暗い思いを抱きながら、セルムは分厚い眼鏡を指で押し上げた。


●真実は、何処に?
「我と仲間を聖地の外へ送り給え!」
 ケーナの願いに精霊達が答え、ハンター達を瞬時に聖地の外へと転移させる。
 目の前に現れたハンター達に、深遠の魔獣使いは下卑た笑みを浮かべた。
「積年の恨み‥‥時の魔獣までいるとはのぅ? 全ては灰に帰すがよい!」
 魔獣使いが杖を振るう。
 それに呼応して、ヤマタノオロチがハンターたち目掛けて炎のブレスを吐いた。
「水の王、貴方の友の娘の声が聞こえたらその加護を。我等を竜の息吹から守る水の衣を与えたまえ!」
 既に敵の攻撃を理解していたケーナがオロチの炎が届くより早く水の精霊の加護を仲間達に与える。
 水のヴェールに守られたハンター達は即座に身を翻し、オロチの炎を避けきった。
「積年の恨み‥‥? それはこちらの台詞だ! アルマ、我が呼び声に従い覚醒しろ!」
 サクヤの怒りがアルマに注がれ、アルマはその背に生やした六枚の羽から金色の粉を散らす。
「ヤマタノオロチ‥‥俺の紋章じゃ止めるのは無理」
 スーの腕に刻まれた竜の紋章は竜の動きを一時的に止める効果も持つ。
 だが、相手が相手なだけにその力が及ばないようだ。
 それに‥‥。
(「何でアイツから、主の気配が?」)
 再度撒き散らされるブレスを避けながら、この大陸に残る神竜の気配が目の前の敵から香る事にスーは疑惑を否めない。
「来るべくしてきた敵、とでも言うか‥‥しかし、こいつはまた強敵だな‥‥」
 意識が散っているスーをさり気なく補佐しつつ、ユウはヤマタノオロチの弱点を探す。
 手持ちの武器ではオロチの硬い鱗に覆われた身体には、傷一つつけられない。
「‥‥いかなる強敵であろうと、弱点は必ずあります」
 黒翼の翼で宙を舞い、オロチの攻撃を拡散させていたセルムも呟く。
「くくくっ。敵はおろちだけではないぞぇ? ほーぅら!!」
「!!!」
 ヤマタノオロチの裏に隠れる魔獣使いが、ハンターたち目掛けて粗雑な爆薬を投げつける。
「火の王、貴方の加護を受けしテラノーファの友の声が聞こえたらその加護を! 新たな火の粉を防ぎたまえ!」
 ケーナが火の精霊に願い、避け損ねたナツキに降り注ぐ火の粉を払った。
「火を封じれば伯父様も爆薬使えない、けどオロチとスーさん以外皆、火の術使えないから気をつけて!」
「了解っ、‥‥くそっ、やっかいな!」
 最初の言葉はケーナに、そして後の言葉はオロチに吐いて、アルマを使役するサクヤは舌を打つ。
「まぁ、伝説の一人になるのもやぶさかではないですわね。おーっほっほっほっほ!」
 神の力で驚異的な身体能力を一時的に得たトールがオロチを退きつける。
「まあまあ、身軽さは専売特許ですよ?」
 ヒカルの剣には強靭な肉体を持つ男性のような重さはない。
 だが、楯を持たず軽鎧のみのヒカルの身のこなしは軽やかだ。
 右に、左に。
 ハンター達の連係プレーに徐々にオロチの首が絡まりだす。   
  

●エテルノ
「色々わかるようにもなったし‥‥ちゃんと叶えてやるとするか」
 創霊の泉・エテルノで吟遊詩人・ケイ(氷咲 華唯(fa0142))は呟く。
 その手には、対の蒼い宝石が付いたブレスレットが握られていた。
「ふむ‥‥やっぱり、皆もう聖地に向かって行ったようだな」
 途中、ケイと合流を果たした獣人族の戦士・カイン(ヴォルフェ(fa0612))は大剣を背負いなおす。
「急ごう。聖地へは、きっとこの泉が導いてくれるはずだ」
 このブレスレットを見つけるまで、ずっとケイの身体を支配していた精霊は、いまはもういない。
 いや、正確にいえば、願いを果たし安心してケイの意識と同化したというべきか。
 その精霊の記憶を得たケイには、この泉が聖地に繋がっていること、そして精霊の記憶を持つゆえに聖地以外のどこかへ飛ばされることもない。
 カインと共に、ケイは泉にその手を浸し、身体を委ねた。


