田中さん家の事情:琴子アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
2Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや難
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報酬 |
3.7万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
04/13〜04/17
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●本文
おまじないなんて、必要ないと思っていた。
だって、私と和也はかれこれ半年の付き合いだったし、それに付き合うきっかけだって彼のほうから私に告白してきたからだ。
姉や妹が田中家に代々伝わる恋のおまじないで恋人を作っても、特に興味がなかった。
私はおまじないなんかなくても幸せだったから。
でも‥‥。
私の隣で楽しそうに笑っていた和也の表情が曇る。
その目線は、喫茶店の外。
同じクラスの上島英恵がいた。
私達には気づかずに通り過ぎてゆく英恵の後姿を、和也はじっとみつめている。
そんな和也に私はおまじないを唱えた。
ピンクの霧が和也を包み、目線が私に戻る。
「っと、オレ、何の話をしてたっけ?」
おまじないの効果なのだろう。
和也は英恵をみつめていた事を忘れ、私に意識を戻してくれている。
一ヶ月前から、もうずっとこんな調子だった。
『好きな人が、出来たんだ』
そういって、和也から別れ話を切り出されたのは一月前。
いつも一緒にいて、楽しくて、私は和也の心変わりに気づきもしなかった。
よくよく見ていれば、和也が英恵を気にかけていることがわかったはずなのに。
おまじないを唱えたのは、咄嗟だった。
立ち去ろうとする和也の背に、ピンクの霧がかかり―― 和也は別れ話をした事を忘れていた。
おまじないさえあれば、和也はずっと私のそばにいてくれる。
でも‥‥。
(「最近、効き目が弱くなっている‥‥?」)
おまじないを唱える回数が増えているのだ。
一ヶ月前に比べ、おまじないが効いている時間が明らかに短い。
もし、おまじないが切れたら‥‥。
一ヶ月前の和也の別れの台詞が琴子の胸に蘇る。
(「ダメ、そんなのは、絶対にいやっ!」)
わかっているのだ、こんなこと間違ってるって。
きっと長くは続かない。
でも、私は和也に側にいてほしいのだ。
お別れなんて、したくない。
だから‥‥。
「ずっと一緒にいましょうね?」
和也の気持ちには気づかない振りをして、私はおまじないを唱え続ける‥‥。
★出演者募集
『田中さん家の事情:琴子』出演者募集です。
田中家には、先祖が狐を助けた事により、その狐から授かった代々伝わる恋のおまじないがあります。
そのおまじないは、好きな相手に唱えると、自分を好きにさせる効果があるようです。
今回、琴子は心変わりしてしまった恋人におまじないを唱え続けています。
けれどおまじないの効果が段々と薄れてきている様子。
おまじないで人の心を縛り、悲しい恋をしている琴子を、最後はきちんとお別れすることが出来るようにしてあげてください。
★募集役
田中 琴子―― 主人公。田中家の次女。高校生です。
和也―― 琴子の彼氏。同じ高校生です。
以上二役は確実に決めてください。
このほか、参加メンバーに合わせて役を増やしてもOKです。
なお、前回『田中さん家の事情:結菜』に出てきた家族を演じる場合は出来るだけ設定を変えないで下さい。
出演していない家族を新たに追加するのはOKです。
〜前回登場人物一覧〜
田中 豪厳―― 田中家祖父。二メートルを越す長身。強面。
由那―― 祖母。小柄。どちらかというとおっとり?
ヒロシ― 婿養子。子煩悩。女性好き。ちょっぴりエッチかもしれない。
友里子― 母。
柚子―― 長女。OL。眼鏡着用。理知的。ラブラブな彼氏がいる。
愛果―― 三女。中学生。ツインテール。少し間延びした口調。
悪気なく周囲を翻弄してしまうタイプ。
結菜―― 四女。小学生。つい最近、正人という恋人が出来た。
元気いっぱい。ボーイッシュ。
★成長傾向
容姿、芝居。
●リプレイ本文
●だってしょうがないじゃない‥‥好きなんだから
田中琴子(伊藤 舞(fa4454))は、憂鬱な気持ちで朝を迎える。
一ヶ月前から、ずっと同じ。
夢に見るのは、別れの日の悪夢。
今日も、朝が来る。
「学校、いかなくては‥‥」
学校へ行けば、和也に逢える。
英恵にも会ってしまうけれど。
それでも私は、和也に逢いたい。
「うん、上手に焼けています」
昨日焼いたクッキーはこんがりと狐色で、見るからに美味しそう。
これを渡して、好きな事、大好きな事、気づいて貰えたら。
そうしたら、もう一度私を見てくれる?
和也の好きな色でラッピングしたそれを、琴子はそっと鞄にしまう。
●ねえ、本当に幸せ?
