†雀巫女神社†騒音アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 普通
報酬 3.6万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 03/24〜03/28

●本文

 埼玉県の片隅にあるその神社は、恋が叶うとして密かに有名だった。
 小さな山の上にぽつんと立ち、赤い鳥居と、赤い袴姿の巫女さんがいる、どこにでもある普通の神社。
 いつもはまったり風味なその神社の今朝は、ヒステリックな女性の声が響き渡っていた。
「雀の鳴き声が煩いんですのよ」
 いらいらいら。
 そんな擬音が聞こえてきそうなほど眉間に皺を寄せて、その女性は神主に詰め寄る。
 歳は二十代後半だろうか?
 人の良さそうな上品な雰囲気なのだが、困惑顔の神主にこの神社があるから雀が集まるんです、雀をとにかくどうにかしてくださいねと念を押して立ち去ってゆく。
 その様子を、神社の屋根の上でじっと雀たちは見ていた。

 ぽんっ、ぽぽんっ☆
「ねえねえ、あたし達ってうるさいかなあ?」
 愛らしい音と共に雀が巫女姿に変身する。
 ぽんっ☆
「しーっ、神主がまた怒られてしまうわ。小声で、ね?」
 他の雀たちも次々に巫女姿へと変わってゆく。
 その背には茶色い雀の羽がパタパタと揺れる。
 そう、この神社の雀たちは実は雀巫女なのだ。
 天変地異を起こしたり、人の気持ちを無理やり変えることなどは出来ないが、ほんのちょっとした魔法が使える可愛い雀たち。
「今の方、三丁目の鳩仲さんですわよねぇ?」
 雀巫女の一人が今の女性に心当たりがあるらしい。
「ん? しってるのー?」
「えぇ。良く餌を頂いたりしていましたのよ。でもニ、三日前から餌がなくなってしまっていて、どうしたのかなと思っていましたけれど‥‥」
「そういえば、あの方、この間野良猫に餌をあげていましたねぇ」
「あっ、どっかで見た事あると思ったらその人かぁ! あたしもノラ犬の手当てしてあげてるとこみたよぉ。病院にも連れて行ってあげてたしぃ♪」
 ちゅんちゅんちゅん。
 雀たちは次から次へと発言し、一番年上の雀に、「しーっ」と窘められた。
 うん、また騒ぐと神主が怒られてしまう。
「これは、調べてみる必要がありそうですねぇ」
 年長の雀巫女が眼鏡の奥の瞳を光らせる。
「すくなくとも、動物嫌いのヒステリーおばさんじゃなさそうだしねっ。きっと何かワケがあるんだよ」
「餌がなくなる前‥‥そういえばご主人でしょうか? 一人暮らしの方だと思っていましたけれど、男性と一緒にいらっしゃるのをお見かけしたのですよね。少し言い争っていたような‥‥」
 餌を貰いにいっていた雀がふと思い出して呟く。
 その男性と今回の女性の急変は何か関係があるのだろうか?
 いつもは恋の悩みを解決する雀巫女達だったが、急に変わってしまった女性の謎を解くべく動き出すのだった。


〜雀巫女神社出演者募集〜
 特撮番組『雀巫女神社』出演者募集です☆
 なぜか人間に変身できる雀達が、恋に悩む人々の願いを叶えてゆきます。
 雀達はそれぞれちょこっとした魔法が使えます。
 でもあくまでちょこっとした些細な魔法なので、天変地異を起こすような物は使えません。
 背中に雀の羽を生やしていますが、普通の人間に会うときは隠すことも出来ます。
 また、通常は雀巫女状態の雀達の姿は人間には見えていません。
 なお、オープニングには女の子姿の雀しか出てきていませんが、男の子の雀がいてもOKです。
 その場合は、巫女服ではなく狩衣などになります。


