田中さん家の事情:結菜アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
易しい
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報酬 |
1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
03/26〜03/30
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●本文
「どーしてなのーーーーー!!!!!」
正人が立ち去って一人取り残された公園で結菜は叫ぶ。
『あいっかわらずお前って暴力女だよなー。ちったあおねーさんたちを見習えよ』
結菜にぶん殴られた頭をさすって、立ち去り際に正人はそういった。
どーしてぶん殴ったかといえば、正人が『お前、頭でも打った?』なんて聞くからだ。
そして何でそんな事を聞かれたかといえば、結菜が告白、したからで。
自信はあった。
だって田中家に代々伝わるおまじないを唱えたんだから。
むかーしむかし、田中家のご先祖様がつがいの狐さまを助けてあげたのだ。
そのお礼に、狐さまは田中家の守り神になって、田中家の人々が幸せになれるように恋のおまじないを授けたそうな。
どうして恋のおまじないなのかなんてわかんない。
おばーちゃんは狐さまが夫婦だったからじゃないかって言うけれど、理由なんてどうだっていい。
とにかくちゃんと恋のおまじないを唱えて告白したのに正人のやつときたら、いつもとぜんぜんまったく、何一つ変わらないの!!!
ちゃんとおまじないがかかった証拠に、ピンクの霧が一瞬正人を包むのも見えたのに‥‥。
落ち込む心にランドセルがずっしりと重い。
「どーしてなのよーーーーーー!!!」
もう一回叫び、結菜はもう一度おまじないを唱えてみるのだった‥‥。
★出演者募集
『田中さん家の事情:結菜』出演者募集です。
田中家には、代々伝わる恋のおまじないがあります。
そのおまじないは、好きな相手に唱えると、自分を好きにさせる効果があります。
ですが今回、結菜の想い人・正人には通じていない様子?
おまじないがうまく行かなくて、焦る結菜の恋を、楽しく演じてください。
★募集役
田中 結菜―― 主人公。田中家の四女。小学生です。
正人―― 結菜の好きな少年。同じ小学校です。
以上二役は確実に決めてください。
このほか、参加メンバーにあわせて友人や家族、学校の先生など自由に決めてください。
●リプレイ本文
●ちょっといったいどーなってるのー?!
「うちだけおまじないが効かないんだよっ、うわああああんっ!!!」
ばったーんっ!
家のドアを蹴破る勢いで結菜(武田信希(fa3571))はスニーカーを玄関に放り投げて居間に駆け込む。
「あらあら、どうしたの〜?」
田中家の三女・愛果(あずさ&お兄さん(fa2132))が不思議そうに声をかけるが、混乱状態の結菜の耳には届いていない。
姉の横を通り過ぎて飛び込んだ居間には結菜のおばあちゃん・由那(那由他(fa4832))がほんのりとお茶を飲んでいた。
「おばあちゃん、のんきにお茶飲んでる場合じゃないんだよっ。あのおまじない効果がなくなっちゃったんだよーっ!」
「あんたまあ、落ち着きなさいよ。とりあえず座って深呼吸するといいわよ。ほーら、大きく息を吸ってね」
かわいい孫が半べそ風味で泣きついてきているのをとにかく落ち着かせようと、那由は一緒に大きく息を吸う。
すーはー。
すーはー。
すー‥‥‥。
「どう? 少しは落ち着いたかしらね」
「‥‥うん」
ぐしぐし。
結菜は涙ぐんでた目じりを袖でぐいっと拭う。
「そしたらね、何があったのかゆっくりあたしに話してごらんよ。ね?」
那由はそんな彼女の鞄を下ろしてその頭を撫でてやりながら、優しく微笑んで話を促す。
「おばーちゃん、正人がね、今日ねっ、『あなたは頭でも打ったんですか?』って聞いてきたんだよ」
「あら、随分酷い事をいうわねえ。でも何でそんな事をいわれたのかしら」
「‥‥うちが告白、したからだよっ」
言った瞬間、結菜は顔を真っ赤にして那由から目を逸らす。
「ああ、なるほどね。それでおまじないが効かなかったって言ったのね」
「そうだよ、おまじないとなえてちゃんと正人にピンクの霧がかかったのも見えたんだよ? なのにダメだったんだもんっ」
うわあああああんっ。
再び泣きじゃくる結菜を那由はぎゅうっと抱きしめる。
「まあまあ、落ち着きなさいな。あのおまじないはね、ちゃんと効果があるものなのよ。あたしはあのおまじないでお祖父ちゃんを捕まえたんだし。
みんなが戻ったら、おまじないの効果を聞いてみましょうよ。ね?」
那由に言われ、結菜は泣きながら頷いた。
●みんなの時は、どうだった?