「琴子ちゃん、おはよう! 絵画展のチケット手に入ったんだけど、いるかな?」
重い足取りで学校へ向かうと、そこには親友の小林佳奈子(レーヴァ(fa5257))が待っていた。
長身で、スラリとしたスタイルの彼女は華やかで人目を引く。
彼女が自分の親友である事は、琴子にとってとても自慢だった。
「わぁっ、ミュシャ展ですね。私が予約をとりにいったときはもう売り切れだったんです。ぜひ行きたいです」
琴子が絵を描くことが好きな事を知っている親友は、どういたしましてと笑いながらチケットを手渡す。
二人が校門をくぐると、最愛の和也(羽生丹(fa5196))がいた。
琴子は駆け寄って、鞄からクッキーを取り出す。
「あ、あのね、これ、作りました。自信作なんです‥‥」
心持緊張して手渡す琴子を、和也は戸惑い気味にみつめる。
その表情でわかってしまう。
(「あぁ、また、おまじないの効果が薄れています‥‥」)
泣きそうになりながら、琴子はおまじないを呟く。
するとどうだろう?
和也の周囲をピンクの霧が一瞬包み込み、表情がぱっと明るくなる。
「琴子さんが作ってくれたんですか? 本当に美味しそうですね」
さっきまでの戸惑いが消え去り、和也は嬉しそうにクッキーを摘んでみたりする。
琴子を一番好きで居てくれた頃の和也に戻っている。
(「まだ、大丈夫です。まだおまじないは効いています。でも‥‥」)
自分の教室へと去ってゆく和也の後姿に、琴子はまた泣きそうになる。
「琴子ちゃん、やっぱり良くないよ‥‥こういうのって」
ずっと二人の様子を見ていた佳奈子が琴子を諭す。
「こうゆうの、って?」
「おまじない。また使ったでしょう‥‥?」
田中家に代々伝わる恋のおまじないは、無論、身内以外には秘密だった。
けれど親友の佳奈子にだけは、和也のことも含めて相談したのだ。
最初はおまじないに半信半疑だった佳奈子も、和也の態度が変わる様子を間近で何度もみて、信じてくれるようになった。
「だって、仕方がないじゃないですか。おまじないがなくなったら、和也さんはもう‥‥っ!」
「どうかしましたか〜?」
零れそうになる涙を必死でこらえる琴子の側に、いつの間にか同じクラスの上島英恵(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))が来ていた。
おっとりとした英恵は、泣きそうな琴子を心配げに見つめている。
でも琴子は、何も言えない。
「いま、ちょっと忙しいかな? 心配かけてごめんね」
俯く琴子の代りに、佳奈子が答える。
「そうですか〜。なにか私でお手伝いできることがあったら、いつでも言って下さいですよ〜?」
ほんわかとして人の良い英恵は、琴子の対応に気を悪くする風も無く、むしろ気遣って去ってゆく。
本当に、良い子なのだ。
和也が好きになるのも、頷ける。
でも‥‥。
やりきれない想いのまま、琴子は現実から目を逸らす。
●どうして、おまじないは効かないの? 好きなのに、どうしてなの‥‥?
「他に好きな人が居る相手におまじないをかけたら、どうなるのかな?」
田中家の一家団欒。
琴子は実際におまじないを使った家族なら何か知ってるかも知れないと、和也のことは伏せて尋ねてみる。
けれど長女の柚子(姉川小紅(fa0262))はピンときたのか、恋人からのラブメールを慌てて切り、廊下に出て行った。
「おまじないは、自分に気持ちがない人に使っても効果は弱いのよ」
ここ最近、ずっと琴子の元気がなかったことには気づいていた母・友里子(花香こずえ(fa5563))は、きっぱりと言い切る。
琴子がそんな事を言い出した理由には察しがついているのだ。
だから、ずっと琴子の好きな料理ばかりを食卓に並べたりもしていた。
「振り向かせる事はできるけど、ずっと続く訳じゃないとかいう話は聞いたような?」
友里子さんラブ! を全身で表現すべく、お味噌汁をよそる母の手をすりすりすりと撫でながら、父・ヒロシ(北沢晶(fa0065))も記憶を辿る。
おまじないの事を知ったのは田中家に入ってすぐだったから、かれこれもう二十年。
記憶もあやふやになろうというものだ。
「勿論お父さんはお母さんが大好きだから、おまじないは関係なかったけどね!」
お味噌汁を置いてこぼす心配のなくなった友里子をヒロシはぎゅーっと抱きしめる。
この夫婦は結婚当初からずっと変わらない。
「うおっほん!」
そして田中家の祖父・豪厳(モヒカン(fa2944))にぎろりと睨まれてあわててヒロシが離れるのもいつもの風景だ。