〜募集役〜
 女性―― 上品そうな、けれど雀をどうにかしてくれと無茶を言う。
 雀巫女  

 以上二役は必ず埋めてください。
 なお、雀巫女は何人いてもかまいません。
 この他にも、女性の家族や親友など、参加者にあわせて決めていただいてOKです。

●今回の参加者

 fa0204 天音(24歳・♀・鷹)
 fa0868 槇島色(17歳・♀・猫)
 fa1105 月 李花(11歳・♀・猫)
 fa1320 江見澤るう(8歳・♀・小鳥)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa2057 風間由姫(15歳・♀・兎)
 fa2321 ブリッツ・アスカ(21歳・♀・虎)
 fa5461 榊 菫(21歳・♀・竜)

●リプレイ本文

●作戦会議だよ☆
「ちょっと、雀がうるさいの。何とかしてもらえません事? このままだと睡眠不足になりますわ」
 鳩仲彰子(榊 菫(fa5461))が今日も眉を潜め、雀巫女神社の神主に苦情を漏らす。
 その苛立たしげな声に驚いたのか、境内の雀たちは屋根の上や鳥居に飛び立ってゆく。
 自分を見て逃げるかのような雀達に彰子はほんの一瞬、悲しげな表情を残し、神社を去ってゆく。 


 ぽん、ぽぽんっ☆
 そんな音が聞こえそうな勢いで、雀たちが次々と雀巫女姿へと変わってゆく。
「ねえ? 私達、そんなにうるさいかな〜」
 彰子が立ち去った境内を屋根の上から見つめ、雀巫女の菫(月 李花(fa1105))は小首を傾げる。
「どうじゃかのう。蚊の鳴き声でも五月蝿いと思えば煩いのじゃろうし、気になる人間には気に障るのやもしれんのう」
 見た目よりもずっと年寄りじみた口調の小町(天音(fa0204))は深い色味を帯びた竜笛を撫でる。
 この笛を奏でると人の心を穏やかに、素直にさせる効果があるのだ。
 だが闇雲に奏でてもあまり効果は期待できない。
 きちんと状況を見極めなくては。
「大人のヒステリーなんて、放っとけばいずれ治まるわよ‥‥」
 仲間達が悩む横で、欠伸交じりに鈴音(槇島色(fa0868))は伸びをする。
 その姿はいかにもヤル気なっしんぐ。
「私たちの声がうるさい? それは申し訳ありませんでした‥‥でも、そんなにもうるさいですか?」
 神楽鈴を握り締め、鳩仲の立ち去る背中に雪菜(風間由姫(fa2057))は申し訳なさ気に頭を下げる。
 もちろん、彰子にその姿は見えていない。
 雀巫女達は通常、人には見えないのだ。
「でも本当に良い人なの。この間まではいつも餌をくれていたし、ただの雀嫌いとは思えないの」
「うんうん、るうもそうおもうの〜。ちゃんとるう用のすり餌も用意してくれてたの〜」
 鳩仲を知っているリル(姫乃 唯(fa1463))は急に変わってしまった鳩仲に疑問を抱き、幼いるう(江見澤るう(fa1320))も一緒になって頷く。
 普通、雀の餌といえば生米が真っ先に思いつくものだが、成鳥ならばともかくるうのように幼い小雀の場合、硬い生米は上手く消化できないのだ。
「ふむ‥‥。生米はともかく、すり餌はわざわざ購入しなければ常備されておるものではないのう。それともあの女性は幼い小鳥を飼っておるのじゃろうか?」
「飼っているなら、私達の鳴き声だけうるさいとか、へんなんだよ」
 鳩仲の行動に矛盾を感じる小町と、突っ込みを入れてますます悩む菫。
「じっとしてても分からないから、とりあえず行ってみるの〜」
「あっ、るうちゃん一人では危ないの! 私もついてゆくのっ」
 そしてやっぱり同じように悩んでいたるうはもぅ考えるの限界といった勢いでパタパタと屋根を飛び出し、その後をリルが慌ててついてゆく。
 他の雀巫女達も次々と事情を調べに屋根を飛び立つ。
 最後に残された鈴音はやっぱり気だるげにあふぅと欠伸を漏らして屋根に寝転がる。
 天気はいいしここは暖かいしお昼寝にちょうどいいし、餌も豊富だし。
 ‥‥餌?
「‥‥しかし餌場が減るのは死活問題よね‥‥」
 毎日神社を訪れるお客さんから餌を貰っていたりするが、そこはそれこれはこれ。
 餌場は多く確保しておくに越した事はない。
「仕方ない‥‥手助けしますか‥‥ほれほれ〜」
 くるくるくる☆
 手にした竹箒を回して小さな旋風を起こす。
 その風に乗って、仲間達に追いつくべく一気に鈴音は大空に舞い上がった。


