†雀巫女神社†恋文アジア・オセアニア
種類 |
ショート
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担当 |
霜月零
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芸能 |
1Lv以上
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獣人 |
1Lv以上
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難度 |
やや易
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報酬 |
1.1万円
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参加人数 |
8人
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サポート |
0人
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期間 |
06/23〜06/27
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●本文
埼玉県の片隅にあるその神社は、恋が叶うとして密かに有名だった。
小さな山の上にぽつんと立ち、赤い鳥居と、赤い袴姿の巫女さんがいる、どこにでもある普通の神社。
普通とちょっと違う事といえば、雀がたくさん住んでいることだろうか?
チュンチュン、チュンチュン♪
愛らしくさえずりながら、一羽の雀がお賽銭箱の裏に舞い降りる。
「あれ?」
ぽんっ☆
小首を傾げ、可愛らしい音とともに賽銭箱の裏の雀が巫女姿の少女に変わる。
その背には小さな茶色い羽根がぱたついている。
そう、この神社の雀たちは雀巫女なのだ。
天変地異を起こしたり、人の気持ちを無理やりかえる事などは出来ないが、ちょっとした魔法が使えるかわいい雀たち。
「どうかしましたの〜?」
ぽぽんっ☆
別の雀も巫女姿に変わり、境内に落ちていた紙切れを拾って小首を傾げる雀巫女に声をかける。
ぽん、ぽぽんっ☆
他の雀たちも次々と雀巫女姿に変わってゆく。
「これね、お賽銭箱の裏に落ちてたんだけど‥‥」
拾った雀巫女が年長の雀巫女に困惑気味に紙を差し出す。
ほんのり顔が赤らんでいるのは、きのせいだろうか?
そして手渡された年長の雀巫女も中身を見て目を見開く。
「まあ、これは恋文ではありませんか!」
綺麗に折りたたまれた紙切れの中身は恋文。
しかも、いまどき珍しく筆で書かれている。
「落し物でしょうか〜? でもあて先も差出人もないのです〜?」
おっとりとした雀巫女も覗き込み、ほわわんとつぶやく。
達筆な字面から真面目な気質がうかがえるのだがいかんせん、あて先も自分の名前すらもそれにはかかれていなかった。
「筆でかかれる方と言えば、泪様が真っ先に浮かぶのですが‥‥」
雀巫女神社の神主の娘・真名津泪(まなづ るい)の名を口にする。
「でも彼女の字は、もう少し柔らかいですわ。この文字は、どちらかというと男性的では?」
「いわれてみると、泪ちゃんよりカクカクしてるねぇ」
「そうするともう、手がかりはないのでしょうか‥‥。これほどに情熱的な恋文、ぜひともお相手に届けて差し上げたいのですが‥‥」
「お賽銭箱の裏に落ちていた、というのも気になるんだよ」
お賽銭箱の裏は雀はもちろん、人も通れるスペースがある。
だから、間違って落としてしまったのなら人でも拾えるはずなのだ。
「隠しておいた、とかでしょうか〜?」
「だとしたら、見つけられちゃったら迷惑だったかなあ><!」
うーん、うーん。