「あらあら、結菜もおまじないを使うような年頃になったのね」
夕食時。
みんなが集まる居間で話を切り出した結菜に、結菜の母・友里子(花香こずえ(fa5563))はそういいながらお父さん・ヒロシ(北沢晶(fa0065))のご飯をよそる。
「今日の夕食も豪華です。お母さんいつもありがとう」
百合子にベタ惚れなのが一目でわかる若々しい父は、お茶碗を渡す友里子の手を必要以上にぎゅーと握ったりしている。
そしてそんなヒロシに祖父の豪厳(モヒカン(fa2944))は「うをっほん!」と咳払いをしてぎろりと睨んだ。
慌てて手を離すヒロシにふんっと鼻を鳴らし、豪厳はその厳つい顔立ちを最大限優しく微笑ませて結菜を撫でる。
「この家のまじないは本物だ。おじーちゃんが由那殿に告白したときの事は話したであろう?」
「というか、近所中に響き渡る有名な話よね」
長女・柚子(姉川小紅(fa0262))が冷静に突っ込む。
田中家のおじいちゃんといえばあだ名が組長と呼ばれるほどに強面で二メートルの長身を誇るガタイのいい男である。
その豪厳がポン刀を背負い、当時女子高校生だった小柄な由那の前に仁王立ちし、
『結婚してくれなきゃ、この場で死ぬ』
そう真顔で言い切ったのだ。
これが伝説にならないはずがない。
「きっとおまじないが効きすぎてしまったのよね」
由那は当時を思い出し、ほんのりと頬を染める。
「私のときは、これといって目に見えるような効果はなかったのよ」
結菜と目の合った友里子も自分の時を思い出しながら答える。
なんとなく、結菜のおまじないが効かなかった理由について思い当たる事もあるのだが‥‥。
「そもそもお母さんとの馴れ初めが、更衣室を覗きげふげふっ。‥‥更衣室のドアを黙って少しだけ開けて、中の様子を伺ったのがきっかけだったからね」
ヒロシは更衣室を覗いたという言葉に再び豪厳にギロッと睨まれ、慌てて言葉を変えるがあんまりフォローになってない。
「そ、その後、順調にお付き合いを続けてるうちにゴールインしちゃったんで、お父さんは何時おまじないにかかったのかサッパリ判らないんだよ」
ちょっぴり冷や汗混じりにヒロシは豪厳から目を逸らす。
「お父さんはお母さんのことがずっと好きだったのかな〜?」
「うん、初めて出会った時からだからね。そういえば愛果も最近彼氏が出来たようですが、おまじないを使ったんですか?」
小首を傾げて尋ねる愛果に、ヒロシは聞き返す。
「そうね〜。おまじないは使ったんだけど、効いていると言えば効いているような、そうでもないような〜?」
「もうっ、おねーちゃんはっきりしてなんだよっ」
「以前よりはよく話しかけてきてくれたりするようにはなりましたけどね〜。もしかするとほんとに結菜ちゃんはおまじないが使えないのかも〜?」
「そんなの困るんだよっ!」
「愛果はお黙りなさい」
泣きそうになって抗議する結菜の声と、悪気なく妹を不安にさせる愛果を窘める柚子の声が重なった。
「大丈夫よ。こんな可愛くない性格の私だって、恋が実ったんだもの」
眼鏡の奥の理知的な瞳を細めて、柚子は携帯をみせてウィンクする。
その携帯の中には愛する恋人からのラブラブメールが四六時中届いている事は周知の事実。
「それに、結菜の良さは正人くんだってちゃんと解ってる筈よ。諦めないで頑張んなさい」
家族全員に応援され、結菜はもう一度アタックする事を決意するのだった。
●ほんとはね?
