遅刻なサンタ☆アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 1Lv以上
獣人 フリー
難度 やや難
報酬 1.2万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 12/29〜01/02

●本文

「サンタなんているわけねーだろ! あれ程いったじゃないか!!」
 ばんっ!
 10歳ぐらいだろうか?
 顔を真っ赤にして怒り、ドアを蹴飛ばして部屋を飛び出していく。
「おにーちゃん‥‥」
 ボロボロのぬいぐるみと空っぽの靴下を抱きしめた妹は、取り残された部屋の片隅で声を殺して涙ぐむ。
 声を出したら、叔父さん達に怒られてしまうから、出してはいけないのだ。
 今もおにーちゃんの声を聞いて、叔父さんが苛立たしげにしているのが部屋越しに伝わってくる。
「サンタさん‥‥どーしてきてくれなかったの‥‥?」
 わたしが悪い子だから?
 空っぽの靴下は何も答えてはくれません‥‥。


「なんでなんだよ‥‥なんで‥‥あんなにお祈りしたのに!」
 部屋を飛び出した兄は、道端の石ころを蹴りつける。
 掃除も洗濯も、食事の用意も。
 一度だってサボったことはない。
 サボれば、妹が殴られるから。
 だから、ずっと一生懸命頑張った。
「俺はいらないから。アイツにだけはって、お願いしたのに‥‥っ」
 去年までは幸せだった。
 お父さんもお母さんも側にいたから。
 でもいまはもう‥‥。
「ちくしょうっ!!!」
 ポーン!
 一際大きく小石を蹴る。
「いたたっ!!!」
 ?!
 草叢に飛んでった小石から、声が漏れる。
 いや、小石ではなく、人だ。
 クリスマスも過ぎた今日、サンタクロースの格好をした青年が頭を抑えて立ち上がる。
(「やばっ、当たっちゃった?!」)
 この人が叔父さんに文句を言いにいったら‥‥。
 その後に起こるであろう事に、少年は青ざめる。
「いやいや、こんなところで寝ててごめんね〜。それはそうと、キミ、これを書いた子だよね?」
 ちょっと間延びした声の青年は、少年にくちゃくちゃの紙を見せる。
「これっ、俺のっ‥‥!」
 街角にあったサンタポスト。
 サンタクロースに手紙が届くというそのポストに願い事を書いて入れておいたのだ。
 願い事を入れた瞬間に消えてしまって、変だなって思ったけれど、そのままずっと忘れてた。
「あ、ちょっとまって〜。逃げないでー。僕はこの子のことをご両親から頼まれたんですよ〜〜っ」
 咄嗟に逃げ出した少年をサンタ姿の青年は追いかける。
(「そんなこと、ありえないっ!」)
 お父さんとお母さんに頼まれるなんて、絶対にありえないのだ。
「ご両親といっしょに迎えにいきますからね〜。キミと、妹さんを。まっていてね〜」
 背中越しに遠ざかる声を振り払い、少年は全力で逃げ出した。 
 
 
☆出演者募集☆
 特撮番組『キミにMerryChristmas☆』出演者募集です。

 クリスマス。
 一年前から叔父さんの家に住んでいる幼い兄妹の所に、サンタクロースは来てくれませんでした。
 でも、なぜかクリスマスも過ぎた今日、サンタ姿の青年が現れて‥‥?
 この青年は何者なのか。
 幼い兄妹は幸せになれるのか?!
 それは出演者の皆様の手にかかっています。


〜募集役〜
 主人公:十歳ぐらいの少年
 妹:八歳ぐらいの女の子
 青年:サンタ姿の青年。

 以上三役は必ず埋めてください。
 サンタの青年を増やしたりしてもOKです。
 この他にも、家族や親友など、参加者にあわせて決めて下さい。

●今回の参加者

 fa0377 ASAGI(8歳・♀・蝙蝠)
 fa0914 キャンベル・公星(21歳・♀・ハムスター)
 fa2539 マリアーノ・ファリアス(11歳・♂・猿)
 fa2721 風間雫(33歳・♀・兎)
 fa4361 百鬼 レイ(16歳・♂・蛇)
 fa4371 雅楽川 陽向(15歳・♀・犬)
 fa4978 八嶋かりん(22歳・♀・犬)
 fa5272 室賀亜辺流(21歳・♂・一角獣)