雀巫女達、恋文を前に悩んでしまう。
「とにかく、見つけてしまったものは仕方ありません。恋を見守る雀巫女として、この恋文、きっちりお相手にお届けしましょう!」
「ら、らじゃっ!」
「でもどうやってー?!」
「唯一の手がかりといえば書道をたしなむ泪さまのみ。ならば泪様の周辺を探してみましょうっ」
「泪ちゃんは書道教室のお手伝いしてたよ、そういえばっ」
「近くの大学サークルにもお手伝いにいっていたような‥‥?」
「あとはー、なんだろー? とにかく調べるんだよっ」
手がかりの少ない、でも想いのこもった恋文を届ける為に、雀巫女達は一斉に飛び立つのだった。
〜雀巫女神社出演者募集〜
特撮番組『雀巫女神社』出演者募集です☆
なぜか人間に変身できる雀達が、恋に悩む人々の願いを叶えてゆきます。
雀達はそれぞれちょこっとした魔法が使えます。
でもあくまでちょこっとした些細な魔法なので、天変地異を起こすような物は使えません。
背中に雀の羽を生やしていますが、普通の人間に会うときは隠すことも出来ます。
なお、オープニングには女の子姿の雀しか出てきていませんが、男の子の雀がいてもOKです。
その場合は、巫女服ではなく狩衣などになります。
〜募集役〜
雀巫女
恋文の持ち主
以上の役はできるだけ埋めてください。
なお、雀巫女は何人いてもかまいません。
この他にも、乙女の家族や親友など、参加者にあわせて決めていただいてOKです。
※前回までの参加者様は、できるだけ前回と同じ役で出演してください。
但し、前回演じた役が話の都合上出演がない場合は、出演のある役へ変更していただいてOKです。
例)前回はヒロインの友人役だったが、今回はヒロインが違い友人は出演しないので、雀巫女に変更、など。
●リプレイ本文
●大事な落し物
「あれ。なんだろ、これ?」
チュンチュン。
今日も元気に神社の境内を飛び回っていた菫(月 李花(fa1105))は、賽銭箱の裏に落ちていた手紙に気づく。
「どうかしたのですぅ〜?」
眠たげな目を擦りながら、なつめ(柊棗(fa4808))も賽銭箱の裏に舞い降りる。
「なっちゃんは昨日あんなに寝たのにまだ眠いの?」
「なつめさんが眠たげなのはいつものことよ。それより、何を見つけたの?」
幼いるう(江見澤るう(fa1320))と元気いっぱいな文(アヤカ(fa0075))も神社の屋根から茶色い羽を羽ばたかせて菫のそばに下りてくる。
そしていつもの事だといわれたなつめはやっぱり眠たげなまま賽銭箱の裏に置かれた手紙に首を傾げる。
「‥‥ねえ、これ落ちていたんだけど」
うんしょ、うんしょ。
小さな雀の嘴では、人が書いたと思われるその手紙は大きすぎて上手く拾えない。
「もう、じれったいんだよっ」
ぽんっ☆
雀姿だと手紙を上手く拾えずに、菫が雀巫女姿に変身する。
人の姿になった菫はあっさりと手紙を拾い上げ、中を開けてみる。
「誰が落としたのかな?」
ぽん、ぽぽんっ☆
るうも、そして側にいた雀たちみんなして雀巫女姿に変身し、その手紙を覗き込む。
「こ、これは‥‥っ」
っかーーーーー><!
みんなが集まっているので何事かと側によってきた雪菜(風間由姫(fa2057))の顔が真っ赤に染まる。
握り締めた神楽鈴がちりりっと鳴った。
「雪菜ちゃんお顔真っ赤よ? どうしたの?」
るうが不思議そうに雪菜を見上げる。
幼いるうには、なんで雪菜が真っ赤になるのかわからない。
「恋文ですか」
雪菜と一緒に側に来ていた芽衣(姫乃 舞(fa0634))は、真っ赤になっている雪菜とは正反対に冷静に文面を見ている。
「恋文? じゃ、相手探さないと駄目だね〜。無くしたなら困っているだろうし」
いまどき珍しい流暢な筆文字に菫も目を細めつつ、落とし主探しを提案する。
「そ、そうですね、こんなに情熱的な、こ、恋文なんですからっ」
かっかっかーーーー><!