(「相変わらず元気ですね」)
制服のようなアイビールックの正人(藤拓人(fa3354))は生徒会室から校庭を見つめ、元気にサッカーをする結菜を眩しげに見つめる。
ボーイッシュな結菜は男の子に負けず劣らず上手にボールを蹴り上げる。
(「あっ、あいつ、結菜さんに手を‥‥っ」)
敵チームの男子が結菜を振り払い、結菜は盛大にすっころんだ。
はらはらする正人の前で結菜はすぐさま立ち上がりボールを見事シュート!。
ほっとする正人と結菜の目が合った。
咄嗟に目を逸らし、正人は何気ない風を装って書類に目を落とす。
もちろんベタに書類は逆さまだったりするのだが、校庭の結菜から見えはしないだろう。
(「はあ‥‥なんで僕はこう、ダメなんだろう」)
勉強はもの凄く出来る。
でも、好きな子への接し方なんて授業じゃ教えてくれなかった。
「ねえ、正人も一緒にサッカーしようよ」
?!
いつの間にか生徒会室の窓辺に結菜が来ていた。
正人の心臓が早鐘を打つ。
‥‥ごちんっ!
「なにをするんです?!」
「ああっと、ごめん、ぶつけるつもりはなかったんだよっ」
あわあわあわっ。
慌てふためく結菜と、鼻を押さえる正人。
いきなり結菜が正人に頭突きを食らわしたのだ。
もちろん、頭突きが目的ではなく、至近距離で結菜がおまじないを唱えようとしてそうなってしまっただけなのだが。
「もういいからあなたはみんなのところに戻るといいです。僕は暇なあなたと違って仕事が残っているんです」
冷たく言い切って結菜に背を向け、正人は机の書類をトントンと整える振りをする。
「‥‥ほんとに、ごめんなんだよ」
小さくあやまって、駆け去ってゆく足音。
(「‥‥傷つけたでしょうか。でも‥‥」)
正人の顔は真っ赤だった。
●ハッピーエンドはこれでキマリッ☆
「え‥‥結菜さんが戻ってこない?」
一緒に帰る約束をしていたという結菜のクラスメートにいわれ、正人は青ざめる。
既に下校時間はとうに過ぎ、辺りはうっすらと暗くなり始めている。
「もうこんな時間だから、あなた達は先に帰っていて下さい。結菜さんのことは僕が引き受けます。人通りの多い道を選んでくださいね」
生徒会長らしく冷静に対応し、けれどその心の中は焦りでいっぱいだった。
一体彼女はどこへいったのか。
正人は小走りに校舎を走り回って各教室を見て回る。
「あ、お前、じゃなくって君!」
そうこうしている内に結菜と一緒にサッカーをしていた少年とすれ違った。
やんちゃそうなその少年は先ほど結菜を転ばせた少年だ。
生徒会長に呼び止められ、やや緊張気味に少年は立ち止まる。
「なんすか?」
「ゆ‥‥じゃない、田中さんを見かけませんでしたか。先ほどまで一緒にサッカーをしていたでしょう」
「ボール片付けにいったんじゃね?」
興味なさ気に答える少年を、正人は殴りたくなった。
(「なんで結菜さんにだけ片付けさせるんですかっ」)
「わかりました。ありがとうございます」
はっきりきっぱり礼など言いたくなかったが、そこはそれ、礼儀正しい生徒会長。
少年に別れを告げて校庭裏の体育倉庫に走り出す。
(「困ったんだよ‥‥」)
体育倉庫に閉じ込められた結菜ははふーっと溜息をつく。
ボールを片付けに来たのはよかったのだが、倉庫の中に散らばっていたボールに躓いて転倒。
タイミング悪く、ドアが閉まって鍵が下りてしまったのだ。
完全に鍵をかけてあるわけではなく、外から錠が降りてしまっただけなのだが、中からいくら押しても扉は動かない。
携帯でもあればすぐに家族に連絡を取るのだが、学校は携帯の持ち込み禁止だ。
「寒いんだよ‥‥」
春とはいえ、夜はまだ寒い。
たった一人で薄暗い倉庫の中にいると、心のそこまで冷え切ってくる。
「‥‥?」
空耳だろうか。
正人の声が聞こえたような気がする。
「結菜さん、いますか?!」
ガチャリッ。
鍵を外して、正人が倉庫に飛び込んでくる。
いつものきちんとした髪が乱れていた。
「正人?! なんで、ここに‥‥」
「無事で、良かったです‥‥」
驚く結菜に、正人は自分のジャケットを脱いでかけてあげる。
「その‥‥風邪ひいたら大変です。―― 色々と」
「正人‥‥大好きなんだよ!」
おまじないを唱えるよりも早く、結菜は気持ちのままに告白する。
「‥‥僕も、です」
真っ赤になって目を逸らしつつ、正人は結菜の手を握り締めた。