冥土のお仕事☆聖なる夜アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 易しい
報酬 1万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/29〜01/02

●本文

 ――思い遺したことはなんですか?
 ――行きたかった場所はどこですか?
 ――泣いている人はどこですか?
 ――その願い、その苦しみ、わたくしたちが解決しましょう‥‥。


「綺麗ですね」
 灯されてゆく蝋燭の火をみつめ、代理店長は目を細める。
 メイド喫茶『Entrance to Heaven』、略して『EH』では、クリスマスから年末まで毎年キャンドルを配るのだ。
 来店したお客様へはもちろんのこと、道行く人々にも小さなキャンドルを手渡してゆく。
「蝋燭、か。こうしていると命の灯火に例えられるのが良くわかるな」
 手渡された蝋燭をみつめ、メイド姿の店員も呟く。
 柔らかいオレンジ色の灯火は暖かく、和む。
「今年は、より多くの人々に配りましょう」
 代理店長の言葉に、メイド達は頷く。
 毎年配るこのキャンドルには、メイド達の祈りが込められているのだ。
 みんなが幸せになれるように。
 そして今年は、さらに霊力も込められている。
 いま、この世界は悪霊・戦禍衆との戦いにより獄霊界が消滅し、地獄と現世が繋がりかけているのだ。
 それを止める為、街の人々にも協力してもらう。
「でも、一般人を巻き込んでしまって、大丈夫でしょうか‥‥?」
 メイドの一人が不安気に表情を曇らす。
「その点は大丈夫です。人々に協力してもらうのは、幸せな気持ちになってもらうことだけですから。
 その気持ちがわたし達に力を与えてくれます。
 地獄と現世。
 この二つの世界の間に、幸せを運びましょう」
 キャンドルを揺らめかせ、メイド達は街に祈りを運び出す。


☆冥土のお仕事出演者募集☆
 深夜特撮番組『冥土のお仕事☆』では、メイド服に身を包んだ特殊能力を持った少女達が、助けを求める幽霊達の願いを叶え、天国へと導いています。
 そして今回『冥土のお仕事☆聖なる夜』では、地獄と現世が繋がってしまうのを防ぐ為、霊力と祈りを込めたキャンドルを配布していただきます。
 お店で配布してもよいですし、道行く人に配ってもよいです。
 また、お友達や恋人と素敵な一日を過ごすのも良いでしょう。
 その場合は、自分達のキャンドルを灯すのを忘れずに!

●今回の参加者

 fa0389 KISARA(19歳・♀・小鳥)
 fa0898 シヴェル・マクスウェル(22歳・♀・熊)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1170 小鳥遊真白(20歳・♀・鴉)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2601 あいり(17歳・♀・竜)
 fa2910 イルゼ・クヴァンツ(24歳・♀・狼)
 fa4048 梓弓鶴(22歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●彷徨える魂
「塊さんの魂が、まだ来ていませんの‥‥」
 天界に戻ってきていた天使・リリエル(KISARA(fa0389))は、悪霊たる柊塊(月 李花(fa1105))の魂が天界に届かない事に懸念を抱いていた。
 塊は戦禍衆としてメイド達を苦しめてきた悪霊だが、リリエルは彼女を憎めなかった。
 幾度となく戦う中で、彼女の中に潜む孤独に気づいてしまったから。
「探しに行くですの。彼女を救えるのは、きっとリリエルですの〜」
 天界から地上をみつめていたリリエルはその背に生える大きな白い翼をはためかせ、人間界へと降りてゆく。


●メイド喫茶『Entrance to Heaven』
「キャンドルが切れた。在庫はまだあるか?」
 街頭で仲間達と共にキャンドルを配っていたウェイター姿のレイ(シヴェル・マクスウェル(fa0898))が店に戻ってくる。
 その背には小さな模造品の天使の羽がついている。
 クリスマスから年末にかけて特別にあつらえた衣装なのだ。
「もちろんですよ。祈りを込めて灯しましょう」
 レイに声をかけられた代理店長(イルゼ・クヴァンツ(fa2910))はスタッフルームからすぐに在庫を用意する。
「Thank you。‥‥桜にも灯したんだな」
「ええ‥‥友に届くかと思いまして」 
 代理店長が店内の客だけでなく窓際に飾った桜の木の枝の側にも灯したキャンドルを置いたのを見て、懐かしさに目を細める。
 この枝に宿る桜の精は春まで目覚めない。
 けれど眠るその心に代理店長の想いは伝わるだろう。
「続きをしてくるよ。待たせているのでね」
 レイは代理店長の分のキャンドルを灯して手渡して街頭に戻ってゆく。
 手渡されたキャンドルの灯火をみつめながらふと窓の外を見れば、いつかの雀の親子が遊びに来ていた。
「森の皆さんにも、宜しく」
 窓辺にそっともう一つキャンドルを灯し、代理店長は接客へと戻ってゆく。