純情な雪菜はさらに真っ赤になってつっかえながらも菫に頷く。
恋を叶える雀巫女とはいえ、人様の恋文を見るのは恥ずかしい。
「でも〜、この手紙名前が書いてありませんよぉ〜?」
眠たげな口調のまま、なつめが重要な事を指摘する。
そう、この手紙には自分の名前はおろか、相手の名前すら書かれていないのだ。
「そうなると、う〜ん、何処探せばいいんだろう?」
「なつめさんの能力で見つからないかしら?」
うーっと眉間に皺を寄せて悩む菫に、文が提案する。
相手を探すといっても名前も何もわからなければ、探すのはかなり困難だが、なつめには無くしたものを発見できる能力がある。
「確かになつめさんなら見つけれるかもしれないんだよ」
雪菜も期待の眼差しをなつめに向ける。
とうのなつめは「う〜ん?」と首を傾げながら菫から手紙を受け取り、目を瞑る。
‥‥‥。
「所でぇ‥‥」
「「「わかりました?!」」」
ぱっと目を開いたなつめに、雀巫女達が身を乗り出す。
「何を探すんでしたっけぇ〜?」
すってーんっ☆
身を乗り出していた雀巫女達が一斉にずっこけた。
●落とし主は、誰かなー?
「ん〜、あっちかな〜? それとも、あの子かな〜?」
雀姿の文が書道教室の窓に止まり、きょろきょろと見渡す。
「撥ねの癖といい、カクカクした形といい、あの方の文字が似ている様な?」
教室の後ろに飾られた生徒達の字と恋文の文字を見比べ、芽衣がおおよその目星をつける。
ここに来ようと提案したのは芽衣だった。
いまどき珍しい筆字に留まらず、それが素人目でみても綺麗な字面であることから、恋文の作者はどこかで書道を習っている可能性が高いと考えたのだ。
そして神主の愛娘・泪も書道を嗜み、近所の大学やこの書道教室の手伝いに来ている事から雀巫女神社とも縁のあるこの場所に探しに来たのだ。
「筆跡とかよく分からないの。芽衣ちゃんは分かるの?」
一緒にくっついてきたるうが小首を傾げる。
るうの目から見ると、書道教室に飾られた作品はどれも同じに見えてしまうのだ。
「文字には一人ひとりの個性が出るものです。上手下手もそうですが、手本と同じように書いていても間の取り方や形に必ず違いが現れるものなんです」
るうに説明しながら、芽衣は恋文と同じ癖を持った作品の作者・楓(倉瀬 凛(fa5331))を探す。
楓は丁度先生に呼ばれて席を立つところだった。
「ついて行こう!」
「あっ、文さん教室の中まで入っては‥‥っ」
立ち去る楓を追いかけて文が教室に飛び込む。
いくら雀巫女とはいえ、大胆だ。
教室の子どもたちが突然入ってきたかわいい雀たちに歓喜の声を上げた。
●友達以上恋人未満?
「颯くん、今日どうしたの?」
里沙(ジュディス・アドゥーベ(fa4339))は同じ教室に通う楓に声をかける。
弟みたいにかわいい楓は、なんだか今日一日そわそわして落ち着きがないのだ。
「い、いえ、特に何も‥‥」
楓は里沙から目を逸らす。
その顔は耳まで真っ赤だ。
「ん、ひょっとしてちょっと熱ある?」
「?!」
こつん。
すらりとした長身の里沙は屈んで楓のおでこと自分のおでこをくっつけた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
「うーん、熱はないようですね。でも季節の変わり目は風邪を引きやすいですし、楓くんも気をつけてね?」
突然の出来事に声もなくあわあわとしている楓にお姉さんっぽく注意して、里沙は去ってゆく。
後に残された楓は里沙に触れたおでこに手を当てふうっと溜息。
「やっぱり里沙さんは僕の事、弟みたいにしか思っていないんだろうな。里沙さんは優しくて可愛くて‥‥でも僕は年下だし。
