2007年の訪問者アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
普通
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報酬 |
3.6万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
02/20〜02/24
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●本文
「嘘だろう‥‥?」
僕はその記事に目が離せなかった。
路上に散らばる薔薇に埋葬されるかのように眠る少女の写真。
インターネットに掲載されたその少女の死体は、僕がよく知っている彼女だった。
いや、よく知っているといっても僕が一方的に知っているだけなのだが。
僕は慌てて記事を読み漁る。
いつ、彼女は死んでしまうのか。
自殺とも他殺とも考えられる事件で、彼女が路上で発見された時、既に薔薇が撒かれていたらしい。
死因は後頭部の強打。
近くのビルの非常階段から落ちた可能性が高いという。
足を滑らしたのか、それとも誰かに落とされたのか。
目撃証言もないらしい。
「‥‥救ってみせる。僕が、必ず!」
僕は新聞を握り締め、意識を集中する。
彼女を救えるのは、きっと僕だけなのだ。
だが彼女の死亡推定時刻は深夜。
そんな時間に、同じクラスとはいえよく知らない僕と彼女が一緒にいてくれるとは思えない。
彼女と親しくなる必要がある。
深夜に一緒にいても、安心してもらえるような存在になれなければ、僕は彼女を救えないだろう。
じわりと周囲を包む空気が変わり――僕は一週間前の世界に戻っていた。
★『2007年の訪問者』出演者募集
特撮番組『2007年の訪問者』出演者募集です。
主人公は過去へ跳ぶ事が出来る超能力者です。
ですがあくまで大雑把な時間で、何時何分といった細かな時間には飛べません。
約一日単位となります。
その為、彼女が死亡する時刻2月19日22:36分ぴったりには飛ぶことが出来ません。
また、過去の自分自身とは『基本的に』逢ってはいけません。
★募集役
彼女―― 主人公が好意を持っている少女。16歳ぐらい。
主人公― 過去へ跳ぶ事が出来る超能力者。16歳ぐらい。
以上二役は必ず埋めてください。
この他にも、女性の家族や親友など、参加者にあわせて決めていただいてOKです。
★★初心者の方へ★★
「シナリオに入ったけど、プレイングの書き方って良くわからない><!」
そんな風になやんではいらっしゃいませんか?
そういった場合は、下記テンプレートを埋めてプレイングを書いてみてください。
☆テンプレート☆
『2007年の訪問者』参加者様は下記テンプレートを埋めてプレイングを送ってください。
役名:演じる役名を明記してください。芸名のままでもOKです。
役柄:希望役柄を明記してください。
性格:演じるキャラの性格を書いて下さい。(例:お人よしだけど実は計算高い、などなど)
行動:自分のキャラの行動を書いて下さい。
台詞:各シーンで言わせてみたい台詞を演じるキャラになりきって書いて下さい。
(台詞例)
挨拶:「今日もいい天気で嬉しいね? でもテストはやだなぁ」
*台詞例はあくまで例です。自分の演じる役に合った台詞を考え、プレイングに盛り込んでください。
*テンプレート以外もどんどんプレイングに明記OKです。
●リプレイ本文
●一週間前の世界
三枝 鞠花(榛原絢香(fa4823))の突然の死を知り、その未来を変えるべく倉石 悠(倉瀬 凛(fa5331))は一週間前の世界に来ていた。
倉石は周囲を見回す。
(「一週間前のこの時間は、僕は学校にいるはず。それは彼女も同じだった‥‥とりあえず、学校へ向かってみよう」)
倉石は早速学校へと走り出す。
●協力者
「あれ‥‥あんた、こんな所で何してるの?」
「うわっ?!」
学校へ来たものの、過去の自分と鉢合わせしないように裏庭に身を潜めていた倉石は、背後からかけられた声に飛び上がる。
声の主は幼馴染の桜木 雪花(ルナティア(fa5030))。
倉石の能力を知る数少ない人物だった。
「随分驚くのね。もしかしてまた未来の悠?」
「うん、実はまたなんだよ」
「今度は何があったの? 協力できることがあるなら協力するわ」
桜木には過去に何度も助けられている。
今回もまたお世話になるのは少々心苦しいのだが‥‥。
「とりあえずうちにきなさいな。いくら何でも野宿するのは厳しいし、泊れそうな場所も他にはないでしょ?」
「いつもごめん」
申し訳ない気持ちになりつつ、倉石は桜木の好意に甘えるのだった。
●彼女と彼
「まだ歌手になりたいとか夢みたいな事言ってるのか? いい加減諦めたらどうなんだ!」
バン!
