天使の楽園アジア・オセアニア

種類 ショート
担当 霜月零
芸能 2Lv以上
獣人 1Lv以上
難度 やや難
報酬 3.7万円
参加人数 8人
サポート 0人
期間 05/23〜05/27

●本文

            
         ‥‥これで‥‥彼女の元に‥‥‥


 波の音と共に、どこか遠くで俺を呼ぶ声が聞こえる。
 その懐かしい声に、俺は慌てて飛び起きた。
 瞬間、ずきりと身体が痛む。
「っ!」
「あなた、大丈夫?」
 激痛に顔を歪め、その場に蹲る俺を彼女が覗き込む。
 ああ、やっと、逢えた‥‥。
「理奈‥‥」
 ずっと会いたかった彼女を痛みをこらえて抱きしめる。
「?」
 背中に、何か違和感があった。
「あなた、ほんとに大丈夫?」
 彼女が腕の中できょとんとしている。
 その背には、真っ白い翼が生えていた。
「り、理奈?」
「理奈って、私のこと? 私、サハラっていうの。あなたは?」
 サハラ?
 理奈じゃない?
 ‥‥ああ、理奈であるはずがない。
 彼女はもう‥‥。
「俺は、正一郎。中村正一郎」
「正一郎さんか。中々に古風な名前ね。正一郎さんは、どうしてここへ来たの?」
「どうしてって‥‥」
 いわれて気がつく。
 ここは、どこだ?
 いや、どこかの島なのはわかる。
 白い砂浜、青い海。
 そして背後には森が広がっている。
 森には南国を思わせる極彩色の果物がたわわに実り、遠くにはかもめが鳴いていた。
 まさにオアシス。
 だがこんな場所にどうやってきた?
 考えると、ズキリと頭が痛んだ。
「まあ、いっか。とりあえず、この島を案内するね。ずっと一人で退屈だったの」
 悩む俺にフフッと笑い、サハラは歩き出す。
 彼女が一歩歩くたび、背中の白い羽が揺れる。
 あの羽は、本物なのだろうか?
 いつの間にか、身体の痛みも消えていた俺は、彼女について島を見て回る。
 極小さなその島には、俺達以外は誰もいないようだった。
「ここは沖縄?」
「わかんない」
「定期便はあるのか?」
「知らないかも」
「おいおい、じゃあどうやってここから出るんだ?」
「出ようと思ったことないし」
「‥‥‥」
 ああ、もう。
 深く溜息をついたとき、ぞくりと背中に悪寒が走った。
「?!」
 咄嗟に振り返ると、避けた岩肌から闇がのぞいていた。
 ぱっかりと口を開いたその闇は、まるで全てを飲み込むかのように風が吹き込んでいる。
「‥‥あれが、視えてしまうの?」
 サハラが強張った表情で僕を見つめる。
「あそこは、絶対に近づいちゃダメ」
 それまでとはうって変わった強い口調で、サハラは闇から目の離せない俺の腕を引っ張り強引にその場から引き離した。
「あれは一体なんだ?」
「知らないかも」
 俺の目を見ようとはせず、サハラは強張った表情のままだ。
「でも絶対に、近づかないで。危険なの」
 知らないのに、危険?
 だがサハラはあの場所について説明する気はないようだった。
 そのまま無言のまま、二人歩みを進める。
「‥‥ん?」
 もといた砂浜に、何か落ちている。
 ‥‥人だ!
 駆け寄り、抱き起こす。
「おい、どうしたんだ?!」
 全身ずぶ濡れの男女数人が倒れこんでいる。
 酷い傷を負っている者もいる。
 サハラも駆け寄り、意識の無い彼らに手をかざす。
 彼女の全身から光の粒子が溢れ、光は彼らの傷をみるみる癒してゆく。
 魔法?
 一体、どうなっているんだ。
 非現実的な現象を目の当たりにし、問いただしたい気持ちでいっぱいだったが、まずは怪我人の救助が先だ。
「おい、大丈夫か? 何があった?」
 サハラの不思議な力のお陰か、倒れていた人々が次々と目を覚ます。
「船が‥‥事故で‥‥あたし、助かったの?!」
「もうダメだと思った‥‥」
 口々に漏らす彼女達の発言から、どうやら遭難事故らしいことがわかった。
 だが無事でよかった。
 ほっとする俺の背に、ぞくりとまた悪寒が走る。
 悪寒の先には、あの岩肌があった。
(「さっきより、裂け目が広がっている?」)
 気のせいだろうか。
 最初に見たときより、闇が大きくなっている気がする。
「おい、アレはなんなんだ?」
 遭難事故にあったうちの一人が、空を指差す。
 そろそろ闇の帳が下り始めた空には、二つの月が浮かんでいた。
 大きな満月と、小さな三日月。