●リプレイ本文

●サンタクロース
「うっわー、まだ手紙が来てる!」
 大きな斜め掛け郵便鞄と左腕のサンタマーク入り郵便局の腕章が特徴的なリュミ(雅楽川 陽向(fa4371))は、サンタポストに入れられた手紙を見て叫んだ。
 今日はもう二十四日。
 二十三日までなら担当地域のサンタクロースの準備が間に合うのだが、流石に当日の手紙となると難しい。
「この住所は、あのサンタさんの担当地区ね」
 手紙に書かれた住所を確認して、リュミはふっとその場からサンタクロースのいる場所へ瞬時に転移する。
 そう、彼女はサンタクロースにお手紙を届けるサンタ専用郵便局員なのだ!
「やっほー、サンタさん♪ 速達ですよ?」
「おわわっ?!」
 突然目の前に現れたリュミに、見習いサンタクロース(百鬼 レイ(fa4361))は手にした湯飲みを落っことした。
 もう何度も経験しているのにこの瞬間移動にはいまだに慣れない。
「ごめんごめん、驚かすつもりはなかったのですよ」
 驚かれることに慣れているリュミはテキパキとサンタの落とした湯飲みを拾い、ぱちんと指を鳴らして零れたお茶を消し去った。
「いやいやこっちこそごめんだよ〜。速達ってことは急ぎだよね〜」
 サンタは間延びした口調でリュミから手紙を受け取る。
「おとーさんとおかーさんと一緒に暮らしたい、か〜」
 子供が一生懸命書いたのがわかる手紙を見て、サンタはふーと溜息をつく。
「なんだかとっても気になるよね?」
「そうだね〜。これは絶対に叶えてあげなくちゃだよ〜」
 はっきりきっぱり時間外労働で残業確定だけど、子供の願いをかなえるのがサンタの役目。
 ちりりん♪
 サンタは部屋においてある自転車にまたがってベルを鳴らす。
 まだ見習いのサンタには、超高級トナカイ付きソリなど支給されないのだ。
 代わりに空飛ぶ自転車でサンタは願いを叶える為に部屋の窓から夜空へと飛び立ってゆく。 


●兄妹
(「あ、よかった。ちゃんと部屋にいたんだよ‥‥」)
 サンタ姿の怪しげな青年に声をかけられて家に逃げ帰った正志(マリアーノ・ファリアス(fa2539))は、部屋の隅にうずくまる優(ASAGI(fa0377))の姿にほっとする。
 怪しげなあいつももちろんいない。
「おにーちゃん? どうしたの?」
 きょろきょろと挙動不審な正志の顔を、優は心配そうに見上げる。
「今、サンタが‥‥」
「サンタさん?」
「いや、なんでもないだ。さっきは、怒鳴ってごめんだよ」
 正志はきょとんとする優の頭を優しくなでる。
「おにーちゃん、今日はね、優ちゃんもお手伝いするの」
 撫でられたのが嬉しくて、優は台所に立って小さな手で食器を片付け始めた。
「いいよ、優はぬいぐるみで遊んでだよ。割ったら叔母さんだって怒るだろうし、ほら、これ抱っこしてるんだよ」
 一年前のクリスマスに両親から貰ったぬいぐるみを優に押し付けて、正志は優の手から食器を取ってぬいぐるみから目を背ける。
 本当はこんなぬいぐるみ捨ててしまいたいのだ。
 優が大事にしているから捨てれないけれど、自分達を捨てた親達のくれた物など、全部どこかに捨ててしまいたかった。
(「どうしてなんだよ‥‥。捨てるならどうしてぬいぐるみなんかくれたんだよ‥‥」)
 一年前に二人の枕元にプレゼントを残して、両親はどこかへ消えてしまった。
 お母さんの妹の叔母さん夫婦に引き取られて、飲んだくれた叔父さんの言葉で捨てられた事実を知った。
「っ‥‥」
 あかぎれた手に冷たい水がしみて、正志の目に薄っすらと涙が滲んだ。
  
 
●叔母
「お前達は一体何をやっているの! こんなに部屋を散らかして」
 台所で食器を洗っていた正志に雫叔母さん(風間雫(fa2721))が怒鳴る。
「はい御免なさい。すぐに片付けるんだよ」
 優を背に庇いながら、正志は即座に返事をする。
 その行動に雫の胸は痛んだ。
 子供達に怖い存在として見られていることに。
「はいはいです。優ちゃんも片付けるの」
「返事は一回だと教えているでしょう! まったく整理整頓も返事もまともに出来ない人間なんて将来ろくな者にはなりませんよ」
 それでも叱らなければならない。
 きちんと躾けて立派な大人にしてあげなくてはならないのだから。
 正志は残った食器を手早く片付けて、怯えている優と共に部屋に戻っってゆく。
 そして雫は、綺麗に片付けられた食器と子供達の背中を見て泣きたくなった。
「姉さん達のようには決してならないで‥‥」
 人が良かった姉夫婦は、騙されて多額の借金を背負うことになった。
 そして姉はクリスマスの夜に雫に子供達を頼むと一通の電話を残して義理兄と共に消息を絶った。
 電話の後、夫と共に慌てて姉夫婦の家に行けば、そこには何も知らずに眠る幼い兄妹がいるだけ。
 姉の携帯はもちろん繋がらない。
 いま生きているのかどうかさえもわからない。
 だから雫は思うのだ。
 厳しく育てようと。
 決して騙されたりすることのない立派な大人に育て上げようと。
 子供達の為にカロリー計算をしながら雫は夕食を作り始める。
 