喫茶店のテーブルを苛立たしげに叩き、そのまま川崎 涼(Rickey(fa3846))は店を出て行ってしまう。
その場に取り残された鞠花は追いかける事もできず、楽譜を握り締める。
華やかな美貌は曇り、涙が零れる。
(「どうしてなのかな」)
小さな頃から歌うことが何よりも好きだった。
それはいつしか歌手という明確な夢に変わり、その為にずっと努力してきた。
今回大手プロダクションの一次審査に受かり、最終候補にまで残れたのは決して運だけではない。
あと一歩で、夢への扉が開く。
だが彼はそれを認めてくれない。
彼の事をとても好きで、でも、歌うことも大好きで。
最終オーディションの日までもうあと数日だというのに課題の作曲もまだ完成していない。
「どうして、なのかな‥‥」
鞠花はもう一度呟き、涙を拭いて店を後にした。
●作戦会議。協力者を増やそう!
今日の鞠花は朝から元気がなかった。
薔薇のような笑顔が見れなかった事を倉石は思い出し、放課後、桜木に過去の倉石を引き止めてもらい、その間に倉石は音楽室を訪れる。
過去の自分はこの日、音楽の角先生(斉賀伊織(fa4840))に頼まれて楽譜の整理に来たのだ。
その時、部屋に彼女がいることに気づき、過去の倉石は彼女が立ち去るのを待ってから部屋に入った。
彼女に会うのが恥ずかしかったのだ。
だが今回はそんな事を言ってはいられない。
過去と同じ事をしていても、彼女が死ぬ未来は変えられないのだ。
彼女と仲良くなり、事件が起こるはずの深夜に彼女の側にいられる存在にならなければならないのだから。
倉石は勇気を出して音楽室に足を踏み入れる。
はっとして、鞠花が振り返った。
ピアノを前に白紙の楽譜を握り締め、彼女は泣いていた。
「倉石くん、珍しいね。角先生に何か頼まれたのかな? またね!」
涙を拭いて無理して微笑んで、彼女は倉石の脇を通り過ぎてゆく。
その手を、咄嗟に掴んだ。
「倉石くん?」
怪訝そうな顔をして、鞠花が小首を傾げる。
「あのっ」
「おっ、倉石頼んでおいた楽譜は整理できたかな?」
「ちょっとあなた、鞠花の手を離しなさいよ!」
倉石と角、そして角と共に音楽室を訪れた藤沢 美緒(姫乃 舞(fa0634))の声が重なった。
「ごめんっ」
藤沢の気迫に押され、倉石は慌てて鞠花の手を離す。
「鞠花、大丈夫?」
彼女を背に庇うように、藤沢は倉石と鞠花の間に仁王立ちする。
「オーディション、もうすぐね。応援してるわよ。‥‥でも、彼氏が反対しているんでしょう‥‥? 大丈夫なの‥‥?」
藤沢は倉石から鞠花を引き離すようにその手を取って歩き出し、そう鞠花に問いかける。
鞠花は曖昧に笑って答えない。
「オーディション?」
取り残された倉石は初耳なその言葉に思案する。
彼女が歌手を目指している事は知っていたが、オーディションも受けていたのか。
「三枝は最終選考に残ったらしくてね、いま色々と回りも神経質になっているんだろうね。作曲の課題が意外と難題になっているらしい」
角先生が困惑気味の倉石に苦笑気味にフォローを入れる。
(「作曲‥‥そうか、それで楽譜を握り締めていたんだ‥‥そうすると、彼女の死の原因は作曲が出来ない事での自殺‥‥?」)
「それはそうと、倉石、さっき桜木といなかった? 用事が出来たのかと思って楽譜取りに来たんだけどね」
「あっ、すみません。すぐに取り掛かります」
慌てて楽譜を整理する倉石だった。
「つまり自殺かもしれないなら、曲が作れれば彼女の死は防げるのよね?」
楽譜を整理し終わり、過去の倉石を引き止めている桜木にメールで連絡を取って落ち合う。
「作曲は得意だし、協力できれば協力したいんだよ。でも‥‥」
倉石が超能力以外に唯一誇れるもの、それは作曲だった。
「でも?」
「今日、彼女の友人に警戒されてしまったんだよ」
「うーん、それなら協力者を増やしましょう。彼女の友達で事情を話せば協力してくれそうな人、知ってるわ」
「ちょっとまって。未来を知っているっていわれて信じる人なんてそうそういないだよ」
過去に何度か経験した事があるからいえる。
超能力で未来から来たといわれてはいそうですかと信じる人間なんて限られているのだ。
すぐに信じてくれたのは桜木と竜胆 要(姫川ミュウ(fa5412))ぐらいだ。
「事情が事情だし、協力者は多いに越した事はないでしょう?」
他人に話す事を渋る倉石に、桜木は声を潜める。
もしかしたら今回失敗してもまたそこから過去に戻ってやり直す事が出来るのかもしれないが、試した事はない。
過去へ戻るという能力は特殊で、それ故に謎も多いのだ。
「‥‥わかったんだよ」
彼女の死を止める為ならと、倉石は頷いた。
●信じる者は救われる?