●こっそり後をつけてみよう! 何かわかるかもかも?
「ダメよ、ダメ。餌はあげられないの。あっちにお行きなさい!」
 しっしと手を振り、家の側によって来た雀達を庭先で彰子は追い払う。
 その表情は雀を嫌うというより、苦しげだった。
 追い払われた雀達―― 雀巫女は鳩仲から隠れるべく、屋根の上に避難する。
 逃げる雀に肩を落とし、家に戻ろうとする彰子をちょうど尋ねてきた羽鳥誠美(ブリッツ・アスカ(fa2321))が呼び止めた。
「どうしたの? あなたらしくないじゃない、雀を追い払うなんて」
「誠美さん! ‥‥ちょっと、いまは‥‥」
 彰子は小声でちらっと玄関に目を走らす。
 そこには男性物の靴があった。
「‥‥お兄さんとまだ揉めているの?」
 事情を知っているらしい羽鳥は、心配気に彰子を見つめる。
「御免なさいね、また、あとで電話するわ」
 中にいる兄を気にしてか、彰子は羽鳥に詫びて早々に中へ戻ってゆく。
 ふうっと溜息をついて立ち去ろうとする羽鳥の前に、いつの間にか数名の少女達が立ち塞がった。
 もちろん、雀巫女だ。
 その背に生える雀の羽を隠し、人間に見えるようにした少女達は羽鳥に詰め寄る。
「お姉さん、鳩仲さんのお友達? とっても優しかったのに、最近苛々しているの。何か知ってる?」
「この家のお姉さん、急に雀嫌いになっちゃったの。何でか知ってたら教えて欲しいの」
「ただの動物嫌いのおばさんじゃないみたいだし‥‥」
 次々と尋ねてくる雀巫女達に羽鳥は困惑しつつ、場所移動を提案する。
「ちょっと場所移動しましょうか。家の前で騒いだら彰子さんに迷惑がかかるから。それに、どうしてそんな事を知りたがるのかを先に教えてもらえるかな?」
 少女達の歩調に合わせ、ゆっくりと歩きながら羽鳥は尋ねる。
 親友が急に動物嫌いになった理由はもちろん知っている。
 だが、見ず知らずの少女達にいきなり聞かれても答えづらいものがある。
「私、助けてもらったの。以前怪我しちゃった時に鳩仲さんが手当てしてくれたの」
「ああ、なるほど。あなたのペットを助けたのね? まったく、彰子さんらしいなあ」
 リルの言葉を、羽鳥はペットの手当てと勘違いして頷く。
 本当はリル自身のことなのだが。
「でもそれなら、彰子さんの事を気にするのも当然よね。彰子さんね、お兄さんと動物の事で揉めちゃってるのよ」
「喧嘩ですの〜?」
 小首を傾げるるうの頭をなでて、羽鳥は首を振る。
「ううん、喧嘩とは違うな。彰子さんはまあ、動物好きなのはいいんだけど、何でもかんでも拾っちゃったりするしなぁ。それでお兄さんから動物をこれ以上かまうなって注意されているのよ」
「鳩仲さんは良い人なんだよ。何でお兄さんにはそれがわからないかな〜」
「彰子さんは自分の食事も疎かにして動物に尽くしてしまうから、見てて心配になってくるのも、まあわからなくはないんだけど」
「うーん‥‥鳩仲さんは本当は動物に優しくしたいのに辛くあたっている‥‥かわいそうですよ〜」
「そうだね。やっぱりこのまんまでいいはずないよな‥‥どうしたもんかな。‥‥あれっ?」
 溜息をつき、羽鳥が顔を上げるといま話していた少女達の姿が消えている。
 数羽の雀達が飛び去っていくのを見、首を傾げながら羽鳥はその場を後にした。
 