『せっかく綺麗なんだもの。満月と三日月、一緒に見れたら素敵なのにね』

 月が好きだった理奈の言葉を思い出す。 
 だが現実にはそんな事ありえない。
 月が二つ浮かぶ世界。
 ここは一体、なんなのだ?
 混乱する頭で、俺はこの島からの脱出方法を模索し始めるのだった‥‥。
 

☆『天使の楽園』出演者募集
 特撮番組『天使の楽園』出演者募集です。
 気がつくと見知らぬ島にいた主人公達。
 この島はいったいなんなのか。
 サハラは何故ここにいるのか。
 そして正一郎は何故ここにいるのか。
 さまざまな謎を解き明かし現実世界へと戻ってください。
 
 
☆募集役
 ・中村正一朗(なかむら しょういちろう)
   主人公。男性。気がつくと見知らぬ島にいました。
 
 ・サハラ
   無人島にいた少女。正一郎の恋人・理奈にそっくりです。
   不思議な力を持ち、背には白い翼が生えています。
   この島について、何かを知っているようですが‥‥。

 ・遭難者
   船の遭難事故に遭い、無人島に流れ着いた人々です。
   男女数名。

 以上の役は必ず埋めてください。
 このほか、参加メンバーに合わせて役を増やしてもOKです。


★成長傾向
 容姿、芝居。

●今回の参加者

 fa0441 篠田裕貴(29歳・♂・竜)
 fa0443 鳥羽京一郎(27歳・♂・狼)
 fa1463 姫乃 唯(15歳・♀・小鳥)
 fa3237 志羽・明流(23歳・♂・鷹)
 fa4286 ウィルフレッド(8歳・♂・鴉)
 fa4909 葉月 珪(22歳・♀・猫)
 fa5176 中善寺 浄太郎(18歳・♂・蛇)
 fa5556 (21歳・♀・犬)