「それじゃ、本当かどうかテストしますね〜」
桜木の紹介で出会ったクレア・東条(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))はのほのんとした口調で眼鏡の奥の瞳を細める。
桜木と同じ隣のクラスで、鞠花と同じ吹奏楽部の彼女は鞠花とは別の意味で有名人だった。
大人しめでおっとりとした彼女は超常現象が大好きで、ついこの間も―― といってもこれから起こる未来のことだが―― 彼女はデパートの鉱石展示場で限定販売の月の石をGET出来たと喜んでいた。
桜木と倉石から時空跳躍が出来る超能力と聞いて、胡散臭がるどころかむしろ嬉々として話に食いついてくる。
「私が明日買おうと思っているものはなんでしょう?」
明日?
ってことは、僕にとってはもう過去の出来事だ。
「月の石だよね?」
「正解です〜。私がそれを買いたいことは、まだ誰にも言っていないのです。ということは、倉石くんは本物の超能力者さんなんですね。
こんな身近に本当の超能力者さんがいたなんて、私感激です〜。限定販売が買える未来もわかって、感激倍増です〜」
きゃっきゃっ。
そんな形容詞が似合いそうなほどクレアは浮かれている。
(「こんなあっさり信じちゃっていいのかな?」)
いや、信じてもらえてありがたいのだけれど。
「倉石くんが本物ってことは、大変です〜。一刻も早く鞠花を助ける為にも、作曲を手伝ってもらわないとです〜。美緒は私が説得してみせますよ〜」
鞠花が死ぬ事実に焦りながら、クレアは協力を買って出る。
桜木がやったねという感じでウィンクした。
●少しずつ、そして確実に。
「あれ?! 倉石? さっき帰らなかった?」
音楽室に残る倉石と鞠花をみて、角は驚く。
ついさっき倉石とは下駄箱で挨拶をしたばかりのはずなのだが‥‥。
「ん〜、まあいっか。二人とも、あんまり遅くならないようにね? 終わったら鍵を閉めて、職員室に返しに来なさい」
本当は鍵をかけに来たのだが、鞠花の事情は知っているし、ここ最近倉石が手伝うようになったのも知っていた。
だから下校時刻をとうに過ぎた今、本来ならさっさと帰さなければいけないのだが、角は笑って倉石に鍵を手渡して去ってゆく。
「倉石くん、遅い時間まで本当にありがとうだよ?」
クレアに作曲が出来る人として紹介されたときは戸惑ったが、実際一緒に作曲を始めてみると驚くほどスムーズに作業が進んだ。
「でもこんなに素敵な曲が作れるのに、秘密だなんてもったいないね」
曲を鞠花の声に合わせて最後の調節をしながら、彼女はそう呟く。
作曲を始めてすぐに、倉石からこういわれていたのだ。
『僕が音楽をしている事は周りには秘密にしているから、学校ではその話題を出さないでくれるかな』
と。
だから鞠花はクラスでは決して倉石に話しかけなかったのだ。
「僕、目立つ事はどうしても苦手なんだよ」
超能力のこともあるし、人に注目される事はずっと避けてきた。
鞠花に秘密にして欲しいといったのは、本当は何も知らない過去の自分に話しかけられたら対応出来ないからなのだが、それ以前から人と関わるのを避け、色々な事を秘密にしてきた。
全ては話せないとはいえ、こうして鞠花と作曲できるのは本当に嬉しい。
「オーディション、明日だね」
「うん‥‥」
「大丈夫、三枝さんなら絶対に合格するよ。保証する」
オーディションの事も知らなかった倉石には、その未来はまだわからない。
けれど一生懸命な鞠花が受からないはずがない。
「僕も客席でずっと応援してるから‥‥頑張って」
力強く応援する倉石に、鞠花も勇気付けられた。
●運命の日。未来は、変えられるのか?!