●ご近所さん
「正志さん、なんだか元気がないですね?」
 正志の家の真向かいに住んでいる八嶋(八嶋かりん(fa4978))は道路を掃く手を止めて声をかける。
 つい昨日もサンタ姿の青年が正志と優の事を尋ねて来たりしてちょっと心配なのだ。
「八嶋さん、この辺でサンタ姿の人見なかった? クリスマスじゃないのにサンタの格好をしているおかしな人なんだよ」
「えっ? あの人は正志さんの知り合いだったのですか?」
「知ってるの?!」
「昨日あって‥‥」
「そいつ何処にいったか教えてだよ!」
「正志くん達がよく行く教会に行くって‥‥あっ」
「ありがとうだよ!」
 八嶋が言い終わらないうちに、正志は全力で走り去ってゆく。
「大丈夫でしょうか」
 よく事情は知らないけれど、親戚の家に引き取られてきた幼い兄妹の事は八嶋もいつも気になっているのだ。
 若奥様な八嶋は小首を傾げつつ、走り去る正志の背中を見送った。 
  
 
●教会
「こんにちは、正志君。そんなに急いで、いったいどうしたの?」
 教会に全力で走りこんできた見知った少年にシスター・木下=テレーズ=希(キャンベル・公星(fa0914))は尋ねる。
 引き取られた叔父夫婦とは上手くいっていないのか、いつも正志と優はこの教会を尋ねてくるのだ。
「サンタ姿のおかしな人見なかった?! こっちにいったって聞いたんだよ!」
「サンタ姿の‥‥? 霧島神父はご存知でしょうか?」
 木下は窓を磨く神父に声をかける。
 だが神父も知らないようだ。
「おにーちゃんっ」
「優?!」
 てててててててっ♪
 家で留守番していたはずの優がぬいぐるみを抱えて駆け寄ってくる。
「お向かいのおばちゃんが教えてくれたの。おにーちゃんはここにいったよって。優ちゃんも一緒にいたいの」
 嬉しそうに笑う優のほっぺたは少し赤い。
 また叔父さんに叩かれたのだろう。
「おにーちゃん、サンタさんみつかったの?」
「いや、まだなんだよ。それにあいつはサンタじゃないと思うし‥‥サンタだったらクリスマスに来てくれたはずなんだよ」
 今日、正志は優にサンタを探すといって家を出てきたのだ。
 あの怪しい男性がほんとにサンタかどうかなんて関係ない。
 ただ、言っていた言葉が気になったのだ。
(「ご両親と一緒に会いに行く、か」)
 逃げたあの日に後ろからかけられた声に、正志はとても心引かれた。
 両親なんて大嫌いだ。
 でも、優はずっと会いたがっているのだ。
 あいつがもし本当に両親の居場所を知っているなら、聞き出して優に会わせてやりたかった。
「そうですわ。少し待っていてくださいね」
 木下は焼いて置いたジンジャークッキーを三個の小袋に詰めて二人に手渡す。
「これは?」
「一つはサンタさんの分ですわ。会えたら渡してあげてください。
 二十五日にこれなかったのはもしかしたらお腹が空いていたのかもしれませんわ。
 お腹が空いていたら倒れてしまってプレゼントを配れないでしょう?」
 真顔で言う木下に正志も思わず呆れてしまう。
 いい大人が本気でサンタの心配をしているのだ。
 木下のこうゆう所が正志は大好きだった。
「会えたら優ちゃんの分も渡してあげるの」
 優も小袋を抱きしめて笑う。
 遠くから、ちりりん♪ とベルの音が響いてくる。
 

●君にキミにMerryChristmas☆
「やあ〜。遅くなっちゃったんだよ〜」
 ちりんちりん、ちりんちりん♪
 夕暮れの空の彼方から自転車にまたがったサンタが教会に降りてくる。
 その大きな荷台には正志のお父さんとお母さん。
「父さん‥‥? 母さん‥‥?!」
 何が起こったのかわからない正志に、お母さん(風間雫(fa2721)一人ニ役)は涙を零す。
「パパ、ママーーーーっ!!」
 優がぬいぐるみごとパパとママに抱きついた。
「ごめんね、本当にごめんね‥‥」
 最愛の子供達を抱きしめてお母さんは詫び続ける。
「いや〜。ご両親を探すのに時間かかっちゃったんだよ〜。でももう大丈夫なんだよ〜」
 ずれたサンタ帽子を被りなおし、サンタは相変わらず間延びした口調で説明する。
「借金はちゃんと悪人達に返しておいたのよ♪」
 いつの間にか転移してきていたリュミが補足する。
 正志の両親に借金を背負わせた犯人も探し当て、きっちりと天罰を与えてきたのだ。
 もちろん、初めから背負う必要のなかった借金はチャラ。
「捨てたんじゃ、なかったんだ‥‥お父さん、お母さんっ!」
 自分達を嫌い、捨てていったのだと思っていた正志はサンタとリュミの説明、そして両親の止まらない涙を見て事実を知る。
 そうして、もうずっと一緒に暮らせるんだという事も!
「メリークリスマース!」
 ちりりん♪
 リュミを荷台に乗せて、サンタは自転車を天に向かって漕いで行く。
 大きな満月がサンタのシルエットをいつまでもいつまでも映し出すのだった。