●リプレイ本文

●それぞれの事情
「ふたつの月がある島か‥‥。綺麗で不思議なところで、何だか引き付けられるけど。
 何故だか危険な雰囲気があるよね。ずっと此処に居てはいけないような‥‥そういう感じ」
 エミリオ・バルデス(篠田裕貴(fa0441))は浜辺で空を見上げ、目を細める。
 甘く伸びやかな美声も、心なしか不安げに揺れている。
 空に浮かぶ二つの月は、現実とはかけ離れた危険な美しさを醸し出していた。
「そうだな、この島は何かがおかしいと俺も思う。美しい姿で惑わしているような‥‥」
 隣に座り、一緒に月を見上げていた雪野 和臣(鳥羽京一郎(fa0443))も眉を潜める。
 エミリオのように不安になるというよりも、苛立ちが強い。
『スーツからオシャレに』を標語に掲げる男性向けアパレルメーカー『テュポーン』の専属モデルを勤める彼は、この船旅が終わったらまた撮影を控えているのだ。
 だが旅は終わるどころか事故に巻き込まれてこんな島に流れ着いてしまった。
 苛立つなというほうが無理だ。
「ねえ、キミたち。この島について何かわかった?」
 ぴょこん。
 そんな擬音が似合いそうな寝癖のある崇(志羽・明流(fa3237))が、メモ帳を片手に話しかける。
「君は‥‥確か崇君だったよね」
 エミリオが記憶を辿る。
 この島に流れ着いたのは男女合わせて七名。
 さきほど、この島に住んでいるという少女・サハラ(姫乃 唯(fa1463))の案内の元、全員一通り顔合わせと自己紹介を済ましたのだ。
「うん、そう。俺はね、一人旅の最中だったんだ。友達と一緒、ってのもいいけど、たまには一人で静かに旅をしたいと思ってさ。
 でも急に船が転覆なんてあるんだね。生きてるのがほんと不思議」
 事故の様子を思い出しながら、崇は肩を竦める。
 どことなく軽い口調なのは、まだこの島の不可思議さに飲まれていないのか、それとも生来の性格か。
 恐らく後者だろう。
「みんなここにいたの? 夕食の準備が出来たから洞窟に戻ってね。月穂の料理は最高なんだから!」
 夕食の用意をしていた幸(虹(fa5556))が月穂(葉月 珪(fa4909))と共に迎えに来る。
 月穂の左手には、婚約指輪が輝いていた。
「洞窟、ね」
 崇が呟き、洞窟とは反対方向に向かって歩き出す。
「あっ、ちょっと待ってよ。どこへいくの?!」
「彼女のいないとこ」
 メモ帳に目を落とし、崇はてくてくと振り返りもせずに去っていく。
「彼女って‥‥」
「サハラでしょうね」
 俯く月穂に、幸が溜息交じりに答える。
 遭難者ばかりが流れ着いたこの島で、唯一最初からこの島にいた人物。
 そして、明らかに人ではない存在。
 崇は彼女と、そして彼女の側に居たがる中村正一郎(ウィルフレッド(fa4286))を本能的に避けていた。
「仕方ないわね」
 幸はエミリオと和臣を促しつつ、親友の手を引いて洞窟へと戻ってゆく。


●この島を出る方法は‥‥?
(「理奈に、ほんとに良く似てる」)
 月穂の手料理を美味しそうに食べるサハラを、首から提げた愛用のカメラの手入れをしている振りをして、正一郎はそっと見つめる。
 童顔で歳よりも幼く見られがちで、いつも苛められていた俺を、年上の理奈は守ってくれていた。
 時にはいじめっ子達を追い払い、時には励まし、肉体的にも精神的にも支えてくれていた。
 理奈にとって、俺は恋人というよりは出来の悪い弟のようなものだったかもしれない。
 それでも、生きてさえいてくれればいつかほんとの恋人になることも出来たかもしれないのに‥‥。
 目の前の少女は理奈に生き写しで、思わず理奈が生きているかのような錯覚を受ける。
 けれどその背中の真っ白い翼が理奈ではありえない事実を正一郎に突きつけた。
「なぁ‥‥それって本物なのか?」
 デザートのパパイヤをかじりながら、戒(中善寺 浄太郎(fa5176))がサハラの白い羽を摘む。
 ふわふわと揺れるそれは、戒の手に間違いなくつままれて、幻覚や偽物ではない事がはっきりとわかる。
「うん。私の羽って珍しいのかな?」
「かなりね。俺が知っている限りあんただけだな」
 戒は興味深々にしげしげと羽をいじる。
 羽の先から、燐分のように光の粉が舞った。
「私に皆の事を聞かせて。貴方達が住んでいたのってどんな所? 家族はいるの?」 
 サハラの言葉に、月穂が悲痛な表情になる。
「家族‥‥。この遭難事故、きっとニュースになってますよね。‥‥きっと、凄く心配かけてしまってますね。
 せめて生きている事だけでも知らせる事が出来れば良いのですけど‥‥」
 ぎゅっと手を握り締め、婚約指輪に触れる。
 月穂は、幸に誘われて旅行に来ていたのだ。
 結婚したら、しばらく気ままに友人と旅など出来ないし、良い思い出になると思ったのだが‥‥。
「大丈夫よ、そんなに心配しなくてもすぐに帰れるとおもうよ。月穂の言うとおりきっとニュースになっているだろうから、救助隊が私達を助けに来てくれる。
 こんな経験めったにないもの、婚約者に凄い土産話ができたじゃない?」
「そうですね‥‥」
 こんな状況でも明るく前向きな幸を少し羨ましく思いながら、月穂は曖昧に微笑む。 
 一刻も早く、この島を出たい。
 島を出て、彼に逢いたい。
 より一層握り締めた両手が、薄っすらと透き通ってゆく‥‥。
 