「ここで準備しておけば大丈夫なのかな?」
要は大きな布団を抱きしめて頭上を見上げる。
ビルの非常階段は事前に調べ、手すりが緩んでいたりもしなかったが、どうしても不安だった。
「ええ。位置はここであっているはずよ。最善を尽くしましょうね」
一緒に布団を持つ桜木の表情も不安げだ。
桜木にメールで急に呼び出されたと思ったらまた未来から来た倉石絡みで、しかも見知らぬビルの下に布団を持って待機して欲しいという。
「女の子が落ちてくるかもしれないから、って、ねえ? ほんとびっくりなんだよ」
びっくりだといいつつ、要は嫌な顔一つしていない。
いま要がここにいられるのも、あの時助けてくれた倉石のお陰だから。
「何が落ちてきても、絶対受け止めてみせるんだよ」
要はぐぐっと拳を固め、ビルの下に身を潜める。
「いよいよね。頑張って! 合格したら皆でパーティを開きましょう」
オーディション会場で藤沢は鞠花を元気付ける。
もちろん、倉石も一緒だ。
「鞠花、凄く楽しそう。私も、少しはあなたの事、信じてみようかしら」
自信を持ってオーディションに望む鞠花をみて、藤沢は倉石をやっと信じる。
最初は本当に不安だったのだ。
年上の彼氏とも最近うまくいって無いようだし、さして親しくなかった倉石が急接近したのを内心快く思っていなかった。
鞠花は美人で誰にでも優しくて、本当にいい子だから、傷ついて欲しくないのだ。
けれどいま鞠花が笑ってオーディションを受ける事ができるのは、間違いなく倉石のお陰。
「‥‥鞠花の事、守ってあげてね?」
「精一杯、努力するんだよ」
彼女を失わない為に。
それは、本当に突然だった。
「随分楽しそうじゃないか。いい気なもんだな。歌手になれれば、もう俺の事なんてどうでもいいって事か」
オーディションに見事合格し、もう夜も遅い事からと倉石が彼女の部屋―― ビルの四階に送り届けたときだった。
会場に来ていたものの、倉石と一緒にいる鞠花にカッとなり、そのまま部屋の前で待ち伏せしていた川崎が怒りのままに鞠花を睨みつける。
「まって、倉石くんとはそうゆう仲じゃ‥‥」
「知らねぇよ!」
慌てて駆け寄る鞠花の手を振り解き、川崎は非常階段へと走り出す。
「お願い、話を聞いてなんだよっ」
「っ、こんな物!」
「あっ!」
鞠花の手から楽譜を奪いとり、川崎は非常階段から外へ放り投げる。
咄嗟に鞠花は手を伸ばし、楽譜に飛びついた。
受賞記念の薔薇の花束が空を舞い、鞠花の身体も宙に浮く。
川崎は動けなかった。
(「落ちる!」)
その時、倉石が川崎を押しのけて彼女を抱き止めた。
自分も落ちるとか、そんな事考えていなかった。
ただ彼女を助けたい一心で身体が動いた。
薔薇の花束が地面にぶつかり、舞い散る。
「生きてる‥‥生きてるね?! 良かった‥‥怪我は無い?」
鞠花を抱きしめたまま、その温もりに倉石は安堵する。
彼女は自殺したんじゃない。
事故で死んだのだ。
けれどいま、彼女は腕の中で生きている。
「うん、うん、大丈夫なんだよ。ありがとうっ!」
鞠花は泣きながら倉石にしがみ付く。
非常階段の隙間から、地面に散らばった薔薇が見える。
倉石がいなかったら、自分もあそこに落ちていたのだ。
「もうお前なんかに付き合ってられねーよ。勝手にしろ!」
本当は、鞠花が好きだった。
歌手になるのを反対していたのだって、自分だけの鞠花でいてほしかったからだ。
だがいま、自分は動けなかった。
身を挺して鞠花を救った倉石に、譲るしかないだろう?
苦い気持ちを押し殺し、川崎は捨て台詞をはいてその場を立ち去ってゆく。
ビルの下では事故を防げた事に安堵する桜木と要、そしてこっそり潜んでいたクレアも胸を撫で下ろした。