「田中の人間が幸せになる為に託された物故に、幸せになれないのなら効果は薄いのであろう」
お茶をすすりながら豪厳がぽそりと漏らす。
『幸せになれない』
その言葉に、琴子は悟らずにいられない。
おまじないは、心変わりをさせることは出来ないのだ。
なぜなら、無理に心を変えても、幸せになんてなれないから。
本当は、期待していたのだ。
おまじないを強める方法を。
でも‥‥。
「元々好きなら効果が薄いんだから、かけた相手が別の人を好きな場合もそうなのかもしれないね」
琴子がそうゆう状況だとは気づかずに追い討ちをかけてしまうヒロシに、友里子はそれとなくピシッと手を叩いて突っ込みを入れる。
絶望的な気分で居間を出た琴子は、柚子と目が会う。
『ちょっと今はダメなの、ごめんね』
廊下で恋人と話していた柚子は即座に携帯を切る。
「このまま彼と付き合って、琴子は幸せなの?」
目を真っ直ぐにみつめて問いかけてくる柚子に、琴子は動けない。
「お姉ちゃん‥‥」
「話は聞こえていたわ。あれ、琴子のことでしょう? おまじないは相手との縁を近付けてくれるけれど、無理矢理に結ぶわけじゃないのよ。
彼がずっと、琴子のことを見ていてくれるようには出来ないの。苦しい、苦しいって、泣きそうな顔をしているわよ」
「だって‥‥!」
「本当はもう、元に戻らないことをよく分かってるのよね。だからそんなに苦しそうなんでしょう? 私は、琴子に笑顔でいて欲しい」
大切な妹だからこそ、幸せになってほしい。
だから、柚子は厳しい現実を突きつける。
このままみて見ぬ振りをしても、琴子は幸せにはなれないから。
柚子の言葉に唇を噛み締めて、琴子は自分の部屋に駆け込んだ。
●幸せになるために
「やめようよ‥‥こんなの悲しいだけだよ‥‥?」
おまじないが無駄だとわかっていても、使い続けてしまう琴子を佳奈子は諭す。
もう既におまじないの効果はほとんど無くなっていた。
使えば使うほど、和也が英恵を気にかけていることがわかってしまう。
「英恵さんを想っている和也君も、あなたの好きだった和也君のはずじゃないの? 彼にも彼の幸せが、琴子ちゃんにも琴子ちゃんの新しい幸せがきっと待ってるはずだよ」
幸せ。
おじいちゃんも言っていたその言葉に、琴子はぐっと手を握り締める。
自分の幸せだけでなく、和也の幸せはなんだろう?
それは、きっと‥‥。
「和也の事は好きだけど‥‥嘘をついて誤魔化して付き合うなんて駄目だよね」
和也が英恵に会いに、教室を訪れる。
仲睦まじく話す二人は、見つめる琴子に気づく。
罰が悪そうに困惑顔の和也と、きょとんとした表情の英恵。
きっと英恵は、友達の彼氏が自分に好意を持っているなどとは、少しも気づいていない。
「二人とも、仲良くね」
おまじないの代りに、二人に祝福の言葉を残し、琴子は教室を後にする。
●えらかったね。がんばったね。
「ぬわぁにぃ?! 孫を玩んで棄てるとは、許しておけん! わが地獄元帥の錆にしてくれるっ!」
ズバアアアアンンッ!
事情を全て知った豪厳が日本刀を持ち出して構える。
地獄元帥とは愛刀の名前だ。
「おじいちゃん、落ち着いてです。もうすんだことなんです‥・・」
「やめて、おじいちゃん。そんなことしたら嫌いになっちゃうぞ☆」
今にも家を飛び出して和也を切り捨てそうな豪厳を、めいいっぱいにこやかに棒読みに、柚子が止める。
孫を溺愛している豪厳はその言葉にびくっと飛び跳ね、すごすごと居間の隅っこに縮こまった。
さり気なさを装ってずずーっとお茶をすする背中がしょんぼり。
「それなら今日はみんなで外食しよう! お父さんは太っ腹だぞー!」
だきゅーりっ☆
豪厳の切れっぷりに慌てる琴子を、今度はヒロシが愛情たっぷりに抱きしめた。
「お父さん調子に乗りすぎですっ!」
「そーれ、柚子もだっこしてやるぞーっ‥‥げふっ」
どびしっ。
ここぞとばかりに柚子も抱きかかえようとしたヒロシの頭に、柚子の無言の肘鉄が炸裂した。
「二人とも、一週間晩ご飯のおかず抜きにするわよ」
そして友里子もにこやかに言い切る。
「ええええええ?!」
「友里子さんそれはあんまりであろう」
情けない声を出す二人に、琴子もつい、笑いがこみ上げる。
目じりに涙が浮かぶのは、きっと笑いすぎのせい。
今はまだ辛いけれど。
親友と、こんなにも優しい家族がいてくれるから。
きっと、私は大丈夫。
琴子はぎゅっとお父さんに抱きついた。