身長だって僕の方が低いし‥‥僕なんかじゃ釣り合わないよね」
ふぅーともう一度深く溜息をついて、楓も帰路に着く。
その様子を、五匹の雀たちがじっと見つめていた。
●雀たちの見守る中で
「里沙さんが僕の気持ちに気付いてくれますように」
鞄にしまっておいたお米を賽銭箱に入れて、楓は祈る。
この雀巫女神社が恋を叶えてくれる神社だと知ったのは、書道教室の女の子達の噂話だ。
『ねえねえ、泪さんの神社って、恋が叶うんだって!』
書道教室の手伝いに来ている真名津泪が雀巫女神社の娘である事は知っていたが、その神社が恋を叶えるというのは初耳だった。
半信半疑で、でも、ほんの少しの可能性にもかけてみたくて、楓はしたためた恋文をこの賽銭箱の裏に隠した。
「あ、あれ? 誰かに持って行かれたのかな」
賽銭箱の裏に隠したはずの恋文が見当たらない。
奥のほうに入ってしまったのかと、屈んで覗き込んでみるがわからない。
「颯さん、ですよね?」
「わっ?!」
突然声をかけられて、楓はめいっぱい後ずさる。
だが声をかけてきた相手の手にあるものを見て叫んだ。
「あ、それっ!」
「これ、神社で拾ったのですが、貴方の物ではないですか?」
雀巫女姿の芽衣は、恋文を楓に見せる。
もちろん、雀の羽は見えないように魔法で隠してある。
「良かった、何処へ行ったのかと思った」
楓は大切な恋文をほっと受け取る。
「勇気出した方がいいんだよ?」
「え?」
いつの間に現れたのだろう。
芽衣と同じように雀巫女姿の菫をみて、楓は驚く。
「後で後悔するよりマシなんだよ。あと、自分の気持ちには、正直にね?」
「恥ずかしくても、ちゃんと渡さないと伝わらないの。悩むより、行動が大事なの」
ちょこん。
いつの間にか楓の足元にはるうまで巫女姿で見上げていた。
「貴方のお気持ちは確かに受け取りました。この恋文は、貴方の手でお相手の方にお渡ししてあげて下さい。私達の力を込めましたから、大丈夫、きっと上手く行きますよ」
ふわり。
茶色い瞳を柔らかく、温かく細めて芽衣は微笑む。
その瞬間、楓の中にある確かな勇気が花開いた。
「あら、楓くんも通り雨ですか?」
パタパタパタっ。
書道バックで雨を防ぐように頭の上にかざしながら、里沙が境内に駆け込んでくる。
その後ろでは、雪菜が神楽鈴を握り締めてくったりとしていた。
雪菜の能力で里沙の上にだけ局地的ににわか雨を降らせたのだろう。
梅雨のこの時期、雨雲はどこにでも沢山あるから。
「これも、運命なのかな」
一歩、楓が里沙に歩み寄る。
恋文を手にした自分の前に里沙が現れる。
これが運命じゃなくてなんなのか。
「里沙さん、これ、読んでくれないかな」
雀巫女たちの見守る中、楓はありったけの勇気を持って、里沙に恋文を手渡す。
いつになく真剣な眼差しの楓にきょとんとしながら、里沙は受け取ったそれに目を通す。
「僕は里沙さんの事が好きなんだ。まだまだ子供な僕だけど、今すぐじゃなくていい、少しずつでいいから、僕の事、友達や弟みたいじゃなく、一人の男として見て貰えないかな・・‥?」
沈黙の中、里沙がにっこりと微笑んだ。
二人を雪菜が作り出した優しいそよ風が包み込む。
「結局、あの二人は上手くいくのかな?」
幸せそうに神社を去っていく後姿をみつめ、文が呟く。
「いい雰囲気みたいになっていくようだよ。だって二人で、デートしているの視えたもん」
菫が視た未来を告げる。
ほんの少し先の、ちょこっとした部分しか視られないけれど、それでも幸せそうな姿を見れば十分だ。
「ところでぇ〜、結局何をしてたんでしたっけぇ〜?」
ほわわんと眠たげに呟くなつめに、雀巫女達は再びずっこけた。