●帰れない‥・・?
「おい、何が起こったんだ?!」
 エミリオを背に庇うように、和臣がサハラに詰め寄る。
「月穂? 月穂っ?!」
 幸は目の前で掻き消えてしまった親友の名を叫び、彼女の座っていた場所を激しく叩く。  
 そう、月穂は皆の目の前で光の粒子に変わり唐突に消えてしまったのだ。
「まさか、死んでしまったんじゃ‥‥」
「彼女は無事だよ。助かったの」
 不安がつい口をついて出たエミリオを遮るように、サハラが言葉を被せる。
「助かった‥‥? ねえ、それってどうゆう意味?!」
「つまり、ここは楽園なんかじゃない。危険だってことだろう」
 食べていたパパイヤを置き、戒も立ち上がる。
「ここから出る方法を教えろ。お前は知っているんだろう」
 和臣がサハラを睨みつける。
 だがサハラは俯き、答えない。
 いや、答えられないのか。
 チッと舌打ちをし、和臣は洞窟を出て行く。
 エミリオもその後を追い、幸と戒も着いてゆく。
「正一郎はいかないの?」
「うん」
「なぜ?」
「サハラの側に居たいんだ。ずっと、一緒にいたい」
 彼女は理奈じゃない。
 それはわかっている。
 けれど、理奈に本当に良く似ているから、正一郎は彼女から離れられない。
「ずっといたいとか、そんな事思っちゃダメ!」
「どうして? 俺のこと、嫌いなのかな?」
「そうじゃないの。でも、もう二度とそんな事を口にしては駄目‥‥」
「‥‥っ!」
 青ざめる彼女に触れようとした瞬間、正一郎の背に激しい衝撃が走った。
 まるで凍りに包まれるかのような冷たさに、正一郎は気を失いそうになる。
「駄目、気をしっかり持って!!」
 サハラの声に、理奈によく似たその声に、正一郎は辛うじて意識を保つ。
 サハラが手をかざし、金色の光の粉が正一郎を包み込む。
 正一郎の全身を覆っていた寒気がどんどん和らいでいった。
(「今のは、いったい‥‥」)
 泣きそうになりながらもほっとした表情のサハラを見て、自分は今とても危険な状態だったのだろうと思う。
 けれど何が起こったのかはわからない。
 ただ恐怖だけが身体に染み付き、思い出したくない記憶を思い起こさせる‥‥。
 
     
●強い想い
「近づいてはいけないって事は、ここには何かあるのかな」
 皆とは離れ、一人島を探索していた崇は、岩肌に目を凝らす。
 けれど皆が言うような闇の裂け目は見えない。
 そこには何の変哲もない岩肌があるだけだ。
 怪しげなサハラが近づくなというから来てみたのだが、とんだ見込み違いだったようだ。
「ここにいるのもいいけど、やっぱり、住み慣れたところが一番だよ‥‥」
 この島の事をメモにとりながら、崇はそう呟く。
 ありえない幻想的な美しさに、いつまでも居たくなるけれど、家には帰りを待つ家族がいる。
(「あれ?」)
 なんだろう。
 身体の力が抜けていく。
 指先が半透明に透けてゆき、周りの景色が霞んでゆく。
 金色の光に包まれながら、ふと気がつくと、崇は病院のベットで眠っていた。
 家族が何かを叫び、泣きじゃくって崇を抱きしめる。
(「ああ、つまりそうゆうことなのか」)
 あの島の謎。
 あの場所が何であったのか、崇は気づく。
(「みんな、頑張るんだよ」)
 残された仲間達をおもい、崇は祈る。
 