●戦禍衆
「あ〜あ、行く所なくなっちゃた。あいつ等のせいで‥‥でも夜魄兄はいるから、さみしく無いけどさ」
 塊はビルの屋上からクリスマスに浮かれる人間達を眺めて呟く。
 その側には同じ戦禍衆にして兄たる夜魄がいた。
「どいつもこいつも幸せそうじゃん。‥‥でも、地獄と現世が繋がるのは、もう時間の問題だね?」
 主様が消え、地獄と現世が繋がるのを防いでいた獄霊界はもう存在しない。
 そこかしこに地獄からの邪気が現世に滲み出していた。
「そうだな‥‥まあ、繋がるのを妨害する手段もあるんだがな‥‥」
「あの霊石の事だっけ? でも使う事になるのかな」
 塊は空間から霊石を出現させる。
 それはメイド達との戦いによって消え去った戦禍衆の残した霊力そのもの。
 そして、地獄と現世を切り離す最後の切り札だ。
「どうだろうな‥‥」
 五柱結界というものがある。
 戦禍衆たる二人の身体に封印している霊石と、二人がそれぞれ手にしている仲間の形見の霊石はそれを元に柱を立て結界を張ることが出来る。
 だが霊石は四つ。
 柱を立て現世と地獄界の間に結界を張るにはあと一つ霊石が必要となる。
 そして塊と夜魄以外の戦禍衆はもういない。
 必要な霊石を作り出すには‥‥。
「それをやると‥‥死ぬ事になるからな‥‥様子見だな」
 街を見下ろす二人の下に、白い羽根が舞い降りる。
 

●街頭
「素敵な日々を過ごしてなんだよ♪」
 いつものメイド姿に羽をプラスした立花音羽(あいり(fa2601))は道行く人にキャンドルを配る。
「ええっと‥‥キャンドルですっ!」
 そして同じ姿の高梨雪恵(風間由姫(fa2057))は顔を真っ赤にしながらキャンドルを頑張って配る。
 店ではいつもメイド姿でいるものの、こうして街頭に立ってキャンドルを配るのはやっぱり恥ずかしい。
「似合ってるんですから、もっと堂々としたほうがいいわ」
 咲村柚子(梓弓鶴(fa4048))は恥ずかしがる雪恵を励ましながらちょっと退席、といってその場を離れる。
 以前彷徨う霊となりメイド達を頼ってきた小説家・米牧さんのお墓参りに行きたいのだ。
 柚子は彼女の小説が好きだった。
「米牧さん、小説の続きが書けて良かったですね。実は‥‥あたしもあなたのファンだったんです。だから、あたしもあなたに会えて嬉しかったです。安らかにお眠りください‥‥」
 途中で買ったクリスマスローズをキャンドルと共に墓前に供える。
 花言葉は『追憶』。
 揺らめくキャンドルの灯火に雪が触れた。


「雪ですね」
 街ゆく人々に聖歌を歌う音羽の隣で、雪恵は空を見上げる。
「どうりで寒いと思ったんだよ。でも幻想的なんだよ♪」
 雪恵の言葉に音羽も空を見上げ、より一層歌う声に想いを込める。
 霊力を込めずともその歌声は高く遠く澄み渡る。
(「お兄ちゃんにも届いているかな‥‥」)
 音羽の歌声と、雪恵の想い。
(「来年も‥‥いいえ、未来永劫平和でありますように。私達の力で人々が救えますように‥‥」)
 自分の分のキャンドルにも火を灯し、雪恵は再び街の人々にキャンドルを配る。


●ライバル喫茶『Fantasy Space』
「あー、その、なんだ、うん。特に用事はなかったんだ。だが柚子がいけというからだな‥‥」
 もじもじもじ。
 EHのライバル喫茶FSに普段のバーテンダー姿からメイド姿に着替えて訪れた真白(小鳥遊真白(fa1170))は落ち着かない。
 目の前には以前から交友のあるFSのウェイターが顔を真っ赤にして嬉しそうに微笑んでいる。
 その子犬のような笑顔は反則だ。
 べつに特別じゃないんだ、キャンドルを配るのは仕事だし、ここに来たのだってちょっと縁があるからで。
 以前偵察に来たときからちょこちょこ会ってたりもするけれども、でもそれはべつに特別ってわけでは‥‥。
「?!」
 きゅっ。
 心の中で一生懸命言い訳する真白の手を彼が握る。
 ああ、もう、本当に。
「相手の幸せを想い、やさしい気持ちでこのキャンドルを配って欲しい。‥‥一緒に」
 ぷいっとそっぽを向いてキャンドルを押し付ける真白を彼はそっと抱きしめた。  
 