●さあ、がんばって仲直りさせてあげよう!
「兄君を呼び出すことには成功したのじゃが‥‥さて、ここからが正念場じゃのう」
 彰子の兄とコンタクトを取り、上手い事説得して神社に誘導した小町は思案する。
 神社の境内に彰子と共に現れた兄は雀だらけのその光景に眉を潜める。
 その目は彰子に『また餌でもやるきなのか』といいたげだ。
 鳩仲は愛らしい雀達から目を逸らし、神主に詰め寄る。
 兄に、自分はこんなにも動物嫌いだという事をアピールするかのように。
「私に任せて! 本当は優しい鳩仲さんだもの。突然怪我した雀が目の前に落ちて来たら、きっと思わず助けちゃうよね。えいっ!」
 リルが屋根の上から境内に飛び降りる。
 ぼとっという嫌な音に彰子は青ざめた。
「落ちた?!」
 彰子はとっさに駆け寄りかけ、だが側に兄がいる事を思い出し、ぐっと我慢する。
 兄が自分を心配している事は嫌と言うほどわかっているのだ。
 これ以上心配をかけるわけにはいかない。
 だが我慢する彰子の前で、リルは苦しげな鳴き声を漏らし、身を捩る。
 あたかも怪我をした風に。
 はらはらとする彰子に追い討ちをかける如く、神楽鈴を雪菜が鳴らすと曇り空から小雨が降ってきた。
 そしてほれほれーというヤル気なさげな声と共に鈴音が箒を振るうと小さな旋風が起こり、雨と風がリルを打つ。
 雨風に打たれる怪我をしたように見える雀。
 彰子にはどうしたって見捨てる事などできなかった。
 ハンカチでそっとリルを包む。
「お前はまた拾う気かっ?! 何度いったら‥‥ん?」
 彰子の肩を掴み、叱ろうとする兄は、けれどどこからともなく聞こえてくる音色に手を止める。
 小町の奏でる竜笛は、彰子と兄の心にゆっくりと染み込んでゆく。
 手の中にすっぽりと納まる雀を撫でる彰子は心配そうにしつつ、けれど幸せそうだった。
 その表情を見て、兄はもう、全てを悟った。
 彰子には動物が必要なのだと。
 彼女は動物が大好きなのだと。
「兄さん‥‥心配ばかりかけてごめんなさい。でも私はっ‥‥」 
「‥‥無理しない程度に、世話をするんだぞ」
 竜笛により自分の気持ちを伝える事ができた彰子に、怒りよりも彰子を思う気持ちでいっぱいになった兄は、そう呟く。 
 そして雨がやみ、風が止まり、青空の見えた空にリルは飛び立つ。
「これからは家族が心配しない様に、動物達の事だけじゃなく、自分の事も大事にしてあげてね」
 その言葉は二人には聞こえないけれど、大空でリルは微笑む。
「これで、平気かな? でも、前と同じ姿が見えたから、一件落着だよ」
 屋根の上から見守っていた菫には、彰子が幸せそうに雀たちに餌をまく未来が見えていた。
「事件も解決したし‥‥のんびり昼寝でもしますか‥‥」
 そういって、鈴音はいつもの欠伸をあふぅと漏らした。