  
「崇君まで?! 一体どうなっているのよっ!」
 ヒステリックになりながら、幸は崇がいた場所を見つめる。
『近付くと危ないという辺り、何か謎があるような気がするが‥‥徐々に闇が広がっているようだし、調べる必要がありそうだな』
 洞窟を出て、和臣が今まで近づかなかった岩肌を調査するというので、一緒についてきた。
 そして目の前でまた一人ひとが消えてしまったのだ。
 気を失わないのが不思議なぐらいだ。
「闇に飲み込まれたのか?! ‥‥いや、違うな。闇はまだそれほど大きくはない。だがそれなら何故消えた?!」
 和臣が闇に決して近づかないようにエミリオの手を引いて一歩下がる。
「なあ、闇ってどこにあったっけ?」
 戒が岩肌をみつめて首を傾げる。
「君、見えなくなったのか?」
 エミリオが青ざめた表情で戒に尋ねる。
 エミリオの目には、岩肌がより一層大きく裂け、ぱっくりと口をあけている。
「ああ、確かあの辺に小さくあったはずなんだけど、今は消えてるだろう? カメラにとっておけばよかったんだけど、持ってきていないのが残念だ」
 変わった島の事を家族同然のペットにみせたかったと呟く。
 その瞬間、戒の身体も掻き消えた。
「またなの?! あの闇に飲まれたら死んでしまうの? 冗談じゃないわっ!!!
 まだまだ、やりたい事があるの! 私だって、これから幸せになるんだから‥‥っ!」
 幸が叫んだ瞬間、彼女もまた光の粒子となり掻き消える。
「僕だって嫌だよ‥‥死にたくなんかない。僕は、兄様が亡くなったときに、父様と母様に約束したんだ。兄様の分まで僕が生きるから‥‥だから泣かないでって。
 僕は生きたい。父様と母様が悲しむ姿を見たくないから。生きて帰りたいんだ!」
「冗談じゃ無い、俺はモデルとしてやりたいことを、まだ半分も成し遂げていないんだ。やり残したことはごまんとあるんだ、生に未練は山ほどあるんだ! 今死んでたまるか!!」
 エミリオと和臣、同時に叫ぶ。
 その瞬間、彼らもまた、その場から掻き消えた。


●最後に残るのは‥‥楽園〜天使の還る島
「みんな、助かったんだよ」
 生と死を彷徨っていた遭難者達が現実世界へと戻った事を察知して、サハラは呟く。
「みんなは助かったの?」
「うん」
「そうか。でも僕はきっと助からないんだよ」
 悟りきった表情で呟く正一郎に、サハラは焦る。
 あと一人、ううん、正一郎を助けなければサハラは天に帰れないのだ。
 助けてはいけない人を助けたが為に、サハラは天界を追放され、この生と死の狭間の島に幽閉された。
 死ぬべきではない人々を助ける事で、サハラの罪は浄化される。
「そんなこといわないで、お願い‥‥っ!」
 けれど悲痛なサハラの叫びも、全てを思い出した正一郎の心には届かない。
 理奈が死んだ理由。
 それは、海で溺れた正一郎を助けたからだ。
 彼女の墓を訪れる途中の海で、正一郎は身を投げた。
 理奈に救われた命だけれど、彼女のいない世界で生きている事などできない。
 闇がぐんぐんと広がり、二人のいる洞窟を包み込む。
「お願い、思い出して。この島よりも大切な事、きっと残して来ている筈だよ!」
 もう時間がない。
「サハラ‥‥?」
 サハラの身体が光り輝く。
『貴方だけでも、生きるんだよ』
 サハラの声が遠く霞む。
 そして正一郎は気づく。
 自分が死んだら、サハラはどうなる?
 サハラの身体から溢れる光の粒子が、闇から守るように正一郎を包み込む。
「駄目だ、死なないでっ、また俺を残して逝かないで!」
 けれどサハラは答えない。
 優しく微笑むだけだ。
「生きるから、絶対、生きてみせるから! 誰よりも強く生き抜いて見せるから、だからもう、俺の為に誰も死なないで!!!」
 絶対に、生きてみせる。
 サハラを死なせない為に叫んだその言葉が、闇を討ち払う。
 一面、光が溢れ、サハラがより一層光り輝き、背中の羽が大きく羽ばたく。
『ありがとう』
 サハラの唇がそう紡ぐ。
 正一郎は溢れる涙と共に、病院のベットで目を覚ますのだった。