 
●結界
「見つけましたの〜」
 塊の霊力を手繰り、リリエルが舞い降りる。
「ここはあなた方のいるべき場所ではないですの‥‥さあ、一緒に天へ帰りましょうですの」
 だが塊は両手を広げ、迎え入れるリリエルの手を拒む。
 ふわりとフェンスの上に舞う。
「塊さん‥‥?」
「現世と地獄が繋がるのを防ぎたい?」
「えっ? 知っているんですの? ならぜひ教えてほしいんですのっ!」
 EHのメイド達がキャンドルを配り、人々の幸せでもって地獄と現世が繋がるのを防ごうとしているのはリリエルも知っている。
 そしてそれだけでは完全に防ぐ事は出来ないという事も。
「みんなを救うためなら、犠牲になる覚悟ある? その気が無いならこの方法は教える事出来ないんだよ。危険だもん♪」
「犠牲‥‥」
「そ♪ 死んじゃうんだよ、塊みたいに。雨に打たれても泣き叫んでも、誰にも見つけてはもらえない存在になっちゃうんだよ。たとえ天使でもね」
 凍りつくリリエルを塊はくすくすと嘲笑う。
 誰だって自分が可愛いのだ。
 他人の為に死ぬなんてありえない。
 天使と言えどもそれは一緒のはず。
 そう確信してその場を立ち去ろうとする塊の背に、リリエルは声を振り絞る。
「‥‥犠牲に、なるですの」
「えっ?」
「リリエルは天使ですから‥‥人間界を護る使命がありますの!」
 塊を迷いなくみつめるリリエルの赤い瞳。
 その瞳に写る自分をみつめ、塊は頷いた。
 
 
●儀式
「皆さん、準備はいいですか?」
 店を閉め、客の引いたEHで代理店長が銀の杖を構える。
 キャンドルを灯すメイド達とリリエルは頷いた。
 クリスマスから今日まで配り続けたキャンドル。
 その灯火から運ばれる人々の幸せな気持ちを利用し、現世と地獄を切り離すのだ。
 その為に、いま、地獄と現世の狭間をここに作り出す。
 本来なら空間を開くのは銀の杖の本来の持ち主である未来を予知する事のできるメイドの役目なのだが、未来が余りにも不安定な為に見える未来が歪み、眠りから覚める事ができないのだ。
「いきますよ‥‥っ」

 ゴウッ!!!
  
 銀の杖に霊力を込め、空間を開く。
 そこには、霊石を持った塊と夜魄が佇んでいた。
「よく逃げなかったんだよ」
 リリエルの姿を認め、塊は言う。
「邪魔はさせません!」
 咄嗟に兄たる死神の力を金の鎌へと具現化させ、雪恵が二人の前に立ちはだかる。
「いいえ、雪恵さん。違うんですの‥‥」
 その雪恵の肩を引き、リリエルが一歩前に進み出る。
「リリエル?」
 レイが嫌な予感に眉を顰める。
「‥‥リリエルは、この身体が無くなろうとも心は皆さんと何時も一緒です。この身体で大切な仲間を、ひいては人間界を護れるのなら本望ですの‥‥」
 ふわり。
 なにもかも許し、受け入れたリリエルは全てを包み込む笑顔で微笑む。
 塊と夜魄、そして二人の持つ霊石、そしてリリエルの身体が光りだす。
 光と共にリリエルの身体からは止め処もなく霊力が溢れ、その命の灯火が霞んでゆく。
「まて。そんなもの、私は認めない!」
 消えかけるリリエルの身体をレイは抱きしめる。
「誰かの犠牲で救われる未来などunnecessary、糞くらえだ!」
 抱きしめるレイの身体も輝き、霊力が結界へと流れ出す。
「貴方達だけを犠牲になどしませんよ」
 代理店長がレイの手を握る。
「私だって!」
 次々とメイド達がリリエルを抱きしめる。
 全てのメイド達の身体が光り輝き‥‥。
「あっ?!」
 パキ‥‥‥ンッ‥‥!
「結界が作られた?」
 人々の幸せと五柱結界。
 それが見事に調和して、現世と地獄の間に結界を作り上げていた。
「リリエルはっ?!」
「生きてますの〜‥‥」
 メイド達の腕の中のリリエルは、弱々しく、でも嬉しそうに微笑んだ。


●Dの時間
「降参だよ」
 想いの奇跡を目の当たりにして、塊は手を上げる。
 人の想いなんて、いい加減だと思っていた。
 人が人を思う気持ち。
「こんなにも強かったなんてね」
 塊には与えられなかったけれど。
「あなたの事も、想っていますの‥‥リリエルは、あなたにも幸せになってもらいたいんですの」
 力を振り絞り、リリエルは立ち上がる。
 一度は振り払われてしまった手を、再び塊に差し伸べる。
「幸せに、なりましょう?」
 メイド達も手を差し伸べる。
 代理店長が銀の杖を振るい、音羽の聖歌が響き渡っり天国への門が開く。
「塊も、幸せになれるのかな?」
 頷くメイド達に、暖かな光が溢れるそこへ、塊は夜魄とともに一歩足を踏み入れる。
 二人を迎え入れた天国の扉はゆっくりと閉まり、消え去った。
 窓の外には金色の雪が舞い落ちる。
「全ての人々に、物事に幸せを」
 メイド達の灯すキャンドルが、世界を幸せに導いてゆく。