●深遠の魔獣使い
「のう、サクヤ。お主は知っておるのか? お前の守るその少女こそが、全ての元凶だという事を」
 オロチを操り、ハンター達を絶えず攻撃する魔獣使いは、いままさに自分の懐へと飛び込み攻撃を繰り出そうとしていたサクヤに問いかける。
「お前の言葉に耳を貸す気など元よりない。父と母、大切な家族を皆殺しにされた恨み、いまこそ思い知れ!」
 サクヤ色違いの双眸が怒りと悲しみに燃え、アルマの攻撃が繰り出される。
 だがアルマの攻撃は深遠の魔獣使いの張る結界を破れず、吹き飛ばされた。
「お前は知るまい? いや、おまえ達というべきか。その少女‥‥ケーナは時を越えておる。我らの手から逃れる為に時の魔獣アルマの力を借り、テラノーファめが未来へと逃がしたのじゃ。
 ジュエルドラゴンとはいえ、時を越える力は持たぬからのう‥‥」
 くつくつと嗤う魔獣使いに、サクヤの視界が揺らぐ。
 一体、この男は何を言いたいのだ?
「ケーナ‥‥? アルマ‥‥? 一体、何がどうなって‥‥」
「わからぬか? まだわからぬのか?! 魔獣王がお前の父と母を殺したのは全てその娘が原因じゃ! その娘を逃がしたが為に報復したのじゃよ‥‥アルマはお前だけは守りきったようじゃが、いかんせん、まだ力は戻りきっておらぬようじゃのぅ?
 時を越えることはもう出来ぬか、ん? ほれ、何処を見ておる、手元がお留守じゃて!」
 深遠の魔獣使いが魔獣を新たに召喚し、それは言葉に翻弄されるサクヤに襲い掛かる。
「惑わされるな!」

 キ‥‥‥‥ンッ!!

「カイン!」
 サクヤの喉を切り裂こうとしていた魔獣の牙を、エテルノから転移したカインの大剣が防ぐ。
「いついかなる時も、俺がお前の側にいる」
 だから惑わされるな。
 カインはそのまま剣を振り下ろし、雑魚を切り捨てた。
「何だか大変なことになってるな。ま、やるだけやるか」
 首を絡ませ、動きの鈍るオロチと、深遠の魔獣使いを見てもケイは怖気づかない。
 それどころか歌う力に夢が漲る。
 未来に語り継がれる歌を作る。
 それはきっとこんな場面で生まれてくる!
 精霊との意識の融合を果たしたケイの歌声は古代語を操り、呪歌は仲間達の疲労を瞬時に回復してゆく。 
 

●未来の為に
 戦況は五分五分。
 だが、オロチの身体は生半な攻撃は通さない。
 数本の首を絡ませ、動きが鈍ったとはいえ、まだブレスも健在だ。
(「‥‥も、もう、これしか方法はないのですね‥‥」)
 仲間達に防御結界ブローディアを張っていたナツキは、それをやめた。
「ナツキさん、早まってはいけません!」
 身体を守る七色の結界が消えた事にセルムはハッとして止めるが間に合わない。
「‥‥お、オロチを倒したら私は皆さんに襲い掛かるでしょう‥‥で、でもいくら魔獣でもオロチと戦えば充分に疲弊しているはずです‥‥だ、だから私ごと魔獣を倒してください‥‥」
 楽しかったです。
 みんなと、いられた事。
 泣きながら微笑むナツキは眼鏡と魔導書を自らの手で壊す。
 その瞬間、ナツキの身体はハンター達の目の前で太古の魔獣へと姿を変える。
 常に渇きを抱えていた魔獣は迷うことなくオロチに襲い掛かり、その魂を糧にした。
 生命を直接奪われる苦しみにオロチは悶え苦しむ。
「あなたの相手は私です」
 戦況を読み、逃げようとしていた深遠の魔獣使いの前に、セルムは降り立つ。
 その背に生えた黒い翼は、死へと誘う。
「おお、お前の如きエンジュの雑魚にこのわしに敵うとでも‥‥っ?!」
 パチン。
 セルムの指が鳴らした小さな破裂音と共に、魔獣使いの張っていた結界は消え去る。
「何をした? わしに一体何を‥‥うっ!」
 息が出来ない。
 それどころか、全ての行動が制限されている。
「い、いやじゃ‥‥わしは、永遠の命おぉおぉおーーーーっ!!!」
 セルムの最高位魔法・グランシールを浴びた魔獣使いは断末魔の叫びを上げる。
「限りある命だからこそ人は‥‥それを‥‥贅沢ですよ‥‥」
 もう何も写さない目をみつめ、セルムは魔獣使いの杖を取る。
 残るはオロチだけだ。
「スー! 貴方の力を解放なさい!」
 元々スーのものであったその杖を、セルムは投げ渡す。
「俺の、杖っ! ‥‥ユウ!」
 魔獣に襲われ暴れ狂うオロチの攻撃を避け、スーは器用にその杖を受け取ってユウの名を呼ぶ。
「あいよっ」
『『「斬り刻め、炎華!!』』
 ユウはケーナの魔法により本来火は扱えない。
 だがスーとの連携により炎の中を舞う様に魔力を帯びたナイフでオロチを斬りつけてゆく。
「ナツキは、俺が止める! ‥‥彼の獣を我が身をもって束縛せよ! 代償はこの右目なり‥‥幻鎖封束!」
 サクヤの身体から幻影の鎖が幾重にも飛び出し、魔獣と化したナツキの身体を拘束する。
「‥‥この血が受け入れられるまで暫し眠れ‥‥わが竜の子」
 スーが自らの血をオロチに注ぎ、杖を掲げる。
 魂を全てではなくとも奪われ、ハンター達との戦いに消耗していたオロチは、スーの命令に背くことなく深い眠りについた。


●エピローグ
「ナツキは大丈夫だ」
 カインがナツキの身体をマントで包み込む。
 サクヤに束縛されたナツキは今はもう人の姿に戻っている。
 ナツキの師匠たる魔術師の封印が解けたいま、サクヤの束縛はナツキの身体を壊すことなく働いたようだ。
 ちいなさ寝息を立てるその姿にサクヤは微笑む。
 その右目は色彩を失っていた。
「アルマ‥‥?」 
 そっと、金色の魔獣がサクヤの目に触れる。
 色彩を失っていた目に光が戻る。
 ほんの少し、時を戻したのだ。
 サクヤは涙ぐみながら、アルマを抱きしめる。
 魔獣はサクヤを裏切ったわけではない。
 家族を失ったあの日。
 力を失っていたアルマは、助けたくとも助けられなかったのだ。
「‥‥キール伯父様、お休みなさい」
 ケーナは深遠の魔獣使いの瞳をそっと閉ざす。
「巡り合う場所さえ違えば、共に酒を飲みたかったよ」
 カインなりの最上級の褒め言葉と共に、魔獣使いを土に埋める。
 たった一つの事と世界を天秤にかけ、その結果がこの状況だという魔獣使いの信念。
 それは、大切なものを持つ身には通じるものがある。
「‥‥? ‥‥何処から声が‥‥?」
 リルムはずっと肩の上で震えている。
 ならばこの声は一体?
 自分を呼ぶ声にセルムは周囲を見渡すがわからない。
「一応、切らせて頂いたのですけど、これ、なんでしょうか?」
 深く眠ったオロチの尻尾の先端を、再び暴走しないように切り落としたヒカルが首を傾げる。
 その先端には、なんともいえない輝きを放つ鱗があったのだ。
「これは、神竜の鱗?!」
 スーが目を見開く。
 何故神竜の鱗があるのか理解不能だが、この気配は間違いない。
「俺が預かろう」
 ユウがほわわんとしたヒカルからそれを預かる。
「一旦、聖地に戻ろう」
「ちょっと、わたくしをほっぽらないで下さる?」
 聖地へ戻ろうとした仲間に、須佐之男命の力を使いきって身動きの取れずにいたトールが抗議の声を上げる。
 温かな笑いが広がった。